1:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 20:20:50.40 ID:
xmCMO2JyO
※閲覧注意
妊婦とか胎児とかそういうの注意
3:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 20:22:08.87 ID:
xmCMO2JyO
ξ*゚ー゚)ξ「お姉ちゃんね、子供、できたの」
姉は腹をさすりながら、幸せそうに笑った。
僕はしばらく沈黙して、それから、「そう」とだけ返した。
5:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 20:22:33.82 ID:
xmCMO2JyO
( ^ω^)姉が孕んだようです
お姉ちゃんが来た 1 (バンブーコミックス)
4:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 20:22:28.68 ID:8r5C2JSF0
期待
7:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 20:24:19.45 ID:
xmCMO2JyO
( ^ω^)「……」
川 ゚ -゚)「いやに神妙な顔をしているじゃないか、内藤君」
喫茶店。窓辺の席。
頬杖をついて黄昏ている内藤ホライゾンの向かいに、女性が腰を下ろした。
内藤は、はっとしたように顔を上げる。
( ^ω^)「クー」
川 ゚ -゚)「待たせてしまって悪かったな」
女性──素直クールは、悪びれる様子もなく言った。
内藤が喫茶店に来たのが30分前。待ち合わせぴったりの時間だった。
なのに、クールは「遅れる」の連絡一つも寄越さなかった。
いつものことなので怒る気にはならないが、彼女の社会性に不安を覚える。
川 ゚ -゚)「エスプレッソ。と、レアチーズケーキ」
店員に注文しながら、クールは鞄から携帯電話を取り出した。
サブディスプレイが緑色に点滅している。
緑色のランプはメールが来ている証。青色は不在着信。内藤の携帯電話とは逆の設定だ。
9:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 20:26:32.55 ID:
xmCMO2JyO
かち、かち。
クールがボタンを押す音を聞きながら、そろそろスマートフォンとやらに変えてみようかなと
内藤は近所の携帯電話ショップを脳裏に浮かべた。
ぱちん。
電話を閉じるクール。
溜め息をつく彼女に、「誰から」と問うてみる。
川 ゚ -゚)「姉さんからだ。帰りにおつかいを頼まれた」
( ^ω^)「ふうん」
クールの家は姉妹が多い。
だから、どの姉からのメールだったかまでは、内藤には分からなかった。
──姉。
姉、といえば。
( ^ω^)「はぁーあああああ、ああ、あ」
川 ゚ -゚)「……何だ、その、これ見よがしな溜め息」
( ^ω^)「僕の姉ちゃんが妊娠したらしいんだお」
クールは、片眉を上げた。
ほう、と声を漏らしている。
10:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 20:28:55.76 ID:
xmCMO2JyO
川 ゚ -゚)「君のお姉さんは、結婚していたっけか」
( ^ω^)「してないお。
でも、恋人がいて──その人との子供が出来ちゃったとかで。
今、2ヶ月くらい。すごく喜んでたお」
川 ゚ -゚)「じゃあ、あれか。できちゃった結婚ってやつか。授かり婚とか、おめでた婚とか」
( ^ω^)「ダブルハッピーとも言うらしいお」
川 ゚ -゚)「何だそれは」
( ^ω^)「姉ちゃんが持ってた雑誌で見た」
川 ゚ー゚)「はは、あまりセンスのない呼び方だな」
クールの前に、コーヒーカップとケーキが運ばれてきた。
内藤の鼻を擽る香り。あまり好きではない。
川 ゚ -゚)「まあ、良かったんじゃないか。結婚するんだろう。籍は入れたのか?」
( ^ω^)「向こうの親御さんが面倒な人達らしくて、色々もめてるみたいだけど。
妊娠しちゃったわけだし、近い内に何とかなるんじゃないかお」
川 ゚ -゚)「大変そうだな」
12:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 20:31:04.02 ID:
xmCMO2JyO
フォークで切り崩したレアチーズケーキを口に運び、クールが頷く。
それから、ケーキに添えられたストロベリーソースを、邪魔だと言わんばかりに隅へ寄せた。
真っ白なケーキの表面に、赤いソースが、うっすらと名残惜しく留まっている。
( ^ω^)「注文のときに言えば、ソース付けないでもらえるお」
川 ゚ -゚)「そうか。次からそうする」
ぼんやり、クールがケーキを食べ進めていくのを眺める。
そして何とはなしに、姉のことを思い出した。
そういえば姉はチーズケーキが好きだ。今度、この店を教えてやろう。
川 ゚ -゚)「──この後、どうするんだ」
クールの声で我に返る。
内藤は手元のティーカップを持ち上げ、クールが来る前に中身を飲み干していたのを思い出した。
ソーサーにカップを戻す。
( ^ω^)「クーが、一緒に買い物に行こうって言ったんじゃないかお」
川 ゚ -゚)「それはそうだが、内藤君は行きたいところとかないのか?」
( ^ω^)「僕は別に」
