雪歩「会えない時のために。こんにちは、こんばんは、おやすみ」

2013-08-19 (月) 21:01  アイドルマスターSS   2コメント  
1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/16(金) 23:43:54.97 ID:F8bxYl/oP



律子「はっきり愚痴を言わせてもらうと、私たちは飽き飽きしています」

律子「萌え要素をツギハギしただけの記号的なキャラ、ビジュアルがとにかく可愛いだけの深みの無いキャラ」

律子「アナタたちも薄々感じているはずですよ?」
 
律子「……」ギィ…… (椅子に深くもたれる)

律子「この場を借りて、臆面もなく言わせていただきましょう」

律子「そして、今から証明してみせましょう」

律子「……」

律子「『THE IDOLM@STR』こそが、正真正銘の終わらないコンテンツであることを」


eval.gifアイドルマスター シンデレラガールズ コミックアンソロジー cool VOL.2 クールなドラマCD付 (IDコミックス DNAメディアコミックス)





5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/16(金) 23:52:55.86 ID:F8bxYl/oP

Days 6,305 ● -萩原邸 鏡の前-

雪歩「もしもぉ~し? あなたは萩原雪歩でしょうか?」

雪歩「売れないダメダメアイドルの、萩原雪歩でしょうか?」

雪歩「……」

雪歩「なんだか最近思うんです」

雪歩「本当に、私は私なのか、って」

雪歩「もしかしたら萩原雪歩は2人いたりするんじゃないか、って」

雪歩「どう思いますか? 鏡の中の萩原雪歩さん」

雪歩「……答えが返ってくるわけない、よね」

──萩原雪歩、先に向かっていますよ? (貴音が雪歩を呼ぶ声)

雪歩「あっはぁい! 四条さん今行きますぅ!」タタッ

萩原雪歩、17歳です 現在Eランクアイドル 四条さんとデュオを組んでいます



9:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 00:04:51.10 ID:d2A5cfdLP

● -萩原邸 玄関前-

雪歩「四条さぁん?」キョロキョロ

雪歩「うぅ……また四条さんの神隠しに会いましたぁ……」

事務所の提案で、親睦を深めるために四条さんと同棲をしています。
いつも凛としていて、綺麗で、憧れの四条さんだけど、こういう時は本当に困りますぅ……。

美希「ゆ~きほっ♪ おはようなのー! 先に事務所行ってるよ」ポンッ (雪歩の肩を叩く)

雪歩「おはよう、美希ちゃん」

雪歩「あっそれと」

雪歩「会えない時のために。 こんにちは、こんばんは、おやすみ」

美希「あはっ♪ 何それ、新しいポエム?」

雪歩「う、うん。 どうかな? 昨日の夜考えてみたんだけど」

私の人生で2度、とっても辛い別れがあったから。その想いを込めて。

美希「んーバッチグーなの♪」 (指でサインを作る)



10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 00:09:24.60 ID:+VUO7b8KP

スレタイのあいさつ、洋画でみたことあるわ
ジムキャリーだったな



11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 00:13:20.45 ID:MET2YXVb0

>>10
「トゥルーマン・ショー」だったっけ
http://www.amazon.co.jp/dp/B00170LCMM/




12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 00:13:25.19 ID:d2A5cfdLP

● -事務所への道 公園前-

あずさ「あらあら~ 雪歩ちゃん今日も白いワンピースがお似合いねぇ」 (頬に手を当てて微笑む)

雪歩「あっ、あずささんおはようございます」ペコッ

同じ場所、同じ時間で、今日も毎朝の日課を聞きます。

あずさ「雪歩ちゃぁん、今日の占いはねぇ……」 (微笑む)

あずさ「アンハッピー。 嫌な事が立て続けに起こるでしょう……ね。 残念だわ~」

雪歩「ううぅ~……やっぱりダメダメな私は運勢もダメダメなんですぅ~……」

あずさ「うふふ、そんな事ないわ~」

雪歩「でも、あずささんの占いってよく当た……」

……ヒュウウゥゥゥゥ……

雪歩「へっ?」

頭上から空気を裂く音がして、空を見上げると何か真っ黒いものが降って……へっ?! わ、私の近くにっ!

ガシャァァァアアアン!!!



13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 00:21:24.83 ID:d2A5cfdLP

あずさ「ゆっ雪歩ちゃん大丈夫?!」タタッ

雪歩「ひぃ……ひぃぃ……」

間一髪、空からの落下物はガラスを飛び散らせながら、私の数メートル先に転がり落ちました。

あずさ「い、一体何が落ちてきたのかしら?」

雪歩「な、なにこれ……?」ツンツン

それは、両手で持ち抱える程の大きさの、何かの器具のようなものでした。
小さな白いラベルが貼ってあって「No.304」の文字が……

雪歩「……?」

あずさ「や、やっぱり今日は雪歩ちゃん、今日はアンハッピーかもしれないわね~」 (頬に手を当てつつ苦笑する)

雪歩「うぅぅ……」



16:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 00:30:23.89 ID:d2A5cfdLP

● -事務所前 大通り-

雪歩「うぅ、あずささんに任せて先に行っちゃったけど……本当に良かったのかな」スタスタスタ

雪歩「これってもしかしてダメダメな私への神様の天罰か何か、ですか……?」

雪歩「……」

雪歩「ううん、朝からこんなにネガティブだとまた四条さんに心配されちゃう」

雪歩「こんな時は……」ゴソゴソ

雪歩「Yuki-Phoneの出番ですぅ!」バーン!

雪歩「……」///

ただのi-phoneですぅ
えへへ、これで通勤しながら音楽とかラジオを聞くのがささやかな楽しみ

Yuki-Phone『続いては臨時ニュースです。 飛行機が故障して一部の部品が足立区に落下したとの情報が……』

雪歩「……」

Yuki-Phone『これから飛行機に乗る予定の方はご注意を』

雪歩「ぜ、絶対無理ですぅ~~!」

Yuki-Phone『それでは、GOOD LUCK!』



18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 00:40:42.96 ID:d2A5cfdLP

● -事務所前 階段前-

雪歩「ち、遅刻かな? まだ大丈夫だよね」

亜美「ゆっきぴょーん! あーゆでぃ?!」ダキッ (雪歩に背後から抱きつく)

雪歩「ひゃっ!」

真美「みーわくのレディのPUSHすたぁ~と?!」ダキッ (更に亜美の背後から抱きつく)

雪歩「お、おはよう亜美ちゃん……真美ちゃん……いたた……」

真美「んっふっふ→ ゆきぴょん、元気がないよーだから早速イタズラをしかけさせてもらったよ?」

雪歩「へっ、イタズラ?」

亜美「んふふ→ 後ろの壁を見のだゆきぴょんよ」

雪歩「後ろの壁って……ポスターが貼ってある……」

[古里村 ガチムチ納涼祭! 男好きなみんな行っチャオ☆]

雪歩「ッッッ~~~~~!!!」

雪歩「おっ男の人~~~~!!!!」ダダダダッ

亜美「あっはっは! ゆきぴょん亜美達より元気いっぱいじゅわぁ~ん!」 (腹を抱えて爆笑する)

こんな感じで、私は765プロの皆たちとこうした楽しい日常を送っています



19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 00:48:05.16 ID:d2A5cfdLP

男の人は苦手です……
どうしてもダメなんです……
絶対絶対にダメなんです……

● -765プロ事務所 オフィスデスク前-

小鳥「はい、雪歩ちゃん。 頼まれてたお茶と……あと雑誌」スッ (雪歩に雑誌を手渡す)

『イケメンアイドル大特集 -Jupiterに新メンバー加入?! 熱いニュースにBL本が厚くなる!-』

小鳥「……」

雪歩「ありがとうございますぅ」

雪歩「……」

小鳥「……」

雪歩「あっあのっ、これはその、違う感じでっ! ただあのっ私はっ」

雪歩「 男 の 人 が 大 好 き で す ! ! !」

小鳥「……」

雪歩「あっ今のはお茶と男の人を間違え……ひぃ~~ん……」

雪歩「ざ、雑誌にハーブティのコラムをやってて、そっそれで……」アタフタ (両手をワチャワチャする)

小鳥「……そう」 (無関心)



21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 00:58:25.64 ID:d2A5cfdLP

小鳥「はーい、今日もお仕事が来るまで事務所で待機でーす」パンッ (手を叩く)

雪歩「うぅ、要するに何もお仕事無いんですね……」

雪歩「それじゃ……」スッ

Yuki-Phonを取り出して、着信履歴からお決まりの番号を選択しました。

Yuki-Phon『はい、こちらアイドルプロダクション案内係です』

雪歩「あ、あのあの、真さんという方が所属しているプロダクションを教えて欲しいのですが……」

Yuki-Phon『……はい、今日は大体どこの地域でお探しでしょうか?』

雪歩「えっと……それじゃ神奈川の……南くらいで……はい男性の方です……ショートカットの黒髪で……」

Yuki-Phon『該当の方はいませんね。せめて名字さえわかれば……』

雪歩「……ありがとうございました」プツッ



23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 01:10:40.84 ID:d2A5cfdLP

雪歩「ふぅ……すぅ……」

深い深いため息をひとつ。もやもやした気持ちを全部吐き出すように。
気持ちを落ちつかせて、今度はぐつぐつした気持ちを、胸の中へ吸い込むように深呼吸をひとつ。

雪歩「……えい!」ペラッ

ちっぽけな勇気を振り絞りながら、雑誌のページを1枚ずつめくります。
うぅ……やっぱり男の人ばっかり……。えっと、薄く切れるような釣り目に、吸い込まれるような大きな黒い瞳……。

