澪「恐怖、ヤッテヤルデス」

2010-09-22 (水) 20:15  けいおん!SS   2コメント  
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6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] :2010/09/13(月) 22:21:05.19 ID:zgxjQaqD0
― しんや!


誰もいなくなった桜高。その音楽室。

トンちゃんの水槽の水音だけが響いている。


ドアが開くと、そこを照らし出す懐中電灯の光。警備員だ。

「異常なし」

老いた警備員は部屋を一通り見渡すと、隅の鍵箱を開いてパトロールレコーダーに鍵を挿し込む。

カチリという動作音とパイロットランプを確認し、再び彼は外へ出て行った。


それを見計らったように部屋の片隅から出てくるモノがいた。


一見するとツインテールをした少女の頭の形状を持つ生首である。

しかしその生首はツインテールを使い自立していた。

もみ上げとなる部分も30センチほどの長さを持ち、それは手の役割を果たしているのだろうか、

そして窓枠によじ登ると難なくその「髪腕」で窓を開き、夜の闇へ消えていった。





7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] :2010/09/13(月) 22:23:43.29 ID:zgxjQaqD0
真っ暗だ…。

…ここはどこだろう?


『よし!ゴキブリ殺せ』

『死ねぇぇええええええ!!!!!ゴキブリィイイイイイイイ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

『ゴキブリをやっちまえば解決だろ』『ゴキブリ』

『ごきにゃん死ね』『ごきにゃん』

『あずにゃんぺろぺろ』 『ゴキブリ死ね』

『ツインテールが触覚みたい』『ツインテール片方切ったら死ぬ』

『唯に近づくな』『ごきにゃんうざい』『あずにゃん人気ないな』


真っ暗な世界に突然響いていくる声。男女ともつかない異様な声。

それは全部私を指しているらしかった。




8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] :2010/09/13(月) 22:26:54.60 ID:zgxjQaqD0
…誰?どうして…?

…私のこと?

左右を見ても闇は広がり、何も見えない…。

声のトーンは強くなり、どんどんその人数も増えてくる。

「や…やめて…」

思わず耳を塞ぐ。

それでもその声は容赦なく飛び込んでくる。

「やめて!」

その途端、無数の声は沈黙した。




9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] :2010/09/13(月) 22:29:43.07 ID:zgxjQaqD0
恐る恐る私は目を開けると、もう声はしなかった。

まるで朝日が射しこむように世界が白くなっていく。

そして現れた真っ白い世界は清潔そのものを感じさせるようだった。


「ヤッテヤルデス」

変な声が背後からした。


「な、何コイツ…」

驚いて振り返った私の目の前には自分と同じ顔をした生首があった。

生首のくせになんか言ってる、そう思った時、そのまま唐突に世界は停電したかのように真っ暗になった。




11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] :2010/09/13(月) 22:40:14.24 ID:zgxjQaqD0
「あっ…夢か…」


次に梓の視界が開けた時には見飽きた自室の天井があった。

「…ひどい夢」

梓は小さな溜息をつくともう一度眠りに落ちた。


夜明けはもう近く、透き通った秋の空はうっすらと青みを帯び始めていた。




12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] :2010/09/13(月) 22:41:56.17 ID:zgxjQaqD0
― あさ!

「ふぅ…」

和はいつものように見慣れた通学路を歩いていた。

たった数分早かっただけなのに通学路を歩く人はまばらだ。

ふと脇のブロック塀を見ると黒い生き物が歩いている。

それを視界の隅で捉えつつ今日の授業についてを考えようとした時だった。

その黒い生き物は振り向いた。

和が猫かカラス程度だと考えていたそれは能面のような顔をした梓だった。

違う、梓ちゃんじゃない。生首だ。

和がワンテンポ遅くその事実に気づいた時、既にそれは家の影に消えていた。




13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] :2010/09/13(月) 22:43:08.50 ID:zgxjQaqD0
― がっこう!


二時間目の休み時間。あまりに不気味な光景を目にして以来貧血のごとく気分が悪くなった和は机に俯せていた。

唯「あれ?和ちゃん具合悪いの?」

和「え…?そう?」

唯の心配そうな問いかけに和は体を起こして外していたメガネを掛けながら答える。


梓「唯先輩!」

その時だった。梓が教室を覗き込んだ。


和「ひっ!」

和は思わず悲鳴を上げて仰け反る。




14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] :2010/09/13(月) 22:44:11.67 ID:zgxjQaqD0
梓「…和先輩?」

唯「和ちゃんどうしたの?」

和「な…なんでもない!なんでもないから!」

和は唯を振りほどくようにしてそっぽを向いた。

梓「唯先輩。さっき私に携帯渡したまま忘れてたんですか?」

梓はそれを気にしつつ唯に携帯を手渡す。

唯「あっ~忘れてたよ!あずにゃんありがとう!」

梓は思いもしない和の拒絶が少し心に引っかかりながら自分の教室へ向かって行った。




15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] :2010/09/13(月) 22:47:13.03 ID:zgxjQaqD0

― ほうかご!


澪「う…」

澪は部室のドアノブを回そうとした瞬間、不吉な予感に襲われ手を離した。

これを開けるとなにか良くないことが起きる。そんな感じだ。

律「あれ?澪?何してんだ?」

澪がドアの前で逡巡していると、後ろから律がお構いなしにいきなりドアを開けた。

澪「っ!」

澪は思わず律の後ろに隠れる。

律「なんだよー?部室の中になんかいるのか?」

律は部室に躊躇いなく入った。




16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] :2010/09/13(月) 22:48:55.63 ID:zgxjQaqD0
澪も続いて恐る恐る足を踏み込む。

光が差し込む部室の中は何の異常もなく、いつもの状態だった。

トンちゃんは水槽でふわふわと泳ぎ回っている。

澪「は…は…」

拍子抜けしたように澪は近くにあった椅子に座り込んだ。


すぐにムギと梓が現れる。

澪「…あぁ、ムギ…梓」

梓「あれ?澪先輩。顔色悪いですよ?大丈夫ですか?」

紬「さっき、和ちゃんもなんか具合悪そうだったわ―」




19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/13(月) 23:02:38.39 ID:zgxjQaqD0
ムギが最後まで言い終わらない内に部室のドアが勢い良く開く。

そこに立っているのは純だった。

梓「あれ?純?何―」

梓が怪訝そうに近づこうとすると純はそのままガクガクとまるでマリオネットのように梓の方へ歩みだした。

そして突然ガクッと項垂れた純の後頭部には更に頭がくっついていた。

梓「え?」

澪「ひいい!」

澪は転び律の方に逃げる。

律「ん?」

あさっての方を向いて全く気づいていなかった律がゆっくりと振り返る。




20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/13(月) 23:04:18.30 ID:zgxjQaqD0
律「ぎゃあああああああああああ」

頭は突然立ち上がり、折りたたまれていた真っ黒い脚が伸びる。

そのまま純の肩に登ると、純を打ち捨てて澪に飛びかかる。

純はそのまま頭から机に倒れこんだ。

紬「!」

澪「ひいっ」

澪が飛びかかるのをなんとか避けると、頭はそのまま床に突っ込む。

それは地面に激突すると痛みのあまりかのたうちまわり始める。

律「澪!」

律は咄嗟にスティックを地を這うそれに突き立てた。




21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/13(月) 23:05:02.31 ID:zgxjQaqD0
律の手には発泡スチロールかウレタンを突き抜いたような不気味な感触が走り、

やがて芯となる何かに当たったのかスティックの沈み込みが止まる。

スティックが刺さったままもがくようにのたうちまわる異生物。

黒い足のようなものはバタバタと床に叩きつけられる。

澪「り、りつううう!」

澪は律にしがみつく。

もう生涯、見ることのないような不気味な光景が広がる。

梓「…」

紬「みんなどけて!」

ムギの怒鳴り声がその沈黙を破った。

ムギは細かく痙攣する異生物に消火器を叩きつけた。

ペキョ、といった奇妙な音を立て異生物はABC消火器に潰れた。




23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] :2010/09/13(月) 23:09:44.82 ID:zgxjQaqD0

紬「な、なんなの…これ…」

澪「…」

律「と、とりあえずさわちゃん呼んでこよう…」

梓「ちょっと待ってください純が!」

梓は慌てて机に突っ込んだまま動かない純に駆け寄った。

梓「純!起きて!純!起きろ!」

半ばパニックになってしまったのか梓はめちゃめちゃに純を揺さぶる。

律「お、おい梓!やめろ!危ない!」

紬「ダメ!そんな乱暴なことしちゃ!」

澪「せ、先生呼んでくる!」

律と紬は梓を押さえ込み、澪は急を知らせに職員室へ走った。




24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] :2010/09/13(月) 23:10:47.42 ID:05PtTnfO0
死ねよ糞ゴキブリ



22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] :2010/09/13(月) 23:06:39.97 ID:TzFFMM7A0
ムギちゃんマジ勇者



25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] :2010/09/13(月) 23:11:25.85 ID:zgxjQaqD0
間もなく数人の先生とともにさわちゃんが駆け込んでくる。

さわ子「みんなケガはないの!?」

澪「全員無事…いや、あっ、あれ純ちゃんが!」

さわ子「!?」

さわちゃんは真っ先に慌てて倒れたままになっている純を抱き起こした。

さわ子「…い、息は!?」

さわ子「生きてる…」

さわちゃんは安心したようにため息をついた。

純「あ…」

さわ子「あっ!す、鈴木さん!大丈夫?」




26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] :2010/09/13(月) 23:16:31.22 ID:zgxjQaqD0
純はしばらく呆然とさわ子の顔を見つめた後、その胸に顔を埋めた。

「うわああああ!!!!先生ぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」

純の泣き声が響き渡る。それも当然であろう。

訳のわからない生物にしがみつかれたその心情は察して余る。


律「あ、あの…ところで…それが…」

律が転がった異生物を指さした。

さわ子も純を抱いたままその指の先を見る

さわ子「な…なにこれ」

先生1「きゅ、救急車呼んできます!」

ここであっけに取られていた先生のひとりが駆け出していった。

「な、なんですかねこれ…」

梓が傍にあったマイクスタンドを掴むと、その脚でまだ痙攣している異生物をつついた。

「あ、おい。やめろって…」




27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] :2010/09/13(月) 23:24:24.24 ID:zgxjQaqD0
律が制止する以前の問題であった。

異生物は女子高生ごときに刺されたヒッコリー材のドラムスティックの貫通と、

総重量たかだか4.9キロのABC粉末消火器10型の直撃を問題になどハナからしてはいなかったのだ。

消火器を払い除け、そのツインテールもとい、髪腕とでも呼ぶべきであろう毛髪製の腕でスティックを引っこ抜いた。


澪「ひ!」

紬「あ…梓ちゃん…」

梓「えっ!?」

律「嘘だろ…」

さわ子「…」

一同がその不気味な景色と、
その異生物の顔とでも言うべき部位の造形に凍りつく中、異生物は外に軽やかに飛び出していった。




28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/13(月) 23:25:55.13 ID:/qcI6YuN0
スプラッタ映画みたい



29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] :2010/09/13(月) 23:28:27.87 ID:zgxjQaqD0
― よんふんにじゅうびょうご!


