武内P「素直じゃないプロポーズ」

2020-04-24 (金) 12:01  アイドルマスターSS   0コメント  
1: ◆SbXzuGhlwpak 2020/04/13(月) 20:18:16.81 ID:9ZfmECmt0

注意事項

・武内Pもの

・武内Pもの





凛「プロデューサー。ちょっと訊きたいことがあるんだけど」

武内P「なんでしょうか?」

武内P(――撮影開始を待つ控室でのことでした)

武内P(機材のトラブルにより撮影準備が遅れたため、それを待つ間に念のためにともう一度打ち合わせをして一息ついた時です)

武内P(渋谷さんは視線を逸らしながら――しかし最後にはしっかりと私の目を見ながら問いかけてきました)

凛「失礼な質問だとは思うんだけど、前々から気になってたことがあって。ちょうどよく二人きりだから、教えて欲しいんだけど……」

凛「プロデューサーは、独身だよね?」

武内P「……? ええ、その通りです」

凛「彼女も……いないよね?」

武内P「はい、いませんが」

凛「仕事は忙しくって朝から晩まで働いて、休みも週に一度あるかないか……だよね?」

武内P「その通りですが……渋谷さん、貴方が気になっていたことというのは、まさか……」

凛「うん。察しはついているようだけど、最後の質問をさせてね。プロデューサーはたまの休みに何をしてるの?」

武内P「……半分は寝ています。それ以外だと部屋の掃除と買い出し、後は健康のためにジムに通っています」

凛「……うん、なんとなく想像していたけど酷い状況だね。独身で彼女もいなくて、出会いの場に行こうにも仕事が忙しすぎてそんな余裕が無い。たまの休みは疲れた体を回復させて終わり」

武内P「心配をおかけしたようですが……私は毎日充実した日々を送っていますので酷いというわけでは――『あのね、プロデューサー』――はい」

凛「プロデューサーは結婚願望はあるの、無いの?」

武内P「あ、あります」





渋谷凛
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2: ◆SbXzuGhlwpak 2020/04/13(月) 20:19:40.14 ID:9ZfmECmt0

凛「だったらちゃんと幸せになるためにも、もう少し焦ってよ。私……ううん、私だけじゃない。そのうち私たち全員で心配することになる」

武内P「渋谷さん……?」

凛「こんなこと考えてるのは今は私だけだろうけど……もし今から十年たって、それでもプロデューサーに奥さんも彼女もいなかったら私たちどう考えると思う?」

凛「私たちシンデレラプロジェクトのメンバーは、プロデューサーが一生懸命プロデュースしてくれたおかげできっと幸せになってる。中には結婚して、子どもが生まれている娘だっているかもしれない。それなのに私たちの面倒を見てくれた肝心のプロデューサーが、もう四十歳ぐらいになるのに隣に誰もいなかったら、私たちは悲しいし……何より申し訳ないと思うよ」

凛「ああ、私たちに付きっきりだったせいでプロデューサーは婚期を逃したんだ。私たちはプロデューサーが一人で寂しい想いをしているのに、自分たちだけ幸せになってしまったんだって……」

武内P「そ、それは大げさです! 私は皆さんが幸せになると信じていますが、それは私のおかげではなく本人の努力と私以外の助力によるモノがほとんどのはずです」

凛「一番多感な時期に、考えもしなかった生き方を与えてくれて、一緒に進んでくれた人の影響って――小さくは無いと思うよ。少なくともプロデューサーがあまり幸せとは言えない状況にあるのを見て何とも思わない冷たい娘は、うちには一人もいないから」

武内P「それは……そうかもしれませんが」

凛「あ、それにね。プロデューサーが幸せなら私たち全員が嬉しいことだけは間違いないから、私たちのためにも幸せになってよ」

武内P(考えすぎだとは思いますが……十年後、そうなってしまう可能性は確かにあります)

武内P(皆さんに不要な心配をかけないためにも、結婚を前提とした相手を見つけるという理屈はわかりますが……正直、そのための余裕が無いのが現状です)

