梨穂子「……ごめんなさい、橘くん」

2013-04-21 (日) 21:01  その他二次創作SS アマガミ   0コメント  
1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 00:31:32.44 ID:xS7SmQ3P0

廊下

純一「え?」

梨穂子「………」

純一「ちょ、ちょっと待てよ梨穂子……橘くん…?」

梨穂子「………」

純一「な、なんだよ…前みたいに純一って呼べばいいだろ…?」

梨穂子「その…」

純一「あっ、うん!? なに梨穂子っ? あ、もしかして冗談だった?
   おいおい、それちょっと冗談としてなら笑えないから───」

梨穂子「………」くる…

梨穂子「……ごめんなさい、私ちょっと急いでるので」

すたすた

純一「…え?」


eval.gifアマガミSS+ plus (2)桜井梨穂子 【Blu-ray】





5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 00:39:31.02 ID:226i2Ei+0

梨穂子に抱きついてお腹むにゅむにゅする夢を見た
すごい幸せな気分で起きれた



4:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 00:38:04.24 ID:xS7SmQ3P0

梨穂子「………」

純一「…なんだよそれ」

たっ

純一「──梨穂子!? おいって、どういう意味だよそれ!?」ぐいっ

梨穂子「きゃっ…!」

純一「な、なんでそんな他人行儀なんだよ…!? 僕だよ僕!? 橘純一で…!」

梨穂子「っ…は、離してくださいっ…!」

純一「ッ…!? くださいって……梨穂子!? どうして───」

梨穂子「……っ…」

純一「──そりゃっ…久しぶりに会って、最近は全然喋っても無かったけど…!
   いくらなんでも、そんな態度はないんじゃないか…!?」

梨穂子「……っ」

純一「おいって! なんとか言えってば! 梨穂子!?」

梨穂子「───離してくださいっ!!」ばっ

純一「あっ……」



8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 00:44:06.63 ID:xS7SmQ3P0

梨穂子「はぁっ…はぁっ……」

純一「うっ…えっと……梨穂子…?」

梨穂子「はぁっ……うんくっ…」きっ

純一「っ…」

梨穂子「もうっ……これから…っ」

純一「…え?」

梨穂子「もうこれからっ……私に近づかないでないで…っ!」

純一「なっ……!?」

梨穂子「私はっ……私はっ……」

純一「ど、どうして……そんなこと言うんだよ…? 梨穂子…?」すっ…

梨穂子「こないでっ! もっと叫びますよっ…!!」

純一「っ…」びくっ

梨穂子「はぁっ……はぁっ…私はっ……私はっ…!」

梨穂子「───貴方のことなんて全然知りませんっ!」だっ



10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 00:46:34.94 ID:NHHXiyEd0

梨穂子に「ダイエットしないと絶交する」って言っておいて目の前にシュークリーム置きたい



11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 00:46:53.58 ID:ekhTxGIM0

待て、まだ記憶喪失という可能性も・・・!



12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 00:48:39.36 ID:xS7SmQ3P0

純一「り、梨穂子っ!?」

純一「っ……ちょ、待ってよ!? 梨穂子ってば!?」すたっ…


「…何、アイツ?」

「さっきのって、リホだよね?」

「きも、もしかしてファンとか? かわいそー」


純一「……っ……」すたすた…

純一「………」

純一「………どういうことだよ、知らないって…」

純一「梨穂子…?」

~~~~~~

教室

梅原「お前が悪い」

純一「……どうしてだよ」



14:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 00:53:06.06 ID:xS7SmQ3P0

純一「僕はただ、ひさしぶりに梨穂子に話しかけようとしただけだぞ…?」

梅原「………」

純一「なのに……貴方のことなんて、知りません。だってさ…なんだよ一体…」

梅原「……幾つか言わせてもらっていもいいか、橘」ずいっ

純一「な、なんだよ。急に顔を近づけて…」

梅原「いいから、言わせて貰ってもいいかって」

純一「お、おう…」

梅原「あのよ、お前さんは確かーに……桜井さんの幼馴染かもしれねえ」

純一「…かもじゃなくて、その通りだよ」

梅原「黙って最後まで聞け」

純一「………」

梅原「ことさらに言えば、長年付き合いのある伝統長し立派な幼馴染だ。そうだろう?」

純一「…そうだよ? だから言ってるだろ、あんな梨穂子初めてだって」



18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 00:59:46.63 ID:xS7SmQ3P0

梅原「───そこだぜ、橘。その〝初めて〟って所が重要だっ」

純一「どういう意味だよ」

梅原「じゃあ聞くが、お前さんはだな……」

梅原「……〝アイドルになった桜井梨穂子〟という人間を、知ってるのかって話だよ」

純一「…知るわけ無いだろ、そんなこと」

梅原「んだろーが、でもってさっきお前さんが言った言葉はなんだ?」

純一「あんな梨穂子初めてだってコト?」

梅原「おう、それだ。今回のことはおめーさんの仲とはいえ、はたまた幼馴染っつーところであっても」

梅原「───んなもん関係の無い、全くもって無関係な問題ってことだぜ」

純一「…すまん梅原、もうちょっとわかりやすく言ってくれ」

梅原「……。ワザと遠まわしに言ったんだが、ハッキリ言わせるのか俺に」

純一「ああ…良いんだ、言ってくれ」

梅原「…そうか、じゃあ言うけどよ」

梅原「何時まで幼馴染の仲でいるつもりだ、大将。あっちはもう世間的なアイドルだぜ?」



20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 01:07:38.98 ID:xS7SmQ3P0

純一「それは……」

梅原「いーや、言い訳は聞きたくねえぞ俺は。だからさっきの出来事があったんじゃねえのかよ」

純一「………」

梅原「いくらなんでもお前さんは、あのアイドル桜井リホに対して──」

梅原「───馴れ馴れしくし過ぎなんだよ」

純一「僕は、そんな風にしたつもりは…」

梅原「そうだろうな、確かに橘はんなつもりはなかったかもな」

梅原「…だけどよ、ちょっとは考えろ。あっちはアイドル、こっちはただの幼馴染」

梅原「でっけー壁がありまくりだって思わねえか?」

純一「……だけど、知ってるだろ梅原も」

梅原「ん?」

純一「あの桜井梨穂子だぞ? おっちょこちょいで、食べることが大好きで、誰からでも好かれて」

純一「…それでふわふわとしてて、すぐに歌を歌って、まあるくて、それで……誰よりも優しい奴だって」



22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 01:13:51.05 ID:xS7SmQ3P0

梅原「…まあな、桜井さんは確かにそんなイメージだな」

純一「だろ? なんのに、おかしいよあんな態度は……仮にホントにアイドルだからって、
   高飛車になるようなそんなタマの人間じゃないってことは…」

純一「……誰にだってわかることだよ」

梅原「…んでもよ、それもあれだろ、俺らの勝手なイメージだろ?」

純一「………」

梅原「例え桜井さんがそうだって思ってもよ、あんな遠くまで行っちまったら。
   ただの学生の俺らが全てを分かってやれることなんて、出来るわけがねえ」

梅原「……こう考えろよ、大将」


梅原「──桜井梨穂子は、もう変わってしまったんだってさ」


純一「変わってしまった……」

梅原「ああ、そうだぜ。もう俺らの知ってる桜井さんはここには居ないんだ」

梅原「もう、桜井リホというアイドルしかいねーんだって」



23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 01:19:39.85 ID:xS7SmQ3P0

純一「……桜井リホ、だけ」

梅原「…そうだろ、こんなことよ、桜井さんがアイドルになった時から分かってたことじゃねえか」

梅原「橘自身が言ってたろ? ……アイツは遠い所に行ってしまった。ってさ」

梅原「お前さんは何気なく話しかけたつもりだったかもしれねえけど」

梅原「…そんなことも、もう許されるような関係性じゃなくなっちまったということだ」

純一「……梅原、お前さ」

梅原「なんだよ」

純一「……容赦ないよな」

梅原「ったりめーだよ、はっきり言えって言ったのはお前だろ」

純一「……うん、わかってるよ」

梅原「はぁ……俺だってこんなこと言いたくねえ、本当の所はよ」

梅原「だけど、俺はもっと…そんな大将の顔が見たくねえんだ」

純一「え…?」



25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 01:25:06.41 ID:xS7SmQ3P0

梅原「ひでー顔してるぞ、さっきから」

純一「………」

梅原「まーそういうこった、だからよ。これから先───」

梅原「───なんでか知らねえけど、アイドル活動休業してまで……」

梅原「…この輝日東に帰ってきてる、この三週間まで」

梅原「出来るだけ桜井リホにあわねーように、気を付けるこった」

純一「………」

梅原「……わかったか、わかってるのか大将」

純一「…わかってるよ」

梅原「いいか、絶対に問題を起こすなよ? お前さん、絶対にだぞ?」

純一「わ、わかってるって! ……なんだよ、僕が問題を起こすとでも言うのかよ…」

梅原「ああ、思ってる!」

純一「起こさないよ!」



27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 01:31:07.83 ID:xS7SmQ3P0

梅原「ははっ、わかってるって。いくらなんでもアイドル相手に色々としちまったら───」

梅原「──へたすりゃ捕まるぜ、本当に」

純一「わ、わかってるって! んだよ、僕を信用しろよ…!」

梅原「あいよ、元気も出てきたみてーだし。ほら、そろそろ授業も始まる……ぞ!」ぱしんっ

純一「あいたっ」

すたすた…

純一「…ったく、手加減をしろよ…」

純一「………」

純一(もうアイドルだから──……か)

純一「………そうだよ、な」

純一「確かに、そうだよなぁ……」

純一「………」

~~~~~~~~~~

放課後

純一「梅原ぁ、僕はちょっと職員室に用があるからー」



28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 01:33:37.84 ID:HS4g4rIq0

梨穂子ォォォォォォォォォォォォォォ



29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 01:34:01.95 ID:feL4Yxtz0

梨穂子は素敵なデブです!



31:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 01:38:08.77 ID:xS7SmQ3P0

梅原「おーう、遅くなんのか?」

純一「わからん、だけど先に帰っていいからさー」

梅原「あいよーこってり麻耶ちゃんに絞られてこーい」

純一「まだ怒られるとは決まったわけじゃないからな!?」

職員室・ドア前

純一(───だけど、どんなことで呼び出されたのか全く分かって無い…)

純一(もしかして本当に怒られる為に呼ばれたのかな? でも、課題だって昨日ちゃんと怒られてたし…)

純一(居眠りしてた時も、呼び出されることも無く…テストの点でも呼び出しはまだ猶予がある…)

純一(んっ!? もしかして、ただ単純にイラついてるから僕を呼びだしたとかありえるかも…!?)

純一(橘くん、先生ちょっとストレス気味だから。二時間だけ椅子になってもらえないかしら?)

純一(…とかなんとか言われる可能性も……うむ、アリだなっ!)

がらり

純一「ひっ…!? ち、違います! 高橋先生僕はただ先生の臀部の感触を───……あれ?」



32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 01:43:57.28 ID:xS7SmQ3P0

梨穂子「………」


純一「……りほ、こ…」

梨穂子「………」

純一「………あ」

梨穂子「………」

すっ…

純一「っ……」

梨穂子「……」すたすた…

すたすた…

純一「……なんだよ、無視しなくたって…」

ヴィイイヴィイイイ…

純一(あれ? なんだろこの音……)



33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 01:47:50.06 ID:RyUiRF1h0

ピンクローターの音か



34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 01:50:09.82 ID:xS7SmQ3P0

梨穂子「っ……」ぴた

純一「……?」

ヴィイイヴィイイイ…

純一(この音、梨穂子から聞こえてるのか…?)

