1:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/05/23(水) 21:04:31.11
ID:Y4eryNBP0
ゴチャゴチャ… グチャグチャ…
「あのゴミ屋敷、いつ見てもきったねーよな」
「たしか、おじいさんの一人暮らしでしょ?」
「もう四年以上、あの状態だよな……どうにかなんないの?」
「火災が発生したら怖いわ……」
「役所の対応が遅すぎんだよ! 何かあってからじゃ遅いっての!」
役人(市民の不満が高まってる……)
役人(今日こそ何とかしなくては……!)
2:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/05/23(水) 21:06:46.54
ID:Y4eryNBP0
役人「家主さん」
老人「なんじゃ?」
役人「今日という今日こそ、このゴミ屋敷を片付けて下さい!」
老人「絶対イヤじゃ!」
役人「なぜですか?」
老人「ここはワシの家じゃ。ワシの家でワシがどうしようが、ワシの勝手じゃ!」
3:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/05/23(水) 21:07:36.13
ID:Y4eryNBP0
役人「しかし、周りの人はみんな不安がってるんですよ!」
役人「虫が湧くんじゃないかとか、火災が起こるんじゃないか、とか」
老人「ワシはそんなヘマはやらん。勝手に不安がらせておけばよい」
役人「じゃあ聞きますが、たとえばあの折れた傘、なんでちゃんと捨てないんです?」
老人「折れてるとはいえ、まだ使えるからのう。もったいないじゃろ」
役人「切れた電球を放置してる意味は?」
老人「感謝の気持ちのあらわれじゃ」
役人「あの積み上がったゴミ袋、どう見ても危ないですよね」
老人「ちょっとしたオブジェのようで、オツじゃろ?」
4:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/05/23(水) 21:09:13.82
ID:Y4eryNBP0
役人「はぁ……いくらいっても無駄なようですね」
老人「そうじゃ、とっとと帰れ」
役人「残念ながら、そうはいきません」
老人「なんじゃと?」
役人「実は先日、こんな条例ができたんです」
役人「ざっくりいうと“役所はゴミ屋敷を強制的に片付けていい条例”です」
老人「なにぃ!?」
5:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/05/23(水) 21:11:22.33
ID:Y4eryNBP0
役人「というわけで、今日という今日は覚悟してもらいます」
役人「強制執行させてもらいます!」
役人「まずはこのゴミ袋を片付けてしまいましょう!」ガシッ
老人「や、やめろぉっ!」
役人「やめるもんですか!」ポイッ
老人「あ、あああ……やってしもうた……」ガクッ
役人「なにを大げさな……」
6:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/05/23(水) 21:13:32.84
ID:Y4eryNBP0
ゴゴゴゴゴ……!
役人「…………!?」
役人「な、なんだこの揺れは!?」
老人「封印が……解けるのじゃ!」
役人「封印……? なんの?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!
ズオッ!!!
7:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/05/23(水) 21:15:37.96
ID:Y4eryNBP0
魔神「フハハハハ……! 我、目覚めたり……!」
役人「なんだこいつは……!? まるでゲームに出てくる化け物じゃないか!」
老人「人類を滅ぼさんとする魔神じゃよ……」
役人「魔神!?」
役人「なんだって、そんなもんが出てきちゃったんですか!?」
老人「少し前の話になる」
8:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/05/23(水) 21:19:21.48
ID:Y4eryNBP0
老人「ワシは、人類を滅ぼさんとするあの魔神と戦った」
役人「へ……!?」
老人「しかし、実力では到底かなわず、どうにか封印するのが精一杯じゃった」
老人「しかも、その封印はある種の祭壇を作らねばすぐ破られてしまう」
老人「仕方ないので、ワシはあちこちから自宅にガラクタを集め、祭壇の役割を果たすよう組み立て」
老人「魔神を封印したのじゃ……」
役人「え、ちょっと待って下さい! じゃあもしかして、あのゴミ屋敷は……」
老人「うむ……魔神封印のため、ゴミを組み立てた結果、ああなってしまったのじゃ」
老人「だから、あの配置をいじるわけにはいかんかったんじゃ」
役人「なんですってえええええ!?」
9:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/05/23(水) 21:21:12.40
