前→( ^ω^)百鬼夜行のようです【第一話 百伶百利な御仁の元へ。後編】まとめ→( ^ω^)百鬼夜行のようです【まとめ】4 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 20:57:49.34 ID:y5qjVArTO
ころり転がるその身体。
はらり落ちたる涙の意味は。
喩えこの身が燃え尽きようとも、
この身に宿りし想いは絶えず。
ただただ涙をはらはらと、
あなたを思いて着物の袖を噛むのです。
( ^ω^)百鬼夜行のようです。
【第二話 百年河清とて燃ゆるは想い。 前編】
嗚呼、悲しまず怒らず。
嗚呼、どうか涙で濡れた目で見ないでおくれ。
5 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 20:58:41.49 ID:y5qjVArTO
夜の帳はとっぷり降りて、煌めくネオンも今や遠く。
行灯に提灯、灯籠がこっそり灯りをともして道の形を示してくれる。
そんな暗い暗い道を歩むは、身なりの良い一人の男。
機嫌が良さそうにおっおっと、手土産の風呂敷包みを振り回しては下駄をからころ歩き行く。
その背を見る四つの目玉。
目玉は静かに瞬き、頷き合って、音もなくするりと移動した。
からん、ころん、じゃり、じゃり。
砂と土を踏む足音は一人分。
鼻歌うたうも一人きり。
焦げ茶の羽織を追い掛けて、四つの目玉がぎょろりと動く。
そして、目玉が二つ、素早く動いた。
音も立てずに風の如く、ざわわわと身の毛を靡かせ男の足元へと。6 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:00:19.32 ID:y5qjVArTO
どさり、男の身体が前へと傾き地へ伏せた。
大きな音をさせて倒れた男は、おっ!? と間の抜けた声をあげて目を丸くする。
しかしその顔は、
ざくり
己の身を斬る音に、歪む。
「あ゙っ…………ぁ、ぁぁあああ゙あ゙……っ!?」
濁った、悲鳴ともつかぬ悲鳴が男の喉から絞り出される。
しかし必死に口を手で塞ぎ、嗚咽を飲み込む様に、呼吸を荒く。7 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:00:58.29 ID:y5qjVArTO
ぶしゅうと噴き出す熱くぬめった体液に、男のみならず、四つの目玉も動きを止める。
どうしよう、どうしよう。
目だけでそう会話をし、
二つの目玉がもう二つの目玉を掴み、その場から駆け足で逃げ出した。
その後ろ姿を、腕を噛んで痛みを堪える男が見ている事も知らずに。
ふうふうと、喘ぐ様に男がのろのろ身を起こす。
力を入れる度に体液は辺りに撒き散らされ、膝から力が抜けて倒れる。
それでも何とか落とした荷物を二つばかし拾い上げ、男は地を這い帰路に就く。
ずるり、びちゃり。
蛞蝓の様に跡を残して男は這う。
ぬるり、どちゃり。
妙な寒さを感じつつ、土を嘗めては男は家を目指した。8 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:02:03.59 ID:y5qjVArTO
('A`)「ッたく……遅ェな坊っちゃん」
(´・ω・`)「むきゅん……」
('A`)「まあ大丈夫だろ、心配しなくても此処にゃあ平和ボケした奴らしか居ねェんだ」
(´・ω・`)「むっきゅー?」
('A`)「ああ、俺もお前も含めてな。ほら味見しろ、美味いか?」
(*´-ω-`)「むひゅー……」
('A`)「よし、良く出来たな今日の鍋」
(´・ω・`)「むきゅ?」
('A`)「鮟鱇は明日、今日は鱈」
(´・ω・`)ショボン
('A`)「……こっそり白子食うか?」
(*´・ω・`)「むっきゅー!」9 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:02:51.20 ID:y5qjVArTO
台所に二匹の妖怪が、こっそりと摘まみ食いをする。
冬にも拘わらず薄い浴衣を着る、一見人間の男はどくお。
人には見えるが、頭に巻いた手拭いの下には鬼の角がこっそりと。
もう一匹は狐の襟巻きに良く似た姿。
管狐のしょぼんは、嬉しそうにポン酢を付けた白子をもちゃもちゃ咀嚼していた。
(*'A`)「……うめェな」
(*´・ω・`)「むきゅ……」
帰宅の遅い坊っちゃんが悪いと笑い合い、こっそりひっそり豪華な摘まみ食い。
最後の一口を奪い合おうとした時に、玄関から物音が。
がたん、と何かが倒れる様な音に首を傾げて、
どくおはしょぼんに、食うなよと釘を刺してから玄関へと向かった。10 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:03:50.85 ID:y5qjVArTO
玄関に足を運んでみると、外から引き戸に凭れ掛かる影を見つけた。
どくおは再び首を傾げて、引き戸に手をかける。
('A`)「何だ、坊っちゃんか?」
『お……』
('A`)「何してんだ、早く入れ」
『ま、って、くれお……どくお』
('A`)「あん?」
戸を開けようとしたどくおを制するのは、聞き慣れた若い男の声。
声の主である坊っちゃんは、どうにも、様子がおかしい。
何がおかしいのかと眉を寄せて、引き戸から手を離した。12 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:05:22.80 ID:y5qjVArTO
『どくお、は……覚えてる、かお? 僕と、昔した、約束……』
('A`)「……おい、どうしたんだ? 坊っちゃん」
『覚えて……る、かお……?』
('A`)「…………怒らねェ、いじめねェ、喰わねェ」
『お…………ちゃんと、覚えてくれてたの、かお……』
('A`)「ッたりめえだろうが、どうしたんだよ、坊っちゃん」
『………………怒らないで……くれお……ぜったい、に』
('A`)「分かった、分かったから、何があったんだ、開けるぞ?」
『……お…………』13 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:05:55.25 ID:y5qjVArTO
突然、妙な事を言い出した坊っちゃんに不安を抱き、どくおは唾を飲み込んで引き戸に手をかける。
そして、坊っちゃんから返事らしい返事を聞く前に、引き戸を勢い良く開いた。
がららと戸を開くと同時、むわりと流れ込む生臭さ。
血の気の失せた顔をして、坊っちゃんがへらりと笑い、どくおを見上げる。
その手には、脛から下の、足を握り締めて。
(; A )「坊っ……ちゃん……?」
真っ赤に染まった生成りの着物、どす黒い染みを作った焦げ茶の羽織。
