ダンテ「学園都市か」【MISSION 13】

2010-10-19 (火) 21:16  禁書目録SS   1コメント  
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とある魔術の禁書目録より─右方のフィアンマ

前→ダンテ「学園都市か」【MISSION 12】
最初から→ダンテ「学園都市か」



333 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/07(水) 01:03:15.99 ID:cVCcspIo
―――

学園都市第七学区。


廃墟を照らすオレンジと白の光。
それに対抗する漆黒の闇。

そして。

この場に突如現れた三つ目の光源。


――― 『白銀』の。


上条当麻。


彼は遂にここまでやって来た。

彼女を守る為に。

彼女を救う為に。

己を呼ぶ『絆』の声に応えて。

己の『魂』の叫びに従い。


そしてここからだ。
ここからが彼の本番だ。


上条『待ってろ。今そこから出してやるからな―――』


『竜王の殺息』を右手で押し留めながら、彼は穏やかな笑みを浮かべて囁き掛ける。


上条『―――インデックス』


虚ろな瞳をしている最愛の少女へと―――。




334 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/07(水) 01:06:51.43 ID:cVCcspIo
やっとこの場に到達し三人の姿を捉えた上条。

襲撃者であろう背中から巨大な腕を出現させている華奢男、
その男に向けて猛烈な攻撃を放ち続けている一方通行、

そして、そんな一方通行の後方にふわりと浮いているインデックス。


困惑した上条は一瞬足を止め、その状況を確認しようとしたが―――。


―――その作業は後回しにされた。


声が聞こえたのだ。

それは上条の中の単なる幻聴だったかもしれない。

だがはっきりと聞こえた。


あの少女の声が―――。


「とうま!!あくせられーたを―――!!!」 と。


その声を聞いた上条は即座に動いた。
どんな状況なのか というのを考えようとする前に。


彼女の声が何を伝えたかったのか、
これから何が起こりうるかがなぜか手に取るようにわかったのだ。


そして無心のまま一方通行の背後に飛び込み―――。



―――こうして右手で受け止めたのだ。



ほぼ同時にインデックスから放たれた光の柱を。



335 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/07(水) 01:12:31.44 ID:cVCcspIo
上条『(―――)』

こうして右手で受け止める中、ようやく上条は状況を冷静に分析し始める。

インデックスから放たれ押し寄せてくる光の濁流。
細かな粒子の集合体であり、そしてその一つ一つの光の粒には莫大な力が篭められている。
つまり厳密に言うとこれは『一つの大砲』ではなく、無数の『小さな大砲』の集合体だ。

まるで『散弾形式のレールガン』がガトリング砲のように凄まじい速度で連射されているようだ。

右手の幻想殺しを押し当て打ち消そうとするも、その処理が間に合わない。

またそれぞれの粒子の性質が微妙に違う為、それが更に幻想殺しの処理を遅延させていく。


処理し切れなかった粒子が飛び散り周囲を舞う。
その光輝く美しい粒子。

良く見ると『羽』の形をしていた。

正に『天使の羽』という表現がピタリと当てはまる程に美しい。

だが。

その美しさとは裏腹に。


上条『ぐッ ―――!!!』


篭められている性質は『破壊』。

右手の処理からあぶれ舞い散る羽が上条の顔や体中にぶち当たる。

まるで砲弾のように。

今のように悪魔の力を有していない、
生身の頃の体だったらとんでもないダメージを負っていただろう。


とんでもないダメージを だ。

それこそ頭に当たったら『記憶が消し飛んで』しまいそうな程の だ。




336 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/07(水) 01:14:42.82 ID:cVCcspIo
その光の散弾の中、上条は右手越しにインデックスを見据える。

己が最も守りたい存在を。


姿形は確かにインデックスだった。

だが醸し出していた雰囲気は余りにも別人過ぎた。


大きく見開かれた無感情な瞳。
顔の前に浮かび上がっている魔法陣。

人形のように生気の無い無表情。


そんな彼女の姿が上条の胸を締め付ける。


インデックスの身に一体何があったのか。


最愛の少女のその姿が、彼の心の奥底の闇を強く刺激し一気に肥大化させる。
そして彼の喉元までこみ上げてくる。

地底の底から火山の噴火口へ爆発的に駆け上がっていくマグマのように。


それと同時に声がする。

『あの時』のように身を委ねてしまえ と。

『力』に全てを任せてしまえ と。


だが。


上条『うるせぇ―――』


彼は押し留めた。
その狂気の声を一瞬にして押さえつけ黙らせる―――。




337 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/07(水) 01:19:41.83 ID:cVCcspIo
このインデックスの姿を見た上条当麻。

以前の彼なら一瞬にして暴走状態となってしまっただろう。

だが今の彼は違う。

デビルメイクライで過した数週間で、彼自身は大きく成長した。

力はもちろん何よりも逞しくなったのは『心』だ。


ある意味皮肉な事だろう。

悪魔の力を捨てる為の試練が、
また一方で彼を生粋の『悪魔の戦士』へと鍛え上げてしまったのだ。

急速に、そしてより濃く悪魔の力に馴染み融合していった彼の魂。


そしてその過程で叩き込まれ続けたダンテの力。


そのダンテの力から流れ込んでくる思念の影響も大きかったかもしれない。



―――ハートは猛烈に熱くその一方で頭は常にクールに。



――― 己の力を完璧に統制しどんな時でも自我を冷静に保つ と。



元から熱く強い魂を持っていた上条当麻。

そこにもう一つ、今度は『常に冷静な思考』というエッセンスが加わったのだ。




338 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/07(水) 01:22:38.04 ID:cVCcspIo
例え感情が爆発しようとも自我は絶対に揺るがない。
今の彼は最早、己の昂ぶりに全てを任せて闇雲に突き進む『わがままな子供』ではない。
己の『信念』を貫き通す『力』と『覚悟』、
そしてどんな時でも自分を見失うことが無い強靭な『心』と『頭』を持った一人の『戦士』。

決して己の力に溺れることの無い、それでいて確たる自信と誇りを持った一人の『武人』。


それが今の上条当麻だ。

(この上条の精神の成長がダンテ達の一つ目の目的でもあった。『暴走』の危険性を取り除く為のだ)

暴走状態となれば、爆発的な力を使うことが出来る。
『幻想殺し』の作用を周囲一帯に行使できるあの『竜の頭』のようなモノも出せるかもしれない。

もう一人の『自分』に任せてしまえば楽になる と。

そんな甘い蜜のような誘惑が上条を唆す。


だが。

上条は知っている。

脅威では無くなった人間を、命乞いをする人間を一切の躊躇いなく殺す手で。

殺戮が快楽となってしまう手で。
血を喜び味わう『化物』の手で。


上条『お前を守るのは―――』


そんな手で。

あんな『奴』の手で。



上条『――― 「奴」じゃねえ』


誰かを守れるわけが無い と。



上条『―――俺だ』



――― インデックスを救えるわけが無い と。




339 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/07(水) 01:24:38.99 ID:cVCcspIo
フィアンマ「―――」

その上条の背中を一方通行越しに見たフィアンマの表情が変わった。
一方通行の死を確信していた笑みが消える。

だが決して危機を感じたわけでは無い。
一方通行の死の確信そのものが消えたわけでもない。

そんな『小さな事』など横に追いやってしまう程の、
より大きな感情が彼の中からこみ上げて来たからだ。


それは歓喜。


上条の『姿』に対しての。


そして彼の顔には別の笑みが浮かぶ。


―――不気味な笑みが。


フィアンマの背中から伸びている巨大な腕が、
彼の昂ぶる感情に呼応し大きく揺れる。


そして不敵に笑いながら、フィアンマは瞬時に後方へ下がり距離を開けつつ、
先程から上空に精製していたオレンジの光の柱を一気に振り降ろす。


一方通行へ向けて。


彼とメインディッシュとの間に居座る、邪魔な『ゴミ』を一気に払い除けるかのように―――。




340 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/07(水) 01:26:22.84 ID:cVCcspIo
一方『―――』

一方通行の瞳に映る、急速に迫ってくるオレンジの光の塊。

確かに上条が彼の背中を脅威から守った。
だが結局間に合わなかったのだ。

フィアンマを押し切れなかったのだ。

この男の光の防御膜を叩き割ることができなかった。

そして今の満身創痍の彼には最早、
フィアンマの攻撃を耐え切る余力など残っていない。


だが彼の顔には絶望の色など欠片も無かった。


むしろ ―――。


―――嬉しそうに笑っていた。


そしてフィアンマの攻撃が迫ってきているにも関らず、一切の防御行動も起こさずに―――



一方『―――上条ォォォォォ!!!!!!!!!!!』



―――背後のヒーローの名を、倒れるように振り返りながら叫ぶ。




341 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/07(水) 01:29:58.01 ID:cVCcspIo
竜王の殺息を右手で受け止めながら振り返る上条。

二人の視線が交差する。

それはほんの一瞬。

銃弾が止まって見える程の二人にとっても極僅かな時間。


だがたったそれだけの時間にも関らず―――。


―――二人はお互いの考えを把握する。


その直後に、事前に口裏合わせでもしていたかのように二人は一気に動きだす。


上条はそのままフィアンマの方へ振り返る。

一方通行はインデックスの方へ向けて体を進める。


そして上条は光の篭手を纏っている左手をフィアンマの方へ突き出し。

一方通行は両手の漆黒の義手と背中の全ての杭をインデックスの方に突き出す。

二人はすれ違うように立ち位置を入れ替えたのだ。


一方通行の『漆黒の義手』がインデックスから放たれてくる竜王の殺息を押し留め。



上条は用済みとなった右手を引きながら ―――。


左手でフィアンマが振り降ろした光の塊を受け止める―――。




342 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/07(水) 01:31:32.63 ID:cVCcspIo
上条『ぐ―――!!!!!!』

オレンジの柱の『刃』が、上条が掲げた左手の前腕に激突し食い込む。

その凄まじい力が、彼の光の篭手を大きく歪め表面を凄まじい勢いで剥ぎ取っていく。
この程度じゃ防ぎきれないのは一目瞭然だ。

このままでは彼の左手が捻り潰されてしまう。

だが彼にはもう1本の腕がある。


このような『実体』を持たない力に対する究極の切り札が。


―――右手の『幻想殺し』が。


彼は左手で受け止めたオレンジの柱に右手をかざす。


そして『幻想殺し』はその『力』を纏め上げている『方程式』を読み取り―――。


――― 『相殺』と『書き換え』を同時に行い―――。



―――『消滅』させる。



彼が右手で触れた数秒後。


オレンジの光の柱に巨大な亀裂が走る。




343 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/07(水) 01:33:29.68 ID:cVCcspIo
亀裂が広がり砕け散るオレンジの柱。

周囲に飛び散る光の破片。

フィアンマが放った圧倒的な攻撃は、
その攻撃を生み出した彼の『聖なる右』の対である『幻想殺し』によって『破壊』された。


だがこの二人の少年の動きはそれだけでは止まらなかった。


上条『―――アクセラレータァァァアア!!!!!』


今度は上条が、地面を軽く蹴り宙に浮きながら背後の少年の名を叫ぶ。

『竜王の殺息』の凄まじい光の嵐を両手で遮っていた一方通行を。


その叫びを聞き一方通行は『竜王の殺息』を突き飛ばすかのように両腕を一気に伸ばし、
同時に後方へ、つまり上条の方へと全力で跳ねる。



その一方通行の背中、
ちょうど黒い杭が生えている付け根の辺りに、軽くジャンプしていた上条は足を当て―――。



―――踏み台にして前方へ一気に跳躍する。




344 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/07(水) 01:35:40.88 ID:cVCcspIo
猛烈な勢いで噴射されている『竜王の殺息』、
その上にベクトル操作と黒い噴射物の力が上乗せされ、
凄まじい勢いで上条の方へと射出された一方通行。

その彼の背中を足場として、更に上乗せされた上条の悪魔的な脚力。


そんな莫大な運動エネルギーを携えて、上条当麻は後方へ下がりつつあったフィアンマを追うように爆進する。


砕け落ちたオレンジの光の破片が舞う中を切り裂いていき。


フィアンマ「―――」


一瞬にして到達し。


上条の飛び膝蹴りがフィアンマの顔面に。


フィアンマの身を包み守っている光の膜に ―――。


そこに走る亀裂の上に―――。



上条『―――オォ゛ォ゛ォ゛ラァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!!!!!』



―――叩き込まれた。


解き放たれた憤怒の雄叫びと共に響く、金属同士が激しく衝突したかのような轟音。


そして続く―――。


―――ガラスが割れて飛び散るような破砕音。




345 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/07(水) 01:41:29.03 ID:cVCcspIo
オレンジの光の欠片を撒き散らせながら大きく仰け反るフィアンマ。

今だフィアンマの体を守っている光の衣は健在だったが、
確実にダメージは蓄積されていた。

特に一方通行のラッシュを浴び続けた部分はかなり薄くなっていた。

そこに上条と一方通行の力が組み合わされた『凶悪』な一撃が叩き込まれたのだ。


膜は大きく抉られ破片を撒き散らす。

残るは『半紙』のように薄く頼りない光の膜。


上条『シッ―――』


跳び膝蹴りを放った直後、
宙に浮いたままの上条は即座に左手を伸ばしフィアンマの光の衣を『掴む』。

そして思いっきり引き寄せ。


フィアンマの顔面へ―――。


最も光の衣が薄い箇所へと―――。


『右拳』を放つ。



その最後の壁をぶち抜き、その奥に控えている高飛車な顔を殴り飛ばすべく―――。


インデックスに手を出そうとしたクソッタレをぶっ飛ばすべく―――。




346 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/07(水) 01:43:28.06 ID:cVCcspIo
だがその瞬間。

上条が拳を放つと同時に。

フィアンマの背中から伸びている巨大な腕が一気に前方へ、
上条の方へ瞬時に伸びそのまま二人の間に割り込む。

凄まじい量の力を放散しながら。

先程のオレンジの光の柱とは比べ物になら無いほどの力を。


上条『―――』


それに気付いた時はもう遅かった。
放たれた右拳は止まらない。

まあ、元々止める気などさらさら無いのだが。


上条はその一瞬で瞬時に判断する。

あのトカゲのような腕は少し透けており、
ホログラム映像のように揺らいでいる所を見ると恐らく『実体』は無い。


つまり―――。


―――右手が効く と。


上条『―――ッッッッんっらァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!』


そしてそのまま渾身の力をこめて叩き込む。


それならあの腕ごとぶっ壊しぶっ飛ばせばいい と。




347 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/07(水) 01:44:58.84 ID:cVCcspIo
そして激突する。

上条の右拳と巨大なトカゲのような腕が。

『聖なる右』の本体に『幻想殺し』が。


本来は『一つ』であったはずの『二本』の手が。


壮絶な轟音を響かせながらトカゲのような腕がガラスのように砕け散る―――。


上条『(―――……へ?)』


――― と思いきや。


普通にゴンっとぶつかっただけだった。

ただそれだけだった。

それだけ。


その後は何も変化が起こらない。

ガラスのように破砕させるどころか、小さな亀裂すら入る気配が無い。


上条『…………は?』


目を丸くする上条。


そしてそんな彼の顔を見ながら心底嬉しそうな笑みを浮かべる ―――。



―――フィアンマ。




348 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/07(水) 01:46:25.73 ID:cVCcspIo
触れた瞬間に感じるこの独特の感覚。
それは打ち消す際にいつも感じる妙な感覚だ。

今この瞬間もそれを感じた。
つまり『幻想殺し』は機能した。

だが。

上条『(―――効いてねぇ……?)』

このトカゲのような腕が砕け散る気配が無い。
『幻想殺し』が確実に機能したはずなのに、全く効果が表れない。

いや、一つだけ変化があった。

あの巨大な腕から放散されていた力はいつのまにか消え失せており、
オレンジの光も無くなっていた。

幻想殺しは、一応外側に溢れ出ていた力は消したのだろう。
外側のだけは だ。

まあその現象も、幻想殺しがしっかりと機能したにも関らず『腕自体』には何も影響を与えていないという、
有難くない事実を裏付けているに過ぎなかったが。

光輝いてはいないが、巨大な腕は今だ健在でありその中に渦巻く莫大な力も感じ取れるのだ。


フィアンマ「はっ ―――」


フィアンマ「―――ははははははははは!!!!!!!!素晴らしいじゃないか!!!!!最高だ!!!!!」


そんな混乱している上条と対照的に、
突如笑い声を上げ何かに対して絶賛の言葉を発し始めたフィアンマ。


フィアンマ「まさか今ここで『見れる』とは!!!!!!今日は正に―――」

次の瞬間その巨大な腕が大きく振るわれ―――。



フィアンマ「―――ラッキーデイだ!!!!!!!!」


―――上条の体を弾き突き飛す。




349 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/07(水) 01:47:46.87 ID:cVCcspIo
上条『―――くっそッ!!!!!』

宙を舞う上条は即座に体制を建て直し、瓦礫が覆う地面に着地しようとした瞬間―――。


フィアンマ「さあ、もっと見せてくれ―――」



上条『―――』



「―――とうま!!!後ろ!!!!!」


―――上条の脳内に再び彼女の声が響く。


それに反射的に従い、右手をかざしながら咄嗟に振り返る上条。


そしてその右手の平に―――。


後方の地上から放たれてきた白い光の柱がぶち当たる。

インデックスが放った竜王の殺息だ。



上条『―――おぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!』




350 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/07(水) 01:49:59.25 ID:cVCcspIo
再び光の濁流に襲われる上条当麻。

不安定な体制、そして空中にいることもあって、
彼の体がその光に押され斜め上空へと一気にぶち上げられていく。


だが。


その光の噴射が突如ピタリと止まる―――。


いや、正確には途中で遮られた。


インデックスの前に飛び込んだ一方通行によって。


一方『―――ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!』

インデックスの正面僅か2mの場所に立ち、両手の義手で竜王の殺息をせき止める一方通行。

彼はそのままの体制で背中の杭を一気に伸ばす。

光の噴射を受けて上空遥か高くへぶち上がりつつあった上条へ向けて。


フィアンマ「お前まだいたのか―――」


そんな一方通行を見てフィアンマはあからさまに不機嫌そうな表情を浮かべ。


フィアンマ「―――邪魔だな。そろそろ消えてくれないか?」


手に持っている遠隔制御霊装で新たな命令をインデックスに。


―――先程のように、もう一度『竜王の殺息』を全面放射して一方通行を吹き飛ばせと。


―――とその時。


フィアンマ「…………ん?」




351 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/07(水) 01:51:11.91 ID:cVCcspIo
彼は気付いた。

一方通行がこちらを見ながらニヤついていた事に。
竜王の殺息を懸命にせき止めながら。


その視線は良く見るとフィアンマではなく、
彼の少し後方へと向けられていた。


フィアンマ「―――」


そしてフィアンマも察知する。


後方に突如現れた気配を。

新たな第三者の気配を。


フィアンマの真後ろ5mの場所。

その地面に浮かび上がる金色の魔法陣。


そこから噴き上げるように大量に伸びる『金色の繊維』。

そしてその繊維の中に蠢く―――。



――― 『炎獄』の業火。




352 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/07(水) 01:52:32.66 ID:cVCcspIo
フィアンマ「―――」

振り返るフィアンマの目に映る、地面から吹き上がる灼熱の炎。


明らかに異質な―――。


――― 悪魔の炎。


そしてその『地獄』の中から飛び出してきた―――。


―――黒い修道服とコートを纏った赤毛の『悪魔』。


凄まじい形相のステイル=マグヌス。


壮烈な怒りを放出している悪魔『イノケンティウス』。


憤怒の業火を放出しているステイルの両手には、同じく炎で形作られた刃。



ステイル『―――オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!』



それを振り向きざまのフィアンマへ向けて一気に叩き込む。


フィアンマ「全く……次から次へと―――」


だがそのステイルの炎の刃はフィアンマの肉体には到達しなかった。

巨大な腕が先の上条の時のように、再び間に割り込んできたからだ。


その鱗に覆われた腕にステイルの炎剣がぶち当たり弾かれた。




353 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/07(水) 01:53:57.18 ID:cVCcspIo
一方『(―――あ?)』

その時。

ステイルとフィアンマの激突の瞬間を見た一方通行はある事に気付いた。


一方『(あの野郎……今―――)』



上条『(―――やっぱり な)』


上空にいた上条もそれと同時に、
いや一方通行よりもワンテンポ早くその点に気付いていた。


今のフィアンマからはオレンジの光が放出されていない。
彼の体から周囲に溢れていた力は、上条の幻想殺しが叩き込まれた瞬間に消えた。

そして今のステイルの攻撃は『腕』だけで防いだ。


つまり。


どうしてそうなったかは詳しくは分からないが、今現在のフィアンマには―――。


―――あの光の防護膜が無い。


―――フィアンマの身を守るモノはあの巨大な腕一つだけしかない可能性が高い。



上条は即座に左手を腰に回し、
ダンテから貰った拳銃を抜き出すと瞬時に銃口をフィアンマに向けた。


そして猛烈な速度で立て続けにトリガーを引く。


彼の力が篭められた白銀に輝く銃弾がフィアンマに向けて降り注ぐ―――。




354 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/07(水) 01:55:15.33 ID:cVCcspIo
フィアンマ「―――」

