1:
◆nhOlG52djOLr 2018/11/10(土)22:26:07
ID:3VW
「ん? あの人? 気にしなくていいよ。宇宙人だから」
プロデューサーのあのコトバは今でも忘れらんない。
同じ国に住んで、同じコトバを話しているのに、話が通じない人のことを宇宙人って言うみたい。
子供の頃実在するのかと一晩中頭を悩ませた存在は、仕事ができないただのおじさんだった。
なんかがっかりしたような、ほっとしたようなそんな気持ち。
もちろん目の前にホンモノの宇宙人が現れても困るんだけど、いないと思うとちょっと寂しい。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄宇宙人。
アタシは一人のおじさんのことを頭に思い浮かべる。
2:
◆nhOlG52djOLr 2018/11/10(土)22:28:09
ID:3VW
「おねーちゃーん、おはよー」
寝ぼけ眼をこすりながら洗面所に来る莉嘉。
アタシはちょうどメイクを終えてばっちりカリスマに変身。
「朝からすごいね」
「寝ぼけた人に言われても嬉しくないっての。ほら、早く顔洗っちゃいな」
「ふぁーい」
今日は金曜日。学校行って、レッスンを終えたら、土曜日は久しぶりのオフだ。アタシにしては珍しく何も予定が入ってない。
何、しよっかな。
「おはよう美嘉。今日もばっちりね」
朝御飯を食べるためにリビングに行くと、ママに声をかけられた。
「でしょ?」
パチリとウィンクをすると、ママも負けずにウィンクを返す。うん、やっぱりアタシのママだ。
上機嫌なところに飛び込んでくるのは耳障りな新聞の擦れる音。
「…………」
今日も我が家は宇宙人の侵入を許している。
「……。行ってきまーす!」
アタシは朝食をかけこんで飛び出すように家を出た。
いつからだろう。
アタシのパパがいなくなってしまったのは。
3:
◆nhOlG52djOLr 2018/11/10(土)22:30:57
ID:3VW
城ヶ崎家はちょっぴり特殊だと思う。
カリスマJKアイドルのアタシ。
同じくカリスマJCアイドルでかわいい妹の莉嘉。
アタシらに負けないくらい美人なママ。
そして、宇宙人。
アタシの知ってるパパはどこか遠くへ行っちゃった。
別にパパに会いたい訳じゃないけど、それでも宇宙人が家にいるのは困る。
なんていうか、うん、イライラする。
宇宙人はアタシに怯えてるみたいだ。
何か話しかけようと口をモゴモゴするんだけど、結局何も言わない。
アタシのことを見てるくせに何も言わないんだ。
言いたいことがあるなら素直に言えばいいのに。
宇宙人のことを考えるとやっぱりイライラする。
4:
◆nhOlG52djOLr 2018/11/10(土)22:33:35
ID:3VW
「でさー、ウチの親がマジうざくて」
ムカムカした気分も学校に行けば吹き飛ぶ。友達の他愛のない話を聞いてるだけでアタシは楽しくなってくるんだ。
「てかさ、美嘉のとこはどうなん?」
「アタシ? ママとは仲良しだよ?」
「え!? ウザくないの?」
「全然。アタシが何しようとちゃんと認めてくれるしね★」
「えぇー、いいなー。ウチのクソババアマジウザくてさ」
「ウチは父親の方がやばい。キモい。キモくて臭い。うるさいし」
「それ分かるっ! ウチなんて化粧しただけで説教だよ? 今時のJKなんてみんなメイクしてるっつの」
友達の話を聞いて少し思い出した。パパがいなくなったのはアタシが化粧をしだしてからだ。
…………あれ? アタシ、なんでメイクし始めたんだっけ?