雪歩「あっ……」

1枚の写真に、目が止まりました。
別人だけど似てる、かもしれない。瞳が、たしか、こんな感じだった。
ぼんやりと霧のかかった顔が頭の中に浮かぶ。

雪歩「……真美ちゃん、ハサミ貸してもらっていいかな」

真美「えっ、いいけど……」スッ (ハサミを手渡す)

雪歩「……!」チョキチョキ

真美「ゆきぴょん何してんの? イケメンアイドルの目の部分だけ切り取ってさ……新しいシュミ?」 (呆れ顔を浮かべる)



24:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 01:21:35.26 ID:d2A5cfdLP

ポーチから誰にも見られないように、こっそりと、男の人の顔のパーツを貼りつけて作ったモンタージュ写真を取り出しました。
今貼ってあるのはショートカットの黒髪、うっすらと紅色のかかった唇、なだらかで均整のとれた輪郭……。

雪歩「……んっ」ペタッ

これで、目が完成。 似てる? 似てない? あの人に。 あの時の思い出に。 よくわからない。

雪歩「……」

バカみたい、ですよね、私。

小鳥「雪歩ちゃーん! お仕事よー!!! どこにいるのー?!」 (大声)

雪歩「へっ、ほっ、ほんとですか?!」サッ

小鳥「えぇ、今から営業にいってもらうわ」ニッコリ (満面の笑み)

雪歩「が、頑張ります! そ、それで足立区のどこですか?!」

小鳥「いいえ、今回は隣の区へ行ってもらうから」ニコニコ (笑みを崩さず)

雪歩「へっ?」

小鳥「移動はモノレールを使ってちょうだい」ニコニコ (相変わらずの笑み)

雪歩「ふえぇぇえ~!!!???」



25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 01:33:30.76 ID:d2A5cfdLP

● -足立区 モノレール-

うぅ……足立区っておかしいよ……。絶対不便だよ……。東京の中なのに森に囲まれてるって……。地下鉄も走ってないなんて……。
文化フライは美味しいけど……。移動手段がモノレールだけって……。

雪歩「あ、あの……往復切符……お願いしますぅ……」

車掌「はい」ピッ (切符を手渡す)

雪歩「ありがとうございますぅ……ひぐっ……」ジリ……ジリ……

一歩一歩、すり足で階段の方へ向かっていく。お願い、何か奇跡……起こって……。

雪歩「だ……大丈夫……大丈夫、平気、うん平気だよ。 な、何度も言えるよ」

雪歩「きっと今日は奇跡が起こってる。この角を曲がると……」スッ

曲がると……。

犬「」

雪歩「」

雪歩「」

犬「ヴァイ!」

雪歩「犬 ぅ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ! ! ! ! 」ダダダダダダッ

車掌「お、お客さぁん?! 今日も乗らないんですかー?!」ブンブン (雪歩の後ろ姿に手を振る)



26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 01:42:24.24 ID:d2A5cfdLP

● -足立区 公園噴水前-

雪歩「犬ぅ~~~……」ヒックヒック

気が付いたらいつのまにか日は落ちて、あたりは真っ暗でした。
蝉の声がかすかに遠くから聞こえてきます。

雪歩「うっ……やっぱり犬こわいよぉ……」グスン

あれは、二年前……。

● -二年前 足立区 森林内撮影現場-

犬「ヴァイ!ヴァイ!」

雪歩「あっわんちゃんですぅ。 よーしよーしおいで」ナデナデ

犬「クゥ~ン♪」

雪歩「えへへ、毛がふかふかで、可愛いな」ナデナデ

P「雪歩、今日は動物との撮影ロケ、頼んだぞ」グッ (拳を強く握る)

雪歩「はい! Dランクアイドル昇進のチャンス、ですもんね! 絶対に成功させます!」



29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 02:01:30.31 ID:d2A5cfdLP

……。

雪歩「だっだれかぁ! スタッフさん!来てください! 助けてくださぁい!」

目の前でプロデューサーが何匹もの大型の犬に襲われている。
必死に転がって、もだえて、時々ゾッとするようなうめき声をあげる。

P「ッッ! 逃げろ! 俺のことはいいから雪歩!!!」 (転がりながら叫ぶ)

雪歩「そっそんなっ! プロ、プロデューサァー!」

その時の私の顔はきっと、見れたものじゃないと思う。

スタッフ「萩原さん、避難を! あなたも襲われます!」ガシッ (雪歩の腕を掴む)

P「う、うおおおおおおお!」ゴロゴロゴロ (坂へ転げ落ちる)

雪歩「離してくださぁい! イヤですぅ! プ………」

……プロデューサァァァァ!!!!!



30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 02:07:20.77 ID:d2A5cfdLP

● -足立区 公園噴水前-

雪歩「……うっ……」ブルッ

あの時の事を思い出すと今でも、体が震えます。
プロデューサーは懸命の捜査も虚しく行方不明に。遺体は恐らく犬に食べられてしまったのだろう、と……。

頬に、一粒の雫が降り落ちました。 

雪歩「……雨」

やがて雫は二粒に、三粒に、無数に、強く、痛いほど強く。
まるで私の気持ちを表しているかのような、酷い土砂降りでした。

雪歩「……」

こんなに遅いと、四条さんにまた心配かけちゃう。帰ろう。
ずぶ濡れになって透けたワンピースをからだ全体で持ち上げ、帰路に就きました。



31:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 02:19:37.68 ID:d2A5cfdLP

● -萩原邸 ダイニング-

雪歩「ただいまですぅ……」

貴音「雪歩、随分と遅かっ……まぁ、ずぶ濡れではありませんか!」 (目を見開く)

雪歩「また、お仕事潰しちゃいました……ごめんなさい……」

貴音「良いのですよ、雪歩。 今はEランクでも、ゆっくりと、共に歩んでいこうではありませんか」 (花のような柔らかい笑み)

あぁ、四条さんは、伝え下手な私の澱んだ心を、きれいに掬い取ってくれる。
まるで私を、いつでも、いつでも見守ってくれているみたい。

貴音「イヤな事は忘れて、もう夕食にしましょう。 わたくしはもう、空腹の極みです」

雪歩「はい。待っててくれたんですね、ありがとうございます」

貴音「もちろんです、今日の夕食は……」スッ (口元に人差し指を当てる)

貴音「らぁめん二十郎、10周年記念。 メンカタカラメヤサイダブルニンニクアブラマシマシ、トッピングスペシャル」

貴音「……なのですから、是非雪歩と一緒に食べたかったのですよ」スッ (人差し指を降ろす)

雪歩「えへへ、そんなの食べきれないですよぉ」

Yuki-Phon『コースモースコスモス! コースモスコスモッス!』

雪歩「ひゃっ! 着信が……こんな遅くに……誰だろう」ピッ

雪歩「……春香ちゃん?」



33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 02:32:54.08 ID:d2A5cfdLP

● -足立区 公園ベンチ-

春香「はい、雪歩。 今日はめんたい味だよー」スッ (うまい棒を雪歩に手渡す)

雪歩「ありがとう、えへへ、やっぱりうまい棒はおいしいね……」サクサク

天海春香ちゃん、私がアイドル候補生の時から今までずっと一緒だった……親友!です。

雪歩「ねぇ春香ちゃん、私たちランクが上がったら足立区以外のお仕事も入ってくるのかな」

春香「んー? そうだねぇ。でも、やっぱり現実は厳しいねぇ、アイタタタ」サクサク (うまい棒を食べながら喋る)

春香「私は今のままでも十分楽しいなーって思うよ、おっとっと」ポロッ (うまい棒の食べカスをおとす)

雪歩「……うん、皆と居ると楽しいよ。 でもね、最近私、大きなステージで思い切り踊ってみたい、って思うんだ」

春香「大きなステージって具体的にぃ? あむっ」 (うまい棒を口に含む)

雪歩「……」

雪歩「東京ドーム」

春香「?! ドームですよ!ドー…ッ…ウェッホエッホ!」 (蒸せる)



35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 02:42:44.12 ID:d2A5cfdLP

春香「……ッ……ゆっゆきほぉっ! 私たち今Eランクだよ! ドームって……A、ううんSランクじゃないと無理だよ!」ドンドンッ (胸を叩きながら)

雪歩「……私らしくない、かな?」

春香「うん、いつもの雪歩だったら……ダメダメな私はケツの穴掘って埋まってますぅ~!って言うとこだよ!?」 (穴を掘る仕草をする)

雪歩「えっ……私そんなこと言わないよ……」

春香「もーボラギノールジョークだよー! 私も愛用中!」ポンポン (雪歩の肩を叩く)

えっ、春香ちゃんってこんな事言う子だったっけ……。

雪歩「でも、いつか行ってみたいなぁ、そろそろ私も足立区限定アイドルから卒業したいよ……」ギュッ

それと、あの日の約束のためにも。

春香「あはは、それじゃあ、まずはモノレールに乗れるようになる所から始めないとね」ニヤリ (閣下的暗黒微笑)

雪歩「えっ?! 知ってた、の?! うぅぅぅ……春香ちゃんはイジワルですぅ……」



37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 02:56:17.53 ID:d2A5cfdLP

Days 6,306 早朝
● -事務所前 大通り-

Yuki-Phone『今日の占いです。 ヤギ座の方はミラクルハッピーです。 何も危険のない、平和な一日となるでしょう』

雪歩「占い、当たるといいな、えへへ」スタスタ

小鳥「雪歩ちゃん奇遇ね! 今日も頼まれた雑誌、持ってきたわよ」ポンッ (背後から雪歩の肩を叩く)

雪歩「あっ! 音無さん、ありがとうございますぅ!」ペコッ

雪歩「えっと、その、あれは……」モジモジ

小鳥「ハーブティの研究、でしょ?」パチッ (ウィンクを投げる)