上条から撃ち出された凶悪な『雨』に気付くフィアンマ。

再び振るわれたステイルの炎剣を背中の腕で大きく弾き、
今度はその腕で銃弾の雨を防いだ。

上条の方へは振り返らずステイルの方を向いたまま。

巨大な腕はまるで自動防御システムでもあるかのようにうねり、
降り注いでくる銃弾を次々と弾いてく。


そして一通り弾き終えようやくフィアンマは振り返り―――。


フィアンマ「―――気付いたか。だが俺様はその程度では―――」


―――上空にいる上条を見上げようとした瞬間だった。



上条『―――この「程度」でもか?』



フィアンマの瞳に映る、目の前で足を大きく引いている上条当麻。

上空にいたはずの上条当麻がなぜかすぐ背後にいた。


蹴りを放つ体制で。




355 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/07(水) 01:56:26.18 ID:cVCcspIo
上条の腰には一方通行の黒い杭が巻きついていた。

フィアンマは瞬時に思い出す。

先程一方通行は竜王の殺息を受け止めながら、一部の杭を上条へ向けて伸ばしていたことに。
あれは上条を瞬時に引き戻す為のモノだったのだ。


まあ、今更気付いたところで遅いのだが。


フィアンマ「―――」


正面からは上条の光り輝く足による凄まじい蹴り。

後方からは体制を立て直したステイルが再び振るう炎剣。


そしてフィアンマの『現在』の『防御策』はこの背中から伸びる『腕』1本。



フィアンマ「―――なるほど。さすがにk―――」



上条『―――オラァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!!』



ステイル『―――ハァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!』



―――次の瞬間白銀の光と爆炎が溢れる。



――― 凄まじい地響きと共に。


―――







362 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/08(木) 23:44:18.44 ID:VbI6srso
―――


無人と言う点を省けば特におかしな所も無かった街並みが、
突如吹き荒れた超低温の凄まじい暴風によって一瞬で姿を変えた。

とある少年が行使した大規模魔術によって。


吹き抜けていく風。
宙を舞う無数の氷の結晶。

瞬時に凍結し、砕け散った周囲のビルや自動車。

その破砕された、凍りついた細かな粒子が周囲に降り積もり白銀の砂漠を形成する。

辺りは不気味な静寂に包まれている。

『砂漠』の粒子が擦れ流れる小さなのみが静かに響いていた。


そんな景色の中。


海原「……ぐっ……はぁっ……」


こめかみに血管を浮き立たせ、苦しそうに息を吐く少年。
周囲をこんな姿に変えてしまった張本人。




363 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/08(木) 23:46:26.70 ID:VbI6srso
海原「ッ……」

原典の力を大々的に使ったのは初めてだ。

太陽に敗れたトラウィスカルパンテクトリが姿を変えた、霜の神『イツラコリウキ』。

更に複数ある神話の一つにおいて『イツラコリウキ』は、
アステカの神々の中で最も大きな力を持つとされている『テスカトリポカ』と同一とされている。

そこを海原は『再現』したのだ。


『イツラコリウキ』の『冷』、
そして『テスカトリポカ』の忌み名の一つである『ヨワリ・エエカトル(夜の風)』を組み合わせた複合広域魔術だ。

その『神の冷気』は物質的には当然、魔術・霊的な力も篭められており生命の力そのものを、
魂からも『生の熱』を奪い取っていく。

最早一介の魔術師が使えるような魔術ではない。

アステカ魔術師の首長や部族長が使うようなレベルのモノだ。


だがそれ程の魔術でさえ―――。


これ程の破壊的な力でさえ―――。


海原「……だろうね……わかってるさ……」



―――あの『怪物』にとっては少し涼しいそよ風程度。


それだけのモノだった。

海原の視線の先、一帯に広がる白銀の氷原。

その中に悠然と。

先と全く変わらない姿勢で何事も無かったかのように立っている―――。



―――バージル。




364 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/08(木) 23:48:37.87 ID:VbI6srso
バージルは周囲の氷原をゆっくりと見回した後、再び海原にその鋭い視線を向けた。

海原「…………っつ……」

原典による強化があるにも関らず、その目を見た瞬間意識が途切れそうになる。
だが、それでいて目を離せない。

離す事が出来ない。

何と言うか、目を離してしまったらその瞬間に全てが終わってしまう気がするのだ。

まあ、目を離す離さない以前に。


海原「―――」


終わりは既に『目の前』にあったのだが。


ふと気付くと。


海原を取り囲むように、浅葱色の『剣』が大量に浮いていた。

切っ先を海原に真っ直ぐに向けて。

全方位一切の穴場無く。


いつ出現したのか全くわからなかった。

まあ、先に気付いていたところでどうにもならないのだが。

原典と繋がっているからわかる。
数本ならまだしも、こう数が多くちゃもうお手上げだと。


海原「―――ああ」


海原は瞬時に確信する。


今、己は『終わる』 と。

次の瞬間、己の肉体は串刺しとなりこの浅葱色の『剣』の中に埋もれてしまうだろう と。


そう思った瞬間だった。




365 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/08(木) 23:50:12.61 ID:VbI6srso
海原「…………?」

よくよくバージルを見ると。
その視線は海原の方には向いていなかった。

海原から右へ10数メートル、氷の山となっているビルの辺りを見ているようだ。

恐る恐るバージルの視線を追う海原。


そして。


海原「―――!!!!!!!!!!!!!」


海原は見てしまった。


海原「―――な、な、な、なぜ!!!!!!!!!!!」


この『地獄』に踏み入ってしまった第三者の姿を。



海原「―――なぜこんな所に!!!!!!!!!!!!」



彼とバージルを見て硬直している少女の姿を。


彼の『想い人』の姿を。


黒塗りの巨大な、妙な金属の筒を手に持っている―――。



海原「―――御坂さん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



―――御坂美琴を。


―――




366 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/08(木) 23:52:29.29 ID:VbI6srso
―――

フォルトゥナ。
歌劇場近くの広場。


「(助けにだと?)」

突如予想外の行動と言葉を発した少女に対し、その場の指揮を執っていた年長の騎士は眉をしかめた。
少女は少し顔を俯き、緊張でもしているのかチラチラとこちらを見ては視線を逸らしてを繰り返している。

確かにあの仕草や雰囲気を見ると敵には見えない。
だが、高位な悪魔ほど巧妙な罠や策略を使う事もあるのだ。

―――と、そんな風に年長の騎士は考えていたが。

そんな彼の懸念など尻目に、周りの若い騎士達が突如馬鹿みたいな歓声を上げ始めた。
窮地に現れた『英雄』を歓迎し、そして生き永らえた喜びの声を。


そしてそんな彼らの喜びを更に後押しすることが。


「―――おい!!!!」


一人の若い騎士が、遠くの西の空を指差しながら叫ぶ。

フォルトゥナ港がある方角だ。

皆が一斉にそちらの方を振り向くと―――。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああ!!!!!!!!!!」


彼らから一段と大きな歓声が沸きあがった。
ある者は剣を高く掲げ、ある者は天を仰ぎ雄叫びを上げる。

彼らが見たもの。

それは天を貫く青い閃光。


その光は帰還の印。


守護神がフォルトゥナに帰って来たと言う希望の光。


ネロが帰って来たのだ。




367 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/08(木) 23:54:10.29 ID:VbI6srso
ルシア「…………!!!……ネロさんが来るまで……わ、私が守りますので………」


ルシア「こ、この御方を早く安全な場所へ……」


突如巻き上がった歓声にたじろぎながらも、
少女は青い閃光を一瞥し、気を失っているキリエを指してこの場から移動するよう騎士達を促した。


その言葉を聞き、若い騎士達が一斉にキリエの元へ向かって駆け出す。

「お、おい!!!待っ……!(ネロ殿を知っているのか……!?)」

今だ警戒心を解いていない年長の騎士は、
駆け出した彼らの背へ向けて制止の命を飛ばしかけたが。


その時だった。


ルシア「―――早くして」


突如少女の表情が豹変する。

さっきまでの俯き加減だった子供らしい色は影を潜め。

凍るような無表情。


彼女は『ソレ』を察知したのだ。


―――広場の向こうに立っている―――。


――― 赤いマントと純白のスーツを身に纏った―――。


―――古代ギリシャ風のフルフェイス兜を被った男。


そして同時に動き出し起き上がる―――。


―――先程切り倒したはずのセクレタリー達。




368 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/08(木) 23:55:17.15 ID:VbI6srso
眉間にナイフが突き刺さりながらも、何事も無かったかのように起き上がるセクレタリー。

続けて少女の近くに横たわっている二体も動き出す。

頭が無いにも関らずムクリと上半身を起こす一体 ―――。


切り落とされた足の再生を始めるもう一体―――。


突如再び動き出した『絶望』。
それを目の当たりにし、騎士達が一瞬凍るが―――。


ルシア「―――早く!!!!」


―――響き渡る少女の透き通った声がその空気を切り裂く。

その声に突き動かされるように、一人の騎士は即座にキリエを抱き上げ周囲を他の者達が固める。


「―――ッ……!!行くぞ!!」


状況を見て、年長の騎士は即座に決断し、キリエを囲む騎士達の方へ駆け出す。
警戒している場合では無い。

この少女が敵か味方かなのか以前に、今再び起き上がりつつある悪魔達は確実に『敵』なのだ。

そして更に異質な空気を放つ者がもう一人現れたのだ。

選択は一つ。

この少女を信じるしかないのだ。




369 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/08(木) 23:56:51.52 ID:VbI6srso
ルシアは両手の剣を軽く振るい、そのまま腕を大きく広げ、
起き上がる周囲の三体の『姉妹』の動きに感覚を研ぎ澄ませ、

そして正面からゆっくりと歩を進めてくるその男を見据えた。


顔は隠れているが、あの男が何者かは一目瞭然。


ルシア「……」



『父』だ。


己を創り生み出した『父親』だ。


その姿が曲刀の柄を握るルシアの手の力を更に強める。



アリウス「久しぶりだな。『χ』」



そして響く、高慢な声。



ルシア「…………」



アリウス「まさか生きていたとはな」


アリウス「だがまあ、お前には用は無い」



370 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/08(木) 23:59:19.12 ID:VbI6srso
そして同時に。

ルシアに一斉に跳びかかる復活したセクレタリー達―――。


ルシア「―――」


セクレタリー。

ルシアにとっては血を分けた姉妹といっても過言ではない。

いや、姉妹以上と言っても良い。
体を形作っている基本的な設計は同一。

人間で例えると DNAがほぼ一致しているようなものだ。

だがそんな『繋がり』を認識しているのは自分だけ。
この姉妹達にはそんな『自己認識』など無い。

あの頃の自分のように、ただ指令のまま動く。

そう、『あの頃』の自分のように。

己がどんなに彼女達の境遇を哀れんでも。
己がどんなに彼女達との繋がりに胸を痛めようとも。


彼女達は何一つ感じない。


己は何者なのかという認識が無い。
己が置かれている状況についても何一つ疑問は抱かない。

疑問という概念すら存在しない。

魂も体もその全てが模造品。


そんな忌むべき存在の『人形』達。

そして、自分もかつてはその一体に過ぎなかった。


あの日までは―――。




371 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/09(金) 00:06:49.56 ID:F/gPbXco
ルシアは幸運だった。

彼女がこうして自我を持てたのは、
あのウィンザーにおける一連の様々な要因が組み合わさっての結果だ。


覇王の力の一部を引き出す中継点として機能したルシア。

その莫大な力が流れ込んで来る中、彼女は確実に負荷で蝕まれていった。

そしてそこで彼女は命を落としていたはずだった。

覇王の力の一部を引き出すというアリウスの実験の為に生まれ、その実験が終わると同時に彼女は死ぬ。
その亡骸はアリウスによって回収され、サンプルとして解体される。

それが彼女の決められた一生だった。



しかし運命は彼女に手を差し伸べた。


ウィンザー城に潜り込む為に一時機能停止した、彼女の魂に組み込まれていた制御術式。
そしてその際の上条、インデックス、五和との接触。


その時に彼女の真っ白なキャンパスのような魂に初めて一点の色が付いた。



生まれて初めての食事。

生まれて初めての口での会話。

そして生まれて初めて味わった―――。


――― 優しさと思いやり。




372 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/09(金) 00:11:06.57 ID:F/gPbXco
そんな小さな、極僅かな温もり。

だがそれが彼女の内面を急速に変化させていった。


その後のバージルによるアリウスと彼女を繋ぐ『回線』の切断。

ネロによる溢れ出した覇王の力の排除。

それが彼女の魂と体の崩壊を未然に防ぐ結果となった。



彼女は解き放たれたのだ。


彼女は生きていくことを『許され』、生きていくことを『命令』されたのだ。


感情を『知り』、そして『持つ』ものとして。


更に運命は彼女に新たなモノを授けてくれた。



『友人』と『家族』―――。



―――そして『母親』を。




373 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/09(金) 00:15:28.84 ID:F/gPbXco
『母親』と過した期間はたった数週間。

しかもその間のほとんどは『護り手』そしての様々な教育と修練に費やされた。

だがそれだけでもルシアにとっては素晴らしき日々だった。

『生きている』という事を実感できた。


修練によって荒ぐ息。

その吸い込む大気の美味しさ。


窓辺から、母親と一緒に眺めた海に沈む夕日。

その燃えるような美しさ。


母が淹れてくれた茶の温かさ。


あの日々の何もかもが彼女にとって新鮮であった。

そして彼女は知った。


自分はこんなにも素晴らしい世界にいたという事を。




374 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/09(金) 00:17:23.95 ID:F/gPbXco
ある晩ルシアは寝床で布団に潜りながら、
傍らの小さな椅子に座る母にとある『昔話』を聞かせてもらった。


昔々、一人の悪魔が人間界を護る為に立ち上がった と。
母の先祖達も彼の横に立ち共に戦った と。


そして彼はそのまま人間界を見守り続け、
そしてその息子と孫が今も人間界を護っている と。

お前を生かし、ここに導いたのも彼の息子と孫だ と。

そしてそれは太古から定められていた運命だ と。


お前の存在には高潔な意味がある と。

こうして日々剣を磨き、修練を積むのはその為だ と。

近い内にやってくる『その時』の為だ と。


ルシアは聞く。


お母さん、その時って何が起こるの? 

私は何をすればいいの? と。


母マティエは答える。


それは誰かに聞くことでは無いよ。

お前が見て、知り、そして自分自身の心で判断して進むこと。

焦らずともいい。今は眠りなさい。


娘よ と。




375 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/09(金) 00:18:24.82 ID:F/gPbXco
マティエは何かをルシアに強要する事は決してなかった。

運命の子ではあったが、ルシアを強引にその道に歩ませようとはしなかった。

運命の子なら、
いつかその時に自分自身の意志で進み始めると確信していたからだ。


そしてある日。


遂に『その時』が来た。


ルシアは己自身の足で、己の道を歩み始めた。


彼女はとある朝、ポツリとマティエに告げたのだ。


私、フォルトゥナに行く と。

良くわからないけど……行かなきゃならないの と。


ルシア自身はその原因が何かわかっていなかった。
だがこれが母が言っていたことだと何となく感じていた。

そんなルシアにマティエは小さく頷くと一言。


行きなさい と。




376 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/09(金) 00:19:48.15 ID:F/gPbXco
そして今。

ルシアは己自身の意志でこの『表舞台』に立っている。

まだ『なぜ』己がここに導かれたのかはわからない。


だが『何で』戦うかの理由は自分自身で見つけた。

自分の心に気付いたのだ。


彼女は己が愛するモノの為に刃を振るう。


あの昔話の英雄が守ろうとした世界。


この素晴らしい世界。

母が愛するこの世界。

そこに住まう人間達。


この数週間の間に彼女はそれらに『恋』してしまっていた。


初めての恋を―――。


初恋を―――。



ルシア「(お母さん―――)」



ルシア「(―――私、戦う)」



迫り来るセクレタリー。

ルシアは即座に神速の刃を振るう。


躊躇いもせずに―――。




377 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/09(金) 00:21:38.13 ID:F/gPbXco
『自分』は幸運だっただけ。

『自分』はこの選ばれた『体』に運良く宿っていた『思念』。

何かが違ったら、このセクレタリーのどれかが今の己の位置に立っていたかもしれない。


唯一自由を手に入れた自分。

そして。

自由の身である己だけが姉妹達を解き放てる。


それが彼女が見出した、己自身がやるべき使命の一つ。


『人造悪魔』という忌まわしき存在の『大罪』は―――。


哀れな『姉妹』達を繋ぎ止める負の『鎖』は―――。



―――己が全て背負う と。


―――姉妹達にその罪を背負わせない と。


金色の筋が宙に無数に走り、セクレタリー達の体が一瞬で寸断される。

今度はバラバラに。
再生する余地すら残さずに。

二度と立ち上がれないように。

二度と『鎖』に操られて戦わせられないように。

この凄惨な戦いの渦から解放を と。


『救い』から、『運命』から見放された姉妹達には―――。


自分とは違い選ばれなかった姉妹達には―――。



―――せめて安らかな眠りを と。




378 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/09(金) 00:23:15.23 ID:F/gPbXco
そして即座にルシアは再びアリウスを見据え、先と同じ姿勢に戻る。

そんなルシアを眺めながら。

アリウス「……ほお……さすがだな」

アリウスは小さく呟き再確認する。
ルシアの完成度を。

セクレタリー複数体を魔人化せずに一瞬で葬るれるのも当然。
何せアリウスの生涯を賭けた研究の集大成なのだから。


アリウス「……さて、気分はどうだ?『姉妹』達を殺す気分は?」

アリウスは手を広げ、尊大な口調でルシアに言葉を飛ばす。
そのマスクの下にあるあからさまに見下している表情が滲み出ている声を。


ルシア「…………」

ルシアが返すのは沈黙。


アリウス「『親』に何か言う事は無いのか?久々の再会だろう?」


ルシア「…………」


アリウス「自由と引き換えに舌を無くしたか?『χ』」


ルシア「…………違う」



ルシア「あなたは私の親なんかじゃない」



ルシア「私は護り手『マティエ』の娘―――」



ルシア「―――『ルシア』」




379 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/09(金) 00:27:55.87 ID:F/gPbXco
アリウスは豪快に笑う。

そのルシアの言葉に対して腹の底から。


アリウス「滑稽だな!!己が何者かもう忘れたのか!?―――」



アリウス「―――どうするつもりだ?!俺に復讐でもするつもりか?!」


そんなアリウスとは対象的に、ルシアは冷たく静かな声で。


ルシア「違う」


ルシア「我が母の名の下―――」


ルシア「我らが友である『スパーダ』の名の下―――」



ここに宣誓する。



ルシア「―――忌まわしき『絶望の覇王』を復活せんとするあなたを―――」


己の『過去』に対して。


ルシア「―――人間界に災厄を巻かんとするあなたを―――」


そして『今』の己の心に従い。



ルシア「―――『排除』する」


戦う事を。




380 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/09(金) 00:29:55.48 ID:F/gPbXco
ルシアの体から光が溢れ出す。

そしてその光の中から姿を現す魔人化したルシア。


アリウス「くだらん。くだらぬ幻想だ―――」


そんなルシアをアリウスは小首を掲げ『見下し』ながら鼻で笑う。



アリウス「―――もしやお前は俺を殺せると思っているのか?」



ルシアは言葉を返さずに、
両手の曲刀をクルリと回しながら腰を低く落とし。



アリウス「―――この俺を。お前のその手で。『ガラクタ』が」



そして一気に地面を蹴り突進する。


アリウスの首を刎ねるべく―――。


だが。


アリウス「―――もう一度聞く―――」



アリウス「―――己が何者かを忘れたのか?」




381 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/09(金) 00:32:18.44 ID:F/gPbXco
幼い少女がやっと手に入れた信念と覚悟。


それはあっけなく叩き潰された。


彼女を縛る『過去』の『鎖』によって―――。


彼女の魂の中に今だに刻まれている『過去』。



その忌まわしき『遺物』が『生みの親』に対する『反逆』を察知し―――。



――― 彼女を内側から破壊した。



突如ルシアの体から急に力が抜け。


次いで魔人化が解け―――。



ルシア「―――けはッ」



―――口から大量の鮮血が噴き出す。




382 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/09(金) 00:39:49.19 ID:F/gPbXco
彼女はそのまま転倒し、
地面に叩きつけられ粉塵を上げながら慣性に従ってアリウスの方へと転がっていた。