梨穂子「……」

梨穂子「……」ごそごそ…

ぴっ

純一「…なんだ、ポケベルか」

梨穂子「………」

純一(……なにやら真剣に見てるな、アイドル関係の内容かな)

純一(もう少し、もう数歩近づけば内容が見れる距離に行けるけど……)

純一(…って、何をやってるんだ僕は! そんな人のプライバシーを侵害するようなっ…)

純一「侵害するようなっ……」すた…すた…ちら…

「───橘くん?」

純一「ひぃいいいいいい!?」



37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 01:56:19.97 ID:xS7SmQ3P0

高橋「きゃあ!? な、なんて声を出すの! びっくりするでしょう!?」

純一「あ、へっ? す、すみませんっ! すみません! ごめんなさい! 本当にすみませんでした!」ぺこぺこ

高橋「そ、そんなに謝られても先生も…困るんだけど…」

純一「ハッ!? そ、そうですよねー! あは、あははは!」

高橋「……? まあいいわ。それよりも、先生の呼び出しのこと。ちゃんと憶えてるの?」

純一「は、はい! 椅子になら何時間でもなりきってみせます!」

高橋「椅子…? よくわからないことを言ってないで、早く職員室に入りなさい」

純一「そ、そうですね……失礼します…」ちらっ

純一(梨穂子は……もう居ないか)

高橋「橘くん!」

純一「はい! 失礼します!」

~~~~

高橋「橘くん、君を呼びだしたのは少し相談があってのことなのよ」

純一「…相談、ですか?」



38:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 02:03:28.99 ID:xS7SmQ3P0

職員室横、生徒指導室。

高橋「そう……先生も出来るだけこのことは内密にしておきたいのだけれど」

純一「は、はあ…」

高橋「──桜井梨穂子さんが、今学校に戻ってきてることは知ってるわよね?」

純一「っ…は、はい」

高橋「アイドル活動とかで……先生はそういうの疎いから分からないけれど、
   学校側も公認で、長い間学校をお休みしてたんだけど」

純一「…そ、そうですね」

高橋「テレビでも新聞でも言われてる通り、彼女は今、三週間の休みを取っている」

高橋「それで学校に戻ってきてるわけだけど……ちょっと、実は問題があって」

純一「問題…?」

高橋「ええ、それが今回貴方を呼びだした理由です」

高橋「……このことは、誰にも公言しちゃだめよ。いい?」



41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 02:09:51.28 ID:xS7SmQ3P0

純一「っ……え、ええ! 誰にも言いません!」

高橋「先生は、例え課題やテストの点数が悪くても。
   そういった約束事は守る橘君だって信用しているから、こんなことを言うのよ?」

純一「だ、大丈夫です! 決して先生の信頼を裏切ることはしません!」びしっ

高橋「………よろしい、じゃあ少し小声で話すわね」こそ…

純一「は、はい…」こそ…

高橋「今回、桜井梨穂子さんがお仕事を休業しているわけ……それは、一般的に
   学生としての身分を全うするため。かつ、義務的なものとして公式では発表されてるの」

純一「し、知ってます…! テレビでも報道されてましたし…!」

高橋「ええ、だけどね。本当の所はちょっと違うの」

純一「な、なんですって!?」

高橋「こ、こら! 大きな声を出さないの!!」

純一「す、すみませんっ…! 思わず…!」

高橋「本当に静かにしてなさい…! これがもし世間にも広がりでもしたら、とんでもないことになるのよ…!?」



44:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 02:18:03.31 ID:xS7SmQ3P0

純一「ごめんなさいっ…!」

高橋「っはぁ~……じゃあ続けるわよ? だけど、どうしてここまで秘密裏にしなければならないのか、
   と君も不思議に思ってくるんじゃないかしら?」

純一「…ええ、さっきからそう思ってます」

高橋「そうでしょう。これは本当に世間に出回ってはダメなこと。
   先生だって彼女から直接、相談があるまで全然知らなかったことよ」

純一「…梨穂子から直接、ですか?」

高橋「そう。だから、このことは誰に行っちゃダメ、私だって君も含めて少数にしかこの事を言ってないのよ」

純一「……言っちゃってるじゃないですか」

高橋「ち、違うわよ?! 先生はっ…彼女の親しい人たちに伝えたんです!
   誰かれ構わず言ってるわけじゃありませんからね!?」

純一「じょ、冗談ですよ…! すみません…!」

高橋「くっ…で、ですからっ! このことは秘密裏にしておくこと! そして、それがどのようなことかというと────」

~~~~

茶道部

純一「…お邪魔します」



45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 02:25:02.34 ID:xS7SmQ3P0

「───ん、なんだい。珍しい奴が来たねえ」

「───黒幕登場」

純一「ええ、お久しぶりです。それと黒幕とか言わないでください」

夕月「ははっ、そう言うなって橘ぁ。なんてったって、これがあたし達だろ?」

愛歌「通常通り」

純一「…確かにその通りですけど」

夕月「そんでもって、今日は見学かい? やっと茶道部に入ろうって気になったワケかー!」

愛歌「風前の灯」

夕月「おいおい、そりゃまだ早いぜ愛歌。まだまだイケるって」

愛歌「……夢の跡」

夕月「厳しい言葉だよ」

純一「あのー……上がっても?」

夕月「おう、あがんなあがんな。愛歌が茶を丁度、入れてる所なんだ」

愛歌「愛がこめられてる………飲んで溺死せよ」



48:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 02:30:59.98 ID:xS7SmQ3P0

夕月「上手いこと言うな、愛に溺れるってか?」

純一「……」ぴしゃっ

愛歌「つっこみ万来」

純一「……」すたすた

夕月「そりゃ無理って話だよ! 人いねーじゃねーか! あたしらだけだぜ? あっはははっはは!」

純一「……」すとん…

愛歌「残念無念」

純一「お茶をください」

夕月「くっく、あんたもあたしらの扱いに慣れ過ぎだよ」

愛歌「常時運転」

純一「…どれだけここに、来てると思ってるんですか」

夕月「そうだね、確かにそうだ。ま、ここの所とんと来てなかったけどな」

純一「……」

夕月「まあ、ゆっくりしていきな。………こっちも話したいこと、沢山あるからよ」



49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 02:37:36.73 ID:xS7SmQ3P0

~~~~~

夕月「───何も隠すことはねえだろ、アレはただの〝病気〟だ」

夕月「ずずっ……ふぅー…誰にだってある問題であって、一般人も掛かっちまう普通の病気だよ」

純一「…そうで、しょうか」

夕月「ん?」

純一「確かに……それは言ってしまえば〝病気〟なんでしょうけど…」

純一「本当に……ありえるんでしょうか…」

夕月「信用しないのかい? あいつが言ったことを」

純一「………」

夕月「あのりほっちが言った言葉を、例えそれが、先生からっつーさ。
   つまんねえ言付けみたいな感じで伝わってきたものだったとしても」

夕月「お前さんは、信用しねえのかい?」

純一「……ですけど、やっぱり…」


純一「───記憶を、失ってるなんて…」



51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 02:46:34.49 ID:xS7SmQ3P0

愛歌「ずずっ…」

純一「常識的に、本当にそうだったとしても信用とか、そういったことじゃもう…」

夕月「……詳しいことはわからねえけどさ、ずずっ」

こと…

夕月「アイツってば、思うに。無理をし過ぎてたんだと思うんだよ」

純一「無理を…?」

夕月「ああ、そうさ。あの子はアイドルって肩書がとんでもなく重たすぎたんだって、あたしゃーそう思う」

純一「………」

夕月「言いかえれば頑張りすぎたんだよ。運が運を呼んで、とんでもない場所まで上り詰めちまったけど、
   はたしてそれがあの子の器量でやりきることが出来るもんだったかと言えば、そうじゃねーんだろうさ」

夕月「今回のことを、考えれば」

純一「………」

夕月「橘も知ってるだろうけど、あの病気は…精神的なものからくる記憶障害……だったか?」

愛歌「ずずっ…通称、心因性記憶障害」



   55:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 03:00:06.32 ID:xS7SmQ3P0

夕月「しん、いん…?」

愛歌「心因性記憶障害───……心因性記憶障害健忘」

愛歌「区分すると4つ、一定期間のことすべてを思い出せない限局性。
   一定期間内のいくつかの事しか思い出せない選択性。
   人生すべてを思い出せない全般性。
   ある特定の時期から現在の事を思い出せない持続性健忘。
   発症年齢は、青年や若い女性に多く見られ、高齢者には稀にアリ。
   心理的・社会的ストレスによって引き起こされると言われる」

夕月「…愛歌はなんでも知ってんな、本当に」

愛歌「調べた」

純一「そ、それで…梨穂子は?」

愛歌「予想すると……選択性の心因性記憶障害」

夕月「とある期間内のことしか、しかも少しだけしか思いだせないって奴か?」

純一「っ……でも、僕のことは全く覚えてなかったですよ…!?」

愛歌「怒るな……だから、予想だと言っている」

純一「ぐっ……すみません…っ」

夕月「まあまあ、橘だって困ってんだ。そんなに冷たくすんな愛歌」



58:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 03:06:58.39 ID:xS7SmQ3P0

愛歌「……すまない」

純一「いえ、僕の方こそ急に熱くなってしまって……」

純一「で、でも! それは決して良くならない病気ではないんですよね!?」

愛歌「…回復は可能、再発も滅多に皆無」

純一「っ……よかった…!」

夕月「じゃあどうやって治すんだ?」

愛歌「調べてない」

夕月「…調べろよ」

愛歌「知らぬ顔の半兵衛」

夕月「…あ? だったら───ああ、そういうことか」

夕月「まあ、いいよ。確かに治る病気ってんなら安心だな、橘」

純一「………」

夕月「ん? 橘? どうしたさっきから俯いて───」

純一「───だったら、治しましょうよ、病気…!」



60:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 03:12:14.99 ID:xS7SmQ3P0

夕月&愛歌「……は?」

純一「治るんですよね…? ちゃんと治るんだったら、どうにかして…!」

純一「僕たちで治しましょうよ! 梨穂子の病気を!」

愛歌「…」

夕月「い、いやっ……治すってお前さん…やりかたわかるのかい?」

純一「いいえ、全くわかりません!」

夕月「おいおい! それじゃあ話になんねーじゃねえか!」

純一「だけど! ただ見てろって言うんですか!? あの梨穂子を!?」

夕月「……そりゃあ、あたしだって見たくはないけど」

純一「でしょう!? だから僕が、そして茶道部のみなさんで梨穂子を治してやるんです!」


純一「──梨穂子の記憶を、僕たちで治してやりましょうよ!」


夕月「…簡単に言うねえ、おいおい」

愛歌「妄想主義者」



61:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 03:17:32.44 ID:xS7SmQ3P0

純一「なんだっていってください! …そうだよ、そう言う手があった…!」

純一「これなら梨穂子とも話せる機会が増える、そしたらきちんとアイツと会話が出来ることも…!」

ぐっ…

純一「先輩! どうですか!? 僕と一緒にやってくれませんか!?」

夕月「やってくれませんかって、こういったことは大人しく見守っておくのが…」

純一「ダメですよ! それじゃあ! だって三週間しかないんですよ!?」

純一「そんな悠長なことを言ってたら、アイツはまたあの世界に…
   しかも治らなければ、記憶が不安定のままに、またずーっと頑張り続けてしまう!」

純一「そしたらもうっ……アイツはっ…梨穂子は! どうなっちゃうか分からないでしょう!?」

夕月「……」

純一「どうにかするしかないんです! このことを知ってるのは…先輩と僕、この三人だけのはずです!」

純一「……お願いします、どうか、梨穂子の為だと思って……」

純一「──僕に協力をしてください、お願いします!」ぐっ



62:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 03:24:39.04 ID:xS7SmQ3P0

夕月「……」

純一「……」ぐぐッ…

夕月「はぁ……あのなぁ、橘───」

愛歌「───その心意気、乗った」

純一「ほ、本当ですかっ!?」

夕月「愛歌…?」

愛歌「乗ってやろう……橘純一」

愛歌「りほっちの治療……茶道部全部員で」

純一「やってくれるんですね!? 夕月先輩!?」

夕月「えっ? あ、お、おう……?」

純一「ありがとうございます! ありがとうございます!」

夕月「い、いや! 違う! そうじゃなくて───」

愛歌「──詳しい内容は後日」

純一「わかりました! 明日ですね!? そ、それなら僕も色々と徹夜で考えてきます…!」



64:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 03:28:28.56 ID:xS7SmQ3P0

愛歌「がんばれ」

純一「頑張ります! じゃ、じゃあこれで! いそいで帰って作戦を練らないと…!」だっ

純一「──お茶ありがとうございました! 失礼しました!」

がらりっ…ぴしゃっ

夕月「………」

愛歌「ずずっ…」

夕月「…おい、説明してくれるんだろうな」

愛歌「………」こと…

夕月「分かってんだろ? つぅうか、愛歌が分かって無いはずがないもんな」

愛歌「………」

夕月「──アイツ……橘だけど。ちょっとオカシイぞ、あれ」

愛歌「そうかもしれない」

夕月「そうかもじゃないだろ、必死すぎるっていうかよ、なんか周りが見えてないように感じる」



65:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 03:34:35.84 ID:xS7SmQ3P0

愛歌「…」

夕月「急に治すとか言いだして、此処に来たときだって、変に思いつめた顔してやがって」

夕月「…今の橘は、ハッキリ言って〝危険〟だと思わねえのかい?」

愛歌「…」

夕月「冗談じゃねえよ、本気で言ってるんだ。あの馬鹿がとんでもねえ事しでかす前に……教えろ愛歌」

夕月「一体ぜんたい、何がしたいんだお前」

愛歌「…長いものには巻かれろ」

夕月「は?」

愛歌「そう言う本心……るっこもわかってるはず」

夕月「……。めんどくせーこと考えるのは苦手なんだよ、あたしゃ」

夕月「ま、とにかく約束しちまったことは守んねーとな」

夕月「はぁ~……どうなるんだろうねぇ、この三週間は」

愛歌「波乱の予感」



66:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 03:41:42.37 ID:xS7SmQ3P0

~~~~

純一「はぁっ…はぁっ…! やってやる! やってやるぞ僕は!」たったった!