雪歩「うぅ、はい……」

小鳥「うふふ、見終わったら私に貸してちょうだいね~」タッタッタ (小走りで事務所へ向かう)

雪歩「……えへ、今日は良いことが起こりますように」スタスタ

P「」

雪歩「お仕事が来ますよ──」

──えっ?──

不意に、視界の端に、見覚えのある横顔がすぅと通り抜けました。



38:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 03:03:10.00 ID:d2A5cfdLP

雪歩「っっ!!」バッ

P「」

振り向──あの人っ──高い背──眼鏡──くたびれたYシャツ──水色のネクタイ──

P「」

雪歩「ぁ……」

P「」

──見間違えるはず、ない──

雪歩「ぷ……」

雪歩「プロデューサー?」

P「」

P「雪」

高木「あーーーー!!!! そこでこっちを見ているキミ!!! そうキミだよ!!!」 (怒号)

雪歩「へっ」

高木「こっちへ来なさい!!!!」ガシッ (P?の腕を思い切り掴む)



40:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 03:10:08.82 ID:d2A5cfdLP

高木「私の事務所のアイドルに何をしようとしているのかね!!!」ズズズ…… (Pを引きずる)

P「ま、待ってください!」

高木「話は向こうで聞こう!!!!ささっ!!!!」ズズ…… (引きずる)

P「このまま……続けさせてくださぁい!」

高木「なぁにを言っているのかね!!!!」ズズズズ! (思い切り引きずる)

P「続けさせてくださぁい!!」ジタバタ

雪歩「へっ、あっ、ちょっ、しゃちょっ、待ってくださっ」タッ……

ガシッ

あずさ「雪歩ちゃぁん、助けてぇ、迷子になっちゃったわぁ~!」 (雪歩の背中から強く抱きつく)

雪歩「あっあずささん!? それよりっあれっ、プップロデューサーが!」

あずさ「あらぁ~、事務所はどっちかしらぁ~!」ズズ… (普段では考えられない力で雪歩を引きとめる)



41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 03:21:07.39 ID:d2A5cfdLP

P「続けさせてくだ……!」

P「……!……!」

社長に引きずられて、プロデューサーの姿がどんどん遠くへ、小さくなっていく。

雪歩「は、離してくださぁい! あずささぁん! 事務所ならあっちですぅ!」

あずさ「あらあら~、お願い一緒に着いてきてちょうだぁい!」ズズ…… (雪歩を背後へ引っ張る)

美希「あっ、ゆーきーほ♪ またポエム教えてなのー!」ガシッ (アメフトのタックルのように抱きつく)

雪歩「ミキちゃっ?! えっとえっと、萩原と荻原もうどっちでもいいですぅ! かっ考えたから離してぇ!」ジタバタ

美希「むーイマイチだから離してあげないの~」ズズ…… (雪歩をひたすら押し込む)

雪歩「ひぃ~~~ん!!!」

……結局その後、事務所へ戻って、社長にあれはプロデューサーだと、必死に説明しても
「最近多発しているアイドルを狙っている変質者だ」の一点張りで、意見を聞き入れてはくれませんでした。



42:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 03:34:10.73 ID:d2A5cfdLP

● -萩原邸 地下倉庫-

雪歩「……」ペラッ

埃をかぶった小さな黒い箱から、数枚の写真を取り出す。
デビュー記念、オーディション合格記念、番組出演記念。
みんなプロデューサーが写っている写真。やっぱり見間違えるはずないよ。

一度目の別れで後悔したから、ううん、今でも後悔してるから。
ちゃんと、写真は撮るようにしたんだよ。

貴音「雪歩、ここにいるのですか?」ギィ…… (階段を軋ませながら降りてくる)

雪歩「あっ……四条さん……」

貴音「プロデューサー殿の写真……やはりアレはプロデューサー殿だったのですか?」 (怪訝な顔つきで)

雪歩「はい、きっと」

雪歩「……えっ、どうして四条さんが知っているんですか?」

四条さんは今日はオフで事務所に行ってないはず……。

貴音「……」

貴音「高木殿から電話がかかってきたのです」ニッコリ (花のような柔らかい微笑み)

雪歩「……」



43:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 03:47:24.60 ID:d2A5cfdLP

雪歩「そうですか……」

貴音「上で待っていますよ、わたくしはもう空腹の極みです」

貴音「ときに雪歩、その自転車、そろそろ買い替え時では?」スッ (自転車を指さす)

雪歩「えっ?」

貴音「……」スッ (唇に人差し指を当てる)

貴音「『自転車』、『MASTER SPECIAL 05』に絶賛収録中。好きだよ、心こめて……」

貴音「……」スッ (人差し指を降ろす)

雪歩「……」

雪歩「……?」

……。

四条さんの気配が無くなったのを確認してから……。

雪歩「……よいしょっ」パカッ

黒い箱の二重底をあけて、丁寧にくるんだビニール袋の中から……。

雪歩「……」スッ

一着のジャージを取り出しました。私には似合わないスポーティなジャージ。



44:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 03:56:45.24 ID:d2A5cfdLP

雪歩「……失礼しますぅ……」クンカクンカ

埃の匂い。もう残り香も消えちゃった、です。
小さな真っ白な缶バッジが肩についてて「First Step」って書いてある。

雪歩「……」クンカクンカ

……。



冬馬「おい、なにやってやがんだ?」

翔太「思い出を必死に手繰り寄せてるんだよ。 童貞の冬馬くんにはちょっと難しいかな?」

冬馬「はっはぁ!? どっどっどっ童貞ちゃうわ!!」 (顔を真っ赤にする)

翔太「そう、美しい思い出だよ……あれは……」

あれは今から三年前……。



45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 04:10:58.06 ID:d2A5cfdLP

Days 5,110 ● -765プロオーディション会場-

雪歩「うぅぅ……私がアイドルになんてなれるわけないよ……海藻あたりがお似合いだよ……」

春香「ほーらっ! ゆっきほ! 『ポジティブ!』だよ! 『ポジティブ!』」ポンッ! (笑顔で肩を叩く)

雪歩「どうしよ、あとちょっとで順番呼ばれちゃう……」モジモジモジモジモジモジ

雪歩「や、やっぱり諦めて帰ろ──」

……ポンッ……

突然、ふわりと頭に何かが乗っかった感触がした。
手? 手だ。 凄く優しい包み込むような手……。

真「がんばれ」ボソッ

雪歩「えっ……?!」

真「ははっ、すごく怯えてるみたいだから、居てもたってもいられなくなって勝手に手が、ね」 (手をひらひらとさせて立ち去る)

雪歩「……?」

顔、よく見えなかった。今、男の人に触られた……?
いつもだったら、それだけで失神しちゃうのに。
だけど、何でだろう。 あの人は平気だった……。

春香「雪歩! オーディション『START!!』だよっ! 『START!!』!」 (満面の春香さんスマイル)



46:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 04:27:27.33 ID:d2A5cfdLP

Days 5,121 ● -プロダクション合同合格発表会場-

ま、まさか合格出来るなんて思ってませんでしたぁ……。

雪歩「奇跡だよね……」

春香「違うよ、雪歩が頑張ったからだよ! えらいえらい、花丸をあげよう」 (くるくると雪歩のオデコで指を回す)

ううん、きっと、あの人が励ましてくれたおかげ。
あの人のおかげで、逃げ出さないで男の人と喋る勇気が出た。

雪歩「合格……してるのかな?」キョロキョロ

辺りを見回すと数十人の新米アイドルのみんながカチカチに緊張してる。
黒髪のショートカットを探す……いるかな……。

真「……」

……あっ……。

いた。声が漏れる。



48:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 04:33:17.15 ID:d2A5cfdLP

真「……あっ……」

目と目が合う。……あの目……。じっと私の方を見つめてくる黒い瞳。
その時、思った、ううん、もっと深い部分で、そう、感じたのは……。

他のアイドルの皆とは違う、春香ちゃんとも、違う、お父さんとも、私が今まで出会ってきた人全員と違う。
純粋で無垢な瞳。そんな目をして──。

……ドスンッ……!

突然、目の前が真っ暗になる。
気づいたら、いつのまにか地面に仰向けに倒れていました。

雪歩「うぅ……な……に……?」

段々と視界が明るくなっていく。
これは、大きな大きな……

お尻?

貴音「申し訳ありません……少々躓いてしまったようで……」スリスリ (お尻をさする)

貴音「して、突然ですがこうして私と貴方が出会ったこと、何か運命的だと思いませんか?」ジ…… (雪歩を微笑みながら見つめる)

いつのまにか、あの男の人は居なくなっていました。



49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 04:42:28.18 ID:d2A5cfdLP

Days 5,173 ● -合同練習場-

雪歩「はぁ……はぁ……」タンッ

何度も何度も同じステップを踏む。
この前のオーディション、私がダンスをドジっちゃったせいで落ちちゃったから……
だから四条さんの食事のお誘いを振りきって一人ダンスレッスンですぅ。

雪歩「ふぅ、ちょっと休憩」

各小部屋のレッスンルームでは他の子たちが汗を流しながら練習してる。

雪歩「……そうだ」

ふと、他の子のダンスを見て研究しようという考えが頭をよぎり、そろりそろりと気づかれないように部屋を出ました。
一番ダンスが上手い子、一番ダンスがうまい子は……。

雪歩「……あっ!」

3番目の小部屋で、足が止まった。
だって、三度目の出会いはないと思ってたから。

真「……あっ……」

男の人は、私に気づくと何故か苦しそうに顔をそらしました。



50:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 04:49:02.54 ID:d2A5cfdLP

