ブースター「ここがボックスかあ…。」

2014-08-15 (金) 21:01  ポケモンSS   0コメント  
1: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 13:05:17.09 ID:GPl42TLU0

ブースターは目を覚ました。

ブースター「ん…?ここは
…どこだ?」

何もない真っ白な空間。
壁も、天井もない。
どこまでがこの空間なのか。それとも、どこまでも…

「…ようこそ。」

後ろから感情のない声が聞こえた。


eval.gif杉森建の仕事 『クインティ』から『ジェリーボーイ』『ポケットモンスター』 25年間の作品集





2: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 13:11:59.41 ID:GPl42TLU0

ブースターが振り返ると、そこには赤と青の色をした、
角ばった妙なポケモンがいた。

ブースター「君は…?」

「私はポリゴンです。はじめまして。」

ポリゴンは礼儀正しく一礼した。

ポリゴン「ここにいらっしゃるのは…初めてですか?」

ブースター「…うん。」




3: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 13:18:45.57 ID:GPl42TLU0

ポリゴン「ここは『ボックス』です。ご存知ですか?」

ブースター「ああ、聞いたことはあるよ…何だっけ?」

ポリゴン「ポケモンを預ける場所です。」

ブースター「そういえば、そうだったね…。」

ブースターは足下を見た。
真っ白で判別できないが、自分が立っている以上、床があるのは確かだ。
しかし影が一切無い。周囲は明るいが、光源のようなものは見当たらない。




4: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 13:31:34.94 ID:GPl42TLU0

ポリゴン「まあ、正確に言うと『ボックス4』ですが。」

ブースター「…不思議な場所だね。」

ポリゴン「そうですね…モンスターボールの中を、
さらに広くしたような場所…とでも言うのが妥当でしょうか。」

ブースター「うーん。確かに。」

ポリゴン「ともあれ、ここには私以外のポケモンも何匹かいらっしゃいます。
彼らの所へ行きましょう。」




5: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 13:37:40.04 ID:GPl42TLU0

ブースター「え…向こうに見える点のこと?すごく遠いよ?」

ポリゴン「いいですか、目をつぶって、
自分が彼らの目の前にいる場面を想像してください。」

ブースター「え?どういうこと?」

ポリゴン「とにかく、『あの点の所へ行きたい!』と念じるんです。」

ブースター「わ、分かったよ。」

彼は言われた通りにやってみた。




6: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 13:49:37.88 ID:GPl42TLU0

そして目を開けると…

ブースター「わっ!」

目の前に2匹のポケモンがいた。

彼を見つめている。

その中の一匹が話しかけてきた。

「よろしくね、新入りさん。」

彼には、そのポケモンに見覚えがあった。

体の大きさは自分と大差ない。
全身きれいな水色の体毛で覆われていて、澄んだ悲しげな目をしている。




7: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 13:55:56.31 ID:GPl42TLU0

ブースター「君は…グレイシア?」

グレイシア「ええ。こんな場所で、同じイーブイ族に会うとは思わなかったわ。」

ブースター「ええっと…どこかで会ったかな?」

グレイシア「かもね。皆同じトレーナーに育てられたわけだから。
顔見知りでも不思議じゃないわ。」

グレイシアは一歩近づいてきた。




8: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 14:02:07.76 ID:GPl42TLU0

グレイシア「それで?新入りブースターさん。どうしてここに来たのかしら?」

彼女はブースターの顔を覗き込んだ。

ブースター「うーん…メンバーを編成し直して、やむを得ず…だったかな?」

グレイシア「ふうん。そうなの。」

ブースター「な、なんだよ。」




9: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 14:07:02.69 ID:GPl42TLU0

ポリゴン「皆さん、とりあえず自己紹介でもしますか?」

いつの間にか、ポリゴンが来ていた。

グレイシア「そうね。私はグレイシア。こう見えても、
対戦では結構使われていたのよ?」

グレイシアの右隣にいた、鳥ポケモンが歩み寄ってきた。

「ケンホロウだ。よろしく。」

ブースター「よろしくお願いします。」




10: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 14:10:24.13 ID:aEOF6HtNO

(´・ω・`)
いたたまれない




11: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 14:10:41.26 ID:GPl42TLU0

グレイシア「ほら、あなたも。」

ブースター「え、ええっと、ブースターです。まだ来たばかりで…ご迷惑を…」

グレイシア「やめてよ…そんな堅苦しいの…フフッ」

グレイシアは吹き出した。

ブースター「え!あー、ちょっと緊張してるんだよ…。」




12: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 14:15:05.33 ID:GPl42TLU0

ケンホロウ「あれ?ムウマさんは?さっきまでここに…。」

グレイシア「どうせまた隠れてるのよ。ほんと、
驚かすのが好きなんだから…」

「あら…バレちゃった。」

不気味な声とともに、空中に黒いポケモンが現れた。

ブースター「わ!ビックリした!」

「あたし…ムウマよ…。」

かすれた、恐ろしい声。




13: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 14:20:33.40 ID:GPl42TLU0

ブースター「あ、よ、よろしく!」

ムウマ「なんてね。」

ムウマはおどけた顔をした。
声も美しい、透き通った声に変わった。

ムウマ「ふふ…なかなか良いリアクションだったわ。」

ブースター「え…」

グレイシア「彼女はね、誰かを驚かせるのが趣味なの。ひどいでしょ。」




14: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 14:24:29.02 ID:GPl42TLU0

ムウマ「かわいいコが来たじゃないの。ふふふ…」

ブースター「えーっと、よろしくお願いします…」

グレイシア「このボックスにはあと3匹いるんだけど…どこかへ行っちゃったのね。」

ブースター「どこかって…?」

横からポリゴンが割って入った。

ポリゴン「自己紹介も済んだところで、もう少し、
『ボックス』についてお話しすることがあります。」




15: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 14:30:01.54 ID:GPl42TLU0

ブースター「なんだい?」

ポリゴン「ブースターさん、お好きな食べ物は?」

ブースター「食べ物?木の実ならよく食べるけど…。」

ポリゴン「では、先程と同じように、『木の実を食べたい!』
と強く念じてください。」

ブースター「う、うん。」




16: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 14:38:06.79 ID:GPl42TLU0

彼は、頭の中でオレンの実を思い描いた。食べたい…食べたい…。

目を開けると、オレンの実がひとつ出現していた。

ブースター「…一体どうなっているんだ?」

ポリゴン「私にも分かりません。とにかくこの空間では、
ポケモンが生きるための最低限の物を手に入れることができるようです。」

ブースター「最低限?」

ポリゴン「食べ物、水、寝床など…欲しいと思えば、出現するのです。」




17: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 14:46:15.18 ID:GPl42TLU0

ポリゴン「あ、あとトイレですね。」

ブースター「トイレだって?」

ポリゴン「食べたり飲んだりすれば、排泄が必要でしょう?
まあ、私とムウマさんは必要無いですが…」

ブースター「トイレも、念じて出現させるってこと?」

ポリゴン「そうです。分かってきましたね。」

ブースター「でもトイレって…どんな?」




19: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 14:59:11.67 ID:GPl42TLU0

ポリゴン「あなたがトイレだと思う物です。」

ブースター「うーん…やってみるよ。」

彼はそれを想像した。

次の瞬間、彼は他の空間にいた。

地面は砂になっている。
それが永遠と、地平線になるまで敷き詰められている。

ブースター(確かにトイレだけど…。)

彼は皆が集まっている場面を想像し、元の場所へ戻った。




20: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 15:02:50.91 ID:GPl42TLU0

確かめてみると、4本の足のいずれにも砂は付いていなかった。

ブースター「なるほど、だいぶ慣れてきたよ。」

ポリゴン「その調子でやっていけば、生活に不自由はないはずです。」

「おーい」

ケンホロウの隣に、いきなり黄色いポケモンが現れた。




21: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 15:13:54.41 ID:GPl42TLU0

ポリゴン「彼はデンリュウさんです。
かなり前からこのボックスにいらっしゃいます。」

デンリュウ「お、また新入りか!よろしく!」

ブースター「よろしくお願いします。」

ブースターは一礼した。

ブースター「…他にも新入りが?」

デンリュウ「うん。最近、変なのが来たばっかりなんだ。」

デンリュウ「なんか…マラカス持っててさ。ずっと踊ってるんだ。」




22: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 15:17:37.20 ID:GPl42TLU0

ケンホロウ「ルンパッパね。あいつ、ちょっとうるさいんだよなあ。」

ブースター「あ、知ってますよ、そいつ。同じパーティにいました。」

ケンホロウ「そこでもうるさかった?」

ブースター「はい…悪いやつではないんですが…」

デンリュウ「ま、気楽にやろうや。何かあったら、ポリゴンに聞けばいい。
そいつは色々なボックスを転々としてたらしいから、何でも知っているぞ。」




23: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 15:23:54.26 ID:GPl42TLU0

ブースター「他のボックスにいたんですか?」

ポリゴン「まあね。伝説のポケモンやら何やら、たくさんいましたよ。
でも私は静かなのが好きなもので。
ポケモンも、ここぐらいの数が丁度良いですよ。」

その時、ポリゴンの横にまた別のポケモンが現れた。

「ふわああ…退屈だ。」




24: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 15:27:07.42 ID:GPl42TLU0

ポリゴン「ヘルガーさんです。睡眠が大好きな方です。」

ヘルガー「そりゃあ皮肉かあ?ポリちゃん。」

ヘルガーがこっちを向いた。
険しい顔をして、強面だ。

ヘルガー「お!新入りじゃん!」

ブースター「あ、よろしくお願いします。」




25: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 15:32:42.15 ID:GPl42TLU0