アリウスはそのルシアの小さな体を踏みつけるように止め、
そして見下ろしながら。


アリウス「忘れたのか?―――」


もう一度問い―――。


アリウス「―――己が何者かを」


――― 決して逃れられない『答え』を示す。



アリウス「―――『χ』」



―――彼女の『存在』を現す『名』を。


アリウス「お前の刃が俺に届くことは決して無い」


アリウス「決してな」


突きつけられる『過去』。
決して逃れられない己の『存在』。

そしてそれを前にした―――。


ルシア「あぁぁあ!!!!!!!!ぁああああああああああああああ!!!!!!!!!」


―――己の無力さ。


咆哮が響く。


少女の悲痛な咆哮が。

―――






394 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/11(日) 00:22:28.64 ID:8naS4AUo
―――

御坂は呆然としていた。

彼女に対し事あるごとにアプローチをしてきて、
その気が全く無いという事を匂わせても一切めげない海原。

ある意味『最高に幸せな思考』の持ち主であり、
そしてあまりにも人が良すぎて憎むに憎めない『ストーカー』。


そんな男が。


御坂「へ……?え……?!」


なぜあんな異様な殺気を身に纏って―――。



―――御坂にとってある意味『トラウマ』を植えつけたあの怪物と。



―――あのバージルと相対しているのか。


そもそもなぜ。



御坂「…………な、なんで……!?」



バージルがこんなところに。


そして。


御坂「………………ど、どうなってんのよ!!!!!!!?」


なんで明らかに海原と敵対しているのか。




395 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/11(日) 00:27:24.64 ID:8naS4AUo
だがそんな大量の『なぜ』の答えを導き出しているヒマなどあるはずもなかった。


御坂「―――」


突如、彼女の手に持っている大砲がぼんやりと『赤く』光りだす。


『赤く』。


そしてそれと同時に。

海原の周囲に浮いていた半透明の浅黄色の剣、『幻影剣』の『全て』が。

クルリと方向転換し、その切っ先を御坂へと向ける。



海原「―――」


それを見た瞬間一気に理性が吹き飛んでいく海原。

なぜ御坂がこんなところに? とはもう考えていなかった。

今の海原の頭の中にある思念はただ一つ。

     ヒト
愛する女を―――。



海原「―――やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!」



―――御坂を守る。




396 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/11(日) 00:28:36.66 ID:8naS4AUo
御坂「(―――)」

その瞬間、御坂はふと気付く。

この『既視感』に。


そう。


『あの時』と同じ展開だ―――。


二ヵ月半前と―――。


打ち止めを守ろうとした一方通行。

そんな彼の腕を容赦無く切り落とし、胴を引き裂いたバージル。


御坂「(―――そん……な―――)」


『あの時』と『今』が重なる。
何もかもがあの時と同じだ。


ダンテから貰った武器を持つ御坂。

打ち止めを守ろうとした一方通行。

御坂を守ろうとしている海原。


二人の少年の姿が重なって見える。


そして―――。


―――同じ『結末』を迎えるのも―――。



御坂「(―――だめ―――)」




397 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/11(日) 00:31:38.52 ID:8naS4AUo
響く海原の咆哮と同時に、彼の体を取り巻くように再び宙に浮き、
月明かりのような淡い光を放つ原典の帯。

その光からプクリと雫が湧き出してくる。

月明かりのような光を放つ球、いや、正に『小さな月』と言っても良い。

そんな球体が複数出現し。


海原の周囲に浮かぶ『幻影剣』のそれぞれに猛烈な勢いで射出された。

『剣』と『球』は激突し、凄まじい爆風と破砕音を轟かせながらガラスのように飛び散る。


だが『幻影剣』の全てを破壊できたわけでは無い。

撃墜できたのは半数だけだった。


海原は即座に跳躍し御坂前へ、『盾』となる位置へと着地した。

残った『幻影剣』の切っ先の延長線上に。



海原「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!」



そして醸し出していた『予告』どおり。


射出される『幻影剣』―――。


御坂の前で仁王立ちし、雄叫びを上げる海原へ向けて。



御坂「――― やめてぇえええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!」




398 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/11(日) 00:32:28.32 ID:8naS4AUo
一気に叩き込まれていく『幻影剣』。

原典の加護がある海原にぶち当たり砕け散っていく。
同時に彼の『加護』も粉砕されていく。


そして二本の幻影剣が彼の肉へと深く食い込む。

一本は加護を貫通するも進路をそれて彼の脛に。

もう一本は右肩に。


海原「がぁあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」


血が吹き上がる右肩を左手で握りこむように押え、身の毛がよだつ様な叫びを上げる海原。
貫通した幻影剣から流れ込んでくる力が彼の激痛を更に何倍にも増加させる。


物理的なだけでなく、『魂』を直接削り取っていく激痛を。

普通なら一瞬で気を失っている地獄のような苦痛。

だが海原は倒れない。

膝をつくどころかよろめきもしない。

目からは理性の色が消えていたが、闘争心の光はより一層強くなっていた。

その原動力は、背後にいる想い人を守る という思念のみ。

彼は呻き声を上げながら、震える左手で己の周囲に浮いている原典の端を握り締めた。
その瞬間、左腕そしてこめかみへと一気に血管が浮き上がる。


海原「―――ぎッッッはぁああああッ―――絶対……kjaai……mahhwe守る」


そして彼は更に原典と融合していく。

命と引き換えに最大最期の攻撃を放つ為に。




399 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/11(日) 00:33:48.68 ID:8naS4AUo
御坂「―――」

そんな海原の背中。

もう完全に一致している。

あの時の一方通行の背中と。


もう確実だ。
このままいけばあの時と同じ結末となる。


御坂は思った。

どうにかしてこの『運命』を変えなければ と。

どうにかしてあの時とは別の『ルート』へと進まなければ と。


御坂「―――」


では、今己に何が出来る?


何が出来て、どうやって運命を変える?


そして御坂はたった一つだけ思いついた。

それは最も簡単で単純でありながら。
『あの時』とは決定的な違いを生み出す行為でありながら。


御坂「やめて―――おねがいだから―――」


何よりも勇気がいること。


御坂「―――戦わないで」


『闘争の放棄』。




400 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/11(日) 00:39:31.98 ID:8naS4AUo
『闘争の放棄』。

だがそれは一方では全力の『闘争』でもある。


理性は恐怖に負け、恐怖は防衛本能を肥大させ、

その防衛本能は破滅的な闘争心を生み出し、

絶望的な闘争を自ら引き寄せ死へと己から歩み進む。


『あの時』一方通行は打ち止めを失う『恐怖』に負けた。
そして『死』に掛けた。

今、海原は御坂を失う『恐怖』に負けた。
そして『死』へと自ら進み始めた。

それは最早『闘争』ではない。

『理性を失った』その行為はただの『自殺行為』だ。


だが現在の御坂は。


御坂「―――だめぇええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!」


『恐怖』には負けなかった。

死へと導こうとする『闘争心』の甘露のような囁きには決して屈しなかった。

彼女は『闘争に勝ち』、『闘争の放棄』と言う選択を手に入れたのだ。


彼女は海原の背中へと一気に両手を伸ばす。


ダンテから授かった大砲を脇へ放り投げて。


それと同時に―――。


―――閻魔刀の柄へと手を静かに乗せる正面のバージル。




401 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/11(日) 00:42:03.23 ID:8naS4AUo
海原「オ゛ォ゛ォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!!!!!!」

原典を固く握り締めた左腕を大きく引く。
大きくなびく原典の帯。
迸り溢れる月明かり色の光。

そして。

彼は命を代償とするアステカの究極の魔術を放―――。


――― とうとした時だった。


腰辺りがやさしくギュッと締め付けられ、それと同時に背中に当たる温もり。
『闘争心』の占有された彼の脳内を切り裂くように。

それでいながら優しく聞こえてきた穏やかな―――。


御坂「大丈夫だから―――」


――― 御坂の声。


御坂「―――もう、戦わなくてもいいの」


それは正に『天使』の声だった。

海原「―――」

一方で、正面の『悪魔』から放たれてくる凄まじい殺気。

彼の僅かに残っていた思念が揺れ動く。


御坂の声か、闘争心の叫びか。

どちらの言葉を信じるか―――。


天使か悪魔か。

どちらのオーラを信じるか―――。




402 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/11(日) 00:43:51.08 ID:8naS4AUo
そんな海原の一瞬の迷い、その間に運命は着実に『針』を進めた。

それは正に一瞬。
いつどうやってソレがここまで来たのか、二人ともおぼろげにさえ『見る』ことも出来なかった。

全く目で追えなかった。

さながら瞬間移動でもしてきたかのように。


御坂「―――」


海原「―――」


二人の目に映る。


不気味な光を放つ閻魔刀の刃。


その切っ先は―――。


海原の胸元から僅か数センチ。


そこで止まっていた。


バージルは閻魔刀を海原の胸へと突きつけていた。
そのまま押し込めば、海原に後ろから抱き着いている御坂もろとも串刺しにできる。


だが彼はそれ以上刃を進めようとはしてこなかった。

静かに、鋭く冷たい目で二人を見つめていた。


魂を直で見透かされてそうな瞳で。




403 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/11(日) 00:45:55.75 ID:8naS4AUo
御坂「…………」

海原「…………」

硬直する二人。


そして数秒間の沈黙の後、
バージルが刃を突きつけたまま静かに口を開いた。


バージル「―――女」


御坂に向けて。



バージル「―――名乗れ」



御坂「…………………………………………御坂……美琴……です」



その凄まじい威圧感と、
この異常な緊張感で御坂は反射的に敬語を使って答えてしまった。




404 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/11(日) 00:48:07.23 ID:8naS4AUo
バージル「―――そうか」

バージルはポツリと呟くと、パッと手際よく閻魔刀を鞘に納め、
踵を返してゆっくりと歩を進め氷原と化している街の中へ消えていった。


御坂「………………」


海原「………………」

二人はその後姿を呆然と見続けていた。
闇の中へ消えた後も。
海原が意識を失ってその場に倒れこむまで。


バージルが『現時点の障害』と定める『リスト』から、二人が外れたのは言うまでも無いが。

だが御坂は知る由も無い。

バージルに名を聞かれるという事、つまり彼に名を記憶されるというのがどれ程のことなのかを。
彼の記憶に刻まれるに足る条件はただ一つ。


『強者』として認められること。


そして御坂はここで一つの強さを見せた。


『弱さ』からではなく。

心の『強さ』から生み出された『闘争の放棄』という選択。

それもまた『強者』のあるべき姿の『一面』。
必要な時には全力で戦い、必要の無いに時には一切戦わない。

彼女はその心の『強さ』をこのバージルを相手にして示したのだ。


バージルは強さに関しては恐ろしいほどに公平な評価を下す。
種族は当然、戦闘力・精神力のジャンルを問わず全ての『強さ』に分け隔てなく。

そして今、バージルはそれ相応の『評価』を彼女にも下した。
一定のふさわしき『敬意』と共に。


貴様は『強い』 と。


―――




405 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/11(日) 00:49:20.23 ID:8naS4AUo
―――

学園都市。
第七学区。


同じ一人の少女を愛する二人が放つ『魔』。

ぶつかり絡み合う『憤怒』。


迸る白銀の閃光。

吹き上がる爆炎。

轟く地響きと大気の震え―――。



粉塵と炎の中から姿を現す上条とステイル。

向かい合って立っている彼ら。

その間にいたはずのフィアンマの姿は消えていた。


ステイル『…………』

上条『…………』


二人はゆっくりと顔を上げとある一方へと目を向けた。


その視線の先。

50m 程離れた場所に立っている―――。



―――フィアンマ。




406 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/11(日) 00:53:39.12 ID:8naS4AUo
フィアンマの鮮やかな髪の毛先の一部が黒ずみ、
スーツも所々が黒く汚れている。


一方で、彼の背中から伸びている巨大な腕にはオレンジの光が戻っていた。
そして同じく彼の体を覆っているおぼろげな光の衣も。


そのフィアンマの横にふわりと移動するインデックス。


フィアンマ「はっ。『再起動』が間に合って良かったよ。今のはさすがに少し焦ってしまったな」


スーツに付いたチリを掃いながら、
半ば呆れたような溜息を混じらせながら小さく呟くフィアンマ。


高慢な口調は相変わらずだが、
その顔と瞳からは先程までのお遊び感覚の色は消えていた。


そして入れ違いに薄っすらと滲み出てくる。


フィアンマ「おかげで久々に頭にキタな」


本気の『怒り』の色。


フィアンマ「良くやったな。この俺様を怒らすとは」


フィアンマ「お前ら平民共にはわかないだろうがな、このスーツは結構値が張るんだ」



407 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/11(日) 00:55:39.65 ID:8naS4AUo
ステイル『―――黙れ!!!!そこまで大事ならあの世まで持って行くがいい!!!!』

ステイルは文字通り口から『炎』を吐きながら、そんなフィアンマを凄まじい形相で睨んだ。
足元の地面は溶解し、一帯の大気が熱せられて陽炎となる。


あのフィアンマの姿、そしてその横に並んでいる無表情のインデックス。


ステイル『―――インデックスを!!!!!!!彼女を返して貰おう!!!!!!!!!!』


その光景がステイルの憤怒を更に煮えたぎらせる。
頭の中が今にも沸騰しそうだ。

いや、実際に彼の体内はとてつもない温度にまで上昇していた。
生身の人間なら沸騰どころか一瞬で蒸発している。


フィアンマ「返せだと?それは少しおかしいな。禁書目録の今の『主人』は俺様だ」


ステイル『ふ―――』


そんなフィアンマの言葉でステイルの怒りが遂に臨界点に達し。


ステイル『―――ッッッッざけんなァア゛ア゛ア゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!』


彼は再び両手を広げ炎剣を精製しフィアンマへと突進―――。


―――しようとしたが。


ステイル『―――』


突如右手首を鷲掴みにされ制止させられた。


上条『―――待て』


横にいた上条に。




408 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/11(日) 00:57:12.91 ID:8naS4AUo
上条の左手が、まるで枷のようにガッチリとステイルの右手首を握っていた。

ステイル『―――何を!!!!!?離せ!!!!!!!!!』

上条『落ち着け』

ステイルとは対称的な冷めた声の上条当麻。
その冷たい目は真っ直ぐとフィアンマを見つめていた。


ステイル『―――んだとぉおおオオオオオオ?!!!!!!!』


そんな彼の声と姿がステイルの怒りに更に油を注ぐ。

落ち着いて考えればそんな事は有り得ないとすぐにわかるのだが、
憤怒に駆られ冷静を失っている今のステイルは上条に対しても反射的に怒りを抱いてしまった。


インデックスがあんな状態になっているにも関らず何だその態度は? と。


ステイル『―――よ、よくもそんな!!!!!!!!!!!!』


お前は何も思うことが無いのか? と。


ステイル『―――良いだろう!!!!それなら僕一人でm―――』


その時だった。

そんなステイルの怒号を遮るかのように、彼の顔面に叩き込まれる―――。


上条『―――うるせえ』


―――上条の右拳。




409 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/11(日) 00:59:48.51 ID:8naS4AUo
ステイル『―――……っ……』

軽くよろめきながら後ずさるステイル。


上条『落ち着けって言ってんだろが』

そんな彼に向かって、
上条は相変わらずフィアンマへと目を向けたまま淡々とした声だけを飛ばした。

その上条の固く握り締めている右拳。
指の間から血が滴っていた。
右腕を覆う専用の篭手の隙間からも。


上条の右腕は魔界の金属生命体で作られた篭手で守られてはいるもの、
内部の腕本体の筋力や強度は人間と同等。

そんな腕で『悪魔の顔』を直接殴るという事は自殺行為であるようなものだ。
ましてやステイルのように大悪魔に匹敵する存在に対してなど。

悪魔にとっては蚊に刺されたようなものなのだが。


だが上条は思いっきりぶん殴った。

それを受け、ステイルは確かに強烈な衝撃を受けた。


強烈な衝撃を だ。


物質的なものではなく。


直接脳内へ響いてきたような。


魂を『直接』ぶん殴られたような―――。


上条の『魂の一撃』は、ステイルの頭の中を占有していた憤怒を一瞬で払いのけてしまった。




410 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/11(日) 01:02:32.68 ID:8naS4AUo
上条『頭に血昇らしてどうすんだよ』


ステイル『…………』


冷静になってようやく上条の『内面の状況』に気付く。

一見冷めた無表情である上条。

だがよくよく見ると、こめかみや眉間の部分がピクリピクリと不規則に小さく痙攣しており、
鼻息も少し荒かった。


ステイル『…………』

そう、上条もまた凄まじい憤怒に駆られているのだ。
己と同じように、いや己以上に濃くて猛々しいかもしれない。

だが彼はそれに身を委ねることなく冷静な思考を保っているのだ。



上条『バラバラで戦ったところで誰も勝てねえ』



上条『アイツを助けるにはお前の力も必要なんだよ』



上条『一緒に戦う「力」がよ』




411 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/11(日) 01:04:35.37 ID:8naS4AUo
ステイル『……』


ステイルはこんな上条を見て、己の不甲斐なさを実感した。
『憤怒』に甘え、『闘争心に負けて』しまった己に。


そのドス黒い感情に身を委ねてしまった結果、
ステイルはある意味『インデックスを救う』という目的を放棄しかけてしまったのだ。


彼女の安全よりも、己の怒りを『優先』してしまったのだ。


一方で上条は何よりもインデックスを救う事を考えていた。


『憤怒』をも押さえつけてしまうほどに強く だ。


湧き上がってくる『闘争心』の甘い囁きには決して屈せずに。


『己の怒り』など『二の次』にして。


とにかくインデックスの為に。



彼女を救う為の『理性』をしっかりと保っているのだ。




412 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/11(日) 01:05:57.02 ID:8naS4AUo
ステイル『…………ああ、そうだな。すまん』

殴られた頬を軽くさすりながら深呼吸し、
精神を落ち着かせるステイル。


上条『アクセラレータ』


上条がフィアンマを見据えたまま、
いつの間にか横に立っていた一方通行の名を呼び。

上条『あの野郎は何もんだ?』


一方『……名前はフィアンマつーらしい。神の右席だかなンだかホザいてやがった』


上条『神の右席……』


その名を聞いて、上条の目が一層鋭くなる。

『神の右席』ならば強いのも当然。

その名を冠する者とは今まで三人程戦ったことがある。
三人とも、それぞれが皆異常な程の強さを誇っていた。

特にアックアなんかはサシで戦えば今の己でも勝てる気がしない。


そして今、その最後の一人が相手というわけだ。

恐らく神の右席の中でも最強であろう一人が。

つまり、世界最大勢力であるローマ正教の『最強』が。




413 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/11(日) 01:07:55.17 ID:8naS4AUo
上条『(…………待て……魔術師……だと?)』

と、そこまで考えたところで上条は妙な事に気付いた。
このフィアンマの力は今まで戦ってきた神の右席の力とは何かが違う と。

一般の魔術師と比べれば異質すぎる力を使う神の右席でも、
その力の『根源』は一般の魔術師と同じ。

能力には能力特有の、

魔術には魔術特有の、

悪魔の力には悪魔特有の、

打ち消す際にはそれぞれの『感触』がある。


決して間違えることは無い。

そして今までの経験上、
フィアンマの力を打ち消す際の感触は魔術特有のモノになるはずなのだ。

しかし実際に先程の感触を思い返してみると。


上条『(どうなってんだ……?)』

確かに魔術特有の感触もしたが。

もう一つ。

それと一緒に。


上条『(……)』


『能力』の感触もしたのだ。

本来ならば有り得ない。
魔術と能力の二つの力を有するなど有り得ない。

ましてやその二つが『融合』しているなど―――。




414 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/11(日) 01:10:12.83 ID:8naS4AUo
上条『(……)』

これはあのトカゲのような腕が実体を持っていないにも関らずに、
幻想殺しが効かなかった事にも必ず何らかの関係があるだろう。


上条『(……まあいい。それは後だ)』

と、思索に耽りかけてしまったが今はこうゆっくりしている場合では無い。

とにかく今はインデックスだ。


上条『……インデックスはあの野郎に操られてんだな?』


一方『そォらしい。あの野郎が持ってる妙な塊が光った途端、こっちに攻撃をしかけてきやがった』

ステイルと上条は、フィアンマの手にあるダイヤル式の南京錠のような金属の塊に視線を移す。


ステイル『(……首輪、自動書記を操作できる霊装か……もしくは魔具か)』

以前にも自動書記が起動した状態のインデックスを目の当たりにしたことがある。
今へと続く、上条との腐れ縁の始まりでもあったあの事件の時にだ。

まあ、今のインデックスはあの時以上のとんでもない戦闘能力を発揮しているようだが。
あの事件の時は全力になる前に上条の右手によって収束したのだろう。


今の状態が本当の自動書記の力というわけだ。


とはいえ。

自動書記はあの時に破壊されたはずではなかったのだろうか。


ステイル『(あの女……)』

胡散臭い上司ローラからもそう聞かされたのだが。

それは嘘だったというわけだ。

ステイル『(ふざけやがって……)』


どうやら帰ってから聞くべき事がもう一つ増えたようだ。




415 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/11(日) 01:12:12.19 ID:8naS4AUo
ステイル『霊装なら君の右手で。魔具なら力ずくで解体する』