雪歩「お、おはようございますぅ……」ペコリ

自然と挨拶が口から飛び出た。

真「……」

おはよう、は返ってこないで、男の人は辛そうに顔を背け続ける。
トレーンングウェアの背中には大きな一文字が……もしかして……。

雪歩「名前、あの、もしかして、真、っていうんですか?」

真「……」コクン

雪歩「あの、なんていうか、その、ダンス、凄い上手、ですね?」

心臓は痛いくらい脈打ってるのに、不思議と心は波風ひとつ立たっていない。

雪歩「迷惑じゃ、なければ、その、私にダンス、教えて、くれませんか……」

真「……」

真「……ごめんボク、君と話しちゃいけないんだ」

雪歩「えっ?」



51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 04:57:48.50 ID:d2A5cfdLP

雪歩「……そうですよね。 こんなウジウジしてる私といたら弱虫が移りますよね」

真「そういうことじゃない、話しちゃダメって言われてるんだよ」

雪歩「……えっ……誰に、ですか?」

雪歩「あっ!……も、もしかして私、早速いじめられる、ですか?」

真「違うよ」

沈黙。な、何か、会話、繋げたい。

雪歩「えと、そのバッジに書いてる言葉、「First Step」ですか? 良い言葉ですね。 私が一番欲しいものかも、えへへ」

真「……」

またじっと見つめられる。
真さんの瞳の中に私が映り込んでる。私の瞳にも、きっと真さんが映り込んでる。

真「雪歩、ダメなんだよ……」

雪歩「えっ、私の名前知ってるんですか?」

真「知ってるよ、君のことはよく知ってる」



52:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 05:07:26.10 ID:d2A5cfdLP

雪歩「……あの……それじゃ来週良かったら……」

どうして私はここまで、この男の人に惹かれるんだろう。

真「……」

真「……」スゥ……

雪歩「あの、真、さん?」



真「あぁ--------!!!!!!」



雪歩「ひぅっ!?」

ビ、ビックリした……。

真「ぷっ……あはっは……」

いきなり大声を出したと思ったら、今度はいきなり笑い始める。

真「あー……わかった、いいよ、行こうか、ねっ?」

雪歩「ほっ本当ですか? それじゃ来週の何曜……」

真「今!」



53:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 05:14:34.15 ID:d2A5cfdLP

雪歩「今……?」

今って、これからお互い研修があるはずだよね?

真「さぁっ行こっ!」

真さんは私の腕を掴むと……えっ──

雪歩「ひゃぁああああああ!」ダッダッダッダ

雪歩「ど、どこへ向かってるんですかあああ」ダダダダダダ

真「わからない! 好きな所へ連れていくよ!」ダッダッダッダ

雪歩「止まってくださぁああああい」

…キッ…

あっ止まった……と思ったら何かに乗せられる。これは……

自転車?

真「さぁ、全速力で漕ぐよ! ちゃんと掴まって!」 …グッ…

雪歩「……ひっ……」



54:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 05:22:45.29 ID:d2A5cfdLP

■ -足立区 メインストリート-

風が頬を切り裂く、目まぐるしく建物が通り過ぎていく。

雪歩「ま、真さぁぁああん! もう止めてぇぇええ!」

真「あっはっは、止められないよ! 止まると掴まる! それと、真さんっての、やめてよ! 同い年だし」

雪歩「そ、それじゃ真クン止めてくださぁい!」

真「それはもっとダメ! クン付けされるくらいなら呼び捨てがいい!」

雪歩「へっよっ、呼び捨てはちょっと……」

真「じゃあ、真ちゃん!」

雪歩「ま、真ちゃん?! それって変じゃないかな?」

真「真ちゃんで決定! 曲がるよ!」キキィ

雪歩「わ、判りましたぁ! 真ちゃんって呼ぶから、だから……」

真「雪歩、覚えていて!」

雪歩「えっ?」

真「君はどこだって行ける! 道が決まってなくたって!! どこだって進んでいける!!!」



56:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 05:33:41.54 ID:d2A5cfdLP

Days 5,174 深夜 ■ -足立区 森林前-

真「はぁ……はぁ……ははっ、もう漕げないや……」

真ちゃんはジャージを脱ぎ捨てると、大の字に寝転がる。
私も、腰が抜けて立てない。

途中、風の音でよく聞こえない部分もあったけど、いっぱいいっぱいお話したし、歌った。

雪歩「な、なんだ、ろ……この、初めて……の気持ち……真ちゃんにも、通じるのかな……」

真「……雪歩、君に本当のことを言うよ、いいかい?」

不意に、暗闇から眩しい光と、タイヤが擦れる音が聞こえました。

真「……来た!」ガバッ

真「いいかい! 雪歩よく聞いて!」



真「これは企画なんだ! ゲームなんだ! 君の回りは全部偽物なんだよ!」

雪歩「……えっ?」



57:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 05:42:08.47 ID:d2A5cfdLP

●REC開始 -足立区 森林前-

真「プロジェクト名は『THE IDOLM@STR』!」

真「みんなが君を知ってる! 誰からも知られ愛される存在に“させられてるんだよ”!」

真「みんな君に合わせて演技してるだけなんだ! 全員役者なんだよ!」

雪歩「??? な、何言ってるの、真ちゃん?」

真一「真、こんな所にいたのか! すいません、私の息子がそそうを」ガシッ! (真の腕を掴む)

真「は、離せ! 誰だ、お前なんか知らない!」

真一「昔から精神がおかしいヤツなんですよ、男のくせに女装したり、まっこまこりんとか奇声をあげたりしてね」ズズズ! (真を思い切り引きずる)

真「ボ、ボクは男じゃない!」 

真「ゆ、雪歩っ空も海も全部舞台装置なんだ。 視聴者参加型ゲームの一部なんだよ!」

真一「ほらっ! 真クン、病院にいこう!」バンッ (真を無理やり車に押し込める)

雪歩「へっ???? えっ?! えっ?! アイドルマスター? ゲーム? まっこまこりん? 舞台?」



59:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 05:51:12.20 ID:d2A5cfdLP

真一「お前をアイドル事務所なんかに入れたのが間違いだったな!」 (車のエンジンを入れる)

真「お願いだ! ボクの話を信じて!」ドンドンドン!

真「……! 雪歩、約束して!」

真「君がドアをあけるその時が来たら! 最高のきらめく舞台で会おう!」

雪歩「えっ? えっ?」

真「だから、今日を絶対に忘れないで! それまでボクはずっと待ってる、雪歩ぉ!」

………。

…。

雪歩「……」

そして、嵐が過ぎ去ったその場所には、呆然と立ち尽くす私と、真ちゃんが脱ぎ捨てたジャージだけが残っていました。

Days 6,306 早朝 ■

冬馬「で、どうして萩原は菊地を追わなかったんだよ」

翔太「その後にすぐ雪歩さんのお父さんが襲撃を受けて、意識不明の重体になったからねー」

北斗「やれやれ、父親を置いていけなかったってことか。 心優しい子猫ちゃんだね☆」



1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 14:43:50.64 ID:d2A5cfdLP

Days 6,306 放送6306回目 早朝 ●REC -事務所前 大通り-

雪歩「……」

あの日からずっと考えてる。私は本当に私なのかな、って。
私が私なのは疑いようがないことなのに。
例え歳が代わっても、住む場所が代わっても、声が代わっても萩原雪歩なのに。
真ちゃんのあの瞳が私の胸の奥を掻き回す。

雪歩「うぅ、こんなナーバスな朝は……」ゴソゴソ

雪歩「Yuki-Phoneですぅ!」バーン

ただのi-Phoneですぅ。

Yuki-Phone『みなさぁん! スマイル体操はーじまるよぉー!』

雪歩「あっ、やよいちゃん、ラジオはじめたんだ」

Yuki-Phone『みなさん、今日も元気にぃ……』

Yuki-Phone『うっうー!』

雪歩「えへへ、うっうぅ」

Yuki-Phone『うっウッウッ鵜ー?? うっうっうっ烏ッU…!』 ガガ…ピガ…

雪歩「……う?」



4:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 14:58:00.97 ID:d2A5cfdLP

Yuki-Phone『ヴっうっ卯ッ……! ぅッ兎……!』 ガガ……ザザ……

何だろ、故障かな? 歩きながら画面を適当にタッチする。事務所が見える角を曲がる。

Yuki-Phone『っ……アッ……角を……曲がった、エキストラを配置しろ……』

雪歩「えっ……?」

Yuki-Phone『……ウッ……現在、秋月……電子通りを通過中……自転車を……通過させる……』……ザザッ……

雪歩「私が今いるここも……」

[秋月電子通り]

雪歩「……偶然?」

キキィー!

雪歩「ひゃぁ!」

自転車に乗った男「うっうわっ! き、気を付けてくれよ」シャァァ (驚きながら急いで走り去る)

雪歩「……!」ドックン……

心臓が大きく、跳ねあがりました。

──これは企画なんだ! ゲームなんだ! 君の回りは全部偽物なんだよ!

ワケがわからなくて、そんなわけあるはずないって、何度も消してしまおうと思ったけれど、けれど心の奥底でたしかに燻っていた言葉。



6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 15:07:00.81 ID:d2A5cfdLP

雪歩「……」ドックン……ドックン……

そんな、そんなことあるわけないよね……?

Yuki-Phone『……まずい……周波数を変えろ!』

……キッ……

一度、耳元で不快な金属音が短く鳴ったかと思うと……

……キィィィイイイイイン!!!……

雪歩「……っ……!」

鼓膜をつんざくような怪音が響き、とっさに耳元を両手で押さえました。

雪歩「……え?」

その時、目の前に信じられない光景が広がりました。

雪歩「なに……これ……?」

どうして、会社員の人も、子供も、自転車に乗っている人も、車に乗っている人も、OLのお姉さんも全員……

みんな私と同じポーズをしているの……?

