1:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/16(月) 04:34:56.39
ID:5wQUmt4T0
翔鶴「赤城さん! 大変です! 加賀さんが提督の心に立てこもったまま出てきません!」
赤城「なんですって!? それは一大事です!」
翔鶴「出てくるよう私たちでお願いしたのですが、全く聞き入れてもらえず。それで同じ一航戦の赤城さんにも説得をお願いしたいのです!」
赤城「分かりました! 現場に急ぎましょう!」
<号外! 号外ですよ! なんと一航戦の加賀さんが提督の心に入り込んでしまいました!
<ちょっとどういうことか説明するネ!<まあまあ落ち着いてください<おい暴れだしたぞ!誰か取り押さえろ!
翔鶴「野次馬が多いですね。通してください! お願いします!」
2:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/16(月) 04:35:42.56
ID:5wQUmt4T0
赤城「提督! ご無事ですか!?」
提督「ああ。俺は大丈夫だ。しかし、今は大丈夫だからといっても予断は許されない」
翔鶴「赤城さん。加賀さんが引きこもっている現場はここです!」
赤城「何ということっ! 提督の心にフォンタナの彫刻作品のような裂け目があります!」
翔鶴「加賀さんは恐らくこの隙間から侵入したのだと思われます」
提督「俺も驚いたよ。今朝起きると何かおかしな感じがしたので、見に来ると亀裂があるのだからなあ」
ルーチョ・フォンタナ『空間概念』
http://theatre-shelf.org/diarypro/data/upfile/399-1.jpg
3:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/16(月) 04:36:35.83
ID:5wQUmt4T0
赤城「取りあえず加賀さんの姿を確認したいので、探照灯か何かで照らして貰えますか?」
提督「それはダメだ!」
赤城「なぜですか! 真っ暗で何も見えないじゃありませんか!」
翔鶴「赤城さん! ここは通常の空間とは違う提督の心です! 強い光で内面を照らすのはプライバシーの問題もありますし、それに何より提督にどんな影響がでるかわかりません。もし、それで加賀さんを引っ張り出せたとしても、後遺症が残るかもしれないのです」
赤城「でしたら、どのようにしてこの中に加賀さんがいると分かったのですか!」
翔鶴「あれを見てください!」
4:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/16(月) 04:37:47.29
ID:5wQUmt4T0
赤城「あれは瑞鶴さん!」
<ほら! 加賀さん、そんな所に引きこもってないで早く出てきなさいよ! 提督さんの心の中なんてカビてて健康に悪いわよ! おーい
翔鶴「ご存知の通り、うちの瑞鶴と加賀さんは非常に親しく竹馬の友と呼び合える間柄です!」
<……ふふふ、加賀さん、早く出てきてー、早く出てきてー。ほら、焼き鳥持ってきたから機嫌直してー
翔鶴「そんな彼女たちだからこそ、心を通じてでもその存在を分かり合えるのです。そんな瑞鶴が提督の心の中に加賀さんを見出しているのです! これ以上信頼に足る指標はありましょうか!?」
赤城「提督の心であっても加賀さんと通じ合える瑞鶴チェッカーですか。しかし」
5:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/16(月) 04:38:27.83
ID:5wQUmt4T0
<無視とはいい度胸ね! この伽藍堂を墓場にしてあげる! 発艦っ! 無様にくたばれ加賀あああああ!!