ステイル『もしくは「あの時」のように君が首輪と自動書記もう一度破壊する。こんなところだな』


上条『……………………………………?』


「あの時」。


上条はその単語を聞き、ゆっくりとステイルの方へ振り返り彼の顔を見つめた。
無言のまま。


ステイル『…………どうした?』


上条『……あの時って「俺」が最初にインデックスを助けた時の事か?』


ステイル『何を言ってるんだい?他にいつがある?』


上条『ああ、そうだったな。悪ぃ。「あの時」のようにだな。「あの時」の……な……』


上条はピクリと眉を動かした後、
独り言のように呟きながら再びフィアンマの方を見据えた。


独り言のように だ。

何かを自分に言い聞かせるように。


ステイル『…………』




416 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/11(日) 01:16:15.78 ID:8naS4AUo
フィアンマ「…………ふむ」

そんな三人を遠くに見据えながら、
フィアンマは己の思索に合わせ一人相槌を打つ。

上条に続き現れたあの悪魔。

直にこうして会うのは初めてだが、
恐らくイギリス清教所属の禁書目録の守り手『ステイル=マグヌス』で間違いない。

二ヵ月半前に悪魔に転生した男だ。

一方通行と同じく、あの男も殺せるうちに殺しておいた方が良い。

いくら『小物』とはいえ大悪魔に匹敵する力はさすがに無視できない。

今後の事を考えるとそれなりに邪魔になる可能性が高いのだ。


フィアンマ「(それにしても少々厄介になりそうだ…………―――)」

確かに今、これ程の力を有する三人を相手にするのは面倒だ。
それも一人は無傷のままもう二人は確実に殺す というそれなりに難しい立ち回りを強いられそうだ。

しかし。


フィアンマ「(―――だがこれなら充分かもしれないな)」


この状況はある意味フィアンマにとって好都合にも成り得る。

三人の強者がいる事によってのとある利益。


それは先程までの一方通行『一人』では成し得なかった事。


そう、『例の力』を引き出し確認する事―――。


―――インデックスの中に眠る『例の力』を。




417 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/11(日) 01:20:52.36 ID:8naS4AUo
そしてそんなフィアンマの読み通りに。

彼の横にいたインデックスが口を開く。


禁書「二体の新たな敵性因子を確認」


禁書「記憶を照合」


禁書「一体目。性質がベオウルフに酷似」


禁書「以前の記憶を照合。右腕に『幻想殺し』を確認。警告。脅威度第二級」


禁書「二体目。性質がイフリートに酷似」


禁書「負傷しており予想最大稼働率は40%。警告。脅威度第三級」



禁書「警告。警告。現状では迎撃不可―――」



その声と同時に、手に持つ遠隔制御霊装を介して、
インデックスの内部の状態が共にリアルタイムで送られてくる。


『現在』のインデックスの『状態』では『戦力不足』だという警告が。




418 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/11(日) 01:23:46.80 ID:8naS4AUo
そしてその『警告』はフィアンマにとって―――。



フィアンマ「―――ははっいいぞ」



―――『朗報』でもある。


今の今までは、このまま連れ帰って解析して引き出すつもりだったが、
その作業が無くなるのはかなり好ましい。

いくらフィアンマでも、インデックスの中にあるあの封印術式を破るのは
それなりの労力と時間が必要なのだ。


何せ魔女が作った術式。
核を構成しているのは『エノク語』。


最悪の場合、その防壁を敗れない可能性もあったのだ。


それを鑑みると、少々乱暴だろうが勝手に封印が解けて、
自ら例の『何か』の力が飛び出してくるのはかなり美味しい話なのだ。


ついでに後々に邪魔になるであろう、一方通行とステイルを処分できるとなれば一石二鳥、

いや、今現在の使用制限がある己の力を極力使わずして、
排除できるのだから一石三鳥だ。


引き出された例の力の情報を記録すれば、
そのデータを元にエノク語の核を解析することも簡単になる。


そう考えると一石四鳥でもあるのだ。




419 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/11(日) 01:26:35.52 ID:8naS4AUo
一方『おォ、俺はゆっくりしてらンねェんだ』

一方通行が両手の義手で軽くパチンと手を叩きながら、首を傾け骨を鳴らす。
チョーカーのバッテリー残量はもう半分を切っている。

長引かれると今後の事に大きな影響を及ぼすかもしれない。

それにバッテリー以前に己自身の体力が危うい。


そして何よりも。

妹達に、そして打ち止めにこれ以上の負荷を与えるわけにはいかない。

この黒い噴射物を制御している状態で、更にこの妙な、『未知なる義手』も形成している。


義手についてのダメージは妙な事に、今のところ己には来ていないが、
その分ミサカネットワークに更なる負荷をかけている可能性もある。


一方『さっさとはじめンぜ』

そんな一方通行の声で上条とステイルも戦闘態勢へと。


ステイルは再び両手に炎剣を精製し、
上条は右手の篭手の状態を確かめ、
そして両手左手の光の装具に更に力を流し込む。


ステイル『それで作戦は?』


上条『俺の右手であの野郎の防護を打ち消す』


上条『それであの霊装か魔具を叩き壊す』


上条『それか……「あの時」と同じく自動書記……だっけか、それをぶっ壊す』


ステイル『いや、どう動けば良い?』




420 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/11(日) 01:27:41.11 ID:8naS4AUo
上条『「さっき」と同じで頼む』

『さっき』と同じ。


一方『ハッ。まァた即効のアドリブかよ』


リアルタイムでそれぞれがそれぞれの動きを読み。


ステイル『全く君という男は。少し尊敬しかけたところでこれだ』


それぞれが己のやるべき事を見出し。


上条『何だよ。問題ねえだろ』


それぞれが全力でやり遂げる。


一方『まァな』


失敗すれば結果は最悪―――。


ステイル『まあ、確かに問題は無いな』


だが成功すれば効果は絶大―――。


上条『だろ?「俺ら」なら―――』




上条『―――できるさ』




421 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/11(日) 01:29:50.23 ID:8naS4AUo
一方『おィマッチ棒。グダグダしてやがったらオマェもろとも吹っ飛ばすからなァ』



単純明快にして強者のみが使える究極の『作戦』。



ステイル『こっちの台詞だ。トロトロしてたら焼き殺してあげるよモヤシ君』



成功の鍵はお互いの絶大なる信頼。



そしてその信頼を裏付けるのは―――。



上条『―――行くぜ』



―――それぞれの『インデックスを救う』という覚悟と信念。



一方『おォ―――』


ステイル『ああ―――』



――― それだけで充分だ。




422 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/11(日) 01:31:09.04 ID:8naS4AUo
地面を蹴り爆進する三人の高潔なる『戦士』。

その先にいる、不敵な笑みを浮かべているフィアンマ。


そして彼の横にいる―――。


禁書「―――繰り返します。現在の状態では迎撃不可」


禁書「最終警告。特例、第66章6節に従い―――」


禁書「―――戦闘統制システムの第12章7節から第18章45節までを―――」



禁書「―――『アンブラの鉄の処女』に移行します」



禁書「―――『ローラ』、起動確認」


禁書「―――『メアリー』、起動確認」



禁書「―――稼動率、35%。システム点検中。異常無し」



禁書「―――拘束具、第二錠から第五錠、及び第七錠を解放します」



禁書「―――開錠完了まで残り20秒」



――― 『目覚めの時』へ向けてカウントダウンを始めたインデックス。



―――







430 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/12(月) 23:55:27.51 ID:yZD9pKMo
―――

遡ること少し前。

学園都市第七学区。


麦野『……つまり、とにかく前に進めば良いのね?』


1km程離れた場所、凄まじい轟音が立て続けに響いてくる地点。
その上空には、得体の知れない棒状の巨大なオレンジの光の塊が浮いており、
周囲の地上を不気味に照らしていた。

夕日のように。


麦野『あそこに向かって』


その方角を見ながら、
麦野は傍らの地面に座っているトリッシュへ言葉を飛ばした。


トリッシュ「ええ。絶対に止まらないで」


地面に座り、街頭に力なく背を預けているトリッシュ。
その声はか細く、ちょっとした風でかき消されてしまいそうだ。


麦野『……追いつかれたら?』


今度は小首を傾げるように顔だけを下げ、トリッシュを見つめながら問う。

そんな彼女に対し、トリッシュは無言のまま小さく微笑んだ。


麦野『(……その時は覚悟しろ……っつーことか)』




431 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/12(月) 23:56:28.95 ID:yZD9pKMo
麦野『そんなに強いの?そいつは?』


トリッシュ「……さっきまでの私ならアナタを指一本で殺せたわよ」


トリッシュ「ふふ、それでも彼の手にかかったらこのザマ。一方的にね」


トリッシュは淡々としながらも、麦野にとってはかなり絶望的な事を言い放った。
まるで何気ない談話でもしているかのように。


麦野『……』

普通なら到底信じられない戯言に聞こえてしまうが、

このバラのせいか、さっきから続くこの妙な親近感が 
トリッシュの言葉は嘘ではない と麦野をなぜか確信させた。

そしてその一方で。


麦野『わかったわよ』


不思議とそれでも大丈夫な気がしたのだ。
なぜなのかはわからないが、全て上手くいく と。


トリッシュ「ふふ……」

彼女は知る由は無いが、トリッシュも先程からそれと同じ感覚を持っていたからこそ
こうして麦野を送り出すのを『許した』のだ。


あのボスが、最高の相棒が必ず守ってくれると感じたからこそ―――。




432 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/12(月) 23:59:17.61 ID:yZD9pKMo
トリッシュ「(とはいえ……このまま送り出すのは心もとないわね)」


トリッシュ「ん~、ちょっとこっちに来なさい」

穏やかな笑みを浮かべたまま麦野を呼ぶトリッシュ。
さながら母親が優しく娘を招き寄せるかのように。


麦野『……』

麦野も素直に従い、トリッシュの傍に屈んだ。

そんな麦野にささやきかけるように。


トリッシュ「私も一緒に行ってあげる」


麦野『はッ……無理でしょーが。立てもしねえ癖に』


その言葉に麦野は少し呆れたように笑い、
自分の状況わかってんのか? とでも言いたげに眉を少し顰めた。


トリッシュ「ふふ、立てなくても『行ける』わよ」


クスリと小さく笑うトリッシュはさりげなく左手を伸ばし。
傍に屈んでいる麦野が持つ、アラストルの切っ先に軽く指先を当てる。

そして次の瞬間。


麦野『―――へ?』


耳鳴りのような音が突如響き、
次いでアラストルから目を覆いたくなる程の光が溢れた。




433 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/13(火) 00:01:46.30 ID:DlyNYwko
麦野『―――な!!!!』

驚き跳ね上がるように立ち上がる麦野。

この瞬間、麦野の『中』も『外』もそのどちらの『感覚』も一気に豹変した。


このアラストルを持った時から、
得体の知れない何かが自分の中に流れ込んできていた。

だが今、その『量』がさっきとは比べ物にならない程に爆発的に増えた。

そして同時に異常な程に鋭くなる、外界に対する『感覚』。


目で確認せずとも周囲の状況が手に取るようにわかる。
死角を含めた全方位、そしてかなりの遠距離まで。


ビルの配置、街頭の並び、周囲の空気の流れ、この一帯の周囲にいる者の気配、
その気配の『大きさ』等何もかもが把握できる。


更に時間の感じ方もおかしい。

一秒が一秒に感じるのは以前と同じだが、
それでいながら『一秒』を『一時間』のように、

いや意識を集中すればそれ以上に幾らでも引き伸ばして『見る』事ができるような。


これなら飛翔する銃弾の、表面に描かれた字をはっきりと読む事も余裕だろう。




434 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/13(火) 00:03:19.16 ID:DlyNYwko
麦野『な、なによこれ……!!!!!』


そして脳内に直接響いてくる―――。


トリッシュ「アラストルを、その子を『起こした』のよ―――」


トリッシュ「―――ついでに私の『頭』とリンクしたから」



―――トリッシュの声。


麦野『……!!!』

目の前に座っているトリッシュの声が耳に入った。

だがそれと同時に、同じ声が脳内からも直接響いてきたのだ。


トリッシュがイタズラが成功して喜んでいるような子供っぽい笑みを浮かべ、
未知の感覚に驚愕している麦野へ。


トリッシュ「驚かしちゃったわね。今アナタが『見てる』のは私の『目線』だから」


トリッシュはアラストルの封印を解き、
そのアラストルを中継点にして麦野と己の『一部』を重ね合わせたのだ。


つまり今の麦野はトリッシュの『感覚』と『目』で外の世界を『見て』いるのだ。


トリッシュ「『どうやって』とかを今考えるのはナシよ。素直に受け入れなさい。きっと役に立つから」




435 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/13(火) 00:05:48.11 ID:DlyNYwko
麦野『…………』

先程、トリッシュは己よりも遥かに強いという事を仄めかしていた。

特に疑うことも無かったが、
こうしてトリッシュの『感覚』を直に体感するとやはり再確認をせざるを得ない。


そりゃあ、こんな『感覚』を持ってる奴には勝てるわけも無いな と。


そして。


これ程の感覚を持つ者すら敵わない存在と、己は今から絶望的な『鬼ごっこ』を行うのだ とも。



―――と、そう考えていた時だった。



『全く……この俺が人間如きに眠らされるとはな……この俺が』



どこからともなく聞こえてきた『男』の声。
とてつもなくナルシスト風味の、いかにも己に酔っていますとでも主張しているかのような声色。

そしてその声の発信元は―――。



麦野『―――』


麦野が持つ、光り輝く『大剣』―――。



――― 『アラストル』だった。




436 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/13(火) 00:08:04.00 ID:blYulCAo
CV:三木眞一郎



437 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/13(火) 00:09:18.38 ID:DlyNYwko
アラストル『いや、そもそもあのだらしないマスターが俺の命令系統の防護を渋ったからだ』

アラストル『あんな人間の小娘にこの俺を扱いきれるわけが無かったのだ。この俺を』

アラストル『俺のせいじゃないな。俺の……』

アラストル『大体、この俺も肉体を解放していればあんな事にはならなかったのだ』

アラストル『そもそも、こうして魔剣として忠義を尽くしている俺には自由が無く、そして肉体を持つのにも許可がいるにも関らず、』


アラストル『なぜ一方であの魔帝の「元忠犬」には自由が許されているのだ?』


アラストル『まずそれ以前にあの「女」よりも俺の方が先に従ったのだ。俺がマスターの右腕となるべきじゃないのか?』


アラストル『この俺が相棒に相応s………………』


トリッシュ「…………」


麦野『…………………へ?は?』


アラストル『……トリッシュ殿、ご機嫌麗しゅう』


トリッシュ「おはよ。あ~、言っておくけど」


トリッシュ「ダンテは『野郎』を横には置きたくないらしいわよ』

トリッシュ「もう一つ。アナタ前に勝手に『外出』したでしょ?しばらく帰って来なかったわよね?多分それのせいでアナタに厳しいのよ」


アラストル『……何のことでしょう?見に覚えがありませんが』




438 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/13(火) 00:13:54.24 ID:DlyNYwko
麦野『……しゃ……喋った……?』

その勝手に長々と喋りだした剣に麦野は呆然としていた。
驚きその剣から手を離すことすら忘れるほどに呆然と。

そんな麦野にお構いナシでトリッシュは剣と話を続ける。


トリッシュ「まあ、無駄話はこのくらいにして」


トリッシュ「アラストル、その子に従い力を貸しなさい」


アラストル『チッ……また人間の小娘か……』


トリッシュ「何?聞こえない」


アラストル『仰せのままに』


トリッシュ「それと相手はバージルだから。その子が死ぬ時はアナタも終わりだから全力で支援しなさい」


アラストル『―――ババッババッバッッッ…………兄殿だとォ!!!!!!!!!!!』


アラストル『―――い、い、否!!!!!ママママママママスター不在でかのk』



トリッシュ「その子を置いて逃げたりしてみなさい。そうしたらアナタはどの道殺されるから」


トリッシュ「ブチ切れたダンテに」


アラストル『……ぐ……!!!仰せのままに……!!』




439 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/13(火) 00:16:35.64 ID:DlyNYwko
麦野『……』

バージルという名を聞いた『剣』が急に焦り始めたのが、声を聞いててわかる。

剣が喋るという異常な事はとりあえず脇に置くとして、
(というか今日になってから不思議な事が多すぎて、麦野はある意味もう慣れてしまったのだ)、

どうやらこれから己を追ってくる存在の名は『バージル』と言うらしい。


麦野『バージル……』


その名を認識した瞬間、再び胸元のバラの『熱』が強くなった気がした。


麦野『(……)』


そしてその思念。

妙に暖かく、そしてなにやらむず痒くもどかしい感情。

麦野にはそれが何の感情なのかはわからなかった。

いや、過去に知っていたかもしれないが、
幼少期の内に学園都市に来てしまった麦野はもう忘れてしまっていた。



それは『家族』、『兄弟』に抱く感情なのだから。




440 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/13(火) 00:18:47.89 ID:DlyNYwko
トリッシュ「じゃあ早速 ね」

トリッシュがアラストルから麦野の顔に視線を移動させ。


トリッシュ「さすがにそろそろ気付かれそうだから」


アラストルが完全に目覚めた今、
現地に向かおうとする気配が無くともバージルがこっちに来るかもしれないのだ。

麦野は無言のまま小さく頷くと、踵を返し再び現地の方へ向く。

目を瞑り大きく一度深呼吸。


麦野『……ふーー』

そしてゆっくりと目を開き、再び前方を見据えた。
とその時。

再び右手の『剣』が口を開いた。

アラストル『待つんだ。行く前にせめて自己紹介させてくれ』


麦野『……麦野沈利。レベル5第四位「原子崩し」―――』



アラストル『―――俺はアラストル。雷刃魔神アラストル』



アラストル『よろしく頼むよ。ヘマはしないでくれ。「マスター代理」』


麦野『うるせぇ。黙って力を寄越せってんだよガラクタ』


アラストル『ふはは……小娘が……後悔するなよ―――』




441 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/13(火) 00:21:54.19 ID:DlyNYwko
次の瞬間。


麦野『―――』


麦野の背中が突如眩く輝き始め―――。


明るい『紫』の閃光が噴き出し―――。


―――青白い光の衣に覆われた、一対の巨大な『紫』の翼を形成した。


麦野『―――』

麦野はその己の中に渦巻く莫大な力に身を委ねながら、ふと思った。



私、『本物の怪物』になるつつあるわね  と。



そして小さく笑った。
少し滑稽だったのだ。

以前までは自嘲気味に己の事を『怪物』と称していた。
あの頃の『クソまみれ』だった自分はそう自虐していた。


しかし、今に比べればかなり可愛いものだった。


色んな事に気付き、
やっと己自身が納得できる『信念』で戦おうと覚悟している今、

一方では『本物の怪物』へと成る道をも進んでいるとは。




443 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/13(火) 00:23:54.40 ID:DlyNYwko
ある意味皮肉な事だ。

以前までは心のどこかで嫌悪していた怪物としての力だったはずなのに、


それを今の己は心の底から歓迎しているのだから。

ただ成すがままに戦いと破壊に明け暮れていたあの頃は特には欲していなかったのに、

己の信念で命を賭して何かを守り救おうとしている今は、
どれ程得ても足りないくらいに力が『必要』なのだから。



左肩から伸びるアームを大きくうねらせ、右手のアラストルを一度バトンのように回転させる。

それと同時に右目から迸る青白い閃光と、大きく一度羽ばたく背中の翼。



アラストル『―――全力で行くぞ小娘』



麦野『―――当然だろーが。出し渋りやがったらブチコロしてやる』



そして次の瞬間、麦野の姿が消失した。


青白い閃光に包まれた紫の『砲弾』がビルを次々とぶち抜き、
猛烈な速さで突き進んでいった。


―――






457 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/14(水) 23:09:23.47 ID:8KkaOYDO
このアラストルは何基準なんだろうか
とても心臓を贄に捧げなければならない1のアラストルとは思えん



489 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/15(木) 00:36:58.71 ID:bX8F9ewo
>>457
このSSでは、ダンテの前では、というかダンテに対しては1のように従順で威厳のある態度で。
ダンテがいないところでは、
ビューティフルジョーの時のように結構好き勝手やるインテリナルシーさんの部分が出てしまう、

という感じで考えています。

裏ではグチグチいうものの、基本的にダンテのことをハイパーLOVEなのは他の魔具と同じです。




456 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/14(水) 23:06:27.84 ID:LmLWwPko
―――

