少女「あなた誰?」 宇宙人「えっ宇宙人ですけど」【後編】

2012-03-03 (土) 19:22  オリジナルSS   11コメント  
前→少女「あなた誰?」 宇宙人「えっ宇宙人ですけど」




109:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 21:54:14.44 ID:uejvk9PhP

***

少女「……ヒック…………ヒック……」

宇宙人「……どうしたのですか」

少女「……ヒック……もぅやだぁ……」ポロポロ

宇宙人「……」

宇宙人「また、お父様に悪戯をされたのですか?」

少女「……ヒック……グス……………」ポロポロ

宇宙人「……」

少女「……ヒック……」ポロポロ…

宇宙人「……」



113:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 22:08:37.98 ID:uejvk9PhP

***

少女「……」

宇宙人「……」

少女「……」

宇宙人「……」

少女「……」

少女「…………今日、『二度と学校に来るな』って言われたわ」

少女「……何度も、何度も」

宇宙人「……」

少女「……」



119:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 22:18:34.13 ID:uejvk9PhP

***

宇宙人「……血が、出ています」

少女「……」

宇宙人「……」

少女「……ママが投げつけた物が、ぶつかったのよ」

宇宙人「……」

少女「……」

宇宙人「手当てした方がよいと思います。手伝いますよ」

少女「……」

少女「……ありがとう」



123:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 22:25:46.44 ID:uejvk9PhP

***

少女「……」

宇宙人「……」
少女「今日は、友達だったあの娘に叩かれたわ」

宇宙人「……」

少女「靴を隠されて、教科書に落書きをされて、下着を脱がされて教室の前に貼り出されたの」

宇宙人「……」

少女「貼り出された下着の前で膝をつかされて、『ごめんなさい』って言えって、言われたわ」
少女「『生まれてきてごめんなさい』って言えって」

少女「わたし、ごめんなさいって言ったわ。そしたら次は……」

少女「『こんな私が生きていることを許してくれてありがとう』って言えって」

宇宙人「……」

少女「『私たちに感謝しなさい』って言うの……」



124:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 22:33:49.49 ID:uejvk9PhP

***

宇宙人「……」

少女「……」

少女「パパが」

宇宙人「え?」

少女「パパが……最近エスカレートしてるの……」

宇宙人「……」

少女「きっと、もう時間がないと思う……」

少女「取り返しのつかないことが起こってしまうまで、もう、ほとんど時間が残ってないと思うの……」

宇宙人「……」



126:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 22:41:19.86 ID:uejvk9PhP

***

少女「ねぇ……」

宇宙人「なんですか?」

少女「私たちは……どうして、他の誰かをいじめるのかな」

宇宙人「……」

少女「……あなた、物知りだから分かるでしょ?」

少女「どうして弱いものいじめなんて起こるの?」

宇宙人「……」

少女「どうして、みんな、お互いに優しくなれないんだろう」



129:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 22:48:47.95 ID:uejvk9PhP

宇宙人「欲求があるからです」

少女「欲求?」

宇宙人「奪い、殺して、食べる……生命の営みの基本です」

宇宙人「攻撃欲求、征服欲求、生命の根底にはこれらの欲求が横たわっています」

宇宙人「ある程度知性を発達させたあなた方のような種族にもなお、これらの欲求は根強く存在している」

少女「……」

宇宙人「承認されたい、権威を誇りたい……社会性の獲得によってこのような欲求も生じます」

宇宙人「攻撃欲求、征服欲求、示威欲求、あなたのお父様の場合は性的欲求ですが……いずれにせよ、欲求を満たすことで快感が得られます」

少女「……」

宇宙人「あなたのお母様は、あなたを養っている現況に不満をもっておられます」

宇宙人「不満の解消は、これもまた消極的ながら気持ちのよいものです」

少女「……」



132:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 22:55:51.17 ID:uejvk9PhP

宇宙人「それらの欲求や欲求不満は、いずれも他者の存在と密接に結びついたものです」

宇宙人「他人との関わりの中で満たされ、解消されることで、快感が得られる類のものだと言えます」

宇宙人「気持ちがよいのです」

宇宙人「いじめは気持ちが良い」

宇宙人「だからなくなりません。気持ちのよいことは誰もがしたいと思うことですから」

少女「……」

宇宙人「あなたは、彼らにとって悦楽の遊具に過ぎません」

宇宙人「……それが、あなたの知りたがっている答えです」

少女「……」

少女「……そう」

宇宙人「……」

少女「……そう、なんだ」



135:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 23:00:42.08 ID:uejvk9PhP

***

少女「……」

宇宙人「……」

少女「ねえ」

宇宙人「なんですか?」

少女「私も連れていってくれない?」

宇宙人「連れていってとは……宇宙に、ですか?」

少女「……うん」

宇宙人「無理です」

少女「……」

少女「……どうして?」



137:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 23:06:54.72 ID:uejvk9PhP

宇宙人「あなたを連れ出せない理由は色々とありますが、主要なものは二つです」

宇宙人「第一に、私には感情エネルギー採集地を開拓する開拓員としての役目があります」

宇宙人「こうして協力してくれているあなたには感謝していますが、だからといって自分の任務を疎かにすることはできません」

宇宙人「そして、そもそも、現地民をこの星の外に連れ出せるだけの権限は、一開拓員の私にはありません」

少女「……」

宇宙人「第二に、私が利用する宇宙船には、肉体そのままではなく……情報体の形でしか乗船できません」

宇宙人「この肉人形……私の身体も、この星への下船時に構築したものであって、もともとこの姿形のまま宇宙船に乗っていたわけではありません」

宇宙人「つまり宇宙船に搭乗させるにはあなたを情報体化させねばならないわけですが、そもそも異種族の情報体化は、我々の種族の法では禁止されています」

宇宙人「以上より、その提案に頷くことはできません」

少女「……そう」

宇宙人「はい。……申し訳ありませんが、諦めて下さい」



138:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 23:13:08.44 ID:uejvk9PhP