凛「……もしかしてプロデューサー。自分と似たような立場のまゆPが近くにいるから、あまり危機感をもてなかったりする?」

武内P「え……? そうですね。考えたことはありませんでしたが、同期のまゆPも独身で彼女がいないことに、どこか安心していたかもしれません」

凛「もう、ダメだよプロデューサー。まゆPは独身で彼女もいないけど、結婚相手は決まっているも同然なんだから。プロデューサーと同じ条件なんかじゃないよ」

武内P「……念のために確認しますが、まゆPの決まっているも同然の結婚相手とはどなたでしょうか?」

凛「まゆ」

武内P「……彼は担当しているアイドル、そのうえ未成年である佐久間さんとは決してそのような関係にはなりません」

凛「うん。未成年に対する大人として、アイドルに対するプロデューサーとして、まゆPは立派だと思うよ。けどね、プロデューサー?」

凛「本心ではまゆのことを愛しているのに、あのまゆから逃げられると少しでも思う?」

武内P「あの……その……彼も、がんばっているんです」

凛「……うん。普通ならとっくに我慢できなくて手を出しているよね。やっぱりこれって、大人として、プロデューサーとしての責任感が強いから――あっ」

武内P「渋谷さん……?」

凛「そっか……うん、良い事思いついた。プロデューサーもまゆPに負けず劣らず責任感は強いよね?」

武内P「……彼のあの、絶望的な戦いに毎日身を投げる責任感には劣りますが、強い方だと思います」

凛「私はいい勝負だと思うけど……まあそれはともかく、プロデューサーに結婚への危機感を強くもってもらう方法が思いついたよ」

武内P「それは何でしょうか?」




凛「5年後、私が20歳になってもプロデューサーに相手がいなかったら、私と結婚しよう」





武内P「――――――――――渋谷さん?」




3: ◆SbXzuGhlwpak 2020/04/13(月) 20:20:28.67 ID:9ZfmECmt0

凛「担当していたアイドルと結婚なんて、責任感の強いプロデューサーには選べないよね? それを避けるためにはちゃんと結婚相手を見つけないと」

武内P「……冗談ですよね?」

凛「冗談? 私がプロデューサーの将来を心配しているのも、そのために危機感をもってもらおうとしているのも、全部本気だけど」

武内P「いや、しかし。そのために自分の結婚を条件に……それも罰のように設定するのは、タチの悪い冗談にしか思えません」

凛「でもこれぐらいしないとプロデューサーは危機感をもってくれそうにないから。さ、約束して」

武内P「約束……ですか?」

凛「うん。5年たっても結婚相手がいなかったら、私と結婚するって。もし約束してくれたら私もプロデューサーが本気で結婚相手を見つけてくれるって安心できるから」

武内P(……もともと結婚相手は近いうちに見つけなければならないと思っていました。何より――私の身を案じてくれているのは本当なのでしょうが、仮に5年後の私に相手がいない場合に自分が結婚するというのはいくらなんでも本気ではないでしょう)

武内P(そもそもこの約束を5年後も覚えているとは思えませんし、私も5年後に持ち出したりしません。それならばここで約束をして、渋谷さんに安心してもらっても特に問題は無いでしょう)

武内P「わかりました。5年後の私に結婚相手がいない場合は、渋谷さんに結婚してもらうことにします。そしてそうならないように、今から努力することを約束します」

凛「うん。そうならないように努力することは信じているけど、5年後のプロデューサーに結婚相手がいなかったら私と結婚してもらうから」

武内P「……何だか、妙な約束ですね」

凛「フフッ。面白い約束だよね。でも、約束は約束だから」


ドア<コンコン


武内P「はい、どうぞ」

AD「すいませーん。撮影の準備があと10分ぐらいで整いそうです」

武内P「わかりました。もう少ししたらうかがいます」

AD「遅れてしまい申し訳ありませんでした。よろしくお願いいたします!」

武内P「いえ、お気になさらず。それでは渋谷さん?」

凛「うん。準備はバッチリ。気がかりだった件も解決できたしね。行ってきます!」





武内P(こうして私と渋谷さんは約束しました。とはいっても5年という月日は毎日を一生懸命に駆け抜ける渋谷さんにはあまりに遠い日のことで、きっと忘れてしまうことでしょう)

