夜叉神天衣「私も……空銀子"先生"のように」

2021-04-02 (金) 12:01  その他二次創作SS りゅうおうのおしごと!   0コメント  
1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2021/02/20(土) 21:08:41.58 ID:sqwkfqcmO

空銀子“先生”と口に出す際は、務めて平静を装っていなければ私は間違いなく取り乱す。

私が籍をおく清滝一門において、もっとも目障りなのは誰かと問われれば真っ先に空銀子の名前を挙げる程度には嫌っている。

理由はいくつかあるが、棋士として、対局者として”絶対に許さない”リストに入っていることは当然として、私の師匠(せんせい)と良い仲であることが何よりも許し難い。

いくら姉弟弟子として、そして清滝鋼介の内弟子として幼い頃からひとつ屋根の下で暮らしていたとはいえ、先生と恋仲になる権利があの女にあるとは思えない。

たしかに空銀子は見目麗しいかも知れない。
将棋馬鹿の先生と会話が出来る程度には将棋の知識も備わっているのもまた事実である。

しかし、空銀子の先生に対する態度は到底許容出来る範囲を超えている。やりすぎだ。

先生を馬鹿にしていいのは私だけなのに。
先生を揶揄っていいのは、私だけなのに。
空銀子よりもずっとずっと、私のほうが。

「私のほうが……八一を好き」

私だけが知ってるその事実を伝えたかった。




空銀子「竜王の側室にでもなるつもり?」夜叉神天衣「否定はしないわ」

2020-08-30 (日) 19:01  その他二次創作SS りゅうおうのおしごと!   0コメント  
1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/08/14(金) 20:23:33.41 ID:H0ikd4c1O

「銀子ちゃん、待った?」
「遅い」

弟弟子という存在を私は初め、便利な持ち駒に過ぎないと、そう捉えていた。

「ごめんごめん。今日に限ってあいが寝過ごして、俺まで寝坊しちゃってさ」
「そのまま永眠すれば良かったのに」
「酷くないっ!?」

酷くない。酷いのはいつも八一だ。
きっと、桂香さんならわかってくれる。
私はいつでも、いつだって待たされて、置いてけぼりで、もう立っているのすら辛い。

「八一、手」
「へ? ゆ、指とか折らないでよ……?」

恐る恐る差し出される八一の手に触れて、自分の指を彼の指に絡ませると、それだけで大駒一枚、いや二枚分は強くなれた気がした。

「行くわよ」
「あ、うん。あの……手、繋いだまま?」
「デートなんだから当然でしょ?」

私は歩き出す。力強く飛車先を突くように。
昔、よちよち歩きで私の後を追っていた竜の雛の道を、姉弟子として切り拓くように。




夜叉神天衣「……気が済むまで、踊ってあげる」名人「それは楽しみだ」

2020-08-27 (木) 19:01  その他二次創作SS りゅうおうのおしごと!   0コメント  
1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/08/10(月) 20:42:06.33 ID:WY8AjuAdO

その人はある日突然、なんの前触れもなく、ふらりと私の眼前に現れた。

「っ……!?」
「ん? ああ、君はたしか竜王の……」
「ど、どうも……」

何故この人がここに居るのか。
その理由は簡単で、対局があるからだ。
関東在住のタイトルホルダーの対局は千駄ヶ谷の将棋会館で組まれる。

しかし、対局時間まではまだ時間がある筈。

「実は腕時計が進んでいたみたいでね」
「そう、ですか……」

機械式の腕時計を手首から外して、スーツのポケットに仕舞うその所作に見惚れる。
まさしく、見るものを惑わせる『マジック』を幾度も生み出した"神"の指先。

「おや? この局面は……」

その人は将棋盤を見つめて気づいたらしい。
私が今並べているのが、先生と彼が繰り広げた竜王戦第一局における中盤の仕掛けであることを。

「見ての通り早く来すぎてしまったので、もしも君さえ差し支えがなければ……」
「あ、はい……よ、よろしくお願いします」

対面に彼が座る。竜王の宿敵、『名人』が。