アリウスが人造悪魔を作る際、
彼は必ずとある二つの『本能』をその魂の核の部分に刻み込む。

一つ目。

アリウスに危害を与えることはできない。

二つ目。

アリウスの身元の情報については口外することはできない。

そしてこの二つの本能に抗おうとした場合、その個体は自壊し情報は全て消去される。

『第三者』に操られ体が勝手に動いた場合も。
『第三者』によって解体され、直接アリウスの情報を引き抜かれようとされた場合も。

通常は、この上に更に多くの術式を被せ思考を制限している為、
人造悪魔はこの本能に抗おうとはしない。
そんな『概念』すら存在しないのだ。


だがルシアは違う。

彼女の中の術式は既に破壊され、その『思考』は自由の身。

そんな彼女は今、自らその『掟』に反する事を行動を取った。
そして当然『アリウス作の人造悪魔』としての『本能』は彼女を蝕む。


『今』、どんなに彼女が愛を知っていようが。

『今』、どんなに彼女が慈しみを知っていようが。


彼女は『人造悪魔』。

忌まわしき大罪の子。

その『現実』が消え去ることは無い。

その『現実』から逃れることは出来ない。


『今』がどうであろうと。

『過去』という『現実』は決して変わらない。


絶対に だ。




458 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/14(水) 23:09:32.21 ID:LmLWwPko
ルシア「……うぅっ!!!!あああぅうああ……!!!!」

アリウスの足の下で血を吐き、苦痛の声を漏らすルシア。


アリウス「…………醜い」


そんな少女を見下ろしながら、
アリウスは苛立ちの篭った言葉を吐き捨てた。

アリウス「……苦しいか?憎いか?」

いかにも人間的は表情を浮かべ悶え苦しむ彼女の姿。
それはある意味アリウスにとって『侮辱』でもあった。


アリウス「その感情は本物か?その痛みは本物か?」

人造悪魔技術の集大成である傑作品。


アリウス「―――ふざけるな」

そんな個体がこんなに『陳腐』な『茶番』を、あたかも己の『本心』のように『思い込んで』いるなど。


アリウス「お前は擬似的に再現しているだけだ」


アリウス「人間の感情をコピーしてな」


アリウス「決して『本物』ではない」


アリウス「決して『本物』にはならない」



アリウス「お前は『人形』に過ぎん ―――」



アリウス「―――目障りだ。さっさと『機能停止』するがいい」




459 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/14(水) 23:12:17.79 ID:LmLWwPko
アリウスはその踏みつける足の力を更に強める。

ルシア「ぐうっ…………!!!!!」

その痛みと圧力がルシアの怒りと憎しみを更に刺激し、
そのアリウスに対する敵対感情が『掟』に触れ、彼女を更に『死』へと導いていく。

猛烈な速度で体力が減っていき、魂があっという間に削られていく。


ルシア「…………う……ぁ……」


そんな薄れ行く意識の中。

ぼんやりとアリウスを見上げていた彼女の瞳に、一瞬だけ小さな光が差してきた。


ルシア「(…………)」


それはアリウスが手に持っている、小さな水晶球が放つ淡い光。


そう、小さな水晶球。


ルシア「(…………………あれは……)」


見覚えがある。

何にどうやって使われるものかも知っている。

あれはアリウスが作り出した『霊装』。

『偶像の理論』を応用したとある魔術を行使できる。

簡単に言えば、確実に『人質』を『取る』ことができる魔術を。

ルシアは以前そのテストに立ち会った事がある。
アリウスは場合によってはウィンザーの件で使うつもりだのだろう、

それで恐らく彼女にも記憶させておいたのだ。




460 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/14(水) 23:14:12.41 ID:LmLWwPko
そんな忌むべき過去の記憶が、
今現在の彼女の総合力を高める『知識』となっているのもある意味皮肉な事だ。

光っている所をみると、
あの霊装は今現在起動中なのは確かだ。

ルシア「…………」

つまりアリウスは今、誰かを『人質』に取っている。

ではなぜ人質を取っている?

人質を取るという事は身の安全の保証が欲しいが為。
戦力においてはその『相手』に劣っているという事。


ではその『相手』は?

ルシア「―――」

今のこのフォルトゥナ周辺で、
アリウスから見てそれ程の脅威性を有している者はたった一人しかいない。


たった『一人』しか。


当然、『人質』はその『人物』の―――。



ルシア「―――」


その時、ルシアの瞳にもう一つの光点が映った。


それはアリウスの遥か後方に迸った『青い光』―――。




461 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/14(水) 23:16:43.71 ID:LmLWwPko
いや、確かに遥か『後方』だったが。


ルシア「―――」


僅か一瞬で。


ルシアでさえ意識して追う事が出来ない程の、
圧倒的な速度で急速に接近してくる。


ルシア「(だめ―――)」


凄まじい『憤怒』を携えて。


猛烈な『殺意』の矛先をアリウスに向けて。


青の光と真紅の爆炎を纏い。



ルシア「―――だめぇえええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!



彼のすぐ背後にまで一気に距離を詰めてきた―――。



―――レッドクイーンを振り上げている『ネロ』。


そしてようやく気付き振り向き始めたアリウスの頭頂部に―――。


古代ギリシャ風のフルフェイスマスクに振り下ろされる―――。



――― ネロの破滅的な一撃。




462 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/14(水) 23:20:07.03 ID:LmLWwPko
不気味な静寂が辺りを包んだ。


誰しもがその時動きを止めた。
瞬き一つしなかった。


気を失っているキリエの周りにいる騎士達も。

アリウスの足元に横たわっているルシアも。

そんな彼女を踏みつけながら半ば振り返っているアリウスも。


そして。


アリウスのマスクの眉間の部分から僅か5mmの所に―――。



――― 振り下ろす半ばの体勢で刃を突きつけているネロも。



ネロはレッドクイーンを振り切らなかったのだ。

直前に聞こえた少女の声と。

それとほぼ同時に彼を襲った『嫌な予感』で。


静寂の中、ネロの荒い吐息の音だけが静かに響き渡っていた。


彼の中に渦巻く、凄まじい『憤怒』によって熱せられてる『音』が。




463 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/14(水) 23:22:45.68 ID:LmLWwPko
アリウス「………………久しぶりだな。スパーダの孫よ」


そんな沈黙を破ったのはアリウスだった。
仮面の下から響く篭った声。


ネロ「―――あぁ゛ぁ゛??」

そして刃を突きつけたまま、凄まじい重圧が宿っている声を発するネロ。

彼の体は荒い呼吸と興奮によって少し震えていた。
誰が見てもわかる。

彼は今、懸命に己の殺戮衝動を押さえ込んでいるのだと。


アリウス「さすがの勘だな。どうだ?俺を切れんだろう?」


アリウスはルシアから足を下ろし、ゆっくりとネロの方へ振り向き切り両手を大きく広げた。
切れるものなら切ってみろ とでも言っているかのように。



ネロ「……」


レッドクイーンを降ろし、ゆっくりとアリウスの横へ回り込むように歩きながら彼の全身を眺めるネロ。

煮えたぎる怒りの色が篭められた瞳で。
鼻を小さく鳴らしながら。

まるで腹を空かせた猛獣が舌舐めずりしながら、
その『肉』の匂いを味わっているかのように。


ネロ「『臭え』―――」


そしてネロはアリウスの真横へ並び立ったところで小さく呟いた。
眉間に皺を寄せ、鼻筋を苛立ちで小刻みに震わせながら。


ネロ「―――最っっ高に『臭え』なおい。鼻にクソ捻じ込まれる方がまだマシだぜ。ケツ穴野郎」




464 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/14(水) 23:31:15.42 ID:LmLWwPko
そのままネロはアリウスとすれ違うように、彼の後ろ側に回り込み。


ネロ「大丈夫か?」


ルシア「……は、はい……」

ゆっくりとルシアを抱き上げた。
そしてアリウスに背を向けたまま歩き離れていく。

そんなネロの背を、アリウスは再び振り向き直しながら目で追った。



ネロ「名は貰ったか?」


ルシア「……ルシア」


ネロ「OK、『ルシア』。あのケツ穴野郎の妙な『匂い』は何かわk―――」


そうやって手っ取り早く、
あの『ケツ穴野郎』について感じるこの妙な悪寒の原因を聞こうとした時だった。


アリウス「―――スパーダの孫よ!!!遠慮するな!!!!俺が教えてやろう!!!!!」


20m程離れている場所に立っている、『ケツ穴野郎』から放たれた声でネロの問いが遮られてしまった。
まあ、もう一度聞きなおす必要はなさそうだが。


ネロ「…………」

顔を上げアリウスへとその研ぎ澄まされた槍のような視線を『突き刺す』ネロ。

首を小さくクイッと傾けながら。

そのネロの挙動の意味を悟った二人の騎士がネロの元へ素早く駆けていき、
ルシアを受け取ると逃げるように離れ、キリエの元へと戻っていった。


そして改めて対峙するネロとアリウス。




465 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/14(水) 23:34:00.65 ID:LmLWwPko
改めてアリウスと対峙したネロはレッドクイーンを大きく振り上げ ―――

ネロ「……そうかい。それじゃあ―――」

足元の地面に突き立て、イクシードを思いっきり噴かし―――。



ネロ「―――聞かせてもらおうじゃねえか!!! オオ゛ォ゛ッッ!!!?」


爆炎を撒き散らしながら憤怒の『一部』を耐え切れずに吐き出す。


アリウス「では説明してやろう」

そんな彼とは対称的に落ち着いた口調のアリウス。

アリウス「なあに、複雑な事では無い」


そしてその口から語られる―――。


アリウス「そう固くならずに楽にして聞くが良い」


アリウス「俺が血を流せば、お前の恋人も血を流す」


ネロにとってはあまりにも―――。


アリウス「―――俺の首が飛べば、お前の恋人の首も飛ぶ」



アリウス「―――俺が死ねばお前の恋人も死ぬ」


――― 許しがたい言葉。


ネロ「―――」



アリウス「―――どうだ?簡単な事だろう?」




466 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/14(水) 23:35:39.16 ID:LmLWwPko
ネロ「―――ア゛?」


その瞬間、一帯の空気の『質』が更に豹変する。


当然ネロによって。


彼の手足と肩、そして頭が激しく震え始める。

頭からは本当に『何か』がブツリブツリと弾け切れる音が聞こえてきそうだった。
いや、実際にネロ自身は確かに聞いていた。


何かがブチ切れていく音を。


続く、レッドクイーンの柄を握る拳からはメキリと金属が締め付けられる音。

顔のありとあらゆる表情筋も、痙攣しているかのように振動している。


固くかみ締められた歯。
その隙間から漏れ出してくる青い光の靄。


まるで吐息そのものに色がついたかのように。



ネロ『―――んだと―――?』



震える口からこぼれ出てきた『地獄の底』からの声はエコーがかかっており、

同時に異形の右手から目を覆いたくなるほどの光が溢れ、
彼の全身からも青い光が湯気のように漏れだしてくる。




467 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/14(水) 23:38:48.55 ID:LmLWwPko
逆鱗しているネロを目にして、その場にいた誰しもが言葉を失って硬直していた。
息すらすることさえ忘れてしまいそうなほどに。


仮面の下から不敵な笑い声を漏らすアリウスを除いて だが。


アリウス「さて……」

アリウスは左手をスッと己の首元に伸ばす。

仮面の下にある素肌の首へと。
次の瞬間、彼の指先には小さなナイフが出現した。


アリウス「一応証明しておいてやろう」


そしてその刃を―――。



ネロ『―――』



―――己の首にゆっくりと押し当てた。



ネロ『―――オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!!!!!!!!!!!!!』



同時にアリウスへ向けて一気に跳躍するネロ。


デビルブリンガーを振り上げながら―――。


―――その巨大な拳を固く握り締めながら。




468 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/14(水) 23:40:01.34 ID:LmLWwPko
だがその巨大な青い『拳』は振り下ろされない。

ネロはまたもや振り下ろすことが出来なかったのだ。


アリウスの仮面から僅か5cmのところで止まっているデビルブリンガー。


ネロ『―――ぐ…………オ゛ォ゛………………!!!!!!!!!』


押し寄せてくる破壊衝動と理性が激突し、
ネロの口からは言葉にならない声が光と共に漏れる。


アリウスの首にはナイフによる小さな傷。
一滴の血液が静かにナイフの刃を伝い落ちていく。


それと同時に後方から響いてくる―――。



「――― キ、キリエ殿…………!!!!!!!!」



―――キリエの周囲にいる騎士達の声。


彼女の首にもアリウスと全く同じ小さな切り傷が刻まれていたのだ。


全く同じ形の傷が。




469 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/14(水) 23:43:20.56 ID:LmLWwPko
アリウス「ふむ、言っておこうか」


不気味な程に落ち着き払っているアリウスが静かに口を開く。

目の前でデビルブリンガーを振り下ろしかけている姿勢のまま、
憤怒のあまり震えているネロの顔を覗き込むように身を乗り出しながら。


アリウス「俺はここから生きて離脱しなければならんのだ―――」


アリウス「覇王を復活させその力を手に入れる為にな。そして―――」


紡がれた更に許し難い言葉達。



ネロ『―――』


聞くことさえ憚られそうな呪うべき言葉達。


アリウス「―――『スパーダ』が敷いた『封印』を解くのだ」



全人類、人間界、そしてスパーダの一族へ向けての。



アリウス「―――魔界への『大扉』のな」



宣戦布告に等しい言葉を。


アリウス「さあ選べ。選択の時だスパーダの孫よ」


アリウス「『殺す』か―――」



アリウス「―――『逃がす』か」




470 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/14(水) 23:52:13.45 ID:LmLWwPko
見開かれるネロの目。
赤い光を放つ瞳。

ネロはデビルブリンガーを大きく振り上げた。

やり場の無い凄まじい『激情』を吐き出しながら。


ネロ『オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!!』


そして即座に叩き降ろす。

アリウスの真横に。


巨大な半透明の拳が凄まじい激音と共に地面に深く食い込む。


アリウス「スパーダの血とはいえ所詮『混血』。芯は脆い。やはり殺せんか」

そこから飛び散った破片やチリを、アリウスは煙たそうに手で払いながら吐き捨てた。
仮面の下にある見下すような不敵な笑みが手に取るようにわかる口調で。


アリウスはほくそ笑む。
この『賭け』はやはり読みどおりだった と。

このスパーダの孫はあまりにも人間的過ぎる と。
己の血の『使命』よりも、愛や情という『安っぽい』陳腐な感情の方が強い と。

この一族の『強さ』の秘訣たるその『心』。

だがその『心』が余りにも濃すぎると、逆に『弱さ』にもなってしまう諸刃の剣だ。

今のネロは正にそうなのだ と。

アリウスは確信した。


勝利を。

己の野望の成功を。


まあ、このアリウスの確信は数十秒後に覆される事になるのだが。




471 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/14(水) 23:55:50.20 ID:LmLWwPko
アリウス「お前が選んだ『選択肢』は弱者の物」


アリウスは言葉を紡いでいく。
拳を振り降ろしたまま地面に顔を向けているネロに対し。


アリウス「スパーダの孫よ。最早お前には人間界を護る資格など無い」


彼の瓦解したであろう精神を更に揺るがすべく。


だがそんな『勝利』に浸る彼の言葉はすぐに遮られた。


アリウス「たった一人の人間の為にとったお前の決断h―――」



突如伸びてきたネロの右手によって。


その右手はアリウスの胸ぐらを乱暴に掴み―――。



―――彼の体を一気に引き寄せた。




473 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/14(水) 23:58:08.80 ID:LmLWwPko
同時に上半身を上げたネロはそのアリウスの仮面の下の瞳を覗き込む。

仮面と鼻が接触しそうな程の距離で。

ネロが全身から放つ青い光が仮面の眼孔から差し込み、アリウスの瞳をも照らしていた。

まるでアリウスの瞳からも青い光が放たれているかのように。


そしてネロは静かに口を開いた。


『この場』での『選択』の答えを―――。



ネロ『ああ。いいぜ ―――』


口にする為に。


ネロ『さっさと―――』






ネロ『―――失せやがれ』




474 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/15(木) 00:02:00.73 ID:bX8F9ewo
アリウス「―――愛か。泣かせるな」


何もかもを超越している圧倒的な魔を見に宿していながら、
これ程の余りにも人間的過ぎる『人間らしさ』。

『血』に刻まれている『本質』をも退けるその情の強さ。

アリウスはふと思う。


まるでかつてのスパーダのようではないか―――と。


アリウス「―――」


―――そう、スパーダと『同じ』。


アリウス「(―――まさか)」


アリウスはこの瞬間、遂に気付いて『しまった』。



ネロとスパーダの『一番』の共通点を―――。



なぜ魔剣『スパーダ』がネロを選んだのかを―――。


『コレ』だ。


たった『一人』の人間への底無しの『想い』だ。


己の使命も義務も宿命も全てを『捧げて』しまう程に強い『愛情』だ。




475 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/15(木) 00:04:18.94 ID:bX8F9ewo
ダンテは全人類への愛情はあるが、それは『使命』の延長線上の物。
特定の女性に対して恋することも愛を注ぐことも無かった。


バージルはネロが存在する以上、特定の女性を愛した時期があった『『かも』』知れないが、
『『もし』』そうだったとしても後の行動を見る限り結局は『力の探求』を優先した。



だがネロは違う。


彼は『本当』に、そして『永久』に人を愛することを知っている。


スパーダと同じく。


この共通点。


たった一人の女性を永久に愛する心。

悪魔には決して無い感情だ。


それは一見すると陳腐な共通点。


アリウス「―――」


だがこれこそが、スパーダが何よりも守ろうとした『人間』の『一面』ではないのだろうか。


これこそが、スパーダの何もかもを超越した『史上最強の強さ』の原動力だったのではないのだろうか。




476 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/15(木) 00:07:32.53 ID:bX8F9ewo
アリウスは見くびっていた。

先程の考えは甘かったのだ。

どうやら考えを改める必要がある。


ネロにとって、その人間性はもしかしたら弱点には成り得ないかも知れない と。


魔剣『スパーダ』が彼を選んだ要因の一つも『コレ』だったのではないか と。 


アリウス「―――」


そしてアリウスは今、『ソレ』の『証拠』を垣間見てしまう。

否定しようが無いほどにありありと。



ネロ『だが勘違いすんじゃねえ―――』



その底無しの『強さ』を。





ネロ『―――これは始まりだ』





目の前のネロに―――。




477 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/15(木) 00:09:41.92 ID:bX8F9ewo
ネロは確かに『選択』してしまった。

『この場』では だ。

そこから生じる今後の『問題』を放棄したわけでは無い。


むしろ―――。


ネロ『良く聞け』


―――真っ向から戦うつもりだ。


ネロはアリウスに対し宣誓する。


ネロ『―――いつか必ず―――』


この場の『選択』のツケは全て己が払う と。


ネロ『―――俺が何もかもを叩き潰してやる』


己が全部『背負う』 と。


ネロ『てめぇの胸糞悪ぃ便所の落書きみてぇな企みも―――』


己が全ての『責任』を持つ と。


ネロ『―――てめぇの魂をも』


この『選択』は―――。



ネロ『―――何もかもをな』



―――全身全霊を賭けた『戦』の始まりだ と。




478 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/15(木) 00:11:30.94 ID:bX8F9ewo
それは奇しくも2000年前に―――。


ネロ『ここで「全て」に誓ってやる―――』



己がとった『反逆』という選択のせいで―――。



ネロ『―――必ず俺の手で「終わらせる」』



人間界を苛烈な『全面戦争』の舞台へ引き摺り上げ―――。



ネロ『―――俺の手で何もかもを―――』



魔界全土の凄まじい憎しみの矛先を人間界へ集めてしまった―――。



ネロ『―――全てを』



――― 『スパーダ』の言葉と同一だった。



ネロ『―――必ずな』




479 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/15(木) 00:13:29.58 ID:bX8F9ewo
数年前、ネロはキリエを守るというこの一心だけで力を求めた。
そして『血』はそのネロの声に応じ力を与えた。

当然ネロは迷い無く使い、最終的にキリエを救った。
だがそれだけだった。

『それだけ』 だ。


それ以来、ネロはダンテの後を『追った』。
『人間界を守る』という信念を。

だがそれは『ダンテ』の『使命』だ。


ネロのものではない。


彼はただ相乗りしていただけなのだ。


少し雑な言い方をすれば、ネロはダンテの『真似事』をしていただけなのだ。


ネロのあの日以来の全ての行動は、
偉大な祖父の背中を、ダンテとバージルの背中をただ追いかけていただけなのだ。


父や祖父や叔父が切り開いていった『轍』を後から辿って歩んでいただけなのだ。



だがこれからはもうそれが許されなくなる。



この選択をとってしまった以上それはもう許されない。

その偉大な先駆者達の『庇護下』にはもういられない。




480 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/15(木) 00:14:58.43 ID:bX8F9ewo
ネロにも遂にその『時』が来たのだ。

かつて『祖父』が魔界への反逆を決意した時のように。

母の死を目の当たりにし、『最強』となって『血』に刻まれた『戦いの連鎖』に
終止符を打つことを決意したバージルのように。

テメンニグルの搭でバージルと激突し、
父が残した『義務』を『全て』引き継ぎ背負う決意をしたダンテのように。


そして今、ネロにも。


『全て』を背負う覚悟を決める時が来た。

スパーダの一族の『力』を持つ物としての、
『責任』と『義務』に正面から向かい合う覚悟を決める時が。

己の『意志』で、己の『選択』で道を進む『時』が。


彼の『幼年期』は終わりを迎える。


これからは彼は『己自身』の『使命』を胸にして進まなければならない。

己の足で新たな轍を刻まなければならない。


人間界全体の、全人類の『未来』に手を出してしまう『選択』をとってしまった以上、
彼はその『責任』と『義務』に正面から向き合わなければならない。

そして『己の手』で果たさなければならない。

確実に。

絶対に。


成し遂げなければ成らないのだ。




481 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/15(木) 00:17:00.09 ID:bX8F9ewo
ネロの右手から『赤』い光が漏れ出すようにゆっくりと放出され始めた。