ヘルガー「ま、気楽にやってくれや。ポリちゃんがいるから、
何も問題ない。」

ヘルガーは興味なさげにあくびをした。

ヘルガー「あと、これからは敬語とかナシな。堅苦しいし。」

ブースター「わ、分かった。」

皆は思い思いの場所へと消えてゆき、
ブースターとグレイシアだけ残された。




26: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 15:42:47.28 ID:GPl42TLU0

ブースター「そういえば、ポリゴンは寝床を出せるって言ってたな。」

グレイシア「やってみたら?」

ブースター「でも…寝床って言われても…」

グレイシア「こんな所で寝たい!…とか無いわけ?」

ブースター「そりゃあ、あるけど…」

ブースターはそれを想像してみた。

目を開けると、小さな洞窟にいた。
広さはそれなりにあり、焚き火が燃えていて暖かい。




27: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 15:48:52.90 ID:GPl42TLU0

月明かりが差し込む出口へ行ってみると、
そこから先は崖になっていて、洞窟の外には出られない。

ブースターはグレイシアの所へ戻った。

グレイシア「どんな場所?」

ブースター「断崖絶壁にある洞窟。気に入ったよ。
でも、落ちたら死にそうだ。」

グレイシア「そんなワケないでしょ。落ちてもきっと、ここに戻るだけよ。」

ブースター「そうなの?」

グレイシア「だって、ポケモンがボックス内で死んだら…大変なことじゃないの。」

ブースター「そりゃあ、そうだ。」




28: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 15:55:45.42 ID:GPl42TLU0

ブースター「皆どこへ?」

グレイシア「普段はね、皆ここにはいないの。森の中に集まっているのよ。」

ブースター「森の中?どこだい、そこ。」

グレイシア「行ってみれば分かるわ。
ほら、皆が集まっている場面を思い描いてみて。」

ブースター「ああ…なるほど。

ブースターはその通りにした。




29: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 16:02:53.73 ID:GPl42TLU0

深い森の中にいた。
ブースターがいるのは、その中でも開けた場所。
焚き火を囲んで、グレイシアを含めた4匹がいた。

グレイシア「基本的には、ここで過ごすことになってるの。」

ブースター「この森…奥には行けるのかな?」

ケンホロウが口を開いた。

ケンホロウ「行ってみたけど、永遠とこの景色だよ。
森は無限に広がっているみたいだ。」




30: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 16:07:05.30 ID:GPl42TLU0

デンリュウ「いつか小さな島へ行った時もそうだった。
水ポケモンがずっと泳いでいったんだが、ずーっと海だったそうだ。」

ブースター「でも、好きな場所には行ける…ってこと?」

デンリュウ「そうだね。他の生き物はいないけど。」

ブースター「…本当にどうなっているんだろ。ここ。」




31: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 16:14:10.81 ID:GPl42TLU0

ポリゴン「そこが疑問ではありますが…
『現実とは異なった空間』と言うのが適当でしょうね。」

ブースター「どういうこと?」

ポリゴン「ここは、知っての通り無限に広い。
現実世界にこんな場所はないでしょう。」

ポリゴン「ボックスは最近開発されて、試験的に運用しているそうです。
何百人というトレーナーが使っているはず。」

ポリゴン「それにこのボックスというものは、
世界中のポケモンセンターからアクセスできるらしいのです。」

ブースター「それって…スゴイね。」

ポリゴン「ええ。ですから、ここと同じようなボックスはかなりの数
存在するはずです。」




32: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 16:19:15.26 ID:GPl42TLU0

ブースター「他のボックスには行けないんだね?」

ポリゴン「ええ。何度か試しましたが、不可能ですね。」

ブースター「ううん…。不思議だなあ…。」

ポリゴン「ニンゲンが作り上げたものですから…
我々には理解できないでしょうね。」

ヘルガー「ええい!難しい話はやめだ!」

ヘルガーが大声で言った。




33: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 16:25:19.70 ID:GPl42TLU0

ヘルガー「ブースター、お前がいた時のパーティ…誰がメインだった?」

ブースター「メイン…?えっと、カメックスさんかな。」

ヘルガー「まだアイツなのか…。」

ケンホロウ「重鎮だね。彼、旅パの時のメンバーだから。」

ヘルガー「まったく…だから対戦で勝てねえんだ。」

ヘルガーは苦い顔をした。




34: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 16:28:43.61 ID:GPl42TLU0

ブースター「君がいた時は?どんなメンバーが?」

ヘルガー「俺らのマスター、ポケモン図鑑の完成に熱心だろ?
捕まえてはボックス送り。あんまり覚えてねえや。」

ヘルガー「俺はデルビルの頃から、結構長くパーティにいたんだが…
飽きられたらしい。だから同じ炎タイプのお前は、俺の後釜ってワケだ。」

ケンホロウ「羨ましいよ。僕は進化したら、すぐボックス行きだったから。」

デンリュウ「俺もー!」

デンリュウが無邪気に手を挙げた。




35: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 16:38:05.47 ID:GPl42TLU0

ブースター「グレイシア、君は?」

グレイシア「あたしは、パーティでは重宝されていたと思うわ。」

デンリュウ「俺、覚えてるよー!」

デンリュウがまた手を挙げた。

デンリュウ「俺がメリープの時さ、学習装置つけられて、
グレイシアちゃんの経験値をがっぽり分けてもらったんだ。」

ブースター「2匹は同じ頃パーティに?」

グレイシア「そうよ。ケンホロウもね。あたしは皆の育て屋だったわけ。」

ケンホロウがうなずいた。




36: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 16:42:44.70 ID:GPl42TLU0

それからしばらく5匹は、共通の話題であるマスターのことで盛り上がった。

ブースター「…気になるのは、マスター、最近育て屋にばっかり行くんだ。」

グレイシア「育て屋に?」

ブースター「うん。それで毎回、ポケモンの卵を受け取るんだ。」

ケンホロウ「卵…どういうつもりだろ?」

「いいやっほおおおう!!!」

突然、大声が響いた。




37: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 16:45:55.98 ID:GPl42TLU0

皆、驚いて声の方を見る。
マラカス持ったポケモンが踊っていた。

ルンパッパ「あールンパッパッパッパ!ルンパッパッパッパ!フー!」
シャカシャカ

ヘルガー「チッ!うるさいのが来やがった…。」

ルンパッパはひたすら踊っている。

ルンパッパ「ありゃ?ブースターちゃん!何やってんの?フー!」
シャカシャカ

彼は接近してきた。




38: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 16:57:45.58 ID:GPl42TLU0

ブースター「君と同じだよ。ボックスに送られたんだ。」

ルンパッパ「そうか!そうか!オホホホ!」シャカシャカ

ブースター(相変わらず、騒々しい奴だ…)

しかしルンパッパはひと踊りしただけで、すぐに消えてしまった。

ブースター「あいつ、どこへ?」

ヘルガー「さあな、俺が『踊りならよそでやれ!』って怒鳴ったら、
ほとんどここに来なくなっちまった。」




39: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 17:05:41.18 ID:GPl42TLU0

デンリュウ「ふああ…眠くなっちゃった。一眠りするか。」

デンリュウは焚き火の前から消えた。

グレイシア「ここでは、どんな時に眠っても誰も咎めないわ。当たり前だけど。」

ブースター「じゃあ、僕も眠ろうかな。ちょっと疲れたし。」

ブースター「おやすみなさい。」

「おやすみ」

彼は先ほどの洞窟へ行った。




40: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 17:13:04.24 ID:GPl42TLU0

ブースター(…何か足りないな…そうだ)

ブースターはわらでできたベッドを出現させ、横になった。

ブースター(ボックスがこんな場所だったとは…全然知らなかった。)

ブースター(でも他のポケモンもいるし、これから増えるかも。
どりあえず慣れないとね。)

ブースターがうとうとしていると、突然、何やら冷たいものを感じた。

ブースター「ふあ…?」




41: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 17:18:42.75 ID:GPl42TLU0

黒い影が出現したかと思うと、ムウマが現れた。

ムウマ「あら、おねんねしてたかしら?」

ムウマはクスクス笑っている。

ブースター「どうやってここに?」

ムウマ「簡単よ。あなたが一匹で、寂しく寝ている姿を想像したの。」

ブースター「別に、寂しくはないよ?」

彼は体を横にしたまま答えた。

ムウマ「本当かしら?」




42: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 17:20:40.05 ID:GPl42TLU0

改めて見ると、ムウマは変わったポケモンだ。
他のゴーストポケモンもそうだが、彼女の体は煙のようにモヤモヤと、
薄い緑色に透けていて、向こうの景色が見えている。

ムウマ「初めてボックスに来てみて、どうかしら?」

ブースター「変な場所だけど…過ごしやすそうだし、悪くはないね。」

ムウマ「そういえば、ブースターちゃんって…オスなのね。」

ブースター「え?」




43: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 17:23:50.50 ID:GPl42TLU0

ムウマはブースターの股間を見つめている。

ブースター「な、なんだい急に。」

ムウマ「あたしって、ご覧の通りガス状のポケモンだから…
内蔵とか、なんにもないの。生殖器もね。」

ブースター「まあ、確かに…。」

ムウマ「だから…ちょっと興味があるのよ。見たことも無かったの。」




44: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 17:26:53.25 ID:GPl42TLU0

ブースター「見たことが無いって…デンリュウとか、ヘルガーは?」

ムウマ「デンリュウちゃんはトカゲ型だから…
収納されちゃってるの、ソレが。」

ブースター「僕のだって、一応収納はされているぞ。」

ムウマ「でも、完全にではないでしょ?」

ブースター「そうだけど…。」

どうも風向きがおかしい。




45: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 17:31:30.76 ID:GPl42TLU0

ブースター「ヘルガーは?僕と同じ、イヌ型のポケモンだよ?」

ムウマは哀れむような顔になった。

ムウマ「ヘルガーちゃん…去勢されちゃってるの。」

ブースター「え!そうなんだ!」

ポケモンのオスを去勢するのは、珍しいことではない。
しかしそれはペットにする場合であって、対戦に使う強いポケモンには
繁殖力を残すのが一般的だ。




46: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 17:34:54.66 ID:GPl42TLU0