Yuki-Phone『ご、ごめんなさぁい! なんだか他の電波と絡まっちゃったみたいですねぇー!』

Yuki-Phone『それじゃ気を取り直してぇスマイル体操……』



7:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 15:20:35.02 ID:d2A5cfdLP

Days 6,306 放送6306回目 早朝 ●REC -事務所前 階段-

雪歩「……」スタスタ

おかしい。 絶対おかしいよ。 それとも私がおかしくなっちゃったの?

あの時、一人残らず耳を塞いだのもおかしかったけど、もっとおかしかったのはその後のこと。
みんな、音が鳴りやんだら、まるで何事もなかったのように生活を始めたこと……。

雪歩「……」ドックン……ドックン……

もやもやした気体のような気持ちが、はっきりと輪郭を描いていく。

雪歩「……」

いつもの私だったら、この後Yuki-Phoneをしまって、階段を1分かけて登って、事務所の皆に一礼をする。
これが私の日常。ふと思えば、365日、当たり前に繰り返されている。

雪歩「……!」クルッ

回れ右をすると、視界に映る人全員が、ほんの一瞬だけ、驚いた顔をした。
そしてすぐに、各々の日常に戻る。

雪歩「……!」ダッ

私は目的地もなく、ただ闇雲に走り出した。



9:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 15:35:32.00 ID:d2A5cfdLP

雪歩「はぁ……はぁ……!」

呼吸が乱れるくらい、ひたすら走る。
まるで追われているものから逃げるように。だけど気持ちはこれ以上ないくらいに昂ってる。
この気持ち、今まで味わったことが一度だけある。どこだったかな。

雪歩「……!」

何処かから何かが迫ってくる感覚が臨界点に達して、分けも分からずに近くのお店に飛び込んだ。
普段一人では絶対に立ち寄らないような、定食のお店……

のはずだった。
だけど、そこには……。

雪歩「えっ……?」

まるで舞台のセット裏みたいな殺風景なベニヤ張の部屋と、数人の番組スタッフらしき格好の人。
それと、いつも朝に、神隠しに会う人が、居た。

スタッフ「明日は必ず、新作の宣伝を入れるように、セリフは……」

貴音「はい、えぇ、承知いたしました」

雪歩「し、四条さん……?」

貴音「ゆ、雪歩……何故ここに……?!」



11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 15:52:46.25 ID:d2A5cfdLP

Days 6,307 放送6307回目 夜 ●REC -萩原亭 ダイニング-

貴音「萩原雪歩、何度も言っているでしょう? あれは撮影の一環なのですよ」 (眉を八の字にする)

雪歩「……」

貴音「あなたは仕事が上手くいってないせいか、精神が少々参っているのですよ」 (かぶりを振る)

雪歩「四条さん、私、いちど東京ドーム見てみたいです、明日連れてってくれませんか?」

貴音「……高みの舞台を見るには私たちはまだ早いですよ、ささっ。 てれびじょんでも見て心を落ちつかせてください」 (リモコンのボタンを押す)

響『生っすかぁ~? サンデー!!』

響『今日の響チャレンジはぁ~……じゃじゃーん! 沖縄の海を泳ぎつくすぞー、だぞ!』

響『いやー、やっぱり故郷が何よりも一番さー!』

響『ぜぇ~ったいぜったい、故郷以外には幸せはないさー!』

響「世界中の手をとる必要なんて、ぜぇ~んぜんないぞ! The world is not one!」

雪歩「……」



12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 15:57:53.00 ID:d2A5cfdLP

雪歩「……」

貴音「さぁ、もう寝ましょう」ニコッ (花のような微笑み)

雪歩「……」

貴音「……」

雪歩「……」

貴音「……」

雪歩「……」

貴音「雪歩……?」

雪歩「……」

雪歩「フヒッ」

貴音「……」

貴音「ふひ?」



13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 16:10:00.15 ID:d2A5cfdLP

雪歩「んっふっふ~、四条さぁん、私、四条さんと夜中にデートしたいってずっと思ってたんですぅ~」 (顔をにやけさせながら)

貴音「雪歩、何やら面妖な気配が……」

雪歩「ふふふぅ~、今から東京ドーム、行きませんか?」 (顔をにやけさせながら)

貴音「今から……? ひゃっ!」

雪歩「今ですよぉ~! しゅっぱぁ~つ!」ダッ (貴音の腕を引く)

Days 6,307 放送6307回目 夜 ●REC -萩原邸 玄関前-

貴音「ゆっ雪歩っあなたから何やら邪念が……!」

雪歩「四条さぁん聞いてくださぁい私、今日の帰りに大発見しちゃいましたぁ~」スリスリ (貴音の腕に頬を寄せながら)

貴音「発見……?」

雪歩「Yuki-Phoneに反射させた背後を見てくださいねぇ~」ニヤニヤ (笑顔で)

雪歩「今からオレンジジュースを買う女の子、スーパーのビニール袋を持った女の子、それと迷子のあずささんが通りますぅ~」 (笑顔で)



14:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 16:19:08.43 ID:d2A5cfdLP

雪歩「さぁ、来ますよぉ……」ニコニコ (画面を見ながら)

……ガコン!

伊織「やっぱりオレンジジュースは果汁100%のコレに限るわよね、にひひっ♪」 (自販機に話しかける)

雪歩「オレンジジュース、それと……」

やよい「うっうー! 高槻やよい家のもやしパーティ! 300円で数量限定販売れぅ~!」 (もやしを顔の横へ持っていきながら)

雪歩「ビニール袋からもやし……それと……」

……。

貴音「雪歩、あなたは何を……」

あずさ「あらあら~迷子になってしまったわぁ~」フラフラ (千鳥足で)

雪歩「迷子のあずささんですぅ! 大当たりですぅ!」パンッ (大きく手を打つ)

雪歩「どうしてわかったか、ですか? んっふっふ~」 (ニヤニヤしながら)

雪歩「回ってるんですよぉ~! パターンにならってぇ~!」 (満面の笑みで)

雪歩「ぐ~るぐ~るぐ~るぐ~る!」 (人差し指で円をかく)

貴音「雪歩、あなたはやはり精神が……!」



15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 16:28:19.35 ID:d2A5cfdLP

雪歩「ほらっ! じゃあ、あれも見てください!」 (遠くを指を指す)

貴音「あれ……? わたくし達の家の近くにある……」

雪歩「窓から見えるぅ~高速ぅ~道路ぉ~」 (突然歌い出す)

貴音「……こうそく……?」

雪歩「テンションが~空回り気味ぃ~~!」 (歌を止めない)

貴音「高速道路がどうしたのです?! あそこはいつも渋滞しているはず……」

雪歩「そうですねぇ~! だ~けどぉ~~!」タタッ (歌いながらひたすら走る)

……。

雪歩「ほらっ、渋滞してなんかい~ないぃ~。 数台先でぇ~先頭の車が止まってるんです~よぉ~!」 (歌い続ける)

雪歩「しかもドライバーが乗っていない~!!」 (歌いながら叫ぶ)

貴音「……」

雪歩「……」

雪歩「これって、どういうことですか? 四条さん……?」



16:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 16:36:45.38 ID:d2A5cfdLP

雪歩「……」

貴音「……」

貴音「ざ……」

雪歩「ざ……?」

貴音「……」スッ (唇に人差し指に当てる)

貴音「『THE IDOLM@STER LIVE THE@TER PERFORMANCE 05』 8月28日発売予定。 税込2000円」

貴音「……」スッ (人差し指を降ろす)

雪歩「い、今誰に言ったんですか?」ガシッ

貴音「……」 (目をそらす)

雪歩「し、四条さん応えてください!」ユサユサ

貴音「わ、わたくしは……もう……」

雪歩「……もう?」



17:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 16:44:34.96 ID:d2A5cfdLP

貴音「……」

雪歩「……」

春香「あ、あれ~? 貴音さん、雪歩、外で何してるの~?」 (雪歩の背後から話しかける)

雪歩「ひゃっ! は、春香ちゃん?!」

春香「雪歩の好きなうまい棒たくさん持って遊びに来たよ~」スッ (紙袋を持ち上げる)

貴音「は、春香、わたくしはもう……耐えられません……ときおり見せる、この者の激情が恐ろしい……!」

春香「ええー?! 雪歩、貴音さんと喧嘩したの?!」ドサッ (紙袋を落とす)

雪歩「……」

春香「雪歩、今から二人っきりで話そうか?」ポンッ (うまい棒を一本手渡す)



19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 16:53:59.09 ID:d2A5cfdLP

Days 6,308 放送6308回目 深夜 ●REC -公園 噴水前-

雪歩「春香ちゃん、私、なんだか頭がおかしくなっちゃいそうだよぉ……」

雪歩「なんだか世界中の人から見られてるような……そんな気分がするんだ……」

春香「うぅん、それって願望じゃないかな? アイドルなら一度は夢見ることだよ」サクサク (うまい棒を食べる)

雪歩「違うよ、そういう感じじゃない……みんな私に嘘をついてるような……」

春香「……雪歩、私たちって親友だよね。ずっと一緒にレッスンしてきた」ギュッ (雪歩の手を握る)

春香「オーディションに受かるのも一緒、落ちるのも一緒」サスサス (雪歩の手をさする)

雪歩「……うん」

春香「……」

春香「確かにね、中々……うまくいかないよ、私たち全然売れないし……」サスサス (雪歩の手をさする)

春香「だから……」

春香「きっと、そういう現実がイヤになってちょっと変な妄想しちゃっただけだよ……」 (優しく雪歩に微笑む)



20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 17:00:09.02 ID:d2A5cfdLP

春香「だから……」

春香「……」

テッテッテッテー♪

             [雪歩のためなら何だってするよ]
                       Y
 [わっほいだよ!雪歩!]X             B[元気出して、雪歩]