3年2組の教室では唯を含め掃除当番が教室掃除の真っ最中だった。

唯「あ、ゴミ捨ててくるね」

唯がゴミ箱を抱えて廊下へ出て行く。

そして間もなく響き渡るごみ箱の転がる音。

(唯、コケた?)

唯の存在が最近気になって仕方ない姫子は微笑ましいなぁなどと思いつつ、

その様子を見ようと自在ほうきを片手に廊下を覗き込んだ。


しかし、姫子の目に入ったのはのたうちまわる唯と髪の長い生首だった

「え!ちょっ、ウソっ!?」

姫子はほうきを放り出して駆け寄ると生首を引きはがしに掛かる。

しかし恐るべき馬鹿力で唯にしがみつく生首はびくともしない上に唯の抵抗が弱まってくる。




30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] :2010/09/13(月) 23:32:15.64 ID:zgxjQaqD0
「誰か!」

姫子の声でクラスメートが数人飛び出してくるが、あまりの光景に硬直する。

「あ゛っ…かはっ…!」

唯の声が苦しげになる。生首の髪の毛は唯の首を絞めるかのごとくその首にまとわりついていた。


「っ!」

姫子は転がっていた自在ほうきを逆さまに掴むと、思い切り柄をフルスイングで生首に打ち込んだ。


姫子は柄が折れる音と不気味な感触を感じた。

生首は吹き飛び、そのまま窓に激突して学校用ガラスを粉砕し外に落下していった。

「あ゛……ひ…ひめごぢゃん…あ゛りがど…」

唯が頭を起こして弱々しく姫子に礼を述べた。




31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] :2010/09/13(月) 23:33:53.65 ID:QF5S63NoP
姫子ちゃんマジ勇者



32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] :2010/09/13(月) 23:34:32.01 ID:05PtTnfO0
さすが姫子ちゃんだな



34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] :2010/09/13(月) 23:37:18.49 ID:zgxjQaqD0
唯が頭を起こして弱々しく姫子に礼を述べる。

その顔は赤を通り越し、紫色すら帯びている。唇も切ったのか血が付いている。

姫子は唯を抱き抱えて呆然と見ているだけのクラスメートに叫んだ。

「早く先生を!」

「な、なにあれ!?」

「おい!どうした!」

「センセイ!」

「ぎゃー今のって何あれ!」

この騒ぎを発端に廊下は大混乱に陥り、ほとんどの生徒が理由もわからないまま、

地震を察知したネズミの如く帰り支度もそこそこに学校から逃げ出し始めていた。




35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] :2010/09/13(月) 23:47:35.37 ID:zgxjQaqD0
― ごふんじゅうろくびょうご!

堀込「こ、この野郎!よくもうちの生徒を」

刺股片手に駆けつけた堀込先生以下男性教諭陣が窓の下で異生物を敵討ちと言わんばかりに

凶器片手に袋叩きにしている頃、恐怖の現場となった廊下ではようやく唯が担架で保健室へ連れて行かれるところだった。

さわ子「立花さん!」

遅れて知らせを受けたさわ子がその現場に到着すると、ガラスが割れ、
ゴミ箱とその中身が散乱した異様な光景が広がっていた。

「唯が…」

その中心で姫子が放心したように立ち尽くしながら、さわ子の顔を見て呟いた。

「ようし!警察が来るまで覆っておきましょう」

その声を聞き、すっかり風通しの良くなった窓に駆け寄ったさわ子は、

窓の下で堀込先生のサスマタに押さえこまれ、今まさに重し付きドラム缶で覆われるモノを見た。




37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] :2010/09/14(火) 00:06:22.96 ID:6KPSG3Jc0
―ほけんしつ!


唯が保健室に運び込まれると、既に軽音部の4人が揃っていた。

律「唯!」

梓「唯先輩…」

澪「大丈夫なのか?!」

紬「ゆ…唯ちゃん…」

唯がベッドに座ると、背後のカーテンが開けて純が顔を出した。

純「ゆ…唯先輩も襲われたんですか?」

唯「うん。そうなんだ…ゴミ捨てに行ったらガバーッシャーッだよ!」

唯は心配掛けまいと普段の調子を取り繕おうと精一杯振舞っていた。

しかし、振り上げた腕は弱々しく下がり、唯の目からは涙がとめどなく流れ落ちた。




38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] :2010/09/14(火) 00:14:10.18 ID:6KPSG3Jc0
「こ…怖かったよぉ…」

唯の髪はめちゃめちゃに乱れ、ブラウスには切った時の血が生々しく残っている。

そしてその白い頚にははっきりと異様な痣が残されていた。

それは確実に唯が生命の危険にさらされた事の紛れもない証拠でもあった。

唯はそのまま泣きじゃくり、紬は歩み出ると唯を優しく抱きしめた。

「唯ちゃん…怖かったよね…もう大丈夫…」

唯の涙は紬のブラウスとブレザーを黒く濡らしていく。

紬はその体温を感じながら、その恐怖を再認識はじめていた。

そこへドアが開き、さわ子が駆けこんでくる。

「唯ちゃん!?」

「さ、さわちゃああああああああああん!!!!!」




39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] :2010/09/14(火) 00:20:56.84 ID:6KPSG3Jc0
「さ、さわちゃああああああああああん!!!!!」

唯は更に声を上げて泣いた。その声はその場にいる全員の胸を抉るように響いた。

「良かった…唯ちゃん…」

しばらく紬に変わって唯を抱きしめていたさわ子は唯を優しく離すと再び立ち上がった。

「もう大丈夫だから…安心してね…」

さわ子はそう言いながら、内心恐怖心を全く拭い去れていなかった。

警察官要請は既に他の教師たちが済ませたようだが、救急車も警察もまだ到着してはいない。

ましてあの生物を封じ込めているのはたかだがドラム缶である。

もしも、もしもということばかりがさわ子の頭の中を走っていた。




40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/14(火) 00:27:24.44 ID:6KPSG3Jc0
ごめん今の俺じゃキチガイグロ路線しか書けんかった
いっそ落としてくださいさわちゃんは俺の嫁ごめんなさい寝るごめんさない




41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/14(火) 00:30:13.01 ID:hQWrawwQ0
キチガイグロ路線いいじゃない



42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] :2010/09/14(火) 00:30:39.59 ID:QeZtCGCR0
ちょwwおやすみー乙!



45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] :2010/09/14(火) 01:45:28.95 ID:3l7Qv9hj0
ヤックデカルチャーにみえた



75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/14(火) 22:26:51.04 ID:6KPSG3Jc0
>残業だったごめん重いごめん許して勘弁して




さわ子は警察官要請の有無を確認していたわけではなかった。

事態が事態なだけに勝手に警察官要請はなされただろうという思い込みはさわ子以外の教員にも広がっており、

混乱時にありがちな思い込みが生じていた。

実際には発生後唯一電話機に触っていた養護教諭は救急車要請しか行なっておらず、その電話している光景を見て

各々は勝手に警察にも電話しただろうと思っていただけに過ぎなかった。

その養護教諭は防災訓練では教頭が通報を行なっていたことを踏まえて、気を利かせたつもりで警察には電話していなかった。

誰かが警察を呼べと叫び、そのあと何人かがその場から姿を消していれば警察を呼びに行ったと思い込んでも確かに仕方はない。

そして近隣の消防署と消防分署からは養護教諭による「動物に襲われ生徒二人がケガ」という情報で救急車が出動した。




76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/14(火) 22:27:36.99 ID:6KPSG3Jc0
ガツン、という音が保健室に響き渡ったのはそれから数秒後の事であった。

保健室にいた全員が何事かとその音の方向を見ると、音の出所は窓だった。

ガラス窓には梓の顔、もといさっきの頭が張り付き、執拗にその額と思われる部分をガラスに打ち付けていた。

唯「ひいいっ!?」

唯の悲鳴で我に返ったさわ子は片手で思わず乱暴に唯を引っ張り寄せた。

律「さわちゃん!」

純「いやあああ」

純が裸足で真っ先に保健室を飛び出していった。

梓「あっ、純!」

澪「せ、先生逃げよう!」

澪の声でようやく全員は保健室を飛び出した。




77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/14(火) 22:28:59.87 ID:6KPSG3Jc0
幸いにも保健室のサッシは断熱型に交換されており、厚さ5ミリのフロート強化ガラスが入っていた。

熱処理によって強度を上げてあるそれは、バレーボールや硬球の直撃程度ではまず破損しない。

それは頭が今まさにやっている額による攻撃も同様であった。

頭はガラスの向こうの5人が居なくなるのを見てから、窓から窓へと飛び移り再び移動を開始した。


どこへ逃げればいいのかわからない。

飛び出した瞬間さわ子はそう思った。それでも逃げるしかない。

この子達の命が懸かっているという一心で必死に考える。

外線電話に掛けられるのは職員室、防犯用の刺股も職員室。ドアのガラスと鍵が交換されているのも職員室。

「職員室よ!」

ヒートアップする思考の中、結論をたたき出したさわ子は即座に全員を引き連れ職員室へ走った。




79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/14(火) 22:32:59.71 ID:6KPSG3Jc0

