1:
◆c4YEJo22yk 2017/11/17(金) 19:44:58.79
ID:RP/2gPdO0
☆大分県/中津市
P「ここが中津市か~。初めて来たけど、いい所だな」
紬「ええ、のどかで落ち着いた土地ですね」
P「おっ、唐揚げ屋があるぞ」
紬「先ほどから専門店を多く見かけますね。さすがは本場です」
P「大分って唐揚げが有名なんだな。俺、この仕事を受けるまで知らなかったよ」
紬「なっ……!? 本気で言っているのですか?」
P「本気だけど……そんなに驚くことか?」
紬「大分県中津市と言えば、『からあげフェスティバル』発祥の地でもあるのですよ!?」
P「ごめん。そんなお祭りは知らない」
紬「……まったく、呆れますね」
P(紬って唐揚げに詳しいのかな。ちょっと意外だ)
2:
◆c4YEJo22yk 2017/11/17(金) 19:45:53.92
ID:RP/2gPdO0
紬「ところで、本日の仕事についてですが……」
P「ああ、テレビで唐揚げをPRする食レポだ。期待してるぞ」
紬「……はい」
P「どうした? 浮かない顔してるけど」
紬「仕事をいただけることは嬉しいのですが、上手くできるか少々不安なのです……」
P「紬は心配性だなあ」
紬「あなたが能天気なだけかと」
P「能天気は言いすぎだろ。だけど、気楽に考えるのも大事なことだぞ?」
紬「気楽に、ですか……」
P「紬は緊張しやすいみたいだし、そのくらいの気持ちの方がバランスが取れるよ」
紬「つまり、私の性格は鬱々たるものだから少しは改善しろと……」
P「いや、そこまで言ってないから」
3:
◆c4YEJo22yk 2017/11/17(金) 19:46:54.16
ID:RP/2gPdO0
紬「簡単に性格が変われば苦労しません」
P「性格を変えろと言ってるんじゃないよ。今のままでも紬は素敵だ」
紬「はあ、どうも」
P「ただ、もうちょっとプラス思考でもいいと思うんだよなあ」
紬「プラス思考……」
P「不安な時は楽しいことを思い浮かべるんだ。『仕事が終わったら遊びに行きたい!』とか」
紬「なるほど、少しは気が紛れるかもしれませんね」
P「ちなみに仕事の後はスケジュールを空けてあるから、観光しような」
紬「……あなたは本当にのんきな方です」
P「いいじゃないか、せっかく大分まで来ているんだから」
紬「まあ、考えておきます」
4:
◆c4YEJo22yk 2017/11/17(金) 19:48:05.46
ID:RP/2gPdO0
P「どこか行ってみたい場所はある?」
紬「そう言われましても、土地勘がないので何とも……」
P「ちなみに、この近くだと紅葉の名所があるらしいぞ」
紬「今の季節にぴったりですね」
P「それ以外なら、ちょっと足を伸ばして別府や湯布院へ行ってもいいけどな」
紬「温泉地ですか」
P「別府では『地獄めぐり』が観光の定番なんだってさ」
紬「じ、地獄……?」
P「そうだよ」
紬「それはつまり、今日の仕事で失敗したら地獄へ落とすから覚悟しておけと……」
P「言ってねーよ」
5:
◆c4YEJo22yk 2017/11/17(金) 19:49:45.83
ID:RP/2gPdO0
紬「なんや……地獄って温泉のことなん」
P「入浴じゃなく、観光を目的とした温泉をそう呼んでるんだってさ」
紬「まったく、まぎらわしい言い方をしないでください」
P「はいはい」
紬「ともかく、まずは食レポの仕事です」
P「そうだな。紬って、唐揚げは好きなのか?」
紬「えっ? な、なぜそのようなことを尋ねるのです?」
P「いや、唐揚げをPRする仕事だからだけど……」
紬「まあ、嫌いではないです。……普通、でしょうか」
P「ふーん」
6:
◆c4YEJo22yk 2017/11/17(金) 19:50:53.32
ID:RP/2gPdO0
紬「ただ、楽しみではありますね。中津では、唐揚げが人気だということを感じられますから」
P「これだけ専門店があるんだもんな」
紬「しかもそれらの店は、それぞれ独自の工夫をしていると聞きますからね」
P「そうなんだ」