ティロン♪

Y:63% B:37% X:10%

春香「……」

春香「雪歩のためなら何だってするよ」ギュッ (強く手を握る)

Days 6,308 ■

冬馬「おいおい、絶対Xの方が正解だろ!」

翔太「えぇ~ここはYだよ」

北斗「今日はパーフェクトコミュニケーションに出来るかな?」

冬馬「あぁ、そろそろランクもあげねぇとな」



21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 17:09:24.25 ID:d2A5cfdLP

雪歩「ありがとう……」ギュッ

春香「だって私たち……」

テッテッテテー♪

                  [仲間だもんね]
[甘いもの食べて幸せ]X        Y        B「何も言わない」

ティロン♪ Y:82% X:15% B:3%

春香「……」

春香「仲間だもんげ」ニッコリ (微笑む)

雪歩「……」

■ -???-

スタッフ「噛みましたね」

律子「後で説教ね。まぁいいわ、このまま続けましょ。 ……もし全部がウソだっていうなら、それって私もってことでしょ?」

Days 6,308 放送6308回目 深夜 ●REC -公園 噴水前-

春香「もし全部がウソだっていうなら……それって私もってことでしょ?」ギュッ (微かに微笑む)

雪歩「春香ちゃん……」ジワッ



23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 17:17:54.51 ID:d2A5cfdLP

春香「ねっ、信じて……」

雪歩「……」

春香「でも、雪歩が言ったことで、ひとつだけ本当だったことがあるよ?」 (涙ぐむ)

雪歩「えっ?」

春香「一番……信じられないことだったんだけど……」 (涙を一粒落とす)

■ -???-

律子「さぁ、正念場いくわよ! スポットライト用意! クレーン用意! 音楽班用意! カメラを3カメにしてアップ!」

スタッフ「はい!」

スタッフ「視聴率、上がっています! 記録を更新する勢いです!」



24:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 17:23:44.03 ID:d2A5cfdLP

Days 6,308 放送6308回目 深夜 ●REC -公園 噴水広場 3カメ-

雪歩「……」

春香ちゃんに導かれて、噴水の前で立ち止まりました。
誰かいる……? 霧が濃くて見えない……。

雪歩「誰……?」

■ -???-

律子「霧、ちょっとずつ薄くして」

スタッフ「音楽は?」

律子「まだインストゥルメンタルで、とっておきはまだよ……あせらないで……」

Days 6,308 放送6308回目 深夜 ●REC -公園 噴水広場 3カメ-

霧が段々と薄くなっていく……輪郭が浮かびあがる……
高い背──眼鏡──くたびれたYシャツ──水色のネクタイ──

P「」

雪歩「プ──」

雪歩「プロデューサー?!」



25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 17:28:06.78 ID:pI5nUNiwO

かなり面白いんだけどアイロニー効きすぎてて辛いな



26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 17:30:35.62 ID:d2A5cfdLP

雪歩「や、やっぱり……生きてたんですね……」ポロッ

P「……」

■ -???-

律子「よしっ、予想通り涙を落としてくれたわ……」

スタッフ「ハラハラしますね」

律子「いい? 5カメで段々とアップにさせて……」

律子「セリフ、絶対に噛まないように頼みますよ」

律子「……! 今ッ! 音楽スタート!」

Days 6,308 放送6308回目 深夜 ●REC -公園 噴水広場 5カメ-

雪歩「プロデュ……さぁ……」ヨロヨロ

恋したりー夢描いたりすーるとー♪ 胸のー奥にー複雑なー♪

雪歩「もう、諦めてた……んです……」

いまー大人になる道の途中ー♪

P「……」



28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 17:41:07.61 ID:d2A5cfdLP

雪歩「けど……奇跡って起こるんですね……」ヨロッ

溢れる初体験ー♪ 毎日をー飾るー……

P「……」

P「雪歩、ただいま。心配かけて悪かったな」 (優しく微笑む)

雪歩「……!」

雪歩「うあぁああああああ!!!」ダキッ

だ け ど こ の 空 が  い つ も 私 の 事 見 守 っ て る  ♪

雪歩「プロデューサァアアアア!!!!」

も っ と も っ と 強 く  励 ま し て る ♪



冬馬「……くそっ……泣けるぜ……!」 (目頭を抑える)

翔太「良かったねー……雪歩さん……」 (啜り泣く)


スタッフ「視聴率、過去最高を突破しました!」

律子「よしっ! テロップ流して!」

[ パーフェクトコミュニーケショーン ] テッテテテッテッテテテテレレレー♪



29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 17:47:20.62 ID:d2A5cfdLP

■ -都内-

真「……!」

真「……くそっ!」 ガンッ

Days 6,308 放送6308回目 深夜 ●REC -公園 噴水広場 5カメ-

雪歩「プロ…デューサーぁ……ちゃんと顔、見せてください……まだ信じられなくて……」

P「ん、あぁ……」スッ (眼鏡を外す)

雪歩「えへへ、今まで恥ずかしくて、まともに顔見るのって初めて……か……」

目と目が合う。

雪歩「……あっ……」

……気づいた。

…。



31:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 17:56:07.05 ID:d2A5cfdLP

……。

●REC -特別放送-

17億人が見守った誕生の瞬間!
220ヶ国で放送された第一歩!

全世界のアイドル、萩原雪歩の日常を24時間、超小型カメラで記録する新感覚企画
全視聴者がプロデューサーです! 彼女をトップアイドルに導くのはあなた達!

物語の舞台は世界最大のスタジオ。
新足立区!

ドーム状で覆ったこの超巨大なセットは萩原雪歩ただ一人のためにある!

今年で放送17周年を迎えた正真正銘の終わらないコンテンツそれが……

「THE IDOLM@STR」!



32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 18:09:24.92 ID:d2A5cfdLP

●REC -特別放送-

吉澤「それでは今回、特別ゲストをお呼びしています」 (指を組む)

吉澤「この一大プロジェクトの総責任者であるプロデューサー、秋月律子氏です」 (一礼をする)

律子「よろしくお願いします」ペコリ

吉澤「それにしても急逝した父親の代わりに引き継いだこの企画、まだお若いあなたが運営するには相当のプレッシャーがあったのでは?」 (前かがみで質問する)

律子「まずは映像を全て見直すことから始めました。 何せ十数年分の記録ですから……視力は相当落ちました」

吉澤「しかし、あなたがプロデュサーになってから視聴率はうなぎのぼりだ。その秘訣は?」 (小声になりながら)

律子「……父は彼女を完璧で欠点のないアイドルにプロデュースしようと試みました」

律子「しかし彼女は生まれながらに気弱な子。うまく矯正できなかった」

律子「そこで私はむしろ彼女の個性を伸ばす方向性にしたのです」

律子「すると不思議な事に、一見すると不安定な彼女の方を視聴者は受け入れてくれたのです」

吉澤「なるほど、しかしそんな彼女をコントロールするのは相当難儀なのでは?」

律子「えぇ、長所も欠点も、未だに新しく見つかる部分があり、とても驚かされます」



33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 18:18:40.67 ID:d2A5cfdLP

吉澤「最近の山場といったらやはり、死んだはずのプロデューサーが生きていた所ですが……」

吉澤「その前に、過去にIDOLM@STRに外部から侵入しようとした者がいる点に触れなければなりませんね」

Days 1,095 ●REC -萩原邸 リビング-

ゆきほ(3歳)「ぽぇ~」ヨチヨチ

父役「おーよしよしおいで雪歩」 (雪歩を誘う)

ゆきほ(3歳)「ぷ~?」

……バンッ……!

卯月「シンデレラガールズのみんな~見てる~?! 島村卯月です!」 (突然画面に現れる)

ゆきほ(3歳)「ぽぇ?」

父役「……! 今すぐ連れ出せ!」

卯月「アイマスに出演しちゃったよ! いぇ~い♪」 (ダブルピース)



35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 18:25:39.51 ID:d2A5cfdLP

●REC -特別放送-

吉澤「そもそもプロデューサーを死なせた理由は何だったのでしょうか?」 (神妙な顔つきで)

律子「……」

律子「それは三年前の菊地真のせいです」

律子「彼女の自分勝手な行動により、雪歩に外の世界への関心を、知識を、夢を、あまつさえ本物の感情を与えてしまった」

吉澤「なるほど」 (深く頷く)

律子「あの日から雪歩は劇的に変わってしまった。 足立区の世界じゃ満足できなくなった」

律子「それで彼女が外に出られない理由を作ったのです」

● -二年前 新足立区 森林内撮影現場-

スタッフ「萩原さん、避難を! あなたも襲われます!」ガシッ (雪歩の腕を掴む)

P「う、うおおおおおおお!」ゴロゴロゴロ (坂へ転げ落ちる)

雪歩「離してくださぁい! イヤですぅ! プ………」

……プロデューサァァァァ!!!!!