年代物の木製ドアを壊れんばかりに蹴り開け、全員が職員室に入ったことを確認するとさわ子はドアを閉めて鍵を掛けた。

カチリという動作音で思わずため息が漏れる。

「せ、先生…」

だが、恐怖に怯えた紬の声でさわ子は再び地獄に突き落とされた。

紬が指差す先には全開になっている窓が目に入った。

開け放たれた大型窓は涼し気な秋の風を職員室に招き入れ、汗ばんださわ子以下5名を冷やした。

「…あ、開いてる」

さわ子は愕然とした面持ちで呟いた。そして窓際のデスクには蠢く物体がいた。

頭だ、最悪だ。さわ子がそう思ったときには頭が恐ろしい跳躍能力でこちらへジャンプしていた。




80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/14(火) 22:37:24.42 ID:occ8z9ZV0
普通に怖い



81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/14(火) 22:43:30.57 ID:6KPSG3Jc0
「逃げて!」

さわ子が叫ばずとも全員が一斉に職員室内に散った。

頭は机を足場のように使い、運悪く手近で標的となった律を追いかけ回す。

「今度は私かよっ!」

律が叫びながら職員室内を逃げまわる。

素早い律と頭の追跡劇でゴミ箱は吹っ飛び、電話機は落ち、書類が散らばっていく。

梓はその隙にドアのカギを開けるとそのまま開け放った。

「律先輩!ドアへ!早く!」

律が最後に脱出したところで梓がドアを閉めたものの、

頭はあろうことかドアのステンド張りのガラスをぶち割って外に転がりでてきた。

頭上を飛んだ頭と目が合った梓は腰が抜けてそのままへたり込む。




82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/14(火) 22:50:47.12 ID:6KPSG3Jc0

「ぎゃあああああああ」

悲鳴を上げた梓を気にしたさわ子はそのまま段差に引っかかって転んだ。

膝を打ったさわ子が立ち上がりながら、後ろを振り向くと頭はもう1メートルほどの距離まで迫っていた。

「ひっ」

小さく悲鳴を上げたさわ子の脳裏には走馬灯のように記憶が蘇る。

だが最後には私が死んだらこの子達はどうなるんだろう、そう考えて反撃を選ぼうとしたさわ子は教師の鑑だった。

ところが頭はさわ子を無視して飛び越し律達を追った。

「あっ、く…っちょっと!」さわ子は立ち上がると靴を脱ぎ捨てその後を追った。




83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/14(火) 22:51:21.17 ID:6KPSG3Jc0

律を先頭に生徒玄関から飛び出そうとしたところに、刺股を片手に堀込先生が現れた。

「先生!あれ!」

「頭が!」

「襲ってきます!」

律、唯、紬の順番で堀込先生とすれ違う。

その堀込先生はというと何が何だか理解できず、そのまま廊下を覗き込んだ。

その目に映ったのは凄まじい勢いで黒い脚のような何かを動かしこっちに突っ込んでくる頭だった。

「お!?うわ!?頭!」




84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/14(火) 22:53:51.97 ID:19f6wURB0
堀込先生かっこいい



85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/14(火) 23:03:07.41 ID:6KPSG3Jc0
さっきの袋叩きが生々しいタイミングでその主導者と遭遇した頭はあの恐ろしい痛みを想起させられたのか急停止する。

堀込先生がそのまま飛びかかったものの、頭はそのまま今度は猛烈な勢いで後退し、壁とスチーム配管を足場に

標的を梓に切り替え、さわ子の頭上を過ごして取り残されていた梓に頭上から襲いかかった。

そもそも刺股というのは対人用の武器であり、使用側が人数的にも優位かつ、複数使用する場合にその効力を最大発揮するものである。

さっきの袋叩きにおいて使用するならば問題はなかったであろうが、飛来している標的を叩き落すには些か不適当な武器である上、

いい加減いい歳行ってしまった堀込先生に機敏な動きを要求することも相俟って酷な話でもあった。

生徒を守ろうと刺股を振った堀込先生は見事に突っ転び、刺股は廊下を滑っていく。





86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] :2010/09/14(火) 23:04:28.52 ID:WHlieD3p0
堀込先生かっこわるい



87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/14(火) 23:04:46.75 ID:6KPSG3Jc0
片や頭は梓に馬乗りになる形になっており、すでに急迫した情勢であった。

足元に滑った刺股を拾い上げさわ子はそのまま駆け出し、梓に張り付く頭に刺股を振り上げた。

ちなみに刺股の使用方法は殴打武器ではなく動きを封じ込めるためのものである。

「おりゃあああ」

さわ子の雄叫びと共に天誅のごとく下った刺股攻撃はクリティカルヒットし、頭は電撃が走ったかのように梓から飛び退き、

その脚でヒョコヒョコとこちらを向いたまま更に後ずさった。

梓はその間に立ち上がりさわ子に駆け寄る。

更にいつの間にか戻ってきた紬がトドメを刺すかのようにABC粉末消火器を噴射した。

ブシュウという音とともに、数秒で凄まじい白い煙が立ち込め始める。

思わぬ反撃にヤッテヤルデスはそのまま5メートル程飛び退いていた。




88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/14(火) 23:06:30.34 ID:6KPSG3Jc0
それを見逃さなかったさわ子は壁に設置してあった防火シャッターの手動閉鎖装置の赤いプラ板を押し込む。

防火シャッターは自重で金属音を立てながらギシギシと落下し始める。

頭は慌ててシャッターの隙間を潜り抜けようとしたものの、間一髪で防火シャッターはさわ子とヤッテヤルデスを隔てた。

廊下にはシャッターに頭がその身をぶつける音が何度も響き渡る。


「みんなは…?」

とりあえずの安全を確認したさわ子が振り返ると、そこにはけいおん部全員が揃っていた。

「先生…」

紬と梓はうっすらと涙を浮かべてさわ子を見ている。

「あっ、大丈夫ですか」

「山中!大丈夫か!?」

その後ろでは律に助け起こされて、堀込先生がようやく立ち上がった。




90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/14(火) 23:12:07.88 ID:occ8z9ZV0
さわ子かっけぇ
紬にとって消化器は固有装備なのか



91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/14(火) 23:15:27.10 ID:6KPSG3Jc0
「早く警察を!」

さわ子は誰にともなく怒鳴った。

その直後どこで何をしていたのかようやく教員たちが玄関や廊下の奥から集まって来る。

さわ子はそのまま糸が切れたように壁にもたれかかり、紬と律がそれを支えた。

「おい!向こう側から来るかも知れんぞ!」

「火災報知器鳴らして防火扉閉めろ!」

ざわめきを打ち破った誰かの怒鳴り声の後、頭がシャッターに体当りする音に加え、学校中にけたたましいベルの音が響き渡った。

『―校舎内に残っている生徒は西側階段及び、西側非常階段を使用して至急校舎外へ避難してください』

手遅れ感の拭えない避難指示の放送はようやく全校に響き渡り、やがてこの大騒ぎのさなか一体どこで何をしていたのか残っていた生徒達が

ぞろぞろと玄関前に集結し始めた。




92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/14(火) 23:22:05.82 ID:6KPSG3Jc0
その騒ぎのさなか、ようやくサイレンを響かせ玄関前も構わず救急車が滑りこむ。

生徒を掻き分け駆けこんできた救急隊員は「けが人はどこですか」とそのへんの教員に声をかけ、

その教員は養護教諭を探し出し、養護教諭はさわ子にくっついていた唯を見つけるてさわ子の所にいた唯を救急隊員の元へ連れて行った。

続いてどこから来たのか徒歩で警察官も現れる。

「何があったんですか?」

どういう通報を受けたのか、はたまた自発的な登場なのかはわからないが、

その警察官はのんきな調子で靴も履かず、埃まみれになったさわ子に声を掛けた。




93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/14(火) 23:27:57.82 ID:6KPSG3Jc0
生徒を体を張って守ったさわ子に対しての無礼な調子を見兼ねたのか堀込先生がそこに割って入って警察官を引き離す。

さっきの警察官が携行する無線機に何事か吹き込んでいる横で、さわ子は改めて無事だったけいおん部の面々を見て生還を噛み締めた。

「先生…カッコよかったですよ」

「さわちゃんすげぇよ!かっこよかった!」

「先生…」

紬の褒め言葉を皮切りに、律と澪が続く。

生徒達を守りぬいた達成感と久々のちょっとしたヒーロー扱いっぷりにさわ子もまんざらではなく、思わずニヤけていた。

「…あれ?」

そんな中梓は重大な何かが見落とされている気がして辺りを見回した。

唯がハッチを開けたままの救急車の中で手当を受けているのが目に入る。

その横にはもう一台救急車が並んで停車し、LED赤色警告灯の赤い光を辺りにまき散らしている。




94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/14(火) 23:32:22.71 ID:6KPSG3Jc0
そこへひとりの救急隊員が駆け寄ってきてさわ子に尋ねる。

「あの、もう一人の生徒さんはどちらに」

一瞬で場の空気はどん底へ落ち込んだ。純が戻ってはいなかった。

事態に配慮が足りなかったとさわ子に責任を問うことは簡単ではあろうが、

この状況で真っ先に飛び出してしまった純をさわ子がどうにか出来るかといえば全くもって無茶であり、

そもそも最も生徒や教員が散り散りになる時間帯である放課後という襲撃タイミングも事態に拍車をかけていた。


最初に居残っていた生徒達を手始めに片っ端から安否確認がスタートしたものの、

同じクラスでも誰も携帯の番号を知らないという生徒や

携帯を所持していない上に自宅にも連絡がつかないという生徒が現れ始める。




96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/14(火) 23:35:16.81 ID:6KPSG3Jc0
教員達総出の安否確認の一方、この混乱の原因である「頭」の捜索が警察官により開始された。

それは状況がわからないまま捜索範囲を広げることを嫌った警察の判断で敷地内のみに留められたが、

純が講堂へ繋がる渡り廊下の出入口前で転倒し気を失っているのが発見された。

これで最低頭を3度は打ったということで純は即座に市立病院へと救急車で搬送された。

3時間掛けて校舎内を捜索したものの「頭」が発見されなかったために、警察はさわ子以下目撃者全員の証言を一蹴し

イノシシやニホンザルの類による犯行だと片付けて引き上げた。

なお、全員の安否の確認が取れたのは深夜2時であったが、幸いにもこの日、犠牲者はなかったことも判明した。




97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/14(火) 23:43:50.79 ID:6KPSG3Jc0
― ちょっともどって ごご7じ40ぷん!


