1:
スレ立て代行:2012/02/27(月) 15:39:45.49 ID:MIIgBpkC0
少女「ウチュージン?」
宇宙人「そうですよ」
少女「……」
少女「……」ツン
宇宙人「あっ何するんですかやめてください」
少女「……うりうり」ツンツン
宇宙人「あっそこは目ですから!痛い!痛いです!」
少女「えっなにそれこわい。何でそんなとこに目がついてるの?」
宇宙人「えっおかしいですか? えっ? えっ……」
大人の超合金 小惑星探査機 はやぶさ (初回特典付き)
2:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 15:42:23.07 ID:
uejvk9PhP
少女「なんか表面もヌルヌルしてるし」
宇宙人「す、すいません……緊張して汗が」
少女「えっそれ汗なの?」
宇宙人「えっなに? なんですか? おかしいですかわたし」
少女「……」
宇宙人「あ……あの……。急に黙られると不安になります」
少女「これ耳?」
宇宙人「あっあっダメですそこはひっぱらないで! 気持ちよくなっちゃいますから! あッ!」
少女「えっごめん」ビクッ
宇宙人「ふー……ふー……。び、びっくりしました」
宇宙人「……もう、気をつけてくださいね。同族同士だったら攻撃と見なされて裁判モノですよ」
6:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 15:48:18.58 ID:
uejvk9PhP
少女「……なんだか表現に困るというか、説明するのが難しい姿ね、あなた」
少女「このぷらんぷらんしてる変なのは……一応、手足なのかしら。だとしても本数がおかしなことになってるし」
少女「ほんとに宇宙人ってこと?」
宇宙人「いえ、自分のことを宇宙人だとは特に思ってないんですが……あなたからすればそうでしょう」
少女「宇宙から来たの?」
宇宙人「そうですよ」
少女「……」
少女「宇宙人は宇宙人語をしゃべるんじゃないの?」
宇宙人「あーそれは私たちの言語とあなたたちの言語を同時に相互翻訳する機械を使ってるからですよ」
少女「?」
宇宙人「えっと……と、とにかくお互いの言葉が通じるようになる特殊な技術を使ってるんです」
少女「ふーん」
9:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 15:55:30.02 ID:
uejvk9PhP
少女「よく分からないけどすごいんだね」
宇宙人「それはもちろん! あなた方の現在の科学技術レベルは、我々が4万年ほど前に通り過ぎた地点ですね」
少女「……」
少女「えい」ツン
宇宙人「あっ! 痛いです! ツンツンしないで!」
少女「いばらないでよ」ツンツン
宇宙人「ごめんなさい! もういばらないですから! いばらないって約束します!」
少女「……そう」
少女「でもツンツンする」ツンツン
宇宙人「あっ! ダメです! そこはダメ!」
10:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 16:02:03.12 ID:
uejvk9PhP
宇宙人「うぅ……いじめっ子ですねあなた」
少女「……」
宇宙人「まぁ、多少不安はありますが……選り好みできる立場でもありませんし、あなたで我慢します」
宇宙人「すみませんが、しばらくここに置いてもらえませんか?」
少女「どうして?」
宇宙人「先程も簡単に説明しましたが、私の生体維持と宇宙船稼働のための動力源を確保する必要があるんです」
宇宙人「当面は母船と短時間の通信を可能とするだけのエネルギー採取で何とかなりますから、そんなに大量でなくてもよいのですが」
少女「動力源……石油とか?」
宇宙人「いえ、私たちが動力源とするのは生物の『感情』です」
少女「……意味がわからないわ」
宇宙人「えっ」
11:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 16:09:07.71 ID:
uejvk9PhP
宇宙人「あ、あぁ……すみません」
宇宙人「我々にとってはもはや当たり前のことなのですが、あなたの星の科学レベルでは意味不明なのも無理はないです」
少女「えい」ツン
宇宙人「えっ! いや、今のは別にいばったわけじゃ! すみません!」
少女「……続けて」
宇宙人「と……とにかくですね、我々は生物の『感情』を動力源に変換する技術をもってるんです」
宇宙人「それも知性の高い生命体の感情ほど純質で、エネルギー変換効率も高いのです」
少女「よく分からないけど、わたしが怒ったり笑ったり泣いたりすればいいの?」
宇宙人「そうです! 理解してくださって嬉しいです!」
12:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 16:16:29.06 ID:
uejvk9PhP
少女「でもそれだとわたし、感情がなくならない?」
宇宙人「大丈夫です。そんな心配はいりません」
宇宙人「感情を生み出す能力を奪うわけではなく、生み出された結果としての感情を利用するだけですから」
少女「じゃあいいけど」
宇宙人「ありがとうございます。それでは感情採取装置を身体にとりつけさせて下さいね」
少女「……いいけど」
宇宙人「しからば……よいしょっと」ペタペタ
少女「あっ! エッチ!」
宇宙人「えっ」
少女「……エッチぃ」
宇宙人「い、いえわざとじゃありません。というかそもそも種が違うのでやましい気持ちとかないですから」
14:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 16:23:27.92 ID:
uejvk9PhP
宇宙人「これで準備は終わりました」
少女「ふーん」
宇宙人「とりあえず笑ってみて下さい」
少女「……」
少女「う……うふふ?」
宇宙人「ダメですね。全然ダメダメです。気持ちがこもってません」
少女「……」
少女「えい」ツン
宇宙人「あっ! 痛い! なんでですか!? すみません!」
16:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 16:25:47.90 ID:2AaOLPoA0
17:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 16:31:16.15 ID:
uejvk9PhP
少女「文句があるなら自分に装置をつければいいと思うわ」
宇宙人「そうしたいのは山々なのですが、我々は半分生物じゃないので、感情の変換効率が悪すぎるのです」
少女「えっ」
宇宙人「えっ何ですか? 驚くところですか?」
少女「驚くところだと思う。半分は生き物じゃないの?」
宇宙人「そうですよ。宇宙では半生命体は珍しくもありません」
少女「生命以外のもう半分はなんなの?」
宇宙人「色々な場合がありますが違いますが、我々の種族の場合には『情報体』ですね」
少女「じょうほうたい?」
宇宙人「情報体というのは一種の物理的存在です。しかしあなた方の知性では正確には理解できないでしょう」
宇宙人「……そうですね、お化けみたいなものだと考えて下さい」
19:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 16:37:21.29 ID:
uejvk9PhP
少女「なにそれ」
宇宙人「粗雑な説明にならざるを得ませんが……我々も大昔の祖先は、宇宙の何処にでもいるようなごく普通の生物だったのです」
宇宙人「しかし、生命力や身体能力、情報伝達や情報蓄積などの様々な点で純粋な生命体は効率が悪いということになりまして」
宇宙人「遠い過去に身体の機械化が始まり、やがては機械化から情報体化へとトレンドが移行しました」
宇宙人「その結果『肉体の檻』は突破しましたが、生命体は生命体の限界を超え出られないため、完全な情報体にもなれなかったのです」
宇宙人「そのような経緯で、現在の半情報体・半生命体に落ち着いたわけですね」
少女「??」
宇宙人「いえ、分からないなら無理に理解しなくていいです」
宇宙人「ともかくこの情報体という身は色々と便利ではあるのですが……」
宇宙人「生体維持に生物の感情が必要となり、にもかかわらず自分たち自身の感情のエネルギー変換効率は純粋な生命体よりも劣化してしまった、と」
宇宙人「結果論ではありますが、何事も完璧にうまくいくということはないという良い教訓ですね」
少女「ふーん……。やっぱりよく分からないや」
22:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 16:43:59.98 ID:
uejvk9PhP
少女「あなたがほしいのはどんな感情なの?」
宇宙人「基本的には生物の感情なら何でもよいのですが、高出力のものほどありがたいです」
少女「たとえば?」
宇宙人「たとえば……オルガスムスなどはその代表例でしょうか」
少女「おるがす……??」
宇宙人「性的絶頂時の感情、つまり極限的な快感の情動です。たいていの生物にとってこの類の感情は爆発的エネルギーを内在させていますから」
宇宙人「あなた方の種の交配方法は確か……最もノーマルな二者間交配でしたよね」
宇宙人「私としては、あなたがガツンガツン交配に励んでくれれば嬉しい限りです」
少女「……」
少女「…………」
少女「………………」ツンツンツンツンツンツンツンツン!!!!
宇宙人「痛い! っていうか強い! 何ですか! 何でそんな急に!! あッ! すみませんすみません!!」
24:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 16:51:21.95 ID:
uejvk9PhP
少女「そういうこと言わないで」
宇宙人「いてて……『そういうこと』って何ですか?」
少女「……」スッ
宇宙人「あっすみません! よく分かりませんが分わかりました!」
宇宙人「……って、あ!」
少女「?」
宇宙人「今しがた、強い感情が生じたようですね。この色と形は……羞恥心?」
少女「……」
宇宙人「あぁ……なるほど! そういえば交配事情に羞恥を感じる文化が稀にあると聞いたことがあります。特に未開文明に散見されるとか」
宇宙人「へぇ~実際に遭遇したのは初めてです。へぇ~」
少女「……」
少女「…………」ツンツンツンツン!!!
宇宙人「痛ッ! すみません! あっこれはどうやら怒りの感情ですね! ありがたいです! あっでも痛い!」
25:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 16:58:40.57 ID:
uejvk9PhP
少女「それじゃあ私は学校に行ってくるから、部屋で大人しくしててね」
宇宙人「学校ですか。何を学ぶので?」
少女「いろいろよ。文字とか数とか……地理とか歴史とか、生き物のこととか」
宇宙人「なるほど。どのような仕方で学ぶのですか?」
少女「どのようにって……。先生が前に立って説明して、みんながそれを聞いて学ぶの。当たり前でしょ?」
宇宙人「……」
少女「なに?」
宇宙人「いえ……やはり随分と非効率的だなと思っただけです」
少女「?」
少女「……わたしはもう行くから、いい子でお留守番しててよね」
宇宙人「はい。いってらっしゃい」
26:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 17:05:31.09 ID:
uejvk9PhP
***
少女「……」
宇宙人「おかえりなさい」
少女「……ただいま」
宇宙人「学校はそんなにイヤな所なのですか?」
少女「……えっ」
宇宙人「この部屋であなたの感情をモニタリングしていましたが、継続的に強い感情が生起していました」
少女「……」
宇宙人「『恐怖』という感情です。それほどまでにあなたを怯えさせる要因が学校にはあるんですか?」
27:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 17:07:04.32 ID:4Jtkmjv20
えっ・・・・・
28:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 17:11:48.94 ID:OuVJwvb80
なんやて
29:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 17:12:54.36 ID:
uejvk9PhP
少女「……」
少女「別にいいでしょ。あなたは私の『怖い』って感情を手に入れられて満足じゃないの?」