37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 18:36:50.81 ID:d2A5cfdLP

●REC -特別放送-

吉澤「なるほど、撮影現場を森林にしたのも、そのせいだったのですね」 (説明口調で)

律子「えぇ、新足立区は森に囲まれています、彼女こそ檻に閉じ込められた子犬なのです」

吉澤「ははっ中々ウィットに富んだ冗談だ」パンッ! (大袈裟に手を叩く)

律子「ただ、当の本人は非常に不満そうでした。 彼は元々2年前、2011年の2クール分で契約が切れるはずだった」

律子「しかし、彼は」

律子「待ってください。このまま……続けさせてください!と言いだしたのです」

吉澤「それで強引に戻ってきてしまったのですね」 (真剣な顔つきで)

律子「ですので、彼とは今回の企画の協力をしていただくという形で手を打ちました」

吉澤「彼が二年間居なくなっていた理由は?」

律子「記憶喪失です」

吉澤「素晴らしい!」



38:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 18:47:29.73 ID:d2A5cfdLP

吉澤「それでは、次は電話相談のコーナーです」 (手をかざす)

プルルルル……

愛「質問でーす!!!! 新足立区にカメラは何台ありますかー!!!!」

律子「えっと、大体5000台くらいね」 (音量を下げながら)

愛「凄い!!全部パイナップル源三さんのためにあるんですねー!!!!」

吉澤「この番組の総収入は、ソーシャルゲームの売上に匹敵すると言われますが」

律子「だけど、運営費もソーシャルゲームの売上に匹敵します」

吉澤「この企画にはCMがないので全て生中継中にさりげなく流すという異色の形をとっていますね」

律子「えぇ、私がこうしてローソンのようなシャツを着ているのもそのためです」



40:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 18:56:36.29 ID:d2A5cfdLP

吉澤「もう一つ聞かせてください、どうして萩原雪歩は自分の人生に疑いを持たなかったのですか?」

律子「それは……」

律子「人は与えられた世界で生きることは、容易だからです」

吉澤「なるほど、では次の電話相談へ」 (手をかざす)

プルルルルル……

???「ふざけるな!」

律子「……」

真「こんなのデタラメだ! 雪歩は決して幸せじゃない!」

吉澤「おっと、では次の電話へ」 (急いで電話を切ろうとする)

律子「いえ、続けましょう。 昔の仲間と、話に花を咲かせるのも悪くないわ」

律子「真、彼女は今や全世界でナンバーワンのトップアイドルなのよ。 彼女自身はEランクの生活をしているけれど」

律子「それは彼女の夢でしょう?」



41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 19:07:38.35 ID:d2A5cfdLP

律子「あなたも“そっちの”世界でアイドルをしているならわかるはず」

真「違う! あんなの、ただ雪歩を晒し者にしてるだけだ!」

律子「いいえ、彼女は文字通り、神に匹敵する偶像なのよ」

律子「いい? 私は新足立区で雪歩に普通の生活を与えている」

律子「若干のドラマ性、平穏な暮らしが保障されている理想郷なのよ」

律子「大体真、あなたに雪歩の何がわかるの?」

律子「最初はあなたは雪歩にオーディションを合格させるための動機を作るだけの役を与えたはずだった」

律子「それがあんなことをして……目立ちたかっただけでしょう」

真「違う! 話してわかったんだ。 彼女は自由を知る権利がある」

律子「いつでも出られたわ」

真「……えっ?」

律子「彼女にもう少し勇気があれば、いつでもこの新足立区から出られた」



42:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 19:16:22.59 ID:d2A5cfdLP

律子「でも彼女にはそれが出来ない。 私にはよくわかるわ。彼女は根っからの臆病者」

律子「真、あなたに雪歩の何がわかるの? たった3日しか顔を合わせていないあなたが」

律子「はっきり言わせてもらうわ」

律子「雪歩が外に出ることなんて、雪歩自身、全視聴者、いえ、ただあなた一人を除いて……」

律子「……」

律子「誰も望んでいない。誰も得しない」

真「……」

真「いいさ」

真「きっと、雪歩が証明する」


……ガチャッ……

吉澤「ははっ、今のような貴重な意見はさておき、今度の展開を聞かせてもらいましょう」 (取り繕った笑顔で)

律子「……えぇ、今後は四条貴音とデュオを解消し、今度は新しいパートナーとして双海真美が」

吉澤「ははっ、ゆきまみは良いものですね。 それではまた次回」 (カメラに向かって手を振る)



43:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 19:24:44.05 ID:d2A5cfdLP

Days 6,312 放送6312回目 早朝 ●REC -萩原邸 鏡の前 カメラ-

雪歩「もしもぉ~し? あなたは萩原雪歩でしょうか?」 

雪歩「売れないダメダメアイドルの、萩原雪歩でしょうか?」

雪歩「……」 (鏡の前でため息をつく)

■ -???-

スタッフ「いつも通りだな」

スタッフ2「あぁ、今日も問題なし」

Days 6,312 放送6312回目 早朝 ●REC -萩原邸 玄関前-

美希「ゆ~きほっ♪ おはようなのー! 先に事務所行ってるよ」ポンッ (雪歩の肩を叩く)

雪歩「おはよう、美希ちゃん。 あっそれと……」 (指をモジモジとさせる)

美希「こんにちは、こんばんは、おやすみ?」ニコッ (微笑む)

雪歩「えへへ」 (微笑み返す)



45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 19:31:59.98 ID:d2A5cfdLP

Days 6,312 放送6312回目 早朝 ●REC -事務所への道 公園前-

同じ場所、同じ時間で、今日も毎朝の日課を聞きます。

あずさ「雪歩ちゃぁん、今日の占いはねぇ……」 (微笑む)

あずさ「ミラクルアンハッピー。 野心は燃えないゴミへとぽいっと捨てましょう……ね。 残念だわ~」

雪歩「ううぅ~……やっぱりダメダメな私は運勢もダメダメなんですぅ~……」 (頭を抱える)

Days 6,312 放送6312回目 昼 ●REC -765プロ事務所 オフィスデスク前-

雪歩「今日もお仕事待機ですね……」 (うまい棒をつまむ)

高木「あー萩原君、ちょっと真美君の所へ行ってくれないかね?」 (手招きする)

雪歩「えっ? は、はい」 (腰をあげる)

■ -???-

スタッフ「問題なし問題なし」

スタッフ2「今回の視聴率も安定だな」



46:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 19:38:14.94 ID:d2A5cfdLP

Days 6,312 放送6312回目 深夜 ●REC -萩原邸 地下室-

雪歩「すぅ……すぅ……」

■ -???-

スタッフ「ふぁ……」

律子「……どうして雪歩は地下室で寝てるの?」

スタッフ「あ、あぁプロデューサー、いえ、四条貴音が去って傷心気味のようで」

スタッフ2「工事用具がある場所が落ちつく、と独り言を言ってましたよ」

律子「ふぅん、そう」

律子「……」

律子「……念のため春香に電話させて」

……。

Yuki-Phone『コッスモースコッスモッス!コースモスコッスモス!』

雪歩「すぅ……すぅ……」

律子「……起きない?」



47:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 19:42:25.69 ID:d2A5cfdLP

スタッフ「地下室の整理をしてたみたいで、疲れきってたのでしょう」

スタッフ2「パートナーを失うと身の回りの整理をしたくなるもんです」

律子「……カメラは?」

スタッフ「えっと、3つあります。 あぁ、1台が荷物で死角になってますね」

律子「……」

律子「……!」

律子「ここっ、ズームして!!」

……ズゥゥゥム……

スタッフ「ただのスコップですよ」

律子「どうして」

スタッフ「えっ?」

律子「どうして……真新しい土が付いてるの……?」

スタッフ「……あ!」



48:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 19:49:35.95 ID:d2A5cfdLP

Days 6,312 放送6312回目 深夜 ●REC -萩原邸 地下室-

ガチャッ

春香「ゆーきーほっ! うまい棒持ってきたよー!」 (徳用パックを抱えながら)
 
雪歩「すぅ……すぅ……」

春香「サラミ味とたこやき味どっちがいい♪」 (両手に1本ずつ持ちながら)

雪歩「すぅ……すぅ……」

春香「もー雪歩、今夜は寝かさない……」 (布団に手をかける)

春香「ぜっ!」 (布団を思い切りめくる)

……バッ!

Yuki-Phone『すぅ……すぅ……』

春香「録音……と、雪歩の人形……これって……」

春香「ダブルゆきぽ作戦……」

春香「あと……」

春香「」

春香「穴ァ?!」



50:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 19:54:33.32 ID:d2A5cfdLP

春香「……」キョロキョロ

春香「どこにもいませんよぉ!」 (カメラを凝視しながら)

■ -???-

律子「……! 映像切って! 今すぐ!」

スタッフ「い、いいんですか」プッ



[しばらくお待ちください]

冬馬「あれ、映らなくなった……?」

翔太「プロダクションに電話してみようよ!」

■ -???-

プルルルルルルル……!プルルルルル……!

スタッフ「ぜ、全世界からクレームの電話が……」

スタッフ「どうしますか?」

律子「ッッ全エキストラ総動員させて!!! 今すぐ雪歩を探して!!!」



51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 20:05:29.44 ID:d2A5cfdLP

Days 6,312 放送6312回目 深夜 ●REC -事務所前 大通り-

あずさ「ゆーきーほーちゃぁん! どこかしら~!」

真美「ゆきぴょーん! みんな心配してるよ→!」 (手でメガホンを作りながら)

P「ゆきほぉ! お前を大切に思ってるんだ! だから出てきてくれー!」 (大声で叫ぶ)

春香「も、もう練習場も建物の中も、モノレールも見ました! だけどいません!」 (ピンマイクへ叫ぶ)

■ -???-

プルルルルルルル……! プルルルルルル……!