紬「はい。独自のタレを使ったり、新鮮な鶏肉にこだわったりしているのですよ」
P「へー」
紬「醤油ベースのタレを使う店が多いのですが、塩ダレの名店も存在しますし」
P「……」
紬「中津はすごいです。さすがは日本唐揚協会から『からあげの聖地』として認定されている土地ですね」
P「うん、ちょっと待って」
紬「何ですか?」
P「詳しすぎない?」
8:
◆c4YEJo22yk 2017/11/17(金) 19:51:51.32
ID:RP/2gPdO0
紬「えっ?」
P「唐揚げについて詳しすぎるよね? 紬って、実は唐揚げが大好きだろ?」
紬「なっ、なに言うとるん……!? ふ、普通やし……」
P「金沢弁が出てるぞ」
紬「あう……」
P「隠す必要なんてないのに」
紬「……」
P「今回の仕事にピッタリじゃないか。好きな食べ物ならPRしやすいだろ」
紬「食の好みとPRのしやすさは関係ないと思うのですが……」
P「いやいや、本心から美味しいと思った方が、良いレポートができるもんだよ」
紬「はあ、そういうものですか」
9:
◆c4YEJo22yk 2017/11/17(金) 19:53:01.77
ID:RP/2gPdO0
P「だけど、困った時は定番のコメントでいいからな。『意外とあっさりしてますね』とか」
紬「……こってりしてるのが唐揚げの美味しさやと思うんやけど」
P「まあ、そうなんだけどね。あっさりしてると、女性人気もありそうな感じがするだろ?」
紬「女性人気?」
P「うん。『女性でもたくさん食べられますね』とかもよく使われるフレーズだな」
紬「…………」
P「おーい、紬? どうした?」
紬「なんやいね! 女の子がこってりした唐揚げ好きで何が悪いん!?」
P(ええー……)
10:
◆c4YEJo22yk 2017/11/17(金) 19:54:18.44
ID:RP/2gPdO0
紬「女の子ならあっさりしたものが好きなんて……そんなん決めつけんでよ……」
P「いや、決めつけてないから」
紬「どうせ、女性はみんな低カロリーでヘルシーな料理が好きって思っとるんやろ!?」
P「だから思ってないって! 話を聞いてくれ!!」
紬「……」
P「今の話は、あくまで一般論。困った時に使えるコメントだと思ってくれればいいから」
紬「……困った時に、使える?」
P「そうだ。本番になって、喋ることが何も思いつかなかったら焦るだろう?」
紬「……ん」
P「そんな時のためにフレーズを準備しておくんだ。黙り込むよりもマシだからな」
紬「つまり、不測の事態に備えておけと……」
P「そういうことだ」
11:
◆c4YEJo22yk 2017/11/17(金) 19:55:28.07
ID:RP/2gPdO0
紬「あなたのことを、少々誤解していたかもしれません。失礼いたしました」
P「いや、分かってくれたならいいよ」
紬「唐揚げが好きなことを否定されたと思い、つい熱くなってしまったのです」
P(本当に唐揚げへの愛情がすごいな……)
紬「さて、そろそろ収録現場へ向かう時間でしょうか」
P「そうだな。スタッフさんたちと合流して、挨拶もしないと」
紬「唐揚げのPR……頑張らんと」
P「紬ならきっと上手くできるさ、リラックスして行こう!」
紬「はい! 慣れない仕事なので不安ではありますが、全力を尽くします」
P「よし、その意気だ」
12:
◆c4YEJo22yk 2017/11/17(金) 19:56:18.35
ID:RP/2gPdO0
☆収録本番/唐揚げ屋
紬「さて、本日は……えっと……大分県中津市の唐揚げ専門店に来ております」
店員「どうぞ、いらっしゃいませ~」
紬「765プロの白石紬と申します。本日は……よ、よろしくお願いいたします」
店員「こちらこそ、よろしくお願いします。初々しいレポーターさんですね」
紬「は、はいっ! まだ新人でして……」
店員「そうでしたか。そう固くならずに、奥の方へどうぞ!」
紬「失礼いたします」
店員「東京からはるばる遠くまで、大変だったでしょう?」
紬「いえっ、とんでもないです!」
P(紬は緊張してるみたいだ。もっとリラックスして、頑張れ……!)