純一「家に帰って、色んな事を考えて…! 梨穂子の為に、色んな事を頑張ってやるんだ…!」

純一「僕は…! 大丈夫だ、絶対に梨穂子を治すことが出来るはず…!」

たったったった!

純一「───やってやるぞ! 梨穂子! 待ってろよ!」


次の日

純一「………」

純一(色々と夜なべして考えてきたけど、その内容を茶道部の先輩たちに言う前に…)

純一「…梨穂子に対しても、ちょっと了解を得ないといけないよな」

純一(僕と梨穂子は他のクラス。会えない可能性も格段と上がってしまう……それならどうすればいいか)

わいわい がやがや

純一(登校中の梨穂子を、話しかければいい)

純一(登校ルートはほぼ一緒だから、こうやって道を歩いていればじきに出会うはずだ……)

純一(もうちょっと待てばあいつは来るはず──来た…!)



89:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 08:37:59.69 ID:ZR8dAeu90

梨穂子「………」すたすた…

純一(…梨穂子だ、前方から坂を上ってきてる。俯いて歩いてるようだから、
   まだこちらには気付いてない……よし、近づくまで待ってよう)

純一「…」

梨穂子「……」すたすた…

純一「…」

梨穂子「……」すたすたすた…


純一(今だ!)


純一「りほ──」

伊藤「──やっほ、桜井ー」

梨穂子「っ……」

伊藤「おっはよーさん!」

梨穂子「……───」

梨穂子「──おはよう、香苗ちゃん~」

純一「え……?」



90:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 08:44:59.55 ID:ZR8dAeu90

伊藤「うい、おはようさん~」

梨穂子「えへへ、今日も元気だね香苗ちゃんは」

伊藤「あったりまえ、あたしだは元気が取り柄だからさ」

梨穂子「くすくす」

伊藤「そういう桜井だって、アイドルだからって全然元気じゃん」

梨穂子「え~? だから言ってるでしょ香苗ちゃん、アイドルアイドルって言わないでよって~」

伊藤「言わないでって言われても、あんだけゆうめいになっちゃったらイヤでも思っちゃうでしょうが」

梨穂子「…そうなの? うーん、でもなぁ」

伊藤「あんまそう思ってほしくないなら、あたしも言わないでおくけど?」

梨穂子「……」

梨穂子「…ううん、全然いいよ。だってアイドルってことは本当のことだし…」


梨穂子「──それに、私がなによりも大好きな事だから」


純一「っ……」



91:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 08:50:39.04 ID:ZR8dAeu90

伊藤「お、流石は現役女子高生でありながら人気のKBTアイドル!」

梨穂子「ちょ、ちょっと…! そんなこと大きな声で言わないで…ね?」

伊藤「あはは、んな恥ずかしがらなくてもいいじゃん───って、あれ?」

伊藤「橘くん?」

純一「…あっ……」

伊藤「橘くんじゃん、おはようー」

純一「お、おはよう……」

伊藤「ん? えらく元気ないけど、どかした?」

純一「あ、うん……えっと、その…」

梨穂子「………」

純一「………」

伊藤「…はは~ん、なるほどねぇ。あたしはお邪魔虫って訳ですかぁ」

梨穂子「も、もうっ! 香苗ちゃんっ……?」



93:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 08:55:28.34 ID:ZR8dAeu90

伊藤「はは、いいじゃん。こういったからかいも久しぶりで───」

純一「───香苗さん、ちょっと僕と梨穂子の二人だけにしてもらってもいいかな」

伊藤「…え?」

純一「いいかな、させてもらっても」

伊藤「あ、う、うん……いいけど…どしたの急に?」

純一「…ごめん、詳しくは言えない」

伊藤「………」

純一「………」

伊藤「…わかった、よくわかってないけど」

純一「っ……ありがとう、今度なにかお礼するよ」

伊藤「いいっていいって、それよりも……」すたすた…

伊藤「……あんまり桜井を困らせたことさせたら、怒るよ」ぼそっ

純一「………」

伊藤「んじゃ、桜井ぃ。教室でねー」



94:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 09:01:27.24 ID:ZR8dAeu90

梨穂子「あ、うん! またね~」ふりふり

伊藤「うぃー」すたすた

梨穂子「………」ふりふり…

梨穂子「………」ふり…

すっ…

梨穂子「………」

純一「っ……梨穂子…」

梨穂子「…私に近づかないで」

純一「そ、それは……昨日聞いた」

梨穂子「…じゃあ今日も近づかないで。明日も明後日も、この三週間ずっと」

梨穂子「───私の視界に一切、映らないようにしてください」

純一「ぐッ…どうして、そんなこと言うんだよっ」

梨穂子「………」

純一「僕はっ……知ってるんだぞ、お前の…その〝病気〟のこと…!」

梨穂子「っ…」



96:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 09:11:37.32 ID:ZR8dAeu90

純一「記憶が……ないんだろ?」

梨穂子「………」

純一「憶えていたことが全く憶えて…なくて。
   だから今はアイドルを休業してまで…学校に来てる」

梨穂子「………」

純一「憶えてる部分がどんな所かは知らないけ…だけど、僕に対する対応でなんとなく理解できるよ」

純一「…梨穂子、僕のことを忘れてるんじゃないかって」

梨穂子「………」

純一「だからあんな風に、僕に冷たい対応をしたんだろ?
   今だってそうだよ、こんなの、全然梨穂子らしくない」

純一「…お願いだ、梨穂子。正直に話してくれよ」

梨穂子「………」

純一「辛いのかもしれないけど、言いたくないのかもしれないけど……忘れてしまってるんだろうけど」

純一「僕とお前は、幼馴染なんだ。正直に言ってくれ…」



97:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 09:16:44.19 ID:ZR8dAeu90

梨穂子「………」

梨穂子「………橘くん」

純一「っ…な、なんだ?」

梨穂子「……っはぁ~、あのねちょっといいかな」


梨穂子「──リホは別に、病気でもなんでもないよ?」


純一「えっ…?」

梨穂子「もう一回言ってあげようか? 橘くん、これは病気じゃないんだよ」

梨穂子「一般的に公表されてる通り、ただの休暇期間……ただのオヤスミってだけで」

梨穂子「周りが噂してるような、病気だとか記憶喪失とかじゃなくて───」

梨穂子「──このリホがまねーじゃーさんに我儘を言って休ませてもらってるだけ」

純一「……う、嘘だよ…だって! 高橋先生が…!」

梨穂子「高橋先生? …ふーん、そっか~」

梨穂子「信用しちゃったんだ~? くすくす、橘君って……本当にお豆腐みたいな脳みそなんだね~」



98:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 09:23:56.66 ID:ZR8dAeu90

純一「っ……!」

梨穂子「アレは単に、同情をさせて不登校気味だったものを緩和させる為に言っただけなんだー」

梨穂子「…他の子もやってることだって、まねーじゃーさんに教えてもらったんだよ」

純一「そ、そんなことっ…だって、茶道部の先輩たちも…! それに、僕に対しても…!
   だったらどうして僕のこと橘って呼ぶんだよ!? 記憶が無いとしか理由がないだろ…!?」

梨穂子「あはは、違うよー…もう!」

梨穂子「じゃあ呼んでほしいなら呼んであげるよ、ねえねえ───」

梨穂子「───純一ぃ、おはよう~」

純一「っ……や、やめろ…!」

梨穂子「えー? どうして? だって純一が呼んでって言ったんでしょお?」

梨穂子「だからわざわざ呼んであげたのにぃ…ひどいよ、そういうのって」

純一「ち、違う…! そんなの、梨穂子じゃ…!」

梨穂子「…何が違うっていうの? あはは、だってみてたでしょ?」

梨穂子「香苗ちゃんだってリホのこと、まったく心配してる風じゃ無かったよね?」

梨穂子「昨日、クラスで一日中過ごしたのに。まったくリホのこと気にかけてる様子はなかったよね?」



100:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 09:30:28.71 ID:ZR8dAeu90

梨穂子「記憶喪失だとか、お仕事がきつくて休んだとか……そういったことは全部、嘘」

梨穂子「リホはリホで、三週間の学校生活を楽しみたいってだけで、別にそんな大した理由があるわけじゃないんだよ」

梨穂子「……桜井梨穂子は、ただのお仕事のずる休み中。なんだよ?」

純一「ち、違う!」

梨穂子「違わないよ、本当のことだから」

純一「っ…じゃあ、どうして僕にそんな態度なんだよ!? 梨穂子、そんなお前らしくないだろ…!?」

梨穂子「…さっきからその〝らしくない〟って、何なのかな」

純一「だってそうじゃないかっ! そんなっ…そんなっ…人を小馬鹿にしたような喋り方っ…梨穂子らしく───」

梨穂子「──らしくない、とか言わないでよ」

純一「っ……」

梨穂子「じゃあ言ってあげる、純一。あのね、わかってないようだから言ってあげるけど」

梨穂子「……これが今の〝私〟なんだよ。これがアイドルの桜井リホなんだよ」

梨穂子「いつまで自分が知ってる幼馴染の〝桜井梨穂子〟だって思ってるの?」

梨穂子「…やめてよ、もうそんな私なんて居ないんだから」



101:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 09:38:34.66 ID:ZR8dAeu90

純一「い、いないって……」

梨穂子「あの時、廊下で会った時……リホは貴方のこと知りませんって、言ったよね」

梨穂子「あれは記憶喪失とかじゃなくて、精神的にとかじゃなくて」

梨穂子「…貴方を拒絶する為に、そう思わせる様に言ったんだよ」

純一「拒絶…っ…」

梨穂子「でも、安心したよね? 別に病気じゃなくて、記憶障害じゃなくて。
    大丈夫だよ、平気平気~♪ リホはちゃーんと純一のことを憶えてるから」


梨穂子「───だけど、リホにはもう近づかないで。橘くん」


純一「っ…」

梨穂子「リホはそう望んでるんだよ、そう心から願ってるから」

梨穂子「……そういうことで、じゃあね橘くん」すたすた

純一「……────」

純一「──待てよ!! 待てって梨穂子!!」がっ

梨穂子「………」



104:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 09:44:19.16 ID:ZR8dAeu90

純一「そんなことっ…僕が信用すると思ってるのか!?
   お前は絶対にそんな事言う奴じゃない! 僕はそれを知ってる!!」

梨穂子「………」

純一「な、なにか訳があるんだろ!? 記憶が無いってことが嘘ならっ…また別の理由が!
   そうじゃなきゃお前が僕に対して、そんな冷たくなる理由がわからないだろうが!?」

梨穂子「………」

純一「そうやって黙ってちゃなにもわからないだろ!? 教えろよ! どうした梨穂子!?」ぐいっ

梨穂子「………───」すっ


ぱあああんっ…


純一「──え……」

梨穂子「………」

純一「今……え……叩かれ……」

梨穂子「…次、もう一回腕掴んだら警察呼ぶから」

純一「っ……」

梨穂子「そうなると橘くん、犯罪者になるよ? この意味、わかってるよね」



105:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 09:50:22.93 ID:ZR8dAeu90

純一「りほ、こ……?」

梨穂子「…気安く下の名前で呼ばないでくれるかな、今の私は桜井リホだから」

梨穂子「桜井梨穂子はもう……貴方の中にいる幼馴染の桜井梨穂子はもう」

梨穂子「───何処にも居ないんだよ……」すっ…

すたすた…

純一「………」

純一「………梨穂子…」

純一「………そんなこと…」

純一「ぐっ……だめだ、ちゃんと理由を聞かなくちゃ…!」

純一「梨穂子!」だっ

だだだだだっ…

純一「梨穂子! ダメだ! 僕はちゃんとお前の口から───」

「よし、今だ!」

純一「──えっ……うわぁああ!?」

どしゃあああっ



106:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 09:56:08.34 ID:ZR8dAeu90

「抑え込んだぞ! 三番隊、かかれー!」

「うぉおおおお!!」

純一「な、なんだ…!? え、待ってそんなに圧し掛かれたら…!」

どしゃ!