そして、生っ白い肌は、青白いのに、赤く、染まって。14 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:06:31.85 ID:y5qjVArTO
静かな夜の町に響き渡るは、どくおの悲鳴。
泣き叫ぶ様なその声に、町中の人や妖怪が集まった。
それでも尚、坊っちゃんは困ったようにへらへらと笑うだけ。
切り落とされた己の足を握り締め、土産の包みを握り締め。
青い顔をして、混乱しきり狼狽えるどくおとしょぼんを宥めて居た。
大丈夫だお、泣くなお、怒るなお。
そう繰り返し、駆け付けた医者の手当てを受ける間も、痛みに悶えながら他人を宥めていた。
そうして、翌朝。
坊っちゃんは脚を投げ出して座りながら、ぼんやりと天井を見上げていた。15 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:07:29.54 ID:y5qjVArTO
( A )「…………大丈夫、か……坊っちゃん」
( ^ω^)「お、薬も効いてるし痛みはねえお」
( A )「そう……か……」
( ^ω^)「……どくおの方が大丈夫じゃあねえお、少し休めお?」
( A )「…………ああ」
(´・ω・`)「……むきゅ」
( ^ω^)「しょぼん……どくお、見ててやってくれお」
(´・ω・`)「むきゅー……」
顔色を無くしたどくおがふらふらと台所へ向かうのを見て、しょぼんもそのあとをついて行く。
座敷に一人残された坊っちゃんは、後頭部を掻きながら溜め息をころり。
嗚呼、また余計な心配をかけてしまった。
あいつらは、大丈夫だろうか。
どくおとしょぼんだけでなく、あの二匹も。16 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:08:11.21 ID:y5qjVArTO
( ´ω`)「はー……全く、僕は駄目だおー……」
(,,゚Д゚)「また鬼子を虐めてンのか手前は」
( ´ω`)「別に好きで虐めてはねえお……」
(,,゚Д゚)「だが、あいつをべっこり凹ませてやがんのは誰だ?」
( ´ω`)「……僕だお……」
(,,゚Д゚)「自覚あんなら、もう少し手前の事も考えろよ。
彼奴は手前が怪我なんざすると、一番傷付くんだぞ」
( ´ω`)「分かってるお……でも今回は不慮の事故なんだお……」
(,,゚Д゚)「それでも、彼奴に心配はかけさせてやんな。
手前ががきの頃に、手前を守るって父親面する事を決めたんだ」
( ´ω`)「おー……ちゃんと分かってるんだおー……でも、僕はもうがきじゃあねえお……」
(,,゚Д゚)「だったらしゃっきりしやがれってんだ」
(;´ω`)「正直すまんと思ってるお……」
( ´ω`)
( ´ω`)「お?」18 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:09:24.89 ID:y5qjVArTO
( ^ω^)「…………ぎこの旦那、いつの間に其処に」
(,,゚Д゚)「先刻、垣根を乗り越えて此処に」
( ^ω^)「玄関から来ませんかお?」
(,,゚Д゚)「今は玄関から来ても誰も出ねぇだろうが」
(;^ω^)「ま、まあそうだけどお……」
(,,゚Д゚)「おら、医者連れてきてやったぞ、もっかい見て貰え」
( ^ω^)「お?」
(,,^Д^)「今日は内藤さん、お加減はどうですか?」
( ^ω^)「おっ、たからかお」
(,,^Д^)「はい、たからです」
いつの間にか坊っちゃんを挟む様にして座していたのは、
黒い着流しの男と、よく似た顔の袴の男。
二人の男の頭には、ちょこんと獣の耳が乗っていて。
着物の裾からはするりと、少しばかりずんぐりとした尾が覗いていた。20 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:11:13.33 ID:y5qjVArTO
( ^ω^)「狸のお二人がお揃いですかお」
(,,゚Д゚)「おうよ、文句あっか」
(,,^Д^)「兄さん、怪我人なんですからもう少し優しく言っては……」
(,,゚Д゚)「喧しいぞたから」
(,,^Д^)「兄さん……」
この二人は、狸の兄弟。
歳はさして離れては居ないが、弟のたからは医者であるお人好しの甘ったれ。
その兄であるぎこは、狸の親分そのお人。
優しくはあるが、武骨で厳しい大男。
どこぞのお美しいお狐様と対をなす、獣の中の頂点付近に降臨なさるお方であった。
こんな立派な兄を持つ弟は、多少の引け目を感じつつも立派に医者と云う仕事についている。
何処と無く荒々しく雄々しい兄と違って、弟は小綺麗でこざっぱりとした身なりである。21 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:12:43.70 ID:y5qjVArTO
仲が悪い訳ではないのだが、志した道が違う所為か、どうにも意見は対立しがちな狸の兄弟。
黒い着流しにずんばらばっさりの荒い短髪にゃあ小さな髷。
無精髭の生える顎を撫でつつ、坊っちゃんの頭を小突くのは兄のぎこ。
元は狸の親分として動いていたが、今は立派な木工屋。何処ぞのお狐様とはえらい違いである。
黒い着物に濃灰の袴、おっとり優しい物腰に、顔にはいつでも人の良さそうな笑顔。
坊っちゃんにも似た雰囲気を持つたからは、困った様に兄を諌めている。
腕の良い医者ではあるが、気の弱いところが難点か。
幼い頃は、よく兄の後ろに隠れてべそをかいていたものである。
(,,^Д^)「ほら兄さん、内藤さんの手当てをしますから」
(,,゚Д゚)「へいへい」
(,,^Д^)「大丈夫ですか? 内藤さん」
( ^ω^)「お、平気だおー」
(,,゚Д゚)「手前はもちっと痛そうな面ァしろってんだ」
(;^ω^)「おー……」
(,,^Д^)「兄さん……」22 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:13:26.76 ID:y5qjVArTO
心配していない訳ではないが、気遣うより先に叱るが来るのがぎこの良くない癖でもあった。
たからは坊っちゃんから兄を引き離し、持参した風呂敷の包みを開く。
そして狸伝膏と書かれた小さな壺の蓋を外してから、坊っちゃんの脚に巻かれた包帯を解いた。
はらはらと外されてゆく包帯。
真っ赤に染まったあて布を剥がしてやれば、乾いた血がばりばりと音を立てる。
布の向こうから顔を見せるは、美しい断面。
鋭利過ぎる程の刃物ですぱりと切り落とされた、脛から下。
たからは僅かに眉を寄せて、消毒用の薬を布に含ませ、脚の断面を拭う。
むわ、と立ち上るのは血の臭い。
鉄臭さと生臭さを混ぜた様なそれに、たからは己の腹を押さえた。