武内P(私はというと、あまりに衝撃的な約束なので5年たっても覚えているでしょうが……それはもはや約束ではなく、思い出と呼ばれるものです)

武内P(そして5年といわず10年、あるいは20年はたった頃、こんな話をしたことがあったと二人で語り合うことができれば――)




4: ◆SbXzuGhlwpak 2020/04/13(月) 20:21:08.27 ID:9ZfmECmt0

――

――――

――――――――



武内P「――語り合うことができれば、私は幸せです。……どうしましたかまゆP?」

まゆP「おま……おま……なんという迂闊な約束を……」

武内P「……?」

武内P(数日前の出来事を二人で宅飲みしている時に話してみたら、赤らんでいたまゆPの顔が何故か今は青ざめています)

まゆP「完全に言質をとられちまって……いや、5年も猶予がある。言い方を変えれば5年も待ったんだよと、完全に逃げ道を塞がれるわけだが……5年のうちに相手を見つければいい話か」

武内P「あの……まゆP?」

まゆP「武内ッ!!」

武内P「は、はい!」

まゆP「俺たち、ちゃんと結婚相手を見つけような! 歳が近い大人の一般女性を! 間違っても未成年の担当アイドルとかじゃなくて!」

武内P「も、もちろんです」

まゆP「俺たち、無事に結婚相手を見つけたら結婚するんだ……ッ!」




5: ◆SbXzuGhlwpak 2020/04/13(月) 20:22:05.30 ID:9ZfmECmt0

――約束から1年後、渋谷凛16歳



同僚「あ、武さ~ん」

武内P「はい、なんでしょうか」

同僚「武さん来週の金曜の夜空いてますか? 19時から合コンするんですけど、向こうから身長180以上のガタイがいい30~35歳を一人用意してほしいって言われて、心当たりがあるって答えちゃったんですよ」

武内P「合コン……19時からですか」

同僚「お願いします! 俺が狙っている人の友人のリクエストでして、これに応えることができたら勝率が上がるんです! 19時が無理なら途中からでもいいんで!」

武内P(19時からというのは難しいですが……ここまで言ってくれているのに断るのも悪いですし、それに良い機会かもしれません)

武内P「少し時間に遅れるかもしれませんが、それで良ければ」

同僚「本当ッすか!? ありがとうござ――ざざ、あ―――――ぁ」

武内P「……ん?」

同僚「あ、アア……すいません、ごめんなさい、許してください、悪気は無かったんです」

武内P「同僚さん!? どうしました突然!?」

同僚「いや、あの、その……記憶違いでした、はい。あちらさんのリクエストは身長160以下の童顔でした。米内Pに声をかけようと思ってたんでしたハイ」

武内P「え……?」

同僚「間違えてしまい申し訳ありません。だからどうか、どうかお命だけは――――ッ!!?」シュタタタタタッ

武内P「行ってしまった……何だったんでしょうか?」

凛「そうだね。何だったんだろう?」

武内P「渋谷さん!?」

凛「ん、何話してるんだろうって気になって少し前から後ろにいたんだけど……突然どうしたんだろうねあの人」

武内P「突然何かに怯え始めて……初めて挨拶した時、私の顔を見て固まってしまったこともありますが――なぜ今になって?」

武内P(それにあの怯え方は、初めて挨拶した時とは比べ物にならないほど恐怖を覚えていたのでは……?)