スタッフ「だ、だめです、映像中継をしないと……スポンサーが……映像点けます!」ポチッ

律子「……!」

スタッフ「まずいですよ!」

律子「だけど視聴率は過去最高……」

スタッフ「どうするんですか? もう全て区内は探索しました!」

律子「……」



52:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 20:10:27.25 ID:d2A5cfdLP

律子「まだひとつある」

スタッフ「えっ、どこですか?」

律子「……」

律子「森の中」

スタッフ「そんな、まさか、ありえませんよ」

律子「……」

律子「いいから繋いで」

スタッフ「はい、森林部のカメラを接続」

律子「……」

律子「雪歩、まさか、よね」



54:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 20:19:25.86 ID:d2A5cfdLP

[カメラ接続]

…ブンッ…

Days 6,312 放送6312回目 深夜 ●REC -森林部-

雪歩「はぁ……はぁ……」ガサッガサッ

雪歩「っっ……!」グッ

雪歩「はぁ……はぁ……」ガサッガサッ

靴はいつのまにかなくなってた。
今あるのは真ちゃんのジャージと、未完成のモンタージュ写真だけ。
遅くなってごめんね、今からコレ、返しに行くね。

■ -???-

律子「嘘でしょ……?信じられない……」

■ -某所-

冬馬「おいおい、嘘だろ。だって萩原はトラウマが……」

■ -都内-

真「雪歩……!」



56:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 20:24:32.71 ID:1RmAUVPM0

ゆきまこは正義



57:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 20:25:38.73 ID:fSJ8j3eQ0

あまとうは非処女



58:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 20:28:35.00 ID:d2A5cfdLP

律子「天候プログラム、大雪」

スタッフ「いま、真夏ですよ? いいんですか?」

律子「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ」

律子「それと、森にいる訓練犬に合図」

スタッフ「……そこまでしますか」

律子「決して、噛みつかせないようにね」

スタッフ「……」

律子「大丈夫、きっと諦めて戻ってくる」

Days 6,312 放送6312回目 深夜 ●REC -森林部-

雪歩「えっ……?」

突然、真っ白な雫が無数に振り落ちてきました。
熱がこもった身体を急速に冷ましていく。

雪歩「ど、どうして……?」

ピィィィィィィ!

えっ、今の、笛の音……?



59:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 20:36:13.68 ID:d2A5cfdLP

タッタッタ……。

何かが、雪を掻き分けてこっちへ向かってくる。
あれは……

犬「グルルルル……」

──犬。

雪歩「……い……」

雪歩「ッッ~~~!!!」

犬、犬、犬、犬。
怖い、怖い怖い、雪、寒い。霜焼けで血が滲む。犬。

──逃げ──

雪歩「……」ピタッ

■ -???-

律子「ど、どうして引き返さないの……?」

スタッフ「プロデューサー! いまの映像、世界中から非難されていますよ!」

律子「だけど視聴率は……!」



60:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 20:45:45.50 ID:d2A5cfdLP

犬が、ひたすら私に吠える。犬は、私には悪魔に見える。
怖い怖い怖い、逃げたい。逃げよう、今すぐ引き返そ……。

そう思うと、私の心のどこかで、ダメだよって声がする。
がんばれって声がする。

雪歩「……」

雪歩「……わ、私は……どこだって……」

大丈夫。
震える足で、凍える足で、だけど、ちゃんと自分の足で立ってる。

犬「……」

犬「ウゥゥ……」

雪歩「襲って……こない……?」

……。

■ -???-

律子「……」

律子「天候プログラム、吹雪へ」



62:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 20:53:17.82 ID:d2A5cfdLP

Days 6,312 放送6312回目 深夜 ●REC -森林部-

……ビュォォォォ……

雪歩「はぁ……はぁ……」

前が見えないくらいの吹雪。カチカチと歯が鳴る。
一歩進むたびに、足の指が千切れるくらいの痛みが走る。

雪歩「……」

私、このまま死んじゃうのかな。視界がぼやけてきた。

■ -???-

プルルルル……プルルルル……。

スタッフ「無茶苦茶ですよ! あなたは殺人を全世界に生中継する気ですか!」

律子「……!」



64:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 21:01:12.49 ID:d2A5cfdLP

雪歩「はぁ……はぁ……」

感覚が麻痺してる。感情が麻痺してる。

雪歩「……」ドサッ

膝、崩、落ちた。

雪歩「……」ピクッ

手、動、

■ -???-

プルルルルル……プルルル……!

律子「……!」

スタッフ「律子さぁん!」

律子「……!」

律子「天候プログラムを晴天へ……気温を急いで上げて……」

……

雪歩「……あっ……」

お日様だ……。



66:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 21:12:35.07 ID:d2A5cfdLP

Days 6,312 放送6312回目 深夜(晴天) ●REC -森林部-

雪歩「……」

雪歩「……」

雪歩「……」

ひたすら進んだ先には、壁があった。
空へ向かってなだらかなアーチを描いていて、木の写真が均等にプリントされていた。

雪歩「……」ペタッ

ひんやりした壁に手を触れると、堰を切ったように涙が溢れてきた。
今までの人生の、積もり積もった思いが吹き出てきた。

雪歩「っうっ……!」

雪歩「……っぁああ……!」

ニセモノ、だったんだ。全部。

雪歩「ぅぁっあぁあああああ……!」

プロデューサーも、春香ちゃんも、四条さんも親切な和菓子の店員さんも庭に咲いたお花もラジオも海も怖いお兄さんも私を応援してくれたファンも
言葉も歌も笑い顔も泣き顔も怒った顔も楽しい顔も、心も

雪歩「ぁっ……うああ……あああああ!!」



67:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 21:20:22.20 ID:d2A5cfdLP

雪歩「ひぅぅぁあああ……!」

全部全部全部全部偽物だったんだ作り物だったんだ。

あぁ、そっか。

私も作り物なんだ。

雪歩「……っ……!!!」

涙と一緒に、私の人生が流れ落ちていく。
私という存在が消えていく。

雪歩「…ひくっ…」

目の前に扉があった。小さく「出口」と書かれていた。

雪歩「……っ……」

■ -???-

律子「……雪歩と話をさせて」



68:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 21:30:52.29 ID:d2A5cfdLP

Days 6,312 放送6312回目 深夜(晴天) ●REC -森林部-

ガガ……ガガ……

『……雪歩、聞こえる? 泣きながらでいいから、よく聞いて』

雪歩「……だれ、ですか。どこに、いるんですか」

まだ涙が止まらない、萩原雪歩が消えていく。
底へ向かって、私が気化していく。

『私は秋月律子、あなたを生まれた時からプロデュースしてきた。 24時間、この太陽から見守ってる』

■ -新足立区 上空 太陽スタジオ-

律子「あなたはアイドルという存在を越えたアイドル」

律子「あなたはこの世界でしか生きられない」

律子「あなたが進もうとしている世界はあなたが恐れるものばかり」

律子「危険や、とても辛いことが待っているのよ、それでもいいの?」



69:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 21:39:42.60 ID:d2A5cfdLP

雪歩「……ひぐっ……」

律子『雪歩にとってこの世界が極楽で天国で真実の世界なの。 ……たしかに、ウソや偽善はあるかもしれない』

律子『だけどあなたを脅かすものは全て排除してあげる。あなたの安全は保障されている』

律子『あなたはこれから数十年かけてSランクアイドルになる。 夢も保障されているわ』

律子『もう決められたラストシーンがあるのよ』

律子『あなたの幸福は、ここにある』

律子『だから戻ってきて』

律子『ね?』

雪歩「……」

涙が、1適、2適、絞り尽くすかのように、滲み出てくる。



71:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 21:48:20.57 ID:d2A5cfdLP

律子『……恐れているのね。扉の先を。わかるわ、私はあなたの全てを理解している』

律子『さぁ、帰ってきて、セーブもリセットもある世界へ』

律子『どうして、さっきから雪歩は黙っているの?』

律子『……私は父の……偉業を引き繋つぐ義務が……!』

律子『お願い、帰ってきて! だってあなたのことが心から……』

■ -都内-

真「雪歩、がんばれ」

真「まけるな」

真「大丈夫だよ、ボクがあそこで待ってる」

真「だって、きみのことが心から……」

……。

律子「好きなのよ……!」 (拳を握りながら)

真「好きだから」



75:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 22:04:21.47 ID:d2A5cfdLP

雪歩「……」

涙が止まった。

残ったものは……。

雪歩「真ちゃん、って……今思ったら……」

律子『……』

雪歩「真ちゃんって、もしかして、女の子? ちょっとおかしいなって、思ってたんだよね」

律子『……?』

雪歩「これってホンモノ、ニセモノかな?」

雪歩「……ぷっ……あはは……」

良かった。ちゃんとあったよ。
気づいた。あなたの瞳だけが真実だったんだ。

優しいその瞳が、いつでもいつでも私を導いてくれる。



76:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 22:14:09.57 ID:d2A5cfdLP

雪歩「……」

雪歩「会えない時のために」

雪歩「こんにちは」

雪歩「こんばんは」

雪歩「おやすみ」

雪歩「……」ペコリ

雪歩「じゃあね」

……。

…。

扉を開けて。

最初の一歩を踏み出した。



77:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 22:17:12.93 ID:d2A5cfdLP



                           -end-



79:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 22:21:15.25 ID:d2A5cfdLP

……。

…。

■ 

ワァアアアアアア!!!!

冬馬「大勝利!!大勝利!!!」

翔太「大勝利!!大勝利!!!」

冬馬「……ははっ…いやぁ~……良かったな」 (鼻を啜りながら)

北斗「うん、今回は最高の回だったね」 (ソファにもたれながら)

翔太「あれ……映らなくなっちゃったよ?」

冬馬「マジか、番組が終わっちまったな」

北斗「どうする?」

冬馬「ラブライブ見ようぜ」

──プツンッ──

……。

…。



80:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 22:21:29.65 ID:1bftVbk6O

乙でござった!!!



82:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/08/17(土) 22:25:34.23 ID:pI5nUNiwO

とても良かった
長時間乙



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アイドルマスターSS   コメント:2   このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント一覧
37609. 名前 :  ◆- 投稿日 : 2013/08/19(月) 22:45 ▼このコメントに返信する
トゥルーマン・ショーか
最後の下りいいね
37619. 名前 : 名無し@SS好き◆- 投稿日 : 2013/08/20(火) 04:59 ▼このコメントに返信する
唐突な高速道路は笑った
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