男「あの鉄塔に登る」 幼馴染「やめとこうか」

2014-10-02 (木) 12:01  オリジナルSS 幼馴染   2コメント  
1: ◆ToMnIXXmPQ 2014/09/28(日) 00:16:58 ID:5nqM1RRQ


幼馴染「ねえー、男? 本当に登るつもり?」

男「もちろんだ」

幼馴染「危ないよー? これ、一応高圧電線用のマジな鉄塔だよ?」

男「みりゃわかるさ。見事な四角錐だよな」

幼馴染「もう… 落ちても知らないよ?」

男「一応、落ちないような支度もすこしはしてきたぞ?」

幼馴染「ほう? どれどれ」ヒョイ

男「腰につけるベルト…と、フック。2本」

幼馴染「それ、どうするの?」

男「登りながら、交互に鉄柱にくっつけて、落下防止にね」

幼馴染「フックじゃ、揺すられたときに落ちちゃうんじゃないかなあ」

男「んー、まあ そん時はそん時かな」



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2: ◆ToMnIXXmPQ 2014/09/28(日) 00:17:36 ID:5nqM1RRQ


男「んじゃまあ。そろそろ…」

幼馴染「本気?」

男「おう。俺は… この鉄塔に、登る」

幼馴染「やめとこうか」

男「なんだよ、ノリ悪いなぁ」

幼馴染「そりゃそうでしょ。止めない人って居ないんじゃない?」

男「おまえ、人なの?」

幼馴染「一応… ヒトなんじゃないかなぁ…分類するなら」

男「でもお前、浮いてるじゃん」

幼馴染「死んじゃったからね」

男「うん。 死んじゃったな、ずいぶんとあっさり」




3: ◆ToMnIXXmPQ 2014/09/28(日) 00:18:12 ID:5nqM1RRQ


幼馴染「まさかこうして 死んじゃった後も男と喋れるとは思わなかったよ?」

男「お前のあの怪しい趣味のおかげだな」

幼馴染「怪しい趣味って…失礼だなぁ」

男「だってよ。通夜の席で、おまえの部屋にいれさせてもらってさ」

男「もう、何年ぶりになるかなあ、お前の部屋に入ったの」

幼馴染「んー… 中学1年のときに、こなかったっけ?」

男「そうだっけ?」

幼馴染「うん。確か、本棚を新しく買ったときに…手伝いに来てくれたよ」

男「ああ、そうだ。組み立て家具のやつな」

幼馴染「そうそう。お父さん、一人で組み立てたのはいいけど 一階でつくっちゃったから」

男「2階の部屋まで運ばされたんだっけ」

幼馴染「うん。あの時は、ありがとね」

男「死んでからいわれてもなあ」




4: ◆ToMnIXXmPQ 2014/09/28(日) 00:18:45 ID:5nqM1RRQ


幼馴染「ごめんねー? なんか、ちょっとあの頃、うまく素直になれなかったかも」

男「あー、まあ 俺もそうだったわ」

幼馴染「ようやく、ちょっと普通にまた一緒にいられるようになったのにね」

男「ほんとよ。これから夢のキャンパスライフだって来るはずだったのに」

幼馴染「男とおんなじ大学、いきたかったなー」

男「合格もしてたんだけどなー」

幼馴染「…………ごめんね」

男「まあ、いいよ。こうして 一緒にいるんだし」

幼馴染「でも、なんで私 こうして一緒にいるんだろう?」

男「え? だから アレだよ。お前の部屋にあった大量の悪趣味な本」

幼馴染「……え? もしかして、男 アレためしたの?」

男「あー。まあ、なんか。なんとなく」




5: ◆ToMnIXXmPQ 2014/09/28(日) 00:19:17 ID:5nqM1RRQ


幼馴染「ちなみにどれやったの?」

男「んー… 笑わない?」

幼馴染「誓って」ピッ

男「片っ端から。試したよ」

幼馴染「片っ端って…」

男「交信、降霊、召喚、口寄せ、なんかよくわかんない、占いみたいなヤツとか」

幼馴染「暇だったの?」

男「うん。そうかもしんない」