赤城「その彼女が今にも提督の心を破壊しそうなのですが、大丈夫なのですか?」
翔鶴「瑞鶴うううううううっ!?」
§
翔鶴「なんとか瑞鶴はここから遠ざけました。部屋に鎖で繋いできたのでもう安心です」
赤城「この事件が終わったら、ちゃんと忘れずに解いてあげてくださいね」
提督「うごご、心が痛い、痛い」
6:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/16(月) 04:39:30.15
ID:5wQUmt4T0
赤城「提督のお気持ちお察しします。親友である彼女たちの仲を一時的にとは言え引き裂いたのですから、良心が痛むのですね」
提督「いや爆撃を受けたから痛いのであって……というか、あいつら親友なの? 殺意があったぞ」
翔鶴「いえ、いつもはちゃんと仲良しなのですが……まあ瑞鶴は素直になれない性格なので、あのような爆撃も本心からではなく、愛情の裏返しと思えば」
提督「その結果俺は瑞鶴に心を壊されそうになったのか」
翔鶴「それも提督への愛情が裏返ったものです」
提督「そっかー」
7:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/16(月) 04:40:34.03
ID:5wQUmt4T0
赤城「加賀さんが提督の心に居ることはわかりました。呼んでみましょうか。……加賀さん、加賀さーん? 少しお話しませんか! 赤城です!」
翔鶴「……反応ありませんね」
提督「心が重い」
翔鶴「加賀さんって重いですものね」
加賀「随分な物言いね」
翔鶴「加賀さん!? 裂け目から顔だけ覗かすのやめてください! びっくりしました!」
8:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/16(月) 04:41:29.69
ID:5wQUmt4T0
加賀「翔鶴、覚えておきなさい。後で瑞鶴ともども私じきじきに教育してあげます」
翔鶴「いえ、あの発言は、別に加賀さんの体重が重いっていうわけではなく、そうですね、そう! 女として重いみたいなニュアンスだったわけです!
加賀「そう」
翔鶴「ごめんなさい」
赤城「体重を気にするなんて加賀さんって意外に乙女なのですね」
加賀「赤城さん……いえ、別に体重を気にして出てきたわけでは」
赤城「でも、加賀さんに反応があってよかった。早く提督の心から出てきてください」
9:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/16(月) 04:42:21.97
ID:5wQUmt4T0
加賀「それはできないわ」
翔鶴「どうしてですか!」
加賀「出られないのよ」
赤城「どういうことですか?」
加賀「最初私が亀裂を見たときは今よりも大きく、ぎりぎり私が入れるほどだった。しかし、今は縮んでいて、出られない。どんな気持ちか? 井伏鱒二の山椒魚の気分よ」
翔鶴「加賀さんが隙間を結果的に埋めたことにより、提督の心の傷が少し癒えたということなのでしょうか?」
赤城「そもそも、どうして亀裂があったからそこに入り込もうという発想に至ったのですか」
10:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/16(月) 04:43:12.22
ID:5wQUmt4T0
加賀「それは……」
翔鶴「赤城さん、赤城さん、それは少し加賀さんには答えるのが難しい問ですよ」ひそひそ
赤城「翔鶴さん、えらく訳知り顔ですね」
翔鶴「加賀さんは提督に惚れ込んでいるんです! ほの字なのです!」ひそひそ
赤城「加賀さんが? そんな素振りは全く……」ひそひそ
翔鶴「だから、赤城さんはいつまでたっても赤城さんなのです! あの加賀さんが素直に好意を表に出すはずないじゃないですか!」ひそひそ
11:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/16(月) 04:44:09.57
ID:5wQUmt4T0
加賀「それは私が提督のことを好きだからよ」
赤城「……とてもストレートに表明していますよ?」
翔鶴「あら?……きっとあれです、加賀さんは提督に心入ったのですね。心に入っただけに」
赤城「そんなダジャレ解説が通るわけ……しかし、確かに加賀さんの提督への好意は強化されていますね」
翔鶴「しかし、これはまずいですね。もしかしたら、加賀さん今の状況にかこつけて出てくる気がないのかもしれません」
赤城「隙間を広げようにも心の外壁は硬い。無理に広げると陶器の如く真っ二つです」
12:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/16(月) 04:44:47.77
ID:5wQUmt4T0