凛「ふーん。好きな人と合コンできるから、妙なテンションになっちゃってるのかもね。それか疲れているのかな? ところでプロデューサー?」

武内P「はい、なんでしょうか?」

凛「来週の金曜の夜、私とご飯食べようよ」

武内P「……え?」

凛「さっきの合コン、けっこう乗り気だったのに突然話が無くなっちゃったでしょ。私が代わりにお話して、食事の相手をしてあげるよ」

武内P「お気持ちは嬉しいのですが……」

凛「私が相手じゃイヤ?」

武内P「そういう意味では……」

凛「それに最近お互い忙しくって話す時間も少なかったから、良い機会でしょ? 今後の活動とか、皆の事とか話したいことはいくらでもあるんだから」

武内P「……確かに良い機会ですね。それでは渋谷さん、来週の金曜の夜に付き合ってもらっていいですか?」

凛「うん、よろこんで」




6: ◆SbXzuGhlwpak 2020/04/13(月) 20:22:51.64 ID:9ZfmECmt0

――約束から2年後、渋谷凛17歳



凛「う~ん」

武内P「渋谷さん、どうかしましたか?」

凛「あ、プロデューサー。ちょっと考え事をしてて」

武内P「それは……大学のパンフレットですか。オープンキャンパスに参加したことがある大学や、文化祭で招待された大学もありますね」

凛「うん。やっぱり行ったことがある大学に自然と関心がわいちゃって。でも、大学に進学するかどうかまだ決めてないんだよね」

武内P「たしか新田さんや島村さんと相談してみると言ってましたね」

凛「二人とも現役女子大生だから、すごく参考になったよ。それに大学で学んだことを卒業してから生かせているかどうか、川島さんにもお話を聞かせてもらって――あとまゆとも」

武内P「佐久間さんにですか? 佐久間さんは大学には進学されず、アイドルも辞めて今はモデルと女優業に集中して――ああ、なるほど」

凛「大学に進学せずに、仕事に集中することを選んだ一つ年上の先輩の意見は貴重だと思ったんだ」

凛「ためになったんだけど……本当にまゆらしい意見だったよ、フフ」

武内P「……ちなみにどのような内容だったのですか?」

凛「学業に注いでいたエネルギーを仕事に振り分けることで、これまで以上にまゆPの期待に応えられることが嬉しいし誇らしいって。あとまゆPと一緒にいられる時間が増えて幸せだって」

武内P「……まあ、はい。後半はともかく、前半はためになるお話かと」

凛「そう? じゃあ私もプロデューサーの期待に応えるために仕事一本に集中しようかな?」

武内P「……プロデューサーのために、という部分は取り除いたうえで参考にしてください」

凛「ふーん? 嬉しくないんだ?」

武内P「嬉しさよりも、申し訳ないという想いの方が強いのです」

凛「申し訳ない……か。まゆの話にもそれが出てきたっけ」

武内P「え?」

凛「決めた。まゆと同じ道にしようかと思ったけど、まゆの助言に従って大学に進学する」

武内P「悩みが解決したようで何よりですが……ちなにみ、佐久間さんはどのような助言をされたのですか?」

凛「それはまだ秘密。大学に合格したら教えてあげる」

凛「――ところで話は変わるんだけど、まゆがアイドルを辞めた理由って、やっぱり」

武内P「……まゆPは、まだ頑張っています」

凛「まゆPの両親と祖父母に挨拶できたって、まゆすごく喜んでたんだけど……」

武内P「……親族は全員、まゆPの敵に回り佐久間さんを応援しているそうですが――それでもまゆPなら……まゆPならきっと何とかしてくれる……!」

凛「いや、無理だって」




7: ◆SbXzuGhlwpak 2020/04/13(月) 20:23:36.89 ID:9ZfmECmt0

――約束から3年後、渋谷凛18歳



武内P「……」カタカタカタカタ

武内P(渋谷さんの大学合格発表の時間は、1時間ほど前のはず。それなのにまだ何の連絡もありません)

武内P(本田さん、前川さん、アナスタシアさん。3人とも無事に第一志望の大学に合格したのですが……いえ、きっと家族や友人と喜びを分かち合うの忙しくて、連絡が遅れているに違いな――)


ガチャッ!!