幼馴染「私が、居なくなっちゃったから?」

男「うん」

幼馴染「……よかったね。こうやって 暇じゃなくなって」

男「そうだな。あのままお前が現れてくれなかったら、そのうち黒魔術の本まで手が伸びてたかもな」




6: ◆ToMnIXXmPQ 2014/09/28(日) 00:19:57 ID:5nqM1RRQ


幼馴染「あの本、結構むずかしいよ?」

男「絵だけみた。なんか、なんつーの? 魔方陣とかちょっとかっこよかった」

幼馴染「ばーか」

男「やってねーんだし いいじゃん。さて…っと」

幼馴染「……ほんとに登るの?」

男「うん。怖かったら、ついてこなくていいぞ」

幼馴染「怖いって… 私、空跳んでるから 怖いも何もないよ」

男「そういやそうだな。幽霊だもんな、お前」

幼馴染「うん。じゃあ 見ててあげるから…気をつけて?」

男「おう」


カツン、カツン… カツン。




7: ◆ToMnIXXmPQ 2014/09/28(日) 00:20:33 ID:5nqM1RRQ


男「なんか… ジャングル、ジム、みたいだ…なっと」

幼馴染「こんなに危険なジャングルジムがあったらPTAは真っ青だね」

男「赤と白。カラーリングは悪くない」

幼馴染「そういう問題じゃないと思うけど… あ、そこ。塗装さびてるよ、気をつけて」

男「ん、見えてる」

幼馴染「男ってさ、意外とこう 運動神経いいよね」

男「体育の成績はいつも上位だったぞ」

幼馴染「うん。私はぜんぜん駄目だった」

男「知ってる」

幼馴染「……もうちょっと運動神経がよければ、まだ生きてたのかなぁ」

男「どうだろうな。運動神経のいいお前のほうが想像つかない」

幼馴染「ひどーい」

男「つーかさ」

幼馴染「ん?」




8: ◆ToMnIXXmPQ 2014/09/28(日) 00:21:06 ID:5nqM1RRQ


男「なんで、待ち合わせの40分も前で あんなとこで待ってんだよ」

幼馴染「……なんか。早く起きちゃったし、早く支度すんだし…」

男「俺だって、15分前にはついたんだぞ?」

幼馴染「うん。ちょうど、私を乗せた救急車がいなくなるところだったよね」

男「見てたの?」

幼馴染「もう、意識とかなかったし。ほとんど、死んでたみたい」

男「そっか。んじゃ もしあの時あと3分早ければ 救急車の出発に間に合ったのにーとか考えてたの、無駄だったのかな」

幼馴染「んー。どうだろう? 看取るくらいはできたかもよ?」

男「あんまり、看取りたくもないなあ」

幼馴染「そだね。私も、あの時の ボロボロの体は見られたくなかったかな」

男「通夜のときは、そんなにボロボロにも見えなかったけどな?」

幼馴染「死化粧とかいうんだって。 なんか、いっぱい綺麗にしてもらったよ」

男「そっか。どうりで 美人だと思った」

幼馴染「ばーか」




9: ◆ToMnIXXmPQ 2014/09/28(日) 00:21:42 ID:5nqM1RRQ


男「……どうせならさ」

幼馴染「なに?」

男「どうせなら、1時間でも1日でも、遅れてきてくれたらよかったのに」

幼馴染「……なんで?」

男「あんなふうに、あんなとこで、一人で俺のことを待って、一人で車にひかれて、勝手に一人で死んじゃうならさ」

男「ずっと来なくてもいいから お前が来るの、待ってたかったかなって」

幼馴染「……ばーか」

男「どうせ。俺は馬鹿だよ」

幼馴染「ほんとに、ばかだよね」

男「お前はいっつもそればっかりだな。口癖なのかよ?」

幼馴染「うん。知ってるでしょ?」

男「うん。よく、知ってるよ」




10: ◆ToMnIXXmPQ 2014/09/28(日) 00:22:36 ID:5nqM1RRQ


幼馴染「……もう、20mくらいは登ったかな」

男「まだそんなもんか? 意外と、体力使うな、コレ」

幼馴染「あんまり。無理、しないでよね」