宇宙人「ええまぁそうなんですが……恐怖という感情は生命力を鈍らせる働きがあります」
宇宙人「私としては感情採取が順調で喜ばしい反面、寄生先のあなたに死なれても困るので、やや複雑な気持ちです」
少女「……」
少女「……ふん。相手の気持ちを汲んで、言葉を選ぶことすらできないのね」
少女「そんな気持ちわるい容姿でも『私たちと同じように感情豊かなんだ』って驚いたけれど、やっぱり別の生き物ってことかしら」
少女「満足がいくまでいくらでも感情を提供してあげるわ。だから……もう黙ってて」
宇宙人「……」
宇宙人「……意外に饒舌な方だったんですね。少し驚きました」
少女「……もう寝る」
宇宙人「……」
32:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 17:20:08.01 ID:
uejvk9PhP
少女「……あッ!?」
宇宙人「どうしました急に?」
少女「!! ……パパが呼んでるッ!」ガバッ
少女「ッ!」ダッ
宇宙人「??」
宇宙人「……」
宇宙人「……」
宇宙人「……」
宇宙人「……」
宇宙人「また……『恐怖』の色と形。それに『悲しみ』の色と形も」
35:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 17:26:32.66 ID:
uejvk9PhP
少女「……」
宇宙人「おかえりなさい」
少女「……」
宇宙人「また何か辛いことがあったようですね」
少女「……」
少女「……私たちの種族は、あなたたち宇宙人とは違って何でもないことに恐怖を感じるようにできてるだけよ」
少女「みんなそうなの。私だけじゃなくて」
宇宙人「……」
宇宙人「こめかみの所……アザになってますよ」
少女「……」
少女「……おやすみ」
36:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 17:29:58.02 ID:BmG9ATbz0
そのまま宇宙に連れてってやれよ
37:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 17:34:01.11 ID:
uejvk9PhP
***
少女「……」
宇宙人「おかえりなさい」
少女「……ただいま」
宇宙人「今日も学校は辛かったのですか?」
少女「……」
宇宙人「いじめですね?」
少女「……」
宇宙人「いじめは生物にとってある程度普遍的です。知能の低い生物種にすらいじめはあります」
宇宙人「ましてあなた方のようにある程度発達した知性をもつ種族にいじめがあるのは自然なことです。想像に難くありません」
39:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 17:38:17.39 ID:
uejvk9PhP
少女「……」
宇宙人「学校の級友たちばかりではない。お父様やお母様にもいじめられているのでは?」
少女「……」
宇宙人「……」
少女「……」
宇宙人「……」
少女「……」
宇宙人「………………殺してあげましょうか?」
少女「……えっ?」
40:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 17:38:42.85 ID:BmG9ATbz0
え?
45:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 17:44:48.91 ID:
uejvk9PhP
宇宙人「あなたをいじめる者達を、皆殺しにしてあげましょうか?」
少女「……なにそれ」
宇宙人「あなたには一宿一飯どころではない恩義がありますから」
宇宙人「一切の痕跡を残さず消滅させることも可能ですし……」
宇宙人「お望みならば、苦しませながら相手の生命を断つこともできますよ?」
少女「……」
少女「……ダメだよ、そんなの」
宇宙人「どうしてですか?」
少女「だって……」
少女「だって、悪いのは私だもの」
49:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 17:51:54.44 ID:
uejvk9PhP
宇宙人「どういうことですか?」
少女「……わたしはもらわれっ子で、パパとママは嫌々わたしを養ってくれてるの」
少女「ママは『親戚の子だからって貧乏クジ引かされてこっちは散々よ』って言って、怒ったり、叩いたりするの……」
少女「パパはわたしのこと、その…………身体を撫でてきたりとか……」
少女「でも、わたしはパパとママのおかげで生きていられるんだから、多少のことは我慢しないといけないの」
宇宙人「……」
宇宙人「学校のことは?」
少女「……」
少女「……お風呂にはたまにしか入れないし、お洋服もほとんど持ってないから、みんなに『臭い』とか『汚い』って言われてるの」
少女「仕方ないよ……自分でも汚いって思うもん」
宇宙人「……」
50:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 17:59:22.95 ID:
uejvk9PhP
少女「パパとママはわたしを養ってくれてるから……仕方ないし」
少女「学校のみんなも……私が汚いから仕方ないんだよ」
宇宙人「……」
宇宙人「あなたはとても賢いのですね」
少女「えっ?」
宇宙人「あなたの種族の同年代の個体と比較すると、随分と聡明のようです」
宇宙人「自分を取りまく環境を正確に理解しており、その上で自分の感情を抑制する術を心得ています」
少女「……」
少女「なにそれ……変なの」
宇宙人「……ただ、これは私があなた方の種族の『責任』の概念をきちんと理解していないだけなのかもしれませんが……」
宇宙人「私には、あなたが『責任』と『原因』とを混同しているように見えます」
少女「??」
51:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 18:08:40.94 ID:
uejvk9PhP
宇宙人「今となっては『責任』も『原因』も我々の頻用語彙ではないので、私には説明が難しいのですが……」
宇宙人「いじめの原因は、確かにあなた自身にもあるのでしょう」
宇宙人「もらわれっ子であるという事実や清潔感がないという印象はあなた自身に付与される属性であって、確かにこれらはいじめの一因となっていると推察されます」