川 ゚ -゚)「なら、そこの服屋に行こう」
13:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 20:34:34.31 ID:ABTcb92sO
チーズケーキにソースなんていらないしえん
14:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 20:34:42.90 ID:
xmCMO2JyO
こんな風に、クールと出掛けるようになったのは、いつからだったか。
いつも誘ってくるのは彼女の方からだ。
クールがどう思っているかは知らないが、内藤は恋愛感情など持っていない。ある筈がない。
( ^ω^)「分かったお」
内藤は頬杖をつき、空のティーカップに目を落とした。
クールと2人きりだろうと、内藤の思考は、違う女性のことで占められる。
*****
ξ゚⊿゚)ξ「おかえり、ブーン」
( ^ω^)「ただいまおー。……ブーンって呼ぶの、やめてくれお」
夕方。
帰宅すると、内藤ツンに出迎えられた。
「ブーン」は内藤が幼少期に付けられたあだ名だ。
由来は忘れたが、揶揄が込められたものであることだけは覚えている。
だから呼ばないでほしいのだが、何度言ってもツンは聞きやしない。
夕飯の支度をしていたのだろう、エプロンを身に着けたツンが、意地悪そうに笑った。
15:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 20:38:04.87 ID:
xmCMO2JyO
ξ゚ー゚)ξ「いいじゃない、ブーン。
それで、デートどうだった? 楽しかった?」
( ^ω^)「デートじゃないお」
男女が2人きりで外出するとなると、世間一般にはデートと見なされるのかもしれない。
だが、ツンには、そんな風に言われたくなかった。
エプロンの柄を視線で辿り、腹部のポケットに視線を留める。
( ^ω^)「お腹」
ξ゚⊿゚)ξ「ん?」
( ^ω^)「どれくらいで、出てくるもんなんだお」
ξ゚⊿゚)ξ「んー。本には、4ヶ月くらいからって書いてあったかな。
個人差あるけどね、勿論」
ツンの腹は、以前と然程変わらないように思う。
今は2ヶ月目。
再来月には大きくなり始めるのだろうか。
16:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 20:40:44.87 ID:
xmCMO2JyO
ξ*゚ー゚)ξ「楽しみだわ」
腹を撫で、ツンがくすくす笑う。
そっと内藤が手を伸ばしたが、
ξ゚⊿゚)ξ「あっ、お鍋! 吹き零れちゃう」
触れるより先に、ツンが踵を返してしまった。
( ^ω^)「……」
行き場のなくなった手を揺らし、内藤はツンの後に続いた。
*****
──僕は夜が嫌いだ。
けれど、夜がなければ、想いを消化しきれなくて死んでしまう。
布団に潜り込み、枕に顔を埋め、きつく目を閉じる。
頭の中に浮かぶのは、姉の姿。
17:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 20:42:53.70 ID:
xmCMO2JyO
ξ* ⊿ )ξ
姉は僕の前で、ブラウスのボタンを外す。
焦らすように、ゆっくりゆっくり。
僕は耐えきれなくなって、引きちぎる勢いでブラウスを剥ぎ取る。
キャミソールを捲り上げ、露になった白い肌に触れ、唇を落とし、
小ぶりの胸を覆うブラジャーをたくし上げて。
そしたら──姉は何と言うだろう。
ξ* ⊿ )ξ『あっ……もう、焦らないでよ、ブーン……』
僕は思考を掻き消し、首を振った。
空想の中でくらい、そのあだ名を呼ばないでほしい。
何度か瞬きをして、瞼を下ろし、固定。
再び、肌を晒した姉を思い浮かべる。
今度の姉は、何も言わなかった。
ただ、大きく丸い瞳を、不安と期待が混じった様子で揺らしている。
僕は姉の胸に手を乗せ、ゆるゆると指に力を込める。
姉の頬の赤みが増す。薄い唇の間から漏れた息が、いやに熱っぽい。
18:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 20:44:28.99 ID:
xmCMO2JyO
手を滑らせて、脇腹を撫で、背中に滑らせ、また前へ手を戻し、お腹を擦り。
そして僕は、姉の腹に、手を突っ込む。
湯船に張ったお湯に腕を沈めるような、そんな、抵抗の無さと温かさ。
ξ* ⊿ )ξ『は……』
姉の唇から声が漏れる。
僕は胎児を探り当て、小さな小さなそれを握り潰す。
あ、あ──と、姉のか細い喘ぎが、僕の耳を撫でて。
堪らない気持ちになり、僕は、胎児を握ったままの手を引き抜く。
ξ* ⊿ )ξ『ああっ』
びくびくと体を跳ねさせる姉を見つめながら、手の中のそれを地面に放った。
こんなもの。
こんなもの、いらない。
姉の、先程まで僕の手が埋め込まれていた部位には、ぽっかりと穴があいていた。
真っ赤な血が白い肌を滑り、落ちる。
昼に見たチーズケーキを思い出した。
僕は姉の頬と自分の頬を擦り合わせ、彼女の、空っぽになった体を掻き抱く。
21:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 20:46:29.87 ID:
xmCMO2JyO
ξ* ⊿ )ξ『ねえ……』
胎児が消えたまっさらな体をくねらせて、姉は、卑猥な言葉で僕を誘う。