「美嘉? 聞いてる?」
「え? あ、ゴメンゴメン★ ちょっとぼーっとしてた」
胸の中に生まれた疑問は、わたあめみたいに膨れ上がっていく。
5:
◆nhOlG52djOLr 2018/11/10(土)22:37:50
ID:3VW
「宇宙人との話し方ぁ?」
学校が終わって今は事務所。忙しく仕事をしてるところ悪いけど、プロデューサーに話し相手になってもらってた。
「そ。前にプロデューサー言ってたじゃん? 宇宙人とも仕事しなきゃいけないんだーって。……なんでキョロキョロしてんの?」
「いや、ユッコを探してた」
「何で?」
「美嘉がおかしいからだ。これはきっとあいつのサイキックかカネゴンの仕業に違いない」
「まぁ裕子ちゃんは置いといて。プロデューサーってちひろさんのこと好きだよね」
「憎たらしくて逆に愛してる」
「どれくらい?」
アタシのことを見ずにパソコンとにらめっこするプロデューサーは気の抜けた声で返事をした。
「一生かけて愛したいくらいー」
「だって、ちひろさん」
「でぇっ!?」
プロデューサーが大きく身体を震わせて入り口を見ると、おぞましい顔で首を振るちひろさんが立っていた。
6:
◆nhOlG52djOLr 2018/11/10(土)22:41:57
ID:3VW
「お断りします」
「あ、てめ、ちっひ! 俺だってお断りだっ!」
「いますよね、振られた後逆上するダサい男って」
「はぁ? 振られてねぇし。逆に俺がお断りだし。お断り予約してるし。ハイパーお断りだし」
「くだらないこと言ってないで仕事してください非モテ社畜」
「お前もさっさと仕事に戻れ鬼畜カネゴン!」
あーあ、始まっちゃった。長くなりそうだ。
そそくさと事務所を去ろうとすると、プロデューサーから声をかけられる。
「あ、美嘉! こないだの仕事決まったぞ!」
「え? マジッ!?」
「マジもマジだ。詳細はメールで送っとく。俺からも連絡するけど、親御さんに確認とっておいてくれ」
「ありがとうプロデューサー! 大好き!」
それだけ言って駆け出した背中に二人の言い合いが聞こえる。ほらモテただの、気のせいだの、ぶっちゃけ今のアタシにはそんなの関係ない。
今、すごく胸がときめいてる。
アタシ、アイドルしてるんだ!
7:
◆nhOlG52djOLr 2018/11/10(土)22:44:49
ID:3VW
「あ、美嘉ちゃんだ!」
事務所から出たタイミングでちょうどよくみりあちゃんに会う。
「やっほ。お迎え待ち?」
「そうなの。お母さんが来るまで待ってるんだー!」
夕方とは言え事務所の前。まだまだ人通りが多いから少し気になっちゃう。
「一人で待つの辛くない? アタシも一緒に待とうか?」
「ううん、お母さんいま妹のお世話で大変だから、みりあ我慢できるよ」
「そっか。みりあちゃんも立派なお姉ちゃんだね」
「そうかなぁ?」
「そうだよ★」
胸を張るみりあちゃんを見るとつい昔のことを思い出す。
莉嘉がまだ小さかった頃、お迎えはいつもパパが来てくれたっけ。
くだらないことを思い出して胸がちくっと痛んだ。
8:
◆nhOlG52djOLr 2018/11/10(土)22:46:21
ID:3VW
「あ、そうだ! 美嘉ちゃん、明日って空いてる?」
「ん? 空いてるけど……どうしたの?」
「明日、みりあのお家に来ない? 妹のこと見せたいんだ!」
「マジ!? 行く行く!」
思いがけないところで予定が埋まった。
「じゃあ、また後で連絡するね。あ、お母さんだ! 美嘉ちゃん、ばいばーい!」
「うん、ばいばーい」
そういって手を振り返すと、みりあちゃんは満面の笑みで車に向かっていった。
仕事も決まるし、みりあちゃんの家にも行ける。
うん、なんかアタシ、今日めっちゃついてるかも!?