それは彼の中にある魔剣『スパーダ』の光。


その赤い光が、ネロが全身から放っている青の光と混じっていき―――。



―――『紫』となる。



『スパーダの色』へと。



アリウス「―――」


そんなネロの姿を目の当たりにしてアリウスは一瞬こう思ってしまった。


この男は『スパーダ』だ と。


アリウスは当然スパーダの姿など見たことは無い。

だがなぜかそう迷い無く思ってしまったのだ。




482 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/15(木) 00:18:03.84 ID:bX8F9ewo
ネロは右手でアリウスの胸ぐらを掴んだまま、
左手に持っていたレッドクイーンを脇の地面に勢い良く突き立て。


ネロ『―――ルシィアァァァァッ!!!!!!!』


後方で騎士に保護されているルシアの名を呼ぶ。
刃が瓦礫に深く突き刺さる音と共に響くネロの怒号。


ルシア「―――!!!!!」


ネロはレッドクイーンの柄から手を離すと、
その手でコートのポケットから小さな黒い石のようなモノを取り出し。



ネロ『―――キリエをトリッシュの所に連れてけ!!!!!!!!』



驚き目を丸くしているルシアの方へと放り投げた。
それは魔界の生命体が元となっている通信魔具。


ネロ『そいつでトリッシュの位置を特定しろ!!!!!!!!』



ルシア「―――は、はい!!!!!!!」




483 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/15(木) 00:20:52.55 ID:bX8F9ewo
アリウス「……」

そのネロの行動の意図をアリウスは即座に察知した。


まずあの博識高いダンテの相棒に判断を仰ぎ、
そしてこの『呪縛』の詳細を禁書目録に解析させ、
イマジンブレイカーにでも消させようとでも考えているのだろう と。


確かに妥当な判断だろう。


だがアリウスから言わせて貰うとそれは不可能だ。

禁書目録は今は『解析』できる『状態』ではない。
詳細を確認せずに強引に消そうとすれば、その『個体』が死ぬ『安全装置』もある。


あのダンテの相棒ならば、時間をかければ解析できるだろうが、
その時は既にアリウスの計画が『本格始動』している頃であり手遅れだ。

まあ、その事を親切に教える義理も無いが。


それに今はそんな事よりも注意を払わねばならない事がある。


アリウス「…………」



このネロの変化だ。


たった今、明らかに精神的に『進化』したのだ。




484 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/15(木) 00:22:46.92 ID:bX8F9ewo
アリウス「(スパーダ……か……)」


その『血』が引き出す予想すら出来ない底無しの『可能性』。

確かに重々承知していたが、ここで改めて痛感する。

己が勝負を挑もうとしている『存在』の大きさに。


だがそれを目の当たりにしてさえ、アリウスは決して押されはしなかった。


むしろ―――。


アリウス「(―――面白い)」


―――彼の心は昂ぶる。


―――『戦い』の『高揚感』で。


この『程度』で挫けてしまうくらいなら、そもそもこんな所に立っていない。


彼の野望。


それは『スパーダの一族に勝ちその力を我が物にする』という、
誰も成し得なかった事実上確率0%の『挑戦』。

その道を歩むことを覚悟した時から、彼は『人類最強の挑戦者』の一人となった。


不可能にも正面から立ち向かうこの心もまた人間の強さの『一面』。

それもまたスパーダが守ろうとした『存在』。


ネロとアリウス。


二人の『強き人間性』の激突。




485 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/15(木) 00:24:22.98 ID:bX8F9ewo
アリウス「いいだろう―――」


そしてアリウスは認めた。

ネロは『獲物』ではない。

乗り越えるべき『タダの障害』でもない。


真っ向から渡り合うべきの『敵』だ と。


己の全てをぶつけるべき『好敵手』だ と。


お互いの根にあるのは同じ『人間性』。


己とこのスパーダの孫は―――。



――― 『兄弟』だと。



『見下し』はしない。


『尊敬の意』を篭めて必ず―――。



アリウス「―――その挑戦を受けてやる」



―――己の手で引導を渡してやる と。




486 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/15(木) 00:26:21.38 ID:bX8F9ewo
その言葉を受け取ったネロは口の端を僅かに上げ、小さく笑った。
胸ぐらを掴んでいた右手を離し、数歩後ろに下がりながら。


アリウス「―――時が来たらこちらから『招待』してやろう」


自由となったアリウスの足元に赤い魔法陣が浮かび上がる。
この場から離脱する為のモノだ。

そして徐々にアリウスの姿が光に包まれ薄れていく。



アリウス「―――その為の『舞台』を用意しておいてやる」



そんな中、アリウスは手に持っていたナイフをゆっくりとに掲げ。



アリウス「『招待状』だ。受け取れ―――」



そして手放した。



アリウス「―――『兄弟』」



小さな金属音を伴って二人の間の地面に突き刺ささるナイフ―――。




487 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/15(木) 00:28:27.67 ID:bX8F9ewo
ネロ『ハッ……そうかい―――』

それを見てネロは小さな笑い声を上げゆらりと右手を高く掲げた。


ネロ『それなら俺は「プレゼント」を用意しといてやるぜ―――』



そして即座に振り下ろす。
その瞬間、彼の右手から赤い光が溢れ ―――。


ネロ『「コレ」だ。良く覚えとけ。てめぇの―――』



―――『最強の魔剣』が出現する。


ネロ『あの世への「切符」だ―――』



振り下ろされた凶悪な刃はナイフを跡形も無く粉砕し―――。



            コ イ ツ
ネロ『―――「スパーダ」がなッ!!!!!!!!』




―――その場の地面に深く突き刺さった。


瓦礫と『招待状の破片』を飛び散らせながら。




488 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/15(木) 00:29:27.69 ID:bX8F9ewo
それを見てアリウスは仮面の下で小さな笑い声を上げた。

そして。


アリウス「―――楽しみにしていよう」



アリウス「―――『ネロ』よ」


彼の姿は光の中へと消える。

続けて魔法陣がかき消されるように消滅し、そして何も無くなった。


何も。


その場にアリウスが残していったのは砕け散ったナイフの残骸だけだった。


ネロ『…………』


それだけだった。




フォルトゥナの争乱はここに『終息』した。
だがそれは新たな、そして更に大きな戦いの『幕開け』にしか過ぎなかった。


ネロの戦いはこれからだ。


『選択』をした『責任』と『義務』を全うすべき戦いは。


魔剣『スパーダ』を受け継ぐ者としての戦いは。


―――






496 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/16(金) 23:01:07.00 ID:.ct4h5co
―――

学園都市。

第七学区。


一人の少女を救う為に突き進んでいく『銀』と『黒』と『赤』―――。


そしてそれを迎え撃つ『オレンジ』と―――。


救われるべき『白』―――。



上条を先頭に、後方両側に一方通行とステイルが続く。

すかさず彼ら三人へ向けて、天空から振り下ろされる巨大なオレンジの光の柱。


上条『―――ッッッッラァ゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!』


どういう訳か、ここに来た時から既に負傷しているステイル、
そして体力が限界近い一方通行ではこの攻撃は防げない。

そう瞬間的に判断した上条は、
その『大剣』を握りこんだ左拳のアッパーで受け止めながら即座に右手の平を押し当てる。

凄まじい轟音と共に激突点から弾け飛ぶオレンジと銀の光の閃光。
同時に幻想殺しの作用で亀裂が走っていくオレンジの『大剣』。

その隙に上条の横を駆け抜けて突進していく一方通行とステイル。
一方通行はその瞬間、先程と『同じく』一本の黒い杭を上条の横に『置いて行く』。


そんな二人へ向け放たれる、インデックスの『竜王の殺息』。

それは先程一方通行の『生身の右手』を奪った時と同じ、

『柱状』ではなく『前面』を全て制圧する、『扇状』の『全面噴射』。




497 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/16(金) 23:06:11.18 ID:.ct4h5co
それを悪魔的な勘で察知したステイルは、
横方向90度にステップを刻み一方通行の背後に回る。


一方『―――オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!!!!!!!!!!』


全ての杭と両腕の義手を前に突き出し、『光の濁流』を受け止める一方通行。

黒い『壁』の表面をみるみる削っていくインデックスの『竜王の殺息』。

このままでは先程と同様、一方通行が弾き飛ばされるのも時間の問題。


だが今はそんな事態になんかはならない。


今の彼は『一人』では無い。


一方通行のすぐ背後でステイルは両手の炎剣を地面に突き立てた。


次の瞬間。


一方通行の前方、突き抜けていく光濁流の真下、そこの地面が赤く光り出し―――。


―――巨大な火柱が火山のように噴き上がった。


猛烈な勢いでぶち上がった『業火の壁』は、インデックスの『竜王の殺息』に真下から激突し、
鼓膜が破裂しそうな程の激音を轟かせながら『拡散』させる。

灼熱の閃光と白の光の雫が混じりながら周囲に飛び散っていく。




498 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/16(金) 23:07:51.68 ID:.ct4h5co
その僅かな一瞬の間だけ、『竜王の殺息』の弾幕が薄れる。

次の瞬間にはステイルの業火は押し戻され、
再び苛烈な弾幕が一方通行らを襲うだろう。

だが彼らにはその極僅かな一瞬だけでも充分だった。



一方『―――いけやァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!』


弾幕が薄れた瞬間、一方通行は先程『置いてきた』一本の黒い杭を一気に引き戻す。


釣り上げるように大きくしならせながら。


その先端には―――。



―――上条当麻。



黒い杭を左手で掴み、右手の平を正面にかざしている上条当麻。

跳躍と黒い杭の力により。砕け散るオレンジの光の破片の中を一気に突き進んでいく。


一方通行とステイルのすぐ頭上を通過し、
そして『拡散』された竜王の殺息の『霧』の中へ突入する。


体の正面にかざしている右手の平で、白い光の粒子の『霧』を切り裂いていきながら。

『霧』を突破し、フィアンマとインデックスの元へと進むべく。


その直後に一方通行とステイルも跳躍し上条の後を追い、
彼が切り開いていく『割れ目』へと続く。




499 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/16(金) 23:12:16.86 ID:.ct4h5co
フィアンマ「(―――そう来るか。まあ妥当だ)」


どうやら、あの三人は『得意』の近距離戦を挑む気なのだろう。


猛烈な勢いで急速に距離を詰めてくる。

上条が先頭になった瞬間、インデックスの『竜王の殺息』の噴射が弱まる。
これはフィアンマが彼女に出しておいた、「幻想殺しは殺すな」という指令が働いた為だ。

勘かそれとも偶然か、
あの三人の少年はその事は知らないのだろうが、結果的にフィアンマの指令が利用される形となってしまった。


フィアンマ「(―――ふむ、まあ仕方ないな)」


フィアンマの遥か頭上に再び巨大な光の柱が精製され始める。

それと同時に彼の周囲にもオレンジの光が充満する。


彼は近距離戦の挑戦を受けるつもりだ。


フィアンマだけならば即座に離脱して距離をあけることも出来るが、
インデックスはそうはいかない。

『今』の彼女はそんな高速移動はできない。

相手が三人もいる以上、インデックスの傍から離れるのは危険だ。
これから始まる『素晴らしいショー』を、幻想殺しによって台無しにされるかもしれないのだ。


わざわざあの三人の得意とする『舞台』に乗り込むのは少々危険だが、
『ショーの開演』までは、己が時間を稼がなければ成らないのだ。




500 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/16(金) 23:18:23.55 ID:.ct4h5co
上条は先程から迷っていた。

上条『―――』

今、インデックスを救う為の一番の要は『己の右手』。

それはわかっている。
ステイルの言うとおり、『あの時』と同じ戦法で行けば救えるの『だろう』。


だが上条は『あの時』の記憶が無いのだ。


今までの経験から言うと、『何』を幻想殺しで破壊すれば良いのかは薄々予想がつく。


だがその『どれ』を『優先』すれば良いのかが上条には判断しかねたのだ。


フィアンマの持っている霊装(もしくは魔具)か、
それともインデックスの前面に浮かび上がっている複数の魔方陣か、

その魔法陣は同時に全て破壊する必要があるのか、
それとも一つ壊せば連鎖的に全て崩壊していくのか。

それとも直接インデックスに触れる必要があるのか。


複数思い浮かぶ候補。


恐らくどの行動をとってもそれなりの効果があるだろう。

だがどれが最も効果的なのかがわからない。


全てを試している暇も無いし、そもそもこれ程の相手なら、
そう何度も簡単にチャンスを与えてくれるはずも無い。


どれかを優先して、そこに全力をつぎ込まなければならないのだ。




501 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/16(金) 23:20:06.41 ID:.ct4h5co
更にリスクの面でも問題がある。

こういう見るからに高度な術式とわかる『現象』には、
何かしらの保険なり安全装置なり罠がある可能性が高い。

相手方がそう意識してなくとも、偶発的に大変な事態になってしまうこともある。


幻想殺しは使い方によっては事態をかなり悪化させる事もあるのだ。
記憶に新しいのでは、偶然だったとはいえウィンザーの事件で大悪魔を解き放ってしまった事も。


今の懸念なら、例えばフィアンマの持っている霊装。


あれが『動力源』ならば、破壊した瞬間全てが解決するだろう。
だが『タダの操作端末』だとしたら。

そうだった場合、インデックスに『乗り移っている何か』は
機能停止するどころか暴走を起こす場合だって充分ありうる。

最悪、リミッターやら何かしらの箍が外れて自壊してしまう恐れもあるのだ。



上条『―――」


こんな時はいつも『彼女』が隣から的確に指示してくれた。


インデックスが。


だが今、彼女は『隣』にはいない。

『檻』に閉じ込められ『敵』として正面に立っている。


彼の助けを待ちながら。




502 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/16(金) 23:23:10.74 ID:.ct4h5co
ステイルは言う。

『あの時』と同じく と。

だが上条はわからない。

『あの時』と『今』のどの『部分』が同じなのかが。

その『同じ答え』が『どれ』なのかが。


上条『―――』


唯一の解決手段は。


ステイルに『聞く』こと。


だがそれは今まで隠してきた己の『記憶喪失』を明かしてしまう事に繋がる。

先程から時々インデックスの声が聞こえてくる辺り、
彼女は『あそこ』から今も『見ている』のかもしれない。


つまり一番知られたくなかった想い人にも知られてしまう可能性が。



君との『出会い』は俺は覚えていない。


君と過した『あの時間』は俺は覚えていない。


君との『絆』が始まった『あの頃』を俺は覚えていない と―――。




503 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/16(金) 23:25:51.50 ID:.ct4h5co
しかし。

視界に入るインデックスの姿で上条の中で『何か』弾け飛ぶ。
『小さな苦悩』から彼を叩き起こすかのように。


上条『(―――うるせぇ―――ふざけんな―――)」


そう、今はそんな『小さな事』で迷っている場合ではないのだ。


上条『(―――何考えてんだよ俺は!!!!)』



今はインデックスを救わねばならない。

何よりも彼女の『命』を。


上条は遂に決意する。
白い光の粒子の霧を、幻想殺しで裂いていきながら。


彼女を救えるのならば。


上条『―――ステイル!!!!!「理由」は後にしろ!!!!!』


彼女を守れるのならば。



上条『教えてくれ!!!!!俺は「あの時」―――』



こんな秘密など『安い』。



上条『―――インデックスをどうやって助けた!!!??』


『安すぎる』。




504 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/16(金) 23:27:45.92 ID:.ct4h5co
ステイル『―――』

当然、突然そんな事を言われてステイルは一瞬困惑する。

眉をピクリとさせて。

だが『「理由」は後にしろ』という言葉を飲み込む。
確かに聞きたい事や疑問がこの瞬間一気に湧き上がって来たが、今はそれどころではない。

ステイルは即座に口にする。

ステイル『―――魔法陣だ!!!!彼女の前にある魔法陣の「全て」を「一度」に破壊しろ!!!!!』

上条が失っていた『記憶』を。


そしてお互いをサポートしている、『三人』の戦士は白い光の霧を『難なく』突破し―――。


上条『―――わかったぜ!!!!!!!!!!!!』


―――フィアンマとインデックスの前5m程の場所に着地する。


凄まじい慣性エネルギーを受け、足を地面にめり込ませながら。


その瞬間、続けて三人は即座に前へと踏み出す。


迸る『銀』の煌きはインデックスへ―――。

吹き上がる『爆炎』はフィアンマへ―――。

大気を切り裂く『黒い影』は、二人の間でどちらをもサポートできる位置へ―――。




禁書『―――開錠完了まで残り15秒』


―――




506 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/16(金) 23:30:24.36 ID:.ct4h5co
―――

学園都市第七学区。

とある少年達の決死の戦いの場へと、真っ直ぐに突き進んでいく青白い閃光が一つ。
ビルを次々とぶち抜き、正に文字通り『一直線』に。


『神』とも称される程の、圧倒的な存在の『全面的な支援』を受けている『人間』。

右目の眼孔と左肩から大量の青白い閃光を噴き出している『メルトダウナー』。

背中から紫の、その凄まじい存在の『畏怖の象徴』たる『翼』を生やした『魔人』。

完全に覚醒したアラストルを従えた『麦野沈利』。

人の身でありながら、『神の領域』に足を踏み込んでいる強者。


アラストル『来たぞ ―――』


そんな彼女に急速に接近してくる―――。


麦野『―――っせぇ―――んなもん ―――!!!!!!』


―――『神々』から見ても何もかもを『超越』している正真正銘の『怪物』。


麦野『―――わかってるってーんだよぉおおおおおおおおおおおあああああああああああ!!!!!!!!!!』


振り返りながらアラストルを一気に斜めに振り下ろす麦野。


そしてその刃に十字状に交差し直撃する―――。


―――青いの光の『斬撃』。




507 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/16(金) 23:35:20.47 ID:.ct4h5co
耳を劈く金属音。

弾け飛ぶ『光の爆発』。



とてつもない衝撃を受け、砲弾のように打ち出され大きく弾き飛ばされる麦野の体。

ビル一つを丸々ぶち抜き、更にその後方のビルへと一瞬にして叩き込まれる。


麦野『―――ッッッッ!!!!!!!!』


その瞬間、麦野の背面から大量の青い閃光が『逆噴射』され、
同時に背中の翼が紫の巨大な稲妻を放散させて一気にブレーキ。


そして大量の粉塵と火花を撒き散らせながらも、
二棟目内部の三階フロアでようやく麦野の体は止まった。


麦野『―――ッ……はぁッ……!!!!』


破壊された薄暗いオフィスの中、麦野は今の一撃の『余韻』を静かに味わう。


たった一撃。


それだけでも、あの攻撃を放ってきた相手がどれ程の怪物なのかは手に取るようにわかる。

痺れ震えるアラストルを握る右手。
早くも感覚が麻痺しかけている。




508 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/16(金) 23:39:16.08 ID:.ct4h5co
アラストル『恐怖するにはまだ「速い」ぞ小娘。今のはほんの「挨拶」程度だ』


麦野『…………黙ってろ!!!……わかってるってんだよっ!!!!』


アラストル『ならば集中しろ。次だ―――』


そう、こんな所でゆっくりしているヒマなど当然与えられるはずが無い。


麦野『―――』


一気にビル全体を覆い尽くす咽返るような殺気と悪寒。



アラストル『右に跳べ――――――』


魔剣の指示に従い、
いや、半ば操られているかのように麦野は瞬時に横に跳ねる。


床のタイルにめり込む両足。
噴射される電子のジェット。


砕け、そして溶かされた破片が舞い飛―――


―――びかけた瞬間。



――― 縦一閃、ビルを『丸ごと』両断していく青い光の筋。




509 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/16(金) 23:44:42.10 ID:.ct4h5co
麦野『―――』


横に跳ねた麦野の、僅か 50cm横の空間を切断していく凶悪な光。

彼女の栗色の髪の先端を、不気味な程に抵抗も無く切断していく。
まるで爽やかな風に優しくなびいたかのように。

跳ねた麦野はそのままの勢いで外へと、
ビルの壁面を突き破り離脱するべく突き進む。



だがこの凄まじい『殺意』は彼女に更に手を伸ばす。


甲高い金属音と共に。

間髪いれずにビルの中に縦横無尽に。

ネズミ一匹をも逃がさまいとでも言うかのように網状に走る―――。


麦野『―――や―――ば―――』



――― 『無数』の青い光の筋。



そして次の瞬間。

麦野の離脱を許さずに。

ビルが丸ごと『解体』され一瞬で姿を変える。

大きさ1m以下の欠片の雨に。

周囲の建物をも巻き込んで。




510 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/16(金) 23:49:19.55 ID:.ct4h5co
余りにも滑らかに、そして抵抗も無く切断された破片は飛び散らない。