ムウマ「だから、完全なソレは初めて見るの。」

ブースター「ふーん…」

ムウマ「じゃあ、ガーディみたいに後ろ足を上げてオシッコするの?」

ブースター「そ、そうだよ?」

ムウマ「うふふ…モフモフしてて気持ちよさそうね。
触ってみたくなっちゃった。」

ムウマが近づいてきた。

ブースター「え?ちょ…ちょっ!」




47: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 17:37:35.77 ID:GPl42TLU0

ブースターは前足で股間を隠した。

ムウマ「うふふ…冗談よ。カワイイんだから…。何もしないわよ。」

ブースター「…え?」

ムウマ「そもそも、あたしに性欲なんて無いだから…うふふ」

そう言って、不気味な笑い声を残して消えてしまった。

ブースター(もう…何なんだよ…)




48: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 17:41:02.62 ID:GPl42TLU0

彼はしばらく考え事をしていたが、やがて眠りについた。

目を覚ましても、洞窟の明るさに変化は無かった。
眠りについた時と同じく、出口から月明かりが差し込んでいる。

しかし体から疲れは消えていて、長時間眠ったのは確かだ。

ボックスの中には朝も、夜もない。だが外には月が出ている。

ブースターが念じると、月は太陽へと変わり、洞窟には朝日が差し込んだ。

グレイシア「あら、よく眠れた?」

森へ行くと、グレイシアとポリゴンがいた。




49: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 17:44:03.83 ID:GPl42TLU0

ブースター「うん。ぐっすりとね。」

彼はグレイシアの隣に座り、オレンの実を出現させた。

ポリゴン「もう、すっかり慣れましたね。」

ブースター「うん。思ったより快適だよ。」

ポリゴン「それは何よりです。」




50: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 17:45:59.93 ID:GPl42TLU0

すいません、ちょっと中断します。

ちなみにこの話は、だいたい前、後半に分かれています。
前半がこの「ボックス編」です。




51: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 18:03:44.78 ID:hw2syccSO

乙です
そういやボックス内のポケモンがどうなっているのか不明だよな。
だからこういったの面白そう




52: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 20:15:47.48 ID:GPl42TLU0

ケンホロウ「いやあ、スッキリした」

ケンホロウが現れた。

ケンホロウ「やっぱ、水浴びは最高だ!」

ブースター「水浴び?できるの?」

ケンホロウ「ああ、川に行けばいいんだよ。簡単だろ?」

ブースター「そうか、気づかなかった。」




53: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 20:20:01.25 ID:GPl42TLU0

ポリゴン「水浴びなんかして、大丈夫なんですか?」

ポリゴンが怪訝そうに言った。

ブースター「水浴びくらいなら平気だよ。さすがにね。」

彼は立ち上がった。

ブースター「じゃ、失礼して。」

ブースターが大自然に囲まれた川を想像すると、
それはすぐに実現した。

ブースター「こりゃあ、いい!」




54: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 20:23:12.42 ID:GPl42TLU0

彼は浅瀬で水浴びを始めた。
仰向けになり、青空を見上る。

悪くない。
これは休暇なのだ。今まで戦ってきた褒美に、
マスターがここで休ませてくれる。そう思うことにしよう。

そう。休暇はすぐに終わり、また戦いの日々が訪れるだろう。




55: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 20:27:50.39 ID:GPl42TLU0

彼は、気が向いた時にトレーニングをすることにした。
何も無い大草原に行き、走り込みや技の練習をする。
すると充実した気分になるのだ。

そうして時間が流れていった。
次の新入りは来ないが、他のポケモンとはすっかり仲良くなった。

どれくらい経っただろう。
一日一回睡眠をとったと考えると、すでに一ヶ月ほどになるだろうか。

ブースターがいつもの洞窟でくつろいでいると、
グレイシアが現れた。




56: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 20:32:39.54 ID:GPl42TLU0

グレイシア「そろそろ引っ越したら?ちょっとここ、陰気すぎない?」

彼女はブースターの横に座った。

ブースター「うーん…この微妙な暗さが好きなんだよ。」

さらにヘルガーもやってきた。

ヘルガー「うー、眠い。」

ブースター「何でここに集まるんだよ?」




57: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 20:37:54.93 ID:GPl42TLU0

ヘルガー「森にはルンパッパがいて、うるせんだ。ここで寝かしてくれい。」

ヘルガーはわらのベッドを出し、勝手に眠ってしまった。

ブースター「もう…!」

グレイシア「この洞窟、なかなかロマンチックじゃないの。」

グレイシアは、出口に見える月を見ている。

ブースター「だろ?いいだろ?」

グレイシア「…」




58: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 20:39:28.85 ID:GPl42TLU0

様子がおかしい。
ここ2、3日のグレイシアは、何かが違った。
やたらとブースターに着いてくる。一緒にいたがるのだ。

ブースター(僕…気に入られてるのかな?)

その時、突然グレイシアが振り向き、睨みつけてきた。

グレイシア「ちょっと!何も感じないの?」

ブースター「へ?」




60: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 20:43:54.54 ID:GPl42TLU0

グレイシアは彼に向き直った。

グレイシア「あなたのすぐ隣に、同じイーブイ族のメスがいるのよ?
何とも思わないわけ?」

ブースター「何とも…って?」

グレイシア「カンが働かないのね。まったく。こういうことよ。」

グレイシアは立ち上がり、こぶりの尻をこっちに向けた。
しっぽを高く上げ、ゆっくりと左右にふっている。
水色の奇麗な尻と、ピンク色に紅潮した性器が見えている。

これは、交尾を誘う行動だ。




59: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 20:41:04.63 ID:/nBhx3Z80

そろそろ脱いだ方がいいですかね



61: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 20:46:39.48 ID:GPl42TLU0

ブースターはぼんやりと眺めていたが、やがてうつむいて、
申し訳なさそうに首を振った。

ブースター「ごめん。僕はまだ発情期じゃないんだ。」

グレイシアは名残惜しげに体勢を戻した。

グレイシア「寂しいわね…。あたしは真っ盛りなのに。」

ブースター「最近様子がおかしかったのは、発情期だからか。」

グレイシア「何だか…あなたがとても魅力的に見えるの…。」

グレイシアは熱っぽく言った。




62: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 20:50:01.13 ID:GPl42TLU0

グレイシア「その気持ち良さそうなモフモフ…。引き締まった体…。」

確かに、トレーニングのおかげで彼は、比較的良い体をしている。

グレイシア「ああ、もう!あたしったら、何を考えているのかしら。」

グレイシアは首を振った。
そしてブースターのベッドに横になってしまった。




63: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 20:55:23.58 ID:GPl42TLU0

グレイシア「ねえ…交尾の経験はあるの?」

ブースター「…交尾のことしか考えてないの?」

グレイシア「いいじゃないの。」

ブースター「まあ、あるけど。」

ブースターは顔をしかめた。

ブースター「育て屋でね…。発情する薬を飲まされて、
無理矢理やらされたよ。あんまり良い気分じゃなかったね。」

グレイシア「そう…。じゃ、聞かないでおいてあげる。」




64: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 21:01:25.25 ID:GPl42TLU0

ヘルガー「おいおい…俺にも気を使ってくれよな。」

ヘルガーが眠そうに言った。

グレイシア「あら、起きてたのね。」

ヘルガー「ブースター、かわいいグレイシアちゃんの誘いを断るとは…
なんて奴だ。」

ヘルガー「まあ、俺にはタマがねえから…こんなこと言えんが。」

彼はつまらなさそうにつぶやいた。




65: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 21:02:41.68 ID:GPl42TLU0

ブースター「君はどうして去勢させられたんだ?」

ヘルガー「俺が暴れん坊だったからだろう。」

彼は苦い顔をした。

ヘルガー「去勢すれば、性格が丸くなるらしい。」

グレイシア「マスター、あなたの暴れっぷりに困ってたのね。」

ヘルガー「だが去勢された後も、自分の性格が変わったとは思えない。
相変わらず暴れてたしな。」




66: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 21:09:18.03 ID:GPl42TLU0

ブーン!ブーン!

突然、奇妙な音が響きわたった。

ブースター「なんだ?」

ヘルガーが起き上がった。

ヘルガー「ボックスが操作されてるんだ!
また新入りが来るかもしれねえぞ。」

音は鳴り続けている。
どこから聞こえてくるのか分からない。
地の底からなのか、空からなのか…
心がざわめくような、嫌な音だ。

グレイシア「皆のところへ行きましょ。」

3匹はうなずきあい、すぐに森へと移動した。




67: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 21:13:58.54 ID:GPl42TLU0

そこにはすでにルンパッパを除いた全員が集まっていた。

デンリュウ「久々のボックス操作だ!楽しみだねえ。」

ケンホロウ「で、どうする?」

ポリゴン「あの白い空間に戻りましょう。ブースターさんの時みたいに、
様子を見なくては。」

ムウマ「うふふ…じゃ、行きましょ。」




68: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 21:16:05.14 ID:GPl42TLU0

ブースター白い空間を見るのは、このボックスへ来たあの時以来だ。

そこではすでに異変が起こっていた。

ヘルガー「おい!ポケモンがいるぞ!」

遠くの方に小さな点が見えた。

ポリゴン「私が見に行きます。いつものようにね。」

ポリゴンは姿を消し、遠くの点が2つに増えた。

ヘルガー「また、お仲間が増えるってわけだ。」




69: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 21:18:56.01 ID:GPl42TLU0

グレイシア「どんなポケモンかしら?あなたみたいに、
物分りが良いと助かるんだけど。」

ブースター「ううん…」

ケンホロウ「あれ?何か変だぞ?」

ケンホロウが羽ばたいた。

ムウマ「確かに…どんどん増えているわね…」

点がさっきより明らかに多い。
すでにブーンという音は消えていた。




70: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 21:21:21.30 ID:GPl42TLU0

するとポリゴンが戻ってきた。

ポリゴン「皆さんも来ていただけませんか。どうも困ったことに…。」

グレイシア「どうしたの?」

ポリゴン「見れば分かります。さ、早く。」

行ってみると、驚きの光景が広がっていた。

新しいポケモンは5匹来ていた。
すべて同じポケモンであり、しかも生まれたてのようだ。
目は開いておらず、けたたましい鳴き声を発している。




71: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:25:25.64 ID:tB2a3gfl0

なんかゴメンナサイって気分になってきた



72: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 21:29:18.14 ID:GPl42TLU0

ケンホロウ「このポケモンは…?」

ポリゴン「フカマルですね。」

デンリュウ「それって、進化したらガブリアスになるやつ?」

ポリゴン「ええ。しかしなぜ5匹も…。」

ブーン!ブーン!