凛「プロデューサー!」

武内P「渋谷さん!?」ガタッ

凛「ハァ……ハァ……ちょ、ちょっと待って。途中から気づいたら走ってて……息が……」

武内P「と、とりあえず水を」

凛「うん……ありがとう。はぁ……受験のためにダンスレッスン減らした影響をンッ……こんな形で感じるなんて」

武内P「そ、それで……その……合格発表の結果は?」

凛「うん。プロデューサーに直接伝えようと思って!」

武内P「――あ」

凛「プロデューサー?」

武内P「よ、良かったぁ」ガシャン

凛「ちょ、ちょっとプロデューサー大丈夫!? 大げさだよ。それ以前に私まだ、合格したって伝えてないよ!」

武内P「す、すみません。今の渋谷さんの笑顔を見た途端に大丈夫だとわかって……膝から力が抜けてしまいました」

凛「もう、驚かせようと思ったのに。こっちの方が驚かされた。うちのお父さん並の反応だったよ」

武内P「そうでしたか……娘を持つ親の気持ちというのは、このようなものかもしれません」

凛「……」

武内P「渋谷さん……? どうしましたか?」

凛「別に」




8: ◆SbXzuGhlwpak 2020/04/13(月) 20:24:31.45 ID:9ZfmECmt0

武内P「あの……何か機嫌を損ねるようなことを言ってしまいましたか?」

凛「うん。まあ長い付き合いだし、プロデューサーはそういう人だってわかってるから怒りはしないけど、相変わらず女心がわからないんだって思っているところ」

武内P「うっ」

凛「そんなんだから立派なところに勤めてて背も高くて、優しくて頼りがいもある上に声までいいのに結婚はおろか彼女もいないんだよ。ったく」

武内P「も、申し訳ありません」

凛「……フフ、謝らなくていいよ。怒ってないって言ったでしょ? まあ、プロデューサーには私がいなきゃダメかも、とは思ったけど」

武内P「情けない限りです」

凛「あ、ところで」

武内P「はい、なんでしょうか?」

凛「流れで勝手にプロデューサーに彼女がいないってしたけど、間違ってないよね?」

武内P「え、ええ」

凛「そっか。まあ仕方ないよね。お見合いで良い感触を得られてまた会いましょうって約束をしても、急な仕事がしょっちゅう来るからなかなか時間の都合がつかないせいで見切りをつけられるのは、決してプロデューサーが悪いわけじゃないんだから」

武内P「そういっていただけると……ん? 渋谷さんに今の事を話したことがあったでしょうか?」

凛「したよ。いつどこだったかは覚えてないけど」

武内P「そうでしたか……なかなか結婚相手が見つからず、ついつい渋谷さんに愚痴を言ってしまったのでしょうか。申し訳ありません」

凛「愚痴なら受験勉強で私の方がよっぽどこぼしてるから、いいって」

武内P「――ところで。もう一年近く前になるのですが覚えているでしょうか? 大学に合格したら教えてくれるという話があったのですが」

凛「覚えてるよ。私が大学進学を決意したまゆの助言の内容でしょ?」

武内P「ええ。レギュラー番組に出演しながら、合間合間に勉強する渋谷さんの姿を見るたびにあの話を思い出し、気になっていたのです」

凛「えっとね。まゆは大学に進学しなかった理由は、ほとんどまゆPのためってことはプロデューサーも知っていると思うけど……その事でまゆPは、大学に行く機会を奪って申し訳なさそうな様子だって聞いたんだ」

武内P「まゆPが……? 確かに佐久間さんが大学進学を選ばなかったことに、不安そうな様子でしたが……」

凛「私はまゆPが負い目を感じる必要はないと思った。だって私は大学に行く意味は将来を見つけることと、将来必要なことを学ぶためだって皆と相談して思ってた。そしてまゆは将来をもう見つけていたし、そのために必要なことは大学でなきゃ学べないことじゃなかったんだから」

凛「でも……それでもまゆPは負い目を感じていて、そのことにまゆは後悔してた」

凛「私もまゆと同じでどう将来を生きるか決めていて、必要な事は仲間の皆やプロデューサーと一緒に学んでいけばいいって思ってたから……まゆが大学に進まずに後悔しているって話は、何度も私の頭をリフレインして……ちょうどその時にプロデューサーと進学についての話になって、プロデューサーの顔を見てたら――」