男「いや てっぺんまで登る」

幼馴染「……高圧電線、あるよ?」

男「承知の輔」

幼馴染「風とかも、きっとでてくるよ?」

男「しょうがねえじゃん」

幼馴染「なにが?」

男「この街でさ。一番高いところ、ここだったんだから」

幼馴染「…あー。そうかも。そっか、高いところにきたかったのかあ」

男「うん。ここが一番高いだろ?」




11: ◆ToMnIXXmPQ 2014/09/28(日) 00:23:07 ID:5nqM1RRQ


幼馴染「でもほら、あそこの山の上の公園は?」

男「城址公園?」

幼馴染「あそこもかなり、高台だよ」

男「昔、よく一緒にいったよな」

幼馴染「…うん。はじめて、男にキスされた」

男「ブハッ」

幼馴染「何よ、いまさら」

男「ば、ばか。急に変なこというな、手が滑ったらどうすんだよ」

幼馴染「あ、ごめん。なんか…えっと、 口が滑った」

男「上手いこといえてないからな、それ」

幼馴染「そっかなぁ」

男「……あれ、いつだったっけなあ」

幼馴染「1年くらい前かな」

男「まだ、そんなもんか」




12: ◆ToMnIXXmPQ 2014/09/28(日) 00:23:46 ID:5nqM1RRQ


幼馴染「うん。お互い、あかちゃんの頃から一緒にいるのにね」

男「一緒にいすぎて。近づくことも、忘れてた」

幼馴染「うん。距離感が、あたりまえになりすぎて。もっと近づけるんだって、気づけなかった」

男「ようやく気づいたのにな」

幼馴染「死んじゃったから…なんか、もっと遠くなっちゃったね」

男「……まあ、いいよ」

幼馴染「ほんとは、エッチなこととかしたかったでしょ?」

男「」

幼馴染「ふふ。ばーか」

男「あ、あー… まあ、なんだ。別にそんなことばっか考えてねえよ」

幼馴染「ほんと?」

男「うん。なんだろな。嬉しかったんだ」




13: ◆ToMnIXXmPQ 2014/09/28(日) 00:24:18 ID:5nqM1RRQ


幼馴染「嬉しい? 何が?」

男「ずっとさ。幼馴染って関係で。それがなんかこう、恋人同士って風に代わって」

幼馴染「……」

男「ずっと一緒にいたのに、なんか妙に気恥ずかしかったり、居心地悪くなったり」

幼馴染「……」

男「手とかもさ。今までだったら、ぐいぐい引っ張っても 別になんとも思わなかったのに」

男「意識したとたんに、真っ赤になって 握れなくなってるお前とか」

男「なんか。そういうの、全部。すごく嬉かったんだ」

幼馴染「……」

男「へへ。まあ、そういうのもさ。生きてるうちにいってやりたかったな」

幼馴染「もう、今じゃ遅いの?」

男「どうだろうなぁ… でも、すごく言いたかったから。死んでからでも、言えたのはよかったかな」

幼馴染「そっか」




14: ◆ToMnIXXmPQ 2014/09/28(日) 00:24:49 ID:5nqM1RRQ


男「はぁ… なんか、ちょっと疲れてきたなあ」

幼馴染「んー… 今、半分にとどくかどうかってとこかな」

男「段々、足場が細かくなってきて 登りやすくはなってるんだけどなあ」

幼馴染「男、昨日から寝てないでしょう?」

男「あれ、バレてる?」

幼馴染「あたりまえ」

男「まあ、しょーがねーだろ。寝れるわけ、ない」

幼馴染「うん。ごめんね」

男「謝るようなことでも、ないとおもうけどな」

幼馴染「うん。ごめんね」

男「お前ってさー」

幼馴染「ん?」

男「素直なのか、ひねくれてるのか ほんとにわかんないやつだよな」

幼馴染「なにそれ」




15: ◆ToMnIXXmPQ 2014/09/28(日) 00:25:22 ID:5nqM1RRQ


男「すぐに、なんでも謝っちゃうし」

男「すぐに、すねて人のことバカにするし」

男「自分がいやなことでも、なんでも我慢して 強がるし」