「なーにが白昼夢よ!バカじゃないの!?人をバカにしてんじゃないわよ!」

ハンドルを握るさわ子の機嫌は非常に悪かった。

「挙げ句の果てにはヤク中扱い?ヤク中で教師やれると思ってんの!?じゃあ尿検査でもなんでもやればいいじゃない!」

「こちとら可愛い教え子が殺されかけてんのよ!ナメてんのか!」

時々ハンドルをエアバッグが作動しかねないような勢いで思い切り殴りつける。

「さ、さわちゃん…」

律が弱々しく声をかける。

「ねぇ!?どう見ても見たわよね!アレ明らかに生首が暴れてたじゃない!?」

さわ子は自分自身の発言でより一層頭に血が登ったのかアクセルを思い切り踏み込む。




98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/14(火) 23:45:01.80 ID:6KPSG3Jc0
「は、はい…」

660ccのエンジンが甲高く唸る中澪が更に弱々しく返事をした。

さわ子や堀込先生など、「頭」と接触した教員達は全員所轄警察署で事情聴取を受けた。

しかしその処遇は非常に悪く、教員達は全員漏れなく屈辱にまみれざるを得なかった。


さわ子は堀込先生と並んで最も最悪な部類だったらしく、どういう訳か迎えが来た紬を除いて

不幸にもさわ子のクルマに乗ることになった律、澪、梓の3人はなんとか宥めようとしたものの、さわ子の機嫌は直らなかった。




99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/14(火) 23:50:15.80 ID:6KPSG3Jc0
― みおのいえ!


澪がさわ子の車で帰宅して一息ついた時には午後8時半を回っていた。

数時間前に経験した悪夢はベットリと澪の脳裏に張り付き、瞼を閉じるたびに

あの能面のような梓の顔をした頭の姿が蘇った。

悪夢を洗い流したい一心でシャワーを浴び、リビングに戻ってきたところでテーブルに置いてあった携帯が鳴った。

「律?」

何だろうという思いを抱きつつ、澪は携帯を取った。

「もしもし?」

『あ…澪か!?ちょ、ちょっと今から行くから!』

律の声は上ずり、どちらかと言えば何か良くないことがあったような調子だった。

「え?ちょっと!おい!」

そして澪の声に耳を貸さず律は一方的に電話を切った。




100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/14(火) 23:55:42.04 ID:6KPSG3Jc0
澪は慌てて部屋着に着替え、ドライヤーで髪を乾かした。

電話から10分、呼び鈴が鳴った。

息を切らせ玄関に立っていた律の小脇には丸めた経年を感じる画用紙があり、

クレヨンの粉が点々とつき、たいなかりつと名前が平仮名で書いてあるのが見えた。

「急にどうしたんだよ」

律は澪の問いかけに構わず玄関マットにその画用紙を広げた。

澪はその様子を黙ってそのまま目で追った。

広がった画用紙には顔に脚が直接生えた人間が描かれていた。

黒いクレヨンで描かれたそれは普段なら幼児の描いたただのクレヨン絵で済まされるところであろう。

だがそれはあまりにも「頭」に似すぎていた。

澪は言葉を失い、思わず律の表情を伺った。




101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/15(水) 00:01:02.21 ID:6KPSG3Jc0

「な…なぁ…聞いてくれよ澪…」

その沈黙を破った律の声は震えている。

「私じゃないよな…?私のせいじゃないんだよな…?」

震える声で問いかける律の目には涙が浮かんでいた。

「当たり前だろ…」

律の描いた絵はあくまで幼児が描いた絵に過ぎない、いくら似ていると言っても

こんなような絵は幼児には当たり前だしちょっと探せばいくらでも出てくる。

澪はそう言いたかった。しかしその言葉は乾いた喉に張り付くばかりで一向に言語化されなかった。




103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/15(水) 00:24:42.08 ID:j7w0wo4C0
「わかってる」

長い空白の末、澪はなんとか一言搾り出した。

それでも一見おおよそ噛み合ってないようなその言葉は、律が抱いた恐怖をぬぐい去るには十分なものであった。

澪はその絵を律から取り上げると、再び丸めて小脇に抱えた。

「家まで送る」

澪はそう言ってサンダルを突っ掛け、律の手を取った。




104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/15(水) 00:25:40.63 ID:j7w0wo4C0
外に出ると夜の空気は澄み切り、虫の声が軽やかに響いていた。

涼しい夜風が吹く中を二人は歩いていく。

どんどん歩いていく澪とそれに黙って付いていく律。

幼い頃律が澪を引っ張っていた道で今、澪が律を引っ張っていた。

やがて川にかかる橋の上に辿りつくと、二人は欄干に並ぶ。

時々通り過ぎた車のヘッドライトが二人を照らしだした。




105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/15(水) 00:26:21.68 ID:j7w0wo4C0
路線バスがディーゼルの煙を残して通り過ぎた直後、澪は躊躇いなく画用紙を真っ二つに引き裂いた。

さらにそれを細かくビリビリと破ると、そのまま橋の上からばらまいた。

白い破片は街灯と月明かりに照らされながら静かに桜吹雪のように舞い散り、

やがて流れへと落ちて彼方へと消えていった。

「行こう」

「うん」

澪と律はまた歩き出した。




106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/15(水) 00:29:04.58 ID:j7w0wo4C0
律の家がそう遠くない角を曲がった時だった。

その住宅地にある何の変哲もない生活道路に静寂は広がっていた。

「あれ?」

最初に異変に気づいたのは律だった。

「静かだ…」

耳を澄ますと人工的な室外機の音や遠くのサイレンや列車の警笛は聞こえてくる。

だがそこに何かが欠けていた。

「虫が鳴いてない…」

欠けたものに気づいた澪が呟いた。




107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/15(水) 00:29:58.86 ID:j7w0wo4C0
「…歌声?」

さらに律が辺りを見回しながら不安そうに呟いた。

「え?」

その声は最初聞き間違いかと思われるほど小さかったが、二人が耳をそばだてているうちに

緊急車両が近づくかのようにその声ははっきりと聞こえるようになっていた。

「な…なんだ?」

「あ…アイツだ」

律が指さした無落雪屋根の上には満月、そしてあの忌々しい「頭」のシルエットがあった。

「歌ってる…」




108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/15(水) 00:31:00.73 ID:j7w0wo4C0
その歌声はあの所業に対してに、天使のように美しい声だった。

澪がそのシルエットを呆然と見つめていると雲が隠れ、一瞬真っ暗になる。

すぐに月明かりは戻ってきたものの、その一瞬で頭はそこから消えていた。

そしてより一層澪たちに近くなり、鮮明かつ力強くなる歌声。

「どこだ…どこにいるんだ…」

澪はあたりを見回すが、声の発生源はわからない。

電柱、塀、駐車車両、家の軒下、自動販売機、ありとあらゆる物が敵に感じられてくる。


― 今まさに歌いながら虎視眈々とアイツはこっちを狙っている。


そして歌声はピタリと止んだ。




110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 01:03:03.71 ID:j7w0wo4C0
今起きうるケースで一番最悪なのはなんだろう、どういう訳か澪は冷静に考えた。

それは背後を取られること、結論はあっさりと出た。

そして澪は振り返る。

「やっぱり…」

澪は勝ち誇ったように呟いた。

背後のブロック塀の上で頭がこちらを見つめていた。

「逃げよう」

そう言った律の顔は妙に冷静で、澪自身もどこかに冷めたものを感じていた。

それでも澪と律は次の瞬間には全力で走りだしていた。




112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/15(水) 01:12:02.15 ID:j7w0wo4C0
ようやく律の家が見えてきたとき、澪は意を決して振り返った。

街灯に照らされた道路はいつものままで、虫の声はまた軽やかに響いている。

「り、律!」

澪は律の肩を掴むと、律は後ろにのけ反ってバランスを崩してよろめいた。

「な、なんだよっ!」

律がなかなか恐ろしい形相で振り返った。

「もう…いない…」

澪は息も絶え絶えで律に答えた。




113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/15(水) 01:19:06.06 ID:j7w0wo4C0
― むぎちゃんのいえ!


「髪行類?」

紬は思わず身を乗り出した。

「敢えて呼称するならばそんな感じではと考えた次第です」

斎藤は遠近両用メガネを外しながら答えた。

「ツインテールと見せかけて脚とは中々不気味な生物ですね。

それを退治なさったお嬢様はお見事です」

「やめて」




115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/15(水) 01:22:55.36 ID:j7w0wo4C0
紬は不快そうにそれを制した。

「失礼致しました」

「これ、本当に生物なのかしら」

紬は「頭」のスケッチが描かれた便箋をひらひらと振った。

「生物ではないのかも知れませんよ。例えば思念の塊であったり」

「思念の塊?」

紬は眉をひそめる。

「ええ。中野さんそっくりですから、中野さんへの執着心が塊になったとか」




116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] :2010/09/15(水) 01:49:14.46 ID:OzaRjQz30
ヤッテヤルデス!



120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] :2010/09/15(水) 07:59:57.39 ID:cjQO64Uo0
gfb t



121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] :2010/09/15(水) 08:21:07.80 ID:GTDb5A6C0
ナズェミデルンディス!!



136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/15(水) 20:32:31.69 ID:j7w0wo4C0
「執着心?」

「まぁこれは、科学的根拠なんてものも全くないあくまで私の戯言に過ぎません」

斎藤はそう言って立ち上がり、すっかり冷めた紅茶が沈むティーカップを片付け始める。

紬はそれ以上斎藤を追求せず、黙って便箋を見つめていた。




137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/15(水) 20:33:31.80 ID:j7w0wo4C0
― たいなかけ!