再び音が鳴り出した。

ブースターは嫌な予感がした。




73: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 21:32:44.76 ID:GPl42TLU0

同じ所に、またフカマルが現れた。
2匹…3匹…4匹…5匹。

ムウマ「また5匹!全部で10匹!」

グレイシア「一体どういうこと!?」

ブースターは他の異変に気付いた。

ブースター「待って!ポリゴンとヘルガーがいない!」

ムウマ「本当だわ…あれ?ケンホロウちゃんも…。」

デンリュウ「たぶん…引き出されたんだ。」

グレイシア「引き出された?ボックスから?」

その時、ブースターは何かに引っ張られた感覚がした。

ブースター「あ…」

そして、全てが真っ暗になった。




75: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 21:39:09.98 ID:GPl42TLU0

「本当に…これで良いんですか?」

ある大きな家の中。
2人の男が話している。

部屋は暗く、2人の顔はよく見えない。

「もう…手遅れや。」

「どうして放っておいたんですか!こうなるまで!」

1人はソファに座ってうなだれ、
もう1人は、せわしなく室内を歩き回っている。




77: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 21:43:12.30 ID:GPl42TLU0

「全然気付かなかったんや…便利さだけ、見とった…。」

「まだ遅くはない!今すぐ発表するんです!」

「これだけ広まってしもうては…」

「あなたの呼びかけなら…!」

「…」

「とにかく、開発者としての責任は逃れられない。
覚悟するんですね。」

1人が、部屋から出ていった。

「くっ…わいは…どうすればええのや…」




78: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 21:45:22.66 ID:GPl42TLU0

ブースター「うう…ん…」

ブースターは目を覚ました。
まだ視界がぼやけている。草の香りがした。
目の前に何かが倒れている。
デンリュウだ。意識がはっきりとしてくる。

ここは…森だ。木が生い茂っている。いつもの森とは…何かが違う…。
ブースターは右前足を上げてみた。
泥がついている。
…泥?




79: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 21:49:56.56 ID:GPl42TLU0

本物の森だ!

ポリゴン「…無事ですね。」

ブースター「う、うん。」

辺りを見回すと、ボックスにいた皆が倒れていた。

ブースター「ここは…外なんだね?」

彼はポリゴンの方を見た。

ポリゴン「え、ええ…そうです、そうです。」




80: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 21:52:45.15 ID:GPl42TLU0

ブースター「どうしたの?」

ポリゴンは壊れた歯車のようにガタガタ震えている。

ポリゴン「いえ…な、何でも。皆さんを…起こしましょう…。」

起こすまでもなく、皆は次々と目を覚ました。

グレイシア「つまりあたしたち…ボックスから出されて、
外にいるわけね。」

全員が集まって、とりあえず状況を確認する。




81: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 21:55:14.86 ID:GPl42TLU0

ブースター「うん。」

ケンホロウ「でも…ここはどこなんだ?ポケモンセンターも見えない…。」

ヘルガー「何より、マスターだ。引き出された俺らは、
彼のモンスターボールに入っているはずなんだが。」

ポリゴン「そのことですが…。」

ポリゴンはまだ震えている。

ポリゴン「私たちは…逃がされたみたいです。」

ケンホロウ「逃がされた?」




82: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 21:57:46.74 ID:GPl42TLU0

ポリゴン「…ポケモンセンターでは…
不要になったポケモンを逃がすことも可能なんです…。」

デンリュウ「それって、捨てるってことかな?」

ポリゴン「ええ…。捨てられたポケモンは恐らく眠らされて、
こういった山奥に廃棄されることになっているのでしょう。」

ケンホロウ「なんてこった…。」

ヘルガー「俺らが…捨てられた…?マスターに?」

ヘルガーはがっくりと座り込んだ。




83: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 21:59:49.22 ID:1BB1Rj860

心が痛む



84: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 22:02:34.46 ID:GPl42TLU0

ポリゴン「そんなことより問題なのは…私たちの状況です。」

ポリゴン「もはや私たちにマスターはいないわけです。
モンスターボールに入ることはない…つまり?」

ムウマ「野生のポケモンと同じ…。」

ケンホロウ「うーむ…。」

ポリゴン「モンスターボールには凄まじい治癒力があります。
私たちが瀕死になっても、ボールに入れば死ぬことはない…。」

グレイシア「今のあたしたちは、そうはいかないワケね。」




85: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 22:06:35.33 ID:GPl42TLU0

ブースター「でも…。」

ブースターは首を傾げた。

ブースター「またモンスターボールで捕まえてもらえば、
大丈夫でしょ?」

グレイシア「他のニンゲンに?」

デンリュウ「確かに。」

ポリゴン「そうかもしれません…しかし、どうでしょうか?」

ポリゴン「私たちは、本当に野生のポケモンと同じでしょうか?」

ケンホロウ「…」

ムウマ「まあ…違うわね。」




86: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 22:09:50.33 ID:GPl42TLU0

ポリゴン「皆さんもお分かりだとは思いますが…
決定的な違いがあります。」

ポリゴン「それは『知能』です。モンスターボールの効果でしょうが、
私たちは野生の時より、格段に高い知能を持っています。」

ポリゴン「よって私たちはトレーナーと意思疎通ができ、
他のポケモンとも会話をすることができる。」

ポリゴン「それに、私たちはボールから出されている状態です。ただ単に。」

ムウマ「あたしたちはまだ、『誰かのポケモン』…
ということかしら?」

ポリゴン「つまり、私たちは2度とボールに入れない可能性も…」




87: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 22:12:14.55 ID:GPl42TLU0

デンリュウ「う~ん、ありえる。それ、マズイかもね~。」

ポリゴン「私たちがここに送られた理由は…?もしこの森に、
肉食の獰猛なポケモンがいたとしたら?」

ムウマ「ズバリ、エサね。」

ブースター「え、エサって…。」

ポリゴン「大きくて強いポケモンなら、安楽死かもしれません。
しかし費用がかかる。」

ポリゴン「比較的小ぶりな私たちは…ここで殺処分されるわけです。
野生ポケモンのエサとして。」

ブースター「そんな…。」

ケンホロウ「…。」




88: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 22:16:58.84 ID:GPl42TLU0

全員が暗い顔で黙っている。
おそらく、ポリゴンの言ったことは正しいのだろう。

ヘルガー「じゃあ俺らは…死ぬのを待つだけなのか?」

グレイシア「それか、意地でも生き続けるか…ね。」

ポリゴン「そうです。一応、助かる可能性はあります。」

ケンホロウ「助かる…と言うと?」

ポリゴン「ペットとして飼われているポケモンいるでしょう?
彼らは、モンスターボールには入りません。」

ブースター「じゃあ、僕らもペットとして飼ってもらえば…!」




89: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 22:24:29.46 ID:GPl42TLU0

ポリゴン「どうやら、それに賭けるしか無いようです。
死にたくなければ。」

ヘルガー「じゃ、ニンゲンがいる場所に行かないとな。」

ポリゴン「とにかく、この森…山かもしれませんが、
ここを抜けましょう。」

「ホイ!みんな!」

全員が驚いて声の方を見ると、茂みからルンパッパが出てきた。




90: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 22:25:12.85 ID:GPl42TLU0

グレイシア「ああ…いたのね、あんたも。」

ルンパッパ「おいらのマラカス、知らない?」

ケンホロウ「は?」

ルンパッパ「気付いたら、マラカスが無かったんだよう!」

ルンパッパ「おおおおおおい!!マラカスううううう!!」

ルンパッパは叫びながら、茂みに戻っていく。

ヘルガー「バカ!でけえんだよ!声が!」




91: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 22:31:03.73 ID:GPl42TLU0

グルルル…

不気味な音が響いた。
ルンパッパを含め、皆が動きを止める。

ブースターは背中が冷たくなるのを感じた。

樹木の陰に、それが現れた。
イヌ型のポケモンだ。かなり大きい。
まだ、かなり離れたところにいる。

しかしその鋭く光る目は、確実に彼らを睨みつけている。

ヘルガー「ウィンディだ…。」

ヘルガーが静かに言った。




92: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 22:34:26.01 ID:GPl42TLU0

次の瞬間、大きな唸り声とともにウィンディが飛び出してきた。
真っ直ぐこちらへ、凄いスピードで走ってくる。

ヘルガー「逃げろおおお!!」

ヘルガーの声に弾かれたように、
ブースターは一目散に逃げ出した。

力の限り地面を蹴り、森の奥へと走っていく。
気が付くと、隣でグレイシアが走っていた。
2匹は前を見続け、ひたすら走る。
まるで、追いかけっこをしているようだ。




93: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 22:36:05.79 ID:GPl42TLU0