男「そのくせ、俺のこととかはやたら必死で、ゆずらねえし」

男「……なんだかんだいって。俺のすること なんでも応援してくれるし」

幼馴染「……」

男「俺さ」

幼馴染「ん… なに?」

男「俺。 お前のこと 好きだったよ」

幼馴染「過去形―?」

男「今でも好きだよ」

幼馴染「ふふ。ばーか 知ってる」

男「…そっか。知ってたか。よかった」




16: ◆ToMnIXXmPQ 2014/09/28(日) 00:25:52 ID:5nqM1RRQ


幼馴染「あたりまえ。男のこと、なんでも知ってるよ、私」

男「怖いな」

幼馴染「へへ」

男「んじゃあさ、なんで俺が… この鉄塔に登ってるかは、わかる?」

幼馴染「わかんない」

男「……はは。なんでも知ってるんじゃなかったのかよ?」

幼馴染「男のすることは、いっつもわかんないよ」

男「それでも、俺のことわかってるつもりなんだ?」


幼馴染「うん。男が、そうしたくて」

幼馴染「男が、そうでもしないとやってられなくて」

幼馴染「男が。 いつだって一生懸命なのを よく知ってるから」

幼馴染「だから… 細かいことはわからなくても、ちゃんとわかってる」


男「……うん。そうだったな。そう、前にも言ってくれたよな。ありがとうな、幼馴染」

幼馴染「……」




17: ◆ToMnIXXmPQ 2014/09/28(日) 00:26:25 ID:5nqM1RRQ


幼馴染「ようやく…八分目」

男「そろそろ、電線が邪魔くせえな…」

幼馴染「ひっかかったら、本当に危ないよ、男」

男「わかってる。せっかくここまであがったのに、こんなところで落ちられない」

幼馴染「気をつけて」

男「ありがとな、幼馴染」


男「……」


男(ここを… こっちに、ひっかけて…)

男「!」グッ

男(ちっ…。フックが、ケーブルに…)

男(待て、焦るな… 一度脚を下ろして、ゆっくり外してからもう一度…)

男(……よし、これなら…)

男「」ホッ




18: ◆ToMnIXXmPQ 2014/09/28(日) 00:26:56 ID:5nqM1RRQ


男「はぁ…ゆってるそばから 危ない目にあった」

幼馴染「大丈夫?」

男「うん」

幼馴染「そんなに無理して…」

男「やめさせる?」

幼馴染「……やめさせられないの、よくわかってるから」

男「そだな。俺、こんなことでやめるわけないよな」

幼馴染「うん」

男「んじゃ… あとちょっと。てっぺんまで がんばりますか」

幼馴染「うん… もうちょっと。もうちょっと」

男「はは。懐かしい」

幼馴染「え?」




19: ◆ToMnIXXmPQ 2014/09/28(日) 00:27:29 ID:5nqM1RRQ


男「昔さ、お祭りのときに…お前、浴衣着てきてさ」

幼馴染「?」

男「歩き回ってるうちに、足の親指のところにマメできて」

幼馴染「あー…」

男「俺もまだ、チビだったし、抱っことかもしてやれなかったからな」

幼馴染「うん。でも、男が手を引いてくれたんだよね」

男「そうそう。んでおまえさ、ずっと 涙こらえながら…『あとちょっと、あとちょっと』って」

幼馴染「うん。だって、そうでもしないと 泣いて座り込んじゃいそうだった」

男「ごめんな。もうちょっと俺の身体が大きければ、抱っこして連れてったやれたのに」

幼馴染「あのころは、男も小さかったもんね」

男「俺が背のびたの、高校からだしな」

幼馴染「うん。おっきくなったよね」




20: ◆ToMnIXXmPQ 2014/09/28(日) 00:28:19 ID:5nqM1RRQ


男「……こんくらいデカくなってれば、抱っこもしてやれるな」

幼馴染「うん」

男「一回くらい、抱っこしてやりたかったな」

幼馴染「……ばーか」

男「また、それかよ」

幼馴染「仕方ないでしょ?」

男「……うん」


カツン!!