それを端から見るぎこもまた、そっと己の腹に手をやる。
嗚呼、腹の減る匂いだ。23 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:14:00.55 ID:y5qjVArTO
喩え人になろうとしていても、獣は獣。
あやかしは所詮あやかしで。
しかもこの狸は、町のあやかしの中ではあやかしを強く保つあやかし。
人の血肉と云う物は、なかなかどうして、旨そうに見えてしまうのだ。
それは己の中で眠る、生まれつきの野生に似た物の所為。
けだものなのだ、所詮は。
たからはそう心中で呟いて、頭を小さく振ってから、止めていた手を動かす。
人など喰った事はない、狸は人など喰いはしない。
だから、腹など減るわけがない。
そう自分に言い聞かせ、傷を洗う。
けれど、ああ、
赤い断面、肉付きの良い脚だ、若い分よく肉も締まっている。
甘やかされて育ったこの肉は、きっと蕩ける程に甘い筈、旨い筈。
この未だ滲む血すらも、嘗めてみればきっと甘い。
頬が落ちんばかりに、この肉は、美味甘露、嗚呼、嗚呼、嗚呼、
嗚呼、腹が減る。25 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:14:42.66 ID:y5qjVArTO
(,,゚Д゚)「たから」
(,,^Д^)「ッ!」
(,,゚Д゚)「落ち着け、手前は医者だ」
(,,^Д^)「…………はい」
外を見る兄にそう云われ、たからは再び頭を振る。
医者として、幾つもの怪我の治療をしてきた、病も治してきた。
しかしこの平和な町で、この様な大怪我をする者はめっそと居ない。
たからはその性格から、先の狐と狸の化かし合いと云う戦にも関わりがなくて。
故に、こう云った、肉のよく見える傷は、見慣れていない。
指を切っただの転んで擦りむいただの、屋根から落ちて骨を折っただのと云う怪我しか知らぬたから。
そんなたからに坊っちゃんの傷は、少々、刺激が強かったらしい。26 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:15:30.76 ID:y5qjVArTO
(,,゚Д゚)「……焼いたら旨そうだな、坊主」
( ^ω^)「豚の丸焼きとでも言いたいのかお」
(,,゚Д゚)「肥えてる自覚あんのか手前」
( ^ω^)「まあ人並みには」
(,,゚Д゚)「焼いたら肉汁よく出て旨そうだ、脂ものってる」
( ^ω^)「ちょっと止めて下さい、先刻からたからの目が怖いんだお」
(,,゚Д゚)「噛んだらじゅわっと溢れる肉汁と溶け出た脂に肉の食感がはふはふあちあちうまうま」
(,,^Д^)「兄さん」
(,,゚Д゚)「おう」
(,,^Д^)「内藤さんをかじりますよ」
( ^ω^)「止めて下さい、死んでしまいます」
(,,゚Д゚)「後で屋台で焼いたかしわの脚でも買ってやるよ」
( ^ω^)「何それ、僕の脚は鳥モモ肉扱い?」
(,,゚Д゚)「タレ塗ってこんがり焼いた皮がぱりぱりのやつな」28 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:16:43.46 ID:y5qjVArTO
ぎこの冗談めかした言葉に気持ちが解れたのか、
たからは落ち着きを取り戻して、坊っちゃんの手当てをする。
坊っちゃんからすれば食われかねないと云う状況で、戦々恐々としていたが。
綺麗な脚の断面に薬を塗り付け、布を当てて包帯を巻く。
見ているだけで痛いと云っていられる物ではない傷だが、坊っちゃんは意外にも平気な顔。
たからに塗って貰った薬と、飲まされてる鎮痛剤のお陰でもあるのだが。
その痛がらなさは、見ている方が不安にもなるもので。
(,,^Д^)「……平気、なんですか?」
( ^ω^)「お?」
(,,^Д^)「あの、脚が……無くなって」
( ^ω^)「おー……」
(,,゚Д゚)「確かに、落ち着き過ぎだな」30 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:17:52.56 ID:y5qjVArTO
( ^ω^)「……おっかさんも、かたわものだからお」
(,,^Д^)「あ……」
( ^ω^)「そりゃ脚が無くなるのは哀しいお、けど、おっかさんに少し、近付けた気もするんだお」
(,,゚Д゚)「成る程、な……確かに手前の母君は、町一番のかたわもんだ……良い意味でだ」
( ^ω^)「おっかさんは僕の尊敬する人
そのおっかさんに近付けたと思ったら、不思議と、そこまで絶望はしないお」
(,,^Д^)「内藤さん……」
(,,゚Д゚)「…………まざこんだな」
(,,^Д^)「兄さん、ぶち壊さないで下さい」
(,,゚Д゚)「間違ってねえだろ」
(,,^Д^)「そうですけど……」
( ^ω^)「否定してー」31 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:18:43.64 ID:y5qjVArTO
( ^ω^)「まあ良いお……ところで狸どん」
(,,゚Д゚)「あん?」
( ^ω^)「本題に入ろうお」
(,,゚Д゚)「……」
( ^ω^)「ぎこの旦那は、僕に話があってきた。違うかお?」
(,,゚Д゚)「……違わねえ」
( ^ω^)「その話は、僕の脚を斬った者に関して」
(,,゚Д゚)「…………おう」
( ^ω^)「単刀直入に云うお
僕の脚を斬った、それに荷担しているのは、旦那の恋人だお」
(,,゚Д゚)「……んだよ、知ってたのか」
( ^ω^)「見たんだお、背中を。その背中は二人分」
(,,^Д^)「……」
( ^ω^)「一人、足りないと思わないかお、たから」
(,,^Д^)「っ……」32 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:20:18.54 ID:y5qjVArTO
己の脚に目を落として、坊っちゃんは静かに言葉を紡ぐ。
それを聞くぎこは僅かに目線をそらし、たからは正座をして俯いてしまった。
固く握りしめた拳を膝の上に乗せて、それをじいっと見詰める。
そんなたからをちらりと見て、声をかけたのは
(,,゚Д゚)「たから」
彼の兄たる、ぎこ。
兄の声に弟はびくりと肩を跳ねさせて、俯いたまま震える唇の隙間から声を洩らした。
(,,^Д^)「は、い……兄さん」
(,,゚Д゚)「お前の所に、最近、脚を切られた患者がよく来るな」
(,,^Д^)「…………はい」
(,,゚Д゚)「それは、坊主みてえな酷い傷ではない、だが、頻繁に来てるな」
(,,^Д^)「………………は、……い」
(,,゚Д゚)「それは、鋭利な刃物で斬られた様な傷、そして打撲傷」