13:
◆c4YEJo22yk 2017/11/17(金) 19:57:34.37
ID:RP/2gPdO0
店員「うちの自慢の唐揚げです。どうぞ召し上がってください」
紬「はいっ、いただきます……ぱくっ……」
店員「いかがですか?」
紬「んんっ……これは……ぱくっ……ん~!! とても美味しいです!!」
店員「そうですか!」
紬「ええ! にんにくの効いた醤油味のタレが、しっかりと染み込んでいますね!」
店員「味付けにはこだわっているので、褒めていただけて嬉しいです」
紬「他にも薬味が効いていますね。……生姜やネギでしょうか」
店員「ははは、レシピは企業秘密ですよ」
紬「鶏肉への包丁の入れ方にも工夫がありそうですね。これは唐揚げ玄人にしか分からないこだわりです!」
店員「あはは……では別のメニューもどうぞ」
P(今度は興奮しすぎだ。店員さんがちょっと引いてる気もするが……大丈夫かな)
14:
◆c4YEJo22yk 2017/11/17(金) 19:58:37.28
ID:RP/2gPdO0
☆数十分後
P「いや~、いい収録だったぞ、紬!」
紬「……」
P「おーい、聞いてるか?」
紬「なんなん……なんでそんな嘘つくん?」
P「えっ」
紬「いい収録なわけないやん! どう考えても失敗やったし!?」
P「大丈夫だって。ほら、落ち着いて」
紬「うち、一人で暴走して……店員さんも困らせて……」
P「確かに、店員さんの優しさに助けられた面はあるな」
紬「……」
P「だけど悪いことばかりじゃないよ。テレビ局のスタッフさんにだって好評だったからな」
紬「えっ……?」
15:
◆c4YEJo22yk 2017/11/17(金) 19:59:35.93
ID:RP/2gPdO0
P「ハイテンションすぎる部分はあったけど、独創的で面白いと褒めてたよ」
紬「……」
P「何よりも、美味しそうに食べていたのが好印象だってさ」
紬「……でも、それは結果論です」
P「結果論?」
紬「いくら周りの評価が高くても、たまたま上手くいったことに過ぎません」
P「自分では納得できないと」
紬「その通りです。……ほんとに、うち……失敗ばっかりで……」
P(落ち込んでるみたいだな。こういう時は……)
P「気分転換だ! 観光に行こう!」
紬「えっ? あの……とてもそんな気分では――」
P「ここからだとバスに乗った方がいいな。観光するって約束だったんだから、早く行くぞ!!」
紬「ええっ、そんな急に! な、なんなん……もう~っ!?」
16:
◆c4YEJo22yk 2017/11/17(金) 20:00:38.20
ID:RP/2gPdO0
☆二十分後/バス内
紬「あなたは強引な人です……」
P「そんなに怒るなって。絶対に行って損はない場所だから」
紬「はあ」
P「ほら、見えてきたぞ」
紬「……!!」
P「紅葉の名所で、耶馬溪っていう場所らしいよ。綺麗だろ?」
紬「……確かに、風流ですね」
P「バスを降りて歩こう。身体を動かすと元気になるぞ」
紬「そうですね。景色を観ながら歩くのも、悪くないかと思います」
P「ちょうど紅葉のピークだな~」
17:
◆c4YEJo22yk 2017/11/17(金) 20:01:47.28
ID:RP/2gPdO0
紬「あなたが見せたかったのは、この風景なのですね」
P「来て良かっただろ?」
紬「ええ。石川の兼六園や鶴仙渓にも引けを取らないほど美しいです」
P「なら良かったよ。紬なら気に入ると思ったんだ」
紬「自然とは荘厳なものですね。私の悩みなど、小さいものに感じられるほどに……」
P「少しは気分転換になったか?」
紬「はい。……今日の収録は反省して、次は失敗しないように頑張ります」
P「だから失敗ってわけじゃないのに」