武内P「……」

凛「あ、この人に負い目を感じさせちゃダメだって思っちゃった」

武内P「渋谷さん……」




9: ◆SbXzuGhlwpak 2020/04/13(月) 20:25:10.27 ID:9ZfmECmt0

凛「うん。言ってみれば私が忙しいなか必死に時間をやりくりしながら勉強して、志望校に合格したのはプロデューサーのため」

凛「もちろん大学でしか学べないことや気づけないことだってきっとあるはずだから、自分のためでもあるんだけど……フフ、これじゃあまゆPのことばかり考えて進路を決めたまゆを笑えないなぁ」

武内P「その……申し訳ありません」

凛「あ、やっぱり謝った。そうなると思って合格してから話そうって決めたんだ。まゆPが悪くないように、プロデューサーも悪くないっていうのに」

凛「私もまゆも、強制されたわけでも誘導されたわけでもなく、色んな人の色んな意見を聞いて、そこからじっくり考えて決めたことなんだから。素直に私たちが選んだ道を応援してほしいんだけど?」

武内P「す、すみませんっ」

凛「また謝る。そんなに申し訳なく感じるんだったら……そろそろお昼の時間だよね? 合格祝いに美味しい物を食べさせてよ。別にプロデューサーは悪くないけど、それで許したってことにしてあげるから」

武内P「ええ、喜んでごちそうさせていただきます。しかしいいのですが? 皆と合格をお祝いなどしたりは――」

凛「それは今夜の予定。だから今は――私を独占していいよ」




10: ◆SbXzuGhlwpak 2020/04/13(月) 20:25:53.13 ID:9ZfmECmt0

――約束から4年後、渋谷凛19歳



凛「良い……結婚式だったね、うん。私もああいう結婚式を挙げたいって、心の底から――プロデューサー? なんで落ち込んでるの?」

武内P「落ち込んでいるといいますか……祝福すればいいのかどうか、判断が難しく」

凛「親しい同期が結婚したんだから、祝福する以外ないでしょ。独身仲間が減ったからってその態度は無いよ」

武内P「……相手が一般の女性でしたら、迷うことなく祝福できたんです」

凛「あ、その話か。でもまゆとまゆPが結婚することは、もう何年も前からわかりきってたことでしょ? むしろまゆが成人するまで持ちこたえた事の方が驚きだよ」

武内P「未成年に手を出すわけにはいかない……何度も何度も、まゆPは自分に言い聞かせていました」

凛「私は別に、18歳以上ならいいと思うんだけど……そういえばだいぶ前に、こんな感じの話をプロデューサーとしたよね? 担当しているアイドル、それも未成年に手を出すわけにはいかない、とか」