(,,^Д^)「…………」33 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:21:11.38 ID:y5qjVArTO
(,,゚Д゚)「お前の所のちびは、何だ」
(,,^Д^)「…………でぃさん、です、か」
(,,゚Д゚)「ああ、あのちびは、何だ」
(,,^Д^)「……鎌鼬の、末っ子、です」
(,,゚Д゚)「儂の女は、何だ」
(,,^Д^)「…………鎌鼬の長女、しぃさん、です」
(,,゚Д゚)「……分かるか、たから
儂の、しぃは、鎌鼬は、もう、あやかしが保てない」
(,,^Д^)「……っ」
(,,゚Д゚)「鎌鼬だけじゃねえ、本当は、あやかしはあやかしとしての仕事をしねえと人間になる」
(,,^Д^)「……はい」
(,,゚Д゚)「他の奴等は、それを受け入れる、人間になりたいからだ
しかし鎌鼬は、しぃは、違う…………平穏は得たいが、あやかしは捨てたくない」
(,,^Д^)「………………」
(,,゚Д゚)「問う、弟
────鎌鼬の仕事は、何だ」34 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:22:11.38 ID:y5qjVArTO
(,,^Д^)「上が転ばせ……中が斬り、下が治す…………それが、鎌鼬、です」
(,,゚Д゚)「ああ……しぃは一番上、つまり転ばせる
運ばれてくる怪我人の打撲傷は、しぃによるもの」
(,,^Д^)「……兄さん、」
(,,゚Д゚)「そして斬られた傷を治すは、誰だ、たから」
(,,^Д^)「ぁ……」
(,,゚Д゚)「答えろたから、儂の弟」
(,, Д )「………………」
(,,゚Д゚)「お前の、でぃが居れば……怪我人は増えない筈だ」
(,, Д )「兄、さん……」
(,,゚Д゚)「……坊主、儂の相談事は、これだ」
( ^ω^)「……」
(,,゚Д゚)「しぃを、どうか止めてくれ」35 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:23:52.43 ID:y5qjVArTO
( ^ω^)「狸の旦那は、それで良いのかお?」
(,,゚Д゚)「しぃがあやかしを捨てる事は、受け入れたい事じゃあねえ
だが、あやかしを守る為に苦しむしぃは、見たくねえ」
( ^ω^)「何故、旦那がそう告げないのかお」
(,,゚Д゚)「あれは、儂に、あやかしたる儂に釣り合いたくてやっている
それを、儂が崩す事は、出来やしねえ」
( ^ω^)「…………」
(,,゚Д゚)「……坊主、手前の傷もみんな、儂の責任だ。…………すまない、坊主」
深々と頭を下げるぎこを見てから、とんと肩を叩いた。
そして顔を上げさせて、にっこり、人の良さそうな朗らかな笑顔を向ける。
その反応を予想していたのか、ぎこはどうしようもなく申し訳なさそうな苦笑い。
ああ、どうしてこうも、こいつは甘ったるいんだ。38 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:24:57.00 ID:y5qjVArTO
( ^ω^)「しぃに、話をしに行くお」
(,,゚Д゚)「坊主……」
( ^ω^)「たから、お前さんの事を誰も責めはしないお」
(,,^Д^)「内藤、さん」
( ^ω^)「たからは、でぃちゃんの事を考えて、なんだお?」
(,,^Д^)「……はい、」
( ^ω^)「そして、たからが云ったのではなく、でぃちゃんの意思を尊重した」
(,,^Д^)「…………はい」
( ^ω^)「たからは、悪くないお、医者としてのつとめも果たしてるお
僕は、たからを責めたりなんて、しないお」
(,,^Д^)「……ありがとうございます、内藤さん」
( ^ω^)「…………その代わり、お願いがあるお」
(,,^Д^)「は、はい?」40 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:26:58.10 ID:y5qjVArTO
町を歩くは大男、厳めしい顔のぎこ。
その背におぶられ、首に管狐を巻いてのんびり町を見回すのはお坊っちゃん。
二人と一匹は、屋敷から抜け出していた。
(,,゚Д゚)「…………手前、結構いい性格してるよな」
( ^ω^)「なんの事だお?」
(,,゚Д゚)「たからに、あの鬼子を押し付けやがっただろ」
( ^ω^)「何の事かわからんおー、しょぼん」
(´・ω・`)「むきゅ」
(,,゚Д゚)「こいつら……」
坊っちゃんがたからに云ったお願いとは、
( ^ω^)『留守番よろぴくっ☆』
と、云う内容であった。42 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:28:47.87 ID:y5qjVArTO
坊っちゃんのこの状況で、出掛けると云ってもどくおが許す訳が無い。
そこで、しょぼんだけを連れ出して、ぎこに庭から自分を連れ出る様に頼んだ。
留守番に、たからを残して。
あの状態のどくおが、坊っちゃんが居ない事に気付くと怒り狂いかねない。
しかし留守番に一人置いて、説明をさせれば良いだろう。
坊っちゃんはもう外に出た後、連れ戻しに来るにも時間がかかる筈。
と、たからを生け贄にしたのである。
神経の細いたからにすれば、どくおと顔を合わせる事すら厳しいであろうに。
にこやかに坊っちゃんは怒っているのか、有無を云わさず決定した。
ま、殺されはしないだろうとにこにこと。
( ^ω^)「ほら、たからに僕はおぶれんお」
(,,゚Д゚)「まあそうだか……」
( ^ω^)「ま、死なんなら良いじゃないかお」
(,,゚Д゚)「死んだら責任取れよ手前……」43 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:29:51.55 ID:y5qjVArTO
( ^ω^)「まあなんとかなるなる」
(,,゚Д゚)「……怒ってんだろ、手前」
( ^ω^)「ナンノコトヤーラ」
(,,゚Д゚)「無理は無いがよ……怒るのは儂にだろうが」
( ^ω^)「怒ってはないお別に、ただちょっと渇を」
(,,゚Д゚)「…………手前、無邪気な面して」
(´・ω・`)「むっきゅ」
(,,゚Д゚)「退け、前見えん」
(´・ω・`)「むきゅーん?」
(,,゚Д゚)「結ぶぞ」
( ^ω^)「しょぼんを虐めないでくださいー」
(,,゚Д゚)(ド突きてえ)
( ^ω^)「……旦那こそ、ちょっと良い気味と思ってる癖にお」
(,,゚Д゚)「…………まあ、彼奴は甘ったれ過ぎるからな、坊主以上に」44 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:30:34.74 ID:y5qjVArTO
へへっと笑い合って、二人はしぃが働く盛岡屋まで向かう。