少女「あの小説……」

宇宙人「え?」

少女「あのSF小説の主人公の女の子、ね……」

少女「最後の結末で、宇宙人と共に宇宙に旅立つの」

宇宙人「……」

少女「幸せそうな顔で、弾む足取りで、胸を夢一杯の期待でふくらませて……」

少女「宇宙人と手をとり合って……宇宙にね、飛び立つのよ……」

宇宙人「……」

少女「とても……幸せな結末でしょう?」

少女「……幸せな、……とても幸せな結末なの……」

少女「私もね、この星を飛び出せたら、きっと幸せな未来が待っているんじゃないかって……そう思うの……」

宇宙人「……」



140:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 23:20:08.21 ID:uejvk9PhP

宇宙人「もし……」

少女「え?」

宇宙人「もし、すべてが解決して幸せになれたなら……何をしたいですか?」

少女「……」

少女「そうだね……」

少女「あなたの生まれた星に行ってみたいかな」

宇宙人「……」

少女「って、あなたには生まれ故郷なんてないんだっけ?」

宇宙人「……そうですね」

少女「ふふ……でもいい。決めたの。それを私の夢ってことにするわ」

少女「全部うまくいくようなことがあったら、あなたの生まれ故郷でね、変な姿をした変な宇宙人たちに囲まれて……幸せに暮らすの」

宇宙人「……」



141:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 23:27:00.79 ID:uejvk9PhP

***

宇宙人「今日は、どうされたんですか?」
少女「……」

宇宙人「ひどい顔色ですよ」

少女「……」

宇宙人「……」

少女「……何でもないわ」

宇宙人「……」

少女「……何でもない」

少女「……いつものことだもの」



143:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 23:35:23.88 ID:uejvk9PhP

***

少女「……」

宇宙人「……」

少女「最近なんだか身体が重いの……」

宇宙人「あなたの生命力の薄弱化は把握しています」

少女「……ねえ。私を連れて行くことができないなら……優しく殺してくれない?」

宇宙人「え?」

少女「あなた、前に言っていたでしょう。『一切の痕跡を残さず消滅させる』ことができるって」

宇宙人「……ええ」

少女「だったら、私を殺して? 痛みを感じる間もなく、一瞬で……」

宇宙人「……」



147:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 23:42:15.80 ID:uejvk9PhP

宇宙人「……それは、できません」

少女「……」

少女「……どうして」

宇宙人「……」

少女「どうしてよ……」

少女「どうしてよぉッッ!!!」

少女「あなた、私の友達でしょう!?」

宇宙人「……」

少女「ね? ねぇ? 友達だよね私たちッ!」

少女「お願いだから『そうだ』と言って! あなただけが友達なの! あなただけが優しくしてくれるの!」

宇宙人「……」



149:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 23:50:02.73 ID:uejvk9PhP

少女「なにか言ってよ! 答えてよぉッ!!」

宇宙人「……」

少女「友達だって言って! 『あなたの友達だよ』って!!」

宇宙人「……」
少女「みんな、私をいじめるのッ! この世界には幸せなことなんて一つもないッ!!」

少女「でも、あなたは違うでしょう!? あなたはいつも私に優しくしてくれたもの! この広い宇宙の中で、あなただけがッ!!」

宇宙人「……」

少女「あなただけが私を見てくれたのッ!! だからッ……だから、お願いだからぁッ!! 『友達だ』って言ってよぉッッ!!!」

宇宙人「……」

宇宙人「……あなたは」

宇宙人「……」

宇宙人「……あなたは、私の……友達です」



152:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/27(月) 23:57:13.52 ID:uejvk9PhP

少女「あ、ははっ、は……」

少女「……そう」

少女「だったら、私のお願いを聞いてくれるよね?」

宇宙人「……」

少女「……お願い。本当に……本当に辛いの……」

少女「身体が引き千切られそうで……魂が散り散りになりそうなの……」

宇宙人「……」

少女「……お願い。わたしを、殺して」

宇宙人「……」

宇宙人「……それは、できません」

少女「……」



154:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 00:05:37.21 ID:18/y+5IbP

少女「……そう」

宇宙人「……」

少女「だったら……もう何もいらない」

少女「もう、どうでもいい」

宇宙人「……」

少女「みんな、互いに優しくなることができずに……」

少女「私も、この地獄から逃げることすらできないなら……」

少女「こんな世界……」

少女「こんな、世界……」



──────もう、なくなっちゃえばいい



155:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 00:12:04.54 ID:18/y+5IbP

宇宙人「……」

宇宙人「では、なくしてしまいましょう」

少女「……え?」

宇宙人「……」

少女「だ、だめだよ! や……やっぱり今のはなし! みんなを殺すなんて……ッ!!」

宇宙人「……いいえ」

宇宙人「違います。そんなことをする必要はないんです」

宇宙人「世界を……『あなたの世界』をなくしてしまうには、たった一言で十分ですから」

少女「……」

少女「……な……なにを、言って……?」



159:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 00:20:04.22 ID:18/y+5IbP

宇宙人「ずっと黙っていたことをお詫びします」

少女「え?」

宇宙人「いえ、以前に一度言ったことがあるのですが、あなたの反応が劇的だったので、以後そのことは禁句としていたのです」

少女「……なんの、こと?」

少女「あなた……一体、なにを言っているのよッ!?」

宇宙人「あなたも、薄々気づいているんじゃないですか?」

宇宙人「世界は……」

少女「……や、」

宇宙人「あなたの『その世界』は……」

少女「……や、やめてッ!」



宇宙人「────すべて、あなたの妄想なんです」



167:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 00:28:33.83 ID:18/y+5IbP

少女「──────あ」

宇宙人「あなたを虐待する両親は存在していません」

宇宙人「あなたは学校にも行っていませんし、級友からいじめを受けてもいません」

宇宙人「……すべて、あなたの妄想です」

少女「…………は、」

少女「……は、はは。なに言ってるの……」

少女「そんなの嘘よ。だって、私には記憶があるもの」

少女「友達に罵倒された、ママに叩かれた、パパに身体を触られたッ……生々しい記憶があるものッ!」

宇宙人「……」

宇宙人「……ええ。確かにそれらの記憶はすべて本物です」

宇宙人「紛うことなき、あなた自身の本当の記憶ですよ」

少女「え?? さっき、……から、一体何を……? 意味がわからないんだけど」



170:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 00:36:58.65 ID:18/y+5IbP