提督「ぐっ! おおお……!」
赤城「え!? どうしました!? 提督!」
提督「加賀! 加賀あああ!」だだだ
加賀「ああ! 提督! 提督ううう!」
赤城「一体何が起きているというの!?」
翔鶴「今、提督の心の中では恋愛対象としての加賀さんが大きく場を占めています! その想いが爆発したのです!」
赤城「なんですって!?」
13:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/16(月) 04:46:18.95
ID:5wQUmt4T0
赤城「でも、待ってください! 提督は今自分の心を叩き壊さんばかりの勢いで殴っていますよ? 提督の今の状況は言ってしまえば想い人を自分の心に監禁しているようなものです! これって恋愛の独占欲は満たされている状態なのだから、今の提督の行動は説明できないのでは!?」
翔鶴「だから赤城さんは赤城さんなのです! 恋愛においては心の内にある想い人の像も大切ですが、やはり心の外にある想い人にも実際出会って触れ合いたいという欲求もごく自然のものなのです! ただし今の加賀さんの場合、本来外の像が心の内部に入り込んでしまっているので、提督の心にだけ存在する妄想となっていますが」
赤城「加賀さんが妄想のわけありません!」
翔鶴「はい、確かに加賀さんは実在します。けれども、加賀さんに私たちから触れることは出来ませんし、また加賀さんも私たちに触れることはできません。相互に干渉できないようなものはもはや存在しないのと同義ではありませんか?」
赤城「よくわかりません。しかし、今の状況は間違いなく悪いのはわかります」
翔鶴「それにしても今の提督と加賀さんが互いに名を呼び合う様はまるでロミオとジュリエットですね! ただ彼らを隔てているのは社会関係ではなく、提督の心ですけれど。愛の発端は加賀さんが心に閉じ込められること、そしてその成就は提督の心を壊さなければならないというジレンマ! 非常に悲劇的です!」
14:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/16(月) 04:47:37.72
ID:5wQUmt4T0
赤城「ちょっと翔鶴さん! あなたもどこかおかしくなっていますよ!? 正気を保ってください!」ゆさゆさ
翔鶴「えー? 赤城さんは提督の心の行方が気にならないのですか?」
赤城「……仕方ありません。工廠には確か自白剤か催眠剤があったはずですね。それを提督に飲まして心を柔らかくすれば、亀裂の大きさも少しは融通が利くはずです」
金剛「ふふふ、提督の心を燃やすのはこの私デース……バーニング・ラーヴ……」
赤城「金剛さん!? ちょっとどうして提督の心の下で火を焚いているのですか! 熱っ! なぜこんなに提督の心は熱されているのですか!?」
翔鶴「今の提督の心は非常に熱しやすいのです! 一の炎で十燃え上がる!」
15:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/16(月) 04:48:32.02
ID:5wQUmt4T0
赤城「見てないで翔鶴さんも手伝ってください! このままじゃ加賀さんが焼き鳥になってしまいます!」
金剛「うー! 離すネー!」ばたばた
翔鶴「残念ながらその努力も水泡に帰すようですよ」
バンっ!
赤城「爆発!? 加賀さんが吹っ飛び出てくる!」
翔鶴「加賀さんの兵装が熱に耐えられずに爆発してしまったようですね。爆発する前に兵器を体で抱え込むようにして提督への被害を最小限にしているあたり流石加賀さんです!」
16:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/16(月) 04:51:07.16
ID:5wQUmt4T0
赤城「何を悠長な! 提督は意識不明、加賀さんも重傷です! はやく処置を施さないと――――」
その時、赤城は奇妙な笛の音を聞いた。それは再び空洞となった提督の心から、その大きく開いた裂け目から響いてきていた。
つい今しがたあれだけ熱を持っていたものからとは思えないようなゾッとする冷たい隙間風に撫でられた瞬間、赤城は何かほとんど魔術じみた罠に嵌ったのだと直感した。
赤城はこの事件を通して余りに提督の心を気にかけすぎていた。いや、赤城だけではない。大々的な報道や噂によって、この鎮守府の艦娘全員が提督の心を気にかけていた。
鎮守府中から艦娘たちがここに集う気配がする。「提督の心を気にかける」という形式において全ての艦娘は図らずも「提督に好意を持っている」ということであった。
そして、提督に好意を持つ艦娘が心の亀裂に対する行為とは……。
ハーメルンの笛吹きによって誘惑されたが如く艦娘たちは次々と純粋無垢に裂け目へ入っていく。赤城もそのパレードに伍する。