純一「うっぐっ…!?」

「すみません、リホちゃん! 後は我々【桜井リホお守り隊】にお任せください!」

梨穂子「……遅いよ、昨日あれだけちゃんと言ったのに」

「はっ! ですがまさか登校中のリホちゃんを襲うとは…我々も不覚です、警備の強化を実施させます!」

梨穂子「うん、お願いだよ?」

「は、はいいいいい! 四番隊ぃ! 犯罪者の尋問にかかれぇ!」

「はっ!」

純一「息がっ……痛いっ…あれ、なんだよ…!? 何処に連れて行くつもりだ…!?」

梨穂子「あんまりひどいことはしちゃダメだよ? 警察沙汰になったら、私だって何もできないから」



107:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 09:59:25.82 ID:ZR8dAeu90

「わかっております! ただの尋問です!」

梨穂子「…そっか、みんな良い子だって知ってるから。リホも安心だよ~」

「ええ! では安心して登校されてください! 五番隊を護衛につけます!」

梨穂子「うん、ありがと~」

純一「っ…梨穂子…! 梨穂子ー!」ずりずり…

「こら、暴れるなっ…!」

純一「梨穂子っ……これはどういうことだよ!? なにがお前をそんなにっ…!」

梨穂子「……」

純一「教えてくれよっ…!? どうして教えてくれないんだ!? 僕はっ…僕はっ…!」

梨穂子「……」くる

すたすた…

純一「梨穂子っ……!」

~~~~~

校舎裏

純一「うっ……」



111:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 10:22:27.46 ID:ZR8dAeu90

純一「けほっ…ごほっ……」

純一「はぁっ…くそ、沢山蹴りやがって…」

純一「っ…いたた……何だよ、僕がなにをしたって言うんだよ…!」

純一「…はぁ…」ごろり…

純一「…………」

純一「……何だって言うんだよ…」


「───おい、立てるかそこの犯罪者さんよぉ」


純一「っ……立てません、太もも思いっきり蹴られてるので」

夕月「だろうねぇ、三人に寄ってたかって蹴られまくってたもんな」

純一「…見てたんですか」

夕月「まあな。それにしちゃー案外、平気そうだね、どれ見てやるよ…」すっ

純一「………」

夕月「おうおう、頬がちょっと擦り?けてやがんな」

純一「…大丈夫ですよ、これぐらい」



112:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 10:26:50.04 ID:ZR8dAeu90

夕月「そうかい、男だもんな。我慢しなきゃいけねーな」

純一「……」むくっ…

夕月「ん、もうちっと寝とけばいいじゃねえか」

純一「…いいんです、もう大丈夫ですから」

夕月「いいから、もうちっと寝とけって」ぐっ

純一「は、はい? だ、だからもう平気だって──」

夕月「──寝とけっていってるだろーがッ!」ボスッ!

純一「うごぉっ…!?」ぱたり

夕月「よしよし、いいこだ。素直は良い奴の証拠だぜ」

純一「ねっ…寝かせたの間違いっ…でしょっ…!?」ぷるぷる

夕月「んまー固いこと言うなって。どうだい、あいつ等の蹴りより効いたろ? くっく」

純一「え、ええっ……今が一番、重体ですっ…!」



113:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 10:32:12.66 ID:ZR8dAeu90

夕月「わかってくれとは言わねえよ、だけどさ」

夕月「…あんたはりほっちにやりすぎた、だからあたしからも一つ制裁ってな」

純一「………」

夕月「そこで大人しく寝ときながら、あたしの話しもついでとばかし、聞いておくれ」

純一「……なんですか、一体…」

夕月「あたしも手伝ってやるよ、りほっちを治すってやつをさ」

純一「っ……先輩、それは…!」

夕月「遠くからだったけどよ、話の内容は想像できたぜ。…んな病気はないって言われたんだろ?」

純一「…はい、だから治すも何も…」

夕月「…信用するのかい? あの子が言った言葉を?」

純一「え…? いや、夕月先輩……昨日言ってることと違うじゃないですか…っ?」

夕月「へ? あたしゃ、なんか言ったかい?」

純一「いいましたよ…! あいつのこと、梨穂子の言ってる事を信用しないのかって…!」



114:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 10:37:12.67 ID:ZR8dAeu90

夕月「……。あー! 言ったな! そう言えば言ってたわ!」

純一(この人こそ記憶障害なんじゃないのか…)

夕月「…ま、でも。それは違うんじゃねえの?」

純一「…違う?」

夕月「おうよ、ありゃ桜井梨穂子のことを信用しろって言ったわけでさ」

夕月「───別に桜井リホまでを信用しろ、とまでは言ってねえよあたしも」

純一「なにが違うっていうんですか…どっちも同じ、桜井でしょう」

夕月「いーや、違うね。天と地の差があるよ」

純一「………」

夕月「確かにあんたにとっちゃ、同じことなのかも知れねえけどさ。
   だけど落ちついて考え直してみるんだよ、お前さんならちゃーんとわかるはずだ」

純一「…そんなの、梨穂子がなにも言ってくれない限り…」

夕月「なにいってんだい、あんたはりほっちにとって……唯一の幼馴染じゃないのかい?」

純一「……」



115:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 10:44:36.30 ID:ZR8dAeu90

夕月「そんなすげー立ち位置を持ってやがんのに、んな冷たいこと言っていいのかよ」

純一「…じゃあ、どうすればいいんですか…! 僕だって、アイツのことを信用したいですよ!?」

純一「だけど、アイツが…梨穂子が! あんな態度をし続けるなら、もう幼馴染だからって何も出来るとはっ…!」

夕月「んだから言ってんだろ、信用しろって」

純一「っ…なんですか、信用しろって! 意味が分からないですよ!」

夕月「そのまんまの意味だよ、あの子をいつまでも信用するんだ。
   どんなに冷たい事を言われても、どんなに暴言を吐かれて拒絶されたとしても、だ」

夕月「お前さんはそれを耐え抜いて、耐え抜いて、ずっとずっとりほっちのことを信用し続けるんだぜ」

純一「そんなっ……こと、僕には…っ…」

夕月「──いいや、出来る」

純一「っ……」

夕月「あるだろ、その耐え抜く覚悟……その原動力が」

夕月「あえてあたしも、何も言わねえでおくけど。
   あんたには……あるはずだ、りほっちにたいしての〝頑張らなきゃいけない理由〟がよ」



116:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 10:50:11.38 ID:ZR8dAeu90

純一「……っ…」

夕月「だからこそ、昨日のお前さんの異常な……いいや、これはいいか」すっ…

夕月「とにかく、その心の中にある抱えたモンを……そう簡単に諦めるなってこった」

純一「………」

夕月「信じ続けろ。りほっちを、それがお前さんが出来る、今現状での最高の〝治療〟だ」

純一「…信じ続けろ…」

夕月「おうよ、それからはじめて行けばいい……そしたら、あたし達も手伝ってやんよ」

夕月「ま。頑張りな、応援してっからさ……んじゃhrに遅刻しないようにな~」

すたすた…

純一「…………」

純一「どういうことだよ……信じ続けろって…」むく…

純一「勝手すぎるよっ…誰もかもっ…わかったように言いやがって…ッ」

純一「……僕は、アイツの幼馴染…」

純一「分かってやれるのは、僕だけ──………」



117:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 10:53:36.97 ID:ZR8dAeu90

放課後

純一「………」

純一「………はぁ」

梅原「おうおう、どうした大将。浮かない顔してよお」

純一「…ん、梅原」

梅原「今日一日、全くもって元気ねえじゃねえか。どうした?」

純一「…なんでもない」

梅原「……、そうかい。お前さんがそういうのなら、俺も何も言わねえよ」

純一「………」

梅原「………」

梅原「っはぁー、俺もお人よしだなホンット…」

純一「? なんだよ、どうした急に」

梅原「ほらよ」

ぽすっ

純一「…これは? メモ帳?」



118:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 10:59:05.19 ID:ZR8dAeu90

梅原「中に色々と書かれてる。読んでみろ」

純一「う、うん……なんだこれ、なにかの予定表?」

梅原「おう…『桜井リホ守り隊』の計画スケジュールだぜ」

純一「……。なにっ!? こ、これを何処で手に入れたんだ梅原ぁ!?」

梅原「しぃー! 声がでかいぞ橘ぁ!?」

純一「す、すまん……!」

梅原「はぁ…誰にもバレてないようだな、いいか? これがもしバレたら俺もただじゃ済まされないんだからなっ?」

純一「お、おう……だけどこんな凄いもの、何処で手に入れたんだ?」

梅原「『桜井リホ守り隊』のメンバーの中に……実はユウジが居るんだよ」

純一「…なにやってるの、アイツ」

梅原「ファンだからな」

純一「知らなかった…」

梅原「まあ色々と交渉をしてみたらよ、なんとかスケジュール表を映してもらえることに成功した」



121:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 11:06:12.03 ID:ZR8dAeu90

純一「交渉って…凄いな梅原」

梅原「だろ? 頑張ったぜ、アイツの好みのお宝本を揃えて…それからどれだけ価値があるか散々語りまくってさ───」

純一「ふむふむ、今日一日はずっと護衛か…」

梅原「……おい、聞いてんのか大将」

純一「うんー、聞いてるよー」

梅原「……」ぱしっ

純一「あー! なんだよ、どうして奪うんだよ!」

梅原「…お前の態度次第によっちゃ、これを譲渡させてもいいぜ」

純一「え……本当に?」

梅原「おう、態度次第だがな」

純一「…お宝本か?」

梅原「ああ、そうだ。……と、今回は言ってやりたい所だが違う」

純一「え…? 違うのか?」

梅原「そうだぜ、今回はとあるお願いをかなえてもらおうか……それはユウジの頼みでもあり、
   あの『桜井リホ守り隊』の悲願でもある」



124:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 11:14:31.95 ID:ZR8dAeu90

梅原「どうか、桜井梨リホの……笑顔を取り戻してくれってさ」

純一「……笑顔?」

帰宅路

純一「ふむ、明日は街にお出かけか」

純一(色々と読んでみると、三週間の予定がみっちり書いてある…つまりそれは、
   逆に言えば梨穂子自身のこれからの予定ってなるわけだ、流石に確執にそうだとは言い切れないけど)

純一「はぁ…」ぱたり

純一「いやはや、梅原には悪い事をしたな……後で個別にお宝本を貸してあげよう」

純一「…だけどどういう意味だろ、笑顔って…」

~~~~

梅原「あいつ等が言うには、どうも桜井リホは……何時も通りでは無いらしいぜ」

純一「……そうなのか」

梅原「ああ、よくわからねえけど、俺たちの大好きな桜井リホの笑顔はもっと輝いてるぅ! …らしい」

純一「………」

梅原「俺は詳しくねえから語れねえけど、ユウジも心配そうにしてたんだよ」

梅原「…だからこそ、あの『桜井リホ守り隊』も熱が入っちまってるみてーだな」



125:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 11:20:35.90 ID:ZR8dAeu90

梅原「今日だけで……ひぃ、ふぅ、みぃ、五件ぐらいあの過激な防衛に弾かれてるらしいぜ?」

純一(それは僕も含まれてるんだろうか…)

梅原「流石にひでーって、先生らも色々動いてるみてえだが…実際はどうなるか分からん」

純一「まあな、生徒が自主的にやってる事だし…まだ大した問題になって無いんだろ?」

梅原「……それも時間の問題かもしれねえ」

純一「え?」

梅原「ユウジが言うにはどうも……〝過激派〟と〝穏便派〟に隊が分かれつつあるらしい」

純一「過激派に…穏便派?」

梅原「ああ、アイドルファンに多い傾向らしいけどよ…そういった思想に違いが出てきてるらしいぜ」

純一「ユウジは?」

梅原「穏便派だ、安心しろ」

純一「…そっか、良かった」

梅原「今回のお願いも、実は穏便派からのことだったりするんだよ」

梅原「…あいつ等は願ってる、本当の桜井リホの笑顔を見ることを」



126:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 11:25:47.16 ID:ZR8dAeu90