少女「……」
宇宙人「しかし、そういった事実や印象によって、あなたのお父様やお母様に対して、またあなたの学校の級友に対して、あなたをいじめることの免罪符が与えられるわけではありません」
宇宙人「他方でまた、彼ら彼女らのいじめという行為の『責任』は、本来的にその行為遂行者である彼ら彼女ら自身が引き受けるものでしょう」
宇宙人「にもかかわらず、そのいじめという行為の責任があなたにまで分与されると考えてしまうのは、あなたが『原因』の帰属先と『責任』の帰属先とを混同しているからです」
少女「……」
少女「……ごめんなさい。難しくてよく分からないわ」
宇宙人「……つまり簡単に言うとですね、仮にいじめの原因があなたにあったとしても、いじめの責任はあなたにはないということです」
宇宙人「あなたは、悪くないのですよ」
53:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 18:16:39.44 ID:
uejvk9PhP
少女「……」
宇宙人「あなたにも色々な事情があって、それ故にいじめられているのでしょう」
宇宙人「しかしだからといって、それは『あなたが悪い』わけではないですし、まして『仕方のない』ことでもありません」
宇宙人「あなたが望むならば、あなたをいじめる存在を皆殺しにしてみせましょう。それで問題解決です」
少女「……」
少女「ありがとう。少し驚いたけど……あなた、慰めてくれてたのね」
宇宙人「いえ、というよりも『いじめっ子排除プラン』の採用を説得していたつもりだったのですが……」
少女「でも、ダメよやっぱり」
少女「学校のみんなが死んだら、その子たちのパパやママはとても悲しいだろうし」
少女「今のパパやママを死なせちゃったら、天国にいる本当のパパとママはきっとわたしを叱るもの……」
宇宙人「……」
少女「でもありがとね。何だか少しスッキリしちゃった」
54:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 18:23:33.25 ID:
uejvk9PhP
少女「それと……」
少女「昨夜のこと……悪かったわ」
宇宙人「え?」
少女「ほら、あなたのこと『気持ちわるい』って言ったでしょ」
少女「言ってからずっと……後悔してたの」
宇宙人「ああそんなことですか。気にする必要ないですよ。私から見ればあなたの姿形もそうとう変ですし」
少女「そ、そう……。まぁいいわ。だったらお互い様ね」
少女「でも、あなたは……そうね、鼻はぷっくりとしてて可愛いと思わないでもないわよ」
宇宙人「そうですか? あなたの鼻は、私にはあまり可愛いとは思えないのですが……」
少女「ちょーしにのるなッ!」ツンツン
宇宙人「あっ! 痛い! やめてください! えへへ!」
少女「……もうッ! なんでちょっと嬉しそうなのよ……バカ」
55:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 18:24:52.95 ID:+dFvCvUH0
なんかいいね
56:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 18:30:49.07 ID:
uejvk9PhP
宇宙人「さて、排除プランの棄却は残念ではありますが……そうなると次善策ですね」
宇宙人「これを身につけて下さい」
少女「? なにこれ」
宇宙人「携帯型の防犯装置です。今日あなたがいないうちに作っておきました」
少女「……危ないものじゃないの?」
宇宙人「他人に危害を加えるものではありませんので心配しないでください。外部から強制的に他者の自律神経系に作用する微弱な電流を放出します」
少女「??」
宇宙人「その装置から出る電流にはリラックス効果がある、とでも思って下さい」
宇宙人「怒りっぽい人が少しだけ怒りっぽくなくなる程度の影響力ですし、後遺症などの心配も必要ありません」
宇宙人「いじめの根絶はできませんが、緩和効果くらいはあるはずです」
少女「……ありがとう」
宇宙人「……おや。暖かい色と形ですね。喜んでもらえたようで何よりです」
58:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 18:37:35.82 ID:
uejvk9PhP
***
宇宙人「おかえりなさい」
少女「ただいま! ねぇ聞いて、今日お友達ができたの!」
宇宙人「おやそうなんですか」
少女「うん! きっとあなたがくれたお守りのおかげね」
宇宙人「それはよかったですね。男の子ですか、女の子ですか?」
少女「女の子よ。……男の子は、ちょっと怖いわ」
宇宙人「……」
少女「そういえば、あなたって男の子? それとも女の子?」
宇宙人「私ですか? その分類で言うならば、一応『女の子』ですね」
59:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 18:45:20.12 ID:
uejvk9PhP
少女「へー」
宇宙人「なんですか?」
少女「てっきりあなたのことだから、『我々には性別などない』って言うのかと」
宇宙人「いえ、そんなことはありません。ただこの性別にはもはや高次の社会的意味合いは薄いでしょうね。種の存続という点に限った生物学的特色に過ぎないものです」
宇宙人「とはいえ、その交配についてもあなたが想像する営みとは食い違っているかもしれません」
少女「こ、こうはいって……」
宇宙人「ああ、すみません。性事情に羞恥を感じる文化をお持ちでしたよね」
少女「別にいいけど……それじゃあ、あなた達の場合どうやって子どもができるの?」
宇宙人「生命情報の直截的な連結と分裂です」
少女「?」
62:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 18:52:55.21 ID:
uejvk9PhP
宇宙人「以前にも言いましたが、我々は半分が生命体で、半分が情報体です」
宇宙人「この『半分』というのは文字通り身体の半分ずつがそうなっているという意味ではありません」
宇宙人「『生命』という事象を科学的に解析することに成功した我々の祖先は、さらに続けてその生命現象を情報体として存続させる技術を確立させたのです」