宇宙人「あなたが目を背けた……本当に目を背けたかった事実は一つだけです」

少女「……それ、は」

宇宙人「あなたは……」

宇宙人「…………────自分の、実の両親を殺したんですよね」

少女「………………ぇ」

宇宙人「あなたと出会ってすぐに、異常には気が付きました」

宇宙人「そこで、悪いとは思いましたが、あなたの睡眠中に記憶を探らせてもらったのです」

少女「………………」

宇宙人「あなたが受けていた虐待は、養父母によるものではありません」

宇宙人「あなたを本当に虐待していたのは……実の両親でした」

宇宙人「あなたの存在を疎んじ、罵倒し、暴力を振るっていたのは実の母親」

宇宙人「そして、あなたに性的虐待を行なっていたのは、実の父親です」



173:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 00:44:56.29 ID:18/y+5IbP

宇宙人「お父様の死は、半ば事故でした」

宇宙人「浴室にてあなたに乱暴を働こうとした父親を、あなたは突き飛ばしてしまい……」

宇宙人「足を滑らした彼は転んで、……打ち所が悪かったのですね」

宇宙人「あっけなく、死んでしまいました」

少女「……ぅ…………ぁ」

宇宙人「父親の死が露見すれば、どのような仕打ちを母親から受けるか……」

宇宙人「場合によっては殺されるか……、そうでなくても死ぬほどの折檻を受けることは容易に想像できたのでしょう」

宇宙人「あなたは、母親を手にかけた」

少女「……ぅ、グッ……やめ……て……」ブルブル

宇宙人「刃物で一突きです。父親の場合とは違って、こちらは明確な殺意をもって行った殺害でした」

宇宙人「いえ、お父様の殺害についても過失というより……やはり多少なりとも殺意があったのではないですか」



177:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 00:53:29.15 ID:18/y+5IbP

宇宙人「実の両親を手にかけたあなたは、……心が半分、壊れてしまったのですね。夢と現をさまよいました」

宇宙人「一面では非常に理性的であり、他方では全く逃避的でした」

宇宙人「両親の遺体を風呂場に突っ込んで隠したかと思えば、隠蔽工作もせずに放置しておいた」

宇宙人「実の両親の死を受け入れているように見えて、養父母の存在を盲信しつつ自傷行為によって過去の虐待を自ら再現した」

宇宙人「また、学校に行くように見せかけておいて、周りの目も気にせず日がな一日公園でぼんやりして過ごしていました」

少女「……やめ、て……もう…………やめて……」ブルブル

宇宙人「いいえ……やめません。あなたはもう限界です」



179:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 00:59:08.70 ID:18/y+5IbP

宇宙人「あなたは現実に脚をつけているようで、妄想の世界に耽溺していた」

宇宙人「死んだ両親の代わりとなる優しい養父母の存在を夢想し、学校の級友たちとの暖かな交流を空想しようとした」

宇宙人「妄想の世界で偽りの温もりに包まれていられるならば、その先に果てるとしてもきっと幸せだったことでしょう」

少女「……ウップ………はぁ……はぁ……」ブルブル

宇宙人「しかし、生まれてこの方『幸せな自分』を一度も経験したことがなく、不幸な体験しか知らなかったあなたは……」

宇宙人「妄想の中でさえ、幸せな自分を思い描くことができなかったんです」

少女「……あぁ……ああ"あ"ぁ"…………」ブルブル



183:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 01:06:51.14 ID:18/y+5IbP

宇宙人「妄想の中の級友のいじめは、かつてあなたの級友が、実際にあなたに体験させたいじめそのものです」

宇宙人「妄想の中の養父母の虐待は、かつてあなたの実の両親が、実際にあなたに体験させた虐待そのままに他ならない」

宇宙人「現実で不幸だったあなたは、思い通りになるはずの妄想の中ですら……不幸だったのです」

少女「……はぁー……はぁー……」ポロポロ…

宇宙人「この地域の官憲組織の整備が不充分であったことは不幸中の幸いでしたね」

宇宙人「もし充分な機構が整っていれば、数日と経たずに捕まっていたことでしょう」

宇宙人「あなたの身体には……屍臭が染み付いていますから」

宇宙人「……以上が、あなたの『本当の世界』です」

少女「……………ッ……」ポロポロ…



185:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 01:14:00.01 ID:18/y+5IbP

少女「……ど……」

少女「……どう、して……」

宇宙人「……」

少女「どうして……話したの?」

宇宙人「……あなたは、妄想に憑き殺されそうになっていた」

宇宙人「黙っておくのはこれが限界だと感じました」

少女「……」

宇宙人「……」
少女「……そ、う」

宇宙人「……はい」



187:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 01:20:32.62 ID:18/y+5IbP

少女「……それじゃあ……最後に、もう一つだけ聞かせて」

宇宙人「……何でしょうか」

少女「あなたも……」

少女「あなたも……私の妄想の産物なの?」

宇宙人「……」

少女「……」

宇宙人「……はい、そうです」

少女「………………そっか」

少女「……やっぱり……そうよね。当たり前だよね。だって、この世に宇宙人なんているはずないもん、ね……」

少女「あなたと私の関係……あのSF小説の内容にそっくり、だったもの……」

少女「妄想相手に『お友達』なんて……みじめを通り越して、滑稽ッ……で……」グスッ

少女「皆……みんな……みーーーんなッ! 私の……一人遊び、だったんだぁッッ……あははっ」ポロ…

少女「あはは……あはははっ…………」ポロポロ…



190:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 01:26:05.70 ID:18/y+5IbP

少女「あはははははっ…………」ポロポロ…

少女「どうして……私は、パパを……殺しちゃったんだろう……」

少女「どう、じでっ……ママを"……こ、殺しちゃっだん、だろうッ……」グスッ

少女「あ、あはははははっ……あははは………」ポロポロ…

少女「あは……あぁぁ……あ”あ”あ”あぁぁぁ…………」ポロポロポロ…

少女「……ぅう"う"、ぁ"あ"……う"わあ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁぁぁぁぁんッッ!!!」ポロポロポロ…