純一「本当の、笑顔……」

梅原「だけど、それは俺らには無理だって。ここ数日で色々と…判断したらしい」

梅原「──そこでお前の出番だ、大将」

純一「ぼ、僕?」

梅原「そうだ、ユウジ共々…そして穏便派はお前に全てを託すと言っていた」

梅原「大将、これはお前にしかできない事だ。わかるよな?」

純一「え、でも…お前、梨穂子にもう関わるな的なこと言ってなかったか?」

梅原「………忘れた!」

純一「ええっ!」

梅原「い、いいんだよ! 忘れろ! …とにかく、お前は託されたんだ」

梅原「その手帳を使って、上手く立ち回ってどうにか桜井さんに……」

梅原「……満点の笑顔を、咲かせてやってくれ!」

~~~~

純一「……とにかく、やれるよことはやってみよう」



127:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 11:31:40.68 ID:ZR8dAeu90

純一「手帳まで貰って、それにファンからも頼まれた……」

純一「…そして、夕月先輩たちも」

純一「僕は……やらなくちゃ、いけないんだよな」

ぐっ…

純一「…あの梨穂子を、どうにかしないといけないと」

純一「だってそれは、僕自身も──強く望んでる事の、はずだから」

純一「………忘れるな、橘純一」

純一「──その思い、アイツがアイドルになってから決めた〝心の覚悟〟は…」

純一「絶対に蔑にしちゃいけない、大事なことだってことを」

純一「…………」

純一「っはぁ~……よし、やれるぞ僕になら!」

純一「まずは、家に帰ってどうするか考えよう! 作戦会議だ!」だっ

「──や、やめてくれよっ…! うあぁああああ!」

純一「! な、なんだ…? どっからか叫び声が…?」



129:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 11:36:20.02 ID:ZR8dAeu90

公園

「──どういうことだ、どうしてそんなことをした!」

ユウジ「ち、違うって! 別に俺は…!」

「言い訳をつくな! おい、お前らも何か言え!」


「…っ…俺たちは別に…」

「なにもしてないよ…」

「な、なあ? 隊長、アンタの勘違いだって…」


「嘘をつくんじゃない! 正直に言え! お前らは我々の機密事項を横流ししただろう!」

ユウジ「だ、だから! 俺らはそんなことしてないって!」


純一「……あれは…」こそっ

純一(ユウジ…? それに今朝に見かけた人が何人かいるな……何をやってるんだ?)



130:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 11:40:20.36 ID:ZR8dAeu90

「まだ言うかっ……おい、お前ら。少し痛めつけてやれ」

「はっ!」

ユウジ「えっ…? いや、待ってくれよ! そりゃやりすぎだろ!?」

「やりすぎじゃない、これは制裁だ。隊を乱す者を粛正するだけだ」

ユウジ「粛正って……ぐっ、離せよ! おい!」

「やれ」

ユウジ「うぐっ…かはぁっ」

「どうだ、吐く気になったか」

ユウジ「はぁっ…ふざけるなよ! やりすぎだアンタ!
    馬鹿げてる! 本当に隊長になったつもりかよ!? 俺らは只の学生だぞ!?」

「……やれ」

ユウジ「ぐふっ……お前らやめろよ! なにがそこまでお前ら動かすんだよ!?」

「じゃあ聞くが、お前はどうして隊に入った」



133:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 11:44:24.64 ID:uSziC/mn0

ユウジ「はぁっ?! それは、桜井リホの為に…!?」

「じゃあどうして隊の乱れを起こす、正直に話せ」

ユウジ「ッ……ああ、そうだよ! 俺がやったさ! 俺が情報を漏らしたよ!」

ユウジ「だからどうした! 俺は…俺はもうアンタらみたいな中二病みたいなことはできねえんだよ!」

ユウジ「守ってる気になって、やりたいことやりまくってるけどよ!?
    それは本当に桜井リホの為になってるのかよ!? 絶対に違うだろ!?」

「………」

ユウジ「アンタらがやってることは、ただの自己満足だ! 
    普段の日常ではやれなかったことを、今やれてる現状に浮かれちまってるだけだ!!」

「……お前らも、そのような思想を持ってるのか」


「えっ……」

「いやー…えっと…あはは」

「………」

ユウジ「っ……あいつ等は関係ねえよ! 俺が一人でやった事だ!」



134:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 11:49:49.50 ID:uSziC/mn0

「そうか、では制裁を続ける」

「い、いやっ…もうその辺にしておいたら…」

「口答えをすれば、お前も制裁だ」

「っ……」

隊長「……では、続けるぞ」

ユウジ「うぐっ……ああ、殴ればいい! 殴り続ければいい!
    そうやって拳を振るって、その殴った感触を覚えておけ!」

ユウジ「そして一生その感触を忘れずに、この先を生き続けろ!」

ユウジ「なにもかもっ…全部が終わった時っ…うぐっ…!」

ユウジ「アイツが……アイツが全部終わらせた時! 後悔するのはテメーらだからなっ!!」

隊長「やれ」

ユウジ「ッ……橘ぁっ───」



「───ああ、任せろユウジ!!!!」



隊長「っ…!? だ、誰だ!?」



136:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 11:56:03.23 ID:uSziC/mn0

びゅうううう~……バタバタバタ……


「──お前が言ったその言葉、僕はしかと心に受け止めたっ!」トン!


「──大丈夫、平気だ、やってやる。お前がやってくれたことは絶対に無駄じゃない!」


「──あの桜井梨穂子の……幼馴染である、この僕が!」


純一「橘純一が、お前の願いッ……叶えてやるよ!!」

ユウジ「たち、ばなぁ……っ!」

純一「…大丈夫か、具合は悪くないか?」

ユウジ「ぐすっ……へへっ、馬鹿言うんじゃねえよ。だってそうだろ?」

純一「…ああ、そうだな」

ユウジ「俺らはいつだって、本当に大切なものを失くした時…」

純一「…本当の辛さはそこにある」


純一&ユウジ「お宝本が、ある限り! 男は泣かない!」



137:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 11:58:36.08 ID:hH9KPp5q0

普通に暴行事件じゃんwww



138: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/10/07(日) 11:59:28.74 ID:Q4FdHg3u0

ユウジかっけーな



139:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 12:02:09.19 ID:uSziC/mn0

隊長「…何だお前は、ハッ! 今朝のストーカーか…?」

純一「…ユウジを離せ」

隊長「おやおや、手出しをされては困る。
   これは此方側の問題、更に言えば……お前も」

隊員「……」ぞろっ…

隊長「──粛正対象なんだぞ?」

純一「……ハッ、だからどうしたんだよ」

隊長「なにっ…!」

純一「ううん、ただ単に…人数で勝って良い気になってるだけの奴らだなって」

純一「…そう思ってるだけだよ?」

隊長「なっ…」

純一「………」ぷるぷる…

ユウジ(橘っ…本当はビビってるくせにっ…くそ!)

純一「…あのさ、考えてみてよ。これって普通に考えたら傷害事件だよ?」

隊長「……」



141:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 12:06:31.63 ID:uSziC/mn0

純一「君たちがやってることは、世間でいえば犯罪。集団暴力での事件だ」

純一「今すぐに僕が近所の家に飛び込んで、警察を呼べば……どうなるか分かってるよね?」

隊長「………」

純一「…それに、その人たちだってそうだろう?」

純一「───彼らがこれから、君たちのことを通報しないと言う道理もない」

純一「周りが見えなさ過ぎてるよ、君たちは絶対じゃないんだ」

純一「…それはただの、アンタのわがままでしかないと思う」

隊長「………」

純一「…離してよ、そいつは僕の友達なんだ」

隊員「っ……」ぱっ

ユウジ「くっ……」どさっ

純一「ユウジっ! …だ、大丈夫か…?」

ユウジ「大丈夫だ…それよりも…」

純一「う、うん」



142:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 12:11:55.59 ID:uSziC/mn0

隊長「…行くぞ、我々は護衛に入らなければならない」

純一「っ…待てよ! その前にすることがあるだろう!?」

隊長「……我々は桜井リホを守るために結成された守り隊」

隊長「その思想を邪魔する者は、排除するのみ。精鋭者で隊を再構成させる」

隊長「…お前らはクビだ」

純一「っ…なに言ってるんだよ! そういうことじゃない! ちゃんとユウジに謝罪を──」

隊長「──そんなものは、しない!」

純一「なっ…」

隊長「我々は神聖なる番人だ……誰に屈する事もない」

純一「馬鹿げてるよ…!?」

ユウジ「……っ…」

隊長「………」

すたすた……



143:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 12:14:36.50 ID:uSziC/mn0

純一「おいって…!?」

ユウジ「…いいんだ、橘…」ぐいっ

純一「で、でも…! これはあんまりだよ!」

ユウジ「いいんだよっ……これで、これでいいんだ…」

純一「ユウジっ…?」

ユウジ「…ちょっと、制服の中に手を入れてもらってもいいか…?
    中に入ってる奴を、取ってもらいたいんだ…」

純一「制服の中…? 腹の方?」

ユウジ「おう…」

純一「えーっと……あ、これか」ごそっ

純一「あ、これって…!」

ユウジ「ああ、お宝本だ……ふふ、あいつ等の拳。全然効いてないぜ俺にはよ!」

純一「ユウジ……」



144:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 12:17:24.57 ID:uSziC/mn0

純一「ばか野郎……腹以外にも殴られてたろお前…っ」

ユウジ「…はっ、なんのことだよ」


「ユウジっ…!」

「す、すまん俺たち…!」

「ごめんなっ! なんもできなくて…!」


純一「この人たちは…?」

ユウジ「梅原から聞いてないか? …俺と一緒の穏便派の奴らだ」

純一「なるほど…」

ユウジ「いいんだよお前ら…俺がヘマをしたせいだ、俺の責任だ」

「だけど、俺たち…」

「俺だってアイツに言ってやりたかった…!」

「…ごめん、本当にごめん」

ユウジ「…いいってば、俺だってわかってるよちゃんと」



146:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 12:20:26.41 ID:uSziC/mn0

純一「………」

ユウジ「…というわけで、橘。俺らはもうあの隊員ではないからな」

純一「お、おう…」

ユウジ「色々と、迷惑かけたな。すまん…」

純一「い、いやっ…いいよ、僕の方こそ手帳の件…ありがとう」

ユウジ「それは…おう、俺らの頼みの綱はお前なんだ」

ユウジ「俺ら全員、お前に託したんだぜ」

純一「っ……」

ユウジ「どうかお願いだ──あの過激派にも負けず、桜井リホの笑顔を…」

ユウジ「…取り戻してくれ、橘」

純一「……出来ることはやるつもり…」

ユウジ「情けないこと言うなよ!」

純一「うっ…わ、わかった! やってやるよ! ぜ、絶対に!」



148:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 12:24:49.41 ID:uSziC/mn0

ユウジ「……おう、それをきいて安心したぜ。なぁみんな!」

「頼むよ…笑顔をまた、あの笑顔見せてくれ!」

「橘! お前にならできるんだろ!?」

「…俺らの為にも、お願いだ」

純一「……」

純一「…うん! 僕に任せろ!」

~~~~

自宅

純一「………」prrrrr

純一「………」prrrrr

がちゃっ

純一「…もしもし」

『……───』

純一「待て、切ろうとするな……梨穂子」

『………』



152:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 12:34:56.01 ID:uSziC/mn0

純一「…梨穂子」

『………』

純一「どうして僕が今日、電話をしたか分かるか」

『………』

純一「……。分からないのなら言ってやる、今日お前を守ってる…守り隊だったか」

純一「そのメンバーが、隊長の命令とやらで暴行されていたぞ」

『………』

純一「この意味、理解できるよな? 暴力をふるわれていたんだ、人がだ」

純一「拳を握って、相手の身体を殴るんだ。わかるよな?」

『………』

純一「…いいか、言うぞ梨穂子、あの守り隊とやらを解散させろ」

純一「このままじゃ悪い方向にしか進まない。だけど、まだ間に合う」

純一「梨穂子が一言、もうやめてと。そう言えばあいつ等も辞めるはずだ」



153:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 12:40:26.67 ID:uSziC/mn0

『………』

純一「どんなに頑固者だったとしても、絶対に説き伏せるんだ」

『………』

純一「…お願いだ、梨穂子。どうして返事をしてくれないんだよ」

純一「お前は許せるのかよ、自分の周りで暴力が行われてる事を……」

純一「…僕は、そんなことを見過ごすような奴じゃないって…お前のことをそう思ってる」

純一「梨穂子……お願いだから声を聞かせてくれ、頼むよ…」

『……橘くん』

純一「っ…な、なんだ梨穂子!」

『リホはもう、無理だよ。止められない』

純一「ど、どうしてそんなこというんだよっ…! だってそうしなきゃお前の評判だって…!」

『…違うよ、どうせ変わらない』

純一「変わらないって…」

『橘くんはアレが非常識なものだって思ってるかもしれないけど…実際はそうじゃない』



154:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 12:44:41.55 ID:uSziC/mn0

『あるんだよ、いっぱい。ああいったとは……ううん、あれ以上の事がもっとある』

純一「あれ以上…?」

『うん、だから……リホが何を言っても彼らは止まってくれないと思う。
 ああいった隊が出来ることがすでに……もう手遅れなんだよ』

純一「そんなっ…それじゃあ、これから起こることを見過ごすのかお前は!?」

『…そうだよ』

純一「そんなことっ! そんなことっ…言うなよ! お前なら! 梨穂子ならどうにかできるだろ…!?」

『…できないよ』

純一「っ…どうして!」

『………』

『…どうして、だろうね。わかんないや……あはは』

純一「っ…梨穂子…?」

『……切るね、橘くん』

純一「ま、待て! まだ話は──」

ぷつん



155:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 12:48:46.93 ID:uSziC/mn0

純一「梨穂子っ! 梨穂子っ…!? くそっ」

純一「……ダメだ、つながらない。電話線を抜かれたのか…?」

純一「なんだよっ…無理ってッ!」

ガチャンッ!