宇宙人「つまり、我々は『生命と情報体』の二つで出来ているのではなく……正確に言えば『生命としての情報体』なのです」
少女「……」
少女「……あいかわらずよく分からないわ」
宇宙人「たとえば私が子どもを作ろうとしたら、自分の生命情報の一部と他者の生命情報の一部を直截的に繋ぎあわせた後、分離させます」
宇宙人「そうすると新たな生命情報が誕生するわけです。言うなればそれが、私の子どもですね」
少女「はぁ……なんだかすごいのね」
宇宙人「いえ、むしろある意味では原始的とさえ言うべきかもしれませんよ」
63:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 18:59:31.39 ID:
uejvk9PhP
宇宙人「付言すれば、我々は情報体ですから本来的には身体も必要ありません」
宇宙人「しかし、この情報体というやつも一長一短でして」
宇宙人「同種間での情報伝達・情報蓄積・情報処理といった点では素晴らしい効率性をもつのですが、いかんせん情報体化していない種族とのコミュニケーションをはかるのが不得手なのです」
宇宙人「この点については現在も改良が続いているので、時間が解決してくれる問題だとは思いますが……」
宇宙人「現時点では非情報体の他種族とコミュニケーションをとる場合、『肉人形』を情報伝達の媒体として使うという何とも原始的方法をとっているんです」
少女「肉人形?」
宇宙人「今あなたの目の前にある私の身体のことです」
少女「えっなにそれ」
宇宙人「私にとってこの身体は借り物です。別の身体を用意すればそちらに移ることもできますし、この身体が損傷しても私自身が死ぬことはありません」
宇宙人「とはいえ、我々にも個体ごとの趣味嗜好というものがあります。この肉人形も私の趣味で選びました」
宇宙人「どうでしょう? 人気モデルの女型なんですが……少しくらいは、かわいいと思いませんか?」
少女「えっ」
宇宙人「えっ」
65:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 19:06:18.53 ID:
uejvk9PhP
***
少女「ただいま! 今日はお友達と一緒にお昼ごはんを食べたのよ!」
宇宙人「おかえりなさい。それはとてもよかったですね」
宇宙人「感情モニタリングでも、『喜び』や『楽しみ』といった暖かい色や形が続いていましたよ」
少女「うふふ。あなたが来てからなんだか幸せよ」
宇宙人「でもそれだけではなく『緊張』……いえ、『戸惑い』といった感情も継続的に観測されましたが」
少女「あ……」
少女「実はね……男の子に告白されたの」
宇宙人「ほほぅ」
少女「こんなこと初めてだから、どうすればいいか分からなくって……」
66:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 19:14:08.82 ID:
uejvk9PhP
宇宙人「どうすればって、気に入った相手なら交配すればいいんじゃないですか?」
少女「へっ?」
宇宙人「できればズッコンバッコン励んで頂きたいですね」
宇宙人「彼氏が床上手であることを祈ります。あなたも幸せですし、私も感情採取ができて嬉しいです」
少女「……」
宇宙人「……あ」
少女「だーかーらー」
宇宙人「あっ、ちょっまっ」
少女「そーゆーこと言わないでって言ってるでしょ!」ツンツンツンツンツンツン!!!
宇宙人「あっ! 痛い! 痛いです! うっかりです! うっかりですってば!」
67:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 19:15:06.12 ID:4Jtkmjv20
少女って何年生?
68:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 19:20:42.65 ID:
uejvk9PhP
>>67
本文にない情報は全て脳内補完で
69:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 19:21:21.63 ID:4Jtkmjv20
>>68
了解です
70:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 19:21:51.38 ID:
uejvk9PhP
少女「あなた、情報体とか何とか偉そうに言ってるけど……けっこうバカ?」
宇宙人「今は生体維持を可能にするだけの最小限のエネルギーしか使ってないので仕方ないんですよ」
少女「ふーん」
宇宙人「そんな疑いの眼差しを向けないでください」
宇宙人「そもそも我々の種族は、個体ごとの嗜好の違いはあっても、情報蓄積や情報処理は共有化できるため、賢さという点での個体差はあってないようなものなんです」
宇宙人「もっとも、知識の均質化は嗜好の方向性さえも限定してしまうので、趣味・嗜好の個体差も些細なものだったりするのですが」
宇宙人「このような個体間の多様性欠如というのも、情報体化のデメリットかもしれませんね」
少女「へぇ~。趣味や嗜好が限定されるって、例えば好きな男の子が被ったりとか大変じゃない?」
宇宙人「いえ、性愛などの感情は退化しています。我々の仲間内でもごく一部の者たちが趣味的に娯しむものでしかありません」
宇宙人「以前にも説明しましたが我々の生殖活動は肉体を必要としませんので、性欲などの低次欲求も退化してしまっているのです」
宇宙人「性欲が退化すれば、愛情も退化するものです。ついでに言えば、食欲や睡眠欲なども退化していますね」
71:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 19:28:28.46 ID:
uejvk9PhP
少女「そうなんだ……それじゃあ他にどんな欲求が残ったの?」
宇宙人「色々ありますが、大部分は……生存欲と知識欲ですね」
少女「へぇ~不思議。『食べたい』って欲求は消えたのに、『生きたい』なんて基本的な欲求は残ったんだ」
宇宙人「それが生命体としての限界というやつです」
宇宙人「生命体である以上、自己の生命の存続を求めずにはいられない」
宇宙人「生命現象の知的解析に成功してなお、我々は『自らが生命体である』というその事実を乗り越えることはできなかったのです」