「赤城さん……」と裾に引き留める力を感じたが、もはや赤城にはそれが何か分からなかった。
17:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/16(月) 04:52:55.31
ID:5wQUmt4T0
§
瑞鶴「ねえねえ、加賀さんこんなところで何をしてるの?」
加賀「仕事よ。あなたと違って私は忙しいの」
瑞鶴「えー? 私より大けがしていて最近復帰したばかりなのによく言うわ」
加賀「……その、首はもう大丈夫なのかしら」
瑞鶴「うん! もう完全に完治したわ!」
加賀「じゃあ、どうしてまだそのマフラーを巻いているの」
18:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/16(月) 04:53:41.04
ID:5wQUmt4T0
瑞鶴「いいでしょ別に。せっかく加賀さんが私に初めてプレゼントしてくれたものなんだし、お気に入りなのよ、この赤いマフラー」
加賀「……好きにしなさい」
瑞鶴「それにしても、どうして私、鎖で固定された首輪なんてしてたんだろうね?」
加賀「……隠れた趣味だったとか」
瑞鶴「そんなのないわよ! ばか!」
加賀「ねえ」
瑞鶴「なに」
19:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/16(月) 04:55:07.71
ID:5wQUmt4T0
加賀「瑞鶴あなたは、赤城さんや翔鶴……さん、を知っているかしら」
瑞鶴「もちろん!」
加賀「! 思い出したの!?」
瑞鶴「赤城さんや翔鶴さんってあれでしょ? 提督さんの妄想。……思い出したって最初から覚えているわよ。これで加賀さんからこの質問受けるの何回目よ……」
加賀「そう、そうよね……」
瑞鶴「じゃあこれから私出撃だから、加賀さんも提督さんに用があるならちゃちゃっと終わらして。ご飯また一緒に食べようねー!」たったった
加賀「……ええ」
20:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/16(月) 04:59:33.98
ID:5wQUmt4T0
あれから提督の心は忽然と姿を消した。恐らくあれは心に空虚を孕ませすぎた結果として体に収まりきらず外に出てきてしまったものだったのだろう。何らかの方法で空虚をなくせば元通り。空虚を含まない風船が充実によってしぼむようなものだと、そう考えることにした。
提督の仕事ぶりは悪くない。むしろかなり優秀な実績を誇っていた。また同僚たちにも恵まれていて、優秀者に伴う嫉みなどにも出会わず良好な生活を送っている。それでも時折、提督は不可思議な喪失感を訴えた。
「俺は確かに今恵まれている。含んだ言い方? いや、不満があるのではない。物質的にも精神的にも非常に充実している。なんなら心から俺は幸せ者だと言っても良い。
でも、ときどき妙な感じになるんだ。何かこの幸福の代償に失ったものがあるのではないか。
多世界? そうじゃない。例えばもし俺が大統領になっていたらなどの別世界の幸福に思い馳せるような機会費用的なものじゃなく、もっと根本的な……」
加賀は椅子に座る提督を後ろから抱きしめる。提督はそれに対して驚きも嫌がりもしなかった。己の違和感の正体を探るべくもう一度記憶の再試行をしているようだった。
静かな時が流れる。加賀は知っている。加賀が提督の心に入り込む余地がないということを知っている。提督の心は過剰に観念で充実しているのに、それに対する現実は余りに実在が不足していた。加賀だけは提督の喪失感が観念と実在の不均衡に基づくと知っていた。
己の実在感がその「妄想」に消費され、提督がそれで慰められるのなら、加賀はそれで良いと考えていた。きっと加賀が提督の心に映ることはもうないだろう、それで良い。
だからだろうか、加賀は気づくのに遅れた。提督が僅かばかり握り返したきたその手がまさに加賀自身を包んでいたことに。
おわり
22:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/16(月) 05:09:38.33 ID:lts2kN/9o
どういうことだってばよ…
24:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/16(月) 06:55:52.75 ID:oc0SdY11O
ハーメルンの笛吹きとかいうトラウマ本
23:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/16(月) 05:38:26.25 ID:+aHtbw6B0
わりとすき
元スレ
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