「頭」はやはり存在していたのだ。

汗だくでリビングのソファーに倒れこんだ澪も律もそれで頭がいっぱいだった。

だがその存在を確認したところでどこに知らせればいいのか全く検討もつかない。

聡は予期しない来客でテスト勉強もそぞろに右往左往し、律の母親は何が何だかわからないという表情を

浮かべながら二人に麦茶とタオルを出して様子を見守っていた。

「なぁ…律…」

「ホントにいたな…」

「ああ…夢じゃなかった…」



20分後、汗だくになった二人はシャワーを浴びて律の部屋でようやく落ち着いた。

「と、取りあえず誰かに知らせよう」

「え、えーとこういう場合はアレだ…ムギだ」

律はそれがどういう根拠かも曖昧なまま、ムギに電話をした。




139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/15(水) 20:42:00.48 ID:j7w0wo4C0
『あ、りっちゃん?』

電話に出た瞬間の紬は至って普段の紬だった。

しかし律がさっき降りかかった事態を伝えるうちに紬はそれを聞いて何か考えているのか

「うん」や「そうなの」という相槌ばかりを打ち、どんどん反応が上の空といった調子になっていった。

律の懸命な説明はほとんど空回りとなり、最後には『ちょっと思いついたことがあるの』と言って紬から電話を切ってしまった

「なんか切られた…」

律は携帯を片手に唖然とした表情で澪の方を向いた。

続いて律は唯に知らせようとしたものの、澪はそれを制し梓へ電話することとなった。




141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/15(水) 21:00:26.27 ID:j7w0wo4C0
― しんや!

唯の動く気配を感じて憂は目を覚ました。

ベッドの方を振り返ると、唯は体を起こしていた。

「お姉ちゃん?」

憂が立ち上がって横に座ると、唯は憂を見つめた。

「なんか変な夢見ちゃった。誰かがずっと私の事バカにしてくるんだ」

寝ぼけているのだろう、ぼんやりした調子で話している。

「嫌な夢見ちゃったの?大丈夫。誰もお姉ちゃんをバカにしないし、私はお姉ちゃんの味方だよ」

憂は唯の髪を優しく撫でた。

甘いシャンプーの香りと、極めて上質な絹のような艶々としてしなやかな感触が憂の指先に感じられた。

やがて安心したかのように唯はまた布団にゆっくりと身を沈め目を閉じた。

憂は寝息を立て始めたのを見届け、ベッド脇に敷かれた布団へ潜り込んだ。


月明かりは窓から射し込み、そんな二人を優しく照らしていた。




143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/15(水) 21:01:16.69 ID:j7w0wo4C0



暗い…。

気づくとまた私は真っ暗な世界にいた。

今日は声はしないようだ。


やがて目の前がスポットライトが当たったように丸く白色に切り取られた。

瞬きしてから改めて見ると今度は「頭」がそこにいた。

「ヤッテヤルデスハ、ヤッテヤルデス」

頭は能面のような口を動かしてそう言った。

コイツをどこで見かけたのだろう、私は頭を見ながら考えた。




145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/15(水) 21:01:55.85 ID:j7w0wo4C0
そうだ、学校だ。

昨日純と唯先輩を襲ったバケモノだ。

思わず後ずさりする。足の裏には冷たいタイルのような感触があった。


「ヤッテヤルデスハ、アズサトイッショ」

え?コイツは今何を?

「ジャマヲスルノハユルサナイ」

「ヤッテヤルデスハアズサガイテヤッテヤルデス」

感情などおよそ込もっていないような声で頭は確かにそう言った。




146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/15(水) 21:03:21.62 ID:j7w0wo4C0
イントネーションも全くない言葉の意味を咀嚼しながら改めて考える。

最初にどこでコイツを見かけたのか。


夢だ。


そう思ったところで世界はテレビを消したようにブチッと途切れて真っ暗になった。

夢から醒めたらしい。

重い瞼を開くとまたそこは見慣れたクロス張の天井だった。手探りで探し当てた目覚まし時計を確かめると

夜光塗料の緑色は午前3時を指している。私は目覚ましを放り出すと再び瞼を閉じた。




147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/15(水) 21:05:05.83 ID:j7w0wo4C0
― あさ!


午前7時、緊急連絡網は今日の臨時休校を伝えた。

一方で桜高の職員室にはその時点で職員全員が集結し、ありとあらゆる対応に当たる態勢を整えた。


しかしこの臨時休校からして危機管理マニュアルによる台風接近時の項目にあるものをそのままなぞったに過ぎず、

もちろんそのマニュアルに異生物の襲撃という項目は用意されていなかった。

まして昨日の記憶は誰もが対処要綱の策定を嫌がることにつながり、遂に大人達の責任逃れの火蓋が切って落とされた。

その責任逃れは後の自由登校解禁に繋がっていった。

時を同じくして紬は臨時休校の報を聞くやいなや全員に連絡を取り始めていた。




148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/15(水) 21:15:06.08 ID:j7w0wo4C0
― えきまえ!


朝の涼しい空気の中、忙しない乗降客が行き交う駅前広場に律と澪は立っていた。

「ムギ、何をするつもりなんだ?」

「さぁなぁ?」

二人がボソボソと話していると唯が憂とともに現れた。

「おはようございます」

「澪ちゃん、りっちゃんおはよう!」

首元にマフラーを巻いているのはあの痣をごまかす為なのだろう。

しかし甲斐甲斐しく尽くした憂のおかげか、唯の調子は一見完全に戻っていた。

それとも天然に見えてどこかに芯には強い部分があるのだろうか、澪と律はその光景に安心した。

「おはよう」

最後にムギが現れた。

「あれ?全員じゃないのか?」

「これからみんなで梓ちゃんの家にお邪魔させてもらうのよ~」

澪が尋ねると紬は笑顔で答えた。




160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/15(水) 22:57:44.83 ID:j7w0wo4C0
― なかのけ!

「ねぇ、梓ちゃんってあれについて何か知っていることはないの?」

初っ端からムギの口調は厳しく、部屋の空気は一気に重くなった。

「確かにあれって梓の顔そっくりだよな」

律がそれに追従した。しかし律は直後にそれが失言だったと悔やんだ。

しかし今まで口には誰も出してはいなかったが、その見解だけは一致していた。

「頭」は梓そっくりなのだ。

「ちょ、ちょっと待って下さい!私があれとなんか関係あるって言いたいんですか!?」

朝っぱらから家に揃って押しかけられた上にいきなり諸悪の根源扱いではいくらなんでもたまったものではない。

さすがの梓も声を荒らげて叫んだ。




161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/15(水) 22:58:31.91 ID:j7w0wo4C0
「そうじゃないわ」

紬が落ち着いた口調でそれを宥めた。

「ねぇ…梓ちゃん…何か、何か思い当たることはないの?」

「…夢」

「夢?」

澪が訊き返した。

「思い出した…夢…夢に…出たんです。あれ…」

その梓の声はかすれていた。

「ヤッテヤルデス…」

「やってやるです?」

唯が繰り返した。




162 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/15(水) 22:59:01.05 ID:j7w0wo4C0

「あの頭…ヤッテヤルデスは…私と一緒って…夢で…」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。話がわからない」

澪が呆気に取られながら誰でもいいからと言った感じで説明を求めた。

「夢よ。ただの夢。梓ちゃんは関係ない。」

澪への回答なのか、梓への言葉なのかはたまた自分自身へ向けたものなのか、紬自身もわからなかった。

梓は今や目に涙を浮かべ、律と憂はこの状況をどうすればいいのか考えあぐねていた。

「どういう理由で生まれたかなんて私達にはわからない…でも。

一歩間違えたら梓ちゃんだけじゃない、私達の姿をしたものも生まれるかもしれない…他人事じゃないのかも」

憂がそう呟いたところで澪はすかさず割って入る。

「梓。夢のなかでそいつ他に何を言ってた!?」

梓が怯えたように澪の方を向いた。




163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/15(水) 22:59:35.08 ID:j7w0wo4C0

「え、えっと…」

一瞬考え込んでから梓が答える。

「多分ですが、邪魔をするのは許さない…、ヤッテヤルデスは梓がいてヤッテヤルデス…」

「なぁ、ヤッテヤルデスってのは名前か?」

律が聞き直す。

「ヤッテヤルデス…名前かはわからないですけど…」

梓は鼻水を啜りながら弱々しく答えた。

「あいつ、ヤッテヤルデスって言うのか…」

「呼びづらいね」

唯がそれに相槌を打った。




164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/15(水) 23:01:35.27 ID:j7w0wo4C0
「…ねぇ、あれの目的って何かしら?」

「あー…」

紬の言葉でどういう訳か澪は梓の頭を齧る「ヤッテヤルデス」の姿が浮かべた。

「うわわっ!」

澪はとりあえず叫んで慌てて不気味な思考を払いのけた。

「どうしたの?」

紬が怪訝そうに尋ねたが澪はそれを黙った。

「梓じゃないのか」

律は澪の沈黙をを無に帰した。

「あずにゃんが危ない!?」




165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/15(水) 23:10:02.30 ID:j7w0wo4C0
「ちょっと待て。じゃあなんで唯や純ちゃんが襲われたんだよ」

澪が割って入る。

「そうよね…」

「あの…もしかして私達全員が標的なんでは…」

梓が不安そうな面持ちで見回すと思わず全員が黙りこんだ。

それぞれ思い返してみても、昨日の時点で全員が標的と言っても過言ではなかった。

廊下で襲われた唯、職員室で律と梓、夜道で澪。

紬はまだ直接襲われてこそいないものの、どう考えてもこの状況であれば標的と考えて差し支えないだろう。

「…なら私達であれをどうにかできるかも知れない」

澪が口を開こうとしたとき、律が突然呟いた。




166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/15(水) 23:23:50.08 ID:j7w0wo4C0
「ど、どうやって!?」