ID:Y4eryNBP0
老人「53ヶ月の間、魔神を封印すれば、魔神に人間界にとどまる力はなくなり」
老人「元いた魔界に送り返すことができる……はずだったんじゃが」
役人「53ヶ月……」
役人「たしかあなたが家をゴミ屋敷にしてから、四年以上経ってるんでしたよね?」
老人「うむ」
役人「一年は12ヶ月だから48ヶ月経ってたのか……って」
役人「あと少しだったじゃないですかぁぁぁぁぁぁ!!!」
老人「そうなんじゃよぉぉぉぉぉぉ!!!」
10:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/05/23(水) 21:22:47.66
ID:Y4eryNBP0
役人「なんで!? なんで説明してくれなかったんです!?」
役人「説明してくれれば我々だって――」
老人「では聞くが、“魔神を封印してるからゴミ屋敷はこのままにしてくれ”といったら」
老人「信じてくれたか?」
役人「う……ちょっと無理かも」
老人「絶対“頭のおかしいジジイ”と思われるじゃろうが!」
老人「“頑固なジジイ”ならまだしも“頭のおかしいジジイ”にされると」
老人「ゴミ屋敷を強制的に清掃されるおそれがある。だからいえなかったんじゃよ!」
役人「でも、でも……もっといいやり方絶対あったと思う!」
老人「あったとしても、もう遅いわぁぁぁ!」
11:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/05/23(水) 21:25:08.49
ID:Y4eryNBP0
魔神「おしゃべりはもういいか?」
魔神「そろそろ人類というゴミを、地球から掃除してやろう……!」ゴゴゴゴゴ…
役人「ひ、ひいい……!」
老人「こうなったらやるしかないわい!」
役人「やるって、まさか!?」
老人「もちろん戦うんじゃよ、魔神と。もう封印は通用せんじゃろうから、倒すしかないわい」
12:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/05/23(水) 21:27:28.40
ID:Y4eryNBP0
老人「久々に愛刀“狼刃”の出番じゃな」ジャキッ
役人「おおっ、すごそうな刀ですね!」
老人「ニホンオオカミの牙から作ったこの名刀……受けてみい、魔神よ!」
老人「老人奥義・“根他斬り”!!!」
ズバァッ!
魔神「…………」
役人「や、やったぁ!」
13:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/05/23(水) 21:29:59.32
ID:Y4eryNBP0
魔神「フン、この程度か」シュゥゥゥ…
老人「効いておらんじゃと!?」
魔神「かつて、実力でかなわぬから封印などという手段に走ったというのに」
魔神「今さら真正面から仕掛けてくるとはな……貴様、ボケているのか?」
老人「そういえば、このところ物忘れが激しく……」
魔神「ゴミめ! ゴミはゴミらしく、燃やしてくれよう! 魔神の火炎で燃え尽きよ!」
ゴワアァァァァァッ!!!
老人(こ、ここまでか……!)
14:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/05/23(水) 21:31:46.66
ID:Y4eryNBP0
役人「お役所仕事・“たらい回し”!」ズバババッ
ボワッ!
魔神「む……!? 炎が散らされた……!?」
役人「俺は大抵の攻撃なら、こうやって受け流すことができる……」
老人「お、お前さん……!」
役人「家主さん、魔神が復活してしまったのは俺の責任です。俺も手伝わせて下さい!」
老人「感謝する!」
魔神「愚かな! ゴミが二つになったところで、我に敵うわけなかろう!」
15:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/05/23(水) 21:34:35.54
ID:Y4eryNBP0
魔神「燃えないゴミならば、砕いてくれる!」
魔神「この鉄槌でなァ!」グオオオオッ
役人(こんな重量はさすがに受け流せない!)
老人「ワシに任せよ! “老頑強”!」カチンッ
ガキンッ!
役人「すごい! 体を硬化させて、あの鉄槌を受け止めた!」
老人「伊達に頭の固いジジイをやっとらんわい」
魔神「ぬう……!」
老人「今度はこっちの番じゃ! 武器はあるか!?」
役人「この最強のお役所武器・“杓子定規”があります!」ジャキッ
老人「よく斬れそうな定規じゃ……ゆくぞっ!」
役人「はいっ!」
16:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/05/23(水) 21:37:32.55
ID:Y4eryNBP0
老人「ぬおおおおおおおおおっ!!!」ズバババババッ
役人「でやああああああああっ!!!」ズバババババッ
魔神「ぐっ、ぐおおっ……!」
魔神「ゴミどもが……! 図に乗りおってぇぇぇ……!」
魔神「こうなれば……!」
ゴゴゴゴゴゴ……!