まるで砂に返ったかのように、真っ直ぐ真下へと倒壊していくビル。


その瓦礫の『滝』の中から一気に飛び出してくる―――。



――― 青白い光の衣を纏った、球状に丸まった『紫色の翼』。



翼の表面には無数の細い筋が何重にも刻まれていた。


電子の衣によって焼かれた破片の煙を引きながら、
200m程離れた場所の道路へと落下していく翼の塊。


だが激突するかという瞬間。


翼がふわりと大きく開き、中から姿を現す麦野沈利。


広げられた翼が一度羽ばたき、そして麦野の体を静かに下ろした。


大気を切り裂き焼き付ける音と共に、
迸る青白い閃光と紫の稲妻が周囲を照らし出す。


闇夜の街に舞い降りた、
不気味でありながらも美しい、許されざる『女神』を。




511 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/16(金) 23:52:32.92 ID:.ct4h5co
麦野『―――はぁッ……!!!!』

安堵の気持ちが篭められた息を軽く吐く麦野。


あの瞬間、背中から伸びるアラストルの翼が瞬時に麦野を包み、
幸いな事に彼女が傷を負う事はなかった。


まあ、『傷を負う』というよりは『死ぬ事』を防げた と言った方がいいだろうか。


一瞬でもあの光の刃に触れてしまえば『良くて』致命傷だ。



トリッシュ『―――まだよ。まだ足りないわ。もっと接近して』



脳内で響く、リンクしているトリッシュからの声。


麦野『チッ―――』


そう、まだだ。


もっと現地に接近しなければ意味が無い。


あの『怪物』を引き連れて だ。




512 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/16(金) 23:56:23.97 ID:.ct4h5co
だがそれは余りにも困難な事。


麦野『―――』


麦野は改めて実感する。



アラストル『―――気を抜くなよ小娘。ここからだ―――』



――― その『怪物』を遂に視界に捉えて。



アラストル『―――見ろ。御出でになられたぞ』



道路の向こう、100m程の場所に悠然と立っている『怪物』を。


その姿を見た瞬間、何もかもがくじけてしまいそうな。


呼吸困難に陥ってしまうかと思ってしまう程の存在を。




アラストル『―――「兄上」殿だ』




513 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/17(土) 00:01:05.50 ID:i6GKZy6o
バージルは左手に閻魔刀を携えながらやや早歩きでこちらに向かってくる。
青いコートをなびかせ、突き刺さるような鋭く冷たい瞳で真っ直ぐに麦野を見据えながら。


トリッシュ『いい?余計な事は考えないで感覚と本能に素直に従って―――』


アラストル『委ねろ。ここで塵と成りたくなければ全てを受け入れろ―――』


トリッシュ『大丈夫。私達がいるから。それに―――』


麦野の胸の『赤』い光が強まる。
それを見て一瞬だけ僅かにバージルの眉が動く。


アラストル『―――我がマスターも付いていて下さる』


トリッシュ『―――信じて』


アラストル『―――信頼しろ』



麦野『―――うん』



小さく頷く麦野。

それとほぼ同時にバージルは柄に手を当て―――。


―――抜刀する。


―――そして再び放たれる『次元斬り』。


―――






527 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/19(月) 00:05:27.40 ID:s/QJOwgo
―――


フィアンマ『―――』

フィアンマはその瞬間感じ取った。

あの『怪物』が近くまで来ていると。


だがまだだ。

確かにリスクを考えれば今すぐにでも離脱するべきなのだが、
これから待望の『ショー』が始まるのだ。

こんな時に退くなど余りにも生殺しだ。

それに近いとはいえそれなりに距離がある。
こちらへ殺意を向ける気配も『まだ』無い。



フィアンマ『(大丈夫だな ―――さて)』


半ば己に言い聞かせるかのように、フィアンマは頭の中で呟き。


フィアンマ『(―――こちらをどうにかしようか)』


『ショー』を台無しにしようと、突進してくる三人の少年へと意識を戻す―――。




528 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/19(月) 00:08:13.46 ID:s/QJOwgo
フィアンマへ向けて、炎剣を一気に振りぬくステイル。

インデックスに突進し、彼女の前にある魔法陣をぶち抜くべく右手の平を突き出す上条。


そして炎剣と幻想殺しがそれぞれの『標的』へと直撃―――。


フィアンマ「―――はは」


―――する直前。


二人の少年の前にオレンジの光の壁が出現する。


ステイル『―――ぐがッッッ!!!!!!!!』


上条『―――!!』


あと一歩、あと一瞬というところで光の『衝撃波』に行く手を阻まれる。

上条の幻想殺しは難なくその『壁』を貫通したものの、
『壁』自体は崩壊せず右手を省く全身がとてつもない衝撃を受ける。


ステイルの炎剣も弾かれ、
二人は全身に受けた凄まじい衝撃により一気に後方へと吹き飛ばされ―――。



―――るかと思われたが、

後方にいた一方通行の黒い杭が二人の背中を押し留める。




529 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/19(月) 00:09:16.97 ID:s/QJOwgo
距離を開けられたら終わりだ。

再び圧倒的な物量で一方的に釘付けにされ、
ステイルと一方通行のスタミナが無駄に消費され、そして迎えるは完璧な敗北。

何としてでもこの近距離の『舞台』に張り付いていなければならないのだ。


一方通行の支援により、『舞台』から弾き出されるのを免れた二人。

だが『それだけ』だ。


根本的な問題は解決しない。


標的との『たった4m』の距離が縮まないという問題は。


ステイル『―――!!!!!』


ステイルには更に光の第二波が襲いかかり。


上条『―――』


上条には『竜王の殺息』。

太さは40cmほどだろうか、そ
の光の柱が上条の顔面へ向けて4mという近距離から放たれた。


上条は即座に右手をかざし受け止め、
そして撫でるようにいなしながら上条は身を落とし一気に前に踏み込もうとするも。




530 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/19(月) 00:11:07.30 ID:s/QJOwgo
地を這う程に身を低くした上条の背中を。

真上から押し潰すかのように―――。


上条『―――がッ―――』


―――オレンジの巨大な光の柱が彼を襲う。


一瞬にして踏み潰されたカエルのように地面に叩きつけられ、這い蹲る上条。


上条『―――ぉ―――がァアアアアアアアア!!!!!!!!』


全身に圧し掛かる凄まじい重量。


幻想殺しのおかげか、手首から先は自由に動くが、
それ以外の全身が1mmも動かせないほどに固く押さえつけられる。

背中を真上から押さえつけている『光の柱』を壊そうも、自由なのは手首から先だけ。

腕を挙げ幻想殺しを背面に伸ばすこともできない。


一方でステイルは、背中を押してくれる一方通行の黒い杭の支援と共に
前面から絶え間なく押し寄せてくる、オレンジの光の衝撃波を耐えるだけで精一杯だった。


『標的』までの距離は僅か4m。

必要な歩数はたった一歩。

必要な時間はほんの一瞬。


だが前に1mmも進めない今の二人にとって、その距離は途方も無く遠いものだった。




531 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/19(月) 00:13:25.16 ID:s/QJOwgo
一方『(―――バカ正直に突っ込む奴がいるかよアホ共が ―――!!!!!!)』


インデックスの弾幕を抜けたのも束の間、すぐに釘付けにされてしまった二人を見て、
頭の中で悪態をつく一方通行。


そんな『最後の一人』である彼の方へと監視カメラのレンズのような瞳を向ける―――。


一方『(―――まァ、そォ来るよな)』


―――インデックス。


再び己に向けて、『竜王の殺息』が放たれるのを即座に察知した一方通行。

あれをバカ正直にまた直接受け止めてしまったら、
『めでたく』三人とも釘付けで動けなくなる。


『直接』受け止めてしまったらの話だが。


彼はその瞬間、一気に前に踏み出す。

巨大な『光の柱』で、地面に押さえつけられている上条の方へと。

ちょうどインデックスと一方通行、その間に聳え立つオレンジの『光の柱』を割り込ませるように。


そんな位置関係の中。


一瞬後に、一方通行に放たれた『竜王の殺息』は当然―――。


一方『―――ハッ』


――― 二人の間に聳え立っている『光の柱』にぶち当たる。




532 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/19(月) 00:15:12.32 ID:s/QJOwgo
確かにこのオレンジの『光の柱』、異常なほどに長く巨大な『大剣』は恐ろしい攻撃だ。

だがこうして『盾』として『利用』させてもらうと。


一方『(―――助かるぜ―――)』


なんと頼もしいことか。

インデックスから放たれてくる光の弾幕を直撃し続けてもビクともしない。



その隙に一方通行は、
ステイルの背中を押さえていた黒い杭を今度は彼の胴に巻きつけ一気に引き寄せる。


ステイル『―――』


当然支えを失ったステイルは、衝撃波に押し負けて後方へと弾き飛ばされるが、
腹部に巻きついている黒い杭によって遠くへ吹っ飛ばされる事無い。


伸びきりピンと張る黒い杭。


突然の事態にも関らずステイルには驚きもしていなかった。


一方通行と目があったからだ。



533 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/19(月) 00:15:58.73 ID:s/QJOwgo
その一瞬のアイコンタクトで二人の『戦士』は意志を疎通させる。


左足の先端に力を集中させるステイル。


太陽のように光を放ち形成される『炎の脛当て』。


そんなステイルを一気に引き寄せながら両拳を固く握りこみ、

その『義手』を大きく引く一方通行―――。


そして。


一方『―――オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!!!!!!』


前方の『光の柱』にその漆黒の拳を叩き込む。



ステイル『ハァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ―――!!!!!!!!!!!!』



同時に引き寄せられたステイルの飛び蹴りもぶち込まれる。


一方通行の頭上、僅か数センチのところを掠り通り。




534 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/19(月) 00:17:52.07 ID:s/QJOwgo
二人の渾身の激打を受けるも、
光の柱には亀裂一つ入らない。


だがびくともしなかったわけではない。


側面からの凄まじい衝撃を受けて、オレンジの光の柱が一瞬だけ。


一瞬だけ僅かに『浮く』。


そして。


上条『シッ―――』


上条の拘束も緩む。

その瞬間、
上条は一気に身を捻り仰向けになりながら右手の平を『光の柱』に叩き付けた。


1秒後。


光の柱に瞬く間に亀裂が走っていき。

先程から噴射されていた『竜王の殺息』に耐え切れずに『爆散』する。




535 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/19(月) 00:19:32.38 ID:s/QJOwgo
飛び散るオレンジの光の欠片。

そんな中、拘束から解放された上条は跳ね起き、
再びインデックスへの再突撃を図ろうとするも。


上条『がぁッ―――!!!!!』


またしても光の衝撃波で即座に止められてしまった。


一方『―――「野郎」を先にやンぞ!!!!』


見かねた一方通行が声を張り上げる。


上条『―――』


ステイル『―――』


そう、このままじゃ埒が明かない。

インデックスに近付こうとしても即座に防がれてしまう。
三人で強引に突破しようにも、そんな事をしたらフィアンマが『自由』に攻撃をしかけてくるだろう。

インデックスの竜王の殺息はまだ何とか反応ができるものの、
フィアンマの『光』の衝撃波攻撃は『受けてから』じゃないと認識できない。

回避することができないのだ。


ならば。

一方通行の言うとおり、『野郎』を先に『潰す』。
殺しまではしなくても良い。

先程のように、一部の遠隔攻撃できる力を奪ってしまえば良い。


上条の幻想殺しで。


『光』を奪ってしまえば良い。




536 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/19(月) 00:24:02.39 ID:s/QJOwgo
上条とステイルは、一方通行に返事も目配せもしない。

そんな『必要』が無いからだ。


一方通行の声が耳に入った瞬間二人は即座に地面を蹴り、
フィアンマの方へと突進する。

これ以上の、お互いの確たる意志疎通を証明する応えがあるだろうか。



フィアンマ「―――そうか―――」


フィアンマの背中から伸びる巨大な腕が大きく揺らぎ、
彼の全身を包む光の衣の輝きも増す。


フィアンマ「―――遊んでやる」


その光の衣に叩きこまれる―――。



上条『―――ラァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!』



ステイル『―――ハァアアアアアアアアアア!!!!!!!!』



―――上条の蹴りとステイルの炎剣。




禁書『―――残り10秒』




537 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/19(月) 00:25:59.22 ID:s/QJOwgo
立て続けに連続蹴りを叩き込む上条。

それに重ねてステイルの炎剣ラッシュ。

息付くまもなく。


ガトリングガンのような猛打。

二人が放つ激打の数は秒間三桁に達する。


だがそれほどの数をもってしても。

フィアンマの衝撃波攻撃と巨大な腕の『盾』をすり抜けたのは極一部。

そんな一部も。



禁書『―――9』


今度はフィアンマの全身を包む光の衣にぶち当たり、防がれる。


猛打の中、上条の幻想殺しがフィアンマの『巨大な腕』に触れる。


人間程度の腕力と速度しかない右腕を、
この超高速下でのラッシュの中に織り交ぜるのは至難の業。

そして上手く標的に当てれたとしても。



禁書『―――8』



破壊する『まで』の接触は許されない。


『遅すぎる』のだ。


『処理が完了』するよりも『速く』。

肘辺りに光の衝撃波が直撃し、彼の右手が大きく弾かれてしまう。




538 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/19(月) 00:27:27.19 ID:s/QJOwgo
二人の猛打を捌く、

放たれる衝撃波と振るわれるトカゲのような巨大な腕。

そのコンビネーションはあまりにも完璧すぎた。



禁書『―――7』



それを掻い潜りフィアンマの光の衣に攻撃が到達しても。
その激突点は分散。

先程のように一点集中が出来ない。

同じ『点』に連続して叩き込まなければ、薄くなるどころか直ぐに再生してしまう。



二人では無理だ。

フィアンマと上条・ステイル。

完全に拮抗し膠着状態。


この状況を覆すにはもう一人。


もう一人の攻撃の『手』が必要だ。



禁書『―――6』



『三人目』が。




539 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/19(月) 00:28:45.34 ID:s/QJOwgo
だがその三人目は手が離せなかった。


フィアンマに猛攻を続けるステイルと上条の『背中』を守っている『黒』。

インデックスから。


射線上にフィアンマがいるからか、先程のような全面噴射はしないものの、
『竜王の殺息』の火力は凄まじい。

二人の背中を貫こうとインデックスから放たれる『光の柱』を、
両手の『黒の義手』で『捌く』一方通行。


そう、『捌い』ていた。


先程までとは違う。

真っ向から『受け止め』、『ただ堪えていた』のでは無い。

そしてもう一つ違う点があった。

それは彼の背中から噴出している『黒』。

形は『杭』状ではなかった。

ばらつき、『雑』な影。


つまり。


彼は黒い『杭』の演算を切っていたのだ。




540 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/19(月) 00:30:41.15 ID:s/QJOwgo
では、その莫大な演算力は今はどこに使われているか。

それは―――。



禁書『―――5』



―――彼が捌いている『竜王の殺息』に対して だ。


確かに『竜王の殺息』の性質は未知。
そして細かな粒子の性質もそれぞれが微妙に異なる。

だが。


一方『(俺を誰だと思ってやがンだ―――)』


こんなに腐るほど受ければ。
そして全ての演算をつぎ込めば―――。


一方『(ワンパターンなンだよ―――)』


全ての性質を解析とはいかないが―――。


一方『(―――こンだけ喰らェばよォ―――)』


―――粒子間のそれなりの『共通因子』は見出せる。



一方『(―――バカでもわかるぜ)』


そしてその『共通因子』を己の能力に『適用』すれば―――。




541 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/19(月) 00:34:14.21 ID:s/QJOwgo
全ての性質を解析できれば、触れずとも完全にベクトルを操ることが出来る。

だがそこまでは不可能だ。

彼と一万の妹達の頭脳を持ってしてもリアルタイムでは完全解析不可。


しかし。


『共通因子』だけを強引に揺さぶれば、ある程度は制御が可能だ。

あとはこの『黒い義手』で力ずくで補正すれば良い。



一方通行の黒い義手に当たる『竜王の殺息』。

『共通因子』を持っていない一部の粒子が義手に直撃し弾け飛ぶ。


だが残りの大半は―――。



一方『(―――充分だ。いけるぜ)』



――― 今や一方通行の支配下だ。



禁書『―――4』




542 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/19(月) 00:36:29.17 ID:s/QJOwgo
フィアンマ「―――」


突如フィアンマの瞳に映る白い閃光。

目の前で彼に猛打を加えてくる二人の少年の隙間をすり抜けて目前に迫る―――。



――― 『竜王の殺息』。



それは一方通行が捻じ曲げた『大砲』。

彼の手に当たった『竜王の殺息』は、
光の屈折のように角度を変え、ピンポイントでフィアンマの顔面へと照射された。


全く意識していなかった攻撃方法に、フィアンマの思考が一瞬だけ遅れる。

僅か数百分の一秒程度。

だがそれだけでも時間は充分すぎる程だった。

顔の前にある光の衣に、竜王の殺息が到達するのに。


苛烈な弾幕を顔面に受け仰け反るフィアンマ。


彼は即座に右手に持っている霊装で『攻撃停止』の命令を送る。




543 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/19(月) 00:39:14.17 ID:s/QJOwgo
そして照射が終わり、フィアンマの視野を覆っていた白い閃光は消えるも。

次に彼の瞳に映った色は『太陽』。

それは眩く輝いているステイルの『足の裏』。


フィアンマ『―――』


竜王の殺息から解放されたのも束の間。
今度は顔面に蹴りが炸裂した。

ステイルの足は光の衣に激突し、オレンジの欠片を飛び散らせる。

だが貫通はしなかった。


『竜王の殺息』とこの『一撃』をもってしても、フィアンマの防護は敗れなかった。




そう、この『一撃』では だ。



フィアンマ『―――しまっ―――』



事が終わってしまってからフィアンマはようやく気付いた。

この竜王の殺息もステイルの蹴りもただの時間稼ぎ。

これは己の注意を逸らす為の行動だ と。


『上条』から。



フィアンマの巨大な腕の先端に触れている―――。



禁書『―――3』



―――『幻想殺し』から。




544 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/19(月) 00:40:06.40 ID:s/QJOwgo
フィアンマ「―――お前ら―――」


フィアンマの顔から笑みが消える。

そして同時に。


『加護』も消える。


『光』を失うフィアンマ。


巨大な腕を振るい、即座に上条を捕えようとするも―――。


ステイル『―――オオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!』


―――その手は届かなかった。


上条の腹部へ蹴りを放ち、彼を『後方』へと吹っ飛ばしたステイルによって。


上条を『後方』へ。


そう、インデックスの方へ―――。



禁書『―――2』




545 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/19(月) 00:41:40.70 ID:s/QJOwgo
蹴り飛ばされた上条は即座に身を捻り―――。



右手の平を進行方向へかざす―――。



―――インデックスの方へ。




彼女の前に浮かんでいる魔法陣をぶち抜くべく。




愛おしいあの少女を―――。



何よりも大切なあの少女を―――。



―――檻の中からこの手で解放するべく。



絶対に守るという魂の『誓い』を―――。



―――果たすべく。




上条『―――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ―――!!!!!!!!!!』




546 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/19(月) 00:42:28.00 ID:s/QJOwgo
禁書『―――1』


突き出された上条の右手の平が遂に届く。


一枚目の魔法陣を貫通する。



ガラスのように砕ける魔法陣。



禁書『―――警告―――』



更に二枚目。



飛び散る光の欠片。



禁書『―――致命sjje―――的な損傷を―――』



そして『最後』の。



三枚目を―――。



禁書『―――確n―――kaoo―――wggghi―――』




547 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/19(月) 00:45:06.01 ID:s/QJOwgo
その瞬間。


上条『―――イン―――』


少女の瞳に戻る―――。


その顔に戻る―――。



禁書「―――ま」


『インデックス』の光。



禁書「―――とうまあああああ―――!!!!!!!!!」



そして遂に上条は聞いた。


聞くことが出来た。

『インデックス』の声を。

そこから続く―――。



禁書「―――お願い!!!!!!―――」



禁書「―――逃げtalogh―――alppqg」



禁書『――――――――――――開錠完了。損傷部の修復完了』



―――絶望の言葉も。




548 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/19(月) 00:47:20.92 ID:s/QJOwgo
『インデックス』の光が戻ったのは僅か『一瞬』だった。


僅か一瞬。


そして無情にも『元』に戻る。



上条『―――クス!!!!!!!』



届きかけた少年の右手は。


上条『―――インデックス!!!!!!!!インデックス!!!!!!!!!』


再び切り離される。


覚醒した『怪物』によって。



上条『―――あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛―――』



インデックスの頭上に『青と金』の奇妙な魔法陣が浮かび上がる。


まるで『天使の輪』のように。




549 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/19(月) 00:48:58.35 ID:s/QJOwgo
それは『エノク語』の魔法陣。