グレイシア「待って…様子を…見ましょう…」

2匹は立ち止まった。
先ほどより、森の奥の方まで来たようだ。
物音は全く聞こえない。

グレイシア「…あたしたちを追ったわけでは無さそうね…。」

ブースターは徐々に落ち着きを取り戻した。

ブースター「随分速いんだね、走るの。」

グレイシア「自分でも…驚いたわ…。」

まだ息を切らしている。




94: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 22:37:03.91 ID:GPl42TLU0

グレイシア「あなた…正解だったわね…トレーニングして…」

ブースター「…そうだね。」

2匹はゆっくりと歩き出した。
森の出口を探さなくては。

しばらく進むと、開けた場所に出た。
草原が広がっている。

グレイシア「ここ…危険かしら?」

ブースター「うん…。目立っちゃうね。」




95: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 22:37:49.74 ID:GPl42TLU0

「おーい!」

上から声が聞こえてきた。
見ると、ケンホロウが羽ばたきながら降りてくるところだった。

ケンホロウ「よかった。無事だったんだね。」

ブースター「他のみんなは?」

ケンホロウ「分からない。必死で逃げていたから…。」

グレイシア「あなた、飛べるんだから…。
そんなに逃げる必要ないでしょ。」

だいぶリラックスしたようだ。
グレイシアはクスクス笑っている。




96: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 22:38:29.42 ID:GPl42TLU0

ケンホロウ「そうなんだよねえ…。忘れてたんだよ。」

ケンホロウ「でも体力が無くて…。長時間は飛べないんだ。」

グレイシア「ずっとボックス暮らしだったから?」

ケンホロウ「そう。実戦経験もほとんど無い。
…生き残るのはちょっと、難しいなあ。」

ケンホロウは苦笑いした。

確かに、今は実戦経験というのが非常に重要な局面だ。

皆の中で本格的な対戦の経験を持つのは、自分とグレイシア、そしてヘルガーだけである。




97: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 22:39:29.73 ID:GPl42TLU0

ルンパッパは波乗り要員であり、対戦で使われることは無かった。
他のポケモンについては、長い間ボックス暮らしだったのだ。

この森で恐らく、彼らは死ぬだろう。
ブースターは暗い気持ちを拭えなかった。

ケンホロウ「…で、どうする?これから。」

グレイシア「あたし…言って無かったことがあるの。」

彼女は真剣な表情になった。

ブースター「どういうこと?」




98: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 22:40:07.63 ID:GPl42TLU0

グレイシア「あたしはまだイーブイの時、ペットとして飼われていたの。
ある大きな家で。」

グレイシア「その時の飼い主が…有名な科学者だったの。」

ブースター「科学者?」

グレイシア「それで…彼は『ボックスの開発者』なの。」

ブースター「なんだって!?」

グレイシア「全部を開発したわけじゃないでしょうけど。
とにかく、重要人物なのは確かよ。」

ケンホロウ「そうだったのか…。」




99: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 22:40:48.75 ID:GPl42TLU0

グレイシア「その後あたしは、今のマスターに…もう違うけど、
譲り渡されたの。」

ブースター「それで…どうするつもりなんだい?」

グレイシア「彼はポケモンが大好きだった…。
きっと、この『逃がす』システムは知らないと思うの。」

ケンホロウ「彼に会うことができれば…。」

ブースター「動いてくれるかも…システムの改革に?」

グレイシア「期待するしかないわ。」




100: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 22:41:33.09 ID:GPl42TLU0

ケンホロウ「よし!これで、目標が定まったワケだ。」

ケンホロウは力強く言った。

グレイシア「彼がいたのはコガネシティってところよ。
今もそこに住んでいるか、分からないけど。」

ブースター「それに…ここがどこかも分からない。」

ケンホロウ「なーに!心配いらないさ!」

ケンホロウは翼をはためかせた。

ケンホロウ「どこかの町にでも辿り着けば、何とかなるだろ。
ちょっと高い所から探してみるよ。」

彼は空高く飛んでいった。




101: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 22:42:11.22 ID:GPl42TLU0

ブースター「グレイシア…僕たち、生き残れるかな…?」

グレイシア「もう!弱気なのね。」

グレイシアは笑っている。

グレイシア「生き残れないかもしれないけど、まだ分からないじゃない。
今はこのドキドキする冒険を楽しまなくちゃ。」

ブースター「冒険…か。」

ケンホロウ「おーい!町が見えたぞー!」




102: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 22:42:43.36 ID:GPl42TLU0

ケンホロウが低い位置まで降りて来た。

ブースター「よかった!どこにあるんだ?」

ケンホロウ「ちょうど夕日が見える方角だ!ちょっと遠いけど、
大きめの町がある!」

グレイシア「ふう…何よりね。」

ブースターも安堵のため息をついた。




103: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 22:43:18.13 ID:GPl42TLU0

ブースター「よし!早く行こう!ケンホロウ…」

ギャオーーッ!

鋭い叫び声が聞こえた。

ケンホロウ「え…」

グレイシア「あっ!あぶな…」

しかし遅かった。
黒い影が上空に現れたかと思うと、驚きのスピードで
ケンホロウに襲いかかった。

バチッ!

次の瞬間、ケンホロウは消えていた。




104: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 22:44:03.42 ID:GPl42TLU0

ブースター「な、何が…」

グレイシア「とにかく、隠れましょ!」

2匹は茂みの中へと戻った。

ブースター「さっきのは…エアームド?」

グレイシア「そのようね…凶暴なポケモンよ。」

ブースター「ケンホロウは…やられたのか…。」

2匹はしばし黙っていた。




105: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 22:45:29.51 ID:GPl42TLU0

ブースター「ケンホロウ…」

グレイシア「とにかく、ここにいると危ないわ。
動きましょ。」

グレイシア「今の場所を迂回してね。
隠れながら移動するのが一番だわ。」

ブースター「うん…。」

彼はなかなか、命の危機というものを実感できなかった。
しかし目の前でケンホロウが襲われた。
油断したら終わり。それを認めなくてはならないようだ。




106: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 22:46:01.10 ID:GPl42TLU0

日が暮れて、森は一層暗くなる。
かなりの距離を歩いたが、森は一向に終わらない。

グレイシア「待って…あれ、何かしら?」

遠くに明かりが見えた。
どうやら、森の一部が燃えているらしい。

ブースター「行ってみよう!」

2匹は急いで明かりの方へと向かった。

小規模の山火事が起こっていた。
パチパチと音を立てて木が燃えている。




107: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 22:46:37.18 ID:GPl42TLU0

「ええい!燃え広がっちまった!」

炎の中から、聞き覚えのある声がした。

ブースター「ヘルガーだ!」

グレイシア「ええ、無事だったみたい。さすがね。」

ブースターは燃え盛る木に近づいた。

ブースター「君は…熱いのはダメだよね?」

グレイシア「平気よ…これくらい!」

ブースター「無理しなくても…」

グレイシア「ほら!早く行きましょ!」




108: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 22:47:25.59 ID:GPl42TLU0

2匹は熱くない場所を選びながら、火の元へと近づいていった。
姿勢を低くしているヘルガーが見えた。

辺りには強烈な臭気がただよっている。
何のにおいだ?

ブースター「ヘルガー!」

ヘルガー「…!なんだ、お前らか…。」

ブースター「無事で良か…ど、どうしたの?」

おびただしい数のポケモンが、地面に転がっていた。
全て、死んでいるらしい。大部分は炎で焼けている。

さらに、ヘルガーは泣いているようだ。




109: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 22:48:29.03 ID:GPl42TLU0

ヘルガー「すまない…守ろうとしたんだ…」

彼は情けない声を発した。

グレイシア「ちょっと、何を…あっ!」

ブースターも、それに気づいた。

ヘルガーの足下に、デンリュウとポリゴンが倒れていた。
デンリュウは焼けこげ、ボロボロになっている。
ポリゴンは体がバラバラになっている。

ブースター「う…!」




110: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 22:49:02.48 ID:GPl42TLU0

ヘルガー「3匹で…歩き回っていたんだ…町とお前たちを探して…。」

ヘルガーはぼろぼろと涙を流している。

ヘルガー「そしたら…こいつらが…!
いまいましいテッカニンどもが…!」

よく見ると、彼の体は傷だらけだ。

グレイシア「ヘルガー、落ち着いて。」

ヘルガー「くそお!終わりだ!何もかも!」




111: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 22:49:52.48 ID:GPl42TLU0

グレイシア「まだ、あたしたちがいる。それにあなたも。」

グレイシアは彼に一歩近づいた。

グレイシア「まだ終わってないでしょ?とりあえず、
ここから離れましょう。ね?」

ヘルガー「ぐうう…!」

ブースターは、彼を無理矢理押し出そうとした。
しばらくは抵抗していたが、途中からヘルガーは静かになり、
黙って2匹についてきた。




112: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 22:50:44.26 ID:GPl42TLU0

炎は木から木へ、次々と燃え広がっていく。
彼らはそれから逃れながら、森の奥へと進んだ。


それから数日間、彼らは進み続けた。
幸い凶暴なポケモンと出くわすことはなかった。

ヘルガーはだいぶ立ち直り、自ら先導して進むようになった。

ある朝、彼らは岩場の陰で休息を取っていた。




113: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 22:51:37.90 ID:GPl42TLU0

ヘルガー「何だか、生きるのに精一杯でよ…あいつらのこと、
忘れそうになるんだ。」

ヘルガーが悲しそうに言った。

ヘルガー「長い間、一緒に暮らしたのに…俺って、薄情なのかな。」

ブースター「…」

ブースターは彼らのことを思い出すと、
毎回押さえられない悲しみを感じるのだった。

そのため、彼は極力忘れようとしていた。
だが、それは何よりも辛いことであった。




114: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 22:52:27.58 ID:GPl42TLU0