唯が尋ねる。

「あー、ほら。私達で講堂とかに誘き出せばあとは先生たちが…」

「おおっ、りっちゃんすごい!」

それにどう乗せられてしまったのか唯が拍手する。

「武器さえあれば可能かも。例えば剣道の防具を着こんだり」

紬がそれに応じた。

律の主張によれば「人間は首が一番弱い。ヤッテヤルデスはそこを標的としているので

首さえ守れればヤッテヤルデスと対等に対峙することも可能」ということだ。

昨日のヤッテヤルデスの攻撃は直接的な首絞めが多かった。

更にヤッテヤルデスを事実上さわ子と紬が一度撃退しているだけに、

その提案は軽音部の5人と憂にとって比較的現実味を帯びて感じられた。

「殺れるぞ…殺ってやるです」

律が広角を歪めながら呟いた。




167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] :2010/09/15(水) 23:25:13.91 ID:KpxjKjRi0
なんか感染しとる



168 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/15(水) 23:25:29.64 ID:j7w0wo4C0
紬が笑っていいのか悪いのかを見極めようと言わんばかりに全員の表情を伺っていると澪の携帯電話が鳴った。

「あ、もしもし」

澪が部屋を出て行ったが、すぐに戻ってきた。

「今日は自由登校になったらしいぞ」

澪の言葉を聞いた途端、唯が律の方を見てニヤっと笑った。

「早速ですなりっちゃん隊長」

「ああ。唯隊員」


「じゃあ、まず制服に着替えて学校に集合だ!」

律を隊長に据え、かくして桜高軽音部によるヤッテヤルデス掃討作戦は開始された。




170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/15(水) 23:33:46.53 ID:j7w0wo4C0
午前11時、桜が丘高等学校では自由登校が始まった。

危険への注意を促す呼びかけに対して当事者意識をしっかりと持てるという人間は意外にも少ない。

そして情報には量と正確性が重要だと言われるが、その両方が欠けているのが今の桜高の生徒達だった。

生徒達は本格的な事態が始まる前に流されるままに帰った者が大半であったために、昨日の事件について深く考えている者は皆無だった。

自由登校の始まった昇降口には教員が立哨し、生徒に一人ひとり登校目的を聞き、内容いかんによっては下校させるという措置も取られた。

にも関わらず掃討作戦の装備品をどっさりと携行した軽音部の5人は音出しで練習を口実にした結果あっさり校舎内に立ち入ることが出来た。

ちなみに何も知らない和は高文連の壮行会の準備を理由に、憂は唯の付き添いであっさりと立ち入りが許可された。

そもそも、臨時休校のあとに打ち出された自由登校ならば大半の生徒は休みを一日享受する方を選ぶ。

軽音部や生徒会関係者以外に登校してくる生徒はほとんど現れなかった。




173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/16(木) 00:11:53.64 ID:3ZvK4buE0
その頃、閑散とした校舎内をさわ子は刺股片手に図書室へ向かっていた。

自由登校の実施にあたっては校舎内を常時教員が巡回するという警戒措置を取っていた。

東西と1、2階に別れて4人態勢で行う1回目の巡回、その1階西にはさわ子が充てられた。

さわ子は昨日の教訓から今日は身軽さを最重視したジャージに運動靴という出で立ちで臨んでいる。


さわ子は職員室前を出発し、やがて渡り廊下を進み図書館の前に到着すると閉ざされたドアの施錠を確認する。

ところが真鍮色の取手は普通に回り、ドアはガチャリと開いた。




174 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/16(木) 00:13:52.02 ID:3ZvK4buE0
「あら?」

図書館は手が回り切らず、警戒が疎かになるという理由から危険とされて施錠されているはずだった。

にも関わらず、そのドアは開いた。

ドアを開けたその先、光の中には人影があった。

逆光で良く見えないもののどうやら窓際に1つポツンと置かれた椅子に座っているらしい。

そのツインテールの生徒はこちらに気づかないのか、向こうを向いたままだ。

「ちょっと…あなた…今日図書館は閉鎖よ。出なさーい」

だが、声を掛けてもその生徒は振り返ろうとしない。

「ちょっと、聞いてるの?」

さわ子は仕方なく刺股をドアの脇に置いて中に足を踏み入れた。

静まり返って空気の淀んだ図書館の中にはいつもより強く独特の匂いがこもり、さわ子の鼻をくすぐる。

光が宙を舞う埃を神秘的に照らし出している中、さわ子は生徒に近づいていくと突然生徒が振り返った。




175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/16(木) 00:15:33.63 ID:3ZvK4buE0
…あ、首が360度回って後ろを向いたんだ。

…違う。首だけ、頭だけが立っている。

これ、椅子に上着が掛かってただけで…。

…騙された!頭だ!

さわ子がそれに気づいたときにはもう手遅れだった。


ヤッテヤルデスは昨日の復讐を果たすべく憎き山中さわ子めがけて跳躍していた。




176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/16(木) 00:17:18.12 ID:3ZvK4buE0
堀込先生と教諭4人が戻ってこないさわ子を捜索に行ったのは15分後のことだった。

5人が渡り廊下に差しかかると、倒れたさわ子の姿があった。

「山中先生?」

「山中!」

駆け寄った堀込先生たちはまず水たまりに踏み入ったような感触を足裏に感じ、次に目にしたのは血の海に沈んださわ子だった。

壊れた眼鏡、転がった刺股。

紺色のジャージは今や赤色に染まり、飛び散った血は白塗りの壁を赤く染め、血の臭いは鼻を突いた。

ヤッテヤルデスはさわ子の頚部を食いちぎって復讐を果たしたのだった。

さわ子の抵抗は頑強だったのか、整った顔には生々しい引っかき傷、ジャージには何箇所も裂けたあとがあり

その右手には長い髪の毛が握られていた。




177 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] :2010/09/16(木) 00:17:32.42 ID:1jQW2CXW0
こわ



178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] :2010/09/16(木) 00:18:11.72 ID:s/ZnqZkg0
さわちゃん死んだ…



179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/16(木) 00:18:22.30 ID:3ZvK4buE0
そして堀込先生をはじめ、呆然と立ち尽くす教諭達を古いつり下げ型非常誘導灯の上から見つめているものは他ならぬヤッテヤルデスだった。

復讐劇はさわ子殺害を皮切りに、自らを袋叩きにした堀込先生らを血の海に沈めるところからスタートした。

ヤッテヤルデスは昨日の教訓として待つことを覚えていた。

肉食動物のごとくじっと息を潜め、獲物がやって来るのを待ち続ける。

以前のように多数を相手にすることは己の死に繋がると学んだヤッテヤルデスはある程度の戦闘手段も心得え、

ひとりずつ確実に制していけば、より目的を達成が近づいてくるということも学んでいた。

その最初の標的として選ばれたのが最もヤッテヤルデスにとって最も脅威かつ強力な敵と判断されたさわ子だった。




180 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/16(木) 00:25:10.13 ID:3ZvK4buE0
― せいとかいしつ!


ただならぬ怒号と悲鳴に驚いた和と生徒会書記の1年生と放送局局員の2年生3人が廊下に顔を出すと、

教頭と校長が消火器やモップを片手に走って渡り廊下へ曲がっていくところが目に入った。

「何ですか?」

「わからないわ」

和は背後からの問いかけに振り向かず答えた。

後輩達は和の落ち着いた様子に安心感を覚え、再び会議机に戻っていく。

しかし当の和本人は足元から沸き上がってくる不吉な予感を感じていた。




181 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/16(木) 00:28:06.52 ID:3ZvK4buE0

― けいおんぶぶしつ!


高校生の年頃といえばなんとも全能感のようなものが存在している。

未来は明るい、根拠もなくそう思えたりするものである。

例え具体的な対処方法がすっぽ抜けていたとしても、今やッテヤルデスなど大した事のない敵に感じられていた。

全員でかかればどうにかなる、それが全てであり、それ以上でもそれ以下でもなかった。


自分の人生が終わる訳ない、死など有り得ないという保証はどこにも存在してはいないにも関わらずだ。

とはいえ20年生きていない高校生にして誰が人生の終焉を考えられるというのであろうか。




183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/16(木) 00:29:06.36 ID:3ZvK4buE0
1階西でヤッテヤルデスが教員を制圧し尽くした頃、軽音部では掃討作戦に伴なう防御装備装着の真っ最中であった。

当然と言えば当然だが、完全武装で立哨の教師に音出し練習を主張したところで全く説得力はない。

それを嫌った結果、装備はすべて部室で装着した上でヤッテヤルデスを捜索するとという方針となった。

ただ、軽音部の部室は校舎中央の3階であり、篭城戦においては高所という地の利から十分な抗甚性を持ち合わせるものの、

奇襲攻撃を受けた場合、脱出場所の無い軽音部室は攻め込まれてしまえば即座に制圧されてしまう。

残念ながら部室という慣れたスペースは油断を招き、律達は全く防御措置を取っていなかった。

無論、最初の敵を制圧したヤッテヤルデスはそこを奇襲した。




187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/16(木) 01:04:12.27 ID:3ZvK4buE0

ヤッテヤルデスは手すりをジャンプ台に部室のステンドガラスを割って突入した。

砕け散るステンドガラスを見たとき、5人は全く状況を理解できなかった。

「逃げろ!」

真っ先に響いた律の声で6人はようやく一斉に逃げる態勢に入った。

しかし持ち込まれた防御装備はその役割を果すどころか狭い部室の中で散乱し、各所で障害物と化して6人の自由を奪う。

「いや!」

憂の悲鳴に近い叫び声が響き渡る。

椅子に引っかかって転んだ唯はヤッテヤルデスに手近だった澪に代わって襲撃対象として認識された。

紬はその光景を横目に捉えて転がる硬球用金属バットを拾い上げ、ヤッテヤルデスへ向かう。

「近づかないで!」

その金属バットのフルスイングは今まさに唯に飛びかからんとしていたヤッテヤルデスに命中し、

軟球ばりに思い切り打たれたヤッテヤルデスはトンちゃんの水槽を粉砕した。

「トンちゃ…」

砕け散るガラスの音で振り向いた梓が言いかけた時には、床でのた打ち回るトンちゃんを立ち上がったヤッテヤルデスが踏みつぶしていた。




188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/16(木) 01:05:25.97 ID:3ZvK4buE0
紬の金属バットはヤッテヤルデスを牽制し、ヤッテヤルデスが反攻に移る前には全員が転がり出すように外へ飛び出した。

最後に飛び出した梓はドアを押して逃げたために、ヤッテヤルデスは閉まりかけたドアに衝突した。

衝突音を背後に聞きながら階段を駆け下りると、全く申し合わせなどしていなかった6人は3手に別れてしまった。

紬はそのまま1階へ駆け下り、唯と憂は2階の西側へ。澪と律、梓は東側へとそれぞれ走った。

ほとんど同時に別れた直後に上からそのまま飛び降りてきたヤッテヤルデスは左右を窺うと、

まだ廊下を曲がっていく姿を確認できた律達を追った。




189 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/16(木) 01:07:21.68 ID:3ZvK4buE0
― わたりろうか!