それは『魔女』の業。


それは『怪物』の息吹。



そして同時に、彼女の周囲にも複数の同系の魔法陣が浮かび上がり―――。



禁書『「ローラ」、出力25%』



禁書『「メアリー」、出力48%』



そこから一気に噴出する―――。



禁書『―――「アンブラの鉄の処女」。迎撃開始』




―――『青と金』の大量の繊維。




―――青髪と金髪の『ウィケッドウィーブ』。




550 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/19(月) 00:50:01.32 ID:s/QJOwgo
噴き出した大量の髪が凄まじい勢いで伸びていく。
余りの速度に、この三人ですらまともに反応できなかった。


一部は上条に、一部はステイルに。
そして残りは一方通行に。


一瞬にして彼らの全身に巻き付いていき。


上条『―――ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!』


地面に叩き落し拘束する。

三人がどんなに暴れても。
どれ程の力を篭めてもまるでびくともしない程に固く。


解き放たれた圧倒的な力。
その前に三人は成す術なく一瞬で屈してしまった。



禁書『―――確保。制圧完了』



ふわりと浮かんでいるインデックスが事務的に一言。

三人の少年の敗北を告げる。

完璧な敗北を。


淡々と。

無感情に。


―――




558 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/21(水) 23:13:47.42 ID:WTgngCUo
―――

遡ること数分前。

学園都市。
第七学区。

とある少年が行使した魔術によって氷原と化していた一画。

そこに佇む少年と少女。

肩と足を真っ赤に染め地面に力なく座り込んでいる海原と、
彼の前に屈み手当てをする御坂。


海原「………………大丈夫です。このくらい……」

と、御坂の顔を見ながら口を開くも、その表情はいつもの柔和な笑みとは到底言えなかった。

幻影剣が貫通した右肩と脛から溢れ出てくる真紅の液体。
その激痛は彼の鉄壁の『仮面』をも歪めていた。


御坂「大丈夫なわけ無いじゃないの!!!!!黙ってて!!!」


手当てをする御坂の手つきは決して手馴れたものではなかったが、その処置方法は正確だった。
上条に同行するに当たり暗記した、任務要項に記述されていた応急処置術がここで役に立ったのだ。

周囲の氷を電熱で溶かしながら傷口に当て、汚れを流し落とす。
そして着ていたパーカーの一部を引きちぎり、肩口と太ももをきつく縛る。

更に周囲の瓦礫から能力で鉄筋を抜き出し、電熱で消毒した後に限界まで細く捩じ上げて、
ホチキス代わりにして傷口を縫い止めて行く。




559 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/21(水) 23:15:48.01 ID:WTgngCUo
細くしなやかな指が海原の血で真っ赤に染まっていく。

だが一切臆することなく処置を進めていく御坂。


海原「…………」

そんな御坂の姿をぼんやりと海原は眺めていた。

その姿は、最早『誰かに守られる』者ではない。

彼女は信じられないほどに強くなっていた。

『誰かを守る』者になっていた。


海原「………………」


つい先程、海原も守られてしまった。

とんでもない存在を前にし、彼は本能的な恐怖から理性を失って自ら死を招きかけていた。
まるで怯えきり所構わず吠えまくって牙を向く犬のように。


だが御坂は決して負けなかった。

御坂は冷静に状況を分析し、
『今の己達とバージルが衝突する理由は無い』と判断し正確に行動した。

彼女の精神は揺らがなかったのだ。

その恐怖に屈さなかったのだ。




560 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/21(水) 23:17:52.96 ID:WTgngCUo
そんな御坂の姿を思い起こし、そして今の彼女の姿をも眺めながら。


海原「…………ああ……ますます……あなたに惚れそうです」


海原は思わず心の中の言葉をストレートに漏らしてしまった。
意識が朦朧としていたせいもあるだろう。


御坂「黙れってば。喋らないで」


そんな海原のうわ言を特に気にすることも無く流す御坂。


海原「…………すみません……」



御坂「…………これで……ひとまずは……!」

しばし経った後、額の汗を手の甲で拭いながら小さく呟く御坂。

一応の応急処置が完了したのだ。

だが安心はしていられない。

確保できたのは『猶予』。

次はこの時間稼ぎが有効である内に、
彼を全うな医療施設に運ぶ必要がある。




561 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/21(水) 23:19:46.45 ID:WTgngCUo
御坂は横方向に左手の平を掲げた。

すると先程手放した大砲が能力によって浮かび上がり、
彼女の手へと電撃を迸らせながら舞い戻ってきた。


御坂はその大砲を海原の前に下ろしながら。

御坂「これの上に座って!」


御坂はこの金属の塊を運搬車代わりにして、
海原を病院まで運ぶつもりなのだ。


海原「…………」


海原もその意図がすぐにわかった。

だが彼は御坂の顔を静かに見つめるだけで、動こうとはしなかった。


御坂「ほら―――」

そんな海原に肩を貸そうと御坂が手を伸ばしたが。


御坂「―――?」


その華奢な手は、海原の震える左手で鷲掴みにされ止められた。
そして海原はゆっくりと口を開く。




海原「―――『こんな事』を……している場合では無いでしょう?」




562 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/21(水) 23:21:52.52 ID:WTgngCUo
確かに御坂は海原の命を救った。

だが彼女はその為にここに来たわけでは無いのは確かだ。

海原は気付いている。

御坂は敏感に『あの事態』を察知して、そこに向かおうとしていたのだ。
奮戦する一方通行達の元へと。

彼女の戦いの『舞台』へと。


海原「…………」


それなのに、自分のせいで彼女をここに足止めさせてしまう。
弱い己のせいで、彼女の『歩み』を妨害してしまった。

海原にとってそれがたまらなく嫌だった。

何が彼女を『影で守る』だ。
そんな偉そうな事など最早言える立場ではない と。

今は『お荷物』になってしまっているではないか と。



御坂「『こんな事』って……!すぐ運ばなきゃ!!!!」


海原「……貴女がここに来た『理由』はわかります」


海原「こんなところで…… 『道草』などせずに行って下さい」


海原「ここから約1km北です。『音と光』を辿れば……すぐに着くでしょう」




563 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/21(水) 23:23:00.66 ID:WTgngCUo
御坂「―――」


そう、もともとここで海原を助ける予定など無かった。

あの『現地』へ直行するつもりだった。
だが一方で彼女は、瀕死の者を見捨てるほどの『鬼』にもなれない。


御坂「―――ダメよ!!!先に運んでから―――」


海原「―――行って下さい」


御坂「―――ダメだってば!!!」




海原「―――行け!!!!さっさと行くんだ!!!!!」



御坂「―――ッ……」



海原「―――お願です……頼む」


海原「―――行って……下さい」


海原「自分は……大丈夫ですから……ほら」

海原は御坂の手を離し、その左腕で原典の端を掴んだ。

淡く輝きだす原典。


海原「心配要りません……この『程度』じゃ死にませ……んよ」


海原「…………一応それなりの『力』もありますから」




564 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/21(水) 23:24:31.12 ID:WTgngCUo
御坂「…………」


御坂には肌で力を感じる感覚は無いが、
一応素人目にも海原がそれなりの強力な力を有しているのがわかる。


御坂「…………わかったわよ」


御坂「じゃあ……必ず病院行ってね。絶対よ」


海原「……ええ、もちろん」


そして御坂は大砲を手に持ち、
ゆっくりと立ち上がり北の空を見据えた。


オレンジの光が空を照らし、
地上からは巨大な火柱がビルの背丈を越えて空高くぶちあがっていた。




565 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/21(水) 23:28:32.44 ID:WTgngCUo
御坂「…………ちょっと聞いて良い?何でバージルがここにいるの?目的は?」


その方向を見据えながら、御坂は静かに口を開いた。


海原「……わかりません。『彼ら』については……貴女の方が良くご存知かと」


御坂「……そう……ね。じゃあ行くわ」


海原「…………聞かないんですか?」


海原はその御坂の後ろ姿に向け、最後に問う。
なぜ彼が『事情』を知っているのか聞かないのか と。

御坂は、そもそも海原が『暗部』に関っている事すら知らなかったはずだ。

ましてや、暗部なんかが『可愛く』見えてしまう程に深いこんな『裏』にまで。


御坂と同じ『裏』の世界の住人だという事など。


それに対し御坂はそっけなく答えた。
振り返らず、特に気にする風も無く。



御坂「―――お互い様でしょ」



まるで当たり前の事にかのように。




566 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/21(水) 23:30:51.64 ID:WTgngCUo
海原「……ですね。それもそうだ」


海原「最後にもう一つ……お願いがあります……理由は聞かないで下さい」


御坂「……何?」


海原「今後、『表の世界』で『自分』に会った時は―――」



海原「―――この『裏』の話は絶対にしないで下さい」



海原「―――『表の自分』は何も『知らない』んです」



海原「約束してください……」



御坂「……わかった。約束する」


御坂は背を向けたまま、呟くように応え。


そして即座に能力を行使し、
電撃を迸らせながら跳躍して街の中へと消えていった。




567 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/21(水) 23:32:57.06 ID:WTgngCUo
そんな御坂の後姿を見送りながら海原は小さく呟いた。


海原「……さようなら……御坂さん」



あの姿を見れるのはこれで最期だと思いながら。



彼は先程嘘をついた。


己には力がある。
この程度では死なない と仄めかし。


だがそれは嘘だ。


確かに力はある。

しかし体は『人間』だ。


悪魔や天使のように驚異的な治癒力はあるはずが無い。

治癒魔術を行使するにしても、
幻影剣によってこう体内の力がかき乱されていたら最早不可能。


強大な力を有する原典があろうと、
その『器』が壊れてしまったらもうどうしようもない。




568 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/21(水) 23:34:56.04 ID:WTgngCUo
もし御坂に魔術についての知識があったら、その嘘はすぐに見抜けただろう。

そして即座に真実に気付いていただろう。


彼はこのまま死ぬと。



『裏』の海原、魔術師エツァリはこの場で終わりを迎える。

海原「(…………)」


ゆっくりと目を閉じていく。


海原「(……なあ…………)」


共に薄れていく意識。

重い瞼が、彼の『世界』に徐々に幕を降ろして行く。

そんな彼の脳裏に最期に浮かび上がった顔。


海原「(………………………………)」



それは恋心を抱いていた御坂では無く。



海原「(………………………………ショチ……トル……)」



―――




569 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/21(水) 23:36:27.04 ID:WTgngCUo
―――


放たれた次元斬り。

同時に麦野は半歩横に動きながら、アラストルを薙ぐ様に横一閃に振るう。
その銀の刃から放たれる、青白い閃光に包まれた紫の斬撃。


直後に麦野が一瞬前までいた空間を寸断していく次元斬り。

その空間に走る光の筋とすれ違いに、
電子を帯びた紫の斬撃がバージルへと直撃する。

大気を引き裂き、焼き付ける音を発し周囲を粉砕し溶解させて。


麦野『―――』

いや、直撃した『よう』に見えただけだろう。

その姿は見えないがあの強烈な殺気が、
舞い上がった粉塵の中から先と変わらずこちらを真っ直ぐに捉えている。


向かうべき『現地』は正面、あの粉塵の向こう。

つまりバージルの方へと向かい、
更にその奥へと彼を引き連れて進まなければならない。


と、その時。


トリッシュ『―――あー、ちょっといい?』


脳内に響くトリッシュの声。


麦野『……何?』




570 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/21(水) 23:38:12.99 ID:WTgngCUo
トリッシュ『私、少し外すから。心配しないで。感覚は繋げておくから』


麦野『―――な?!おい!!!外すって―――!?』



トリッシュ『―――大丈夫。アナタにちょっとした「プレゼント」用意するから』



トリッシュ『―――あ、あと作戦変更』


トリッシュ『無理して進まなくて良いから、「防御」に徹して彼をそこに繋ぎ止めて置いて』


トリッシュ『とにかく「時間」まで死なないで』


麦野『―――ど、どういう―――!!!?』


トリッシュ『アラストル。頼むわよ』



アラストル『―――お任せを』



麦野『―――ちょ、ちょっと!!!!おい!!!!』


そこでトリッシュの『声』がプッツリと途切れた。
感覚は今だに繋がっているものの、トリッシュとの対話が出来なくなったのだ。




571 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/21(水) 23:40:12.97 ID:WTgngCUo
アラストル『話は後だ。集中しろ』


麦野『チッ―――!!!』


麦野は立ち込める粉塵へ向けて、
即座に左肩から伸びる電子のアームをかざす。

そしてその『三本指』の異形の『手』から放たれる特大のビーム。

『放たれる』という表現の他に、
アームそのものが『形を変えて伸びた』とも言えるかも知れない。


研究者間での名称は『粒機波形高速砲』。


ただ、アラストルの力が流入している今の『ソレ』は正確にはそう呼べないかもしれないが。

その破壊力も運用方法も、
既存の『原始崩し』のデータからは到底考えられないモノだ。


以前なら自壊してもおかしくない特大のビームを、

今の麦野は容易く放ち、
そして一秒にも満たない僅かな時間の内に40発以上を放つ。


『連続射撃』ではなく『一斉射撃』で。




572 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/21(水) 23:42:34.52 ID:WTgngCUo
麦野付の研究員が見てしまったら卒倒してしまうような光景。

だがその彼女の相手は、データどころか既存理論の概念すら全く当てはまらない、

『あらゆる法則を完全に無視した』規格外の正に『有り得ない』存在だ。



麦野『―――』



放たれた大量のビームが粉塵に着弾する瞬間。

甲高い金属音と共にそのビームの束がパックリと『割れる』。


抵抗の欠片もなく恐ろしいほどに滑らかに。


そしてその『割れ目』の向こうに見えるバージルの姿。

いや、『向こう』に見えたのは一瞬だ。


なぜなら。


麦野『―――!!!!!!』


次の瞬間にはバージルは麦野の目の前、僅か3mの場所にいたからだ。


閻魔刀の柄に手を当て、低く腰を落としながら だ。




573 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/21(水) 23:43:54.43 ID:WTgngCUo
麦野『―――ッッッッ―――!!!!!!!』

気付き『意識した』時にはもう遅い。


振りぬかれる閻魔刀。



そして。



麦野『―――」



上半身と下半身を分断され―――。





―――ていただろう。





アラストルが目覚めていなければ。




574 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/21(水) 23:45:25.05 ID:WTgngCUo
その瞬間、麦野が『意識する』前にアラストルが彼女の右手ごと動いた。


麦野『―――ッぁあああ!!!!!!!!』


激突する刃。

水平に振り抜かれた閻魔刀を、斜め上に打ち流すアラストル。

正に耳を『裂く』ような、硬い金属同士が擦れ弾ける音。

閻魔刀の刃が、アラストルの刃面を覆っている紫の電撃の衣を剥ぎ取っていく。



アラストル『――― 下がれ』


同時に彼女の脳内に響く魔剣の声。

彼女は無意識の内に、能力の噴射と共に後方へと跳ねる。
アラストルがまるで麦野の体を操っているかのように。

閻魔刀の『直接』の間合いから離脱するべく。


だがそう易々と逃れられるわけでもない。

上方へといなされた閻魔刀。


バージルは即座に返し。


今度は振り下ろす。


更に速く。

更に凶悪に。




575 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/21(水) 23:48:17.49 ID:WTgngCUo
麦野が能力を全開し、そしてアラストルの支援を受けての後方への跳躍でさえ、
バージルにとっては遅かった。

冷酷な二撃目が麦野に振り下ろされる。

麦野『―――』

再び動く『アラストル』。
頭上に水平に構え、垂直に振り下ろされる閻魔刀の刃を受け止める。

今度はアラストルでさえ少し反応が遅れてしまった。
『器』が麦野『程度』である事も原因の一つだ。


閻魔刀の刃を、アラストルはいなすことが出来ず直で受け止めてしまったのだ。


先程とは違い、短くも激しい金属の激突音。


麦野『―――ぐッ―――!!!!!!!』


大量の火花が散り、衝撃がストレートに麦野の体へと伝わっていく。

あまりの衝撃に、跳躍し浮きかかっていた麦野の体が再び地面に『着地』させられた。
両足が地面に叩きつけられめり込み、膝も曲がり、腰も低く落ちる。


そして顔を地面に向けている麦野の瞳に映る。


今しがた振り下ろされたばかりの閻魔刀が―――。


麦野『―――』


――― 『もう』返され、その刃が上を、己の顔の方へと向いていたのを。

今度は彼女を下から切り上げようとしているのを。




576 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/21(水) 23:49:32.93 ID:WTgngCUo
続く三撃目。


今度は下から。


トリッシュの感覚とアラストルの力に全てを委ね、
麦野は大きく仰け反りながら、右手の痺れも気にせずにアラストルを一気に振り下ろす。

下から振り上げられる閻魔刀へと。



三度激突する二つの魔剣。


軍配は当然―――。



――― 閻魔刀に。



ダンテが振るったアラストルならまた結果は違っていたかもしれないが、今の使用者は麦野。
アラストルがどんなに強大でもその差は歴然。


勢い良く弾き返され―――。


麦野『―――』


――― 麦野の右手から離れ飛ぶアラストル。


一方で『ほどんど』速度を減衰させずに振り上げられてくる閻魔刀―――。




577 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/21(水) 23:50:56.94 ID:WTgngCUo
だが、『ほとんど』だ。

極僅かだが、確実に速度は減衰していた。

そしてその一瞬の時間の猶予が麦野の命を繋ぎ止める事になる。

振りぬかれた閻魔刀。

その刃は仰け反る麦野のワンピースコートのへそから胸元、
ちょうど両乳房の間を縦に切り裂いたが、その刃はギリギリ肉に達することはなかった。

もし、バージルが無意識の内に正中線を正確に狙う、生粋の正統派の達人ではなかったら。
そして麦野の剣激でその剣線がぶれてしまう『程度』の者だったら。

場合によっては、麦野の豊満な乳房の片方を縦に切り裂いてしまっていたかもしれない。


まあ今の麦野にしてみれば、そんな事などどうでもいいのだが。

そんな些細な事など。



今、目の前を舞っている―――。



――― 切断されたバラに比べれば。



それは麦野が懐に大事にしまっていた『象徴』。


『赤』。


その『赤』が。



麦野『―――あぁぁぁぁあああッ―――!!!!』



斬られていた。




578 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/21(水) 23:52:32.67 ID:WTgngCUo
最期の灯火のように薄く儚く光っているそのバラ。

水を一滴も与えずとも決して弱まることがなかったのに。


今、彼女の目の前でバラは一瞬にして萎れていった。


麦野『(―――待てよ!!!!!―――)』


徐々に弱まっていく光。


麦野『(―――ダメ!!!!―――だめ)』


そして完全に光を失い。


麦野『(―――待てってば―――)』


花は散り。


麦野『(―――だめだって…………ば―――)』


麦野と『融合』していた『思念』も消失した。


完全に。




579 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/21(水) 23:56:53.50 ID:WTgngCUo
その舞い散る花の向こう。

仰け反り、上方へと顔を向けている麦野の瞳に再び映る。

先程と同じような光景が。


今度は上下が逆だったが。



振りぬかれた閻魔刀は再び返されており―――。



麦野『―――』


―――その刃が今度は麦野を『見下ろして』いた。



バラは死んだ。


アラストルは麦野の右手を離れ、宙を舞っている。

今やその凶悪な刃から彼女の身を守るモノは無かった。

アラストルとの接続が切断され、彼女の背中から生えていた紫の翼も一瞬で消失する。
閻魔刀はアラストルを弾くどころか、彼女と魔剣の繋がりをも破断したのだ。

当然、アラストルを中継点として繋がっていたトリッシュとも ―――。


その驚異的な感覚も―――。


彼女は戻ってしまった。

神にも比する力を失い。


『タダ』の『レベル5 第四位 麦野沈利』に。




580 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/22(木) 00:00:15.24 ID:/m2gKgIo
振り下ろされる閻魔刀。


麦野「―――」


『奇跡』は起きない。

『あの時』のようには。

こんな絶妙なタイミングでまた現れる訳が無い。

そんな『御伽』のような展開など―――。


それが『現実』。


麦野もそれはわかっていた。


だがそれでも―――。


麦野「(―――どこ―――」


―――あの男を『信じ』たかった。


麦野「(―――いるんでしょ……―――)」


麦野を闇から救い上げた、彼女のヒーローを。



麦野「(―――どこなのよ……ねえっ……―――)」




581 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/22(木) 00:01:33.39 ID:/m2gKgIo
その時。


突如麦野の目の前、閻魔刀と彼女の間に割り込んできた『影』。



まるで壁のような、大きな大きな『背中』。



それはトリッシュの言っていた『プレゼント』。


そして―――。










「――― よう―――」










―――それは麦野が今一番見たかった『色』。




『赤』。



―――




585 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/22(木) 00:06:31.48 ID:DJCLcNoo
ダンテェーイ…



587 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/07/22(木) 00:52:27.15 ID:NfLl68Uo
きたああああああああ!!





次→ダンテ「学園都市か」【MISSION 14】








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禁書目録SS   コメント:1   このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント一覧
561. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2010/10/20(水) 09:03 ▼このコメントに返信する
本スレに追いつかないことを願うわw
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