盛岡屋で働いているが、しぃは女郎ではなく芸者。
夜の盛岡屋は女郎屋だが、昼は普通の遊技場なのだ。
三味線が上手く愛らしいしぃは、人気の芸者。
おっとりとした物腰で、桃色の着物がよく似合う美女である。
しかし派手な美女と云う訳ではなく、素朴で優しい、目に優しい美女。
見た目ではまだ小娘とも云える童顔で、白い肌が美しい娘。
淡い花の様に甘く優しい声で歌い、白く細い指で弾かれる三味線。
物腰、器量、美しさ、全てが上級品。
しかし本人の性格は、まるで田舎の娘の様な素朴さと母の様な柔らかさ。
このぎこを追って田舎から出てきた、一途な娘。
相思相愛で、見る者が幸せになる様な恋人同士。
その一途さが仇となり、辻斬り紛いの事をしてしまっているのだが。45 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:32:21.34 ID:y5qjVArTO
しぃは、随分前に町へとやって来た。
妹達を連れて。
末っ子のでぃと云うのは、幼く見えるが、それは人間の見た目。
中身も幼い子供ではあるが、あやかしと人間では歳の取る速度が違う。
鎌鼬は長命な物で、一桁の子供に見えても実は坊っちゃんより年上。
そんな坊っちゃんの母の一人が、しぃ。
赤子だった坊っちゃんをよく可愛がり、面倒を見てくれた母代わり。
坊っちゃんからしても、しぃは良く知る人物で。
だからこそ、今回の件を、どうしたものかと頭を悩ませるのだ。
優しくしてくれた母代わりの一人に、厳しい事を云いに行くのだ。
坊っちゃんの胸も、そりゃあ痛む。
それも、あやかしを愛する坊っちゃんが、あやかしを止めて人間になれと云わねばならぬ。
この胸の中で渦巻く矛盾にも、頭を悩ませていて。
ああどうした物か、どう言えば良い物か。46 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:33:49.75 ID:y5qjVArTO
うんうん唸る坊っちゃんの鼻に、ふわりと線香のかおりが舞い込んだ。
ふと顔を上げれば、近くで葬式をしているのが見える。
嗚呼、誰かが亡くなったのか。
本来ならば、線香でもあげたいが。
哀しい事が重なるな、と俯く坊っちゃん。
こんな体でなければと思うが、こんな体と云っては悲しむ者も居る。
一体自分に何が出来るか、誰が為に何か出来るか。
解らないけれど、何かをしたい。
けれど何を出来るか解らない。
どうしようもない無力さが、息苦しく喉につっかえる。
それはしょぼんもぎこも察しているのか、何も言わず静かにしていて。
ミ,,゚Д゚彡「ヒャッハアアアアアアアアアアアッ!!!!」
何者かの吼える声と破壊音が、静寂をぶち壊した。47 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:35:09.88 ID:y5qjVArTO
炎を纏った巨大な車輪、それに乗った大きな猫。
閉じられた門を突き破り、突如現れたその妖怪に、人々は恐怖の声を上げた。
(;,゚Д゚)「な、何だぁ!?」
( ^ω^)「おー火車かお、久々に見たお」
(;,゚Д゚)「何で落ち着いてんだ!?」
( ^ω^)「まあまあ、それよりあいつ止めてくれお」
(;,゚Д゚)「え゙」
( ^ω^)「僕が止めたい所だけど、僕の脚はちょんぱしてるしお」
(;,゚Д゚)「あ、や、まあ、その」
( ^ω^)「ほら葬式がしっちゃかめっちゃかだお」
(;,゚Д゚)「うおおおおおい止めろ猫畜生ぉぉぉぉぉぉ」
( ^ω^)(この人の性格って見た目ほど武骨じゃない気がするお)
(´・ω・`)(むきゅ)49 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:36:27.30 ID:y5qjVArTO
ずんがらがっしゃんとぶち壊されてゆく葬式の場。
響くは悲鳴に破壊音。
悲しみ悼む為の静かであるべき葬式は、今や逃げ惑う人々と火車の高笑いに包まれている。
それを見てどうしようと顔を歪めるぎこ。
早く何とかしろと背中で急かす坊っちゃん。
自分が動けぬからと気楽な物である。
(;,゚Д゚)「ああ畜生! わあったよやりゃあ」
( ゚∋゚)『クェェェェェェェエ!!』
(,,゚Д゚)
( ^ω^)「あら陰摩羅鬼」
(;,゚Д゚)「落ち着き払って云うなあ!!」50 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:37:40.54 ID:y5qjVArTO
( ^ω^)「そりゃまあ葬式に火車やら陰摩羅鬼が出るのは特におかしい事では」
(;,゚Д゚)「わあっとるわこんがきゃあ!!」
( ^ω^)「ほら屍から産まれた陰摩羅鬼と屍奪いに来た火車がないとおぶげっだんする前に何とか」
(;,゚Д゚)「手前後でド突き回す!!」
( ^ω^)「おお、こわいこわい あ、旦那が作った箪笥が火車に潰されたお」
(#,゚Д゚)「其処になおれぁああああ!! 何さらしとんじゃこん糞がきゃああああああああああ!!」
( ^ω^)「おー、木工屋こえーおー」51 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:39:10.32 ID:y5qjVArTO
ミ,,゚Д゚彡「おらおら死体を寄越」
(#,゚Д゚)「だらっしゃあああ!!」
ミ;,゚Д゚彡「おげぁっ!?」
背中に乗せていた坊っちゃんを地面にべしゃりと叩き付け、ぎこは火車達の元へと走った。
楽しげ屍を奪おうと笑う火車の顔面へと飛び蹴りをかまし、車輪から引きずり下ろして馬乗りに。
火車の耳をぎりぎりと引っ張り、己が作った物を壊された事に対する怒りで顔を染めていた。
それを笑うようにぎゃあぎゃあと声を上げるのは、人間程の大きさをした黒い鳥。
そこらじゅうを飛び回り、喧しく鳴き喚いていて。
(#,゚Д゚)「おらっしゃあああああ!!」
( ∋(#)「ぎぇぴっ!?」
(#,゚Д゚)「じゃかあしゃああああ!! 手前ら似た様な面あしやがってえええええ!!」
( ^ω^)(あんたもだお……下駄投げるなお……)52 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:40:10.73 ID:y5qjVArTO
ミ;,゚Д゚彡「あだだだだだだ耳がもげるもげるもげる!」
(#,゚Д゚)「もげたのは坊主の足じゃあああああ!!」
ミ;,゚Д゚彡「それ俺様と関係ないよな!?」
(#,゚Д゚)「じゃっかあしゃあ!! 儂が作った箪笥も何もかもぶち壊しやがって!!」
ミ;,゚Д゚彡「私怨!? それ私怨!?」
( ^ω^)
( ^ω^)(旦那も元気だお)
(´・ω・`)(むきゅん)
( ^ω^)(お?)