9:
◆nhOlG52djOLr 2018/11/10(土)22:48:57
ID:3VW
「ただいまー」
みりあちゃんと別れて家に帰ると、ママのおいしいご飯が待ってくれていた。
「お帰り美嘉、遅かったわね」
「おねーちゃんおかえりー」
ご飯支度をするエプロン姿のママと、ぐでーっとソファーに寝転がる莉嘉。宇宙人はまだ帰ってきてないみたい。
「うん、プロデューサーと仕事の話してた」
「あらそうなの?」
「聞いてよママ! やりたかった仕事が決まったんだよ!」
「よかったわねぇ。あ、パパが帰ってきたみたい。ご飯にしましょ」
「えぇ? アタシの話は?」
「ご飯の時聞いてあげるから、さっさと手洗って来ちゃいなさい」
「はーい」
洗面所に行くときに宇宙人とばったり出くわす。
……やっぱり何も言わない。
アタシも声をかけずに洗面所へ向かった。
ムカムカする気持ちは大きくなるばかりだ。
10:
◆nhOlG52djOLr 2018/11/10(土)22:53:08
ID:3VW
いただきますのカルテットが響き、楽器たちがかちゃかちゃと音を立てる。
口に運んだコーンスープ。うん、ママの料理はやっぱり美味しい。
「でねー、明日も事務所で ̄ ̄」
週末だからか、莉嘉はご機嫌だった。本当ならアタシも入っていきたいんだけど、なんか気が引けてしまう。
「美嘉、そういえばさっき」
「ん?」
「お仕事決まったっていってたでしょ? どんなの?」
莉嘉の話もそこそこに、ママがアタシに話を振る。
問題なしの一家団欒。アタシたちは三人家族。
「水着のやつ! 結構前から気に入ってるブランドでさ、プロデューサーにずっとお願いしてたんだ~」
「あー! お姉ちゃんずるい!」
「ずるくないの。悔しかったらあんたも話ししてみなさい」
「ヴぇー。だってPくん話聞いてくれないんだもん」
「そりゃ莉嘉の話が長いからでしょ」
頬を膨らませてみたって仕方がない。仕事を取って来てくれるのはプロデューサーだ。
「あらあら。よかったわねぇ。あなた?」
ママは、例の宇宙人をちらりと見て、苦い笑みを浮かべた。
11:
◆nhOlG52djOLr 2018/11/10(土)22:57:56
ID:3VW
……まただ。
少し過激な仕事の話になると、毎回ママは宇宙人の反応を窺う。
別に何も言わないくせに。アタシの仕事になんか興味ないくせに。
アタシに何も言えないくせに。心配すらしてないくせに。
「…………………………そうだな」
ぼしょりと声が響く。全身に鳥肌がたった。
「ごちそうさま」
「あ、美嘉?」
これ以上この場に居たくない。こいつの顔を見るのも、声を聞くのもお断りだ。
「もうお腹いっぱい。上いってるから」
そういってリビングを出ようとしたその時。
「美嘉」
名前で呼ぶな気色悪い。
「…………よかったな」
全身の血が突沸して煮えたぎった。
12:
◆nhOlG52djOLr 2018/11/10(土)23:01:01
ID:3VW
「ふっざけんなッ!!!」
バンっと音がなった。右手のひらがジンジンする。
莉嘉もママも怯えた顔でアタシを見てた。壁を叩いた手が痛い。
「お、お姉ちゃん?」
「思ってもないこと言わないで。ホントはアタシがアイドルやってるの気に食わないんでしょ!?」
「美嘉!」
ママの声なんか聞こえない。今はこいつに言ってやんなきゃダメなんだ。
「言いたいことがあるなら言ってよ! あんたなんか大っ嫌い!」
それだけ言って走り出した。
胸がムカムカする。下顎はぷるぷると震えていた。
父親なら、パパなら、なんか言ってみてよ。
露出が激しい仕事は断れって、お前が大事なんだって。
父親なら言ってみてよ。
どうにもならない悔しさを抱えて、アタシはベッドに倒れこんだ。
どのくらいそうしていただろう。何も聞こえない。音がしない。
それでもってアタシは確信する。
この家にアタシのパパはいない。もう死んじゃったんだ。
滲んだ涙を擦って拭うと、アイシャドウがぼやけた。
アタシは化粧も落とさずに、そのまま眠りについた。
13:
◆nhOlG52djOLr 2018/11/10(土)23:06:34
ID:3VW
「 ̄ ̄ ̄ ̄美嘉ちゃん?」
みりあちゃんの声で我に返った。ちょっと飛んでたみたいだ。
今日は土曜日。約束通りみりあちゃんの家にお邪魔していた。
妹ちゃんを抱えながら、みりあちゃんが首をかしげる。アタシはすぐ笑顔を作って取り繕った。
「ごめんね。なんの話だっけ?」
「うーん? あ、妹の話!」