少女「ごめん、なさい……ごめん"な"ざい……ごめん"な"さいごめんなざいごめんなさいッッッ!!!」ポロポロポロ…

少女「パパぁ……ママぁ……」ポロポロポロ…

少女「パパぁッ! ママぁッ! ごめんな"ざい"! ごめんなざい"ぃッ! う"あ"あ"あぁぁぁ……」ポロポロポロポロ…

宇宙人「……」



192:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 01:33:07.52 ID:18/y+5IbP

***

宇宙人「……」

宇宙人「……落ち着きましたか」

少女「……」

少女「……」

少女「…………うん、少しだけ」グスッ

宇宙人「……」

少女「……もう、私のそばにいなくてもいいんだよ」

少女「これ以上妄想にしがみついて逃避を続けてたら、死んじゃったパパとママに申し訳ないもの」

宇宙人「……そうですか」

宇宙人「確かに。もう既に十分な量の感情採取が行えましたから。これ以上ここに留まる理由もありませんね」

少女「そう、なんだ」

宇宙人「あなたの茶番につき合う必要ももうない。わたしは、あなたの世界から退散しましょう」

少女「うん……それが、いいよ」



195:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 01:39:07.56 ID:18/y+5IbP

宇宙人「しかし、あなたはこれからどうするのですか?」

少女「……」

少女「前に私が言ったこと……覚えてる?」

宇宙人「……」
少女「『どんな悪い事をしたって、その行為の結果を受け止める覚悟がないなら、それは自分自身に責任を引き受けてないってこと』だ」

少女「『誰かの悪口を言ったって、誰かを殺したって……、その事実から目を背けているなら、そこには覚悟が……責任がない』んだって」

少女「……偉そうなこと言って、自分の責任から逃げていたのは私だったね」

宇宙人「……」

少女「今度ばかりは『あなたは悪くない』だなんて言わないでね」

少女「私は、殺したの」

少女「自分の意志で、……殺したのよ」



200:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 01:45:47.61 ID:18/y+5IbP

少女「私、もう逃げないわ」

宇宙人「責任は覚悟の形……でしたね」

少女「ふふ。なんだ……ちゃんと覚えてるじゃない」

少女「……なんて、私が覚えてることだもの。私の妄想のあなたが、覚えてないはずないものね」

宇宙人「……」

少女「わたしは自分の行為の責任を、自分自身で引き受けなきゃいけない」

少女「だからね、死のうと思うの……わたし」

宇宙人「……」

少女「ひょっとすると他に、もっときちんとした責任の取り方があるのかもしれない」

少女「でも、これが……私の、私なりの責任の取り方よ」

少女「私が自分自身に引き受けた……『覚悟の形』なの」



203:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 01:52:38.61 ID:18/y+5IbP

宇宙人「そう……ですか」

少女「……うん」

宇宙人「わたしには、あなたの覚悟を否定する権利はありません」

少女「……うん」

宇宙人「ですから、ここであなたのもとを去ろうと思います」

少女「……」

少女「そっか」

宇宙人「はい。通信を回復させられる程度には動力源も回復しましたし、母船と通信が可能になれば向こう側でこちらを引っ張ってくれます」

少女「それじゃ、これでお別れ……だね」

宇宙人「……はい」



207:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 01:57:24.27 ID:18/y+5IbP

少女「短い間だったけど……」

少女「私の妄想に過ぎないとしても……、あなたと過ごした時間は楽しかったわ」

宇宙人「……はい」

少女「ありがとう。本当に感謝してるの」

宇宙人「いえ……こちらこそ、私の生体維持および宇宙船の動力源供給の協力、感謝します」

少女「ふふ。最後の最後まで……そのキャラは崩さないんだ。私の妄想もなかなかのものね」

宇宙人「……もう会うことはないでしょう。これでお別れです」

少女「うん。ばいばい……妄想世界の宇宙人さん……」

宇宙人「さようなら。……薄幸の少女さん」



211:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 02:04:28.83 ID:18/y+5IbP

少女「……」

少女「……」

少女「……ほんとうに、一瞬にして消えてしまうのね」

少女「跡形もなく……まるで蜃気楼のように」

少女「……」

少女「……さよなら」

少女「結局わたしは、最初から最後まで、一人ぼっちだったんだね……」

少女「……」

少女「パパ、ママ……」

少女「パパとママは……私のこと、愛してなかったのかなぁ……」



212:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 02:10:09.39 ID:18/y+5IbP

少女「ママは、……私のこと嫌ってた」
少女「パパの愛情は、ふつうの父親の愛情とは違ってたもんね……」

少女「でも、私は……」

少女「……」

少女「私は、二人のことが大好きだよ」

少女「……今でも、二人のこと、だ、大好き、だよ」グスッ

少女「だから、ね」ポロ…

少女「もし天国にいけたら、三人で仲良くできるかなぁ……」ポロポロ…

少女「また三人で、一から、やり直せるかな……」ポロポロ…

少女「……」

少女「……無理、か。私はきっと、地獄行きだよね……」ポロポロ…



214:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 02:13:30.01 ID:18/y+5IbP

────ああ、世界は優しくない

…………こんなにも、こんなにも、辛いことばかりで

…………せめて

…………せめてこの眠りだけでも

…………安らかなものでありますように

…………さようなら

…………ばいばい、宇宙人さん



216:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 02:20:32.12 ID:18/y+5IbP

──────…………

────…………

───………

──さい

少女「……」

──して下さい

少女「……ぅ……」

──目を覚まして下さい!

