1:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/26(木) 20:09:33.78
ID:C09KdGQ2o
―森の中―
ヘンゼル「パンくずで作っておいた目印がなくなってる! どうして!?」
グレーテル「どうするの、お兄ちゃん!」
ヘンゼル「と、とにかく……森を出なきゃ!」
グレーテル「出るって……どうやって?」
ヘンゼル「歩くんだよ! 適当に歩けば、きっと森を出られる!」
ヘンゼル「森を出たら、誰かに助けを求めればいいのさ!」
2:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/26(木) 20:10:25.70
ID:C09KdGQ2o
ところが――
ヘンゼル「ハァ、ハァ……」
グレーテル「ねえお兄ちゃん、ここさっきも通らなかった?」
ヘンゼル「うう……」
グレーテル「お兄ちゃん、あたしたち本当に森を出られるの?」
ヘンゼル「出られるさ! とにかく歩くんだ!」
3:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/26(木) 20:11:53.73
ID:C09KdGQ2o
……
ヘンゼル(くそっ、いくら歩いても森を出られない!)
グレーテル「お兄ちゃん……あたし、もう歩けない……」
ヘンゼル「グレーテル……」
ヘンゼル「ほら、おぶってあげる」
グレーテル「お兄ちゃん……ありがとう」
ヘンゼル「兄が妹を助けるのは当然だろ? なんとしても、この森を出るんだ!」
4:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/26(木) 20:13:32.38
ID:C09KdGQ2o
……
グレーテル「お兄ちゃん、大丈夫?」
ヘンゼル「ああ、へっちゃらさ」
グレーテル「――あっ」
ヘンゼル「どうした?」
グレーテル「あそこに……家があるよ!」
ヘンゼル「……本当だ! 行ってみよう!」
5:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/26(木) 20:15:18.31
ID:C09KdGQ2o
ヘンゼル「……なんだこれ? ただの家じゃないな……」
グレーテル「なんだか甘い匂いがするよ」クンクン
ヘンゼル「ホントだ」クンクン
ヘンゼル「――こ、これは!?」
ヘンゼル「これは……壁が羊羹でできてる!」
グレーテル「あっ……こっちはきんつばでできてるよ!」
ヘンゼル「ということは、そうか、これは――」
ヘンゼルとグレーテル「和菓子の家だ!」
6:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/26(木) 20:17:21.80
ID:C09KdGQ2o
グレーテル「……」グゥゥ…
ヘンゼル「……」グゥゥ…
グレーテル「ねえお兄ちゃん」
ヘンゼル「ん?」
グレーテル「この和菓子の家……ちょっと食べてもいい?」
ヘンゼル「!」
ヘンゼル「ダメだダメだ!」
グレーテル「どうして?」
7:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/26(木) 20:20:47.44
ID:C09KdGQ2o
ヘンゼル「和菓子ってのは、ハッキリいってマズイんだ!」
ヘンゼル「いくら腹が減ってるからって、こんなの食べたらダメだ!」
グレーテル「でも……おいしそうな匂いだけど……」
ヘンゼル「とにかく、ダメったらダメなの!」
魔女「おやおや、ひどい言い草だねえ」ヌゥッ
ヘンゼルとグレーテル「わっ!?」
8:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/26(木) 20:22:05.55
ID:C09KdGQ2o
ヘンゼル(あの不気味な黒いローブ、間違いない!)