役人「じ、地面が!」
老人「盛り上がってゆく!」
17:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/05/23(水) 21:39:06.27
ID:Y4eryNBP0
魔神「まとめて埋め立ててくれるわぁぁぁっ!!!」
ドババババァァァァァァァッ!!!
役人「うわぁぁぁぁぁっ!」
老人「地面が高波となって……!」
――ズザァンッ!!!
18:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/05/23(水) 21:40:48.46
ID:Y4eryNBP0
シーン…
魔神「フン、終わった……」
魔神「しょせん人間はゴミなのだ!」
魔神「これから、そのゴミをこの地球上から根絶やしにしてくれるわぁぁぁぁぁっ!!!」
魔神「フハハハハハハハ……!!!」
19:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/05/23(水) 21:42:40.34
ID:Y4eryNBP0
ムクムク…
役人「ま、まだだ!」ボコッ
老人「まだ生きとるぞ!」ボコッ
魔神「……な!?」
魔神「なんとしつこいゴミどもだ! せっかく埋め立ててやったのに、這い出てくるとは!」
役人「さすが魔神……人間じゃ及びもつかない力を持っている……」
役人「だけど俺たちは……人間は……ゴミなんかじゃない!」
魔神「なんだと?」
20:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/05/23(水) 21:45:30.16
ID:Y4eryNBP0
魔神「人間はゴミじゃないだと!? ほざくな!」
魔神「自然を汚し、他の生き物を排除し、挙げ句、人間同士でも争い合う!」
魔神「こんな迷惑をかけまくる存在の、いったいどこがゴミじゃないというのだぁっ!」
老人「しかし、人は変わることができる!」
老人「自然を慈しみ、他の生き物を愛し、助け合う人間がいるのも事実じゃ!」
老人「ワシとともに戦ってくれた……この若者のようにな」
役人「家主さん……」
役人「そうだ! もし仮に俺たちがゴミだとしても――」
役人「俺たちはリサイクルできるんだぁぁぁぁぁっ!!!」
魔神「ぬ、ぬううう……!」
21:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/05/23(水) 21:47:41.21
ID:Y4eryNBP0
役人「だいたい、迷惑をかけまくる存在っていったら、あんたはどうなんだ!」
魔神「え」
役人「こんなに火やら土やらまき散らしやがって……どうすんだよ、これ!」
役人「世界中でこんなことするつもりだったんなら、あんたの方がよっぽど迷惑だろ!」
ワァァァァァ……!
「そうだそうだー!」
「迷惑なのはそっちじゃないかーっ! 大迷惑だーっ!」
「おじいちゃんと役所の人が正しい!」
魔神「ううう……」
22:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/05/23(水) 21:49:11.51
ID:Y4eryNBP0
魔神「あ、あの……」
役人「?」
魔神「ごみんなさい……」
こうして、魔神は魔界へと帰っていった――
23:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/05/23(水) 21:52:00.81
ID:Y4eryNBP0
役人「退散してくれましたね……」
老人「思ったより、心がヤワな魔神だったから助かったわい」
役人「このたびは……誠に申し訳ありませんでした!」
役人「俺のせいで魔神を復活させるはめになってしまって……!」
老人「いや、こちらこそすまなかった……」
老人「ワシがきちんとゴミ屋敷を作った理由を説明していれば、こんなことにはならなかったじゃろう」
役人「ですが、それは――」
老人「いや……君ならきっと、ワシを“頭のおかしいジジイ”と決めつけなかったじゃろう」
老人「今はそう確信できる」
役人「…………」ジーン…
老人「君のような立派な若者がいれば、魔神も再び姿を現すことはあるまい」
役人「……はいっ!」
25:
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/05/23(水) 21:54:27.92
ID:Y4eryNBP0
役人「それじゃ、みんなで魔神が散らかした町をキレイにしましょうか!」
役人「もう二度と、魔神に人がゴミ呼ばわりされないように……!」
老人「そうじゃな!」
「やろうやろう!」
「魔神を追い払ってくれてありがとう! 私も掃除するわ!」
「俺も手伝うぜ!」
役人「皆さん、ありがとう!」
役人(そう、俺たちはたとえゴミを溜めたって、キレイにすることができるんだ……!)
おわり
26:
◆8wLrTOmOuw 2018/05/23(水) 21:55:12.04
ID:Y4eryNBP0
以上で完結です
元スレ
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