──脳内で姉を犯しながら、僕は、自身の、じくりと熱を持つ下半身に手を伸ばした。
唇を噛み締める。
夜が嫌いだ。
卑しく汚ならしい妄想が脳裏を駆け巡るから。
けれど、こうしなければ、想いを消化しきれなくて死んでしまう。
僕は姉を愛している。
*****
22:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 20:48:57.61 ID:
xmCMO2JyO
川 ゚ー゚)「やあ。しばらくぶり」
車の助手席に乗り込んだクールは、運転席の内藤に微笑みかけた。
内藤はハンドルに乗せた右手を緩く持ち上げ、少しだけ振る。
( ^ω^)「しばらくぶりって、ちょくちょく会ってたじゃないかお」
川 ゚ -゚)「デートがしばらくぶりってことだ」
デート、という言葉に顔を顰める内藤。
それを見て、クールは、くつくつと喉の奥で笑う。
川 ゚ー゚)「恋人でなければ『デート』とは言えないか?」
( ^ω^)「少なくとも僕はそうだお」
川 ゚ー゚)「少なくとも私にとっては恋人じゃなくてもデートだ。さ、行こうか」
( ^ω^)「どこに?」
川 ゚ -゚)「適当に。ドライブでもしよう。
……っとと。そうだ、シュー姉さんが『米が切れた』と言っていたから、」
( ^ω^)「帰りにスーパーに寄ればいいのかお?」
川 ゚ -゚)「そう」
24:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 20:52:06.80 ID:
xmCMO2JyO
( ^ω^)「了解したお。じゃあ、出発ー。シートベルト締めてくれお」
川 ゚ -゚)「ああ。……すまないな、ガソリン代は出す」
( ^ω^)「別にいいお、それくらい」
車を発進させる。
クールはカーナビのパネルを操作すると、鞄から出したCDをセットした。
流れてきたのは流行りのポップスなどではなく、
どこか厳かな、クラシックのような曲だった。
( ^ω^)「眠くなりそうだお」
川 ゚ -゚)「やめた方がいいか?」
( ^ω^)「いや、そのままで」
クールは膝に乗せた鞄の上で両手を重ね、窓へと視線を向けた。
彼女とのドライブは初めてではない。これで二度目。
会話は多くないしクールは外を眺めるばかりだが、不思議と居心地はいい。
もし助手席にいるのがツンだったら、彼女の好きな曲をかけて歌ったり、
下らない会話で馬鹿笑いしたりと、やたら賑やかなドライブになるだろう。
どちらも楽しいが、やはり、後者の方が好きだ。
クールが嫌いだとか騒がしい方が好きだとかいうわけではなく、
結局は、相手がツンであることが重要なだけなのだが。
25:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 20:54:14.37 ID:
xmCMO2JyO
川 ゚ -゚)「お姉さんはどうしてる?」
( ^ω^)「……お?」
川 ゚ -゚)「妊娠したとかいう、君のお姉さんだ。
相手のご両親ともめていたらしいが、説得は出来たのか?」
( ^ω^)「あー。まだだお。
なかなか手強いようで。下ろせとまで言われてるらしいお」
川 ゚ -゚)「む……。それは酷い親だな」
( ^ω^)「酷いっちゃあ、人の姉を孕ませた彼氏さんも酷いかもしれんおね」
川 ゚ -゚)「何だ何だ、元凶とでも言いたいのか?
お姉さんは子供が出来て喜んでたんだろう?
なら、彼氏さんが悪いとは言えないさ」
( ^ω^)「……まあ、そうだけど」
赤信号。
内藤はブレーキを踏んだ。
CDの始めの曲が終わり、2曲目が流れ出す。
信号が変わる頃、クールが口を開いた。
27:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 20:57:29.70 ID:
xmCMO2JyO
川 ゚ -゚)「私も免許とろうかな」
( ^ω^)「ああ、クーは免許持ってないんだっけ」
川 ゚ -゚)「高3の頃にとろうかと思ったんだがな、金と時間が惜しくて諦めた。
……大学卒業するまでには、とるつもりだけど」
( ^ω^)「僕は高3でとったお」
川 ゚ -゚)「一回で?」
( ^ω^)「だおー」
それからは、ぽつぽつと車や大学の話題が続けられた。
あのまま姉の話をしていたら空気が悪くなりそうだったから、
「助かった」なんて、考えていた。
*****
28:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 20:58:56.99 ID:
xmCMO2JyO
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン、おかえりなさい」
( ^ω^)「だからブーンって呼ぶなお。ただいま」
ξ゚ー゚)ξ「ドライブデートの成果は?」
( ^ω^)「デートじゃないし、成果も何もないお。
はい、お土産」
ξ*゚⊿゚)ξ「あ、ケーキ」
( ^ω^)「チーズケーキだお」
ξ*゚ー゚)ξ「そういや最近食べてなかったわね」
ツンはケーキ屋の箱を右手に抱え、左手で腹に触れた。
大きくなってきたわね、と呟く。
たしかに、僅かではあるが、前より存在感が増しているような。
ξ*゚ー゚)ξ「ありがと、ブーン」
( ^ω^)「……何回言ったら、『ブーン』っての、やめてくれるんだお」
*****
31:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:00:36.25 ID:
xmCMO2JyO
僕の運転する車。
助手席に、姉が座っている。
明るい曲をかけ、2人で歌って、下らない話をして、笑い合う。
ξ* ー )ξ『楽しいわ。もっと遠くまで行きましょ?』
ああ、遠くへ行こう。
あんな、姉の体に、僕の姉に、勝手に子を宿らせた男なんか居ない場所まで。
僕と姉が、ずっと一緒にいられる場所まで。
姉の掌が僕の左手を包む。
そのままハンドルから手を離させ、彼女のお腹へと引っ張っていく。
姉は、そっと静かに、僕にお腹を撫でさせた。
ゆるやかな膨らみ。
分かる? と、悪戯っぽく笑む。
僕は手を振り払い、ハンドルを握り直す。
それからすぐにアクセルを踏み込んで、ハンドルを切り、
どこか──塀にでも対向車にでも突っ込むのだ。
左隣の悲鳴に、耳を澄ます。
左隣の惨状に、目を凝らす。
32:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:02:32.79 ID:
xmCMO2JyO
姉は無事。
けれどスカートの中から、血に塗れた胎児が転がり落ちる。
ξ* ⊿ )ξ『は、あ、ああ……』
姉のお腹は、元通り、ぺしゃんこだ。
僕は満足して、赤ん坊を窓から捨てて、車をバックさせる。
軌道修正。前進。アクセル。
そうして、2人で、遠くに。
──瞼を持ち上げる。
暗い視界の中、見慣れた壁が眼前にあった。
僕が思い描いた理想は欠片もない。
慌てて目を閉じ、姉と僕の幻想を追う。
*****
34:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:05:14.42 ID:
xmCMO2JyO
川 ゚ -゚)「ブーン君」
第一声がそれだった。
内藤は、呆れたように肩を竦める。
( ^ω^)「やめてって言ったお、その呼び方」
川 ゚ー゚)「可愛らしい響きで、いいと思うけどな。ブーン、ブーン」
( ^ω^)「……クー」
川 ゚ー゚)「ふふ。悪いな、内藤ホライゾン君」
クールもたまに内藤のことを「ブーン」と呼んでからかうが、
注意すれば、すぐに謝ってやめてくれる。
ツンにも見習ってほしい素直さだ。
( ^ω^)「で。今日はどこに行くんだお?」
問いかけながら、クールの後ろ、素直家を見上げる。
比較的、大きい家。だと思う。
いつか、これくらいの──とまでは行かなくとも、それなりの大きさの家を建てたいものだ。
35:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:07:11.80 ID:
xmCMO2JyO
川 ゚ -゚)「ゲームセンターでも行ってみるか。
昔、一度だけヒート姉さんに連れていかれたんだが、それ以来行ってないんだ」
(*^ω^)「ゲーセンかお」
川 ゚ -゚)「お、嬉しそうだ」
内藤はゲームが好きである。
中高生の頃は、友達と一緒に入り浸っていた。
(*^ω^)「行くお行くお。──あんまり長居は出来ないけど」
川 ゚ -゚)「用事でもあるのか?」
( ^ω^)「そうじゃないけど……なるべく傍に付いててあげたいんだお」
川 ゚ -゚)「ああ、なるほど」
車に乗り込む。
シートベルトを締めながら、クールは小首を傾げた。
川 ゚ -゚)「何なら、私の誘いなんて断っていいんだぞ」
( ^ω^)「実は僕も断ろうとしたんだお。でも、本人が『行っといで』って。
体調いいから心配しないでーって言うんだお。
あんな大きいお腹してても元気なもんなんだおねえ」
内藤はツンを思い出しながら、自分の腹の前で、膨らみを描くように右手を上下に動かした。
37:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:09:32.55 ID:
xmCMO2JyO
川 ゚ -゚)「そういえば、ほら、お姉さんの恋人の、酷い両親との話はどうなってるんだ?」
( ^ω^)「あまり変わらず」
川 ゚ -゚)「それはそれは。最終手段は逃避行だな」
笑えない。
誤魔化すように、内藤は、以前クールが置いていったクラシックのCDをかけた。
*****
ξ゚⊿゚)ξ「おかえりー。早かったわね。今日はどこ行ったの?」
( ^ω^)「ゲーセンだお」
ξ゚⊿゚)ξ「あら、ゲーセン。いいわねえ」
( ^ω^)「ん」
ξ*゚⊿゚)ξ「あ! やった、ありがとう!」
ゲームの景品である菓子の詰め合わせを差し出すと、
ツンは躊躇いもせずに受け取り、一つ一つ眺め始めた。
39:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:11:20.73 ID:
xmCMO2JyO
内藤は逡巡してから、一枚のシートをポケットから引っ張り出す。
ツンの目の前でひらひら振ると、すぐに、丸い瞳がそちらに向けられた。
ξ*゚⊿゚)ξ「プリクラ? 懐かしい」
( ^ω^)「だお」
内藤とクールが並んで映る写真。
それぞれの隣に、青色で「内藤君」、黄緑色で「クール」と記されている。
ツンの口から、吹き出す音がした。
ξ゚ー゚)ξ「色気のない落書きだわ。はい、返す。大事にしなさいね」
(;^ω^)「何を書けばいいか全然分かんなかったんだお」
ξ゚ー゚)ξ「そういうときはスタンプ機能使いなさいよ。
今度、私と一緒に撮る?」
( ^ω^)「……まあ、赤ちゃんが生まれて、体調が良くなったら。いつか」