(´・ω・`)(むきゅーむきゅっきゅむっきゅんきゅん!)
( ^ω^)(お、それは良い案だお)
(*´>ω<`)(むきゅー!)53 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:40:42.54 ID:y5qjVArTO
ミ;,゚Д゚彡「あだだだだだだだだ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!」
( ^ω^)「おーいそこなぬこー」
ミ;,゚Д゚彡「犬! 俺様犬!!」
( ^ω^)「やかましーお、それより助けて欲しいかお?」
ミ;,゚Д゚彡「それはもう!!」
( ^ω^)「じゃあ僕の乗り物として専属契約をだな」
ミ;,゚Д゚彡「こいつ見た目からは計り知れねえくらいちゃっかりしてやがる!!」
( ^ω^)「あと二度と町で暴れたりせず大人しく飼い猫であれお」
ミ;,゚Д゚彡「ふぎゃーす!! わあったよ畜生、契約しますよもう!!」
( ^ω^)「んじゃ血判を」
ミ;,゚Д゚彡「こいつ予想以上の鬼畜か!!」
( ^ω^)「ぬこが云うなお」
ミ;,゚Д゚彡「むがあああああ!!」54 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:41:19.80 ID:y5qjVArTO
( ^ω^)「はい契約成立っと、旦那ーそろそろ離してやれおー」
(#,゚Д゚)「ああ!?」
( ^ω^)「鎌鼬」
(,,゚Д゚)「あ、はい」
( ^ω^)「ほら、あんまりのんびりしてたらどくおが追っかけて来るかも知れんお」
(,,゚Д゚)「……だな、そろそろ行くか」
( -∋-)゙「クェ……」
( ^ω^)「お? 陰摩羅鬼も起きたかお、大丈夫かお?」
( ゚∋゚)゙
( ^ω^)「おっおっ、産まれたばかりではち切れちゃったんだお?」
( ゚∋゚)゙
( ^ω^)「よしよし、ならお前さんも僕の所に来るかお?」
( ゚∋゚)
( ゚∋゚)゙55 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:42:23.79 ID:y5qjVArTO
のそりと身を起こした陰摩羅鬼の前までずりずりと移動をして、坊っちゃんがにこやかに問う。
その優しげな笑顔に陰摩羅鬼は大人しく長い首を頷かせ、坊っちゃんに従う。
坊っちゃんの笑顔の内側に、しょぼんが入れ知恵をした
「乗り物を得てはどうか」と云う言葉が隠れているとはつゆ知らず。
( ^ω^)「お、じゃあ名前……は、喋れんから無理かお」
( ゚∋゚)「あ、くっくると申します」
( ^ω^)「喋った」
( ゚∋゚)「申し訳御座いませんでした、無知故に失礼な事を……」
( ^ω^)「しかも礼儀正しい」
(^ω^ )
ミ,,゚Д゚彡「こっち見んな」56 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:43:14.42 ID:y5qjVArTO
( ^ω^)「じゃあ、お前さん達は僕の家に向かわせて……ぎこの旦那、そろそろ」
(,,゚Д゚)「ちょい待て内藤の」
( ^ω^)「お?」
(,,゚Д゚)「その火車を後片付けに使え」
( ^ω^)「……あー、確かに」
ミ;,゚Д゚彡
( ^ω^)「じゃあ猫」
ミ;,゚Д゚彡「ふさ」
( ^ω^)「ふさはここで、皆さんに謝って後片付けをしなさいお」
ミ,,゚Д゚彡
( ^ω^)「しなさいお」
ミ,,゚Д゚彡「へい」57 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:44:10.11 ID:y5qjVArTO
(,,゚Д゚)「儂も残って片付けをしてやりてえんだが……」
( ^ω^)「おー……じゃあくっくる、お前さん僕を乗せて飛べるかお?」
( ゚∋゚)「乗せてですか?」
( ^ω^)「お、乗り物になってくれんかお? しょぼんは僕を浮かせる事は出来なくてお……」
(´・ω・`)「むきゅ……」
( ゚∋゚)「はい、喜んで」
( ^ω^)「おっ、ありがたいお! ……お、でも」
( ゚∋゚)?
( ^ω^)「しかし、お前さんほそっこいから僕が乗ったら潰れるんじゃあ……」
( ゚∋゚)「いえ、心配ご無用です」
( ^ω^)「お?」59 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:45:12.92 ID:y5qjVArTO
ノノノノ
( ゚∋゚)
__〃`ヽ 〈_
γ´⌒´--ヾvーヽ⌒ヽ
/⌒ ィ `i´ ); `ヽ
/ ノ^ 、___¥__人 |
! ,,,ノ爻\_ _人 ノr;^ > )
( <_ \ヘ、,, __,+、__rノ/ /
ヽ_ \ )ゝ、__,+、_ア〃 /
ヽ、___ ヽ.=┬─┬〈 ソ、
〈J .〉、| |, |ヽ-´
/"" | |: |
レ :|: | リ
/ ノ|__| |
| ,, ソ ヽ )
.,ゝ ) イ ヽ ノ
y `レl 〈´ リ
/ ノ | |
l / l;; |
〉 〈 〉 |
/ ::| (_ヽ \、
(。mnノ `ヽnm
(;゚ω゚)60 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:46:25.94 ID:y5qjVArTO
(;゚ω゚)「……え?」
( ゚∋゚)「さあ背中にお乗り下さい、内藤さん」
(;゚ω゚)「あ……はい…………ふさ、これ使って後片付け頑張れお」
(;゚ω゚)つ,(・)(・),
ミ,,゚Д゚彡「丸いの、これシャーミン」
(;゚ω゚)「箒だお」
ミ,,゚Д゚彡「皆が全身を知ってる事を前提にネタを振るのは間違ってんぞ」
(;゚ω゚)「あくまでも箒の付喪神だお」
,(・)(・),「お掃除するナリだす!」
ミ,,゚Д゚彡
ミ,,゚Д゚彡「もう何でも良いや」
(,,゚Д゚)「諦めろ亜種」
ミ,,゚Д゚彡「亜種云うな」62 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:48:29.97 ID:y5qjVArTO
( ゚∋゚)「それでは、道案内をお願いしても宜しいでしょうか?」
( ^ω^)「お、んじゃ上から……」
( ゚∋゚)「いえ、どの角を曲がるかを」
( ^ω^)
( ^ω^)「えっ?」
(´・ω・`)「むきゅ」
( ^ω^)「……そこの角を左に曲がって、真っ直ぐ」
( ゚∋゚)「把握しました、それでは皆さん行って参ります」
(,,゚Д゚)「おー行ってこい」
( ゚∋゚)「では、出発!」
そう云うや否や、坊っちゃんを背に乗せたくっくるは猛烈な速さで走り出した。63 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:49:31.42 ID:y5qjVArTO