「そっかそっか。どう? お姉ちゃんって大変でしょ?」
「でも、みりあなんとかできてるよ!」
妹ちゃんがすぐ近くにあるみりあちゃんの顔に手を伸ばす。ひょいっと避けても諦めない。それがなんだか面白かった。
「すごいよねー。この子って家族なんだよね」
「そうだね。みりあちゃんが守らなきゃダメなんだよ」
「たいへんだ。でも腕が疲れてきた……」
「代わろっか?」
「うん!」
みりあちゃんから手渡された彼女を、優しく抱きかかえる。
あったかい。柔らかくて少し硬い。顔を近づけるとミルクの匂いが香る。
14:
◆nhOlG52djOLr 2018/11/10(土)23:09:26
ID:3VW
「……すごいね。生きてるんだね」
「ねー、美嘉ちゃん。今でも莉嘉ちゃんと喧嘩する?」
「喧嘩? 毎日してるよ」
「美嘉ちゃんは莉嘉ちゃんのこと嫌いなの?」
「好きでも嫌いでもないよ。ていうか、莉嘉はもうよくわかんないなぁ」
「そういうものなの?」
「莉嘉がどう思ってるかはわかんないけどね。でも大事な存在だよ」
莉嘉のことが好きか。そんなこと考えたこともなかった。
嫌いだって思うことはある。何回でもある。でも、好きって強く思うことはあまりない。
きっと思ってるのかもしれないけど、あんまり覚えてないんだ。
「みりあもいつか喧嘩するのかなぁ」
「どうだろうね? みりあちゃんならしないんじゃない?」
「ほんと?」
「ホントホント。いつだって損するのは上の子なんだから、みりあちゃんが我慢すれば喧嘩なんかしないよ」
「そうかな?」
「うん。ムカつくことあっても、黙ってればそのうちなんとかなるよ」
嫌なことがあっても我慢しちゃえばいい。そうすれば喧嘩なんて始まらない。
互いに傷つかない、そんな世界だ。
15:
◆nhOlG52djOLr 2018/11/10(土)23:11:51
ID:3VW
「うーん、でも、それってやだな」
「え?」
「嫌なときは嫌って言いたい」
「喧嘩になっても?」
「うん。たくさん喧嘩して、嫌なことしないようにするの。そうすれば美嘉ちゃんたちみたいに仲良しになれるよね?」
「アタシたちが?」
「みりあ、いっつも羨ましいなって思ってたんだ。美嘉ちゃんみたいなお姉ちゃんがいたらなぁって」
「アタシなんて……」
「だって莉嘉ちゃんいっつも言ってるよ? お姉ちゃんはすごいって。みりあもそんなお姉ちゃんが欲しいから、そういう美嘉ちゃんみたいになるの!」
「アタシみたいに……?」
「うん! そしたらこの子も、みりあのこと好きになってくれるかな?」
ぷにぷにと人差し指で頬を突く。ふにゃあと口を開けて顔をひねった。
たくさん喧嘩して、言いたいこと言って、仲良しになる。
なぜか、アタシの胸の奥深くに突き刺さった。
16:
◆nhOlG52djOLr 2018/11/10(土)23:17:38
ID:3VW
「ただいまー」
みりあちゃんの家を出たあと、寄り道する気にもなれずに家に帰った。
靴の数が少ない。莉嘉は帰ってないみたいだった。
「おかえりなさい」
リビングにはママだけだった。テーブルの上に何かを出して一人で見ている。
昨日のこと、まだちゃんと謝れてない。
「……ママ、あのね」
「美嘉」
ママは怒ったようなそぶりを見せずに、お茶目に手をこまねいた。
訳も分からずアタシはママの隣に座る。
ママが見ていたのは、昔のアルバムだった。
17:
◆nhOlG52djOLr 2018/11/10(土)23:22:44
ID:3VW
「大きくなったねぇ……」
写真を見ているはずなのに、どこか遠くを眺めるような目でママは呟く。
そこに写っているアタシはいつも笑顔だった。
昔は見るのが恥ずかしかったけど、仕事柄もう慣れてしまった。
もっとこうしたらいいんじゃない? と過去のアタシにアドバイスしたくなっている自分に気づいて、苦笑いが溢れる。
「昔からアイドルになりたかったの?」
「……わかんない。でも憧れてたとは思う」
「ママね、美嘉が憧れてたもの、もう一つ知ってるわよ」
「何?」
「お嫁さん」
昔のアタシはとんでもなく大胆だったみたい。
18:
◆nhOlG52djOLr 2018/11/10(土)23:24:21
ID:3VW
「お、お嫁さん? 誰の?」
「決まってるじゃない。パパのよ」
「ははっ。何ってんだろ、昔のアタシ」
アルバムをめくるママの手が止まった。そのページには一枚の写真が飾られてある。
「うっわ……ママ綺麗…………」
それは、ママの結婚式の写真だった。アタシが大好きだったパパと一緒になって写っている。