ヘンゼル「お前……魔女だな!」
魔女「おやおや、よく分かったじゃないか。私が魔女と呼ばれてるってことを」
グレーテル「ま、魔女……!?」
ヘンゼル「ぼくたちを……食べるつもりか!?」
魔女「そんなことしやしないさ。むしろ、食べてもらいたいと思ってるのさ」
魔女「私が作った……和菓子をね」
9:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/26(木) 20:23:06.27
ID:C09KdGQ2o
ヘンゼル「誰が和菓子なんか食べるか!」
魔女「食べたくなきゃ食べないでいいよ」
魔女「そっちのお嬢ちゃん。ほら大福だ、食べてごらん」
グレーテル「うん!」
ヘンゼル「お、おいっ! あいつは魔女なんだぞ!」
グレーテル「いただきます!」モグッ
グレーテル「……」モグモグ
グレーテル「うっ!」
ヘンゼル「グレーテル!? 大丈夫か!?」
10:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/26(木) 20:24:57.34
ID:C09KdGQ2o
グレーテル「おいし~い!」
ヘンゼル「へ……」
グレーテル「控え目な味の餡とさっぱりした皮が絶妙なハーモニーをかもし出してる!」
魔女「ひっひっひ、ありがとうねえ」
グレーテル「ねえ、もっと食べていい?」
魔女「いいとも、和菓子はいつもたっぷり作ってあるからね。たんとお食べ」
ヘンゼル「……」ゴクッ…
11:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/26(木) 20:26:53.00
ID:C09KdGQ2o
ヘンゼル「あ、あのっ!」
魔女「なんだい?」
ヘンゼル「ぼくもちょっとだけ食べたいかな~……なんて」
魔女「おや? 和菓子はマズイんじゃなかったのかい?」
ヘンゼル「うぐ……」
ヘンゼル「お、お願いします! 食べさせて下さい!」
魔女「仕方ない坊やだ、ほれ、どら焼き」
12:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/26(木) 20:29:07.21
ID:C09KdGQ2o
ヘンゼル「どら焼き……? こんなの食べるのタヌキぐらい――」モグッ
ヘンゼル「うんめえええええええええ!」
ヘンゼル「ふわっふわの生地が、つぶあんと絡み合って、うんめえええええええ!」
ヘンゼル「うめえ、うめえよぉ……!」ガツガツ
ヘンゼル「手にくっついた餡ですら、舐めたくなる……!」ペロペロ
魔女「ひっひっひ、ありがとうよ」
グレーテル「お兄ちゃん……ちょっと怖い」
13:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/26(木) 20:29:33.28
ID:C09KdGQ2o
魔女「和菓子はまだまだ家の中にあるから、たっぷり食べておくれよ!」
ヘンゼルとグレーテル「いただきまーす!」
14:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/26(木) 20:32:07.63
ID:C09KdGQ2o
―魔女の家―
ヘンゼル「このせんべい!」バリボリッ
ヘンゼル「噛めば噛むほど幸せが押し寄せてくる! たまらねぇ~!」ボリボリッ
ヘンゼル「ああっ、今ぼくは幸せを噛んでいるぅ~!」バリボリバリッ
グレーテル「このおはぎ、おいしい!」モグッ
グレーテル「お米も餡もモチモチしてて、いつまでも楽しんでいたい食感だわ!」モチモチ
グレーテル「んもう、ほっぺた落ちそう!」
15:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/26(木) 20:33:32.89
ID:C09KdGQ2o
ヘンゼル「羊羹うめえ!」モグッ
ヘンゼル「歯触りがよくって、上品な甘さで、非のうちどころがない!」
ヘンゼル「この紫色のキューブには、完璧の二文字が詰まっているんだぁ~!」
グレーテル「栗まんじゅう、おいしいよぉ!」
グレーテル「ほくほくしてて、栗の甘みがふわっと口の中に広がる!」
グレーテル「飲み込んだ後にも、ほんわかと余韻を楽しめるよ!」
16:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/26(木) 20:35:49.74
ID:C09KdGQ2o
ヘンゼル「このきんつば……なんて素晴らしい味なんだ……!」モグモグ
グレーテル「ん~、このかりんとう、やめられない止まらない!」ポリポリ
ヘンゼル「芋けんぴうめえ! 芋の持つ甘みが、菓子に昇華されている……!」サクサク
グレーテル「八つ橋おいしいよぉ……ニッキの香りがたまらない……」モグモグ
魔女「ほら、お茶を持ってきたよ」
ヘンゼルとグレーテル「いただきます!」
17:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/26(木) 20:37:25.19
ID:C09KdGQ2o
ヘンゼル「あ~……食った食った」ゲプッ
グレーテル「ごちそうさまでした!」
魔女「こちらこそ、おいしく食べてくれてありがとうよ」
ヘンゼル「……だけどぼくはまだ、完全に和菓子を認めたわけじゃない!」
グレーテル「ええっ!?」
ヘンゼル「たしかに和菓子の美味しさは分かった……だけど!」
18:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/26(木) 20:39:08.24
ID:C09KdGQ2o
ヘンゼル「和菓子って色が地味だし、見た目って点ではやっぱり洋菓子には敵わない!」
魔女「ひっひっひ、そいつはどうかねえ?」
ヘンゼル「なにっ!」
魔女「こっちに来るといいさ、いいものを見せてあげよう」
19:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/26(木) 20:41:51.03
ID:C09KdGQ2o
ヘンゼル「こ、これは……!?」
グレーテル「すごい!」
ヘンゼル「この落雁……まるで宝石みたいだ!」
グレーテル「こっちの最中(もなか)も、食べるのがもったいないくらいキレイだよ!」
魔女「ほれ、さらにそっちを見てごらん」
20:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/26(木) 20:44:13.05
ID:C09KdGQ2o
ヘンゼル「この鶴……魔女さんが作った彫刻? ――いや、これは!」
ヘンゼル「これ……お菓子でできてる!」
グレーテル「こっちのお寺もそうだよ、お兄ちゃん!」
ヘンゼル「お菓子でこんなものが作れるなんて……!」
魔女「ひっひっひ、工芸菓子ってやつさ」
魔女「和菓子の見た目の美しさは、決して洋菓子に引けを取っちゃいないよ」
ヘンゼル「くっ……」
22:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/26(木) 20:46:57.45
ID:C09KdGQ2o
ヘンゼル「ごめん……なさい」
魔女「謝ることはないよ」
ヘンゼル「だけどなぜ、あなたほどの和菓子作りの名人が魔女になったんです?」
魔女「ひっひっひ、いっとくけど私は魔法なんか使えないよ」
ヘンゼル「え……!?」
魔女「元々は私も町でお菓子屋をやっていたんだけどねえ……」
魔女「私の作る和菓子は異端扱いされ、魔女呼ばわりされ、町を追い出されちまったのさ」
魔女「そして……今はここで細々と和菓子研究をする毎日さ」
ヘンゼルとグレーテル「……」
23:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/26(木) 20:48:16.64
ID:C09KdGQ2o
ヘンゼル「あ、あの……」
魔女「なんだい?」
ヘンゼル「もしよろしければ、ぼくに和菓子の作り方を教えてくれませんか?」
グレーテル「あ、あたしもっ!」
魔女「あんたたち……」
24:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/26(木) 20:50:28.86
ID:C09KdGQ2o
魔女「気持ちは嬉しいけど、あんたたちも両親がいるだろう?」
魔女「きっと心配するよ。まさかこんなところまで通うわけにはいかないだろうしねえ」
ヘンゼル「いえ……実はぼくたち……」
グレーテル「お父さんとお母さんに捨てられたの……」
魔女「!」
ヘンゼル「元々は家に帰るつもりで、ここにたどり着いちゃったけど……」
ヘンゼル「もし帰ったとしても、ぼくらの居場所は……」
魔女「そうだったのかい……」
25:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/26(木) 20:52:06.99
ID:C09KdGQ2o
魔女「よし、分かった!」
魔女「だったらこの私が、あんたたちを一人前の和菓子職人にしてやるよ!」
ヘンゼル「ホント!?」
グレーテル「ありがとう!」
魔女「ただし私は厳しいよ! ビシビシいくからね!」
ヘンゼル「はいっ!」
グレーテル「よろしくお願いします、先生!」
26:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/26(木) 20:54:36.70
ID:C09KdGQ2o
~
ヘンゼル「ぼくの作った餡、どうですか?」
魔女「……」ペロッ
魔女「まだまだだね。こんな餡じゃ、いい和菓子は作れないよ!」
ヘンゼル「は、はいっ!」
~
魔女「なんだいこりゃ!?」
魔女「皮と餡のバランスが悪すぎる! もっと精進しな!」
グレーテル「すみませんっ!」
グレーテル(個々の味がよくてもダメ……大事なのはバランス……! つまり調和……!)