ξ*゚ー゚)ξ「そうしましょうね!」
楽しみ。
そう言って、ツンが嬉しそうな顔をする。
彼女が後ろを向くと翻る、マタニティードレス。
以前、内藤がツンに似合いそうなのを選んで買ってきたのだ。
40:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:13:23.45 ID:
xmCMO2JyO
きゅうきゅうと痛む胸を押さえながら、内藤は手元のシートを見下ろす。
「内藤君」の文字を、何となく、親指でなぞった。
*****
内藤ホライゾン。
内藤ツン。
二つの名前が、僕の正面を舞っている。
僕は手を伸ばして、「内藤」の二文字を掴もうとする。
同じ苗字。
家族の証。
僕が姉を想っても無駄なのだという、何よりの。
指は文字をすり抜ける。
握り潰すどころか、感触すら存在しない。
けれど「内藤」の壁は、ここにある。
僕は、立てた人差し指を目の前に持ってきた。
「内藤」が、指に隠される。
42:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:15:22.18 ID:
xmCMO2JyO
ξ* ⊿ )ξ『何してるの?』
くすくす。
姉の笑い声に、振り返る。
僕が選んだマタニティドレス。
よく似合っている。
ポケットに手を突っ込むと、鋏があった。
ゲームセンターで、プリクラを半分に切り分けるのに使ったのと同じ。
姉を組み敷き、その鋏でマタニティドレスを裂く。
誰が見ても妊婦と分かるであろうお腹が顔を出す。
そこに鋏を突き立て、下にスライド。
真っ赤な肉が開き、そこに眠る胎児を僕は乱暴に引きずり出す。
右手に胎児、左手に鋏。
鋏は動く。
みちり、ぎちり。
ξ* ⊿ )ξ『ああ……』
姉は恍惚とした目で、僕の所業を見つめ続けた。
僕は、ぱっくりと開いた姉の腹が性器みたいで、ひどく興奮する。
45:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:17:14.46 ID:
xmCMO2JyO
けれど。
ふと視線をずらすと、未だ「内藤」という文字が宙に浮いていた。
急激に、全身が冷えていく。
──目を開けた。
枕に顔を擦りつける。
湿った感触。多分、涙の。
僕は仰向けになると、手で両目を覆い、空想を始めからやり直した。
今度は、とても幸せで、甘ったるい世界が繰り広げられた。
*****
川 ゚ -゚)「買ってくか?」
言って、クールは育児用品売り場の前で立ち止まった。
哺乳瓶を持ち上げ、可愛い、と口角を上げる。
46:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:19:21.80 ID:
xmCMO2JyO
( ^ω^)「今度、本人と一緒に買うお」
川 ゚ -゚)「何だ、そうか」
棚に哺乳瓶を戻すクールは、残念そうだ。
しかし興味をそそられているようで、きょろきょろと売り場を眺めていた。
川 ゚ -゚)「お姉さんの様子は?」
( ^ω^)「彼氏さんが煮え切らない態度みたいで。
姉ちゃんと自分の両親、どっちにもいい顔したがるから、もう泥沼」
川 ゚ -゚)「うわあ……。……とは言っても、もう──ええと、7ヶ月? に、なるんだろ?
どうしようもないじゃないか」
( ^ω^)「そうだお。
……あんな男捨てればいいのにとは思うけど、簡単な問題じゃないおね」
川 ゚ -゚)「たしかにな。……大変だな、お姉さん。
シスコンの内藤君は心配だろう」
( ^ω^)「だお。って誰がシスコンだお、誰が」
クールはいつも通りの冷淡な表情を装っているが、
瞳には好奇心がべったりと塗り込められている。
内藤だって完全な部外者だったなら、面白がって話を聞いていただろう。
48:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:21:38.28 ID:
xmCMO2JyO
川 ゚ -゚)「子供なんて孕まなければ、お姉さんは平和に結婚出来たんだろうか」
( ^ω^)「……どうだろうかね」
川;゚ -゚)「……あ。いや、今のは無神経すぎたな。ごめん!
違うんだ、ただ、それなりの手順を踏んでいれば、もめることもなかったのかなって」
慌てて謝るクール。
普段の冷静ぶりが見る影もない。
内藤は吹き出して、クールの手を掴んだ。
( ^ω^)「僕は気にしてないお。
それより、さっさとお目当てのもの買って、さっさと帰るお。
雑貨屋はあっちだっけ」
川 ゚ -゚)「ああ」
クールが指を絡ませてくる。
ぎょっとした内藤は、手を振り払い、距離をとった。
( ^ω^)「……何だお」
川 ゚ -゚)「デートだし」
( ^ω^)「デートじゃないお」
見つめ合う。
やがてクールが視線を外し、歩き出した。
49:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:23:15.57 ID:
xmCMO2JyO
川 ゚ -゚)「悪かったな」
( ^ω^)「……クー」
川 ゚ -゚)「行こう。さっさと買って、さっさと帰るんだろう」
( ^ω^)「クー。僕が自意識過剰なだけなら申し訳ないんだけれど」
川 ゚ -゚)「……何だ」
( ^ω^)「『そういう』つもりで僕とデートしてるんなら──もう僕は、君とは、」
川 ゚ー゚)「デートって認めた」
( ^ω^)「……」