純一「はぁっ…はぁっ……」

純一「くそっ…!」


美也「…にぃに…?」こそっ

純一「あ、すまん美也……驚かせた…ごめん」

美也「う、うん……電話はゆっくり置かないとだめだよ? 居間にまで聞こえてたし…」

純一「…ごめん」

美也「えっと、そのっ……冷凍してるまんま肉まんあげよっか? おいしいよ?」

純一「いや……いいよ、ありがとう…僕はもう部屋に戻るから…」すたすた…

美也「えっ! あ、にぃに……」



156:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 12:50:07.42 ID:3SYO7pK90

みゃーがまんま肉まんあげるとかよっぽど



160:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 12:52:13.78 ID:IP9SMUdrO

みゃーは橘さんが落ち込んでたらチャーハン作ってくれる優しい子
http://www.amazon.co.jp/dp/B009ZQQNEC/



161:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 12:53:50.99 ID:uSziC/mn0

部屋

純一「………」よろ…

ぼすっ

純一「……なんだよ、どうしてそんなこと言うんだよ…梨穂子…」

純一「わかんないとか、いうなよ…」

純一「できないとか、どうして言えるんだよそんなこと……」

純一「梨穂子……馬鹿野郎…っ」

~~~~~

部屋

梨穂子「…………」

梨穂子「…………」

梨穂子「……あ、電気つけ忘れてた…」

かち…かちかち

梨穂子「…………まぶしい」

梨穂子「…………」



162:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 12:57:39.11 ID:uSziC/mn0

梨穂子「……」すとん…

梨穂子「……怒ってたなぁ」

梨穂子「当たり前だよね……あれだけ酷い事を、言っちゃったんだもん」

梨穂子「……誰だって怒るよ」

梨穂子「……」ぱたり…

梨穂子「橘くん……か」

梨穂子「……」

梨穂子「……なんだか、口がモゴモゴする言い方になるなぁ」

梨穂子「……言いなれて、ないんだろうなきっと」

梨穂子「純一……」

梨穂子「……ああ、やっぱり」

梨穂子「こっちの方が、私の口は言いなれてる……みたい」



163:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 13:02:18.67 ID:uSziC/mn0

梨穂子「……はやく、三週間経たっちゃえばいいのに」

梨穂子「そうすれば…また、そうすれば……」

梨穂子「…もう色々と、思い返すことも無いのに……」

~~~~~

次の日・放課後

純一「………」じっ

純一「……よし!」ぱたんっ!

梅原「…ん、行くのか大将」

純一「ああ、行ってくる。今日は街でお買いものらしいからな」

梅原「準備は大丈夫なのかよ」

純一「大丈夫だよ、心配するな」

梅原「…おう、俺が出来る事があればなんだってするぜ」

純一「…ありがと、じゃあ、行ってくる!」

梅原「……頑張れよ、大将」



167:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 13:12:35.80 ID:uSziC/mn0

純一「ふっ……任せろ僕に!」

~~~~~

純一(全然見つからない……!)


純一(街に出れば普通に梨穂子のことを見つけられると思ったけど、
   大見え切って教室でてから、もう数時間たっちゃってるよ…!)

純一「なにやってるんだ僕は……はぁ~」すたすた…

純一「…もう帰っちゃったかな、梨穂子達」

純一「空がもうオレンジ色だ……そろそろ直ぐに夜になるだろうな」

純一「………」

すたすた…

純一「…梨穂子」

すた…

純一「……」ぐぐっ

た…たったった!



170:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 13:19:36.72 ID:uSziC/mn0

純一(考えろ…アイツが行きそうな所をもう一度、かたっぱしから探すんだ!)

純一(学校では周りの目もある、それに守り隊も人数が多くて直接話もできない…!)

純一(だけど、放課後なら守り隊の人数も減る! それに学校関係に見られることも少ない…!)

純一「今、この瞬間しかないんだっ…! 梨穂子と、会話できるチャンスは…!」

たったったった!

純一「───…梨穂子っ…! どこにいるんだよ…っ」

~~~~~

純一「はぁっ…はぁっ……やっぱり、どこにも居ない…っ…」

純一(これだけ探して居ないんだ、そろそろ周りも暗くなってきた…
   …家に帰ったと判断して、もう今日は諦めよう───)

「──やめてくださいっ…!」

純一「こ、この声はっ…梨穂子!?」

路地裏

梨穂子「っ……その人たちは、関係無いから…!」

「…関係はなくないっしょ、こいつ等、俺のこと金属バットで殴ろうとしたんだぜ?」



171:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 13:24:01.00 ID:uSziC/mn0

隊長「や、やめろ! 離せ!」

梨穂子「…だけど、痛そうにしてるじゃないですか…っ」

「こっちは死にかけたんだけど、それでもやめろっていうの?」

「おらっ!」

隊長「ぐふっ」

「…他の奴らは? 確か五六人ぐらい居ただろ?」

「逃げたんじゃね? ははっ、根性ねー奴らだなw」

隊長「に、逃げたのではないっ…皆、仲間を呼びに行ったのだ!」

「…なにこいつ、頭イカれてんの?」

「いわゆるオタク奴じゃね? 聞いたことあんだろ?」

「うっわーw まじか~、こんなのに付きまとわれてる彼女可愛そ~」

隊長「ぐっ……馬鹿にするな! 我々は由緒正しき…!」



173:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 13:28:43.17 ID:uSziC/mn0

隊長「ごはっ!?」

「由緒正しき……なんだって?」

「さあ?w まあ由緒正しいんなら鉄バットで殴りかかってくんなって話だよなー」

梨穂子「っ……」

「ま、そんな感じだね。あーあ、あんなに人が居たのに…もう一人だけ」

隊長「ひっぐ…ぐすっ…」

梨穂子「………」

「あらら、泣いちゃったよ。そんなに強く蹴ってるつもりなんてないのにね~」

「口では大きなこといってるくせによっ」

「俺らが何だって? 大犯罪者って言ってたよな? …ただ声をかけただけ、だろーがっ」

「鉄バット持ってくるお前らの方が大犯罪者じゃねーかよっ」

隊長「うっぐっ…ひぐっ…えぐっ…」

「…その辺でやめとけ、おおごとになったら面倒だろうが」



174:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 13:32:39.46 ID:uSziC/mn0

「はいは~いw そうだね~すまんすまん、おっと」

隊長「ぐっ…」

「めんごめんご、ちょっと脚が引っ掛かっちまってさ~」

「おいおい、そりゃワザとだろw」

「あっははw …ばれた?」

梨穂子「…やめてください」

「…ん? なに?」

梨穂子「やめてと……言ってるのっ!」

「おー、怖。なになに、俺らに言ってるの? 度胸あるねー」

「…ちょっとまて、この子って……あ! やっぱり!」

「なんだよ?」

「どっかで見た事あるって思えば……桜井リホだよ! 桜井リホ!」

「…リホって、ああ、KBTとかなんとかの」

梨穂子「………」



176:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 13:37:51.21 ID:uSziC/mn0

「うっわーすっげw 本物だよw サインもらっちゃおうかなーw」

「サインとか……お前…」

「へー…そうなんだ、桜井リホちゃん?」

梨穂子「…き、気安く呼ばないでっ」

「…わー、ファンとして超ショック」

「くははw いわれてやんのw」

「怖い怖い、というかそんなに俺らに敵意丸出しにしなくてもよくね?」

梨穂子「………」

「別に俺ら悪いことしてないってw」

「アンタの周りに居る奴ら、すっげーウザかっただろ?」

「傍か見てて異常だったしねー、やっぱりそうだったでしょ? うん?」

梨穂子「……今の、貴方達のほうが…よっぽど…うざいよ」

梨穂子「そうやって…力だけで押し切る貴方達のほうがっ…なんでもかんでも、強いからって…!」

梨穂子「弱い人を痛みつけることにっ…躊躇しない、貴方達の方がよっぽど最悪だよっ…!」



178:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 13:43:29.92 ID:uSziC/mn0

「………」

梨穂子「なにも知らないくせにっ…その人たちがどんな人だって、知らないくせに…!」

梨穂子「馬鹿だって、オタクだからって…そうやって否定するだけのことしかできない貴方達方のがっ…!」

バン!

梨穂子「んくっ……」

「…うるせえよ」

「んー、強い女の子って素敵だよねぇ」

「ひ弱な女より、強い女の方が居て楽しいしなー」

梨穂子「っ……殴るなら、殴ればいいよ…貴方達が、もっと世間に居られなくなるだけだから…!」

「残念、女の子を殴る趣味はないんだよね。だから、ちょっとばかし…こっち来てくれるかな?」ぐいっ

梨穂子「きゃっ…!」

「あ、連れてく感じ? そうだよなーw アニキとか喜びそうだしw」

「あ~、確かに。すっげー喜びそうだな」

梨穂子「や、やめてっ…」



180:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 13:47:03.08 ID:uSziC/mn0

「大丈夫大丈夫、すぐそこのお店に連れて行くだけだからさ」

梨穂子「っ…!」

「心配無いよ、悪いことなんて起きないから。……ちょっとした社会勉強になるかもね」

「それ言いすぎ~w 勉強とかー!」

「人によっちゃ引いちゃうだろその言い方w」

梨穂子「や、やだ…やめてっ…!」

「………」

ぐいっ

梨穂子「ひぅっ…!」

「──抵抗するなって、女の扱い方なんて、俺はちょっと知らないんだ」

梨穂子「……っ…」

「じゃあ行くぞ……直ぐそこだって、心配無いからさ」

梨穂子「っ………────」


「──待て…」



181:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 13:50:37.52 ID:uSziC/mn0

「……あ?」

「離せよ、その手」

梨穂子「っ…?」

「誰だよ、テメー」


純一「……そいつの幼馴染だよ」

「幼馴染ぃ? っは、どうして幼馴染がこんな所に居るんだよ」

純一「…助けに来たんだ」

「おいおいw 助けにだってよ、コイツの仲間か?」

隊長「ひっぐ…ぐすっ…」

純一「……残念だけど、違う。僕は個人で梨穂子を助けに来た」

「助けにって、はは。また俺らは悪者扱いかー」

純一「別に悪者にするつもりはないよ…だけど、その手を離してくれたらの話だ」

「…離して、どうする?」

純一「連れて帰る。ただ、それだけだから」



182:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 13:53:05.87 ID:uSziC/mn0

「そういって通報でもするんだろ」

純一「…しない、そう誓うから」

純一「お願いします、その手を離してください」

「…おい、お願いされたよ?」

「どうする?」

「……」

梨穂子「……」

純一「……」

「…じゃあ、土下座だ」

梨穂子「っ……」

純一「…土下座?」

「そうだよ、土下座。まあ仲間じゃないって言ってたけど、でも、知ってる顔なんだよね?」

純一「……はい」



183:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 13:56:33.58 ID:uSziC/mn0