(;^ω^)「おおおおおお鳥なのに飛ばないとはこれいかにいいいいいいい」
(;´・ω・`)「むきゅうううううん」
(;^ω^)「しょぼん飛ばされるなおちゃんと捕まっぎゃああああああああ」
(;´・ω・`)「むっきゅぅぅぅぅぅぅ!?」
(;^ω^)「しょぼおおおおおおおおおおん!?」
町を駆け抜ける黒い筋骨隆々な鳥人間。
その速度は恐ろしく、坊っちゃんの首に巻き付いていたしょぼんが後ろへと飛んで行った。
さようならしょぼん、お前さんの事は忘れないお。
顔へと当たる風により、息が出来なくなった坊っちゃんは
酸欠で遠退く意識の中、そう呟いた。
前と違うるぅとを選ぶ事が、必ずしも良いとは、限らないんだなあ。
大人しく、前の様に火車のふらぐを建てておくんだった────。64 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:51:08.38 ID:y5qjVArTO
(´<_`;)「おーい内藤、おーい」
(;^ω^)「ふらぐっ!?」
(´<_`;)「何のだよ、大丈夫かお前」
(;^ω^)「あ、ああ……流石の……流石のふらぐ……?」
(´<_`;)「そんなもん無いわ、起きろ」
( ^ω^)「お……此処は、盛岡屋……?」
(´<_`;)「この悪魔超人と云うか悪魔鳥人がお前をおぶって来たんだ」
( ^ω^)「だれうま」
( ゚∋゚)
(´<_` )「しばくぞ、泡吹いて白目剥いてた癖に」
( ^ω^)「おっかさんが三つの手で手招きしてたお……」
(´<_` )「生きてるからお前の母君」65 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:52:21.37 ID:y5qjVArTO
( ^ω^)「あ、しょぼんは」
::(;´ ω `)::ゼヒー ゼヒー
( ^ω^)「しょぼん……自力で追い付いたのかお……」
(´<_` )「何なんだよお前ら……」
( ^ω^)「あ、しぃ居てるかお?」
(´<_` )「今は休憩時間で空いてるが、会いに来たのか?」
( ^ω^)「お、話があるんだお」
(´<_` )「百鬼夜行なら云わなくても手伝うと思うぞ、あの人なら」
( ^ω^)「もう少し、真面目なお話だお」
(´<_` )「……ふむ」66 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:53:07.27 ID:y5qjVArTO
(´<_` )「なら、何の話だ?」
( ^ω^)「主にこの話」
(´<_` )
(´<_` )「おい足どこに置いてきた」
( ^ω^)「家」
(´<_` )「取りに戻ってらっしゃい」
( ^ω^)「今戻ったらどくおが文字通り鬼になるから嫌だお」
(´<_` )「と云うか百鬼夜行は真面目な話じゃないのか」
( ^ω^)「まあ僕の趣味の話だからお」
(´<_` )「こいつ……」
( ^ω^)「まあまあ、楽しめれば良いじゃないかお」
(´<_` )「まあそうだが……」67 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:54:12.14 ID:y5qjVArTO
( ^ω^)「んじゃくっくる、も少し頼むお」
( ゚∋゚)「はい、内藤さん」
(´<_` )「頼むから騒ぎとか起こすなよー」
( ^ω^)
(´<_` )「答えろ塩大福が」
( ^ω^)モッチリ
(´<_` )(焼いて屋台に並べてやろうかしら……)
くっくるに肩を貸して貰いながら、坊っちゃんはひょこひょこと盛岡屋へと入って行く。
その背中を見送りつつ、店の前の掃除をしていた流石の弟者は憂い顔。
まあた何か騒ぎが起こるんだろうなあ、と。
昔から坊っちゃんが起こす騒動に巻き込まれていた事を思い出して、肩を竦めた。
ま、それが坊っちゃんの良い所でもあるのだが、困り者だ。68 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:54:50.65 ID:y5qjVArTO
流石に店の中でおぶられるのはと云う事で、肩を貸して貰いつつ坊っちゃんは廊下を行く。
外と繋がる渡り廊下で、ぼんやりと外を見ては心臓の動きが早くなるのを感じていた。
ああ、これから久々に会う馴染みの妖怪に厳しい事を云う。
それも、この脚の事を相当悔いているであろう妖怪に。
気が重くなるが、此処で逃げては家を抜け出した意味がない。
そう、生け贄にしたたからと云う犠牲も、無駄になる。
そうこうしている間に、坊っちゃんは一つの座敷の前に立っていた。
しょぼんとくっくるが、気遣う様に坊っちゃんの顔を覗き込んでいる。
逃げて良い事柄ではないと、坊っちゃんは小さく頷いた。
障子の縁を叩いてから、しょぼんはそっと尾で戸を開く。
隙間から覗く座敷の中。
淡い桃色の着物を纏い、髪を下ろした女の後ろ姿。
三味線を遊ぶように、べん、と鳴らす。69 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:55:21.63 ID:y5qjVArTO
くっくるは坊っちゃんを座敷の中へ連れて行き、座らせるとしょぼんを連れて外に出た。
とん、と閉じられる障子。
坊っちゃんは女の背中に、そっと声をかけてみせる。
( ^ω^)「……しぃ」
(*゚ー゚)「ぁ……あらあら、まあ、内藤さんのお坊っちゃん!」
( ^ω^)「久しぶりだお、しぃ、元気かお?」
(*゚ー゚)「ええ、ええそらぁもう! お久しゅう坊っちゃん、お元気にしてはりました?」
( ^ω^)「お、元気だお」
(*^ー^)「良かったぁ、坊っちゃん小さい頃からよぉお風邪引いてはりましたものね」
(;^ω^)「そ、それは小さい頃の話だお……」
(*゚ー゚)「あら、今はひかはれへんのぉ?」
(;^ω^)「……引きます」
(*^ー^)「ほらもう、お変わりあらへんねぇ坊っちゃん」71 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:56:06.82 ID:y5qjVArTO
ころころと、こちらを向いたしぃは愛らしいかんばせに花を咲かせた様な笑顔を飾る。
娘と云ってもおかしくはない可愛らしさ、訛りの強い言葉は、どことなく心が落ち着く。
先程までのそわそわしていた感覚も忘れ、坊っちゃんはしぃの懐かしい匂いに微笑む。
(*゚ー゚)「小さい頃はよぉやんちゃしはりましたものね、坊っちゃん」
(;^ω^)「な、何の事だお」
(*゚ー゚)「ほらもう、とぼけはる。神社の賽銭箱に蟷螂の卵入れて怒られてはったんは誰?」
(;^ω^)「あ、あれはその……」
(*゚ー゚)「そんで流石の子ぉも荷担したー云うて巻き込みはったやろ?」