口を噤む。
その瞬間に内藤の脳裏を過ぎったのは、ツンだった。
持ち上がっていたクールの唇の端が、元の位置に戻る。
川 ゚ -゚)「──分かったよ。今日で最後にしよう」
*****
50:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:25:33.75 ID:
xmCMO2JyO
ξ゚⊿゚)ξ「今日のデートは一時間だけ? もっと楽しんでくればいいのに」
デートじゃないってば。
そう言おうとしたが、結局、首を横に振るだけに留まった。
( ^ω^)「そうそう一人にしてらんないお」
ξ゚ー゚)ξ「私なら大丈夫よ。お母さんやお父さんにだって頼れるし」
ねえ、赤ちゃん。
腹を撫でさすり、ツンは子供に話しかける。
日に日に、母親らしい振る舞いや表情が増えている。
それを見る度、内藤は、何とも言えない気持ちになった。
川 ゚ -゚)『子供なんて孕まなければ、お姉さんは──』
クールの言葉が蘇る。
心中で同意しそうになって、慌てて目をきつく閉じた。
ξ゚⊿゚)ξ「どうかした?」
( ^ω^)「……何でもないお」
怪訝そうなツンに笑みを返すと、内藤は彼女の体を支えながらリビングへ向かった。
*****
51:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:27:27.15 ID:
xmCMO2JyO
何度、空想の中で、姉の体から子供を取り出しただろう。
何度、僕と姉が一緒になるハッピーエンドを描いただろう。
結局妄想は妄想で、現実の姉は僕のことを何とも思っていない。
ただの家族としか思っていない。
ξ* ー )ξ『ふふ……』
たくさんの育児用品。
その真ん中に、姉が座っている。
お腹に手を当てて、安らかに微笑んでいる。
僕は癇癪を起こした子供のように泣き叫び、姉の周りの道具達を壊していく。
ガラスもプラスチックも、片手で握るだけで粉々になって。
布はびりびりに破れて、辺りを舞う。
ξ* ー )ξ『そんなことしたら駄目よ』
姉は僕を宥める。
僕は哺乳瓶を叩き割る。
壊したそばから、また新たな哺乳瓶やおしゃぶりやベビーベッドが出てくるものだから
僕はますます暴れ回るばかりだ。
52:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:29:54.04 ID:
xmCMO2JyO
どうして出てくるんだ。
消えてくれ。姉にはいらないものなんだから。
いらない?
いいや、必要じゃないか。
赤ちゃんが生まれたら必要になるじゃないか。
そうだ、だったら、赤ちゃんが生まれなければいいんだあんなものなんか。
ξ* ⊿ )ξ『きゃっ』
姉を突き飛ばす。
ガラスの破片を腹に刺して、刺して、裂いて、裂いて。
……ああ、お前はもうこんなに大きくなったのか。
ξ* ⊿ )ξ『あっ、ああっ!』
腹の中から抜き取ると、姉は、びくびくと体を跳ねさせた。
姉の声が僕の耳を犯す。
僕は、それから、それから──何をしたらいいんだろう。
56:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:31:30.88 ID:
xmCMO2JyO
──目を開けば、やはり視界は暗い。
僕の部屋。姉はいない。いない。
何度、空想の中で、姉の体から子供を取り出しただろう。
何度、僕と姉が一緒になるハッピーエンドを描いただろう。
結局妄想は妄想で、現実の姉は僕のことを何とも思っていない。
ただの家族としか思っていない。
『子供なんて孕まなければ』
ぐるりぐるり、言葉が回る。
本当に子供がいなくなれば、姉は、僕を見てくれるだろうか。
*****
57:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:33:24.46 ID:
xmCMO2JyO
川 ぅ -゚)「もしもし」
目元を右手で擦りながら、クールは左手に持った携帯電話を耳に当てた。
ベッドから出る気がしなくて、布団をかぶったまま応対する。
『もしもし、クー』
川 ゚ -゚)「どうしたんだ内藤君。朝っぱらから、ふった女に電話なんかして。
逃した魚は大きいと気付いたか」
『ばか。というか今は昼だお』
内藤の声を聞くのは久しぶりだった。
2週間前のデート以来。
何の用だろう。
まさか、デートのお誘いではあるまい。
『君には、姉ちゃんのことを話してたから──言った方がいいかと思って』
川 ゚ -゚)「ん……お姉さんに何かあったのか?」
『死産だお』
目が覚める。
クールは身を起こし、言葉を探した。
58:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:34:03.74 ID:q4/4kImj0
これは…
59:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:35:31.12 ID:
xmCMO2JyO
川 ゚ -゚)「あー、その、すまん、寝起きで頭が回らない」
『3日前なんだけどね。お腹の中で、赤ちゃんが死んじゃってたんだお』
川 ゚ -゚)「……んんと。あの。原因は?」
『僕は知らないお。
姉ちゃんと赤ちゃんのどっちかに問題があったのか、とか、何か起きたのか、とか、
そこまでは聞いてないから』
川;゚ -゚)「それは、……あ、お、お姉さんはどうしてる?