グレイシア「今は、先のことだけを考えないと。」

相変わらずグレイシアはドライだ。

グレイシア「予定通り、洞窟を探すんでしょ?この岩場で。」

ヘルガー「ああ。安全な隠れ場所を探さないとな。きっと見つかるさ。」

3匹はほとんど眠っていないので、疲れはピークに達している。

彼らが最も気にしているのは、ガブリアスの存在だった。
森の中で、その足跡を見つけることが日増しに多くなるのだ。




115: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 22:53:19.17 ID:GPl42TLU0

今までよく生き延びたと、ブースターは思う。
何度か野生ポケモンとの戦闘もあった。だが彼らは
チームワークを駆使し、何とか乗り越えてきた。

しかし、ガブリアスの恐ろしさは桁違いだ。
見つかったら最後、逃げる手段は無い。

グレイシア「あれなんか、どうかしら?」

大きな岩の横、草に隠れた場所に、小さな穴が開いていた。
ブースターが入ってみると、中は思いのほか広い。




116: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 22:54:01.68 ID:GPl42TLU0

彼は外に出て、待っていた2匹に問題はないと告げた。
入り口は、ヘルガーが何とか通れるくらいの広さだ。

ヘルガー「まあまあだな。」

グレイシア「隠れ場所としては優秀よ。見えづらい場所にあるし。」

3匹は、しばらくの間そこで生活することにした。
活動するポケモンが少ない早朝から昼に、食料を確保する。
夜は交代で見張り番をする。

2、3日の間は順調だった。




117: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 22:54:42.25 ID:GPl42TLU0

しかしある日の夜、ブースターとグレイシアは、
見張りをしていたヘルガーに叩き起こされた。

ヘルガー「おい!起きてくれ!」

グレイシア「何よ…どうしたの?」

ヘルガー「見つかったんだ!」

ブースター「…何が?」

ヘルガー「俺らが!ガブリアスに!」

2匹は飛び上がった。




118: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 22:55:23.44 ID:GPl42TLU0

グレイシア「なんですって!?どうして!?」

ヘルガー「いつも通り見張っていたら…いきなり現れたんだ!森の奥から!」

ヘルガーは取り乱している。

ヘルガー「目が合っちまった!あわてて洞窟に入るところも、
見られたに違いねえ!」

グレイシア「落ち着いて、とりあえず、対策を考えないと。」

ヘルガー「奴はまだ、外にいるか?」

ブースターは、体を出さないようにして外を確認した。

暗闇に光る、不気味な目があった。




119: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 22:56:22.83 ID:GPl42TLU0

ブースター「う…」

彼は2匹の方に振り返った。

ブースター「いる…。出てくるのを、待ち伏せしているのかも。」

グレイシア「困ったわね…。」

ブースター「今はここに籠るしか…。」

グレイシア「そうね。朝にはいなくなるかも。」

ヘルガー「だが…聞いたことがある。野生のガブリアスは素早さを生かして狩りをするが、
時にはこういう洞穴に追いつめて、待ち伏せることもあるらしい。」

ブースター「嫌なことを言わないでよ…。」




120: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 22:57:07.22 ID:GPl42TLU0

どちらにしろ、動きようがない。
朝まで待つことにしたが、3匹ともほとんど眠れなかった。

日が出て、周囲が明るくなってきた。

グレイシア「見たところ、ガブリアスの姿はないわ。」

ヘルガー「待て、隠れているだけかもしれん。」

ブースター「試してみる。」

彼は洞窟から顔だけ出して、思い切り炎を吐き出した。

ゴウ!という大きな音がして、一瞬周りが昼のように明るくなる。

すると、岩の陰からガブリアスが現れた。
やはり、待ち伏せしていたのだ。




121: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 22:57:49.78 ID:GPl42TLU0

ブースター「ダメだ!まだいる!」

ヘルガー「食料はもう無いぞ?」

グレイシア「2、3日なら耐えられるわ。」

ヘルガー「奴には食料がある。木の実だって食う。俺ら3匹は、
奴には願っても無い獲物だろう。少なくても1週間分の食料にはなるはずだ。」

ヘルガー「簡単にはあきらめんだろう…。」




122: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 23:07:32.54 ID:bu2l2aanO

グレイシアがいればガブリアスなんてなんとかなるやろ!!



123: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/10(日) 23:09:58.72 ID:2plHkynUo

このグレイシアには襷はないんや・・・一発くれてやる前に落とされてしまう



125: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 23:47:50.04 ID:zJWLgLxWO

ヘルガー「ガブリアスは…飛べないんだよな。」

彼は疲れた声で言った。

グレイシア「ええ…飛べそうに見えるけど…無理なのよ。」

ヘルガー「この洞窟の正面に…崖があったよな…?」

ブースター「うん…。少し先に行った所に…。どうして?」

ヘルガーはそれには答えなかった。

ヘルガー「俺…考えてたんだ。生き残って…何をするか。」

ヘルガー「でも…俺は、戦うことが生き甲斐だった…。
今になって…気付いた。」

ブースター「…ヘルガー?」




127: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 23:52:05.15 ID:zJWLgLxWO

ヘルガー「俺は頭が悪りいからよ…マスターの命令で戦うこと…、それで精一杯だ…。」

彼は突然立ち上がった。

ヘルガー「難しいことは分からん!お前らに任せる!!」

彼は吠えた。

ヘルガー「俺にはっ!!こんなことしかできんのだ!!」

そして猛然と、洞窟の外に飛び出した。

ブースター「ヘルガー!!」

グレイシア「ちょっと!!」




128: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 23:54:17.78 ID:zJWLgLxWO

ブースターは出口まで追いかけたが、そこで固まってしまった。

ガブリアスが、すぐ近くにいたのだ。
ヘルガーの声を聞きつけ、様子を見にきていたのだ。

ヘルガー「うおおおおおおおおおお!!」

しかし、ヘルガーはそのまま、頭を低くしてガブリアスに激突した。
ヘルガーの角が、ガブリアスの体をすくい上げた。

思いがけない一撃で、ガブリアスはバランスを崩す。




129: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/10(日) 23:59:50.02 ID:zJWLgLxWO

ヘルガー「行くぞおおおおおお!!!」

ガブリアスは足が浮いたまま体勢を取れず、腕を振り回すことしかできない。

ヘルガーはガブリアスを頭に乗せたまま、ひたすら突進し続ける。

その先には…崖がある。

ブースター「ヘルガー!!!」

彼は必死にヘルガーを追いかけた。

ガブリアスの爪が、ヘルガーの首筋を引き裂いた。
大量の血が噴き出す。




130: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 00:02:26.20 ID:k5qwYgIsO

ヘルガーはがくっと倒れ込んだが、その瞬間、すでに2匹の
体は宙を舞っていた。

「ギャアアアアアアア!」

ガブリアスのけたたましい叫び声が、崖の下を落ちていった。
そして、不意に途切れた。




131: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 00:04:28.49 ID:k5qwYgIsO

ブースター「ああ…」

彼は崖から下を覗き込んだ。

地面が、遥か下に見えた。

ガブリアスと、その上にヘルガーが重なって倒れている。
2匹とも、ぴくりとも動かなかった。




132: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 00:07:05.28 ID:k5qwYgIsO

すいません。中断します。

需要があるか分かりませんが、明日の午前中には全部投下したいと思います。




133: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/11(月) 00:07:42.72 ID:W5YHStcW0

ボックスのポケモンはもう逃がさない。



134: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/11(月) 00:09:25.66 ID:3EzMaQhEo

うわー・・・凄惨
お休み




135: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/11(月) 00:13:31.74 ID:UNse6hkY0

進化後ポケが野生で出ないのは殺処分場送りになってたからと考えるとしっくりきた
きっとこのガブリアスも元は捨てられた4vフカマルとかなんだろうなぁ……




138: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 10:45:06.16 ID:k5qwYgIsO

グレイシア「…ついに、あたしたちだけね。」

洞窟に戻ると、グレイシアが辛そうに言った。

ブースター「まだ…ムウマがいる。きっと生きているさ。」

彼はそう信じたかった。

グレイシア「…」




139: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 10:52:59.89 ID:k5qwYgIsO

グレイシア「…あたしが、もっと強かったら…」

グレイシアはうつむいた。
彼女がこんなことを言うのは初めてだ。

ブースター「ここの野生ポケモンが凶暴すぎるんだ。どうしようもないよ…。」

グレイシアが弱気になってしまっては困る。

ブースター「食べ物を探しに行こう。2匹で。」

グレイシア「…そうね。」




140: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 11:07:00.48 ID:k5qwYgIsO

2匹は連れ立って洞窟を出た。
森には日差しが差し込んできた。

オレンの木が生い茂っている場所へ行き、
手分けして実を集める。

地面に落ちている実を拾いながら、
ブースターは今後のことを考えた。

あの洞窟を出なくてはならない。
町にどれほど近づいたかは不明だが、
とにかく先へ進まなければ何も変わらない。




141: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 11:11:39.50 ID:k5qwYgIsO

グレイシア「ちょっと、気をつけて。」

グレイシアが茂みから出てきた。

グレイシア「ビードルがいるわ。」

そして彼女を追うように、ビードルも茂みから顔を出した。

ブースター「もう、退散した方が良いみたいだね。」

ビードルは動きが遅いが、強力な毒を持っているのだ。




142: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 11:18:19.56 ID:k5qwYgIsO

実が入った籠をくわえて、洞窟へ戻った。
3匹で苦心して作った、手製の籠だ。

3日間の空腹を癒やす。

グレイシア「いたた…」

グレイシアが唸った。

ブースター「どうしたの?」

グレイシア「何でもないわ。」

グレイシアの背中には、切り傷があったのだ。
ブースターは食べるのに夢中で、全く気づかなかった。




143: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 11:25:09.19 ID:k5qwYgIsO