少女「…………ぇ?」

宇宙人「目を覚まして下さい! お願いしますから!」

少女「…………」

少女「…………どう、して?」



218:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 02:25:27.71 ID:18/y+5IbP

少女「……どうして、戻ってきたの?」

宇宙人「……ッ」

少女「わたし、……覚悟したつもり、だったのになぁ……まだ、妄想を見続けてるなんて……覚悟、足りなかったのかな……」

宇宙人「しゃべらないでください!」

宇宙人「腹部を刃物で刺したのですね……」

少女「……ぅ……ゴフッ…………」

宇宙人「わたしは……あなたに謝らねばならないことがあります」

宇宙人「自分の任務を優先しようとする余り、……あなたに嘘をついたんです」

少女「……」



222:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 02:31:31.80 ID:18/y+5IbP

宇宙人「……私は、あなたの妄想ではありません」

少女「……ぇ?」

宇宙人「偽りの家族も、偽りの級友も、確かにすべてあなたの妄想でした」

宇宙人「それは、……否定しようもない事実です」

宇宙人「しかし私は実在します」

少女「……」

宇宙人「あなたの世界はあべこべだったんです」

宇宙人「事実と思えることが実は妄想で、……逆に妄想としか考えられない私の存在は事実でした」

宇宙人「……そのことを伝えなかった私を、どうか許してください」

少女「……」

宇宙人「一見すると荒唐無稽に思える私の存在こそが、あなたにとっては────ただ一つの真実だったのです」



223:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 02:38:12.40 ID:18/y+5IbP

少女「……」

少女「……ほんと、に? ほんとにあなた、は……存在するの?」

宇宙人「はい」

少女「……妄想じゃ、なくて?」

宇宙人「妄想ではありません。ここに、きちんと実在しています」

少女「でも……コフッ……なん、で?」

少女「どうして……戻って、きたの?」

宇宙人「……」

宇宙人「私がここに来たのは、自分の『責任』を果たすためです」

少女「……せき、にん?」



224:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 02:44:44.42 ID:18/y+5IbP

宇宙人「責任というのは、自らの意志で引き受けようとする覚悟の形なんでしょう?」

宇宙人「私にはあなたの覚悟を否定することはできません」

少女「……」

宇宙人「あなたが見せた高潔なその意思を否定することなど、私にはできない」

宇宙人「……ですから」

宇宙人「ですから、私は私なりに、私の覚悟をあなたに示すことにしました」

少女「……」

宇宙人「私は、己の全身全霊をささげて……あなたを救ってみせる」

宇宙人「あなたを苦しめる全ての障害から、あなたを守ってみせます」

宇宙人「それが……私の『覚悟の形』です」

少女「……」

少女「…………わたし、を?」



227:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 02:57:24.64 ID:18/y+5IbP

少女「……はぁ……はぁ……ぐッ!!」

宇宙人「ッ!? しっかりしてください!!」

少女「…………して」

宇宙人「え?」

少女「…………どう、して、……わたしなんか、を?」

宇宙人「……」

宇宙人「……そんな。いまさら何を言っているんです」

少女「ぇ?」

宇宙人「そんなの決まっているじゃないですか」

少女「……」

宇宙人「あなたは……」

宇宙人「あなたは、この広い宇宙の中で、たった一人の────」





宇宙人「──────私の、お友達でしょう?」



233:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 03:04:40.48 ID:18/y+5IbP

少女「────…………ぁ」

宇宙人「友達のためなら、いくらでも『覚悟』をもつことができます」

宇宙人「私はあなたの全存在を……自らの果たすべき『責任』として、引き受けることを誓います」

少女「……あ、……あぁ────」ジワ

宇宙人「待って下さい、今処方をしますから!」

少女「……もう、────いいわ」ポロ……

少女「……死ぬ間際に、こんな……素敵な、友達が……できたんだもの」ポロポロ…

宇宙人「……あなたを死なせたりしません!」

少女「あなたが妄想でも、……ゴフッ……実在、していても、……もう、どちらでもいい」ポロポロポロ…

少女「ありがと、ね……」ポロ…

少女「私を、友達だと言ってくれ、て……ありが、とう……」

宇宙人「ちょっと! しっかり────」



────その瞬間、彼女は……事切れた



266:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 10:05:06.87 ID:18/y+5IbP

──エピローグ



私は星を去った

しかし、調査任務を無事に遂行し終えたとは言い難い

母船に通信して向こうに引っ張ってもらってもらい、帰還して動力源を確保したのも束の間、先程発ったばかりの星へと無断で取って返したのだ

……しかし、彼女の死は避けようがなかった

私の躊躇いが、運命を分けたのだろうか

後悔が鈍い想念となってかけ巡る

確かに……母船に戻る前の段階で彼女を無理やり情報体化して連れだしたところで、

動力源を確保するために母船に帰還すれば即お縄だっただろう

結局は、こうするしかなかったのだと自分自身を無理やり納得させるしかない

過去へは……戻れないからだ



269:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 10:12:41.70 ID:18/y+5IbP

これからどうすべきか

情報体同士の情報共有化はできない

そんなことをすれば、第三者に自分の位置をあからさまに教えるようなものだ

いずれ何らかの策を講じる必要があるが、当面はローカルな情報に頼らざるを得ない

──故郷にでも帰ろうか

そんなことを考えつつ舵を取る

……宇宙船の航行速度はとてつもなく速い

というか宇宙船と言っても、そもそも物理的形状をもった船に乗っているわけではないのだ

この宇宙船もまた一種の情報体に過ぎない

無形飛行の中で……私は今、前に進んでいるのだろうか、それとも逃げているのだろうか

「責任……か」

ぼんやりと意識を宙に浮かべて、独りごちる

今更になって何故か…………彼女との出会いが脳裏をめぐった



272:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 10:19:18.71 ID:18/y+5IbP

────……

──……

─…

──通信機のトラブルで母船に帰還することができなくなり、動力源も底をついてしまったものの、

とりあえず目的の星に辿りつくことができたため、私はその段階でも比較的状況を楽観視していた

あまり物事を深刻に考えすぎないのは、他の個体とは異なる、私という個体の特性だろうか

「とは言え、気軽に出歩くのはマズイですよね~」

本来であれば、この星で接触をとる種族の姿に似せた肉人形を用意すべきところなのだが、その程度の動力源すら残っていなかったのだ

仕方なく私は現状ですぐに作ることのできる肉人形────我々の種族の祖先の姿形を模したものだ────を用意することにした

こうなると軽々には行動できない

こんな姿で街を悠々と闊歩しようものなら、たちまち衆目を集め、捉えられたり解剖されちゃったりするだろう

いや、この身体を解剖されたからといって死にはしないのだが



273:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 10:25:29.10 ID:18/y+5IbP

