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◆77.oQo7m9oqt 2017/07/01(土) 21:44:44.12
ID:WMIgWMbh0
地の文メイン。
独自設定あり。
未熟者ゆえ、口調等にミスがあるかもしれません。
どうかご了承ください。
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以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/01(土) 21:46:45.78
ID:WMIgWMbh0
防音加工のなされたレッスンルーム。その室内に佇んでいる大きな黒い姿。
力強い存在感を持つそれに静かに歩み寄った。ホコリよけの布を外し、カバーを上げる。規則正しく並ぶのはツヤのある白と黒の鍵盤。
鍵を押し込むと、対応するハンマーが弦を叩いて音を奏でる。打楽器でもあり、弦楽器でもある。打弦楽器という珍しい分類に組み込まれるピアノ。
人差し指を鍵盤の上で適当に跳ねさせた。
ラ。
シ♭。
ミ。
ソ。
ソ。
ボーカルレッスンに普段から使われているだけあって、調律はばっちりされているようだ。望んだ音が鳴ったことに薄く微笑む。
ゆっくりと黒の縁を指でなぞった。
と、背後で扉の開く音。ゆるい隙間風を感じた。
誰が来たのかは見えないけれど、気配とタイミングでおおよそわかってしまう。
「……松山さん。弾くんですか?」
予想通りの穏やかな声が尋ねかけてくる。
ああ、特にそのつもりはなかったのだけれど。
「聞いてくれる? ……プロデューサー」
「ええ。もちろん」
「じゃあ、弾こうかな。少しだけね」
椅子に腰掛け、長く伸ばしている茶色の髪を耳にかける。飾り気のない手指の肌色でオセロのような白黒をわずかに隠した。
「……では、ご静聴ください」
芝居掛かった私の口調に、プロデューサーはくすりと小さく笑った。
少し前まで、人前ではピアノを弾きたくなかった。だけど今は、なんのためらいもなくこの親しんだ楽器に向き合うことができる。
走り出す。
指が、私の気の赴くままに。
白、黒。黒、白と。指が鍵盤の上を踊るたびに溢れ出す音色。
音楽が、私の想いを連れて室内に満ちていった。