~
修行は厳しかったが、二人は魔女の技術を吸収し、和菓子職人としてめきめきと成長していった。
27:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/26(木) 20:57:07.95
ID:C09KdGQ2o
やがて――
―城―
王「ふむ……」モグモグ
王「おおっ! なんとうまい菓子だ! これがくず餅というものなのか!」
ヘンゼル「ありがとうございます」
グレーテル「お褒めにあずかり、光栄ですわ」
王「ぜひ、そなたらには多大なる褒賞を授けたいが……」
ヘンゼル「いえ、褒賞はいりません」
王「ほう?」
グレーテル「その代わり、ある人物の名誉を回復させていただきたいのです」
王「いったいだれの?」
ヘンゼル「ぼくたちの師匠です」
28:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/26(木) 20:59:31.52
ID:C09KdGQ2o
―町―
魔女「ひっひっひ……ありがとうねえ」
魔女「おかげで私はまた、町でお菓子屋をやれることになったよ」
魔女「しかも、なにしろ今度は王様のお墨付きだしねえ」
ヘンゼル「よかったですね!」
グレーテル「これでやっとご恩をお返しすることができました!」
魔女「まったく師匠孝行な子たちだよ」
魔女「さて、あとは……」
魔女「立派になったあんたたちの姿を、見せるべき相手に見せるだけだねえ」
ヘンゼルとグレーテル「はいっ!」
29:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/26(木) 21:01:41.27
ID:C09KdGQ2o
……
……
―自宅―
父「あの子らを森に置き去りにしてからというもの、毎日夢を見るね……」
母「ええ、森であの子たちが飢えて死んでいく夢を……」
父「こんなことになるのなら……やめておけばよかった……」
母「ええ、口減らしをして私たちはなんとか助かったけど……」
母「こんなことなら、四人で飢え死にするべきだったのかもしれないわ……」
父「おお、ヘンゼルとグレーテルよ、愚かな私たちを許しておくれ……」
「ただいまーっ!」
30:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/26(木) 21:03:19.90
ID:C09KdGQ2o
ヘンゼル「ただいま、父さん!」
グレーテル「ただいま、お母さん!」
父「お、お前たちは……ヘンゼルとグレーテルか!?」
母「生きていたの!?」
ヘンゼル「へへへ、なんとかね」
父「そ、そうか……」
母「よかった……」ウルッ…
31:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/26(木) 21:05:02.62
ID:C09KdGQ2o
父「すまん! 私たちは命にかえても守るべきだったお前たちを……!」
母「私たちにもう、あなたたちの親である資格はないのよ……!」
ヘンゼル「いいんだよ……父さん、母さん、何も気にしないで」
グレーテル「あたしたち、なーんにも気にしてないんだから」
ヘンゼル「そうだ! 今日は二人に和菓子を作ってきたんだ!」
父「和菓子……!?」
32:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/26(木) 21:09:01.26
ID:C09KdGQ2o
母「このういろう……ちょうどいい甘さで本当においしいわ!」モグモグ
父「こっちの草餅も……とてもおいしいよ!」モグモグ
グレーテル「やったね、お兄ちゃん!」
ヘンゼル「ああ!」
こうして一流の和菓子職人となったヘンゼルとグレーテルは、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。
―おわり―
45:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/28(土) 10:47:25.07 ID:fm6AKlkoO
兄からグルメリポーターの才能をひしひしと感じる
38:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/26(木) 21:35:45.00 ID:K7BZfwxeo
乙
優しい世界だった
元スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1464260973/
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