当面、感情採取に協力してくれる現地民を探す必要があった

「あなた誰?」

──探すまでもなく見つかってしまった

「えっ宇宙人ですけど」

つい本当のことを答えてしまう自分の馬鹿正直さが憎らしい

「へぇ~」

なんだか目をキラキラさせていらっしゃる

「私ね、宇宙人とお友達になるのが夢だったの!」

──ほほぅ

「私も寄生さk……ゲフンゲフン……現地民のお友達ができるのは嬉しいです!」

そんな風に、無邪気な生き物ですよ~という感じのアピールをして彼女に近づいた



275:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 10:32:06.19 ID:18/y+5IbP

「ねえねえ……宇宙人ってどんな生活してるの?」

──異変は彼女の家に入った瞬間に気づいた

腐臭……いや、屍臭だこれは

「さあ、あなたが思っているものとは随分違うと思いますが……」

臭いの出所は……1階……バスルームだろうか

「それにしてもあなた……変な姿してるのね。宇宙人ってみんなこんななの?」

「いえ、そうとも限りません。そもそもこの形は借り物で、私にとっての定型ではないので」

「ん? どういうこと?」

──彼女はこの臭いに気づいていないのか?

…………いや、気付かないはずはない

気づいている上で、『気にしていない』のだ……

彼女と会話しつつも、私は臭いの元が気になって仕方なく、どこか上の空だった



276:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 10:37:40.92 ID:18/y+5IbP

「ちょっとトイレ借りてもいいですか?」

「えっ!? いいけど……宇宙人もトイレ行くの?」

「ええ……そんなもんです」

──もちろん嘘だ

1階に降りてバスルームを確認する

腐った死体を二体発見した

「──ふむ」

この種族には同族の死体をバスルームに放置する文化でもあっただろうか?

「いや、ないですないです」

自分のとぼけた発想に自分で突っ込むという何だかのんべりとした情報処理を行った後、2階の彼女の部屋に戻った



277:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 10:43:15.52 ID:18/y+5IbP

「おかえりなさい」

「あぁ、ただいまです」

少女は自室でくつろいでいた

「あの……一つ聞きたいことがあるのですが」

「なに?」

「バスルームの死体は何ですか?」

「……」

「?」

「……」

「あのぉ~」

──き、気絶してる

なんだこの子……



278:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 10:47:32.39 ID:18/y+5IbP

「あなた誰?」

目を覚ました一言目がそれだった

「えっ宇宙人ですけど」

それに馬鹿正直に返す私も私だが……って、何だか既視感

「ウチュージン?」

「そうですよ」

──ああ、なるほど

この子、イカレてるんだな

そう判断した私は、同時に、『むしろこれは好都合なんじゃないか?』……そう考えた

宇宙人の存在を何の躊躇もなく受け入れている時点でかなり頭がおかしいが、

感情採取を目的としている私にとっては、過剰に警戒されない分やりやすいと言える

そんなこんなで、私は彼女を寄生先に選ぶことにしたのだった

────……

──……

─…



279:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 10:55:53.29 ID:18/y+5IbP

最初は利用しようとしただけだった

彼女の不幸な境遇や、その不幸な妄想の内容を悟った後も、特別、同情心は生じなかった

『いじめっ子排除プラン』も、彼女の生命力を弱らせないようにする方便でしかなかったし、

実際にその排除プランが彼女の賛同を得たとしても、適当に振舞って妄想の方向性を変えてやればいい程度に考えていたのだ

とは言えその妄想の方向性を変えてやるには、何らかの方法で『両親や級友が死んだ』と彼女に誤認させねばならなかった

もし虐待が妄想ではなく、現実に起こっていることであれば彼女の意向を無視してさっさと殺害を遂行していただろうが……

妄想の中の相手となるとそうすることもできず、彼女の動向に多少ヤキモキしていたのも確かだ

……そう、彼女には本当にヤキモキさせられた

それはひとえに、彼女のその偏向した考え方によるも所が大きい



280:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 11:01:51.79 ID:18/y+5IbP

────責任は覚悟の形

小娘の戯れ言でしかなく、一笑に付してしかるべき妄言のはずだ

それなのに私の内なる変化をもたらしたのもまた……彼女のその言葉だった

妄想の友人に傷つけられた彼女が、友人の告発を自らの責任として受け止めようとする姿は滑稽でもあり、何故か美しくもあった

『生命の有り様』を美しいと感じる

これは我々の種族にとって退化した感情のはずだ

それなのに彼女の『覚悟』は……何故か私の琴線に触れ、私の魂を揺さぶった

そして、自身の両親を殺めた罪を引き受け、終には自らの命に幕を引こうと決意したその『覚悟』を見るに至って──

私は、彼女を、この美しいものを守らねばならないという強烈な衝動に襲われたのだ



283:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 11:07:51.54 ID:18/y+5IbP

我々は岐路に立たされたとき、『その先で何を得るか』という基準をもって選択肢を選ぶ傾向がある

その際、往々にして『選んだその先で何を失うか』という視点は忘れられがちだ

そして、一度選択して先に進んでしまえばもはや失われたものに気など払わず、やがて、『自分が失ったのだ』という事実すら忘却の彼方へ追いやってしまう

その無数の忘却の果てに今の我々の姿があるとすれば、果たして、これまでの選択が正しかったのだろうかと、自分たちの道程に対する懸念が生じるだろう

疑い始めては前に進めない

だから私の仲間たちは疑念を抱かず、立ち止まることなく、忘却を恐れず、勇敢に前を向いて進んでいくのだ

────そう

ただ私は、そんな彼らと道を違えたに過ぎない

根底的な断絶でもって、彼らと訣別したのだ



285:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 11:13:55.81 ID:18/y+5IbP

彼らがかつて有し、今や遠い過去に置き忘れた、あの神聖感

私が彼女に対して抱いた、心を震わせつつ胸の奥からこみ上げてくるあの内なる情動

私は自分の仲間たちがかつて忘却したものに固執し、取り残される側に自らも残留することを、あえて選んだのだ

────そこまでする価値があるというのか?