「俺らはそいつらに、金属バットで殴られそうになった」

隊長「っ…っ……」

純一「…そうなんですか」

「ああ、下手すりゃ死んでもおかしくない。だけどよ、それも土下座してくれるのなら許してやるよ」

「…そして、この彼女も返してやる」

「だけど、土下座だ。このきったねー路地裏の地面でね、額を擦りつけて土下座しろ」

純一「………」

「うっわーw ひどいなぁーw」

「ここら辺って、良く誰か吐いてるよな~」

純一「………」

「どうした? やらないの? だったら、いいよ。この話は無しだ」

純一「………」

梨穂子「っ……」

梨穂子「──やめて! そんなことする…義理なんて貴方にないから…!」



184:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 14:01:16.64 ID:uSziC/mn0

純一「………」

梨穂子「いいからっ…私のことは放って置いてっ…その人を連れて、遠くに逃げて…!」

「おーおー、いいねえ純情だねー」

「ま、逃がすわけ無いけどw」

「…お前が一人でどっか消えるんなら、それでいいんだぜ?」

純一「……」

梨穂子「橘くんっ…! お願いだから…!」

純一「……梨穂子」

梨穂子「っ…なあに…?」

純一「僕は、今の今まで…ずっと立ち竦んでたんだ。
   この場の現状に入り込むことに、とても怖がってた」

純一「だけど……梨穂子がそいつらに連れて行かれそうになった時、僕の脚は…一歩進んだ」

純一「だから、僕は分かったんだ。絶対にこれは、逃げてはダメな時なんだって」

純一「もう…梨穂子から逃げては駄目なんだ、やっぱり、そう思ったんだよ」すっ…



187:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 14:06:23.58 ID:uSziC/mn0

梨穂子「そんなっ……」


純一「───お願いします、どうか、その金属のバットの件含めて…」

純一「彼女を離してやってください、お願いします…!」ずりっ…


梨穂子「っ……!」ばっ

「うわっ…マジでしやがった──って、うおっ!?」

梨穂子「や、やめてよっ…! 土下座なんてしないで!」たたっ

純一「お願いします…どうか、許して下さい」

梨穂子「たちばなっ…やめてって…! そんなこと…!」ぎゅっ

純一「……お願いします」

「…お、おい」

「うっわー…綺麗な土下座だぜー」

「………」

純一「っ……どうか、お願いします! 許してやってください!」


「───ワーオ、ナイスガイ!」



191:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 14:10:04.55 ID:zpIcbEd/0

純一はかっこいいなあ!!!



194:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 14:24:32.59 ID:uSziC/mn0

かん…かん…

「ミーが見てきた誰よりもナイスガイ、とんでもないぐらいハートにズッキューン…」パチパチ…

かん…

「ユーたちも見習うべきですねー、おーけー?」

「っ……」

「あ、マイケル……兄貴…!」

「うっふん、ノウノウ。それはちがうでショーウ───」

マイケル「──maike.kid……そう〝毎夜ベットの中で〟そう教えてるでしょーう?」

「は、はいっ! マイクアニキっ!」

「すませんっ!」

「う、ういっす!」

マイケル「オーケー、良い子たちねー! ウッフッフッフ」


純一&梨穂子「……」ぽかーん



197:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 14:33:02.08 ID:uSziC/mn0

マイケル「オーゥ、ごめんなさいね~! 驚かせちゃったよねー」

純一「えっとその…?」

マイケル「ユーのネーム…教えてくださーい!」

純一「ぼ、僕ですか…?」

マイケル「ウッフッフッフ…そうですー! どうかミーに教えてみてー!」

純一「橘…純一ですけど…」

マイケル「タチバナ、グーイチ?」

純一「純一です!」

マイケル「オーケー、タチバナ! タチバナでいいですかー?」

純一「ま、まあそれで…」

マイケル「次でーす! ユーのこのみおしえてくださーい!」

純一「……え?」

「…ギャラガーのアニキ…それは…」

マイケル「ふんぬっ!」



199:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 14:38:28.62 ID:uSziC/mn0

「ひゃうふんっ」ドタリ

マイケル「…ミーのナンパの邪魔するのは、ノンノンデース…それにマイクと呼びなサイデース」

純一(今…!? 何が起こったんだ!? 腰あたりをなでただけに見えたけど…!?)

マイケル「それでー? どうナンデスかー? んんー?」

純一「うわぁっ…か、顔が近いっ…!」

マイケル「ウッフッフッフ…そんなにこわがらないでくだサーイ!
     モウマンターイ! ひどいことはしませんヨー?」

マイケル「…ちょっとだけ、ダーツにつきあってほしいだけデース…?」

「マイク兄貴が…ダーツに誘っただと…!?」

「ば、馬鹿なっ!? 相当気にいった奴しか誘わないのに…!?」

純一「えーと、お断りします…はい…」

マイケル「えー!? ホワイ!? どうして!?」

純一「どうしてって…その、あはは」

梨穂子「……」



201:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 14:42:43.23 ID:uSziC/mn0

マイケル「フゥム…なるほネー」

マイケル「……」くるっ

マイケル「ユーたち、ミーは振られてしまった! 慰める準備をしなサーイ!」

「は、はいっす!」

「だ、ダーツの準備だ! 店に戻るぞ!」

「あ、ああっ…わかったよ!」

マイケル「………」

純一「えっと…その、マイケルさんでいいんですか…?」

マイケル「ノン!」ぐるっ

純一「ひっ…!」

マイケル「ユーは……ウッフッフ、タチバナはミーのこと……ギャラガーって呼んでもオーケーデース!」

純一「……お断り済ます…」

マイケル「ノーン!」

純一(なんなんだこの人は一体……)



202:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 14:47:07.67 ID:uSziC/mn0

梨穂子「…その、大丈夫…?」

純一「え? あ、梨穂子……うん、大丈夫だよ」

梨穂子「っ…待ってて…」ごそごそ…

純一「?」

梨穂子「額が汚れてるよっ…拭いてあげるから大人しくしててっ」

純一「だ、大丈夫だよっ……それよりも梨穂子のハンカチが汚れちゃうだろ」

梨穂子「いいからっ」

純一「……う、うん」

マイケル「…ソーリー、あの子たちが迷惑をかけましたー…」

純一「え? いや、でも、あっちもあっちで理由があったわけですし…」

マイケル「イエス! その通り、通りに叶ってないことはさせるわけないよう躾けてマース!」

純一「し、しつけ…?」

マイケル「ですがー…それでもやり方にはもっとナイーブな方法があったはずデース…」



203:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 14:51:46.80 ID:uSziC/mn0

純一「………」

マイケル「…オゥ? この子は?」

隊長「…っ…っ…」

純一「…色々と、今回でのことで問題になった人です」

マイケル「フゥム、オーケー」つかつか…

ひょい

マイケル「仕方ないのでー、この子を店につれていくことにしシマース!」

純一「はい…?」

マイケル「大丈夫でーす、酷いことはしませんー! ただ、社会勉強をしてもらうだけでーす!」じゅるっ

純一「今、涎が…」

マイケル「オーウ! もうこんな時間です! 急がなければいけませーん!」

マイケル「ではナイスガイ、バァ~イ!」かんかんかん…

純一「ば、ばーい……」

純一(隊長さん……どうか、社会を学び更生されて戻ってきてください)



217:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 15:41:48.47 ID:uSziC/mn0

純一「…ふぅ」

梨穂子「……」

純一「梨穂子、もういいよ。ありがとう」

梨穂子「……うん」

すっ…

梨穂子「……」

純一「ありがとうな、そのハンカチ洗って返すからさ」

梨穂子「…いいんだよ、気にしなくて」ごそ

純一「いいのか? だってここら辺の汚れって、結構酷いんだぞ?」

梨穂子「っ…だったら、もっとあなたのほうがっ…!」

梨穂子「……っ……あなたのほうが、酷いよっ…」

純一「あはは、そうだな…僕も直ぐに風呂に入って。それから制服を洗濯しないと」

梨穂子「………」

純一「…よいしょっと、梨穂子。もう夜になるし、まっすぐ家に帰れよ?」



218:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 15:46:13.72 ID:uSziC/mn0

梨穂子「えっ……」

純一「ここら辺は…まあ分かってると思うけど、ちょっと治安悪いしさ。
   また誰かに絡まれないよう急いで帰るんだ、僕もそうするから」

純一「それじゃあ、梨穂子。また明日、学校で」

すたすた…

梨穂子「ま、待って…!」

純一「……ん、なんだ?」

梨穂子「そのっ……どうして、何も言わないのっ…?」

純一「……」

梨穂子「こんなにも酷い目にあってるのにっ…私に、リホにっ…どうして文句の一つも、言わないの…?」

純一「……どうして、か」

純一「おい、梨穂子……そんなの当たり前だろ?」


純一「──お前と僕は、幼馴染だからだよ」ニコ



219:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 15:51:38.62 ID:uSziC/mn0

梨穂子「幼馴染…だから…?」

純一「ああ、そうだ……大丈夫、お前が今僕に対してどう思ってるかなんて。僕はちゃんと分かってるから」

純一「舐めるなよ、長年の幼馴染を」

梨穂子「………」

純一「…そんなワケだから、まあ、色々と話したいこともあるけど───…うわぁ!?」

ぎゅうっ…

梨穂子「………」ぎゅっ

純一「えっ、なに…どうしたの梨穂子? 急に後ろから抱きついてきて…えっ?」

梨穂子「…純一」

純一「あ、うん……純一だけど…えーと、その?」

梨穂子「…だめ」

純一「え?」

梨穂子「…やっぱり、ダメだよ」

純一「どういうことだ?」

梨穂子「………やっぱり、ダメだ……やっぱり、純一のこと…」



220:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 15:55:44.60 ID:uSziC/mn0