ザァツ!!

男「!」




21: ◆ToMnIXXmPQ 2014/09/28(日) 00:29:11 ID:5nqM1RRQ


幼馴染「……すごいね、やっぱさ。たかいよねー」

男「あ、ああ。いきなり風吹いたから、ちょっとびっくりした」

幼馴染「てっぺんだからね。やっぱり、この鉄骨が少し無いだけで、風の当たり方が違うのかも」

男「うん、俺も今 そう思ってた」

幼馴染「……高いね」

男「うん。この街の全部…見れるな」

幼馴染「あそこ。私の事故現場だね」

男「うん」

幼馴染「あそこが、城址公園…はじめてのキスした場所」

男「うるせえよ」




22: ◆ToMnIXXmPQ 2014/09/28(日) 00:29:41 ID:5nqM1RRQ


幼馴染「それで、あそこが小学校」

男「すぐ隣にあるのが、中学校」

幼馴染「高校は、あっち…」

男「さすがに大学は見えないな」

幼馴染「ふふ。電車にするか、アパート借りるか悩む距離だよ?」

男「そりゃそうだな」

幼馴染「うん…」

男「でも、見えなくてよかった」

幼馴染「……」

男「なんかさ。もしも大学が見えてたら…お前との あるはずだった未来のことまで、考えちゃいそうだもんな」

幼馴染「……」




23: ◆ToMnIXXmPQ 2014/09/28(日) 00:30:11 ID:5nqM1RRQ


男「お前と過ごした時間が見える。それだけで、いいんだ」

幼馴染「……」

男「なくなっちまった未来とか、ほしがらないよ 俺」

幼馴染「……」

男「空、近いなあ」

幼馴染「うん。空、好きだよね 男」

男「うん。でも、前よりもっと好きになったかも」

幼馴染「なんで?」

男「お前が、あそこにいるのかなーって 思えそうだから」

幼馴染「……あー 天国、みたいな?」

男「そうそう」

幼馴染「んじゃ 今ここにいる私は?」

男「……なんだろうな?」

幼馴染「……なんなんだろうね」




24: ◆ToMnIXXmPQ 2014/09/28(日) 00:30:57 ID:5nqM1RRQ


男「俺さ、あの日のデート、楽しみにしてたんだ」

幼馴染「……」

男「15分前、待ち合わせ場所に着いた時にはもう、騒然としててさ」

男「それでも、人ごみの中で必死にお前のことさがしてて」

男「救急車が去ったあとも、お前のこと探したり、携帯ならしたり」

男「お前の携帯、壊れてて 繋がらなくなってたし」

幼馴染「……」

男「なんか、事故の詳細とか 噂してる人いっぱいいたような気もするけど、全然耳には入ってこなくて」

男「あのまま、俺 あそこで二時間くらい お前のこと待ってた」

幼馴染「……」

男「おばさんから携帯に連絡あって。迎えに来てくれて、病院いって」

男「……でも、あんま覚えてねえや」




25: ◆ToMnIXXmPQ 2014/09/28(日) 00:31:36 ID:5nqM1RRQ


幼馴染「……」

男「頭、真っ白で」

男「通夜でも、みんなにいろいろ聞かれたけど、何もいえなくて」

男「そんな俺をみかねたおばさんが、幼馴染の部屋にいれてくれて」

幼馴染「そこで、あの本?」

男「そう」

幼馴染「ちょっと、おかしいんじゃない?」アハハ

男「しょーがねーべ? 結構、ほんとに、壊れてたような気もする」

幼馴染「今も…壊れてるの?」

男「どうかな…わかんねえ」

幼馴染「……」




26: ◆ToMnIXXmPQ 2014/09/28(日) 00:32:29 ID:5nqM1RRQ


男「でも…こうやってさ」

男「高い場所まで、きてみて。わかったことある」

幼馴染「……なに?」

男「いま、こうやって話してるお前が…」


男「もし、壊れきった俺の思考回路が生み出した、空想や妄想なのだとしても」

男「ほんとに、何かしらの怪しげな術が成功して呼び出された、本物のおまえだとしても」

男「やっぱり 俺はお前のことが好きでさ」

男「こうやって、お前のこと思って、一生懸命になってるのが 一番、救われる」


幼馴染「…ばかだね、男」