ブースター「さっきのビードルか!?」

ブースターはあわてた。

グレイシア「大丈夫よ。刺されたわけじゃないから。ちょっと、かすっただけ。」

グレイシアはけろっとしている。

ブースター「…本当に大丈夫かな…。」

グレイシア「あなた、何でも心配しすぎよ。」

グレイシアは笑った。

グレイシア「疲れたわ。最近眠ってないから…」

そう言うと、すぐに横になってしまった。




144: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 11:29:33.44 ID:k5qwYgIsO

それはブースターも同じだった。
満腹になって、より眠気が増している。

彼も横になり、眠りについた。




145: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 11:34:12.30 ID:k5qwYgIsO

ゴロゴロ…

雷の音で、ブースターは目を覚ました。
外は、すでに真っ暗になっていた。

ブースターは外に出た。雨は降っていない。
木の枝を集めて洞窟の中で火をつけ、焚き火にした。

グレイシアは穏やかな寝息を立てている。

彼はその寝顔を見つめた。




146: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 11:39:34.14 ID:k5qwYgIsO

グレイシア「ふふ…どうしたの?」

グレイシアは目を覚ましていた。

ブースター「…生きるのに必死で、気づかなかったよ。」

彼はグレイシアの目を見た。

ブースター「君って…美しいんだね…こんなにも…」

グレイシア「あら、何か変よ…あなた。」




147: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 11:45:35.33 ID:k5qwYgIsO

ブースター「そうだね…。今、変になっているのかも。」

グレイシア「つまり…こういうことかしら?」

グレイシアはしっぽを挙げた。

ブースター「ごめん…待ってた?」

グレイシア「当たり前よ。ずっと、待ってたわ。」

ブースターは彼女に近づいた。




148: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 11:52:27.09 ID:k5qwYgIsO

こんな気分は初めてだ。

グレイシアは立ち上がり、ブースターはその後ろに立った。

自分も、この時を待っていたのかもしれない。

彼はそのまま、本能に身を任せた。




149: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 14:03:54.90 ID:pHvvUdUy0

グレイシアの腰に前足をのせて、
ゆっくりとペニスを挿入する。

グレイシア「ふふ…あなたのって、ちょっと小さいのね…。」

ブースター「ひどいなあ…君は。」

グレイシア「…こんな時でも、あたしたちは子孫を残そうとしている。
…変な話ね。」

ブースター「…それが、本能ってもんだ。」




150: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 14:14:01.00 ID:pHvvUdUy0

グレイシア「…あたしが子供を産んだら…どうするの?」

ブースター「育てるよ。当然だろ?」

グレイシア「…できるかしら?」

ブースター「僕たちがだめでも、イーブイならニンゲンが大切にするさ。」

グレイシア「ニンゲン…あたしはもう、信用できないわ。」

ブースター「彼らの考えを変えるために、行くんだろう?
コガネシティに。」

グレイシア「…そうね。」





151: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 14:20:28.10 ID:pHvvUdUy0

終わった後、2匹は寄り添って再び眠りについた。
翌朝、洞窟を出ると決めたのだ。

しかしそれはできなかった。

グレイシアの体調が急に悪くなったのだ。

ブースター「やっぱり…背中の傷が原因だよ。
毒が入ったんだ。」

グレイシア「すぐ…治るわよ…。大したことないわ…。」

ブースター「そうはいかない。モモンの実を
探さないと。」




152: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 14:24:12.13 ID:pHvvUdUy0

グレイシア「危険よ…。」

ブースター「時間が経ったら、命が危なくなるかもしれない。
待ってて。見つけてくるから。」

ブースターは外に出て、モモンの実を探した。

しかし予想に反して、モモンの木はどこにも見当たらない。
彼は焦りを感じた。




153: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 14:29:53.52 ID:pHvvUdUy0

日が暮れるまで探し続けたが、見つからなかった。

グレイシア「どうやら…ないみたいね…。」

暗い顔で帰ってきたブースターを見て、彼女は悟った。

ブースター「…まだ分からない。もっと奥にあるかも。」

グレイシア「だめよ…」




154: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 14:39:38.85 ID:pHvvUdUy0

グレイシア「あたしはともかく…あなたは死んじゃ…だめ。」

ブースター「君を死なせるつもりはない!」

グレイシア「あたしは…死なないわ。明日になったら…
すっかり治ってるから。

彼女は力なく笑った。




155: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 14:43:29.11 ID:pHvvUdUy0

翌朝になると、グレイシアの状態は深刻になっていた。

ハッハッと辛そうに呼吸をするだけで、
会話はもはや不可能だった。

ブースター「必ず実を持ってくるから…頑張って!」

グレイシアはわずかにうなずいた。

ブースターは迷わないよう気を付けながら、森の奥へと
入っていった。




156: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 14:51:24.64 ID:pHvvUdUy0

ブースター「あった…!」

モモンの木は見つかった。
だが、それは崖の下にあった。

ブースターはためらうことなく、切り立った崖を降り始めた。
長い時間をかけて、やっと下まで辿り着く。

モモンの実を口にくわえて彼は崖を見上げた。




157: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 14:57:41.25 ID:pHvvUdUy0

これを登るか、迂回して洞窟を目指すか。
しかし迂回しても、延々と崖が続いているかもしれない。

ブースターは慎重に登り始めた。

ズルッ!

すぐに滑り落ちてしまい、地面に頭を強く打った。

ブースター「くそっ!」

あきらめず、もう一度足をかける。
絶対に実を、グレイシアに届けるんだ。
絶対に。





158: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 15:01:16.54 ID:pHvvUdUy0

ブースター「グレイシア!!」

彼が洞窟に戻った時、そこには月明かりが
差し込んでいた。

グレイシア「ハッ…ハッ…」

彼女の呼吸は今にも消え入りそうだ。

ブースター「モモンの実だよ!グレイシア!」

グレイシア「ハッ…ハッ…」




159: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 15:04:57.98 ID:pHvvUdUy0

ブースターはモモンの実をかじり、
口移しで彼女に食べさせた。

ブースター「ほら!しっかり!」

実が種だけになるまで、ブースターはそれを続けた。

時間が経って、彼女は深い呼吸を始めた。

ブースター「よかった…」

彼は、グレイシアを見守り続けた。




160: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 15:15:29.61 ID:pHvvUdUy0

グレイシア「ねえ…ブースター…。」

夜も更けた頃、彼女は目を覚ました。
薄目でブースターを見つめる。

ブースター「…なんだい?」

グレイシア「…あたしたちポケモンは…何なのかしら…?」

ブースター「…え?」

グレイシア「モンスターボールで…洗脳されて…戦わされて
…傷ついて…」

ブースター「洗脳?」

グレイシア「あたしは…戦うのが好きだった。…ニンゲンに
命令されて…。」




161: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 15:24:54.31 ID:pHvvUdUy0

グレイシア「ニンゲンの言うことなら…全て聞いた。
バトルで勝つと…嬉しかった…。ニンゲンのために
何ができるか…ずっと考えてた…。」

グレイシア「でも…今なら分かる…。彼らは…あたしたち
のことなんて…何も考えていなかった…。ただの道具として
…見ているだけだった…。」

ブースター「…」

グレイシア「彼らの出世や自己満足のために…戦わされて…
用済みになると…捨てられる…。」

グレイシア「きっと…あたしたちは…生き物として…見られて
いないんだと思う…。」




162: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 15:29:18.27 ID:pHvvUdUy0

ブースター「でも、全てのニンゲンがそうだとは…。」

グレイシア「…そうね…。でも…『ボックス』が世界中に
広まったら…みんな…そうなっちゃうかも…。」

ブースター「ボックスが…。」

グレイシア「あのフカマルたちも…捨てられるのよ…あたし
たちみたいに…。きっと彼らは…『劣った個体』なのよ…。」

ブースター「…どういうこと?」




163: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 15:36:53.49 ID:pHvvUdUy0

グレイシア「ニンゲンは…バトルで勝つために…強い個体だけを…
選ぼうとする…。」

グレイシア「きっとニンゲンは…生まれたばかりのポケモンを…
選別するんだわ…。強さで…。」

グレイシア「あのフカマルたちは…弱くて…捨てられたのだと…
思う…。」

ブースター「そんな…ひどいことを?」

グレイシア「…一体の強い…ポケモンのために…数十の命を…
犠牲にする…時代が来るのよ…ボックスのせいで…。」




164: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 15:42:48.78 ID:pHvvUdUy0

ブースター「…まさか。」

にわかには信じられない話だ。
ニンゲンは、そんなに残酷なのか?