それこそ、聞くまでもないことだ

……暖かく

……穏やかで

……勇気を湧かせ

……胸を熱くする

……何よりも尊い──────



少女「────ねえ。むっつりと思索にふけってないで、私とおしゃべりしなさいよ」

宇宙人「えっ……あぁ、すみません。さて、どんなお話をしましょうか?」

────元気な笑顔を見せてくれる彼女を守ること以上に、大切なものなどないのだから



288:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 11:19:53.03 ID:18/y+5IbP

***

少女「ん~~~~ッッ!!」

少女「……ッ、はぁ~~!! 久しぶりの地面ね!」

宇宙人「長旅お疲れ様でした」

少女「本当よ! 宇宙船の中つまんないんだもの。歩けないし、食事もできないし」

宇宙人「あなたは情報体になったんですから、運動する必要も食事する必要もないんですよ?」

宇宙人「その代わりに、我々と同じく感情エネルギーが必要な存在になってしまいましたが」

少女「……まぁ、それはまだいいんだけど。この身体はなに?」

宇宙人「我々の種族の祖先の形を模した肉人形ですね。私がこれまでに使っていたのと同タイプのやつですよ」

少女「……元の身体がいい」

宇宙人「そこは我慢してくださいよ。あなたは……あなたの肉体は間違いなく死んだんですから」



293:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 11:26:30.44 ID:18/y+5IbP

少女「それ、何度聞いてもよく分からないんだけど……私って死んだの?」

宇宙人「一般的な生物種としての死を迎えたことは間違いないでしょうね」

宇宙人「ただ、肉体の死と生命の死とは本来、別の現象なんです」

宇宙人「生命が肉体と不可離に結びついてる状態で肉体が滅びると、生命も肉体の死に引きずられて死んでしまいますが」

宇宙人「私や、今のあなたのように、生命を情報体の形で単独で存在させられるならば、肉体が死んでも生命は滅びません」

宇宙人「もっとも、肉体の寿命とは別に生命それ自体にも寿命がありますから、情報体になったからといって永遠に生きられるということではないんですが」



294:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 11:33:12.95 ID:18/y+5IbP

少女「……相変わらずよく分からないんだけど。つまりどういうこと?」

宇宙人「ふむ。簡潔に言えば……」

宇宙人「あなたが肉体的な死を迎えた後、時間的猶予は全くありませんでしたが、何とかあなたの生命の情報体化に成功したので、あなたの生命それ自体は死なずにすんだんです」

宇宙人「とはいえ、あなたの肉体が失われたことは残念に思っています」

宇宙人「もっとどうにかできなかったものかと、後悔していますよ」

少女「それは……まぁ仕方がなかったから、別にいいんだけど」

宇宙人「……で、情報体になったあなたを宇宙船に乗せて、逃亡航行の果て、私の故郷にたどり着いた……というわけですね」

少女「……」

少女「やっぱりよく分からない」



296:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 11:39:27.70 ID:18/y+5IbP

少女「……でも、この星は気に入ったわ」

少女「緑も多いし、水も多い。空気は……少し淀んでいるけど、そのうち馴染むと思うし」

宇宙人「気に入っていただけて何よりです」

宇宙人「一時期は地殻変動や気候変動、我々自身による森林伐採や資源採掘とかでひどい有り様だったんですが、長年の努力によってずいぶん改善しました」

宇宙人「今や異星人も少なくないので、歓迎……とまでいかないでしょうが、邪険に扱われることもないはずです」

少女「へぇ~。……ここ、あなたの故郷って言ってたけど、別にここで生まれたわけではないんでしょう?」

宇宙人「ええもちろん。正確に言えば、私の種族の祖先たちが住んでいた星ですね」
宇宙人「いま私やあなたが使っているこの肉人形ですが、これが私の祖先の姿形だったようですよ」

少女「ふーん。変なの……」

宇宙人「まぁまぁ、ほとぼりが冷めたらあなたの種族用の肉人形を用意してあげますから。今しばらくは我慢してくださいよ」

少女「……わかった。我慢する」



297:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 11:47:02.32 ID:18/y+5IbP

少女「ま、まぁ……何にせよ? 私を連れだしたのはあなたなんだからね……」

宇宙人「? ええ、そうですね」

少女「だ、だからぁ……ちゃんと『責任』とってってことよ!」

少女「こんな星で、一人っきりでほっぽり出されたらたまったものじゃないし」

宇宙人「ああなるほど。大丈夫ですよ、きちんと面倒見ますから」

宇宙人「……しかし今の文脈、今の言葉の意趣、そしてあなたの種族の文化的背景から考えるに、この『責任とって』という台詞は……」

宇宙人「結婚の申し込み? プロポーズというやつでしょうか」

少女「……え? なに言ってるの?」

宇宙人「ふむ。まぁ一生連れ添うくらいの覚悟は元よりありますが、あなたに『そういう意図』があるとなると……」

宇宙人「性別の壁……、いえ……そもそも種族という大きな壁が……」ブツブツ



298:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 11:54:00.92 ID:18/y+5IbP

少女「ちょっと、なにブツブツ言ってるのよ。……何か不穏なんだけど」

宇宙人「……ええ。分かりました。大丈夫です」

少女「え、何が?」

宇宙人「種族の違いがあるので子どもを作ることは不可能ですが、性生活で欲求不満にはさせません」

少女「はぁ?」

宇宙人「なに、不安になることはありません。性愛欲は我々にとって退化した欲求にすぎませんが、私の仲間でもエクスタシーを娯楽的に楽しむ者たちはいます」

宇宙人「その手の営みも研究し尽くされ、膨大な知識の蓄積があるのですよ。数万年にわたって発展してきた禁断の性技を披露致しましょう」

少女「……」

少女「……ほんッッとに」プルプル…

宇宙人「?」
少女「学ばないわねあなたはッッ!!!」ツンツンツンツンツンツン!!!