男「うん。馬鹿なんだ、俺」




27: ◆ToMnIXXmPQ 2014/09/28(日) 00:33:02 ID:5nqM1RRQ


幼馴染「…こんなことまでしないと、私のこと、ふんぎりつかないの?」

男「どうだろう。こんなことしても、ふんぎりついたのか、よくわかんない」

幼馴染「これから、どうするの?」

男「どうしようかな」


男「このまま、この一番空に近い場所で、お前を見送ってやりたいようなきもする」

幼馴染「……」

男「うん… もしもこれが、俺の空想なのだとしたらさ」

男「高い場所まで登らせてやって、どっか…綺麗な場所で、幸せに暮らしてくれるんだって、そんな空想にしたいよ」

幼馴染「……」

男「でも、もしもこれが 本当にお前の幽霊なのだとしたらさ」

男「離れたくないな。ずっと、こうして 死んでてもいいから…お前のそばにいたいかもな」

幼馴染「……」




28: ◆ToMnIXXmPQ 2014/09/28(日) 00:33:33 ID:5nqM1RRQ


男「たとえば、なんていうのかな。死後の世界?」

幼馴染「うん」

男「そんなのがあるんだって、はっきりわかるのなら…今 俺、ここから飛び降りるわ」

幼馴染「そういうの、本当に躊躇なくいうよね、男って」

男「うん、本気だからね」

幼馴染「いっつも、心配してたよ」

男「うん。しってた。ごめんな」

幼馴染「うん…」

男「……見送るべきなのかな。それとも、落ちるべきなのかな」

幼馴染「男は、どっちだといいの?」

男「本当は 一緒にいたいから。お前は本物の幽霊で、ここから落ちて、一緒にいたいって思う」

幼馴染「……」




29: ◆ToMnIXXmPQ 2014/09/28(日) 00:34:16 ID:5nqM1RRQ


男「でもさ。なんか、思っちゃうんだよな」

男「きっと幼馴染は、そういう俺のこともよく知ってるからさ」

男「きっと、そんなことさせないために、本物のおまえなら どんな魔法を使ったって、俺の前にはきっと出てこないんだろうなって」

幼馴染「……ばーか」

男「うん…俺 馬鹿だな」


幼馴染「……もしもさ。これが空想だったら… どうなるのかな」

男「あれじゃね? なんかこう、夢オチ的な」

幼馴染「夢オチって…」

男「ここからオちて死んでさ、うわーーーってなったとことで、ベッドで目が覚める」

幼馴染「それで?」




30: ◆ToMnIXXmPQ 2014/09/28(日) 00:34:46 ID:5nqM1RRQ


男「汗とかグッショリでさ。本当に鉄塔に登っててもおかしくないような疲労感とかあって」

男「結局、よくわかんないまま。泣くんだ」

幼馴染「……泣いちゃうの?」

男「泣いちゃうだろね」

幼馴染「ふふ。私のこと、思って?」

男「うん。お前のこと思って、ずっとずっと 泣いちゃうんだと思う」

幼馴染「あんまり、男のヒトを泣かせるのはやだなあ」

男「俺も、女に泣かされるのはちょっとやだなあ」

幼馴染「それでも泣いちゃう?」

男「泣いちゃう」

幼馴染「そっか」

男「ん」




31: ◆ToMnIXXmPQ 2014/09/28(日) 00:35:27 ID:5nqM1RRQ


幼馴染「…じゃあ、さ」

男「?」


幼馴染「空想じゃなくて。もしも本当に、私が本物の私の幽霊だったら…どうなるかな?」

男「っ」

幼馴染「……」

男「…あ…」

幼馴染「どうなる、かな」

男「……わかん、ない…」

幼馴染「本当に?」

男「…あ でも だって」




32: ◆ToMnIXXmPQ 2014/09/28(日) 00:36:50 ID:5nqM1RRQ


幼馴染「きっと。わかってる」


男「おさななじ…!」



トン



男「!」

幼馴染「もう。いいよ、男。ありがとう…私だよ? わかってるよね?」


幼馴染「いつだって。男の為に、一番になると想うこと…戸惑わない。おんなじだよ、私も」


グラ… ヒューーーーーーン…

男「! おさな…!」