負担大きいだろ、体も──心の、方も」
『ずっと泣いてるお。誰が話しかけても返事しないし。
ずっと、……お腹撫でてるお』
内藤の姉ならば見たことがある。話したことも。
どちらも数回だけだが、その僅かな接触でも分かるほど明るい人だった。
そんな女性がそれほどまでに悲しんでいるということが、何だか妙に衝撃的で、
クールの思考が一層鈍くなる。
川;゚ -゚)「あ、の、」
『……』
川;゚ -゚)「あ、彼氏、お姉さんの彼氏は?」
『今はまだ、僕には分からないお』
62:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:37:39.86 ID:
xmCMO2JyO
それからいくつか会話をしたが、ろくに記憶に残らなかった。
通話の切れた携帯電話を見下ろし、クールは、内藤の顔を思い浮かべる。
彼は普段から、自身の姉のことをとても気にかけていたように思う。
少なくともクールには、そう感じられた。
姉本人は勿論のこと、彼も、ひどく落ち込んでいるだろう。
川 ゚ -゚)「……内藤君」
*****
数え切れないほどの育児用品。
その真ん中に姉が座っている。
姉の腹は、ぺしゃんこ。
姉の傍らに落ちている、赤い何か。
何か──赤ん坊。赤ん坊だ。
63:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:38:54.04 ID:ZH16/yLU0
わざわざ電話とはよほど嬉しかったと見える
64:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:39:19.54 ID:
xmCMO2JyO
ξ;⊿;)ξ
姉は、ぴくりとも動かない赤ん坊を見つめ、はらはらと涙を流している。
僕は赤ん坊の横に立つ。
邪魔なそいつを持ち上げようとすると、姉が僕の腕にしがみついてきた。
ξ;⊿;)ξ『いや、やだ、連れてかないで、私の、私の赤ちゃん連れてかないでよおっ!!』
僕から赤ん坊を奪い取り、姉は泣き声をあげる。
けたたましい声は、まるで──泣けない赤ん坊の分も引き受けたような、そんな。
ξ;⊿;)ξ『いやあああっ、あああああ! あああああ!!』
僕は戸惑う。
胎児を取り出してやれば、いつも、姉は嬌声をあげて喜んでいたのに。
いや。違う。あれは、空想の世界だから。
だから、姉は喜んでいただけで。
こうやって泣くのが普通で、当たり前で。
あれ? なら何で彼女は泣くのだろう。
空想ならば、いつもみたいに笑っていればいいのに。何で。
現実?
妄想?
65:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:41:15.32 ID:
xmCMO2JyO
僕は空想の中でしか子供を殺していない。
だから姉が泣く筈がない。
それとも僕は現実で、いや、まさか、そんなこと。
違う。僕は。殺してない。違う。
違うんだ、僕は。
あの男の子供なんかいなければいいって、ずっと思っていたけど、でも、それはあくまで妄想で、だから
『子供なんて孕まなければ』
違う。そんなの違う。だって、だって、だって。
だって分かってた。
何があったって、姉は僕を「そんな風に」見てくれない。
だから僕が現実にそんなことする筈がない。
しない。
そうだって言って、誰か、誰か僕に。
僕は。
*****
67:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:43:17.95 ID:
xmCMO2JyO
喫茶店。
僕が窓の外を眺めていると、待ち合わせの相手が来た。
時間通り。
川 ゚ -゚)「やあ、内藤君」
( ^ω^)「やあ、クー」
川 ゚ -゚)「一応言っておく。これはデートじゃない。ただ話したかっただけだ」
( ^ω^)「でなきゃ誘いに乗らないお」
川 ゚ -゚)「うん。……ありがとう」
( ^ω^)「いいお。あんまり時間ないから、手短に頼むお」
川 ゚ -゚)「分かってる。なに、お別れを言いたかっただけさ」
( ^ω^)
( ^ω^)「……お別れ?」
69:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:45:17.02 ID:
xmCMO2JyO
川 ゚ -゚)「独り暮らしを始めようと思って。明日出る」
( ^ω^)「聞いてないお」
川 ゚ -゚)「秘密にしとくように、姉さん達には口止めしといたからな」
( ^ω^)「大学はどうするんだお?」
川 ゚ -゚)「遠くはなるが、引っ越し先から通う」
( ^ω^)「えっと……何でだお? 随分と急だけど」
川 ゚ -゚)「私は、君達の近くにはいない方がいいんだ。
……とりあえず、色々と落ち着くまでは」
( ^ω^)「……よく分からないけど、クーがそうしたいんなら、それでいいんじゃないかお。
第一、明日出ていくなら止めても仕方ないし」
川 ゚ー゚)「ああ、理解があって助かる。ありがとう。……ひとまず、さようならだな」
( ^ω^)「おー……」
沈黙。
他のテーブルから、客の話し声が聞こえてくる。
71:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:47:24.68 ID:
xmCMO2JyO
( ^ω^)「──この間は、この間って言っても一ヶ月近く前だけど、ごめんお。
寝起きにショッキングな話聞かせて」
川 ゚ -゚)「あー、あれ……お姉さんは大丈夫か?」
( ^ω^)「彼氏さんが両親振り切って、姉ちゃんに付きっきりになってるお。
元気になったら、前にクーが言ったみたいに、逃避行とかするかも」
川 ゚ -゚)「そうか。
……まあ、あの話を聞けて、良かったのかもしれない」
( ^ω^)「そうかお?」
川 ゚ -゚)「ああ」
( ^ω^)「……。なら、僕も良かったお。
前に、君のお姉さんが言ってたんだお。
クーは昔から男の子っぽかったから、ちゃんと結婚とか出来るか心配、って」
川 ゚ -゚)「……余計なことを」
( ^ω^)「昔は一人称も『僕』で、本当に男みたいだったとか」
川 ゚ -゚)「今は『私』って言ってるぞ」
( ^ω^)「でも口調は男っぽいお」
川 ゚ -゚)「……まあ、そうだけど」
72:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:49:22.69 ID:
xmCMO2JyO
( ^ω^)「少しずつ女の子っぽくなってきて安心した、とも言ってたお、お姉さん。
だから僕、あんな話聞かせて、妊娠ってものに幻滅しないかって
不安だったんだお」
川 ゚ -゚)「安心しろ、妊娠したくないなんて思ってないから」
(;^ω^)「あー、本当に良かった……もし悪影響与えてたらツンに怒られるとこだったお」
川 ゚ー゚)「尻に敷かれてるよなあ」
(;^ω^)「やかましいお」
僕は笑って、テーブルの下、内藤君の足を爪先で小突く。
内藤君は、テーブルの上で僕の手の甲を抓った。
くすくす、笑い合う。
川 ゚ー゚)「ま、とりあえず話は終わりだ。
姉さんのために、早く帰ってやれ」
( ^ω^)「分かったお。じゃあ、まあ、お達者で。困ったことがあれば言ってくれお。
……あ、クーも帰るなら、車で送るお?」
川 ゚ -゚)「ケーキ食べたいから残るよ。
──ほらほら、早く行かないと『義兄さんは浮気者だ』って姉さんに言うぞ」
(;^ω^)「やっ、やめてくれお! 浮気じゃないし!」
74:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:50:43.76 ID:Se51NwDh0
義兄??
75:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:51:19.99 ID:75aceif20
義兄?
76:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:51:40.55 ID:
xmCMO2JyO
川 ゚ー゚)「冗談だよ冗談」
笑えないなあ。
呟いて、内藤君は溜め息をつく。
それから立ち上がり、財布から取り出した五千円札をテーブルに置いた。
「お釣りはあげる」と言う内藤君に、僕は頷いておいた。
餞別としてもらっておこう。
これくらいは許されてもいい筈だ。
川 ゚ -゚)「出産予定日は来月だっけか」
( ^ω^)「だお。……姉ちゃんのことがあるから、なかなか素直には祝えないけど」
川 ゚ -゚)「……君のお姉さんの子供と、君達の子供は違うだろう。
祝って、喜んで、目一杯愛してやってくれよ」
僕は、内藤君の目を真っ直ぐに見上げる。
──彼が、ずっと憎かった。
川 ゚ -゚)「姉さんを、……ツン姉さんと赤ちゃんを、よろしく頼む。義兄さん」
彼はしっかりと頷いて、そして、店を出ていった。
その背が人混みに紛れるまで、じっと眺め続ける。
77:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:52:01.96 ID:3VSWU97eO
ん? でもブーンは内藤のあだ名なんじゃあ…
79:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:53:58.22 ID:l7Bp2uzZ0
これは……
終わった後もう一度読み直したくなる系の話か
80:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:54:06.70 ID:3VSWU97eO
ああでもあの書き方なら別に僕がブーンじゃなくていいのか……
よく出来てるな
81:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:54:56.08 ID:
xmCMO2JyO
彼が見えなくなった後、僕は店員にコーヒーとチーズケーキを頼んだ。
ストロベリーソースは抜き。
店員が去ってから、拗ねたように頬杖をつく。
川 ゚ -゚)「……」
彼が憎かった。
妊婦を置いて義妹とデートするような男なのだと、姉に思い知らせたかった。
なのに姉は、毎回僕に電話して、「彼に息抜きをさせてくれてありがとう」と言う。
妻がいるのに義妹に靡くような男なのだと思い知らせたかった。
なのに彼は、いつだって一線引いて、僕に恋愛感情など抱かなかった。
僕には、邪魔など出来なかった。
今まで彼が憎かったし、今も少し憎い。
でも、以前ほどではない。
彼と、彼の子供がいなければ、姉は幸せになれないのだから。
僕はもう、夜に残酷な妄想などしないだろう。
もう必要ない。妄想しなくても、死にやしない。
してはいけない。
84:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:55:58.02 ID:ABTcb92sO
クー本来の一人称が「僕」だったのか……ミスリードとはな
85:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:56:45.11 ID:
xmCMO2JyO
川 - )
俯く。
鼻と目元に熱が集まって、ちりちりと鼻の奥が痛んだ。
僕は。
川 ; -;)
86:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:57:24.34 ID:
xmCMO2JyO
僕は、姉を愛していた。
88:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:57:49.40 ID:
xmCMO2JyO
終
87:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:57:47.51 ID:Se51NwDh0
ちょっと最初から読み直すわ
90:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:58:57.29 ID:3VSWU97eO
乙
この手の奴は上手いと何回読んでも騙されるから困る
83:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:55:25.53 ID:H4jMKiQhO
よく作り込まれてるな…すげぇ
78:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 21:53:43.11 ID:ABTcb92sO
人物相関はどうなってるんだ?
94:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 22:03:32.79 ID:
xmCMO2JyO
以上です
読んでいただき、ありがとうございました
昨日思い付いて急いで書いた突貫工事なので、ミスがあるかもしれない
質問・指摘等ありましたらお願いします
>>78
※以下ネタバレ
ξ゚⊿゚)ξ→クーの姉。旧姓素直。母子共に健康
( ^ω^)→ツンの旦那
内藤姉→内藤の姉。ツンではない
96:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 22:07:07.04 ID:ABTcb92sO
>>94
「姉」とツンは別人か……
クーの一人称といい引き込むのが上手いな作者
タイトルの時点でミスリードを誘ってるんだな
91:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 22:00:17.38 ID:q4/4kImj0
騙されたぜ…
乙
97:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/18(水) 22:07:25.63 ID:l7Bp2uzZ0
>>1を見て、
これネタバレじゃん、グロ展開あるんだろ、
ネタバレになる場合は無理して注意書きしなくてもいいのに
と思っていた。すっかり騙された
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