少女「ふぅん。でも何だかつまらないわ。あなた女の子よね? それなのに、これまでもこれからも……好きな男の子はいないってこと?」
宇宙人「ええ。しかし別段そのことを不満にも思いません」
宇宙人「自分の子孫を残すのも、情報体コミュニティを存続させるための義務程度に考えています。他の仲間の多くもきっとそうでしょう」
72:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 19:36:01.58 ID:
uejvk9PhP
少女「そうなんだ……それじゃあ他にどんな欲求が残ったの?」
宇宙人「色々ありますが、大部分は……生存欲と知識欲ですね」
少女「へぇ~不思議。『食べたい』って欲求は消えたのに、『生きたい』なんて基本的な欲求は残ったんだ」
宇宙人「それが生命体としての限界というやつです」
宇宙人「生命体である以上、自己の生命の存続を求めずにはいられない」
宇宙人「生命現象の知的解析に成功してなお、我々は『自らが生命体である』というその事実を乗り越えることはできなかったのです」
少女「ふぅん。でも何だかつまらないわ。あなた女の子よね?」
少女「それなのに、これまでもこれからも……好きな男の子はいないってこと?」
宇宙人「ええ。しかし別段そのことを不満にも思いません」
宇宙人「自分の子孫を残すのも、情報体コミュニティを存続させるための義務程度に考えています。他の仲間の多くもきっとそうでしょう」
74:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 19:43:05.90 ID:
uejvk9PhP
宇宙人「ですから、あなたの恋愛相談には乗ってあげられません。すみませんが」
少女「別にあなたにそんなこと期待してないわ」
宇宙人「十分なエネルギーさえあれば、仲間と共有しているデータベースを参照することで適切なアドバイスを引き出すこともできるのですが、残念です」
少女「いいって言ってるでしょ別に」
少女「どっちにしろ……男の子は少し怖いもの。お付き合いはお断りするわ」
宇宙人「そうですか。残念です」
少女「なんであなたが残念がるのよ……って、いいわ答えなくて」
宇宙人「いえ、別に交配のことだけではありません」
宇宙人「恋愛を楽しんでくだされば『喜び』や『楽しみ』などの様々な感情採取が効率的に行えそうなので、残念だと思ったのです」
少女「それは申し訳ないわね。でも、一朝一夕に性格なんて変えられないもの」
宇宙人「ええ、まぁ先を急ぐ旅でもありませんので、気長に待たせて頂きます」
75:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 19:50:11.18 ID:
uejvk9PhP
***
宇宙人「今日はどうされたんですか」
少女「……」
宇宙人「お父様やお母様と、何かあったので?」
少女「……」
宇宙人「これまでにない『恐怖』の感情が観測されました」
宇宙人「長時間続けばあなたの生命活動に支障を来たしかねない程の強さです」
少女「……」
宇宙人「……」
少女「……」
少女「…………パパ、が」
少女「…………パパが、『一緒にお風呂に入ろう』って」
77:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 19:55:26.45 ID:
uejvk9PhP
宇宙人「お風呂ですか? 何か問題でも……」
少女「……」
少女「……」
少女「……さ」ジワ…
宇宙人「さ?」
少女「……さ、さわ、られたの」ポロポロ…
宇宙人「……」
少女「……色々な、ところ……さわられた、の……」ポロポロ…
宇宙人「……」
81:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 20:02:59.41 ID:
uejvk9PhP
少女「……ぅっ、……うっ……」ポロポロ…
宇宙人「…………やはり、排除しましょう」
少女「……だ、だめだよ。それはだめ……」
宇宙人「……」
少女「天国のパパとママが……許してくれないもん……」グス…
宇宙人「手を下すのは私ですし、あなたの意向によって行うわけでもありません。前にも説明したでしょう? 行為の責任は行為遂行者にあるものです」
宇宙人「もちろんこの原則にも例外はあり得ます」
宇宙人「行為を遂行した者と責任を負う者が必ずしも一対一対応するとは限りませんし、積極的に行為を為さなかったとしても消極的な関与によって責任が生じることもある」
宇宙人「しかし今回の件は、私があなたの意向を無視して勝手に行うことです。私の行為を生じさせた淵源があなたにあったとしても、その行為の責任はあなたにはない」
宇宙人「私があなたを悩ませる存在を排除したとしても、あなた自身がそのことで苦しむ必要はありません」
83:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 20:10:03.60 ID:
uejvk9PhP
少女「……」ポロ…
少女「やっぱり、それはだめだよ」グシグシ…
宇宙人「……」
少女「その話を聞いた上で頷いてしまったら、私にも責任があると思うし……」
少女「仮にあなたが私の意思とは無関係にやったとしても、それでも私は責任を感じちゃうよ」
宇宙人「それは……」
少女「理屈じゃないの。……そういうものなの」
宇宙人「……しかしそれではどうすれば」
少女「どうしようもないんだよ。言ったでしょ。……『仕方ない』んだって」
宇宙人「……」
86:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 20:16:40.41 ID:
uejvk9PhP
***
少女「……」
少女「……ただいま」
宇宙人「ここ最近、学校では穏やかな感情の色と形が続いていましたが、今日はどうされたんですか」
少女「……」
宇宙人「また以前のような『恐怖』や『悲しみ』の色と形で揺れていました」
少女「……」
少女「友達がね、私のこと……裏切り者だって」
宇宙人「……どういうことですか?」
87:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 20:24:00.14 ID:
uejvk9PhP
少女「この前言ってた、私に告白してきた男の子のことで……」
宇宙人「確かお付き合いを断ったのですよね」
少女「……うん」
少女「私の友達がね、その男の子のことが好きだったんだって」
宇宙人「ふむ」
少女「それで、私がその男の子に告白されたことが、友達にばれちゃって」
少女「『裏切り者だ』って」
宇宙人「?? よく分かりませんね」
宇宙人「あなたがその友達の好きな男の子が誰かを知っていて、その上で、友達に断りなく男の子とお付き合いをしたならば、裏切り者となじられるのも無理はないと思いますが」
少女「……」
少女「……『可哀想だからお友達になってあげたのに、私の好きな男の子に告白されるなんて最低』って言われたわ」
88:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 20:31:15.68 ID:
uejvk9PhP
宇宙人「……なるほど。なるほど」
少女「わたし……裏切り者なのかな」
宇宙人「……」
宇宙人「……あなたは彼女に対して、その男の子のことで偽りを働いたわけではありません」
宇宙人「しかし、彼女はあなたに期待を裏切られたと感じたのでしょう」
少女「期待、を?」
宇宙人「ええ。僅かな情報からの推測ですが、彼女はあなたを見下していたのです」
少女「……」
宇宙人「彼女はあなたに、『自分よりも可哀想な子』『自分よりも不幸な子』であることを望み、期待していたのです」
宇宙人「しかし、彼女が好意を向ける男の子は、自分にではなく、よりにもよって『自分よりも可哀想な子』であるはずのあなたを選んだ」
宇宙人「そのとき、彼女にとってあなたは『自分よりも可哀想な子』ではなくなってしまった。彼女の期待が裏切られてしまったのです」
91:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 20:38:02.00 ID:
uejvk9PhP
少女「……そう」
宇宙人「そのような期待を抱いていた彼女があなたのことを裏切り者だと感じてしまうのは仕方のないことかもしれません」
宇宙人「しかし、だからといってあなたが裏切り者だという評価は、客観的に見て妥当なものだとは言い難い」
少女「……どうして?」
宇宙人「彼女はあなたと友好関係をもつに当たり、『常に自分よりも可哀想な子であれ』という契約を結んだわけではありません」
少女「……」
宇宙人「そしてまた、彼女のあなたに対する『常に自分よりも可哀想な子であってほしい』という期待も、あなたの種族の価値観に鑑みるに、正当な期待であるとは言い難い」
宇宙人「『無闇矢鱈に暴力を振るわないでほしい』という期待や、『私の陰口を叩かないでほしい』といった期待は、あなた方の文化では種族間関係における正当な期待と言えるでしょうが、彼女の期待についてはそうは言えないということです」
少女「……」
宇宙人「……分かりにくければ、はっきりと言いましょう」
宇宙人「あなたは、悪くない」
93:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 20:46:13.50 ID:
uejvk9PhP
少女「でも……彼女を、傷つけたわ」
宇宙人「……」
宇宙人「彼女はあなたに身勝手な期待を抱いた」
宇宙人「そして、その身勝手な期待が叶わないことを嘆いているだけです」
宇宙人「期待も落胆も自分の世界の中で自己完結しているのですから、これは全き自己責任と言えるでしょう」
少女「……」
宇宙人「あなたに責任はない。あなたは悪くないのです」
少女「……」
少女「……『責任』ってね、突然誰かのもとに生まれたり、いつの間にかなくなったりするものじゃないと私は思うの」
宇宙人「え?」
94:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 20:52:54.92 ID:
uejvk9PhP
少女「何かをしたから、その行為に応じて自動的に責任が生じるとか、対価として何かをしたら責任が消えるとか……そういうものじゃないと思うわ」
少女「たぶん、責任って、自分のものとして引き受けるものなんじゃないのかな」
宇宙人「引き受ける、ですか」
少女「うん……うまく説明できないんだけど。きっとね……覚悟が、必要なの」
宇宙人「……」
少女「どんな悪い事をしたって、その行為の結果を受け止める覚悟がないなら、それは自分自身に責任を引き受けてないってことなの」
少女「誰かの悪口を言ったって、誰かを殺したって……、その事実から目を背けているなら、そこには『覚悟』が……『責任』がないんじゃないかな。『無責任』なまま……じゃないのかなって」
少女「逆にね、仮にそれが自分に非のないことだとしても……」
少女「そのことを自分自身の問題として受け止めてしまったなら、それはもう、その問題を自分の『責任』として引き受けたってことになるんじゃないかと思うの」
少女「責任って、覚悟の形なんだと思うわ……」
宇宙人「……」
95:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 20:56:02.21 ID:+dFvCvUH0
こんな深い話になると誰が予想しただろうか
96:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 21:00:24.09 ID:
uejvk9PhP
宇宙人「あなたが言っているのは『責任』ではなく、『責任感』のことなのでは?」
少女「……」
少女「ううん……違うの。そういうことじゃなくて……」
少女「たとえばね、ある人が悪い事をして、それを他の誰かが『悪いことだ』って指摘して、強制的に罰を与えたとするでしょ」
少女「でもその罰を受けた当人が、自分の行為の結果や、受けた罰について何処吹く風な態度だったら、やっぱりその人は『責任』を果たしていないんだと思う」
宇宙人「……」
少女「周りの人は、その人は『罰を受けた』んだから立派に『責任を果たした』んだって考えるかもしれないけど」
少女「私は……その人は責任を果たしてないと思う」
少女「だってその人は、最初から最後まで、自らが負うべき責任を自分のものとして引き受けていなかったんだもの」
少女「自分の責任なんて無関係に、ただ罰を受けただけに過ぎないわ」