走る律、澪、梓の3人。

そしてそれを嘲笑うかのような甲高い笑い声が背後から迫って来る。

まだ階段上らしいものの、その笑い声は確実に迫ってきていた。

厳密に言えば笑い声とは限らないが、少なくとも3人はそれを笑い声以外の何かとして考えることは無理であった。

すぐに背後で何かが落下する音に続き、独特のこするような足音が響き始める。

甲高い、まるでアルミ板の角をこすり合わせるような薄気味悪い笑い声は確実に3人の精神を蝕んだ。

真正面の職員玄関は閉ざされており、律と澪、梓の3人は講堂の渡り廊下へと追い込まれる。

さらに講堂の扉は運悪く開放状態で固定されていた。




191 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/16(木) 01:08:38.02 ID:3ZvK4buE0
― こうどう!

広い講堂。その広さは今の3人にとっては迷惑なのかそれともチャンスなのか。

そして思い出深きステージ横にあるドアは片側、放送室側のみが開け放たれていた。

3人は横に広がって一路ドアを目指す。

「あと少しだ!」

澪が叫んだ瞬間、背後でバタンという音が響いた。

澪が音の方を振り返ると、そこには転んだ律の姿があった。

そして更に真後ろを振り返った澪は、まるで合成か何かのように白い能面じみたヤッテヤルデスが

暗い渡り廊下に浮かび上がって迫って来る所を目にした。




193 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/16(木) 01:11:16.06 ID:3ZvK4buE0
「律!」

澪は叫びながら最後の数メートルを一気に走り抜けて、走り幅跳びのように放送室に駆け込む。

振り返った先の律はというと転倒した際に足を挫いたのかその歩みは遅い。

懸命にこちらへ近づいてくる律。

しかし片やヤッテヤルデスは恐るべし勢いで律へ向かって突進し、ほとんどその距離はなくなっていた。

澪は梓を振り返ってから律を一瞬見て、そのままドアを閉めた。

澪にとってドアが閉まるバタン、という音はまるで絞首台の踏み板が落下したように聞こえた。




194 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/16(木) 01:12:17.40 ID:3ZvK4buE0
「助けてくれ!澪!」

ドアの向こうからは律の悲痛な叫び声が聞こえてくる。

そして床を打つ音。

一体何が起きているのか、それは想像に堪えない。

頼りなげな木製のドアを押さえる澪の体にその振動は確かに伝わってくる。

だが、澪はそれに耳を塞ぐしかない。見殺しにするしかないのだ。

今開ければ梓までもが餌食になるのは明らかだった。

放送機材とパイプ椅子くらいしかないこの部屋に押し込まれれば間違いなく全滅する。




195 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/16(木) 01:13:35.81 ID:3ZvK4buE0
「澪!」

一際悲痛な律の声が響き渡った。

それは講堂の中に反響し、澪の耳に焼き付いた。

「律先輩…律センパイ…」

床に伏せって声を押し殺して泣いている梓。

澪も泣きたかった。


やがてその悲鳴が途切れ、ドアの向こうからは床で何かが擦れる音とや律の妙な声が時々聞こえた。

そして律の声も気配も、ヤッテヤルデスの足音も気配も消えた。




196 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/16(木) 01:15:14.06 ID:+ZnouA3N0
え・・・おい・・・



197 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/16(木) 01:17:30.78 ID:3ZvK4buE0
澪がドアを開けた時、最初に異様な臭気が鼻を突いた。

それはまさに血の匂いだった。そして律は講堂の中央で仰向けになっている。

あたりを見回すと無理に引きずり回されたのか、ブレザーが脱げて向こうの隅に落ちていた。

講堂の床には赤いラインが増えて、そのラインは律のところで途切れている。

澪は律へ向かっていく。

一歩一歩踏みしめるように向かっていく。

律の表情は今までに見たことのないような物だった。

絶望、恐怖、想像できないほどの何かが起きたのだろう。

もう澪がいくら声をかけても律は薄目で虚空を見つめるだけであった。




199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] :2010/09/16(木) 01:19:26.30 ID:FasL7kVCP
SSの途中だが少し用事ができたみたいだ…
糞頭ぶっ潰してくる



202 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/16(木) 01:25:04.40 ID:3ZvK4buE0
梓は屈み込んで律を見つめる澪に恐る恐る声を掛ける。

「澪先輩…」

「梓。行こう」

澪は立ち上がって梓を振り返る。その頬には涙が伝い落ちていた

澪は自分が着ていたブレザーを律に被せた。

「律…私はもう…臆病な澪じゃない」

そう律に声をかける澪の声には強い意志が感じられた。




217 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/16(木) 10:37:45.69 ID:Lmm/2icA0
― 3ねん2くみのきょうしつ!


唯と憂は3手に別れて以降3年2組の教室で息を潜めていた。

明らかに危険な選択である教室へはどちらかと言えば唯が主導した形であった。

あまりの事態にパニックを起こしかけていた唯は、避難先に慣れた場所である

3年2組の教室を咄嗟にチョイスしてしまったのである。

廊下側に設置された窓は教室の中を簡単に伺うことができる為に、唯は憂を掃除用具入れに押し込み、教壇の下に隠れていた。




218 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/16(木) 10:39:19.83 ID:Lmm/2icA0
時を同じくしてヤッテヤルデスは再び2階へ向かっていた。

講堂にて追撃戦で全員が揃って行動していないことは把握し、階段で3手に別れたのだろうと読んだヤッテヤルデスは

篭城を決め込んだであろう澪と梓を後に回し、先に2階に逃げたであろう標的を屠ることを選んでいた。

中央階段に差し掛かると駆け上がってくるひとりの2年生がいた。

ヤッテヤルデスにとっては見覚えのない顔。

思わぬ遭遇に驚いたように最上段に足を掛けたまま立ち止まる生徒。

生徒が口を開く間もない内にヤッテヤルデスはその生徒を踊り場の方へ髪腕で突き飛ばす。

髪腕に足元を薙ぎ払われた生徒は驚愕の表情を浮かべたまま宙を舞ってそのまま踊り場の壁にぶつかり墜ちていき、動かなくなった。




220 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/16(木) 10:41:04.58 ID:Lmm/2icA0

掃除用具入れの憂と教壇下の唯の吐息以外は物音一つせず、静寂に包まれる教室。

その静寂を破り、階段の方ではまるで重い何かが落ちたような物音が響いた。

何…?

唯はその音で身を竦める。

こわいよ…りっちゃん…みおちゃん…。

物音はまたしなくなり、再び自分の息遣いの音だけが小さく聞こえてくる。

心臓は破裂しそうにバクバクと鳴り、この音でヤッテヤルデスに場所がバレやしないかとすら唯は不安になり始めていた。

様子を見よう…、そう思い唯は恐る恐る教壇から顔を出す。

教室の中には相変わらず誰もいなかった。しかし廊下のガラス窓には貼りついてこちらを見つめるヤッテヤルデスの顔があった。

「ひっ!」

その光のない視線はしっかりと唯を見ていた。唯が後退りした時にはヤッテヤルデスはガラスから消えて代わりにドアが開いていた。




221 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/16(木) 10:44:35.61 ID:Lmm/2icA0
ヤッテヤルデスがゆっくりと教室に入ると迷わず掃除用具入れを開いた。


中にいた憂は一瞬で白日のもとに晒され、抵抗する間もなく掃除用具ともに引き摺り出される。

掃除用具もバラバラと倒れて床に散らばった。

「や、やあっ!」

悲鳴を上げた憂の首をそのままヤッテヤルデスは一気に髪腕で締め上げ始めた。

憂は軽々と持ち上げられて15センチは宙に浮き、首吊り状態にされる。

喉を潰されてみるみる顔色が悪くなっていく憂。

「いやああああああああ!!!!うい!!!!うい!!!!」

唯の叫びながら唯は教壇から飛び出すとそのままヤッテヤルデスに背後から飛びつき腕を掴む。

しかしなんなくそれは払い除けられ、唯は机に思い切り突っ込んだ。




222 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/16(木) 10:45:18.26 ID:Lmm/2icA0
それでも立ち上がる唯の足元には倒れた自在ぼうきがあった。

唯はそれを引っ掴んで握り直して渾身の力で自在ぼうきをヤッテヤルデスに振り下ろした。

「憂を離せ!」

自在ぼうきの木製柄はあっさりとその一発で二つに折れ、その切っ先は尖ってそれぞれ転がった。

唯はそのまま後ろに倒れて尻餅をついた。

ヤッテヤルデスは唯の反撃に対してその能面のような表情を変えないまま、唯の方を一瞥すると憂を黒板に突き飛ばし、

空いた方の手で床に落ちた自在ほうきの残骸を拾い上げた。

「う…お、お姉ちゃん…」黒板にぶつけられて痛みをこらえながらようやくふらふらと立ち上がる憂。

ようやく立ち上がった唯が近づく間もなくヤッテヤルデスはその憂に自在ぼうきの切っ先を突き立てた。

「いやあああああっ!」

唯の悲鳴が響き渡る。




223 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/16(木) 10:46:54.22 ID:Lmm/2icA0