33: ◆ToMnIXXmPQ 2014/09/28(日) 00:37:24 ID:5nqM1RRQ


幼馴染「ばいばい。最後まで、想ってくれて…私は嬉しいよ。それも、知ってるでしょ?」

男「…!」


ヒューン…


遠くなる。
赤と白の鉄塔。

うすぼんやりした、幼馴染の顔。
いつも俺のことを心配そうに見ながら、強がった笑顔。

高い高い鉄塔か落ちる間
俺はその幼馴染の顔が ゆっくりとかすれていくのを 見ていた

地面に着くかどうか、というその瞬間…
天使のように上から幼馴染がおちてきて。


そっと、俺を抱えて…キスを、した。




34: ◆ToMnIXXmPQ 2014/09/28(日) 00:37:56 ID:5nqM1RRQ



ガバッ!

男「!!!」


男「………」ハァ…ハァ…

男「…あ…」

男「え? はは、嘘だろ? やっぱり夢オチ?」


男「……ってわけでも、ないのか…なあ」キョロ…


鉄塔

男「…登るには、本当に登ったのかな」



男「どっかで、意識おかしくして おちたのか」

男「それとも、ここまできて そのまま倒れちゃって、幸せな夢でも見てたのか」

男「っ!」ズキン




35: ◆ToMnIXXmPQ 2014/09/28(日) 00:39:57 ID:5nqM1RRQ


男「あ… いってぇ。なんだ? 背中…」

男「え? あれ、打ってる…? なんだ? もしかして、ほんとにおちた?」

男「……なわけないか。さすがにアソコからおちたら死ぬわな…」


男「っ」

男「あ… でも、そっか。俺、幼馴染に抱えられて、キスされて…」

男「いや、いやいや… んなことねーだろ…」ハハ


男「……え? でも… あれ? どっちだ…?」

男「…やべ。本当に、わかんねえや… 夢オチなら夢オチのほうが、ラクだったかもなあ」



男「…やっぱ、あいつ ひどいなあ」




36: ◆ToMnIXXmPQ 2014/09/28(日) 00:40:58 ID:5nqM1RRQ


男「これじゃあさ。一生懸命やった気もするから もうこれ以上、お前の幽霊を追えないし」

男「空想だったような気もするから、きちんと別れのキスまでして、見送れたような気もするし」

男「………それに」


男「お前に。もう、来なくていいって 言われちゃったのが、すげえ実感できちゃうじゃん」


男「……」

男「実感… できちゃたじゃねえかよ…」


男「……」




37: ◆ToMnIXXmPQ 2014/09/28(日) 00:41:30 ID:5nqM1RRQ


男「やっぱりさ。お前は 俺のことをよくわかってるよな」

男「俺も お前のいいそうなことは、ほとんどわかってるけどさ」


男「やっぱり。お前にはかなわねえよ」


男「一生。ずっと。最後まで」

男「お前のこと、忘れないから」


男「どうか。俺に、お前のことを 喜ばせておいてくれよな」




『……ばーか』


―――――――――――――――――――――――

おわり




39: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/28(日) 00:59:33 ID:kCJIJKsM





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オリジナルSS 幼馴染   コメント:2   このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント一覧
44454. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2014/10/02(木) 13:29 ▼このコメントに返信する
くっさ
44457. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2014/10/02(木) 19:35 ▼このコメントに返信する
きれいでいい話だった
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