武内P「……ッ!!?」

凛「覚えてる? 私がまだ15歳だったから、4年ぐらい前に約束したこと」

武内P「え、ええ。その……私の結婚に関する約束で……私はてっきり、渋谷さんはもう忘れているだろうと思っていました」

凛「忘れるわけないよ。私がプロデューサーとした大切な約束なんだから」

凛「内容は――私が20歳になってもプロデューサーに相手がいなかったら、私たちで結婚する約束。そういえばプロデューサーって結婚できそうな相手はいるの?」

武内P「……います」

凛「そうなんだ。写真見せて」

武内P「え……?」

凛「結婚できそうな相手なんだから、写真の一枚や二枚持ってるよね? さ、見せて」

武内P「あの……すみません、見栄を張りました」

凛「うん、知ってる」

武内P「……あまりイジメないでもらえますか?」

凛「今のはプロデューサーに非があると思うけど……そっか、プロデューサーまだ結婚相手がいないんだ。もしかして……私との約束を当てにしてる?」

武内P「け、決してそのようなことはありませんっ」

凛「……ふーん」

武内P「し、渋谷さん……?」

凛「私との約束を当てにしているわけでもないのに、まだ結婚相手を見つけていないのは……ちょっと危機感が足りないね。うん、けっこう頭きた」




11: ◆SbXzuGhlwpak 2020/04/13(月) 20:26:41.99 ID:9ZfmECmt0

武内P「そ、その……心配していただけるのは嬉しいのですが」

凛「うん。心配するだけじゃダメってわかった。プロデューサー、今度一緒に結婚式場の見学に行こうよ」

武内P「見学……? 確かにいつか結婚するために下見は必要ですが、それは結婚する相手といずれ……」

凛「うん。だから私と一緒に」

武内P「……?」

武内P「…………………ん?」

武内P「~~~~~ッッッ!!?」

武内P「しし、渋谷さん!?」

凛「このままいくとプロデューサーの結婚相手は私でしょ? 何よりここ数年何度も何度も痛感していたけど、プロデューサーはお見合いとかで結婚相手を見つけるのは忙し過ぎて無理。普段から一緒にいてプロデューサーの人となりを知っている私なら問題無いから」

武内P「ま、待ってください! 今の言葉でこれまで以上に危機感を抱きました! 必ず1年以内に相手を見つけますから!」

凛「4年かけてできなかったことを、あと1年でしますって言われてもね。かな~り妥協すればできるだろうけど――そんな不幸せな結婚、私たち全員認めないよ。我が友が胸に抱く焦燥から道を踏み外し、エレシュキガルに囚われたって蘭子を泣かせるの?」

武内P「そ、それは……」

凛「――うん。考えれば考えるほど私が結婚するべきだね。プロデューサーの欠点なんて百も承知で、今さらそんなことで本気で怒ったりしないし、皆もよく知った私が結婚相手なら安心してくれるから」

武内P「お、お願いです渋谷さん。少し待ってください!」

凛「なに、プロデューサー?」

武内P「その……冗談ですよね? あるいは私に危機感を抱かせるための、狂言……ですよね?」

凛「フフ」

武内P「……ふぅ」

武内P(渋谷さんの満面の笑みに、ああ、からかわれていただけだと安心したその時)

凛「ねえ、プロデューサー?」

武内P「はい、なんでしょう?」





凛「神前式と教会式、どっちがいい?」




12: ◆SbXzuGhlwpak 2020/04/13(月) 20:27:14.12 ID:9ZfmECmt0

――約束から5年後、渋谷凛20歳



ゴーン、ゴーン♪


武内P「渋谷さん……」

凛「……」

武内P「渋谷さん?」

凛「……昨日言ったでしょ? 名前で呼ばないと返事しないって」

武内P「り、凛さん」

凛「うん、どうしたの?」

武内P「その……今ならまだ間に合います。私への同情などで、自分の人生を――『5年前からだよ』――5年前? あの約束をした時から……何か?」

凛「私は5年前に遠回しで、すごく時間がかかることをしてたの。強がりだからまゆみたいに素直に言えなくて……あと素直に言ったら、まだ15歳の私の言葉は受け止めてくれないだろうってわかってたから」

武内P「凛さん……?」

凛「私はもう5年前に告げてるの。だから返事を聞かせて――私の素直じゃない、プロポーズの答えを」

武内P「……ッ!?」

凛「フフ。もう結婚式が始まる寸前なのに、まだ気づいてなかったんだ」

武内P「……返事が遅れてしまい申し訳ありません。今さらですが、聞いてもらえますか?」

凛「うん、お願い」





武内P「――――――――結婚してください、凛」





~おしまい~

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13: ◆SbXzuGhlwpak 2020/04/13(月) 20:27:57.16 ID:9ZfmECmt0

最後まで読んでいただきありがとうございました

4月の異動で東京勤務となり、コロナのせいで部屋にこもってばかりなのでSSを書きました
地の文と台本形式どちらにしようか迷ったのですが、SSを書くのは久しぶりのため軽めの台本形式にしました

……でも話が軽めにならないのはなぜでしょう?

あと外出できないので十三機兵防衛圏を始めたのですが、薬師寺さんの見た目が頼子さんっぽいうえに、愛が重そうでテンション上がります
そして『はめふら』のアニメの出来が予想以上にいいので、早見さんがマリアの重すぎる愛をどのように演じてくれるのか楽しみです




元スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1586776696/

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