紬「でも、今は応援してくれる人たちもいるので……もっとアイドルとして期待に応えないと……」
P「なあ、紬。俺が一番行きたかった場所はこの先にあるんだ」
紬「……? あのトンネルですか?」
P「うん。『青の洞門』だよ」
18:
◆c4YEJo22yk 2017/11/17(金) 20:02:57.75
ID:RP/2gPdO0
紬「有名なのですか? 普通のトンネルにしか見えませんが……」
P「このトンネルはな、元々は江戸時代の僧侶が、ノミと金槌だけで掘ったものなんだ」
紬「手掘りでこの岩山を掘ったのですか!?」
P「30年くらいかかったらしい」
紬「……気が遠くなる年月ですね」
P「だけど、青の洞門ができたおかげで、人々は危険な断崖絶壁を通らなくてよくなった」
紬「他人の安全を願って掘り進めた、と」
P「その通りだ。誰かのために地道な作業を続けるのってすごいよな」
紬「そうですね、頭が下がります」
P「で、俺がここに来て言いたかったのはさ……紬も毎日よく頑張ってるよな、ってことなんだ」
紬「……私が、ですか?」
19:
◆c4YEJo22yk 2017/11/17(金) 20:03:56.10
ID:RP/2gPdO0
P「紬って最初は、チラシ配りで人に話しかけることも苦手だっただろ?」
紬「……」
P「なのに、今日はテレビでちゃんと喋ってたじゃないか。一歩前進だ」
紬「ですが……先ほどの収録は、前のめり過ぎでしたよね?」
P「それはこれから改善すればいいよ。少しずつ進もう」
紬「でも、そんなペースじゃ……うち、いつになったら一人前になれるか……」
P「いいんだよ。トンネルを掘るように、ゆっくり、な?」
紬「……ん」
P「紬がみんなの期待に応えようと頑張ってること、俺はちゃんと見てるよ」
紬「……はい、ありがとうございます」
20:
◆c4YEJo22yk 2017/11/17(金) 20:04:45.16
ID:RP/2gPdO0
P「もちろん、俺も紬のことを支えられるように頑張る。頼りないかもしれないけどさ」
紬「いえ……まあ、頼りないってことも、ない、かも……」
P「ん?」
紬「ですから……おっ、お慕いしておりますっ。……い、言わなければ分からないのですか?」
P「……」
紬「な、なんで黙るん!?」
P「いや、ごめん。嬉しくて固まってた」
紬「はぁ……。あなたは本当に、よく分からない方ですね」
P「それなら分かってもらえるように、これからも紬と一緒にいるよ」
紬「当然です。あなたは私をスカウトしたのですから、そばにいてくれなくては困ります」
P「ああ、任せてくれ」
紬「これからも末永く、よろしくお願いしますね。プロデューサー」
おわり
23:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/11/17(金) 20:12:36.36 ID:Ql/9nJ9Co
乙
普通に感動した
26:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/11/18(土) 11:32:45.94 ID:1ERKnvM3o
つむつむめんどくさかわいいなぁ
自己評価高くなって欲しい
乙
27:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/11/21(火) 08:15:01.60 ID:xfR7FfSg0
あーかわいい
乙
元スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1510915498/
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