二人とも若い。ウェディングドレスとタキシードがお似合いだった。
「この写真、覚えてない?」
「うん?」
「これみてね、美嘉が大泣きしたの」
「そんなことあったっけ」
「あったわよ。美嘉がパパと結婚するのーって大泣きしたわ。大変だったなぁ」
「む、昔の話でしょ!」
「くすくす。それで美嘉、次に何したか覚えてる?」
目を閉じて記憶の糸を手繰り寄せる。何か霞みがかって思い出せない。
19:
◆nhOlG52djOLr 2018/11/10(土)23:27:48
ID:3VW
「はーい、時間切れ。答えは次のページ」
そういってママはアルバムをめくった。
『初めてのお化粧』とタイトルがつけられたそれは、アタシのドアップ写真。
カリスマギャル6歳、最初のメイク。
ファンデをつけず、リップをぐちゃぐちゃに塗っているアタシの姿。
「ママよりも綺麗になってパパのお嫁さんになる。そういってお化粧してたのよ」
アタシは全部思い出した。
20:
◆nhOlG52djOLr 2018/11/10(土)23:30:35
ID:3VW
ママのことが好きだった。
それ以上にパパのことが好きだった。
パパ大好きっていうと、嬉しいって言われる。
パパは? って聞くと、パパもだよって言われる。
ママよりも? って聞くと、困ったような顔で笑う。
それが嫌だった。その顔が大嫌いだった。
だからママよりも綺麗になろうって、そう思って、そこから ̄ ̄ ̄ ̄。
「最近言うのよ。美嘉がママに似てきたなって」
「だから緊張してよく話せないって」
「自分の娘なのに、おかしい話よね」
「本当は水着姿なんて誰にも見せたくないはずなのに」
「でも美嘉に嫌われたくないから、無難なことしか言えないんだって」
21:
◆nhOlG52djOLr 2018/11/10(土)23:33:43
ID:3VW
胸がきゅーっとなって、どんどんアルバムがぼやけてきた。
そうだ。宇宙人なんかじゃない。
二人とも我慢してたんだ。
言いたいことたくさんあったくせに、触らないようにしてきてたんだ。
言うと喧嘩になるから。互いに傷つきたくないから。
だから二人とも気持ちを押し殺したんだ。
パパはパパだ。アタシが勝手に宇宙人だと思ってただけなんだ。
そう思ったら急に胸が痛くなって、ボロボロと涙が落ちてきた。
「美嘉は、パパのこと好き?」
「あ、アタシは…………」
アルバムの中のアタシはいつも勝気に笑ってて、パパに抱きついてる。
それをみて、一つの気持ちが浮かんできた。
「アタシは!」
22:
◆nhOlG52djOLr 2018/11/10(土)23:36:56
ID:3VW
「おっす美嘉ー。どうだ、調子は?」
一晩経って日曜日。レッスンの休憩中にプロデューサーに声をかけられた。
「バッチシ! どうしたの?」
「ちっひと喧嘩したから逃げてきた。あいつマジで泣かす」
「とりあえず涙拭いたら?」
「泣いてねぇし。全然泣いてねぇし」
「はいはい」
そういってプロデューサーはワイシャツの裾で涙を拭う。
「親御さんと話ししたか?」
「うん。了解もらったよ」
「そっかそっか。てか、このままこの路線で行くのか? 俺としては少し心配なんだが」
「アタシのコト、独り占めしたい?」
「照れるなら恥ずかしいセリフ言うなよ」
「ふ、ふん! ……ばか」
いつまでたっても、アタシはこの人に勝てないらしい。
23:
◆nhOlG52djOLr 2018/11/10(土)23:39:01
ID:3VW
「あんさ」
「どした?」
「やりたい仕事あるんだけど……これ」
そういってアタシはプロデューサーにスマホを渡す。
「ブライダルぅ? 美嘉にしては珍しいな」
「まぁイメチェンっていうか、復讐っていうか、泣かせたいっていうか」
「泣かせる? 誰をだよ?」
「ひーみつ! ほら、休憩終わりだから。考えといてね」
「あ、お前! ちょっ、おい!」
24:
◆nhOlG52djOLr 2018/11/10(土)23:43:42
ID:3VW
何から始まっただなんてどうでもいい。
アタシはカリスマ、みんなの憧れ。
しょーもないおじさんがメロメロになったって仕方ないんだ。
アタシはまだまだ進んで行く。
そしていつか後悔させてやるんだ。
逃した魚は大きかったってことを。
アイドルをやる理由が一つ増えて、今日もアタシはレッスンに励む。
終わり
元スレ
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