宇宙人「あっ! 痛い! 痛いです! でもなんか懐かしい! でも痛い!」

少女「だからなんで少し嬉しそうなのよ! このバカ!」



304:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 12:00:10.34 ID:18/y+5IbP

少女「もう。ほんと懲りないんだから」

宇宙人「えへへ、すみません」

少女「……ほら、当面の亡命先に行くんでしょ?」

宇宙人「ええ、参りましょう」

少女「……って、ああもう歩きにくい!!」

宇宙人「申し訳ないですが、こればっかりは慣れてもらうしかないですね~」

少女「どうしてあなたはこんな身体でひょいひょいと歩けるの!?」

宇宙人「慣れですよ、慣れ」

少女「だいたいね……」

少女「そもそも、────なんだって脚が二本しかないわけ!? おかしいじゃない常識的に考えて!」



311:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 12:06:27.81 ID:18/y+5IbP

宇宙人「それが私たちの祖先の身体だったんだから、仕方ないじゃないですか」

少女「脚も二本なら腕も二本! 不便ったらないわ!」

少女「それに身体全体もなんか縦にひょろっと長くて重心が安定しないし!」

少女「だいたいこのてっぺんについてるサワサワしたやつ何なの!?」

宇宙人「『髪』って言うんですよ。黒髪サラサラのロングストレートです。とってもお似合いですよ」

宇宙人「目もクリクリとしてて、鼻筋が通っていて、とても美人さんな顔立ちです」

宇宙人「体型はあなたの年代に合わせた小柄なものですが…………我々の種族の肉人形愛好家の間では、人気の高いモデルなんですよその身体」

少女「そんなこと言われても、おかしいものはおかしいって感じるんだからしょうがないじゃない!」

少女「…………はぁ。元の身体が恋しいわ」

宇宙人「ふふ。少しの間の我慢ですってば。ね?」



316:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 12:11:30.32 ID:18/y+5IbP

少女「……ねぇ、それはそうと肝心なことを聞き忘れていたんだけど」

──彼女が長い髪をたなびかせて振り返る

宇宙人「何ですか?」

少女「この星のことよ。なんていう名前なの?」

姿形がどのようであれ、彼女の強さとその煌めきには何の変わりもなく

宇宙人「あれ? 最初に言いませんでしたっけ?」

少女「聞いたかどうかも忘れちゃったわ」

その傍らに立ち、共に『覚悟』を持って未来を見据えられるならば、そこにあるのは希望だけで────

宇宙人「ふふ。そうですか」

宇宙人「私の故郷である、この星は────」





宇宙人「──────『地球』っていうんです。素敵な名前でしょ?」



319:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 12:12:35.18 ID:18/y+5IbP

──── 少女「あなた誰?」 宇宙人「えっ宇宙人ですけど」 fin.



321:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 12:14:25.04 ID:Bib/mpTV0

すっげええええええええええおもしれえええええええええええええええええええええええええええ
>>1乙
以外だったわ・・・・・・・・・・・・・・・・



327:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 12:18:01.18 ID:QpNrRSCQ0

これはいい宇宙人

おつかれさん



344:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 13:02:06.39 ID:td+HTsgZ0

おっつおっつ
面白かったよ



323:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 12:15:09.34 ID:18/y+5IbP

最後まで読んでくれた人、ありがとう

全編を通した叙述トリックについては,勘のよい人なら >>1, >>2, >>6 当たりの表現で早々に疑いを抱くはず
宇宙人は4万年後の人間で、少女こそが(人間側から見れば)宇宙人だった

「少女と宇宙人」のほのぼのSSと見せかけて、実は『責任』をテーマとした物語
もし次回作があれば『教育』か『宗教』か……あるいは他に気に入ったテーマがあればそれで書くかもしれない

もしまたSSを書く機会があれば読んでくれ!



345:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 13:03:36.17 ID:Df7QYOOgO

まるでキャビアみたいな珍しくて面白い話でした



290:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 11:23:14.57 ID:eZWcQi3m0

この宇宙人って感情エネルギーを求めて来てるんだよな・・・

本来なら人間をエネルギー生産用に家畜化させる目的だったのかね



291:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 11:24:40.75 ID:sTMa9kMi0

願いをかなえてそこから絶望するエネルギーを回収したりな



347:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/28(火) 13:24:45.88 ID:wXKxhlbRO

すごく面白かった>>1乙
ぜひまた書いてください



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コメント一覧
18796. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2012/03/03(土) 23:21 ▼このコメントに返信する
神秘的デスワー
18797. 名前 : あ◆- 投稿日 : 2012/03/04(日) 00:34 ▼このコメントに返信する
泣いた
18808. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2012/03/04(日) 02:42 ▼このコメントに返信する
これはいい作品に出会った…
名作と言わざるを得ない
18831. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2012/03/04(日) 18:24 ▼このコメントに返信する
二転三転、凄い展開でした。
とても面白かった。
18931. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2012/03/06(火) 04:40 ▼このコメントに返信する
完成度の高い、いい作品だ
正直最初はタイトルでスルーしてたが読んでみてとても惹き込まれた
19889. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2012/03/28(水) 11:26 ▼このコメントに返信する
何か、すごいうまく作られた話だったな。作者の他のssも見てみたい。
28198. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2012/10/29(月) 19:29 ▼このコメントに返信する
キマシタワー名作劇場デスワー
28203. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2012/10/29(月) 20:46 ▼このコメントに返信する
これぞ次世代の百合…!
38609. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2013/09/27(金) 22:32 ▼このコメントに返信する
「神々自身」とか「ΑΩ」な感じ
隼人も最後死にかけでプラズマ情報生命体に変換されたし
48478. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2018/04/09(月) 06:42 ▼このコメントに返信する
かっけえなあおい・・・!
普通に宇宙人宇宙人として考えてたからめっちゃびびったwww
49232. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2020/01/22(水) 20:21 ▼このコメントに返信する
数万年にわたって発展してきた禁断の性技・・・ゴクリ
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