1:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/12/04(木) 22:49:34.03
ID:usDvalBBo
おろしたてのローブの匂いは格別だ。
まだ誰の身体も包んだことが無い魔導衣が肌に触れ、柔らかな布地が心地よい感覚を与えてくれる。
さらに深緑色の三角帽を頭に乗せる。つんとてっぺんが尖っているのは、これまた新品の証だ。使い込んだ古い品だとこうはいかない。
そのまま身体を姿見に向ける。頭の先から足元までじっくりとチェックし、くるりと一回転。
……よし。これでどこからどう見ても立派な錬金術師(アルケミスト)だ。
爽の奴には散々からかわれたけれど、私だってこれでも女なんだ。
迷宮に挑むならちゃんとした(欲を言うならかわいさも重視した)服装で挑みたい。今日が迷宮デビューとなれば尚更だ。
私こと岩館揺杏や友人の獅子原爽が住むこの国、ホッカイドーは地理的に有名すぎる特徴を備えている。それが国の中心部に天高くそびえ立つ巨木、通称『世界樹の迷宮』だ。
いつからあったのか、どうしてこんな大きな樹が生まれたのか、最果てには何があるのか。そんな情報は誰も知らない、謎に包まれた迷宮。
複雑に入り組み、独特の環境や生態系を有するこの巨木はまさに迷宮と呼ぶに相応しいダンジョンとなっている。
危険に満ち溢れていたりもするのだけれど、その一方で迷宮内では貴重な素材や嗜好品などが手に入るという利点もあったりする。
故に、ホッカイドーはこの世界樹の迷宮を礎に据えた政策を進めたんだとか。
冒険者に対する減税や免税をはじめとした法整備は、瞬く間にホッカイドーの街並みを冒険者街のそれへと変えたらしい。
……まぁ、私の生まれるずっと前にそんなことがあったらしくって。
今ではホッカイドーは世界有数の冒険者街。でもって、私も今日、晴れてそんな冒険者の仲間入りってわけだ。
――冒険者になろうと思った理由? あー。うん。そうだな……。
爽との待ち合わせにはまだ時間があるし、少し思い返してみるのもいいかもしれないな。
……ちょうど十年前。切っ掛けとしてはあの辺から話すのが良さそうだ。
◆ ◆ ◆
世界樹と不思議のダンジョン 初回特典:ブックレット+サントラCD(仮) 付