(;^ω^)「ぐ……記憶力の良い……」
(*^ー^)「ふふふ、そんで蟒蛇の子ぉにしこたま怒られてはったやろ?」
(;´ω`)「……はい」
(*^ー^)「うふふ、ほんまにあの頃はやんちゃな子ぉやったねぇ」72 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:56:47.72 ID:y5qjVArTO
(*゚ー゚)「はぁ……もう、懐かしいねぇ坊っちゃん」
( ^ω^)「……」
(*゚ー゚)「……坊っちゃん、?」
( ^ω^)「しぃ」
(*゚ー゚)「…………どない、しはったん?」
( ^ω^)「どうして、僕を直視しないんだお」
(*゚-゚)「っ……」
( ^ω^)「僕の脚から目をそらす理由は、何だお?」
(*゚-゚)「…………ぁ、の」
( ^ω^)「しぃ」
(* - )「……」
( ^ω^)「僕は、しぃをいじめたいんじゃないんだお。それは、解って欲しいお」
(* - )「……はい」73 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:57:32.41 ID:y5qjVArTO
ふいと顔をそらして俯いたしぃに、坊っちゃんは出来るだけ優しい言葉を投げ掛ける。
それがどれだけ苦しいか。
優しくされる方が如何に苦しいか、知らず。
膝に乗せた拳を震わせるしぃ。
それを見て坊っちゃんはまた、気分が沈んで行くのだった。
(* - )「怒って……らっしゃいます、やね……」
( ^ω^)「お?」
(* - )「脚……うちがしたの、ご存知、でしょ……?」
( ^ω^)「お……」
(* - )「ごめん、なさい……ごめんなさい、坊っちゃん……うち……」
( ^ω^)「怒ってないお」
(* - )「へ、」
( ^ω^)「気にしていないと云えば嘘になる、けれど、気にしてはいないお」
(* - )「坊っちゃん……なん、で……」74 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:58:14.64 ID:y5qjVArTO
( ^ω^)「しぃは、何故、辻斬りをする?」
(* - )「それは、あ、の……」
( ^ω^)「あやかしを、保てないから」
(* - )「っ!」
( ^ω^)「そして、あやかしでなくなると、ぎこの隣を歩けぬから」
(* - )「あ……ぁ……」
( ^ω^)「だからあやかしを保つ為、鎌鼬としての仕事をしている」
(* - )「…………」
( ^ω^)「違う、かお?」
(*;-;)「ぅ、うぅぅぅ……っ」
( ^ω^)「しぃ……泣かないでくれお、しぃ」
(*;-;)「うちは、うちは……うちの為に、人を傷付けとるん、です……っ!
坊っちゃんの……っ脚も、うちが……うちがぁっ……!」
( ^ω^)「しぃ、しぃ……泣かないでくれお、しぃ……僕は、しぃをいじめたいんじゃないお」75 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 21:59:05.31 ID:y5qjVArTO
_,
(*;-;)「だって、だってぇ! うち、悪いって思っ、てっ……それでもぉっ!!」
( ^ω^)「しぃ……」
_,
(*;-;)「うちは悪い女やのです、最低な女やのですっ! 自分の為に人を傷付けてぇっ!」
( ^ω^)「泣くな、泣くなおしぃ、僕が旦那に叱られっちまうお」
_,
(*;-;)「ぎこ様に、ぎこ様のお側におるには、人間ではあかんのですっ!
あやかしやないとっ、ぎこ様には釣り合わへんのですぅっ!!」
( ^ω^)「しぃ、」
_,
(*;-;)「でも、でもぎこ様がこの事を知ったら悲しむ! うちかてほんまは誰かを傷付けたない!
つうちゃんまで巻き込んで、うちは外道に成り下がったのです!
こんなうちを……っぎこ様が愛してくれる訳あらへんのにぃっ!!」
溢れ出したしぃの涙と言葉はおさえる事も出来ず、ただただそこらじゅうに撒き散らす。
顔を歪めてわあわあと、己の中の矛盾にもがき苦しむばかり。76 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 22:00:07.78 ID:y5qjVArTO
あやかしでなければいけなくて。
さりとてあやかしを保つ事はむつかしく。
あやかしを保つ事をしたけれど。
その心は、少しも幸で満たされる事はなく。
この哀しみのやり場など、どこにも、見付からなくて。
坊っちゃんの膝に顔を埋め、しぃはひたすら泣き喚く。
小さな頭をよしよしと撫でてやっても、坊っちゃんの胸に広がった悲しみも消えはせず。
嗚呼、恋に狂うが女のさが。
嗚呼、愛に狂うがこの結末。
心が優しい故に、壊れてしまいそうなそのからだ。
傷付けたくない保ちたい、愛してほしい愛してる。
もゆる想いは人もあやかしも変わりはせず。
一度狂ってしまったならば
後はただ、苦しみのみが待ち構える か。77 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 22:01:30.22 ID:y5qjVArTO
涙でぐっしょり濡れた、坊っちゃんの膝。
顔をくしゃくしゃにして、箍が外れた様に泣き続けるしぃ。
ああ、苦しかったんだね。
そう頭を撫でていると、坊っちゃんの耳に、声が届く。
『あねさま』
冷たく重く、黒く暗く背筋の凍るその声音。
肩をびくりと跳ねさせた坊っちゃんが後ろを振り向くより早く、後ろの障子が開け放たれた。
ばあんと開かれた障子、そして黒い影が、坊っちゃんの身へと────。
嗚呼 想いに狂うは、一人だけではなく。
嗚呼、
『二話前編 おわり。』78 :
以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします:2010/02/07(日) 22:02:03.28 ID:7Tc8QmGm0
乙!
79 :
◆XCE/Wako2nqi :2010/02 /07(日) 22:02:17.08 ID:y5qjVArTO
支援ありがとうございました。
それでは、これにて失礼しました!80 :
以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします:2010/02 /07(日) 22:03:10.60 ID:Xc8oacYu0
おつ!
83 :
以下、名無しにかわりまして VIPがお送りします:2010/02 /07(日) 22:08:57.37 ID:OmZR6DWf0
やぁ、面白かった
次→( ^ω^)百鬼夜行のようです【第二話 百年河清とて燃ゆるは想い。 後編】
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