梨穂子「……〝思いだせない〟よ、私…」

純一「……」

~~~~

公園

梨穂子「……」きぃーこ…きぃーこ…

純一「つまり、昨日の今朝に言ったことは…嘘、だったと」

梨穂子「…うん、そうだよ」きぃこ…

純一「…どうしてそんな嘘ついたんだよ、それに…」

梨穂子「…あの時のこと、だよね」

純一「……」

梨穂子「それはね、橘くん……私があなたを心配させたくなかったからでね」

梨穂子「私は……あなたが悲しむ顔を見るのが……怖かった、の」

純一「それで…僕に冷たくしてたのか?」

梨穂子「…うん、勝手だよね、わかってるんだよちゃんと…」



221:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 16:01:29.92 ID:uSziC/mn0

梨穂子「ちゃんとちゃんと…分かってた。今、私がしようとしてること、
    そして橘くんにしてしまったこと……それがどんなに取り返しのつかない事だって…」ぐっ…

きぃーこ…

梨穂子「だけど、だけどね…? それでも私は、やめようって思わなかった…」

きぃーーこ…

梨穂子「そんなあなたの顔を見ても、傷ついた顔の橘くんを見たとしても……それでも」

梨穂子「私はあなたに〝嘘〟をつくことを、やめようって思わなかったんだー……」

梨穂子「例え記憶が無いと知られても、それを違うって嘘つけたりー…」

梨穂子「本当に記憶がないことを、知られたくないって嘘ついたりしてもー…」

きぃーー……こ…

梨穂子「……あなたが悲しんでも、嘘をつくことを止めなかったと思う」

純一「梨穂子…お前は、一体何がしたいんだよ…?」

梨穂子「……」

純一「僕は……全然、梨穂子がしたいことがわからないよ…?」



223:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 16:06:32.15 ID:uSziC/mn0

純一「そんなの、全く意味が無いじゃないか…
   ただ単に、僕に対して嘘をついて…僕を惑わせようとしてるだけじゃないか」

梨穂子「…そうだね」

純一「……」

梨穂子「最初から全部、わかってることなのに…どうして私、あなたに嘘をつくんだろう」

梨穂子「……わからないんだよ、それが、私には」

梨穂子「初めは悲しませたくないって……それだけだったのに」

梨穂子「…今の私は、ごちゃごちゃなんですよ」ニコ…

純一「…記憶のせいなのか?」

梨穂子「…ううん、わかんない、どうだろうね…」

純一「っ…記憶が無いから、そうやって…梨穂子は意味もなく嘘をついてしまうような…」

純一「よくわからない自分に、なってしまうのかよ…?」



226:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 16:12:26.68 ID:uSziC/mn0

梨穂子「どーだろうねぇ……うーん、それだったらいいんだけどー…」

梨穂子「…どうもそれだけじゃないっぽいから、困ったさんかな?」

純一「どういうこと?」

梨穂子「……。さっきも言ったけどね、橘くんのこと…私は憶えてない」

純一「っ…う、うん」

梨穂子「それなのに、私はあなたを悲しませたくないって…思った」

梨穂子「それからわたしはあなたに冷たくしようって思った、
    記憶が無いことは悪いこと、ダメなこと、それを知られるぐらいなら…冷たくしようと」

梨穂子「それなら罪は無いって、
    純一を巻き込んでしまうような……思い出を巻き込んでしまうようなものは無いって…」

梨穂子「今の記憶の無い私は、そう思ってしまったんだよねー…」

純一「……思い出が良ければ、今はいいって言いたいのか?」

梨穂子「うんっ…そうだよ?」

梨穂子「だって、そうじゃない? 橘君だって、私のこと……遠い存在だって思ってるでしょう?」



227:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 16:19:04.50 ID:uSziC/mn0

純一「それは…」

梨穂子「ううん、思ってるはずだよ。橘くんは…ううん、橘君だけじゃない…香苗ちゃんも他の人たちも…」

梨穂子「全員、私のことをとおいとおーい存在だって…そう思ってるはずだよ」

純一「………」

梨穂子「だったら、それを期に……すべてぶったぎればいいかなぁー…なんて、思っちゃったりして」きぃーこ…

梨穂子「アイドルになった桜井梨穂子、学校に滅多に来ない桜井梨穂子、友達関係が疎遠になった桜井梨穂子…」きぃーこ…

梨穂子「それが今の〝桜井梨穂子〟であって〝桜井リホ〟なんだよって──」きぃこー

ぴょんっ!

梨穂子「…そう皆に分からせて、全てを断ち切ろうって思ってるんだよね」すとんっ

純一「そんなのっ…!」

梨穂子「…出来るわけ無い? あはは、それができるんですよ~」

梨穂子「遠い存在って、それだけで知ってる人を疎遠に出来る魔法の言葉だよ。
    だからこそ、私はそれを望んで〝演じて〟周りと疎遠になって見せるの」

梨穂子「…だってもう、記憶が無いんだもん」



228:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 16:28:09.37 ID:uSziC/mn0

梨穂子「今まで通り、仲良し通りなんて…えへへ、無理だよそんなの」

純一「っ…」

梨穂子「周りは昔の私を知ってる、だけど今の私は昔の自分を知らない」

梨穂子「それは…なによりも悲しい事だよ、周りの人たちにとってね」

梨穂子「だから~、周りには〝昔の桜井梨穂子〟をずっとずっと…記憶しててほしいんだ」

梨穂子「今の記憶の無い私に塗り替えることなく、良い子で元気な……桜井梨穂子を」

梨穂子「ずっとずっと…憶えてて、欲しいんだよ…橘くん」ニコ…


梨穂子「このまま上手く行けば、みんなを騙して…〝アイドルで変わってしまった私〟として理解してくれるはず」


梨穂子「……誰にも〝あの時の桜井梨穂子はもう居ない〟ってことを、バレずにね」


純一「…どうして、それを僕に言ったんだよ」

梨穂子「…うん?」



229:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 16:36:54.03 ID:uSziC/mn0

純一「そんなこと…周りのだれにも言ってないんだろう?」

梨穂子「…うん、言ってないよ」

純一「じゃあ…どうして、僕にだけ言ったんだよ」

梨穂子「………」

純一「そうしたら僕はっ……お前のことを放っておけなくなるだろ…!」

梨穂子「…そっか、橘くんはそう言ってくれるんだね」

純一「っ…当たり前だろ!? 僕は、お前の幼馴染なんだぞ!?」がしゃんっ…

純一「それなのに、その幼馴染がっ…周りに嘘をついてまで!
   記憶が無くて自分が一番つらいのに、それなのに周りにショックを受けてほしくないって…!」

純一「記憶が無くなったことを隠してまで、周りとの思い出を大切にするとかっ…馬鹿かよ!」

純一「しかもっ…しかもなんだよ! 隠し切るなら、アイドルになって変わったんだよって偽るつもり!?」

純一「ふざけるなよ梨穂子っ…! 僕は怒ってるぞ…!」

梨穂子「………」

純一「単純にっ…記憶が無いって、だからしょうがないんだよってっ…そうやって病気に甘えない所は凄いよ!」

純一「───だけど! そうやって嘘を吐かれた人たちの身にもなってみろよ!!」



232:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 16:42:27.46 ID:uSziC/mn0

梨穂子「………」

純一「僕はそんなの絶対に許せない、梨穂子に対してじゃないっ…それを分かってあげらなかった…!」


純一「───自分に対して、ずっとずっと悔やみ続けるはずだから!!」


梨穂子「……そうだね」

純一「梨穂子っ……聞かせろ、どうか僕に聞かせてくれ!」

梨穂子「うん、なあに? 橘くん?」

純一「どうして僕にその話を聞かせた! どうして僕にそうやって秘密事を話してくれたんだ!?」

梨穂子「……」

純一「お前がこの三週間、誰にも言うこと無くっ……それでずっと隠し通そうとしたその悩みを!」

純一「どうして幼馴染の僕に! 言ってくれたんだ!?」

梨穂子「……それは…」

梨穂子「それは……それは…」

梨穂子「…わからないけど、たぶんだけどね…」



234:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 16:52:18.28 ID:uSziC/mn0

梨穂子「……」

梨穂子「…色々と、思いだせないのに…」

梨穂子「…ほとんどのことを、ぜんぜん憶え出せないのに…」

梨穂子「……だけど、だけど一つだけ……これだけは、言えるんだよ…」

梨穂子「…もしかしたら、言ってしまえばどうにかなるんじゃないかって…」

梨穂子「…この人だけには、言ってもいいって…顔も名前も…憶えてないはずなのに…」

梨穂子「…なのに、私は…今の桜井梨穂子は……ずっと言いたいことがあって…」

梨穂子「あなたの…顔を見たときから、ずっとずっと……この言葉だけを…」ぎゅうっ…


梨穂子「…………助けてよぉ、純一ぃ…っ」


梨穂子「いやだよぉっ…みんなにちゃんと、言いたいよぉっ…! これは違うんだよって、
    香苗ちゃんや先輩たちにっ…ひっぐっ…言いたいよ純一っ…!」

梨穂子「仕事だからってぇっ…ひっぐ、秘密にしなきゃいけない事だからっ…!」

梨穂子「だけど、昔の私をっ……知ってくれてる人たちに、わるっ…く思われたくないよぉっ…!」



235:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 17:00:59.01 ID:uSziC/mn0

梨穂子「私はっ…アイドルだから、ひっぐえっぐっ…病気はっ…秘密にしなきゃダメだから…っ」

梨穂子「だからもうっ…アイドルとして頑張んないとっ…もう、ダメになっちゃいそうでっ…ぐすっ…」

梨穂子「顔も名前もっ…思い出も、全部全部……
    憶えてないのにっ…周りの人の思い出なんて、これっぽっちも憶えてないのにっ…」

梨穂子「だけどっ…けほっこほっ…! 私はっ…どうしてもっ…忘れることが出来ないよっ…!」

梨穂子「───この人たちが、大切な人だっていうことを…! ずっとずっと…憶えてるから…っ」

梨穂子「私はっ……私はっ───」

純一「───良く言った、梨穂子」ぎゅう…

梨穂子「ひっくっ…ひっく…」

純一「十分だ、いいよ。それ以上は言わなくていい」

梨穂子「ぐすっ…すんすんっ…ごめ、ごめんねっ…私…」

純一「ああ、いいんだ」

梨穂子「なんにもわかってないのにっ…純一にた、頼って…ひっぐ…」

純一「大丈夫、僕がついてるから」



236:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 17:05:42.00 ID:uSziC/mn0

梨穂子「わたっ…し…ひっく、アイドルだからってっ…みんなに変わったって思われ、たく、ないっんだよ…っ」

純一「ああ、そうだな」ぽんぽん

梨穂子「だけどっ…だけどっ…」

純一「平気だ、どうにかする」

梨穂子「どうにか、して……してくるのっ…?」

純一「当たり前だよっ……こんなに泣いて、頼みこんできてくれて…」

純一「…しかも、僕にだけには頼りたいって思ったんだろ?」

梨穂子「うっ…うん…ひっぐ…」

純一「…顔も名前も憶えてないのに、ただ、それだけは思っててくれた」

純一「───僕を頼れば、どうにかなるってことを」

梨穂子「すんすんっ……う、うんっ」

純一「だったらどうにかしてやる、その期待に! 全力で叶え切ってみせるぞ僕は!!」

純一「任せろ、梨穂子……お前の幼馴染は絶対に」

純一「今の梨穂子の期待を、裏切らない」



242:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 17:30:22.21 ID:uSziC/mn0

~~~~~~

梨穂子「……」

純一「というわけで、連れてきました」

夕月「はえーよ、こっち頼るのよ」ぱしんっ

愛歌「時期早漏…ずずっ」

梨穂子「あはは…」

純一「だ、だってしょうがないじゃないですか…!
   こんなこと知ってるの、二人だけなんですから!」

夕月「だとしてもおめえさん、りほっちは只一人、アンタに頼ったんだろ?」

純一「そ、そうですけど…」

夕月「じゃあアンタ一人でやんな。それがりほっちの願いなんだからさ」

純一「え、ええっ! 無責任ですよ! この茶道部!」

夕月「…おい。どうして文句を言うようなタイミングで茶道部の単語を使ったァ…? ええ、オイ?」

純一「いや深い意味は無いです本当ですすみませ──あー……」



243:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 17:36:30.11 ID:uSziC/mn0

純一「ひどい…」しくしく…

梨穂子(一瞬で女装させられた……)

夕月「うっし、それでどうするんだい? 連れてきたってことは、それなりに考えちゃーいるんだろ?」

純一「えっ!? 一緒にやってくれるんですか!?」

夕月「半ば強引的にりほっちの話を聞かせたくせによ…良く言えるぜ、んなこと」

愛歌「腹黒優男」

純一「うぐっ……」

夕月「とりあえず、いーから考えること言いな」

純一「わ、わかりました……じゃあ梨穂子、いい?」

梨穂子「う、うん……ぶっ」ぷいっ

純一「…どうして笑うんだよ」

梨穂子「だ、だってぇっ…純一の恰好が、もう、ちょっと似合いすぎててっ…あはははっ」

純一「むー……夕月先輩!? これ脱いでも良いですか!?」

夕月「だめだー」



246:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 17:41:14.61 ID:uSziC/mn0

~~~~~

純一「僕が思うにですね───それはもう、記憶を取り戻せばいいって思うんですよ!」

夕月「だろうな」

愛歌「当たり前」

梨穂子「そ、そうだよね~」

純一「みんな話は途中だよ! …こほん、それでですね? じゃあどうすれば記憶を取り戻せるのか」

純一「…という話になってくるわけです!」

梨穂子「どうすれば…」

純一「まあ僕が思うに……色々と調べると、一番僕らに向いている治療法を発見しました」

愛歌「それは?」

純一「はい、それはこれです!」トン!

『ショック療法! 過去の自分を取り戻せ大作戦!』

夕月「…ボードまで用意して何やってるんだって思えば」

愛歌「至極簡単」



247:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 17:49:17.99 ID:/mZaHxnX0

純一「その通り! やることは簡単なんですよ!」

純一「現在、記憶を失っている梨穂子に…なにかしら過去を思い返させるほどの、ショックを与えればいいんです!」

夕月「殴ればいいのかよ?」

梨穂子「えっ…?」

純一「ち、違います! もう、夕月先輩はすぐにそんな暴力沙汰を起こす…ごはぁ!」ドタリ

夕月「チッ、胸に入れたパットで威力が削がれたか……おら、どういう意味だ橘ァ!」げしげしっ

純一「や、やめてっ、ずれちゃう! パッドがずれちゃいます!」

梨穂子「えーっと……」

愛歌「だが良い方法…だ」

梨穂子「愛歌先輩?」

愛歌「橘純一が言ったことは……一理ある」

梨穂子「ほ、ほー…」

愛歌「やってみる価値は…十分」

純一「で、ですよね! ではさっそくやってみようよ!」



249:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 17:52:14.17 ID:hH9KPp5q0

ここから変態紳士が本領を発揮していくんですねw



250:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/07(日) 17:52:34.72 ID:yzPm9F3C0

ここでお宝本の登場ですか



続編→梨穂子「……ごめんなさい、橘くん」【後編】

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その他二次創作SS アマガミ   コメント:0   このエントリーをはてなブックマークに追加
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