「あっ…あ゛あ゛…お姉ちゃん…お姉ちゃん…」憂の呻くような声がそれに続く。

憂の唯を心配させたくないという一心は痛みを我慢させ、悲鳴を押し殺した。

だが、木切れという全く切れ味の悪いものによって刺された痛みは一気に憂を蝕む。

更にヤッテヤルデスは容赦なくそれを引き抜いた。

そのまま憂が腹部を押さえながら崩れて膝をつく。

ヤッテヤルデスはその憂の髪を掴んで引っ張り、苦渋に歪んだ憂の顔を上げさせた。

「ああああっ!」

遂に痛みに耐え兼ねた憂の悲鳴が響き渡る。

見る間に憂の周りには血溜まりが出来上がり、そのままうつ伏せに血溜まりの床へ倒れた。

動けなくなった憂を尻目にヤッテヤルデスは改めて唯に向き直る。




224 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/16(木) 10:48:49.29 ID:Lmm/2icA0
唯は後ずさっていき、片やヤッテヤルデスはまるでその距離を詰めることを楽しむかのようにじわじわと近づく。


そして唯が壁まで後1メートル程まで追い詰められたところで、ヤッテヤルデスは飛び掛かった。

唯はそのままヤッテヤルデスにより後頭部を壁に打ち付けられて倒れ込む。

そこをヤッテヤルデスは髪腕で肩を掴み引き起こすと執拗に唯の頭を腰板に叩き付け始めた。

教室内には異様な衝撃音と唯の悲鳴が響き渡る。

「やめて…お願いします…やめて下さい…」

薄れ行く意識の中振り絞る憂の嘆願も虚しく、やがて唯の悲鳴は消えて耳から血を流し始め目は虚ろになり、小刻みに痙攣を始める。

そこを見るやいなやヤッテヤルデスは唯の喉を掴んで一気に締め上げた。




226 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/16(木) 10:49:38.46 ID:Lmm/2icA0
一般的に人間が行えうる絞殺法ではまず5秒渾身の力を込めることで対象の抵抗を削ぎ、更に20秒程度加えることで

対象を気絶させることが出来るとされる。しかし殺害となるとその所要時間は3分を要すると言われる。

しかし、ヤッテヤルデスの恐るべき膂力は僅かそれを1分で完結させた。

なんとも言えない不気味な声をあげたのを最後に唯は動かなくなる。失禁したのか唯の周りには水溜まりが出来ていた。

動かなくなった唯を確認するとヤッテヤルデスは唯に向かって赤い線を引きながら這っていた憂の背中に思い切り飛び乗り、

憂に思い切り悲鳴を出させて、十分復讐劇を堪能したかのようにまたドアから廊下へ消えていった。

憂は寒気と薄れる意識の中、机に掴まり立ち上がる。

腹の傷は力をいれるたびに血を吹き、憂は自分が助からないことを悟りながらフラフラと唯の横に座り込んだ。

そして唯を抱き寄せると前夜、やったように優しく髪の毛を撫でた。


「…お姉ちゃん」

見開いた目を撫でて瞼を閉じさせると憂は最後の力を振り絞り、唯を抱きしめてそのまま事切れた。




233 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/16(木) 12:38:44.77 ID:Lmm/2icA0
― せいとかいしつ!


校内のあちこちで惨劇が起きる中、生徒会室では壮行会の打ち合わせが続けられていた。

火災報知機がけたたましく鳴っている訳でも誰も異常を知らせに駆け込んでくるわけでもないこの状況では、

事態を知らない人間としてある意味それも当然の行動であった。

和は一応打ち合わせの実施にあたっては担任のさわ子に事態の概要を問い合わせていたが、「来ない方がいいわよ」と色よい返事を貰えなかった。

しかし一方で壮行会を仕切る書記の1年生は非常に張り切り、渋る和に打ち合わせの日程通りの実施を懇願した。

和はその熱意に折れ、登校を嫌がる放送局長に頼み込み打ち合わせを開いたために容易に散会とさせることを躊躇っていた。

軽音部によるヤッテヤルデス掃討作戦についてに至っては知らせを受けてはいなかった。

しかしそれは律達なりに生徒会会長という和の立場を慮ってのことであったが、

この場合律達がやるべきことはむしろ関係ない人間を極力学校から遠ざけることであった。和への配慮は今、完全に裏目に出ていた。

唯も心配掛けまいと救急車で搬送された理由を純と共に階段から落ちたと説明していたためにそれも和は追求してはいなかった。




234 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/16(木) 12:39:36.04 ID:Lmm/2icA0
それでも和はさっきの慌しい様子から一転として訪れた静寂に違和感を感じていたところだった。

大した事ではないだろうという高を括ってはいたものの今度は遠くで悲鳴が立て続けに響き渡り、

しかも聞き覚えのあるその声にいよいよ和も落ち着いては居られなくなった。

「…ちょっと様子を見てくるわね」

そう言って立ち上がり、鞄からは念のために携帯電話を取り出してブレザーのポケットへ放り込む。

部屋を出て行く和を後輩達は頼れる前生徒会長といった表情で送り出した。




235 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/16(木) 12:40:14.89 ID:Lmm/2icA0
生徒会室を出てすぐ、職員室前の中央階段を上がったところの踊り場。

そこにはひとりの生徒が倒れていた。

あいにく誰かはわからないがブラウスのその赤いリボンが2年生だということを示している。

しかしその生徒の表情はまるで恐ろしい何かを見たような形相で凍り付いていた。

和はどこかでこれは大変な自体だとは理解しているつもりなのだが、どうにも目の前に倒れているのがまるでマネキンのように感じられてならない。

結局和はそのまま彼女を無視して階段を登ることにした。




236 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/16(木) 12:41:23.31 ID:Lmm/2icA0
2階の廊下は静まり返り、人の気配は皆無だった。和は左右を見回してからとりあえずと自分の教室を覗き込む。

そこには隅の壁にもたれた憂が唯を抱いている姿があった。

「あら?」

いくら人気が無いからと言って二人揃って学校でお昼寝なのか姉妹愛の確認なのか。

ちょっと。さすがにそれはないでしょう…。

和は顔が火照ってくるのを感じながら教室に足を踏み入れた。




237 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/16(木) 12:42:15.43 ID:Lmm/2icA0
机の間を進み、和は二人にに近づいていく。

壁にもたれた憂の足元は真っ赤に染まり、そここに夥しい量の血溜まりと合わせてその惨事を語っていた。

背を向けた唯の表情は伺えないものの、背中の汚れや乱れた髪型が異常を端的に表している。

「ねぇ…憂?」

和は憂のところに屈み込む。

少し俯いた憂は眠っているようだったがその顔に生気はなく、白い肌が際立って見える。

唯も眠っているような表情だったが、その耳からは細く生々しい赤いものが垂れていた。

同時に必死に目を逸らし続けてきた現実が和にまるで豪雨のように降りかかってきた。

唯も憂も死んでいる。さっきの生徒も死んでいた。

憂は恐らく最後の力を振り絞って唯を抱きしめながら息絶えたのだろうと和は悟った。




238 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/16(木) 12:43:11.82 ID:Lmm/2icA0

「ねぇ…唯…憂…どうしちゃったの…」

搾り出した問いかけに答えるものはなく、立ち上がるとそのまま足は震え出し、どうしようもない恐怖感が爪先から一気に駆け上がってくる。

和はそのままフラフラと廊下に出ると携帯電話をポケットから取り出す。

110番をプッシュして電話を耳に当てる。

普段なら簡単に出来そうな行動が全く上手く行かず、和は携帯を取り落としそうになりながらなんとか携帯を耳に当てた。

『警察です。どうしましたか?』

コール音もなく通信指令室の女性警察官の声が飛び込んできた。

「もしもし」

その声は震え、みぞおち辺りからは熱い何かが込み上げてくる。

『事件ですか?事故ですか?』

和は直感的に理解していた。

あの頭だ。あの頭が今、全ての事態を招いたのだと。そして最初にあれを目撃したのは恐らく自分自身であろうということも。




239 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/16(木) 12:44:23.22 ID:Lmm/2icA0
だが、相手はあんな変な生き物では誰もまともに取り合わない。このままじゃ犠牲は増える。

「刃物を持った男が生徒を…桜が丘女子高です…」

事実ではないことを話している。そんな自覚はあった。しかし敢えて刃物を持った男が押し入ったと言えば

警察は万全の備えでここにやってくる。そうすればもう誰も傷つくことはない。そう考えたのである。


警察官は何事かまだ話しているようだったが、和にとってはもうそれだけが精一杯であった。

膝がガクガクと笑い手は震え、和は携帯を取り落としてそのままへたり込む。

開放ったドアの向こうを振り返ると永遠にもう目を覚まさないであろう眠りに落ちた憂と唯がいた。


それを見ながら和は這って壁に辿りつくと、窓枠を支えに立ち上がった。

壁にかけられた消火器を震える手で持ち上げ、すぐ側の窓に消火器を叩きつける。

フロート強化ガラスもその質量と衝撃にさすがに割れて、粒状の破片が飛び散った。

窓枠にまだ残る破片を消火器で払いのけると窓枠を押し開く。


不要になった消火器は廊下に放り投げ、和は狭い窓枠に体を押しこみそのまま飛び降りた。

身を宙に投げ出す瞬間、和はまた唯と憂とともに過ごしたいと考えていた。




240 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/16(木) 12:45:01.88 ID:Lmm/2icA0

気づくと和は柔らかい花壇の土の上に落ちていた。

メガネはどこかへ行ってしまったようだが、痛みはそんなに感じられなかった。

しかしゆっくりと起き上がると右足に電撃のような痛みが走った。

「…ああっ!」

右足首というより足の甲を痛めたのだろうか、と思った。

それでも痛む足を引きずりながら和は門までなんとかたどり着く。

昇降口の方を振り返ると人気は全くなく、まるで日曜日のように静まり返っていた。

そしてサイレンの音はハーモニーを奏でながらどんどん近づいてくる。

「く…」

和が門柱にもたれ掛かったと同時に、近くの交差点の角からは警察車両が赤い回転灯の光とサイレンをばら撒きながら続々と現れた。







澪「恐怖、ヤッテヤルデス」その2






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けいおん!SS   コメント:2   このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント一覧
350. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2010/09/29(水) 15:19 ▼このコメントに返信する
360°首を回して振り向いたとはこれいかに
9632. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2011/07/21(木) 14:34 ▼このコメントに返信する
疾走感や緊張感があって面白かったけど
地の文が冗長だし、言葉選びもちょっと…
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