宇宙人「……ふむ」
97:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 21:07:36.17 ID:
uejvk9PhP
少女「あなたの言うことも頭では分かってるの。彼女のことで私に非はないんだって」
少女「でも理屈じゃなくて……彼女を傷つけてしまった事実を、私はもう既に自分のものとして引き受けてしまっているの」
少女「自分の意思とは無関係に、彼女の言葉を引き受けてしまっているから……」
少女「だから、私には彼女を裏切ったんだっていう責任が、やっぱりあるんだと思う」
宇宙人「……」
宇宙人「あなたがそう言うなら、これ以上は何も言いません」
宇宙人「しかし、それは辛い生き方ですよ?」
少女「……そう、かな」
宇宙人「あなたの考え方は、自分自身に過失がない場合ですら、本来負う必要のない責任を無理に背負いこむ者の思考です」
宇宙人「それは自身に対して一点の曇りすら看過すまいという狭量な態度であり、また柔軟性のない思考であると言えます」
少女「……」
少女「…………もう、寝るわ」
宇宙人「……はい。おやすみなさい」
98:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 21:12:33.45 ID:
uejvk9PhP
***
少女「……」
宇宙人「おかえりなさい」
少女「……」
宇宙人「日に日に『恐怖』の色は濃く、形は激しくなっています」
少女「……」
宇宙人「そんなに辛いなら、学校になど行かなければよいのでは?」
少女「……」
少女「……友達が、ほしいの」
宇宙人「……」
少女「……」
100:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 21:18:37.85 ID:
uejvk9PhP
少女「ねえ」
宇宙人「何ですか?」
少女「あなたには、お友達、いるの?」
宇宙人「……ふむ」
宇宙人「情報交換を頻繁に行う個体はいますが……それはきっと、あなた方が言うところの『友達』ではないでしょうね」
少女「……そう」
少女「あなたも……友達いないんだ」
宇宙人「……」
少女「ふふ……ふ……」
宇宙人「どうして嬉しそうなんですか?」
少女「……別に」
102:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 21:24:17.91 ID:
uejvk9PhP
少女「はぁ……」
宇宙人「……わたしは、あなたの生命の弱まりが心配です」
少女「……」
少女「『感情』の供給源がなくなるのが心配なだけじゃないの」
宇宙人「……」
少女「……ごめんなさい」
宇宙人「……」
少女「ママが呼んでるわ」
宇宙人「はい。いってらっしゃい」
少女「……」
103:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 21:30:19.29 ID:
uejvk9PhP
***
宇宙人「学校に行かないのですか?」
少女「……今日は休みなの」
宇宙人「ああ……そうでしたか。何を読んでいるので?」
少女「小説よ。SF小説」
宇宙人「へぇ。小説を読むのがお好きなんですか」
少女「ええ。ここ最近は余り読んでなかったけど、小説に限らず本を読むのは好きなのよ」
宇宙人「なるほどなるほど。年齢のわりに語彙が豊富なわけがわかりました」
少女「本を読んでいるときだけはね……なんだか心が落ち着くの」
少女「想像の世界で活躍する主人公たちに感情移入している間は、嫌なことを忘れられるもの」
104:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 21:36:04.42 ID:
uejvk9PhP
宇宙人「いま読んでいるのは、どんなお話なのですか?」
少女「いま読んでるのは……宇宙人と出会った女の子のお話なの」
宇宙人「え?」
少女「ある日突然、一人の女の子のもとに宇宙人がやってくるの」
少女「宇宙人は変な姿形をしているんだけど、なぜだか憎めないヤツで……」
少女「次第にね、女の子と宇宙人は心を通わせて、仲良くなっていくの」
宇宙人「……」
少女「ふふ。まるで、今の私たちみたいでしょう?」
宇宙人「……」
少女「本当に、まるで……まるで、私たちのことを描いたみたいなお話……」
宇宙人「……」
105:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 21:42:10.77 ID:
uejvk9PhP
少女「……」
宇宙人「……」
少女「そういえば、あなたはどうしてこの星にやってきたの?」
宇宙人「……」
宇宙人「我々の種族の生体維持には、他の生命体の『感情』が不可欠であることは何度もお話ししたと思いますが」
宇宙人「これは必然的に、生命体、それも高次の知性をもつ生命体の存在が、我々の種族の存亡の鍵になるということです」
少女「あぁ、つまり……」
宇宙人「はい。我々は常に感情エネルギー採集地の開拓を行なっているのです」
宇宙人「私はこの星に現地調査として赴いた開拓員の一人です。私以外にも、何人かの仲間がこの星に降り立っています」
宇宙人「しかし、思いがけない事故で宇宙船の一部機能が壊れてしまったため、こうしてあなたにお世話になっているわけですね」
少女「……なるほど。そういうことだったのね」
108:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 21:48:45.02 ID:
uejvk9PhP
宇宙人「あなたは……」
少女「ん?」
宇宙人「私たちが、どのような経緯で出会ったか覚えていますか?」
少女「……」
少女「……え?」
宇宙人「……なぜ、宇宙人の私が、あなたのもとに来たのか。私たちの出会いの記憶が、あなたにはありますか?」
少女「……えっ、え?」
少女「あ……」
宇宙人「……」
少女「……お、覚えてるわ。それはもう、も、もちろん!」
宇宙人「……」
宇宙人「……そうですか。それならばいいのです」
次→
少女「あなた誰?」 宇宙人「えっ宇宙人ですけど」【後編】
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