グレイシア「とにかく…あたしたちは…野生で生きるのが…
一番自然な姿よ…。」

グレイシア「でも…ニンゲンを満足させる…道具にされて…
飼われ…戦わされる…。」

グレイシア「壊れたら…ポケモンセンターで…治す…。
そう…あたしたちは…道具なの…。」

ブースター「…」




165: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 15:49:13.99 ID:pHvvUdUy0

グレイシア「こうして…野生に返れて…何だか…スッキリ
…したわ…」

グレイシアの声が小さくなった。

ブースター「グレイシア?大丈夫?」

グレイシア「最後に…あなた…と…一緒に…いれて…よか…」

ブースター「グレイシア!!」

グレイシア「あ…り…が……」

ブースター「グレイシア!!ねえ!!」

ブースターは、彼女の体を強く揺さぶった。
何度も呼びかけながら。

しかし、彼女が目を開けることはなかった。




166: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 15:54:41.59 ID:pHvvUdUy0

翌朝、ブースターはグレイシアを残したまま、
洞窟を出た。
彼女の体を焼くことなんて、できなかった。

ブースター「負けるものか…。」

必ず、コガネに辿り着く。
死んでいった皆のために、彼は生き残らなくては
ならない。




167: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 16:01:09.78 ID:pHvvUdUy0

ブースター「やるぞ…!もう、失うものはない!!」

ブースターは走り出した。
朝日と反対の方向、そこには町がある。

どこの町であろうと関係ない。
絶対に、コガネを探し出す。

ブースター「うおおおお!!」

ブースターは走り続けた。
木の枝で体を切っても、崖から滑り落ちても、
彼は走り続けた。




168: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 16:09:57.64 ID:pHvvUdUy0

一ヶ月後…


女「それじゃあ、またあさって、お願いしますね。」

マサキ「おう。」

マサキは、ヒウンシティで開かれる学会に出席することになっていた。
明日の飛行機でイッシュへ向かう。
そこで、『ボックス』の試験運用についての報告をするのだ。

彼の研究には、世界中の注目が集まっていた。

この『ボックス』の発明は、彼の名を歴史に刻むだろう。

すでに、全世界のポケモントレーナーに『ボックス』を
解放する準備は整っている。




169: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 16:22:42.97 ID:pHvvUdUy0

マサキはすでに、いくつもの栄えある賞を受けていた。

『ボックス』開発への投資として、数十の企業から
天文学的な金額の融資も受けていた。

しかし、マサキは迷っていた。

『ボックス』のシステムには、ポケモンを不幸にする影の部分が
あることを、彼は知っていた。
ポケモンを愛する彼には、あまりにも辛い影…。

しかし、『ボックス』の使用を中止させることは、彼の研究者と
しての人生のみならず、家族の人生を終わらせるほどの借金を
抱えることを意味する。




170: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 16:29:03.45 ID:pHvvUdUy0

マサキ「今さら…どうしようもないんや…。」

マサキはコガネ空港へと向かった。
その近くにあるポケモンセンターの横に、数人の警察官が
集まっていた。

その中の、1人がマサキに気づいた。

警察官「あ!マサキさん!ちょっと来てください!」

マサキ「なんや、何かあったんか?」

彼が覗き込むと、一匹のポケモンが倒れていた。




171: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 16:33:32.83 ID:pHvvUdUy0

マサキ「これは…ブースターか?」

ブースターはやせこけて、ボロ切れのようになっていた。
体中に傷があり、中でも右の後ろ足には、骨まで見える
深い切り傷があった。

警察官「はい。ポケモンが倒れていると、通報があったのです。」

警察官「残念ながら、死んでいますが。」





172: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 16:41:03.76 ID:pHvvUdUy0

マサキ「モンスターボールは?」

警察官「それが、はじかれるのです。誰かの所有ポケモン
でしょうね。」

マサキ「しかし…随分ボロボロやな…2時間でこうなったとは
思えへん。」

警察官「ボールから出たポケモンは、2時間で自動的に戻る
…でしたっけ?」

マサキ「ああ。でもこのブースター、なんでこんな…」

マサキはハッとした。

マサキ「ま…まさかっ!」

警察官「どうしました?」

マサキ「このブースター、わいに引き取らせてくれへんか!?」

警察官「…?構いませんよ。…でも死体ですよ?」




173: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 16:43:36.76 ID:pHvvUdUy0

マサキ「かまへん!」

彼はブースターを抱え上げると、自宅にダッシュで戻った。
そしてブースターを椅子に置き、電話をかけた。

マサキ「ウツギはん?今すぐ、ウチに来てーな!あのボールを
持って!はよ!」




174: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 16:51:54.47 ID:pHvvUdUy0

ブースター「…うう……?」

目を覚ますと、フカフカのベッドの上にいた。

「お!起きたね?」

視界がぼやけていてはっきりしないが、
ニンゲンが自分の顔を覗き込んでいるようだ。

ブースター「ここは…」

「ここはヒウンシティだ。」

男がすぐに答えた。

ブースター「え?言葉が…」

「そう、君の言葉は、僕に通じるんだ。今はね。」

ブースター「え?え?」




175: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 16:56:23.48 ID:pHvvUdUy0

ブースターは起き上がった。
男はにこやかに笑っている。

ブースター「なぜ…言葉が?」

「このボールのおかげさ。」

男は、黒い妙な球体を見せた。

「僕は研究者のウツギ。このボールは、僕が開発したばかりなんだ。」

ウツギは自慢げに言った。

ウツギ「ボールに入ったポケモンはズバリ、
人間と話ができるようになる!」

ブースター「な、なんだって!?」




176: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 17:00:59.56 ID:pHvvUdUy0

ウツギ「このボールは、ポケモンの脳に電波を…まあ、
そんなことはどうでもいい!」

ウツギ「君は、このボールに入った最初のポケモンだ!
成功して、とても嬉しいよ!」

ブースター「僕が…最初…。」

ウツギ「これは試作品で、完成したばかりなんだ。
マサキに頼まれてねえ、使ってみたんだ。」

ブースター「マサキ?」

ウツギ「『ボックス』開発の中心人物だよ。」




177: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 17:06:19.18 ID:pHvvUdUy0

ウツギ「あれを見てごらん。」

彼はテレビを指差した。

壇上で、男が何かを話している場面が映っている。

ウツギ「あれがマサキ。彼は今から、『ボックス』の稼働中止を
宣言するんだ。」

ブースター「中止…するのか?」

ウツギ「そう。君のおかげでね。」

ブースター「どういうこと?」




178: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 17:12:50.33 ID:pHvvUdUy0

ウツギ「彼は、悩んでいたんだ。『ボックス』の逃がす
システムについてね。君は体験したんだろう?このシステム
の残酷さを。」

ブースター「うん…。」

ウツギ「君が、逃がされたポケモンだと知ってね、彼は
決心したんだ。こんなことは、2度と起こさないとね。」

ブースター「僕は…やったのか…ついに。」





179: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 17:20:12.97 ID:pHvvUdUy0

ウツギ「今の『ボックス』は逃がすシステムと綿密に
結びついている。だから彼は、新しい『ボックス』
を開発し直すつもりなんだ。」

ウツギ「新しい『ボックス』と、僕の開発したボールで、
人とポケモンとの関係は大きく変わるだろう。」

ブースターは全身の力が抜けるのを感じた。
自分が、世界を変える役割を果たしたのだ。

ブースター「でも…」

彼は首を傾げた。

ブースター「僕は、どうやってボールの中に?」

ウツギ「それが…今後改善しなきゃならない事なんだ。」

ウツギは笑い、頭をかいた。

ウツギ「このボールは、他人のポケモンでも捕まえちゃうんだ。」




180: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 17:29:44.17 ID:pHvvUdUy0

「どういうことですか!!」
「博士!」
「学会の直前ですよ!!」

マサキの目は、一斉にたかれたフラッシュでくらんだ。

マサキ「もう決めた!すでに、研究所には『ボックス』
をストップさせとる!」

詰めかけた記者が、口々に非難を浴びせる。

「世界中の期待はどうなるんだ!」
「莫大な金銭が動いているんですよ!」
「この責任は…」

マサキ「うるさい!!」

マサキは吠えるように叫んだ。




181: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 17:38:09.46 ID:pHvvUdUy0

マサキ「お前らは、ポケモンを何だと思っとるんや!!」

マサキ「『ポケモンは戦うのが好き』か!『戦いを通じて
人間との絆が芽生える』か!」

マサキ「それが人間の、勝手な決めつけだと、どうして
分からんのや!」

記者たちは静まり返っている。




182: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 17:51:21.87 ID:pHvvUdUy0

マサキ「みんなポケモンを愛しとる!!」

マサキ「なら、ポケモンを幸せにしようやないか!!」

マサキ「人間もポケモンも、お互いが幸せな世界を!!」

マサキ「わしらは『科学の力』で実現させることができる!!」

マサキ「みんな、そう思わんか!!」




183: ◆vsLe.HQcMU 2014/08/11(月) 18:05:23.19 ID:pHvvUdUy0

半年後…

ブースターは、マサキの研究所にいた。

マサキ「なあ、ガブリアスって、そんなに凶暴やったのか?」

マサキはパソコンを睨みながら言った。

ブースター「そりゃあ、もう。恐ろしいどころの話じゃ
なかったよ。」

マサキ「う~む…その凶暴性を…何とか抑えんと…。」

彼は頭を抱えた。

ブースターは、ウツギの研究に反対した。
ポケモンと人間が互いに話すことができる。それが
本当に良い事だとは思えなかったのだ。

ポケモン側の気持ちを伝えられる彼は、今や
ほとんどのポケモン研究で重要な役割を担っている。

ポケモンと人間が、幸せに生きる世界を目指して、
彼は日々、世界中を駆け巡っている。









185: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/08/11(月) 18:13:49.23 ID:j3Z95/by0





187: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/11(月) 18:20:15.21 ID:8yiwQqqg0

かがくのちからってスゲー……




189: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/11(月) 20:21:26.36 ID:t0p+HVGV0


スッゴクおもしろかった!!
でも、グレイシアには生きてブースターと幸せになって欲しかった....




192: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/11(月) 21:51:01.95 ID:DbcyODk3O

この黒いボールってミュウツーの逆襲のあれの原型か…



190: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/11(月) 20:23:03.24 ID:v4Irtbb50


ムウマぇ…




193: ブラッキー好き ◆vsLe.HQcMU 2014/08/12(火) 00:05:28.04 ID:yWGjlqjzO

ムウマ忘れてました…

ムウマさんすまぬ…すまぬ。




194: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/08/12(火) 01:20:06.90 ID:AQPqtsXp0

乙。切なくなったけどいい話だった
一度人のものになってしまったポケモンが、そう野生にやすやすと帰れるもんじゃないよな…
ムウマさんはきっと森で生きているんだ




195: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/12(火) 01:49:52.09 ID:eWOQzDhpO

ムウマ編書いてもええんやで



184: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/08/11(月) 18:11:23.29 ID:758EfSFNo

乙です
ポケモン大事にするよ




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